説明

シールド導電体

【課題】 パイプの端部からパイプ内に水が侵入することを防ぐことを目的とする。
【解決手段】 シールドパイプ20の前後両端部21F,21Rには、その内周面24に水密状態に密着可能であり、かつ、電線10を水密状態に挿通可能な電線挿通孔32を備えたシール栓30が嵌着されており、水が侵入できる隙間がない。また、シール栓30の外周面31にリップ部33が形成され、加えて、編組部材25がシールドパイプ20の外周面におけるシール栓30との対応領域にカシメ付けられているので、シールドパイプ20の前後両端部21F,21Rの水密性はいっそう高められている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド導電体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば電気自動車の動力回路として用いられるシールド導電体として、特許文献1に記載のものが知られている。このシールド導電体は、円筒状をなす金属製のパイプ内に、複数本の電線を挿通させたものである。電線はパイプの端部から導出され、機器に接続されるようになっている。
【特許文献1】特開2004−171952公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の構造では、降雨や洗浄等によってパイプの端部の開口からパイプ内に水が侵入してしまうことがあり、この水によりパイプが腐食するおそれがある。
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、パイプの端部からパイプ内に水が侵入することを防ぐことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の目的を達成するための手段として、請求項1の発明は、シールドパイプ内に電線を挿通してなるシールド導電体であって、前記シールドパイプの端部には、その周面に水密状態に密着可能であり、かつ、前記電線を水密状態に挿通可能な電線挿通孔を備えたシール部材が装着されているところに特徴を有する。
【0005】
請求項2の発明は、請求項1に記載のものにおいて、前記シール部材において前記シールドパイプの周面に密着する面にリップ部が形成されているところに特徴を有する。
【0006】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載のものにおいて、前記シール部材が前記シールドパイプ内に嵌着され、このシールドパイプには、前記電線における前記シールドパイプからの導出部分をシールドする筒状の可撓性シールド部材が接続されているものであって、前記可撓性シールド部材が、前記シールドパイプの外周における前記シール部材との対応領域にカシメ付けられているところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0007】
<請求項1の発明>
シールドパイプの端部には、その周面に水密状態に密着可能であり、かつ、電線を水密状態に挿通可能な電線挿通孔を備えたシール部材が装着されているので、水が侵入できる隙間がない。これにより、シールドパイプの端部からシールドパイプ内に水が侵入することを防ぐことができる。
【0008】
<請求項2の発明>
シール部材においてシールドパイプの周面に密着する面にリップ部が形成されているので、シール部材がシールドパイプの端部に装着されると、リップ部が弾性的に押しつぶされてシールドパイプの周面に強固に密着する。したがって、シール部材にリップ部が設けられていない場合に比べ、シール部材がより強固にシールドパイプの周面に密着するから、シールドパイプ端部の水密性は高められ、確実に水の侵入を防ぐことができる。
【0009】
<請求項3の発明>
可撓性シールド部材が、シールドパイプの外周におけるシール部材との対応領域にカシメ付けられているので、シールドパイプは内方へ圧迫されて縮径変形し、その内周面がシールドパイプ内に嵌着されているシール部材の外周面に強固に密着している。これにより、シールドパイプ端部の水密性はいっそう高められ、より確実にシールドパイプ内に水が侵入することを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図1〜図3によって説明する。本実施形態のシールド導電体1は、電気自動車の動力回路として用いられるものであり、例えば、動力回路を構成するインバータ、バッテリ、モータなどの装置(図示せず)の間を接続する手段として用いられるものである。図1には、本実施形態におけるシールド導電体1の斜視図を示した。以下、各構成部材において、図1の上側を上方、下側を下方、右側を前方、左側を後方として説明する。
【0011】
シールド導電体1は、3本の電線10を、円筒状のシールドパイプ20内に挿通させたものである。電線10は、銅製の撚り線やアルミニウム合金製の単芯線等からなる導体の外周を合成樹脂製の絶縁被覆で包囲したものである。各電線10の前後両端部はシールドパイプ20の前後両端の開口から外部へ導出されており、車両に搭載された各種装置に接続されるようになっている。なお、各電線10の前後両端部には端子11が接続され、また前側の端部にはコネクタ12が取り付けられている。
【0012】
電線10を包囲しているシールドパイプ20は金属製(例えばアルミニウム合金、銅合金、あるいはステンレス鋼など)であり、全体として前後方向に長く、その全長にわたってほぼ一定の断面形状(円形)をなしている。シールドパイプ20の前端部21Fおよび後端部21Rは、それぞれ前方および後方へ向かって上がる形態をなし、後端部21Rにはシールドパイプ20の外周から外方へ張り出す板状の取付部22が設けられている。この取付部22にはボルト孔23が形成されており、シールドパイプ20は、この取付部22を介して車体に取り付けられるようになっている。なお、シールドパイプ20が車体に取り付けられると、前後両端部21F,21Rの間においてほぼ水平をなす中間部が、車体の床板の下面に沿って外部に露出されるようになっている。
【0013】
シールドパイプ20の前後両端部21F,21Rにはそれぞれシール栓30(本発明のシール部材に該当する)が嵌着されている。図2には、シール栓30の斜視図を、図3には、シールドパイプ20の前後両端部21F,21Rの側断面図を示した。シール栓30は合成樹脂製であって、軸線方向にやや長い円柱状をなし、その外径はシールドパイプ20の内径よりもやや大きくされ、また断面形状は軸線方向にほぼ一定とされている。各シール栓30は、シールドパイプ20の前後両端縁からそれぞれシールドパイプ20内に押し込まれている。シール栓30においてシールドパイプ20内に嵌着されている部分は弾性的に縮径変形し、その外周面31がシール栓30の弾性復元力によりシールドパイプ20の内周面24に水密状態に密着している。
【0014】
各シール栓30には、3本の電線挿通孔32がそれぞれ軸線方向に貫通して形成され、各電線挿通孔32の孔径は電線10の外径よりも若干小さくされている。各電線挿通孔32には電線10が挿通され、電線10の絶縁被覆は電線挿通孔32の内周面によって弾性的に縮径するように押しつぶされており、電線10の外周面と電線挿通孔32の内周面とがそれぞれ水密状態に密着している。なお、各電線10は電線挿通孔32によって径方向に変位しないように保持された状態となるから、振動等によって電線10がシールドパイプ20の内周面24に接触し、ひいては損傷してしまうことが回避される。
【0015】
各シール栓30の外周面31(シールドパイプ20の内周面24に密着する面)には、シールドパイプ20の内周面24と弾性的に密着可能な1条のリップ部33が形成されている。リップ部33はシール栓30の軸線方向ほぼ中央位置において、全周にわたり外方へ膨出されている。このリップ部33において、シール栓30とシールドパイプ20の内周面24との密着度が高くなっている。
【0016】
シールドパイプ20の前側には筒状の編組部材25(本発明の可撓性シールド部材に該当する)が配され、この編組部材25内には、電線10においてシールドパイプ20の前端縁から導出されている部分が挿通されて一括シールドされている。この編組部材25は、金属細線(例えば銅)をメッシュ状に編み込んだものであって可撓性を備えており、径方向および軸線方向に伸縮可能となっている。編組部材25の後端部は、シールドパイプ20の前端部21Fにおける前側の部分、つまりシール栓30が嵌着されている部分の外周面を覆うように被せられ、この部分の外周には後述するカシメリング34が外嵌されている。編組部材25は、このカシメリング34によって、シールドパイプ20の外周面におけるシール栓30との対応領域にカシメ付けられている。
【0017】
カシメリング34は金属製であって、シールドパイプ20よりも若干径の大きい円筒状をなし、その軸線方向寸法はシール栓30の軸線方向寸法よりもやや小さくされている。このカシメリング34の内周面とシールドパイプ20の外周面との間で編組部材25の前端部は強固に挟み付けられ、シールドパイプ20に対して導通可能に固定されている。
【0018】
次に、上記のように構成された本実施形態の作用および効果について説明する。
車体に取り付けられたシールドパイプ20の前端部21Fもしくは後端部21Rに、降雨や洗浄等による水滴がかかってしまうことがある。ここで、この前端部21Fもしくは後端部21Rに水が侵入できる隙間があると、その隙間から水がシールドパイプ20内に侵入し、ひいてはシールドパイプ20を腐食させてしまうおそれがある。しかし、本実施形態のように、シールドパイプ20の前端部21Fおよび後端部21Rにシール栓30が嵌着されていれば、この前後両端部21F,21Rには水の侵入する隙間がなく、たとえ水滴がかかっても、シールドパイプ20内に水が侵入してしまうことを防ぐことができる。
【0019】
また、シール栓30の外周面31にリップ部33が突出形成されているので、シール栓30がシールドパイプ20内に嵌着されると、リップ部33においてシール栓30とシールドパイプ20との密着度が高められる。これにより、シール栓30にリップ部33が設けられていない場合に比べ、シール栓30がより強固にシールドパイプ20の内周面24に密着するから、シールドパイプ20の前後両端部21F,21Rの水密性は高められ、確実に水の侵入を防ぐことができる。
【0020】
加えて、編組部材25が、シールドパイプ20の外周面におけるシール栓30との対応領域にカシメ付けられているので、シールドパイプ20は内方へ圧迫されて縮径変形し、その内周面24がシールドパイプ20内に嵌着されているシール栓30の外周面31に強固に密着している。これにより、シールドパイプ20の前後両端部21F,21Rの水密性はいっそう高められ、より確実にシールドパイプ20内に水が侵入することを防ぐことができる。
【0021】
以上説明したように本実施形態によれば、シールドパイプ20の前後両端部21F,21Rには、その内周面24に水密状態に密着可能であり、かつ、電線10を水密状態に挿通可能な電線挿通孔32を備えたシール栓30が嵌着されているため、水が侵入できる隙間がない。これにより、シールドパイプ20の前端部21Fもしくは後端部21Rからシールドパイプ20内に水が侵入することを防ぐことができる。
【0022】
さらに、シール栓30の外周面31にはリップ部33が形成され、そのリップ部33がシールドパイプ20の内周面24に強固に密着し、また、編組部材25がカシメ付けられ、シールドパイプ20の内周面24がシール栓30の外周面31に強固に密着している。これにより、シールドパイプ20の前後両端部21F,21Rの水密性はいっそう高められ、より確実にシールドパイプ20内に水が侵入することを防ぐことができる。
【0023】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施態様も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0024】
(1)上記実施形態では、3本の電線10がシールドパイプ20内に挿通されているが、本発明によれば、電線の本数は3本でなくても構わず、例えば2本以下でもよく、また、4本以上であってもよい。
【0025】
(2)上記実施形態では、シール栓30には3本の電線挿通孔32が形成されているが、本発明によれば、電線挿通孔の本数は3本でなくても構わず、パイプ内に挿通させる電線の本数に応じた本数であればよい。
【0026】
(3)上記実施形態では、シールドパイプ20は円筒状をなしているが、本発明によれば、シールドパイプは電線の外周を包囲可能な形状をなしていればどのような形状でも構わず、例えば角筒状をなしていてもよい。
【0027】
(4)上記実施形態では、シールドパイプ20は車体に対し中間部が外部に露出されるようにして取り付けられるものとされているが、本発明によれば、シールドパイプは車体に対しどのように取り付けられるものであってもよく、例えば全体がエンジンルーム内に配されるようにして取り付けられるものであっても構わない。
【0028】
(5)上記実施形態では、シールドパイプ20の前後両端部21F,21Rはそれぞれ前方および後方へ向かって上がる形態をなしているが、本発明によれば、シールドパイプはどのような形態に曲げ加工されていてもよく、たとえば前後にわたって水平とされていてもよい。
【0029】
(6)上記実施形態では、各シール栓30の外周面31には1条のリップ部33が形成されているが、本発明によれば、各シール栓の外周面にリップ部は形成されていなくてもよく、また2条以上形成されていてもよい。
【0030】
(7)上記実施形態では、シールドパイプ20の前後両端部21F,21Rにシール栓30が嵌着されているが、本発明によれば、シール栓が装着されるのはシールドパイプの前後両端部のうちいずれか一方の端部のみであってもよく、例えば、前端部のみにシール栓が嵌着され、後端部には防水用のグロメットが被せられていてもよい。
【0031】
(8)上記実施形態では、シール栓30は円柱状をなしているが、本発明によれば、シール栓はシールドパイプの内周面に水密状態に密着可能な形状をなしていれば円柱状でなくても構わず、例えば、シールドパイプが角筒状をなしていればその内周面に水密状態に密着可能な四角柱状をなしていてもよい。
【0032】
(9)上記実施形態では、シール栓30は合成樹脂製とされているが、本発明によれば、シール栓は合成樹脂製でなくても構わず、例えばゴム製あるいは金属製であってもよく、また、大部分が金属製とされ、電線挿通孔の周りの部分だけ合成樹脂製とされていてもよい。
【0033】
(10)上記実施形態では、シールドパイプ20の外周面に編組部材25がカシメ付けられているが、本発明によれば、シールドパイプに編組部材がカシメ付けられていなくてもよい。
【0034】
(11)上記実施形態では、シール栓30は、外径が軸線方向にほぼ一定をなす円柱状とされているが、本発明によれば、シール栓の外径は一定でなくても構わず、例えば、シール栓は、シールドパイプへの嵌着方向における前側の端面から後側の端面にかけて徐々に外径が大きくなるようなテーパ状とされていてもよい。
【0035】
(12)上記実施形態では、シール栓30には電線挿通孔32が軸線方向に貫通して形成されているが、これに加えて、例えばシール栓がゴム製とされ、その外周面から電線挿通孔の内周面に至るスリットが軸線方向に切り込まれていてもよい。これにより、スリットを開きながら電線を側方から装着させることもでき、また、電線を軸線方向に挿入する場合はスリットが開いて電線挿通孔が広がるから、電線の挿通作業が容易となる。
【0036】
(13)上記実施形態では、電線10におけるシールドパイプ20の前端縁からの導出部分は金属細線を編み込んだ筒状の編組部材25によってシールドされているが、本発明によれば、この導出部分をシールドする部材は編組部材でなくても構わず、例えば、金属製の筒状シート材、導電性ゴムからなる筒部材、導電性樹脂からなる筒部材、あるいはアルミニウム製の筒状シート材等であってもよい。
【0037】
(14)上記実施形態では、シール栓30がシールドパイプ20の内周に密着するように嵌着されているが、本発明によれば、シール栓は、シールドパイプの外周に密着するキャップ状をなすシールカバーであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本実施形態におけるシールド導電体の斜視図
【図2】シール栓の斜視図
【図3】シールドパイプの前後両端部の側断面図
【符号の説明】
【0039】
1…シールド導電体
10…電線
20…シールドパイプ
21F…前端部(シールドパイプの端部)
21R…後端部(シールドパイプの端部)
24…内周面(シールドパイプの周面)
25…編組部材(可撓性シールド部材)
30…シール栓(シール部材)
31…外周面(シールドパイプの周面に密着する面)
32…電線挿通孔
33…リップ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールドパイプ内に電線を挿通してなるシールド導電体であって、
前記シールドパイプの端部には、その周面に水密状態に密着可能であり、かつ、前記電線を水密状態に挿通可能な電線挿通孔を備えたシール部材が装着されていることを特徴とするシールド導電体。
【請求項2】
前記シール部材において前記シールドパイプの周面に密着する面にリップ部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のシールド導電体。
【請求項3】
前記シール部材が前記シールドパイプ内に嵌着され、このシールドパイプには、前記電線における前記シールドパイプからの導出部分をシールドする筒状の可撓性シールド部材が接続されているものであって、
前記可撓性シールド部材が、前記シールドパイプの外周における前記シール部材との対応領域にカシメ付けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシールド導電体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−26821(P2007−26821A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−205668(P2005−205668)
【出願日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】