説明

シート状油中水型乳化油脂組成物およびそれを用いた層状膨化食品

【課題】 トランス酸含量が低減され、幅広い温度帯で折り込みできる作業性の良さと口溶けの良さをもったシート状油中水型乳化油脂組成物およびそれを用いた層状膨化食品を提供すること。
【解決手段】 シート状油中水型乳化油脂組成物全体中、10℃における固体脂含量が5%以下の軟質油を25〜65重量%及び上昇融点47℃〜55℃の油脂を5〜35重量%含有し、トランス酸含量が3重量%以下であるシート状油中水型乳化油脂組成物を用いて、層状膨化食品を作製すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状油中水型乳化油脂組成物並びにそれを用いて製造してなる層状膨化食品に関する。
【背景技術】
【0002】
クロワッサン、デニッシュ、パイ等の層状膨化食品は、その独特な食感により、非常に人気の高い食品の一つである。これらの食品の製造には、ロールインマーガリン、あるいはパフペーストリーと呼ばれるシート状の油脂加工食品を用いて、生地と油脂を伸ばしては折りたたむ工程(ロールイン)を繰り返し、折り込まれた生地を焼成することで作製され、これにより軽いサックリとした食感が得られる。生地と油脂を折り込む際、油脂は生地と同様に良く伸びることが必要で、油脂が硬すぎると充分に伸びずに油脂が生地中に偏在し、生地同士が合一してしまい、最終的にきれいな層が得られず、食感の悪い製品となる。逆に油脂が軟らかすぎても、折りたたむ時に油脂が生地の間からはみ出してしまい、硬い場合と同様、充分にきれいな層が得られず食感が悪くなってしまう。従って、この様な層状膨化食品を作製するための油脂は、生地と同様に伸びる伸展性と腰のある物性が求められるうえに、広い温度範囲において可塑性を確保することが、層状膨化食品の安定生産に不可欠である。一般に層状膨化食品に用いられるシート状油脂加工食品は、求められる物性を満足させるべく、種々検討されている。
【0003】
例えば、パーム油分別油の高融点部50重量%とパーム核油の低融点部50重量%とのランダムエステル交換油であり、炭素数16の飽和脂肪酸が42.1重量%、炭素数18の飽和脂肪酸が3.9重量%である油脂組成物が開示されている(特許文献1)。しかし、炭素数16の飽和脂肪酸含量が高い為に折込み用可塑性油脂組成物製造時の結晶化が不充分で折込み用可塑性油脂が軟らかくなり、しっかりとしたシート成形状態にならず、製造上の課題が残されている上に、広い温度範囲において十分な可塑性が得られず、低い温度帯で生地と同様に伸びずに伸展性が悪い。
【0004】
また、パーム油分別中融点分別油を油相中10〜85重量%含有し、油相のSFCが10℃で51以上、30℃で10以下であり、油中水型乳化物の10℃における硬さを、レオメーター値で5000g(直径10mmのプランジャー使用)以上とする可塑性油中水型乳化物が開示されている(特許文献2)。しかし、層状膨化食品に折り込んで伸展させる際の可塑性油中水型乳化物の温度が10℃以下の低い場合に、層状膨化食品の伸びに十分ついていかないために、油脂が生地中に偏在し、生地同士が合一してしまい、最終的にきれいな層が得られず、食感の悪い製品となる。
【0005】
さらに、魚油の極度硬化油を用いた可塑性油中水型乳化物が開示されている(特許文献3)が、該乳化物は融点の高い極度硬化油を含有することでワキシー感が生じ、口溶けが悪いものになってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−262181号公報
【特許文献2】特開2009−207444号公報
【特許文献3】特開平9−143490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、これまでに得られている可塑性油中水型乳化物においては、広い温度域での伸びやすさや腰の強さ、さらには口溶けの良さが不充分である。また最近では天然に殆ど存在しないトランス酸について、血漿中のLDL/HDLコレステロール比を増大させ循環器疾患の原因となるとの報告もあり、トランス酸含量を減らした上で上記性状を持たせることが重要になってきている。
【0008】
そこで本発明の目的は、トランス酸含量が低減され、幅広い温度帯で折り込みできる作業性の良さと口溶けの良さをもったシート状油中水型乳化油脂組成物およびそれを用いた層状膨化食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、シート状油中水型乳化油脂組成物全体中、軟質油及び上昇融点47℃〜55℃の油脂を特定量含有するシート状油中水型乳化油脂組成物は、トランス酸含量を3重量%以下に低減した上で、幅広い温度帯で折り込みできる作業性の良さと口溶けの良さをもったものになることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の第一は、シート状油中水型乳化油脂組成物全体中、10℃における固体脂含量が5%以下の軟質油を25〜65重量%及びを上昇融点47℃〜55℃の油脂を5〜35重量%含有し、トランス酸含量が3重量%以下であるシート状油中水型乳化油脂組成物に関する。好ましい実施態様は、上昇融点47℃〜55℃の油脂が、少なくともエステル交換工程を経ていることを特徴とする上記記載のシート状油中水型乳化油脂組成物に関する。より好ましくは、軟質油の固体脂含量が、0℃において1%以下である上記記載のシート状油中水型乳化油脂組成物、更に好ましくは、シート状油中水型乳化油脂組成物全体中、水分量が10〜50重量%、油分量が90〜50重量%である上記記載のシート状油中水型乳化油脂組成物、に関する。本発明の第二は、上記記載のシート状油中水型乳化油脂組成物を生地中に用いてなる層状膨化食品に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に従えば、トランス酸含量が低減され、幅広い温度帯で折り込みできる作業性の良さと口溶けの良さをもったシート状油中水型乳化油脂組成物およびそれを用いた層状膨化食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明のシート状油中水型乳化油脂組成物は、該組成物全体中、10℃における固体脂含量が5%以下の軟質油を25〜65重量%及び上昇融点47℃〜55℃の油脂を5〜35重量%含有し、トランス酸含量が3重量%以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明の軟質油は、10℃における固体脂含量(SFC)が5%以下である油脂であり、動物由来または植物由来の油脂が例示できる。また、それらを原料として分別工程やエステル交換工程を経た油脂、さらには最終のシート状油中水型乳化油脂組成物中のトランス酸含量が3重量%を超えなければ、微水添処理したものも例示できる。前記軟質油は、0℃における固体脂含量が1%以下であることが好ましく、菜種油、コーン油、大豆油などの液体油脂が例示できる。
【0014】
前記軟質油の含有量は、シート状油中水型乳化油脂組成物全体中、25〜65重量%が好ましく、35〜55重量%がより好ましく、37〜43重量%が更に好ましい。25重量%より少ないと、シート状油中水型乳化油脂組成物が硬くなりすぎて、折り込み時に層状膨化食品の伸びについていかないために、油脂が生地中に偏在し、生地同士が合一してしまい、最終的にきれいな層が得られず、食感の悪い製品になる場合がある。65重量%より多いと、しっかりとしたシートにならず、折り込み時に層状膨化食品に練り込まれた状態になり、同様に食感が悪くなる場合がある。
【0015】
本発明の上昇融点が47℃〜55℃の油脂は、食用であれば他の限定はなく、該融点は47℃〜52℃が好ましい。47℃未満であると、幅広い作業温度で安定した層状膨化食品を製造しにくくなる場合があり、55℃より高いと層状膨化食品の食感がワキシーになり、口溶けが悪くなる場合がある。油脂の種類としては、動物由来または植物由来の油脂が例示できる。また、それらを原料として分別工程やエステル交換工程を経た油脂、さらには最終のシート状油中水型乳化油脂組成物中のトランス酸含量が3重量%を超えなければ、微水添処理したものも例示できる。前記油脂の内、シート状油中水型乳化油脂組成物の経日変化を抑えられるといった理由からエステル交換工程を経たものが好ましい。
【0016】
前記上昇融点が47℃〜55℃の油脂の含有量は、シート状油中水型乳化油脂組成物全体中、5〜35重量%が好ましく、10〜30重量%がより好ましく、23〜28重量%が更に好ましい。5重量%より少ないと、低い温度帯で伸展性の良い配合にする場合は、高い温度帯で伸展性が悪くなり、逆に高い温度帯で伸展性の良い配合にする場合は、低い温度帯で伸展性が悪くなるというように、幅広い温度帯での伸展性を維持できなくなる場合がある。35重量%より多いと、シート状油中水型乳化油脂組成物が硬くなりすぎて均一に伸びない場合がある。
【0017】
本発明のシート状油中水型乳化油脂組成物中には、上昇融点が30〜46℃の油脂を18〜43重量%含有することが好ましく、上昇融点が37〜43℃の油脂を32〜38重量%含有することが好ましい。該油脂を上記範囲で含有すると、本願効果を発揮する配合を容易に組むことができる。
【0018】
本発明のシート状油中水型乳化油脂組成物中のトランス酸含量は、血漿中のLDL/HDLコレステロール比を増大させない見地から、3重量%以下であることが好ましい。
【0019】
本発明のシート状油中水型乳化油脂組成物の水分含量は、シート状油中水型乳化油脂組成物全体中、10〜50重量%が好ましい。10重量%より少ないと層状膨化食品特有の食感が得られにくくなる場合があり、50重量%より多いと製造時に水分離が起こるためにシート状油中水型乳化油脂組成物が得られにくくなる場合がある。
【0020】
本発明のシート状油中水型乳化油脂組成物の製造法を以下に例示する。常法に従い、油相成分を加熱混合した後、必要に応じて乳化剤等を添加し調整する。次に水相成分を別途調整して前記油相に添加し、攪拌機等により乳化分散する。その後、コンビネーター等の公知の装置を用いて攪拌冷却し、ノズル等から押し出すことによってシート状に成形し得ることができる。
【0021】
得られたシート状油中水型乳化油脂組成物は、クロワッサン、デニッシュ、パイ等の用途に用いられる。層状小麦粉膨化食品の製法によりシート状、スティック状、サイコロ状、短冊状など様々な形状があるが何れも層状膨化食品を得ることである。
【実施例】
【0022】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0023】
<ロールイン作業性評価>
実施例1〜6、比較例1〜3で得られたシート状油中水型乳化油脂組成物を用いてデニッシュパンを作製した際に、5及び20℃に温度調整したシート状油中水型乳化油脂組成物を折り込む作業性を、5人の訓練されたパネラーによって評価し、その結果を集約した。その際の評価基準は以下の通りであった。◎:シート状油中水型乳化油脂組成物の伸びが非常に良好であった、○:シート状油中水型乳化油脂組成物の伸びが良好であった、△:シート状油中水型乳化油脂組成物の伸びがやや劣った、×:シート状油中水型乳化油脂組成物の伸びが著しく劣った。
【0024】
<層状膨化食品の口溶け官能評価>
実施例1〜7、比較例1〜3で得られたシート状油中水型乳化油脂組成物を用いて作製したデニッシュパンを、5人の訓練されたパネラーによって官能評価し、その結果を集約した。その際の評価基準は以下の通りであった。◎:口溶けが非常に良好、○:口溶けが良好、△:口溶けがやや劣った、×:口溶けが著しく劣った。
【0025】
(実施例1) シート状油中水型乳化油脂組成物1の作製
表1に示す配合に従って、油相部の全原料を加熱溶解し混合して油相部を調整した。その後、水相部も同様に全原料を加熱溶解し混合して水相部を調整した。続いて、調整した水相部を油相部に攪拌しながら添加・混合し、80℃で10分間殺菌処理した。その後、常法通り掻き取り式チューブラー冷却捏和装置にて冷却捏和し、開口部が、高さ10mm、幅230mmの成型ノズルを用いて連続的に押し出し、シート状油中水型乳化油脂組成物1を得た。
【0026】
【表1】

【0027】
(実施例2) シート状油中水型乳化油脂組成物2の作製
表1に示す配合に従って、配合量を変えた以外は実施例1と同様の方法にて、シート状油中水型乳化油脂組成物2を得た。
【0028】
(実施例3) シート状油中水型乳化油脂組成物3の作製
表1に示す配合に従って、上昇融点47〜55℃の油脂の種類と配合量、上昇融点46℃以下の油脂配合量及び軟質油種と配合量を変えた以外は実施例1と同様の方法にて、シート状油中水型乳化油脂組成物3を得た。
【0029】
(実施例4) シート状油中水型乳化油脂組成物4の作製
表1に示す配合に従って、上昇融点47〜55℃の油脂の種類と配合量、上昇融点46℃以下の油脂配合量及び軟質油種と配合量を変えた以外は実施例1と同様の方法にて、シート状油中水型乳化油脂組成物4を得た。
【0030】
(実施例5) シート状油中水型乳化油脂組成物5の作製
表1に示す配合に従って、上昇融点47〜55℃の油脂の種類と配合量、上昇融点46℃以下の油脂配合量及び軟質油種と配合量を変えた以外は実施例1と同様の方法にて、シート状油中水型乳化油脂組成物5を得た。
【0031】
(実施例6) シート状油中水型乳化油脂組成物6の作製
表1の実施例6に示す配合に従って、上昇融点47〜55℃の油脂の種類と配合量、上昇融点46℃以下の油脂配合量及び軟質油種と配合量を変えた以外は実施例1と同様の方法にて、シート状油中水型乳化油脂組成物6を得た。
【0032】
(実施例7) シート状油中水型乳化油脂組成物7の作製
表1の実施例7に示す配合に従って、上昇融点47〜55℃の油脂の種類と配合量、上昇融点46℃以下の油脂配合量及び軟質油種と配合量を変えた以外は実施例1と同様の方法にて、シート状油中水型乳化油脂組成物7を得た。
【0033】
(比較例1) シート状油中水型乳化油脂組成物8の作製
表1に示す配合に従って、油相部の油脂としてパーム核極度硬化油(上昇融点:58℃)を5重量部、魚極度硬化油(上昇融点:56℃)を20重量部、パーム油低融点分別油を75重量部用いた以外は実施例1と同様の方法にて、シート状油中水型乳化油脂組成物8を得た。
【0034】
(比較例2) シート状油中水型乳化油脂組成物9の作製
表1に示す配合に従って、油相部の油脂としてパーム油のエステル交換油(上昇融点:46℃)を35重量部、パーム中融点分別油(上昇融点:30℃)を50重量部、パーム油低融点分別油を15重量部用いた以外は実施例1と同様の方法にて、シート状油中水型乳化油脂組成物9を得た。
【0035】
(比較例3) シート状油中水型乳化油脂組成物10の作製
表1に示す配合に従って、油相部の油脂としてパームステアリンのエステル交換油(上昇融点:52℃)を40重量部、パーム核油40重量部とラード60部のエステル交換油(上昇融点:40℃)を20重量部、菜種油を40重量部用いた以外は実施例1と同様の方法にて、シート状油中水型乳化油脂組成物10を得た。
【0036】
(実施例8〜14、比較例4〜6) デニッシュパンの作製
シート状油中水型乳化油脂組成物1〜10を用い、表2のデニッシュパン生地配合に従って、ミキサーボールにショートニング以外の全材料を入れ、低速2分、中高速3分ミキシングした。これにショートニングを加え低速2分、中高速5分ミキシングした。生地の捏ね上げ温度は25℃とした。フロアタイムを30分取った後、1℃の恒温槽に生地を入れ、4時間リタードを取った。生地100部に対し、実施例・比較例で得たシート状油中水型乳化油脂組成物を25部使用し、重ねて、四つ折りを一回行い、1℃の恒温槽で一晩寝かせて中間リタードを取った。中間リタード後四つ折りを一回行い、シーターで伸ばしてスネーク状に成型した。35℃のホイロに50分間入れた後、200℃のオーブンで10分間焼成してデニッシュパンを得た。その際、折り込み作業性を評価した。また得られたデニッシュパンの食感について官能評価を行い、それらの結果を表2にまとめた。
【0037】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状油中水型乳化油脂組成物全体中、10℃における固体脂含量が5%以下の軟質油を25〜65重量%及び上昇融点47℃〜55℃の油脂を5〜35重量%含有し、トランス酸含量が3重量%以下であるシート状油中水型乳化油脂組成物。
【請求項2】
上昇融点47℃〜55℃の油脂が、少なくともエステル交換工程を経ていることを特徴とする請求項1に記載のシート状油中水型乳化油脂組成物。
【請求項3】
軟質油の固体脂含量が、0℃において1%以下である請求項1又は2に記載のシート状油中水型乳化油脂組成物。
【請求項4】
シート状油中水型乳化油脂組成物全体中、水分量が10〜50重量%、油分量が90〜50重量%である請求項1〜3何れかに記載のシート状油中水型乳化油脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4に記載のシート状油中水型乳化油脂組成物を生地中に用いてなる層状膨化食品。

【公開番号】特開2011−115103(P2011−115103A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−276615(P2009−276615)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】