説明

シールド導電路及びシールド導電路の製造方法

【課題】 製造が容易なシールド導電路及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 シールド導電路は、複数本の電線10A,10Bをシールド用の金属パイプ20で一括して包囲した形態であり、ほぼ真っ直ぐの状態の金属パイプ20に複数本の電線10A,10Bを挿通し、電線10A,10Bにおける端子金具13が固着されている前端部を、金属パイプ20の外部へ導出させるとともに、金属パイプ20に対して長さ方向への移動を規制された状態に保持し、その状態で金属パイプ20と複数本の電線10A,10Bを一体的に曲げ加工して製造される。この方法によれば、金属パイプの屈曲部に電線が突き当たることも、電線が金属パイプを傷付けることもない。また、電線10A,10Bの前端部の金属パイプ20からの導出長が変動せずに済む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド導電路及びシールド導電路の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、シールド機能を備えた導電路として、特許文献1に記載されているものがある。この導電路は、シールド機能を有しない複数本の電線を、編組線からなる筒状のシールド部材によって一括して包囲した構成となっている。
【特許文献1】特開2002−313496公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のような導電を自動車のボディのフロア下面に沿って配索する場合、走行中の飛び石等によって電線が傷付けられることが懸念される。この対策として、金属製のパイプの中に電線を挿通させる構造が考えられる。この構造によれば、パイプが、シールド部材としての機能と電線を保護する機能との両機能を兼ね備えるので、部品点数を増やすことなく、電線を確実に保護できる。
【0004】
ところで、シールド機能を備える導電路は、一直線状に配索されることは殆どなく、屈曲した経路に沿って配索されることから、パイプを用いた導電路の場合も、配索経路に沿ってパイプを屈曲させ、その屈曲した形態のパイプ内に電線を挿入することになる。
【0005】
ところが、屈曲させたパイプに電線を挿し込もうとすると、電線の先端部がパイプの内壁の屈曲部に突き当たったときに、電線をそれ以上挿入できなくなる虞があり、また、たとえ電線の先端部が屈曲部を通過できたとしても、挿入する際に屈曲部の内壁面と電線の外周面との間で大きな摺動抵抗が発生するため、電線を屈曲したパイプに挿入する作業は容易ではない。
【0006】
また、パイプの材質選択に際して、軽量化のためにパイプを肉薄のアルミニウム合金製とすることが考えられるが、この場合、屈曲部の内壁に突き当たった電線を無理に押し込もうとすると、電線がパイプの屈曲部を変形させる虞があるため、電線の挿入作業には細心の注意が必要となる。
【0007】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、製造が容易なシールド導電路及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための手段として、請求項1の発明は、複数本の電線をシールド用の金属パイプで一括して包囲した形態であって屈曲した経路のシールド導電路を製造する方法において、前記複数本の電線の端部に端子金具を固着し、ほぼ真っ直ぐの状態の前記金属パイプに前記複数本の電線を挿通し、前記電線における前記端子金具が固着されている側の端部を、前記金属パイプの外部へ導出させるとともに、前記金属パイプに対して長さ方向への移動を規制された状態に保持し、前記金属パイプを、前記複数本の電線を挿通させた状態で曲げ加工するところに特徴を有する。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載のものにおいて、前記金属パイプに複数回の曲げ加工を施すシールド導電路の製造方法であって、前記金属パイプに形成される複数の屈曲部のうち前記端子金具が固着されている側の端部に最も近い位置の屈曲部を、第1回目の曲げ加工で形成し、第1回目の曲げ工程で前記金属パイプに形成される屈曲部を、その屈曲部の内周との摩擦によって前記電線が長さ方向への変位を規制される形態に曲げ加工するところに特徴を有する。
【0010】
請求項3の発明は、複数本の電線をシールド用の金属パイプで一括して包囲した形態であって屈曲した経路のものにおいて、前記金属パイプの外部へ導出されている端部に端子金具が固着された前記複数本の電線を、ほぼ真っ直ぐの状態の前記金属パイプに挿通するとともに、前記電線における前記端子金具が固着されている側の端部を前記金属パイプに対して移動規制した状態で、前記金属パイプが曲げ加工されているところに特徴を有する。
【0011】
請求項4の発明は、請求項3に記載のものにおいて、前記金属パイプに複数回の曲げ加工が施されているシールド導電路であって、前記金属パイプに形成される複数の屈曲部のうち前記端子金具が固着されている側の端部に最も近い位置の屈曲部が、第1回目の曲げ加工で形成されており、第1回目の曲げ工程で前記金属パイプに形成される屈曲部が、その屈曲部の内周との摩擦によって前記電線が長さ方向への変位を規制される形態に曲げ加工されているところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0012】
<請求項1及び請求項3の発明>
ほぼ真っ直ぐの状態の金属パイプに電線を挿通しておき、その金属パイプと電線を一体的に曲げ加工するようにしているので、屈曲されている金属パイプに電線を挿入する方法のように、金属パイプの屈曲部に電線が突き当たることも、電線が金属パイプを傷付けたり変形させたりすることもなく、製造が容易である。
また、金属パイプを曲げる際には、電線に対し曲げ部に向かう引張り力が作用するのであるが、本発明では、電線における端子金具が固着される側の端部を、金属パイプに対して長さ方向への移動を規制された状態に保持するようにしたので、電線の端部が金属パイプ内に引きこまれることがなく、金属パイプからの電線の導出長さを所期の寸法に保つことができる。これにより、金属パイプの端部に組み付けたコネクタ内に端子金具を取り付ける場合などにおいて、端子金具をコネクタ内における正規の位置に組み付けることができる。
【0013】
<請求項2及び請求項4の発明>
金属パイプに形成される複数の屈曲部のうち端子金具が固着される側の端部に最も近い位置の屈曲部を、第1回目の曲げ加工で形成し、その第1回目の曲げ工程で形成した屈曲部において電線の長さ方向への変位を規制しているので、第2回目以降の曲げ工程で電線に引張力が作用しても、電線のうち第1回目の曲げ工程で形成した屈曲部側の領域(即ち、端子金具が固着される側の領域)では、引っ張り方向(電線における端子金具が固着される側の端部が金属パイプへ引き込まれる方向)へ変位することがない。したがって、電線における端子金具が固着される側の端部の金属パイプからの導出長を、所期の寸法に確実に保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<実施形態1>
以下、本発明を具体化した実施形態1を図1乃至図9を参照して説明する。本実施形態のシールド導電路は、シールド機能を有しない6本の電線10A,10Bを、シールド機能と電線10A,10Bの保護機能とを兼ね備えた金属製の金属パイプ20で一括して包囲した形態のものであり、屈曲した経路を構成する。シールド導電路は、後述するように真っ直ぐな状態の金属パイプ20に電線10A,10Bを挿通し、電線10A,10Bが挿通された状態で金属パイプ20に曲げ加工を施すことによって製造される。
【0015】
6本の電線10A,10Bのうち3本は、例えば電気自動車のモータに大電流の電力を供給するための大径電線10Aであり、他の3本は、例えば自動車の電装品(エアコン等)に台形電線10Aよりも小さい電流を供給するための小径電線10Bとなっている。尚、図1〜4、6、7、9においては、小径電線10Bの図示を省略している。大径電線10Aは、円形をなす銅合金製の芯線11Aを架橋ポリエチレン製の円筒形をなす絶縁被覆12Aで包囲したものであって、芯線11Aとして断面積が15平方ミリメートルの太さのものが使用され、絶縁被覆12Aの外径は7.0ミリメートルとされている。小径電線10Bは、円形をなす銅合金製の芯線11Bを架橋ポリエチレン製の円筒形をなす絶縁被覆12Bで包囲したものであり、芯線11Bとして断面積が3平方ミリメートルの太さのものが使用され、絶縁被覆12Bの外径は3.8ミリメートルとされている。
【0016】
尚、本実施形態では、芯線11A,11Bを銅合金製としたが、これに限らず、アルミ合金等の金属材料を芯線11A,11Bとして用いてもよい。また、絶縁被覆12A,12Bを架橋ポリエチレン製としたが、これに限らず、架橋ポリウレタン製の樹脂材料を絶縁被覆12A,12Bとして用いてもよい。また、芯線11A,11Bの断面積と絶縁被覆12A,12Bの外径寸法は、上記以外の数値とすることもできる。
【0017】
これら6本の電線10A,10Bは、図5に示すように、3本の大径電線10Aを俵積み状(三角形をなすように外接した形態)に配置するとともに、大径電線10Aの外周の間に形成される隙間に小径電線10Bを嵌め込むようにすることで、全体として概ね円形をなすように束ねられている。そして、この束ねた電線10A,10Bは、長さ方向に間隔を空けた複数箇所において粘着テープ(図示せず)が巻き付けられることにより、束ねた状態に保たれている。また、3本の大径電線10Aの前端部においては、絶縁被覆12Aを除去して露出させた芯線11Aに、端子金具13が圧着などの方法によって導通可能に固着されている。同様に、3本の小径電線10Bの前端部にも端子金具(図示せず)が固着されている。尚、電線10A,10Bの後端部については、金属パイプ20に曲げ加工を施す前の段階(シールド導電路の製造を開始する前の段階)では端子金具は固着されず、金属パイプ20の曲げ加工が完了した後で電線10A,10Bの後端部に端子金具が固着されるようになっている。
【0018】
金属パイプ20は、アルミ合金製(A3003 H14)であり、肉厚が一定の真円筒状をなす。シールド導電路の製造前の段階では、金属パイプ20は一直線状をなしている。金属パイプ20の外径は、23ミリメートルであり、肉厚は1ミリメートルである。また、金属パイプ20の長さは、電線10A,10Bの全長よりも短い寸法とされている。かかる金属パイプ20の前端部には、外周側へフランジ26が張り出した形態の金属製(例えば、アルミ合金製)のブラケット25が固着されている。尚、本実施形態では、金属パイプ20をアルミ合金製としたが、これに限らず、他の金属材料(例えば、ステンレス)を金属パイプ20として用いてもよい。また、金属パイプ20の外径寸法と肉厚寸法は、上記以外の数値とすることもできる。
【0019】
かかる金属パイプ20は、後述する曲げ加工機により、長さ方向に間隔を空けた5ヶ所において屈曲されており、金属パイプ20における各屈曲部21A,21B,21C,21D,21Eの両側の領域は直線部22a,22b,22c,22d,22e,22fとなっている。金属パイプ20の前端に近い位置には第1屈曲部21Aが形成され、第1屈曲部21Aの後方(図1〜図4における左方)には第2屈曲部21Bが形成され、第2屈曲部21Bの後方には第3屈曲部21Cが形成され、第3屈曲部21Cの後方には第4屈曲部21Dが形成され、第4屈曲部21Dの後方(金属パイプ20の後端部に最も近い位置)には第5屈曲部21Eが形成されている。第1屈曲部21Aにおいては金属パイプ20がほぼ直角に曲げられており、第2〜第5の屈曲部21B,21C,21D,21Eにおいては金属パイプ20が鈍角状に曲げられており、5つの屈曲部21A〜21Eのうち第1屈曲部21Aが最も大きく曲げられている。
【0020】
曲げ加工機は、金属パイプ20の後端部を保持しつつ移動可能なチャック30と、チャック30よりも前方の固定された位置において金属パイプ20を下から支承する受け部材31とを有し、チャック30と受け部材31とにより、金属パイプ20は水平に支持されるようになっている。チャック30が金属パイプ20を保持した状態で移動すると、金属パイプ20は、その長さ方向と平行に前方へ動かされるようになっている。また、曲げ加工機には、受け部材31の近傍で且つ受け部材31よりも前方の位置において金属パイプ20を中心に回転移動可能な2つのアーム(図示せず)が設けられ、一方のアームには、図8に示すように、金属パイプ20の外周と外接可能であり、金属パイプ20の外径とほぼ同曲率の円弧形をなすガイド面33を備えたガイド部材32が固定されている。他方のアームには、ガイド部材32に対して金属パイプ20を挟んで対向する位置関係を保ちつつ、ガイド面33と同心の円弧状経路に沿って移動可能な曲げ治具34が設けられている。この曲げ治具34におけるガイド面33と対向する内面35(金属パイプ20への接触面)は、図8に示すように、金属パイプ20の長さ方向と直角な断面形状が略三角形に凹んだ溝状をなしている。
【0021】
次に、本実施形態のシールド導電路の製造工程を説明する。
まず、各電線10A,10Bの前端部に端子金具13を固着するとともに、6本の電線10A,10Bを図5に示す所定の形態に束ね、テープ(図示せず)を巻き付けることによって束ねた状態に固定する。次に、金属パイプ20が真っ直ぐの状態(曲げ加工される前の状態)で、束ねた電線10A,10Bを、その後端部を先に向けて前方からブラケット25及び金属パイプ20内に挿入する。そして、各電線10A,10Bの前端部(端子金具13が接続されている側の端部)を金属パイプ20(正確にはブラケット25)から前方へ導出させ、その導出長さを所定の長さに調整する。次いで、この長さ調整した電線10A,10Bの前端部からブラケット25に亘ってテープ28を巻き付ける。このとき、テープ28は、ブラケット25だけでなく、金属パイプ20の前端部まで巻き付けてもよい。以上により、電線10A,10Bの前端部と金属パイプ20の前端部とが、電線10A,10Bの長さ方向への相対移動を規制された状態に固定される。
【0022】
この後、金属パイプ20を曲げ加工機にセットし、金属パイプ20の後端部をチャック30で保持するとともに、金属パイプ20の前端部近くを受け部材31に支承させる。このとき、金属パイプ20の前端部、即ち第1屈曲部21Aが形成される部分が、ガイド部材32と曲げ治具34との間に挟まれるように配置される。また、アームが回転することにより、ガイド部材32の円弧状断面のガイド面33が、金属パイプ20の外周に対し第1屈曲部21Aの曲げの内側となる位置に接するとともに、曲げ治具34が、図9に想像線で示すように、金属パイプ20の外周に対し曲げの外側となる位置に接する状態となる。
【0023】
次に、曲げ治具34が、図9に想像線で示す位置から金属パイプ20の前方側に向かってガイド面33に沿いつつ円弧状に(ガイド面33と同心の円弧を描くように)約90°の範囲に亘って図9に実線で示す位置まで水平移動する。この間、曲げ治具34は、その三角溝状の内面35を金属パイプ20の外周に摺接させつつ金属パイプ20を前方へしごくようにガイド面33に向かって押圧し、この曲げ治具34の押圧により、金属パイプ20が電線10A,10Bの束を挿通させた状態でガイド部材32を支点として電線10A,10Bと一緒にほぼ直角に曲げられる。以上により、第1屈曲部21Aが形成され、第1屈曲部21Aの前後両側に連なる2つの直線部22a,22bは、ほぼ90°をなす。
【0024】
このように大きな角度で曲げられた第1屈曲部21Aにおいては、電線10A,10Bは、大きく曲げられることから、芯線11A,11B及び絶縁被覆12A,12Bが有する弾性復元力によって真っ直ぐの状態に戻ろうとする。したがって、図6に示すように、第1屈曲部21Aの前後両側の直線部22a,22bの内周に電線10A,10Bの束が強く押し付けられるとともに、第1屈曲部21Aの内周の曲げの内側となる突起状部分に対して電線10A,10Bの束が強く押し付けられ、この第1屈曲部21Aの突起状部分が電線10A,10Bの接縁被覆に食い込むようになる。これにより、第1屈曲部21Aにおいては、その内周との間の摩擦抵抗と食い込み作用とにより、電線10A,10Bの束が長さ方向へ移動することを規制される。
【0025】
このとき、金属パイプ20内では、電線10A,10Bにおける曲げ加工部(第1屈曲部21A)よりも前方の部分と曲げ加工部よりも後方の部分が、曲げ加工部に向かって引っ張られるのであるが、電線10A,10Bにおける曲げ加工部よりも前方の領域は、テープ28の巻き付けによって金属パイプ20に対する長さ方向への相対変位を規制されているので、曲げ加工部(第1屈曲部21A)に向かって移動するのは、電線10A,10Bのうち曲げ加工部よりも後方の領域だけとなる。したがって、電線10A,10Bの前端部の金属パイプ20からの導出長さが変わることはない。
【0026】
また、金属パイプ20における曲げ加工部(第1屈曲部21A)よりも後方の領域は真っ直ぐの状態であるため、電線10A,10Bにおける曲げ加工部よりも後方の領域が金属パイプ20内で前方へ(曲げ加工部に向かって)移動しても、金属パイプ20の内周と電線10A,10Bの外周との間に生じる摩擦抵抗は小さく、電線10A,10Bの絶縁被覆12A,12Bは、金属パイプ20の内周に擦れても傷付けられる虞はない。
【0027】
さらに、曲げ加工時には、曲げ治具34からガイド部材32側に向かって金属パイプ20に付与される水平方向の押圧力のために、真円の金属パイプ20が上下方向へ延びるように(幅方向に潰れるように)楕円状に変形することが懸念される。しかし、本実施形態では、曲げ治具34の内面35を三角溝状とし、その三角形の溝内に金属パイプ20を嵌め込むことによって金属パイプ20の上下方向への延び変形を阻止しているので、金属パイプ20は、ほぼ真円に近い形状(真円を略楕円状をなすように僅かに潰れ変形させた形状)に保たれる。
【0028】
さて、第1屈曲部21Aの形成が済むと、曲げ治具34が原位置(図9に想像線で示す位置)に復帰移動する。その後、チャック30が前方へ所定距離だけ移動し、金属パイプ20における第2屈曲部21Bと対応する部分が、ガイド部材32と曲げ治具34に挟まれる。そして、第1屈曲部21Aの形成時と同様に、曲げ治具34が円弧状に移動しつつ金属パイプ20をガイド面33側へ押圧することにより、金属パイプ20が電線10A,10Bとともに曲げられ、第2屈曲部21Bが形成される。このときの曲げ治具34の移動領域は、90°よりも小さい角度範囲に留まる。したがって、第2屈曲部21Bは、曲率半径が第1屈曲部21Aとほぼ同じであるが、長さ寸法が第1屈曲部21Aよりも短い。つまり、第2屈曲部21Bの曲げの程度(大きさ)は、第1屈曲部21Aよりも小さく、第2屈曲部21Bの前後両側に連なる直線部22b,22cのなす角度は、90°よりも大きい鈍角となる。
【0029】
この第2屈曲部21Bでは曲げの程度が小さいので、図7に示すように、電線10A,10Bが第2屈曲部21Bの内周に接触してしても、電線10A,10Bの絶縁被覆12A,12Bに対する第2屈曲部21Bの内周の食い込みの程度が小さく、また、電線10A,10Bと第2屈曲部21Bとの間の摩擦抵抗も小さい。したがって、この第2屈曲部21Bにおいては電線10A,10Bの長さ方向の移動が規制されることはない。また、第2屈曲部21Bを形成する工程では、電線10A,10Bに対して曲げ加工部(第2屈曲部21B)に向かう引張力が作用するのであるが、電線10A,10Bにおける第2屈曲部21Bよりも前方の領域、即ち第1屈曲部21Aと直線部22a,22bに挿通されている領域は、第1屈曲部21Aにおいて移動規制されているため、第2屈曲部21B側へ引っ張られて移動するのは、第2屈曲部21Bよりも後方の領域、即ち金属パイプ20が真っ直ぐの部分に挿通されている領域だけとなる。
【0030】
この後は、上記と同様にして第3屈曲部21C、第4屈曲部21D及び第5屈曲部21Eが順に形成される。つまり、金属パイプ20は、その前端側から後端側に向かって順に第1〜第5の屈曲部21A〜21Eが形成されていき、屈曲部21A〜21Eの形成工程が進むのに伴ない、金属パイプ20の前端側が曲げ加工機のガイド部材32及び曲げ治具34よりも前方へ突き出していくことになり、金属パイプ20はその後端側において片持ち状に支持された状態で屈曲部21A〜21Eの曲げ加工が行われる。
【0031】
また、第3屈曲部21C、第4屈曲部21D及び第5屈曲部21Eの曲げの形態は、曲率半径が第1屈曲部21A及び第2屈曲部21Bとほぼ同じであって、長さ寸法が第2屈曲部21Bとほぼ同じである。したがって、第3〜第5の各屈曲部21C,21D,21Eの前後両側に連なる直線部22c,22d,22e,22fは第2屈曲部21Bの両側の直線部22b,22cと同様に鈍角をなす。尚、第1屈曲部21A〜第5屈曲部21Eの曲げの向きは、個々に異なり、曲げの方向も水平に限らず、真上方向、真下方向、斜め上方向、斜め下方向と任意に設定することができる。また、第3〜第5屈曲部21C〜21Eの曲げ加工時には、電線10A,10Bにおける曲げ加工部よりも後方の領域のみが前方へ引っ張られて移動する。
【0032】
以上により、金属パイプ20に第1〜第5の全ての屈曲部21A〜21Eが形成されて、曲げ工程が完了する。この後は、曲げ加工機から金属パイプ20が外され、電線10A,10Bの金属パイプ20から導出されている後端部に対して端子金具(図示せず)が固着される。また、電線10A,10Bの前端部に巻き付けられていたテープ28が外される。そして、金属パイプ20の前端部がブラケット25を介して機器(例えば、電気自動車のインバータ装置やモータなど)のシールドケース(図示せず)に対して導通可能に固定されるとともに、各端子金具13が機器側コネクタの待ち受け端子(図示せず)に接続される。尚、金属パイプ20の後端部も機器のシールドケース(図示せず)に接続されるとともに、電線10A,10Bの後端部に固着した端子金具も機器側コネクタの待ち受け端子(図示せず)に接続される。
【0033】
上述のように本実施形態においては、ほぼ真っ直ぐの状態の金属パイプ20に電線10A,10Bを挿通しておき、その金属パイプ20と電線10A,10Bを一体的に曲げ加工するようにしているので、予め屈曲されている金属パイプに電線を挿入する方法のように、金属パイプの屈曲部に電線が突き当たることも、電線が金属パイプの屈曲部を変形させることもなく、製造が容易である。
【0034】
また、金属パイプ20を曲げる際には、電線10A,10Bに対し曲げ加工部に向かう引張り力が作用するのであるが、本実施形態では、第1回目の曲げ工程で形成した第1屈曲部21Aにおいて電線10A,10Bの長さ方向への変位を規制しているので、第2回目以降の曲げ工程で電線10A,10Bに引張力が作用しても、電線10A,10Bのうち第1回目の曲げ工程で形成した第1屈曲部21A側の領域では、引っ張り方向へ変位することがなく、電線10A,10Bの外周が金属パイプ20の第1屈曲部21Aの内周に擦れて傷付けられることが防止されている。
【0035】
また、本実施形態のように金属パイプ20の前端部から導出される電線10A,10Bの向きと、他方の端部から導出される電線10A,10Bの向きが大きく異なる場合(例えば、直角をなすような場合)において、金属パイプをその長さ方向中央で大きく屈曲させようとすると、金属パイプの配索に必要な領域を長さ方向及び幅方向の両方向において大きく確保しなければならない。これに対し本実施形態では、複数の屈曲部21A〜21Eのうち金属パイプ20の最端部(最も前端に近い位置)に配置されている第1屈曲部21Aを最も大きく曲げたので、金属パイプ20を全体として幅狭の領域(前後方向に細長い領域)内に配索することが可能となっている。
【0036】
また、金属パイプ20を曲げる際には、電線10A,10Bに対し曲げ加工部に向かう引張り力が作用するのであるが、本実施形態では、電線10A,10Bにおける端子金具13が固着されている側の前端部を、テープ28の巻き付けにより金属パイプ20に対して長さ方向への移動を規制された状態に保持するようにしたので、電線10A,10Bの前端部が金属パイプ20内に引きこまれることがなく、金属パイプ20からの電線10A,10Bの前端部の導出長さを所期の寸法に保つことができる。これにより、金属パイプ20の前端部に組み付けられたコネクタ内に端子金具13を取り付ける場合などにおいて、端子金具13をコネクタ内における正規の位置に安定して組み付けることができる。
【0037】
しかも、金属パイプ20に形成される複数の屈曲部21A〜21Eのうち端子金具13が固着されている前端部に最も近い位置の第1屈曲部21Aを、第1回目の曲げ加工で形成し、その第1回目の曲げ工程で形成した第1屈曲部21Aにおいて電線10A,10Bの長さ方向への変位を規制しているので、第2回目以降の曲げ工程で電線10A,10Bに引張力が作用しても、電線10A,10Bのうち第1回目の曲げ工程で形成した第1屈曲部21A側の領域(即ち、端子金具13が固着されている側の領域)では、引っ張り方向(電線10A,10Bの前端部が金属パイプ20へ引き込まれる方向)へ変位することがない。したがって、電線10A,10Bにおける端子金具13が固着されている前端部の金属パイプ20からの導出長を、所期の寸法に確実に保つことができる。
【0038】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施態様も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
(1)上記実施形態では屈曲部の数を5ヶ所としたが、本発明によれば、屈曲部の数は4ヶ所以下でもよく、6ヶ所以上でもよい。
(2)上記実施形態では電線の数を6本としたが、本発明によれば、電線の本数は5本以下、または7本以上でもよい。
(3)上記実施形態では第1回目の曲げ工程で金属パイプに形成される屈曲部を、その屈曲部の内周との摩擦によって電線が長さ方向への変位を規制される形態としたが、本発明によれば、電線の長さ方向の変位を規制する形態の屈曲部は第2回目以降の曲げ加工で形成してもよい。
(4)上記実施形態では電線の長さ方向への変位を規制する形態に曲げ加工される屈曲部を形成したが、本発明によれば、全ての屈曲部において電線の長さ方向への変位が規制されないようにしてもよい。
(5)上記実施形態では複数の屈曲部のうち金属パイプの最端部に配置されている屈曲部を最も大きく曲げたが、本発明によれば、金属パイプの最端部に配置されている屈曲部とは異なる屈曲部の曲げが最大となるようにしてもよい。
(6)上記実施形態では金属パイプの曲げ加工は、金属パイプの一方の端部から他方の端部に向かって順次に行うようにしたが、本発明によれば、曲げ加工の順序は長さ方向に沿って順次に行わなくてもよい。
(7)上記実施形態では電線の端子金具が固着されている側の端部を金属パイプに対して移動規制する手段としてテープを巻き付けるようにしたが、本発明によれば、テープ巻に限らず、クリップで固定したり、作業者が手で掴む等の方法で電線の端部を移動規制してもよい。
(8)上記実施形態では金属パイプの断面形状が真円である場合について説明したが、本発明は、金属パイプの断面形状が真円以外の形状(例えば、楕円形、長円形、角が丸められた方形など)である場合にも適用できる。
(9)上記実施形態では金属パイプがアルミ合金製である場合について説明したが、本発明によれば、金属パイプは、アルミ合金以外の金属材料であってもよい。
(10)上記実施形態では複数の電線を長さ方向に間隔を空けた複数位置においてテープ巻きにより結束したが、本発明によれば、電線をその全長に亘って結束しない形態としてもよい。
(11)上記実施形態では各電線が1つの絶縁被覆内に1本の芯線を埋設した形態であったが、本発明によれば、絶縁被覆の中に複数の芯線を埋設した複合電線を使用してもよい。
(12)上記実施形態では各屈曲部の曲率半径をほぼ一定とし、屈曲部の長さを変えることによって屈曲部の曲げの大きさ(程度)を変えるようにしたが、本発明によれば、屈曲部の長さをほぼ一定とした上で、屈曲部の曲率半径を変えることによって屈曲部の曲げの大きさ(程度)を変えるようにしてもよい。
(13)上記実施形態では金属パイプにおける各屈曲部の両側が直線部となっているが(屈曲部と直線部が交互に配置される形態となっているが)、本発明によれば、屈曲部同士が直線部を介さずに直接連続する形態、即ち、曲率半径の異なる屈曲部が連続する形態や、曲げの異なる屈曲部が連続する形態としてもよい。
(14)上記実施形態では電線がシールド機能を有しないものとしたが、本発明は、電線がシールド機能を有するものであっても適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施形態1のシールド導電路の平面図
【図2】曲げ工程において第1屈曲部を形成した状態をあらわす平面図
【図3】曲げ工程において第2屈曲部を形成した状態をあらわす平面図
【図4】曲げ工程において第5屈曲部を形成した状態をあらわす平面図
【図5】シールド導電路の拡大断面図
【図6】第1屈曲部の断面図
【図7】第3屈曲部の断面図
【図8】曲げ加工機の概略図
【図9】第1屈曲部の曲げ工程をあらわす拡大平面図
【符号の説明】
【0040】
10A,10B…電線
13…端子金具
20…金属パイプ
21A…第1屈曲部
21B…第2屈曲部
21C…第3屈曲部
21D…第4屈曲部
21E…第5屈曲部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の電線をシールド用の金属パイプで一括して包囲した形態であって屈曲した経路のシールド導電路を製造する方法において、
前記複数本の電線の端部に端子金具を固着し、
ほぼ真っ直ぐの状態の前記金属パイプに前記複数本の電線を挿通し、
前記電線における前記端子金具が固着されている側の端部を、前記金属パイプの外部へ導出させるとともに、前記金属パイプに対して長さ方向への移動を規制された状態に保持し、
前記金属パイプを、前記複数本の電線を挿通させた状態で曲げ加工することを特徴とするシールド導電路の製造方法。
【請求項2】
前記金属パイプに複数回の曲げ加工を施すシールド導電路の製造方法であって、
前記金属パイプに形成される複数の屈曲部のうち前記端子金具が固着されている側の端部に最も近い位置の屈曲部を、第1回目の曲げ加工で形成し、
第1回目の曲げ工程で前記金属パイプに形成される屈曲部を、その屈曲部の内周との摩擦によって前記電線が長さ方向への変位を規制される形態に曲げ加工することを特徴とする請求項1記載のシールド導電路の製造方法。
【請求項3】
複数本の電線をシールド用の金属パイプで一括して包囲した形態であって屈曲した経路のものにおいて、
前記金属パイプの外部へ導出されている端部に端子金具が固着された前記複数本の電線を、ほぼ真っ直ぐの状態の前記金属パイプに挿通するとともに、前記電線における前記端子金具が固着されている側の端部を前記金属パイプに対して移動規制した状態で、前記金属パイプが曲げ加工されていることを特徴とするシールド導電路。
【請求項4】
前記金属パイプに複数回の曲げ加工が施されているシールド導電路であって、
前記金属パイプに形成される複数の屈曲部のうち前記端子金具が固着されている側の端部に最も近い位置の屈曲部が、第1回目の曲げ加工で形成されており、
第1回目の曲げ工程で前記金属パイプに形成される屈曲部が、その屈曲部の内周との摩擦によって前記電線が長さ方向への変位を規制される形態に曲げ加工されていることを特徴とする請求項3記載のシールド導電路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−92872(P2006−92872A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−275865(P2004−275865)
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】