説明

シート状ないしマット状クリーナ

【課題】 塗膜などの被処理面に付着したり突き刺さったりしている鉄粉汚れなどを粘土状の組成物によって物理的に除去する。作業に要する手間と労力を軽減する。
【解決手段】 不織布などの繊維素材やスポンジ素材などの外部に連通する内部空隙を有する柔軟なシート状ないしマット状の基材10に、塑性変形する粘土状の組成物20をディッピング法で含浸させる。粘土状の組成物20にはポリブテン樹脂を用いたり、ポリブテン樹脂、ポリイソブチレン樹脂及び充填材を用いたり、それらにヒマシ油を含ませたりすることが可能である。基材10の厚さは1〜20mmであることが望ましい。基材10に含浸保持させる組成物20の重さを基材10の重さと同等以上にしておくことが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車塗膜面、プラスチック面といった被処理面に付着した汚れ、水あか、樹液、鉄粉などの異物を取り除くことのできるシート状ないしマット状クリーナに関する。より詳しくは、作業者が濡れた被処理面を軽く擦る作業を行うことによりその被処理面を清浄化処理することのできるシート状ないしマット状クリーナに関する。
【背景技術】
【0002】
塗膜表面などの上記被処理面に付着したり突き刺さったりしている鉄粉汚れなどを除去する手法として、物理的方法や化学的方法が多々採用されている。
【0003】
物理的に鉄粉汚れなどを除去する方法には、水や特定の助剤で濡らし、作業者が手でつかむことのできる大きさの粘土塊や粘土状組成物塊を濡れた被処理面に押し付けたり、上記粘土塊や粘土状組成物塊で被処理面を擦ったりすることにより、それらの粘土塊や粘土状組成物塊の中に鉄粉汚れなどを取り込むという方法が行われている。
【0004】
この物理的方法を行うための粘土状組成物が従来より種々提案されている。その1つに、ポリブテン主体の粘土状組成物でなる粘土状クリーナ(たとえば、特許文献1参照)がある。また、アルミナやタルクを液状ポリマーに分散させることによって得られる可塑性樹脂(たとえば、特許文献2参照)、室温可塑性を有する材料に研磨微粒子を練り込み粘土状にしたもの(たとえば、特許文献3参照)、粘土に異形の立方体や平面体、雲母、水性シリコンを混ぜたもの(たとえば、特許文献4参照)、なども提案されている。さらに、研磨機に粘土状の研磨部材を装着して作業を行うことも提案されている(たとえば、特許文献5参照)。さらに、発泡樹脂成形体の一面に2〜10mm厚の粘土層を設けた自動車ボディ用洗浄材も提案されている(たとえば、特許文献6参照)。
【0005】
化学的に鉄粉汚れなどを除去する方法には、鉄粉汚れ除去剤として、酸又はその塩によって鉄粉を溶解させたりキレート化したりするもの(たとえば、特許文献7、特許文献8、特許文献9参照)が提案されている。
【特許文献1】特許第3893501号公報
【特許文献2】特開平9−207070号公報
【特許文献3】特開平10−237427号公報
【特許文献4】特開2001−302329号公報
【特許文献5】特開平11−267976号公報
【特許文献6】特開2003−154318号公報
【特許文献7】特開平10−245597号公報
【特許文献8】特開2006−182932号公報
【特許文献9】特開平7−216395号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上掲の方法のうち、粘土塊や粘土状組成物塊を用いるものは、作業者が粘土塊や粘土状組成物塊を手でつかんで塗膜などの被処理面に押し付けたり被処理面を擦ったりすることを要したり、形状を整えながら細かく施工したりする、といった手間と労力が必要になり、また、塗膜表面に加えられる粘土塊や粘土状組成物塊の押圧力が一様になりにくく、さらには、ホイールやバンパーなどの複雑な形状を有する部分に粘土塊や粘土状粗説物塊が馴染みにくいために被処理面の全体に亘って一様な仕上がり状態を得にくいといった問題があった。
【0007】
一方、鉄粉汚れを化学的に処理する方法では、塗膜やゴム、金属部分などが鉄粉汚れ除去剤により侵されてそれらの表面艶や表面粗度などが損なわれるおそれがあるという問題があった。
【0008】
本発明は以上の問題や状況に鑑みてなされたものであり、塗膜などの被処理面に付着したり突き刺さったりしている鉄粉汚れや水あか、樹液などを粘土状の組成物によって物理的に除去することを基本とし、作業に要する手間と労力が軽減されるにもかかわらず、ホイールやバンパーなどの複雑な形状を有する部分を含めて被処理面の全体を良好に仕上げることができ、しかも、取扱性に優れたシート状ないしマット状クリーナを提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、研磨機などに装着して使用することも可能なシート状ないしマット状クリーナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るシート状ないしマット状クリーナは、不織布や布などの繊維素材やスポンジ素材などの外部に連通する内部空隙を有する柔軟なシート状ないしマット状の基材に、油成分を含有しかつ塑性変形する粘土状の組成物を保持させてなる。
【0011】
上記において、「シート状ないしマット状」とは、基材の厚さの程度を適切に表現するために用いた文言であり、「シート状」は厚さが比較的薄い状態を指し、「マット状」はシート状に比べて厚さが比較的厚い状態を指している。また、「粘土状の組成物」には、単一種類の樹脂又は異種樹脂の混合物が含まれることは勿論、それらの樹脂に増量や他の目的のために混合される固形分や油成分を含む組成物が含まれ、さらには、自然界の地層に存する無機質系の粘土も含まれる。
【0012】
この発明のシート状ないしマット状クリーナは、外部に連通する内部空隙を有する柔軟なシート状ないしマット状の基材に、油成分を含有しかつ塑性変形する粘土状の組成物を保持させてなる。このものを塗膜などの濡れた被処理面の上において作業者が手で動かせると、被処理面に付着したり突き刺さったりしている鉄粉汚れなどが被処理面から取り除かれて粘土状の組成物や基材の中に取り込まれる。この場合、粘土状の組成物が基材の表面だけに保持されているものでは、基材の表面に保持されている組成物や基材の内部空隙に取り込まれ、組成物が基材の表面だけでなく基材の内部空隙にも保持されているものでは、基材の表面と基材の内部空隙に保持されている組成物の中に取り込まれる。このような被処理面の清浄化作業では、柔軟なシート状ないしマット状の基材が被処理面の汚れを拭き取ることに役立つほか、その基材に保持されている粘土状の組成物が被処理面の所謂しつこい汚れを除去することに役立つ。
【0013】
また、基材が柔軟性を有し、その基材に保持されている組成物が塑性変形する粘土状を呈しているので、自動車のホイールやバンパーなどの複雑な形状を有する部分にも当該クリーナがよく馴染んで接触しやすい。そのため、そのような複雑な形状を有する部分を含めて、被処理面の全体を良好にかつ容易に仕上げることが可能になる。その上、当該クリーナの形態が柔軟なシート状ないしマット状であるので、冒頭で説明した従来の粘土塊や粘土状組成物塊を取り扱うことに比べると、取扱性が格段に向上するだけでなく、そのクリーナを被処理面上で動かせたときに、被処理面にクリーナの押圧力が一様に加わるようになって被処理面の全体が一様に仕上げがりやすいという利点がある。
【0014】
この発明のシート状ないしマット状クリーナは、上記基材の厚さが1〜20mmのシート状ないしマット状であり、その基材に保持されている上記組成物の重さが基材の重さと同等以上であって、上記組成物が、無機系粉体、有機系粉体、繊維状物から選ばれる1種又は2種以上の充填材を含む。この発明において、仮に、1〜10mmの厚さの基材を用いたものを「シート状」の概念に分類すると、10〜20mmの厚さの基材を用いたものは「マット状」の概念に分類することができる。そして、シート状であれば、被処理面の上に乗せた当該クリーナの上に作業が手を置いて被処理面上で任意の方向に動かすことができる。また、マット状であれば、被処理面の上に乗せた当該クリーナの上に作業者が手を置いたり、当該クリーナを手でつかんだりして被処理面上で任意の方向に動かすことができる。
【0015】
基材の厚さが1mmよりも薄いと、粘土状の組成物の保持量が少なくなり過ぎ、鉄粉汚れなどを十分に取り除くことができなくなるおそれがある。また、基材の曲り強度が低くなり過ぎ、手を乗せて被処理面を擦るときに当該クリーナが折れ曲がったりして作業性を低下させるおそれがある。これに対し、基材の厚さが20mmよりも厚いと、基材に粘土状の組成物が含浸されている場合に、複雑な形状を有する部分への施工の際、馴染み難く、作業面に接触しにくくなるおそれが大きい。基材の厚さが1〜20mmのシート状ないしマット状であると、保持されている組成物の全部が鉄粉汚れなどを取り込むのに効率よく使われ、しかも、良好な使い勝手が得られる。
【0016】
この発明では、粘土状の上記組成物が、無機系粉体、有機系粉体、繊維状物から選ばれる1種又は2種以上の充填材を含んでいる。
【0017】
本発明に係るシート状ないしマット状クリーナは、粘土状の上記組成物が基材に含浸されていると共に基材の表面に保持されていることが望ましい。この構成のシート状ないしマット状クリーナは、組成物を溶剤に一様に溶かしたものに基材をディッピングした後、溶剤を蒸発させて除去するという単純でかつ簡素な工程を経て容易に得ることができるので、当該クリーナを容易にかつ安価に製造することができるという利点がある。
【0018】
粘土状の上記組成物は、ポリブテン樹脂であることが望ましい。ポリブテン樹脂は不乾性パテなどとして建築用シール材などに用いられていて、その塑性や粘度は粘土に酷似している。そのため、ポリブテン樹脂を柔軟なシート状の基材に保持させたり含浸させたりしてなる当該クリーナを、濡れた被処理面の上に置いて手で滑らせると、基材に保持されて粘土状を呈しているポリブテン樹脂が、塗膜表面に付着したり突き刺さったりしている鉄粉汚れを取り込んで塗膜から除去することに役立つだけでなく、ポリブテン樹脂の特性により、ポリブテン樹脂が細かくちぎれて被処理面上に残ってしまうといった事態を起こしにくい。
【0019】
粘土状の組成物が自然界の地層に存する無機質系の粘土である場合には、その粒子径が0.1〜30μmであることが望ましい。自然界の地層に存する無機質系の粘土の粒子系が0.1μmよりも小さいと、塗膜などの被処理面に付着したり突き刺さったりしている鉄粉汚れや水あか、樹液などが粘土状の組成物によって物理的に除去されにくい。また、粒子系が30μmよりも大きいと、粒子系が大きすぎて基材に保持されにくくなる。粒子径が0.1〜30μmであると、粘度が基材に良好に保持されて、被処理面に付着したり突き刺さったりしている鉄粉汚れや水あか、樹液などが物理的に除去されやすくなる。
粘土状の上記組成物が、上記ポリブテン樹脂のほか、ポリイソブチレン樹脂を含むものであってもよい。このような粘土状の組成物は、冒頭で掲げた特許文献1に粘土状クリーナとして記載されている。したがって、この構成のシート状ないしマット状クリーナは、特許文献1で提案されている粘土状クリーナを溶剤に溶かしたものに基材をディッピングし、その後に溶剤を蒸発除去することによって容易に得ることが可能である。
【0020】
本発明では、粘土状の上記組成物が、上記ポリブテン樹脂、上記ポリイソブチレン樹脂及び上記充填材のほか、上記油成分としてのヒマシ油を含むことが望ましい。油成分としてのヒマシ油は、0.5〜20wt%含まれていることが望ましい。特に、粘土状の上記組成物が、0.5〜20wt%の上記ヒマシ油と共に、分子量500〜3000、動粘度(100℃)2〜5700cstである上記ポリブテン樹脂を5〜50wt%、分子量1万〜60万、粘度(200℃)5000〜10万cstである上記ポリイソブチレン樹脂を5〜50wt%含んでいてもよい。このような粘土状の組成物も、上記特許文献1に粘土状クリーナとして記載されている。したがって、この構成のシート状ないしマット状クリーナも、特許文献1で提案されている粘土状クリーナを溶剤に溶かしたものに基材をディッピングし、その後に溶剤を蒸発除去することによって容易に得ることが可能である。
【0021】
本発明では、上記充填材として、炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン、珪石、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、ベントナイト、珪藻土、酸化チタン、ガラスなどの無機系粉体、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ナイロン、ユリア樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂などの有機系粉体、繊維状物、又は、これらの混合物から選択することが可能である。
【0022】
また、上記基材には、ビニール、エバール又はPETを素材とする樹脂繊維の不織布を選択したり、シリコンを素材とするスポンジを選択したりすることも可能である。
【0023】
上記充填材は、平均粒径0.1〜20μm、吸油量15〜55cc/100gのものを30〜90wt%含むことが望ましい。
また、上記基材は、ビニール、エバール又はPETを素材とする樹脂繊維の不織布でってもよい。さらに、上記基材が、シリコンを素材とするスポンジであってもよい。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明に係るシート状ないしマット状クリーナは、塗膜などの被処理面に付着したり突き刺さったりしている鉄粉汚れや水あか、樹液などを粘土状の組成物によって物理的に除去することが可能でありながら、作業に要する手間と労力が軽減されるにもかかわらず、ホイールやバンパーなどの複雑な形状を有する部分を含めて被処理面の全体を良好に仕上げることができ、しかも、取扱性にも優れるという効果を奏する。その上、研磨機などに装着して使用することも可能であるという利便性もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1は本発明の実施形態であるシート状ないしマット状クリーナの概略斜視図であり、図2はその拡大部分断面図である。
【0026】
図1又は図2に例示したクリーナAは、外部に連通する内部空隙を有する柔軟な基材10に、塑性変形する粘土状の組成物20を保持させてなる。基材10には、不織布や布などの柔軟な繊維素材が用いられている。また、連続気泡を有する軟質樹脂発泡体などの柔軟なスポンジ素材を用いてもよい。組成物20は、単一種類の樹脂であっても、異種樹脂の混合物であっても、それらの樹脂に増量や他の目的のために混合される固形分や油成分分を含む混合物であってもよい。さらには、自然界の地層に存する無機質系の粘土であってもよい。基材10に保持されている組成物20は、基材10の外表面だけに保持されていても、基材10の外表面に保持されていることに加えて、基材10の内部空隙に含浸されていてもよい。
【0027】
このようなクリーナAは、基材10が柔軟性が有し、組成物が塑性変形する粘土状を呈しているので、自由に無理なく曲がる性質を有している。そして、この性質のために、クリーナAを自動車の塗膜などの被処理面(不図示)に重ね合わせると、クリーナAが被処理面の形状によく馴染んで、被処理面に無理なく重なり合う。
【0028】
このクリーナAを塗膜などの濡れた被処理面の上におき、水などを潤滑剤として作業者が手で動かせると、被処理面に付着したり突き刺さったりしている鉄粉汚れなどが被処理面から取り除かれて粘土状の組成物20や基材10の中に取り込まれる。すなわち、鉄粉汚れなどが基材10の表面に保持されている組成物20や、基材10に含浸されている組成物20に取り込まれる。したがって、基材10が被処理面の汚れを拭き取ることに役立ち、基材10に保持されている粘土状の組成物20が被処理面の鉄粉汚れなどのしつこい汚れを除去することに役立つ。
【0029】
特に、このクリーナAは、上記のようにクリーナAが被処理面の形状によく馴染んで、被処理面に無理なく重なり合う性質を有しているので、自動車のホイールやバンパーなどの複雑な形状を有する部分にも当該クリーナが形状的によく馴染み、そのような複雑な形状を有する部分を含めて、被処理面の全体を良好にかつ容易に仕上げることができるようになる。
【0030】
クリーナAは、図1のようにたとえば方形又は矩形の形状を有するものがユーザに提供され、その大きさは、ユーザ(作業者)の手のひらによってほゞ覆うことができる程度のサイズ、具体的には縦横の各長さが8〜20cmであることが望ましい。クリーナAのサイズがこの程度であると、被処理面の上に乗せたクリーナAの上に作業者が手を置いて被処理面上で任意の方向に動かしやすいので、使い勝手に優れたクリーナAが得られる。
【0031】
クリーナAに用いられている基材10の厚さは1〜20mmのシート状ないしマット状であることが望ましい。基材10の厚さが1mmよりも薄いと、粘土状の組成物20の保持量が少なくなり過ぎ、鉄粉汚れなどを十分に取り除くことができなくなるおそれがある。基材の厚さが20mmよりも厚いと、施工面積あたりに利用する組成物20の量が多くなりすぎ、組成物20が無駄に消費されるおそれが大きい。基材10の厚さが1〜20mmのシート状ないしマット状であると、保持されている組成物20の全部が鉄粉汚れなどを取り込むのに効率よく使われ、しかも、良好な使い勝手が得られる。特に、基材10の厚さを1〜20mmの範囲内で比較的肉厚(たとえば10mm以上)にしておくと、基材10がクッション作用を発揮するようになるために、クリーナAを被処理面上で動かせたときに、被処理面にクリーナAの押圧力が一様に加わるようになり、そのことが被処理面の全体を一様に仕上げることに役立つという利点がある。
【0032】
基材10に粘土状の組成物20を保持させる方法として、ディッピング法を好適に採用することができる。ディッピング法は、組成物を溶剤に一様に溶かしたものの中へ基材をディッピングした後、溶剤を蒸発除去するという単純でかつ簡素な工程による方法である。ディッピング法によってクリーナAを製造すると、当該クリーナAを容易にかつ安価に製造することができる。
【0033】
クリーナAの製造にディッピング法を採用する場合、粘土状の組成物に自然界の地層に存する粘土(粒子径0.1〜30μmが望ましい)を用いるときは、その粘土を水などの溶剤に入れて十分に攪拌し、そうして得られた濃厚な溶解液状の粘土中に基材をディッピングして粘土を含浸させ、その後に水分を蒸発させて除去するという工程を経ることができる。また、粘土状の組成物に単一種類の樹脂又は異種樹脂の混合物が含まれるときや、それらの樹脂に固形分や油分が含まれるときには、組成物を溶剤に溶かしたものの中に基材10をディッピングして粘土状の組成物を含浸させ、その後に溶剤を蒸発させて除去するという工程を経ることができる。あるいは、あらかじめ高粘度の組成物を作り、それを溶剤に溶かしたものの中に基材をディッピングして粘土状の組成物を含浸させ、その後に溶剤を蒸発させて除去するという工程を経ることによっても容易にかつ安価に製造することができる。
【0034】
粘土状の組成物には、不乾性パテなどとして建築用シール材などに汎用されているポリブテン樹脂を好適に用いることができる。ポリブテン樹脂は不乾性であり、その塑性や粘度は自然界の地層に存する粘土に酷似している。
【0035】
また、粘土状の組成物として、上記ポリブテン樹脂のほか、ポリイソブチレン樹脂を含み、さらに、無機系粉体、有機系粉体、繊維状物から選ばれる1種又は2種以上の充填材を含むものであってもよい。ポリブテン樹脂やポリイソブチレン樹脂は、被処理面の汚染物や異物(鉄粉など)に対して大きな粘着性と摩擦抵抗を有しているけれども、動的強度が比較的小さい欠点を持っている。この欠点を補うのに上記充填材が役立つ。すなわち、ポリブテン樹脂やポリイソブチレン樹脂は、粘土状といっても液状に近い性質を有するので、充填材を追加混合して粘性の大きな粘土状態を得、粘土状ないし半固形状の性状を保持させて動的強度を高めるのである。このように粘土状の組成物の動的強度を高めておくと、それだけ被処理面に付着したり突き刺さったりしている鉄粉汚れの除去能力が向上する。さらに、充填材の表面を疎水化処理しておくと、ポリブテン樹脂やポリイソブチレン樹脂に混合しやくなる。また、被処理面を処理するときの滑り性が改善され、それだけ作業性が向上するという利点がある。
【0036】
さらに、粘土状の組成物には、上記したポリブテン樹脂、ポリイソブチレン樹脂及び充填材のほか、さらに、ヒマシ油を含ませておいてもよい。これは、ヒマシ油を添加しておくと、ポリブテン樹脂やポリイソブチレン樹脂の大きすぎる粘着力が緩和される。そのため、異物除去効果を損なうことなく、作業者の手にべたつきが残ったり被処理面に組成物が残留しにくくなることによる。ヒマシ油はヒマの種子から得られ淡黄色ないし黄褐色の粘稠性の大きな液体で、工業用、精製、日本薬局方、化粧品原料基準で規格化されているものを使用することができる。
【0037】
粘土状の組成物に、ポリブテン樹脂、ポリイソブチレン樹脂、充填材、ヒマシ油を含ませる場合の成分構成比を次に例示する。
【0038】
ポリブテン樹脂は、分子量500〜3000、動的粘度(100℃)2〜5700cstのものを5〜50wt%、ポリイソブチレン樹脂は、分子量1万〜60万、粘度(200℃)5000〜10万cstのものを5〜50wt%、充填材は、平均粒径0.1〜20μm、吸油量15〜55cc/100gのものを30〜90wt%、ヒマシ油は、0.5〜20wt%が適切である。この成分構成比は、上掲の特許文献1によって提案されている粘土状クリーナの成分構成比と同等である。
【0039】
上記充填材には、平均粒径0.1〜20μm、吸油量15〜55cc/100gの範囲で、炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン、珪石、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、ベントナイト、珪藻土、酸化チタン、ガラスなどの無機系粉体、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ナイロン、ユリア樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂などの有機系粉体、繊維状物、又は、これらの混合物を用いることが可能である。
【0040】
基材10に粘土状の組成物20をディッピング法で含浸させる場合、溶解液の組成物含有量は20〜90%が望ましい。組成物含有量が20%より少ないと、基材に十分な量の組成物を含浸させることができなくなるのに対し、90%を越えると、基材を溶解液にディッピングする工程自体を行いにくくなる。
【0041】
また、基材に含浸する粘度状の組成物の重量は、基材の重さと同等程度以上であることが望ましい。基材の重さより少ない重量の組成物を含浸させたものでは、組成物が量的に少なすぎて十分な処理作用を得られないおそれがある。
【0042】
粘土状の組成物に自然界の地層に存する粘土を用いるものでは、粒子径0.1〜30μmの粘土を用いることが望ましい。粒子径が0.1μmよりも小さい粘土は入手が困難でコスト高につながる。粒子径が30μmを越えると、塗膜などの被処理面を傷付けやすくなる。
【0043】
また、ディッピング法によって基材10に粘土状の組成物を含浸させる場合、基材10の表面に付着させる組成物の層厚は少なくとも1mmであることが望ましい。これは、基材10の表面での組成物の層厚が薄すぎると、被処理面に基材が直接に擦れる頻度が高くなり、組成物による鉄粉汚れの取込み作用を低下させるおそれがある。
【0044】
図1に例示したシート状ないしマット状クリーナAは、包材(樹脂シートでなる袋体)に封入してユーザに提供することが望まれる。この形態で提供するときには、クリーナAに含まれる溶剤を十分に揮発させて除去させておくことが要求される。これは、溶剤がクリーナAに残留していると、溶剤が有機溶剤である場合には、溶剤が包材を攻撃して劣化させるおそれがあり、溶剤が水である場合には、包材に防腐剤を入れて水の腐敗を防ぐ必要があることによる。なお、クリーナAをパラフィン紙などで包んで、それを包材に入れて提供することも可能である。
【実施例】
【0045】
次に実施例及び比較例を説明する。実施例及び比較例は、上掲の特許文献1によって提案されている粘土状クリーナの成分と同じ成分を有する粘度状の組成物を、水などの溶剤に入れて十分に攪拌し、そうして得られた濃厚な溶解液状の粘土中に基材をディッピングして粘土を含浸させ、その後に水分を蒸発除去するという工程を経て得ている。なお、特許文献1によって提案されている粘土状クリーナの成分は、ポリブテン樹脂、ポリイソブチレン樹脂、充填材、及び、油成分としてのヒマシ油である。
【0046】
表1には、実施例及び比較例について、基材の成分(基材を形成している素材の種類)・形状(性状)・目付け・厚さ(厚み)と共に、それぞれの基材に保持させた粘度状組成物の組成・含有量を示してある。表2には、実施例及び比較例について、それぞれのシート状ないしマット状クリーナについての性能評価を4段階判定で示してある。表3には、比較例として比較対象品とその性能を示してある。
【0047】
表2及び表3に示した性能評価の4段階判定の符号は次の事項を示している。
◎:優れている
○:良い
△:やゝ良
×:不可
作業性は、鉄粉の付着した自動車ホイールに施工した際、施工面に対して沿いやすいか否か、短時間で施工が完了できたか否かを評価した。
洗浄性は、鉄粉の付着した自動車ホイールに施工した際、鉄粉がしっかり除去できたか否かを評価した。
耐久性は、鉄粉の付着した自動車ホイールを3本施工したときの仕上がり具合と基材の破れの有無を評価した。
総合結果Aは「基材の厚みが薄く、粘土の含浸量を多くできない、薄い基材のために耐久性がない」ことを示している。
総合結果Bは「基材の厚みを厚くした場合、素材によっては硬くなりすぎ、柔軟性が失われる。また、含浸量を多くした場合、基材が粘土に埋もれてしまう」ことを示している。
総合結果Cは「粘土含有量が少ない(もしくは無い)ので、クリーナ性が発揮されない」ことを示している。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
表1及び表2により次の事項が判明した。
【0052】
比較例1,2は、基材厚みが1mm以下であることにより、作業性評価でやゝ良という結果であり、総合結果では不可及びやゝ良の結果になった。特に、比較例1は基材厚み0.3mmで極端に薄かったために、耐久性や洗浄性おいて不可になり、総合結果も不可となった。
比較例3は基材厚みが1mm以上である。しかし、基材目付けに対して粘土状組成物の含有量が少なすぎるために、作業性及び洗浄性が不可であり、総合結果も不可になった。比較例4についても、比較例3ほどには悪い結果ではないが、各項目でやゝ良にとどまった。
比較例5では粘土状組成物中のヒマシ油組成が含まれていないために、作業性が悪く、総合評価は不可であった。
比較例6は充填剤量が30wt以下であり、充填剤が少なすぎるために、作業性が悪く、総合評価は「やゝ良」にとどまった。
比較例7は粘土状組成物中のポリブテン組成が55%であり、その適正な組成範囲5〜50wt%を越えている。その結果、作業性が悪く、比較例6と同様の結果になった。
比較例8は粘土状組成物中のポリイソブチレン組成がその適正な組成範囲である5〜50wt%を越えていることにより、比較例6と同様の結果になった。
比較例9も粘土状組成物中のヒマシ油組成がその適正な組成範囲である0.5〜20wt%を越えていることにより、比較例6と同様の結果になった。
比較例10では、粘土状組成物中のポリブテン及びポリイソブチレンの組成が共に3wt%であり、適正な組成範囲である5〜50wt%よりも少ないために、比較例6と同様の結果になった。
比較例11は基材がスポンジである。このものでも、粘土状組成物の含有量が少なすぎるために、作業性、耐久性、洗浄性が不可であり、総合結果も不可になった。なお、実施例6によると、粘土状組成物を溶解したものに対してスポンジが耐性を有する必要のあることが判った。
【0053】
実施例1,2,3,4,5は、基材がビニロンなどの素材でなる不織布であり、粘土状組成物の組成範囲や含有量が適正である。その結果、作業性、洗浄性、耐久性が共に優れていて、総合結果も優れている、という結果が得られた。
実施例6は、基材がスポンジであるけれども、このものは、作業性、洗浄性、耐久性が共に優れていて、総合結果も優れている、という結果が得られた。このことから、基材にスポンジを選択することも可能であることが判明した。
【0054】
次に、表3に示した比較対象品であるビニロン不織布単体、エバール不織布単体、PET不織布単体で施工すると、特に洗浄性に劣り、総合結果が不可となった。
また特許文献1によって提案されている粘土状組成物(粘土状クリーナ)による施工結果は、洗浄性や耐久性において優れているものの、作業性において不可となり、総合結果も不可になった。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施形態であるシート状ないしマット状クリーナの概略斜視図である。
【図2】図1のクリーナの拡大断面図である。
【符号の説明】
【0056】
A クリーナ
10 基材
20 組成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布や布などの繊維素材やスポンジ素材などの外部に連通する内部空隙を有する柔軟なシート状ないしマット状の基材に、油成分を含有しかつ塑性変形する粘土状の組成物を保持させてなり、
上記基材の厚さが1〜20mmのシート状ないしマット状であり、その基材に保持されている上記組成物の重さが基材の重さと同等以上であって、
上記組成物が、無機系粉体、有機系粉体、繊維状物から選ばれる1種又は2種以上の充填材を含むことを特徴とするシート状ないしマット状クリーナ。
【請求項2】
粘土状の上記組成物が基材に含浸されていると共に基材の表面に保持されている請求項1に記載したシート状ないしマット状クリーナ。
【請求項3】
粘土状の上記組成物がポリブテン樹脂である請求項1又は請求項2に記載したシート状ないしマット状クリーナ。
【請求項4】
粘土状の組成物が、粒子径0.1〜30μmの自然界の地層に存する無機質系の粘土である請求項1又は請求項2に記載したシート状ないしマット状クリーナ。
【請求項5】
粘土状の上記組成物が、上記ポリブテン樹脂のほか、ポリイソブチレン樹脂を含む請求項3に記載したシート状ないしマット状クリーナ。
【請求項6】
粘土状の上記組成物が、上記ポリブテン樹脂、上記ポリイソブチレン樹脂及び上記充填材のほか、上記油成分としてのヒマシ油を含む請求項5に記載したシート状ないしマット状クリーナ。
【請求項7】
上記油成分としてのヒマシ油を0.5〜20wt%含む請求項6に記載したシート状ないしマット状クリーナ。
【請求項8】
粘土状の上記組成物が、分子量500〜3000、動粘度(100℃)2〜5700cstである上記ポリブテン樹脂を5〜50wt%、分子量1万〜60万、粘度(200℃)5000〜10万cstである上記ポリイソブチレン樹脂を5〜50wt%含む請求項6又は請求項7に記載したシート状ないしマット状クリーナ。
【請求項9】
上記充填材が、炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン、珪石、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、ベントナイト、珪藻土、酸化チタン、ガラスなどの無機系粉体、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ナイロン、ユリア樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂などの有機系粉体、繊維状物、又は、これらの混合物から選択されている請求項1ないし請求項8に記載したシート状ないしマット状クリーナ。
【請求項10】
上記充填材は、平均粒径0.1〜20μm、吸油量15〜55cc/100gのものを30〜90wt%含む請求項9に記載したシート状ないしマット状クリーナ。
【請求項11】
上記基材が、ビニール、エバール又はPETを素材とする樹脂繊維の不織布である請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載したシート状ないしマット状クリーナ。
【請求項12】
上記基材が、シリコンを素材とするスポンジでなる請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載したシート状ないしマット状クリーナ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−149088(P2010−149088A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332784(P2008−332784)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000227331)株式会社ソフト99コーポレーション (84)
【Fターム(参考)】