説明

シールド掘進機の固形回収システム

【課題】長距離掘進において坑内で固形回収物の回収を行う場合、独立した固形回収台車が不要となり施工性がよく、初期掘進途中から固形回収ができるシールド掘進機の固形回収システムを提供する。
【解決手段】カッタヘッドにより掘進経路にある地山を固形状態で切り出し掘削し、切り出し掘削した固形回収物32を排泥ポンプ22によりチャンバ12内の泥水と共に排泥管24、26、28内を坑内の一次前処理機30まで輸送して一次前処理機30で固形回収物32を排泥管28より取り出し回収するシールド掘進機の固形回収システムであって、一次前処理機30をシールド掘進機と接続した後続台車34上に設置し、最初の排泥ポンプ22と一次前処理機30付近までの間の排泥管26を内壁面に排泥管自体の抵抗を増加させる抵抗部を有する圧力損失増特殊管にて形成して切羽水圧を保持可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド掘進に際して土粒子の骨格構造を地山状態と同様に保持したままの固形状態で切り出し掘削し、その固形状態の土砂を流体輸送して回収するシールド掘進機の固形回収システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、泥水式シールド掘進機によるトンネル掘削においては、カッタビットの回転によって掘削地山の土砂の骨格構造を破壊し、できるだけ土粒子自体の粒径に近い状態として流体輸送により坑外に搬出するようにしている。
【0003】
このような場合、輸送媒体としての液体と掘削土砂の固形分(土粒子)とを分離するため、坑外に大規模な処理施設が必要とされる。
【0004】
特に、粘性土を多く含む地山を掘削する場合、1次処理設備で粗粒分を分級し、2次処理設備でさらに細粒分を分級するという2段階の処理設備が必要となる上に、2次処理された細粒分は産業廃棄物(汚泥)として取り扱われるため、処理設備の大規模化により発進立坑用地が広大化し、処理費用が増大することとなる。
【0005】
そのため、本願出願人は、先に、先行ビット及び後行ビットを備えたカッタヘッドの回転により掘進経路にある地山を固形状態で切り出し掘削し、前記切り出し掘削した固形回収物を、排泥ポンプにより、チャンバ内の泥水と共に排泥管内を輸送して坑外に搬出する固形回収技術を提案した(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−282784号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような固形回収技術においては、長距離掘進を行う場合、管路の摩擦損失に応じた台数の排泥ポンプを設置する必要があり、そのため固形回収物の溶解率が大きく、固形回収物の回収率が減少することとなる。
【0007】
そこで、坑内で固形回収物を回収しようとすると、排泥ポンプの吐出圧力損失が少ない状態で大気開放されるため、切羽水圧を保持できず、排泥ポンプの回転数制御ができない状態となる。
【0008】
そのため、必要な排泥ポンプの吐出圧力損失を得るために排泥ポンプから固形回収位置までの配管延長を行わなければならず、固形回収位置は排泥ポンプから500〜1,000m後方にしなければならなくなる。
【0009】
しかし、このようにすると、通常の後続台車の他に独立した固形回収台車が必要となり施工性が劣ることとなり、また、掘進初期時の固形回収ができず、さらには、高速施工時の同時施工作業が500〜1,000m遅れてしまうこととなるものである。
【0010】
本発明の目的は、長距離掘進において坑内で固形回収物の回収を行う場合、排泥ポンプから固形回収位置までの配管延長が短くても切羽水圧を保持しながら排泥ポンプの回転数制御を行うことができ、独立した固形回収台車が不要となり施工性がよく、初期掘進途中から固形回収ができ、さらには、高速施工時の同時並行が早期に行えるシールド掘進機の固形回収システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため、本発明のシールド掘進機の固形回収システムは、カッタヘッドにより掘進経路にある地山を固形状態で切り出し掘削し、前記切り出し掘削した固形回収物を排泥ポンプによりチャンバ内の泥水と共に排泥管内を坑内の一次前処理機まで輸送して前記一次前処理機で固形回収物を排泥管より取り出し回収するシールド掘進機の固形回収システムであって、
前記一次前処理機をシールド掘進機と接続した後続台車上に設置し、
最初の排泥ポンプと前記一次前処理機付近までの間の排泥管を内壁面に排泥管自体の抵抗を増加させる抵抗部を有する圧力損失増特殊管にて形成して切羽水圧を保持可能にしたことを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、長距離掘進において坑内で固形回収物の回収を行う場合、最初の排泥ポンプと前記一次前処理機までの間の排泥管を内壁面に排泥管自体の抵抗を増加させる抵抗部を有する圧力損失増特殊管にて形成することで、排泥ポンプから固形回収位置までの配管延長が短くても切羽水圧を保持しながら排泥ポンプの回転数制御を行うことができ、そのため一次前処理機を後続台車上に設置することが可能となり、独立した固形回収台車が不要となり施工性がよく、初期掘進途中から固形回収ができ、さらには、高速施工時の同時並行が早期に行えることとなる。
【0013】
本発明においては、前記圧力損失増特殊管は、前記抵抗部を内壁面に沿って螺旋状に連続して突出させた凸部とすることができる。
【0014】
このような構成とすることにより、排泥管自体の抵抗を確実に増加させことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
図1〜図4は、本発明の一実施の形態に係るシールド掘進機の固形回収システムを示す図である。
【0017】
図1は、本実施の形態に係るシールド掘進機の固形回収システムの全体概略図である。
【0018】
このシールド掘進機10においては、泥水をシールド掘進機10内部のチャンバ12に供給して切羽14の安定を図りながら、シールド掘進機10のカッタヘッド16を回転させることにより、地山を掘削し、掘進に伴ってセグメント18を順次継ぎ足し、セグメント18にジャッキで反力を取りながら、カッタヘッド16を回転させて掘削を継続してトンネルを構築するようになっている。
【0019】
チャンバ12に供給される泥水は、地上設備より送泥管20を介して送られるようになっている。
【0020】
カッタヘッド16には図示せぬが地山をほぼ一定の間隔で先行掘削する先行ビットと、この先行掘削した間の部分の地山、すなわち、先行掘削溝の間に掘り残された地山凸部を切り出し掘削する後行ビットとが設けられており、カッタヘッド16が、図示せぬモータにより回転駆動されて掘進経路にある地山を固形状態で切り出し掘削して固形回収可能にするようになっている。
【0021】
カッタヘッド16の回転によって切り出し掘削された固形回収物は、通常、シールド掘進機10による掘進距離が短い場合には、排泥ポンプ及び排泥管によりチャンバ12内の泥水と共に地上の泥水処理設備へと流体輸送され、そこで排泥水に含まれる掘削土砂等の固形分と液体分とが分離(固液分離)され、分離後の液体分は、調整槽で必要な成分調整が行われた後、再度シールド掘進機10へ向け送り出され、送泥水として再利用されるようになっている。
【0022】
ところで、本実施の形態の場合、3000m以上の長距離掘進、例えば8000mの長距離掘進を想定しており、このような長距離掘進においては、長距離輸送に伴う管路の摩擦損失が大きく、そのため摩擦損失に応じた台数の排泥ポンプを設備する必要があり、これに伴って固形回収物の溶解率が大きくなって、固形回収率が低下することとなる。
【0023】
そのため、本実施の形態における固形回収システムでは、カッタヘッド16により掘進経路にある地山を固形状態で切り出し掘削した固形回収物を、排泥ポンプ22によりチャンバ12内の泥水と共に排泥管24、26、28内を坑内の一次前処理機30まで搬送して、一次前処理機30で固形回収物32を排泥管28より取り出し回収するようにしている。
【0024】
この場合、排泥ポンプ22の吐出圧力損失が少ない状態で大気開放されると、切羽水圧を保持できず、排泥ポンプ22の回転数制御ができない状態となるため、必要な吐出圧力損失が得られるように、配管延長を行おうとすると、固形回収位置は排泥ポンプから500〜1,000m後方にしなければならなくなり、通常の後続台車の他に独立した固形回収台車が必要となり施工性が劣り、また、掘進初期時の固形回収ができず、さらには、高速施工時の同時施工作業が500〜1,000m遅れてしまうこととなる。
【0025】
そこで、本実施の形態では、一次前処理機30をシールド掘進機10と接続した後続台車34上に設置し、最初の排泥ポンプ22から一次前処理機30付近までの間の排泥管26を圧力損失増特殊管にて形成することで、短い距離で切羽水圧を保持可能にしている。
【0026】
この圧力損失増特殊管は、図2(A)に示すように、管体36の内壁面に排泥管26自体の抵抗を増加させる抵抗部36を有するものとされている。
【0027】
この抵抗部36は、内壁面に沿って螺旋状に連続して突出させた断面略台形状の凸部とされている。
【0028】
また、圧力損失増特殊管は、例えば、管体36の内径iが250mm、凸部の突出量hが2.5mm〜5mm、幅wが10mm、間隔sが25mm、内壁面の粗さが関係粗度0.01〜0.02とされている。
【0029】
なお、排泥管24、28には、通常使用される排泥管が用いられるようになっている。
【0030】
そして、排泥ポンプ22及び排泥管24、26、28によりチャンバ12内の泥水と共に固形回収物が後続台車34上に設置された一次前処理機30へと排泥管26で切羽水圧を保持するに十分な圧力損失がなされて流体輸送され、そこで大気開放されて固形回収物32が回収され、一次前処理機30から固形回収物32がベルトコンベア40上に落下されてズリトロへと運ばれて地上へと搬送されるようになっている。
【0031】
一方、固形回収物32の除かれた泥水は、一次前処理機30から泥水受槽42へと移され、そこから排泥ポンプ44及び排泥管46により地上設備へと搬送されるようになっている。
【0032】
なお、図示せぬが、泥水受槽42内の泥水は、一部がチャンバ12に循環されるようになっている。
【0033】
このように、本実施の形態では、一次前処理機30をシールド掘進機10と接続した後続台車34上に設置し、最初の排泥ポンプ22から一次前処理機30までの間の排泥管26を圧力損失増特殊管にて形成することで、短い距離で切羽水圧を保持可能にし、独立した固形回収台車が不要となり施工性がよく、初期掘進途中から固形回収ができ、さらには、高速施工時の同時並行が早期に行えることとなる。
【0034】
次に、このような固形回収システムにおいて、切羽水圧が予想最大圧550kPaになったときでも、排泥ポンプ26の制御を可能とするために、チャンバ12から一次前処理機30間で58.2m以上の抵抗損失揚程が必要となる場合を想定して検討を行う。
【0035】
この場合、排泥管24、28として新品鋼管をld、lf区間に使用し、排泥管26として抵抗損失増特殊管をle区間に使用して、排泥ポンプ22から一次前処理機30までの間の配管延長の短縮を図ることとした。
【0036】
本検討における排泥系統の条件を以下に示す。
Hf2s :必要抵抗損失揚程 = 58.2 (m)
d :管内径 = 0.2542(m)
V :管内流速 = 7.88 (m/s)
δ :排泥液比重 = 1.298
ld :新品鋼管使用区間 = 20 (m)
lf :新品鋼管使用区間 = 5 (m)
【0037】
総抵抗損失揚程(Hf2s)の算出
チャンバ12から一次前処理機30までの配管の抵抗損失hfの算出には、以下のDarcy-Weisbachの式を用いる。
【数1】

ここで、hf:配管抵抗損失 (m/m)
λ:管摩擦係数
d:管内径 (m)
V:管内流速(m/s)
g:重力加速度
【0038】
Hanzen-Willamの式を用いた管摩擦係数(λ)の算定
上水道の送配水管路設計に広く用いられているHanzen-Willamの式を用いて管摩擦係数(λ)を算定し、総抵抗損失揚程(Hf2s)を算出する。
【数2】

ここで、λ:管摩擦係数
d:管内径 (m)
V:管内流速(m/s)
C:管内面粗度係数
【0039】
管内面粗度係数(C)の値を、図3に示す管の種類、内壁の状態による係数一覧を参考に、
新品鋼管 = 120
圧力損失増特殊管= 90 とすると、
管摩擦係数(λ)は、
新品鋼管 :λ1 =0.013
圧力損失増特殊管:λ2 =0.022 となる。
【0040】
したがって、各区間の配管抵抗損失(hf)は、
1d区間:新品鋼管使用 λ=λ1=0.013 ∴hfd=0.210(m)
1e区間:圧力損失増特殊管使用 λ=λ2=0.022 ∴hfe=0.358(m)
1f区間:新品鋼管使用 λ=λ1=0.013 ∴hff=0.210(m)
となる。
【0041】
チャンバ12から一次前処理機30の間において、バルブ(相当直管長さ:3.2m)×3個、エルボ(相当直管長さ:3.6m)×4個使用すると仮定すると、チャンバ12から一次前処理機30までの総抵抗損失揚程(Hf2s)は、
Hf2s =(1d×hfd)+(1e×hfe)+(1f×hff)
+(バルブ及びエルボの相当直管長さ)

58.2=(20×0.210)+(1e×0.358)+(5×0.210)
+(3.2×3+3.6×4)
=4.2+(1e×0.358)+1.05+24

28.95=1e×0.358

∴ 1e=80.9
【0042】
したがって、チャンバ12から一次前処理機30の間に圧力損失増特殊管を80.9m布設することにより、切羽水圧が予想最大圧になった場合でも、排泥ポンプ22の制御を可能とする。
【0043】
Moody線図を用いた管摩擦係数λの算定
次に、各実験式や理論式をもとにしてレイノルズ数Rと管摩擦係数λ、及び関係粗度(Relative roughness)との実用的な関係線図を示したMoody線図(図4参照)を用いて、管摩擦係数λを算定する。
【0044】
レイノルズ数(R)の算出
レイノルズ数(R)の算出には、次式を用いる。
【数3】

ここで、R:レイノルズ数
d:管内径 (m)
V:管内流速 (m/s)
v:動粘性係数 (m2/s)
【0045】
15℃での水の動粘性係数は、v=1.15E−06(m2/s)であるから、
【数4】

となる。
【0046】
関係粗度の算出
関係粗度(Relative roughness)は、内壁の粗さを決める基準として、円管内壁にある凸部の平均高さをh、円管内の直径をdとすると、h/dで表される。
【0047】
凸部の平均高さを、新品鋼管 h=0.046(mm)
圧力損失増特殊管 h= 2.5(mm)とすると、
関係粗度は、 新品鋼管 h/d=0.0002
圧力損失増特殊管 h/d= 0.01 となる。
【0048】
管摩擦係数(λ)の算定
上記で求めたレイノルズ数(R)と関係粗度を、図4に示すMoody線図に当てはめると、
管摩擦係数λは、
新品鋼管 :λ1 =0.014
圧力損失増特殊管:λ2 =0.038と算定される。
【0049】
本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々の形態に変更することができる。
【0050】
例えば、前記実施の形態における圧力損失増特殊管における内壁面の抵抗部は、内壁面に沿って連続して突出させた螺旋状のものとなっているが、この例に限らず螺旋状に連続する凹部とすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施の形態に係るシールド掘進機の固形回収システムの全体概略図である。
【図2】(A)は図1の排泥管に用いられる圧力損失増特殊管の拡大側面図、(B)はその部分拡大断面図である。
【図3】管の種類、内壁の状態による係数一覧を示す図である。
【図4】管摩擦係数λの算定に用いるMoody線図である。
【符号の説明】
【0052】
10 シールド掘進機
12 チャンバ
14 切羽
16 カッタヘッド
22 排泥ポンプ
24、26、28 排泥管
30 一次前処理機
32 固形回収物
34 後続台車
38 抵抗部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カッタヘッドにより掘進経路にある地山を固形状態で切り出し掘削し、前記切り出し掘削した固形回収物を排泥ポンプによりチャンバ内の泥水と共に排泥管内を坑内の一次前処理機まで輸送して前記一次前処理機で固形回収物を排泥管より取り出し回収するシールド掘進機の固形回収システムであって、
前記一次前処理機をシールド掘進機と接続した後続台車上に設置し、
最初の排泥ポンプと前記一次前処理機付近までの間の排泥管を内壁面に排泥管自体の抵抗を増加させる抵抗部を有する圧力損失増特殊管にて形成して切羽水圧を保持可能にしたことを特徴とするシールド掘進機の固形回収システム。
【請求項2】
請求項1において、
前記圧力損失増特殊管は、前記抵抗部が内壁面に沿って螺旋状に連続して突出させた凸部とされていることを特徴とするシールド掘進機の固形回収システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−91732(P2009−91732A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−260835(P2007−260835)
【出願日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(000166432)戸田建設株式会社 (328)
【出願人】(000195971)西松建設株式会社 (329)
【出願人】(000150110)株式会社竹中土木 (101)
【出願人】(000149594)株式会社大本組 (40)
【出願人】(591041727)アイサワ工業株式会社 (5)
【出願人】(591075630)株式会社アクティオ (33)
【Fターム(参考)】