説明

シールド導電体

【課題】配索作業性に優れ、シールド性能を向上させることが可能なシールド導電体を提供する。
【解決手段】電線11を筒状のシールド部材20で包囲してなるシールド導電体10であって、シールド部材20が、金属製のパイプ21と金属製の筒状蛇腹部材30の端部同士を嵌合させて外周から締付リング50にて締め付けた形態とされており、筒状蛇腹部材30は、パイプ21の外周に保持される導電リング40を介してパイプ21の外周に導電可能に嵌合され、導電リング40はパイプ21の外周面21Aに面する内周面42と筒状蛇腹部材30の内周面に面する外周面41とを備え、内周面42及び外周面41には、複数の凹凸部43が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド導電体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハイブリット自動車や電気自動車等の車両では、インバータ装置やモータ等の機器間を接続する場合、シールド機能を備えたシールド導電体が用いられており、その一例として特許文献1に記載のものが知られている。このものは、複数の電線と、その複数の電線を一括して包囲する筒状のシールド手段とを備え、シールド手段は金属製のパイプの両端に、接続用パイプ、筒状編組部材、シールドシェルを順に接続した構成をなしている。このシールド手段の両端部に位置するシールドシェルが、インバータ装置等の機器が収容されたシールドケースに固定されることで、機器間を接続する電線を全周にわたって包囲することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3909763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような構成によると、筒状編組部材は金属細線をメッシュ状に編み込んだものであるから、取付作業時等に周辺部材に引っ掛かりやすく、作業効率が悪くなり、更に筒状編組部材が破れた場合には、シールド性能が低下する虞があった。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、配索作業性に優れ、シールド性能を向上させることが可能なシールド導電体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、電線を筒状のシールド部材で包囲してなるシールド導電体であって、前記シールド部材が、金属製のパイプと金属製の筒状蛇腹部材の端部同士を嵌合させて外周から締付リングにて締め付けた形態とされており、前記筒状蛇腹部材は、前記パイプの外周に保持される導電リングを介して前記パイプの外周に導電可能に嵌合され、前記導電リングは前記パイプの外周面に面する内周面と前記筒状蛇腹部材の内周面に面する外周面とを備え、前記内周面及び前記外周面には、複数の凹凸部が形成されていることに特徴を有する。
【0007】
このような構成によれば、従来の例えば金属製のパイプの端部に金属細線をメッシュ状に編み込んでなる筒状編組部材等の編組線を組み付けていた場合と比較して、編組線の代わりに筒状蛇腹部材を用いることで、配索作業性に優れ、シールド性能を向上させることができる。
【0008】
詳しく説明すると、シールド部材のうち、パイプと機器等との接続部分には、従来から可撓性に優れる編組線が用いられる場合が多いが、編組線の特に端部において金属細線がほつれやすく、取付作業時等に周辺部材に引っ掛かり易いために、作業性が低下する虞があった。また、編組線は金属細線からなるため破れ易く、破れた場合には、シールド性能が低下する虞があった。これに対して、本発明は、編組線の代わりに筒状蛇腹部材がパイプに接続されているから、例えば筒状蛇腹部材として金属箔等、金属を薄く延ばして蛇腹状に加工したものを用いることで、その端部にほつれが生じることがなく、取付作業時等に周辺部材に引っ掛かることもないから、配索作業性に優れたものとすることができる。
【0009】
加えて、編組線に比べて金属箔等からなる筒状蛇腹部材は破れにくく、丈夫である。つまり、耐久性に優れるから、挿通した電線を異物の干渉や、その他周辺部材からより確実に保護することができる。さらに、耐久性に優れる筒状蛇腹部材を用いることで、金属製のパイプに準じたシールド性能を発揮することができ、シールド導電体としてのシールド性能を向上させることができる。
【0010】
また、筒状蛇腹部材は、パイプの外周に保持される導電リングを介してパイプの外周に締付リングにて締め付けられることにより、導電可能に嵌合される。そして、導電リングのうち、パイプの外周面に面する内周面と筒状蛇腹部材の内周面に面する外周面とには、複数の凹凸部が形成されているから、仮にパイプの外周面や筒状蛇腹部材の内周面に酸化被膜が形成されていたとしても、凹凸部が押し付けられることによって酸化被膜が破られてパイプと筒状蛇腹部材との間に良好な電気接続状態が確立され、パイプと筒状蛇腹部材との接続信頼性やシールド性を向上させることができる。
【0011】
詳しく説明すると、まず導電リングのうち、パイプの外周面に面する内周面に複数の凹凸部が設けられていれば、締付リングにより外周から締め付けられることにより、その凹凸部がパイプに食い込み、仮にパイプの外表面に酸化膜が形成されていたとしても、酸化膜が破られて導電リングとパイプとの間の電気接続状態が良好になる。また、導電リングのうち、筒状蛇腹部材の内周面に面する外周面にも内周面と同様の複数の凹凸部が形成されているから、締付リングにより外周から締め付けられることにより、その凹凸部が筒状蛇腹部材の内周面に食い込み、同様に導電リングと筒状蛇腹部材との間の電気接続状態が良好になる。この結果、パイプの内部を挿通する電線に対するシールド性能を向上させることができるのである。
【0012】
前記導電リングは、金属板を円弧状に曲げてなるCリング形状をなしていることが望ましい。パイプと筒状蛇腹部材とを導電リングを介してその外周から締付リングにて締め付けるには、まず、パイプに導電リングを保持させ、その上から筒状蛇腹部材を被せた状態で、導電リングの直上から締付リングにて締め付ける必要がある。この際、導電リングをCリング形状としておけば、パイプに導電リングを保持させた後であっても、適宜締付リングや筒状蛇腹部材に合わせてその位置を変更することが可能である。つまり、導電リングをOリング形状とした場合には、パイプ及び筒状蛇腹部材に凹凸部を食い込ませるという導電リングの性質上、少なくともパイプに対して圧着されている必要があるから、一度パイプに保持させた後はその位置が変更できるとは考えにくい。これに対して、導電リングをCリング形状としておけば、締付リングにより締め付けると同時に導電リングを縮径させ、パイプ及び筒状蛇腹部材に凹凸部を食い込ませることが可能となる。よって導電リングをCリング形状とし、その内径をパイプの外径よりも位置変更が可能な程度に大きな寸法に設定すれば、パイプに導電リングを保持させた後であっても、その位置の変更が可能となり、作業性に優れたものとすることができる。
【0013】
前記複数の凹凸部は、前記導電リングの前記内周面及び前記外周面に、格子状をなす多数の溝を形成することで形成されていることが望ましい。このような構成によれば、例えばローレット加工により同時に複数の凹凸部を形成することが可能であるから成形性に優れる。また、格子状をなす多数の溝を形成するということは、言い換えれば方形状の凸部を複数形成することとなるから、導電リングに面するパイプ及び筒状蛇腹部材に複数の凸部が食い込むこととなり、パイプ及び筒状蛇腹部材に対する固着力を高めることができる。加えて、格子状をなす多数の溝により形成された複数の凸部が食い込むことで、パイプ及び筒状蛇腹部材に対する導電リングの接触面積を多く確保することが可能となるから、接触抵抗を抑え、さらに十分な接続信頼性を確保することが可能となる。
【0014】
前記筒状蛇腹部材のうち、前記パイプの外周に嵌合される部分には、前記筒状蛇腹部材の開口端から切り込み形成されたスリットが設けられていてもよい。筒状蛇腹部材は、編組線と比較して、変形しにくいという難点がある。これに対して、パイプの外周に嵌合される部分にスリットを設けることで、締付リングにて外周から締付ける際にも、パイプの外径にあわせて容易に縮径させることが可能となり、取付作業性に優れたものとすることができる。
【0015】
前記筒状蛇腹部材のうち、前記パイプの外周に嵌合される部分には前記導電リングの外周面に沿った円筒状接続部が形成されていてもよい。このような構成によれば、筒状蛇腹部材のうち、パイプの外周に嵌合される部分を予め円筒状とすることで、蛇腹状である場合と比較して、作業性に優れる。具体的には、導電リングを介してパイプと筒状蛇腹部材とを締付リングにて締め付ける際に、導電リングに直接接触する筒状蛇腹部材の部位が導電リングの外周面に沿った円筒状接続部であれば、締付前後で導電リングに対して筒状蛇腹部材が位置ずれすることがない。よって、確実に筒状蛇腹部材を導電リングを介してパイプに締め付けることができ、作業性に優れたものとすることができる。また、その締め付け部分を導電リングの外周面に沿った形状とすることで、導電リングに対する接触面積をより多く確保し、接触抵抗を低く抑え、十分な電気的接続を図ることができる。
【0016】
前記筒状蛇腹部材のうち、前記円筒状接続部に連なる部分には前記円筒状接続部を段付き状に拡開して前記パイプとの間に環状のギャップを形成するシール筒部が設けられ、前記パイプと前記シール筒部との間にはシールリングが配されていてもよい。このような構成とすれば、パイプと筒状蛇腹部材との締付部分を介して外部から水の浸入や異物の混入等を防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、配索作業性に優れ、シールド性能を向上させることが可能なシールド導電体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態1に係るシールド導電体のパイプと筒状蛇腹部材との接続部分を示した側面図
【図2】同側断面図
【図3】図1のA−A断面図
【図4】導電リングの斜視図
【図5】実施形態1の変形例1に係るシールド導電体のパイプと筒状蛇腹部材の接続部分を示した側面図
【図6】実施形態2に係る導電リングの斜視図
【図7】実施形態3に係る導電リングの斜視図
【発明を実施するための形態】
【0019】
<実施形態1>
本発明の実施形態1を図1ないし図4によって説明する。
本実施形態のシールド導電体10は、例えば電気自動車等の車両内における走行用の動力源を構成するバッテリ、インバータ、モータ等の機器(図示せず)間に配索されるものであり、バッテリとインバータ間では2本、インバータとモータ間では3本の電線11を備えて構成される。そのうち、本実施形態では、インバータとモータ間において車両の床下に配索される3本の電線11を備えたシールド導電体10について説明する。
【0020】
シールド導電体10は、図1ないし図3に示すように、3本の電線11と、これら3本の電線11が挿通され、シールド機能を有するシールド部材20からなる。シールド部材20は、車両の床下に配索されるパイプ21と、このパイプ21の両端部に導電可能に接続され、パイプ20と機器とを接続する可撓性に優れた筒状蛇腹部材30とを備えて構成されている。
【0021】
各電線11は、共に丸形(断面円形状)の被覆電線であって、図3に示すように芯線12と芯線12の周囲を覆う絶縁被覆13(絶縁層)とから構成される。芯線12は、銅又は銅合金製であって、単芯線又は複数の金属素線を撚り合わせた撚り線が用いられている。この3本の電線11は、図示はしないがそれぞれ端末に端子金具が接続されて、パイプ21及びそれに連なる筒状蛇腹部材30から導出され、機器側の端子へと接続される。
【0022】
パイプ21は金属製(例えば、アルミニウム、アルミニウム合金)の円筒状をなし、その内径は3本の電線11を挿通可能な寸法とされている。詳細には、パイプ21の断面形状は、図3に示すように真円形をなし、外周面21Aと内周面21Bは同心円形をなしており、即ち、厚さは全周にわたって一定とされている。また、パイプ21の外周面21Aは、滑らかな円弧面とされている。そして、パイプ21の開口縁部には、図2に示すように、後方に向かって外周面21Aから縮径する方向に傾斜する誘導傾斜面21Cが形成されている。この誘導傾斜面21Cによりパイプ21の外周に嵌着されるOリング22(シールリングに相当する)、及びその外周を覆う筒状蛇腹部材30に挿入し易くすることが可能である。このような構成のパイプ21はシールド機能の他に、電線11の保護機能を兼ね備えるものであり、飛び石等が当たって、電線11を傷付ける虞のある車両の床下に配索されるのに適している。
【0023】
パイプ21の端部は、筒状蛇腹部材30の開口端31から挿入され、パイプ21と筒状蛇腹部材30とを導電リング40を介して嵌合させ、これらをその外周からかしめリング50(締付リングに相当する)でかしめ付けることにより導電可能に接続されている。筒状蛇腹部材30はパイプ20と同じく金属製(例えば、柔軟性に優れる銅、銅合金)であって、薄い箔状に蛇腹形状を施した態様をなしている。筒状蛇腹部材30は、図1ないし図3に示すように、全体として略円筒状をなしており、そのうち蛇腹形状が形成されている部分は本体部32とされる。本体部32と開口端31との間には、図2に示すように、本体部32側からシール筒部33、円筒状接続部34が設けられている。詳しくは後述するが、シール筒部33はパイプ21に嵌着したOリング22の外周を密着した状態で覆う部位であって、円筒状接続部34はパイプ21に保持された導電リング40を介してその外周からかしめリング50でかしめ付けられる部位に相当する。
【0024】
本体部32は、外周に向かって膨出し、周方向に延びる突条部32Aが軸方向に沿って所定の等ピッチで並列配置されている。突条部32A間は、内周に向かって凸となる凹条部32Bとされ、突条部32Aと凹条部32Bとが交互に配された蛇腹状をなし、電線11の配索経路に柔軟に追従できる可撓性を備えている。
【0025】
シール筒部33は、円筒状接続部34から段付き状に拡径してパイプ21の外周面21Aとの間にOリング22の肉厚分のギャップが環状に形成されている。このギャップには、図2に示すように、パイプ21の外周面21Aに嵌着したOリング22が収容可能とされている。Oリング22はゴム等の弾性体からなり、シール筒部33の内周面とパイプ21の外周面21Aとに密着することで両部材間が水密にシールされる。
【0026】
円筒状接続部34は、開口端31から導電リング40の外径と略同じ寸法で導電リング40の外周面41に沿って形成されている。円筒状接続部34の外周面は滑らかな円弧面とされ、その外周から後述するかしめリング50が装着可能とされている。
【0027】
さて、パイプ21の外周面21Aにおいて、Oリング22に並列して保持される導電リング40は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金等の導電製の金属板を円弧状に屈曲させて形成され、その全体形状は図4に示すように、Cリング状をなしている。導電リング40の内径は、パイプ21の外径よりもやや大きく、パイプ21に導電リング40を挿通可能であって、位置変更が可能な寸法に設定されている。
【0028】
この導電リング40のうち、筒状蛇腹部材30の円筒状接続部34に面する面は外周面41とされ、パイプ21の外周面21Aに面する面は内周面42とされている。この外周面41及び内周面42には、セレーション43(凹凸部に相当する)が形成されている。セレーション43は所謂ローレット加工により形成され、格子状をなす多数の溝が連続して形成されることで、多数の平行四辺形様の凸部が、所定間隔を隔てて、所定の方向に向かって整列した態様をなしている。なお、上記所定の方向とは、導電リング40の幅方向、つまりパイプ21の軸線方向を斜めに横切る方向とされている。
【0029】
導電リング40を介して円筒状接続部34をパイプ21にかしめ付けるかしめリング50は、金属製(例えば、アルミニウム合金、ステンレス、銅、銅合金等)であって、リング状をなしている。かしめリング50は、その軸線方向に沿って延びる帯板状をなし、幅寸法は筒状蛇腹部材30の円筒状接続部34及び導電リング40の幅寸法と略一致する。かしめリング50の内径は、かしめ付ける前において、パイプ21の外径よりも大きい寸法とされている。
【0030】
続いて、筒状蛇腹部材30を導電リング40を介してパイプ21の外周からかしめリング50により締め付ける工程について説明する。
まず、パイプ21に導電リング40を装着し、続いてOリング22を嵌着する。そして、導電リング40及びOリング22を保持した状態のパイプ21を、その誘導傾斜面21Cから、筒状蛇腹部材30の内部へと挿入する。Oリング22が筒状蛇腹部材30のシール筒部33に収容される位置までパイプ21を押し進め、Oリング22がシール筒部33の内周面とパイプ21の外周面21Aとに密着してシールしたところで、円筒状接続部34と導電リング40が締付位置にて互いに重なり合っているか確認し、その直上にかしめリング50を嵌め付ける。このとき、互いの位置関係は、軸中心側からパイプ21、導電リング40、筒状蛇腹部材30の円筒状接続部34、かしめリング50が略同心円状に重なった状態となる。
【0031】
このような状態のパイプ21、導電リング40、筒状蛇腹部材30、かしめリング50を図示しないかしめ付け用の金型にセットする。金型を型締めすると、かしめリング50は筒状蛇腹部材30の円筒状接続部34側へと押圧され、円筒状接続部34は導電リング40に押圧されて、その外周面43に形成されたセレーション43に食い込む。導電リング40は、さらにパイプ21の外周面21Aに沿って縮径し、パイプ21の外周面21Aに面する内周面42に形成されたセレーション43がパイプ21に食い込む。これと同時に、かしめリング50の余長部分が、外側へと突出することにより、図3に示すように、左右一対の耳部51が形成される。この耳部51は余長部分の内周面同士が密着した折り返し形状をなしている。耳部51以外の部分はというと、パイプ21の外周面21A、導電リング40、筒状蛇腹部材30の円筒状接続部34をそれぞれ密着させた状態で、当然のことながら、その外周から耳部51以外のかしめリング50の部位が円筒状接続部34に密着し、全体として略円形をなすこととなる。こうして、かしめリング50によりこれらの外周からかしめ付けることにより、パイプ21に対して導電リング40、筒状蛇腹部材30が均一に締め付けられる。これと同時に、導電リング40の外周面41と内周面42に形成されたセレーション43が、それぞれが面するパイプ21の外周面21A及び筒状蛇腹部材30の円筒状接続部34の内周面に食い込む。これにより、パイプ21及び筒状蛇腹部材30が導電リング40を介して強固に固着され、接続信頼性が確保される。
【0032】
以上説明したように、本実施形態によれば、電線11を包囲するシールド部材20は、金属製のパイプ21に金属製の導電リング40を介して金属製の筒状蛇腹部材30を嵌合させ外部からかしめリング50によりかしめ付けることにより接続される。よって、従来の例えば、筒状蛇腹部材30ではなく、筒状編組部材等の編組線を組み付けていた場合と比較して、配索作業性に優れ、シールド性能を向上させることができる。
【0033】
即ち、編組線は金属細線をメッシュ状に編み込んで形成されるため、編組線の特に端部において、金属細線がほつれやすく、取付作業時等に周辺部材に引っ掛かり易く、作業性が低下する虞があった。また、同様に金属細線からなる編組線は、破れ易く、破れた場合には、シールド性能が低下する虞があった。これに対して、本実施形態では、編組線の代わりに筒状蛇腹部材30がパイプ21に接続されており、薄い箔状に蛇腹形状を施した態様をなしているから、その端部にほつれが生じることもなく、取付作業時等に周辺部材に引っ掛かる虞もないから、配索作業性に優れたものとすることができる。
【0034】
また、筒状蛇腹部材30全体を箔状とすることで、金属細線を編み込んだ編組線よりも破れにくく、丈夫である。つまり、筒状蛇腹部材30は耐久性に優れるから、挿通した電線11を異物の干渉や、その他周辺部材からより確実に保護することができる。加えて、破れにくく、丈夫な筒状蛇腹部材30を用いることで、金属製のパイプ21に準じたシールド性能を発揮することができるから、シールド部材20全体のシールド性能を向上させることができる。また、筒状蛇腹部材30の本体部32を突条部32Aと凹条部32Bとが交互に配された蛇腹状とすることで、電線11の配索経路に柔軟に追従させることが可能である。
【0035】
また、筒状蛇腹部材30は、パイプ21の外周に保持される導電リング40を介して締め付けられるから、パイプ21と筒状蛇腹部材30との接続信頼性を向上させることが可能となる。つまり、導電リング40にはパイプ21の外周面21Aに面する内周面42と、筒状蛇腹部材30の円筒状接続部34に面する外周面41とには、セレーション43が形成されている。これにより、仮にパイプ21の外周面21Aや筒状蛇腹部材30の内周面に酸化被膜が形成されていたとしても、セレーション43が押し付けられることによって酸化被膜が破られてパイプ21と筒状蛇腹部材30との間に良好な電気的接続状態が確立される。よって、パイプ21と筒状蛇腹部材30との接続信頼性やシールド性能を向上させることができる。
【0036】
詳しく説明すると、まず導電リング40のうち、パイプ21の外周面21Aに面する内周面42に複数の凹凸部からなるセレーション43が設けられていれば、かしめリング50により外周から締め付けられることにより、そのセレーション43がパイプ21に食い込み、仮にパイプ21の外表面に酸化膜が形成されていたとしても、酸化膜が破られて導電リング40とパイプ21との間の電気接続状態が良好になる。また、導電リング40のうち、筒状蛇腹部材30の内周面に面する外周面41にも内周面と同様のセレーション43が形成されているから、かしめリング50により外周からかしめ付けられることにより、セレーション43が筒状蛇腹部材30の内周面に食い込み、同様に導電リング40と筒状蛇腹部材30との間の電気接続状態が良好になる。この結果、パイプ21の内部を挿通する電線11に対するシールド性能を向上させることができるのである。
【0037】
また、導電リング40に形成されたセレーション43は、ローレット加工により容易に成形することが可能である。また、セレーション43を複数の凸部から構成し、それらがパイプ21及び筒状蛇腹部材30に食い込むことで、両部材に対する導電リング40の接触面積をより多く確保することが可能となるから、接触抵抗を抑え、さらに十分な接続信頼性を確保することが可能となる。
【0038】
また、セレーション43の形状を、多数の平行四辺形様の凸部が、所定間隔を隔てて、所定の方向に向かって整列した態様をなすものとし、所定の方向を、パイプ21の軸線方向を斜めに横切る方向とすることで、パイプ21と筒状蛇腹部材30が外れようとする方向、つまりパイプ21の軸線方向に抗して互いを保持しようとする保持力が働くから、より強固にパイプ21及び筒状蛇腹部材30を接続することができる。
【0039】
また、パイプ21及び筒状蛇腹部材30の表面に酸化被膜が形成されると、ただ単にかしめリング50によりパイプ21と筒状蛇腹部材30とを表面的に接続するのでは、パイプ21と筒状蛇腹部材30とが酸化被膜を介在した状態で電気的な接続がなされるため、接触抵抗が大きくなるという問題があった。しかしながら、本実施形態では、導電リング40のセレーション43がパイプ21及び筒状蛇腹部材30に食い込み、それぞれの酸化被膜を突き破って内部導体に接触することが可能であるから、接触抵抗を低く抑え、パイプ21と筒状蛇腹部材30との間の接続信頼性を十分に確保することが可能となる。以上のように、導電リング40を介してパイプ21と筒状蛇腹部材30とを外周からかしめリング50によりかしめ付けることで、十分な電気的接続を得ることが可能となり、よって、その内部を挿通する電線11に対するシールド性能を向上させることができるのである。
【0040】
また、導電リング40はCリング形状をなしているから、パイプ21の外径よりもやや大きい、パイプ21に対して位置変更が可能な寸法設定とすることで、パイプ21に導電リング40を保持させた後であっても、筒状蛇腹部材30やかしめリング50に合わせてその位置を変更することが可能となり、取付作業性に優れたものとすることができる。また、導電リング40において、上記理由により、パイプ21の外径よりもやや大きい内径寸法を設定したとしても、導電リング40はCリング形状をなしているから、かしめ付ける際に縮径し、パイプ21に対して固着させることが可能であるから、なんら問題はない。
【0041】
また、導電リング40上に配され、かしめリング50によりかしめ付けられる円筒状接続部34は、導電リング40の外周面41に沿った形状とされているから、例えばかしめ付けられる部分も本体部32と同様の蛇腹状である場合と比較して、作業性に優れる。即ち、導電リング40を介してパイプ21と筒状蛇腹部材30とをかしめリング50にて締め付ける際に、導電リング40に直接接触する円筒状接続部34が導電リング40の外周面41に沿った円筒状であれば、かしめ付け前後で導電リング40に対して筒状蛇腹部材30が位置ずれしにくいものとすることができる。よって、より確実に筒状蛇腹部材30を導電リング40を介してパイプ21に締め付けることができ、作業性に優れたものとすることができる。また、そのかしめ付け部分を導電リング40の外周面41に沿った形状とすることで、導電リング40に対する筒状蛇腹部材30の接触面積をより多く確保し、接触抵抗を低く抑え、十分な電気的接続を図ることが可能となる。
【0042】
また、パイプ21と筒状蛇腹部材30とが重なり合う部分のうち、かしめ付け部分である円筒状接続部34よりも、筒状蛇腹部材30の本体部32側に配されたパイプ21の端部にはOリング22が嵌着されている。このOリング22に密着するように、筒状蛇腹部材30には、円筒状接続部34から段付き状に拡径したシール筒部33が設けられている。これにより、パイプ21の外周面21Aとシール筒部33との間はOリング22により水密にシールされているから、かしめリング50でかしめ付けられた円筒状接続部34と導電リング40、及びパイプ21の外周面21Aとのそれぞれの隙間等を介して外部からの水の浸入や異物の混入等を防止することができる。
【0043】
以上本発明の実施形態1を示したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、例えば以下のような変形例を含むこともできる。なお、以下の変形例において、上記実施形態と同様の部材には、上記実施形態と同符号を付して説明を省略するものもある。
【0044】
[実施形態1の変形例1]
実施形態1の変形例1について図5を用いて説明する。本変形例は、実施形態1とは、筒状蛇腹部材60に複数本のスリット63が形成されているところが相異する。
【0045】
筒状蛇腹部材60のうち、円筒状接続部61には、その開口端62からは4本のスリット63が切り込み形成されている。このスリット63は円筒状接続部61において円弧上に等間隔に形成され、その切り込みの深さは、開口端62から円筒状接続部34を貫通してシール筒部33に向けて拡径する手前位置まで達している。
【0046】
このような構成とすれば、円筒状接続部61に開口端62から切り込み形成されたスリット63を設けることで、実施形態1のようにスリット63を設けない場合と比較して、かしめリング50にて外周からかしめ付ける際に、パイプ21の外径にあわせて筒状蛇腹部材60を容易に縮径させることが可能となるから、取付作業性に優れたものとすることができる。また、円筒状接続部61をスリット63を設けることにより、パイプ21の外周面21Aに接触し易い構成とすることで、接触面積の確保が容易となり、接触抵抗を抑え、十分な接続信頼性を確保することができる。よって、このような変形例によっても、パイプ21と筒状蛇腹部材60とからなるシールド部材65において、より優れたシールド性能を発揮させることが可能となる。
【0047】
<実施形態2>
次に、本発明の実施形態2を図6によって説明する。
本実施形態は、実施形態1とは、導電リング70のセレーション73の形状が相異する。他の構成については実施形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0048】
導電リング70の内周面71と外周面72には、それぞれパイプ21の軸線方向に沿って延びる凸条部73Aと凹条部73Bとを交互に配することでセレーション73が形成されている。
【0049】
このような構成によれば、実施形態1と同様に、セレーション73がパイプ21及び筒状蛇腹部材30に食い込むことで、互いを導電リング70に対して強固に固着させ、パイプ21及び筒状蛇腹部材30の接続信頼性を確保することができる。そして、パイプ21及び筒状蛇腹部材30を強固に接続することで、内部を挿通させる電線11に対するシールド性能の向上を図ることが可能である。
【0050】
<実施形態3>
次に、本発明の実施形態3を図7によって説明する。
本実施形態は、実施形態1及び実施形態2とは、導電リング80のセレーション83の形状が相異する。他の構成については、実施形態1及び実施形態2と同様であるため、説明を省略する。
【0051】
導電リング80の内周面81と外周面82には、それぞれ導電リング80の周方向に沿って延びる凸条部83Aと凹条部83Bとが交互に形成され、これにより凹凸形状をなすセレーション83が形成されている。
【0052】
このような構成によれば、実施形態1及び実施形態2と同様に、セレーション83がパイプ21及び筒状蛇腹部材30に食い込むことで、互いを導電リング80に対して強固に固着させ、パイプ21及び筒状蛇腹部材30の接続信頼性を確保することができる。そして、パイプ21及び筒状蛇腹部材30を強固に接続することで、内部を挿通させる電線11に対するシールド性能の向上を図ることが可能である。
【0053】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0054】
(1)上記した各実施形態では、導電リング40,70,80はCリング形状とされていたが、これに限られず、例えばかしめリングにより筒状蛇腹部材をかしめ付ける前に、パイプの外周に導電リングを嵌め付ける構成であってもよい。このような構成とすれば、かしめリングにより筒状蛇腹部材をかしめ付ける際に、予め固着された導電リングが位置ずれすることがない。
【0055】
(2)上記した各実施形態では、セレーション43,73,83は導電リング40,70,80の内外周面のほぼ全域に亘って形成されていたが、これに限られず、パイプ21及び筒状蛇腹部材30,60に接する部分のみに部分的に形成されるものであってもよい。
【0056】
(3)実施形態1では、セレーション43はローレット加工を施すことにより形成されていたが、これに限られず、凹凸形状とするのであればどのような形態としてもよい。例えば、曲線状の溝、外形状が三角形や四角形などの多角形状をなす凹部、外形状が円形、長円形状をなす凹部を形成することで凹凸部が構成されていてもよい。
【0057】
(4)上記した各実施形態では、電線11は2本ないし3本とされていたが、これに限られず、例えば1本や4本以上であってもよい。
【0058】
(5)上記した各実施形態では、パイプ21の断面形状は真円形としたが、これに限られず配索状況に応じて、楕円形状等扁平な形状に変形させたものであってもよい。
【0059】
(6)上記した各実施形態では、かしめ付け部分である例えばパイプ21の外周面21Aと筒状蛇腹部材30の円筒状接続部34には、防錆や電食の防止を目的としためっき処理等を施していないが、これに限られず、例えばパイプ21の端部に亜鉛めっきを施し、防錆を図ってもよい。また、筒状蛇腹部材30のうち、パイプ21との接触面にスズめっきを施すことで、異種金属の接触により発生する電食を抑えるものであってもよい。
【0060】
(7)上記した各実施形態では、パイプ21をアルミニウム、アルミニウム合金等の金属製とし、筒状蛇腹部材30を柔軟性に優れる銅、銅合金等の金属製としたが、これに限られず、その他の金属材料や金属以外の導電材料により構成されていてもよい。
【0061】
(8)上記した各実施形態では、リング状のかしめリング50によりかしめ付けることにより、パイプ21と筒状蛇腹部材30とを導電可能に接続していたが、これに限られず、例えばC状のかしめリングによりかしめ付けてもよい。また、結束バンド様の締付部材により、パイプと筒状蛇腹部材とをその外周から締め付ける形態であってもよい。
【符号の説明】
【0062】
10…シールド導電体
11…電線
20…シールド部材
21…パイプ
21A…外周面
22…Oリング(シールリング)
30…筒状蛇腹部材
31…開口端
32…本体部
32A…突条部
32B…凹条部
33…シール筒部
34…円筒状接続部
40…導電リング
41…外周面
42…内周面
43…セレーション(凹凸部)
50…かしめリング(締付リング)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線を筒状のシールド部材で包囲してなるシールド導電体であって、
前記シールド部材が、金属製のパイプと金属製の筒状蛇腹部材の端部同士を嵌合させて外周から締付リングにて締め付けた形態とされており、
前記筒状蛇腹部材は、前記パイプの外周に保持される導電リングを介して前記パイプの外周に導電可能に嵌合され、
前記導電リングは前記パイプの外周面に面する内周面と前記筒状蛇腹部材の内周面に面する外周面とを備え、
前記内周面及び前記外周面には、複数の凹凸部が形成されていることを特徴とするシールド導電体。
【請求項2】
前記導電リングは、金属板を円弧状に曲げてなるCリング形状をなすことを特徴とする請求項1に記載のシールド導電体。
【請求項3】
前記複数の凹凸部は、前記導電リングの前記内周面及び前記外周面に、格子状をなす多数の溝を形成することで形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシールド導電体。
【請求項4】
前記筒状蛇腹部材のうち、前記パイプの外周に嵌合される部分には、前記筒状蛇腹部材の開口端から切り込み形成されたスリットが設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のシールド導電体。
【請求項5】
前記筒状蛇腹部材のうち、前記パイプの外周に嵌合される部分には前記導電リングの外周面に沿った円筒状接続部が形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のシールド導電体。
【請求項6】
前記筒状蛇腹部材のうち、前記円筒状接続部に連なる部分には前記円筒状接続部を段付き状に拡開して前記パイプとの間に環状のギャップを形成するシール筒部が設けられ、前記パイプと前記シール筒部との間にはシールリングが配されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載のシールド導電体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−178315(P2012−178315A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41712(P2011−41712)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】