説明

シールド電線の接続構造

【課題】シールド導体のほつれ防止と、シールド加締め部での電線固着力の向上を共に確実に図ることができるシールド電線の接続構造を提供する。
【解決手段】シールド電線Wのシールド導体32をシールド加締め部12で加締めて接続するシールド電線Wの接続構造であって、シールド加締め部12には、穴13が設けられていると共に、シールド加締め部12の電線接触面は、穴13の周囲で、且つ、電線引っ張り方向の下流側の領域S1が少なくともローレット加工しないローレット未加工面14であり、他の領域がローレット加工によるローレット加工面15に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド電線のシールド導体をシールド加締め部で加締めて接続するシールド電線の接続構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のシールド電線の接続構造を適用したシールドコネクタが特許文献1に開示されている。このシールドコネクタ50は、図5に示すように、インナーハウジング51と、このインナーハウジング51内に収容された接続端子52と、インナーハウジング51の外周を被うシールドシェル60とを備えている。
【0003】
インナーハウジング51は、所定の誘電率の絶縁体より形成されている。接続端子52は、芯線加締め部53と、相手端子との接続を行う接点部54とを有する。シールドシェル60は、導電性材より形成されている。シールドシェル60は、インナーハウジング51を被うシールド本体61と、このシールド本体61より後方に向かって突出されたシールド加締め部62及び電線加締め部63とを有する。シールド加締め部62には穴64が設けられている。
【0004】
同軸のシールド電線W1は、導体である芯線70と、この芯線70の外周を被う絶縁内皮71と、この絶縁内皮71を被うシールド導体である編組線72と、この編組線72の外周を被う絶縁外皮73とから構成されている。シールド電線W1の端末部では、芯線70と編組線72がそれぞれ露出されている。そして、芯線70は、接続端子52の芯線加締め部53に加締め接続されている。編組線72は、シールドシェル60のシールド加締め部62に加締め接続されている。シールド電線W1は、絶縁外皮73の上からシールドシェル60の電線加締め部63に加締め固定されている。
【0005】
図6(a)に示すように、シールド加締め部62での電線固着力を向上させるには、強い締付け力で加締める必要がある。強い締付け力を作用させると、図6(b)に示すように、絶縁内皮71が極度に圧縮され、芯線70が断線する恐れがある。そのため、シールド加締め部62に作用させる締め付け力には限界がある。
【0006】
また、露出された編組線72は、ほつれ易い。そのため、編組線72のほつれを防止したいという要請もある。
【0007】
そこで、芯線70を断線させずに、シールド加締め部62での電線固着力の向上と編組線72のほつれ防止を図るため、シールド加締め部62を次のような構成とするものがある。
【0008】
つまり、図7及び図8に示すように、シールド加締め部62には、複数の穴64を設ける。そして、シールド加締め部62の導体接触面をローレット加工によってローレット加工面65とする。
【0009】
このように構成すれば、図8に示すように、シールド加締め部62の箇所では、編組線72が加締めによる圧縮力を受けるため、編組線72がシールド加締め部62の各穴64に食い込む。この各穴64のエッジ効果によって、強い締め付け力を作用させなくても、所定以上の電線固着力(電線引っ張り強度)が得られる。又、ローレット加工による凹凸面によって編組線72のほつれが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−49859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前記従来例では、図8に示すように、穴64の周縁にローレット加工面65の凹部65aが位置すると、編組線72の穴64への実質的な食い込み量(係止量)が小さくなり、穴64によるエッジ効果が弱くなる。そのため、編組線72のほつれ防止と、シールド加締め部62での電線固着力(電線引っ張り強度)の向上を共に確実に図ることができない。
【0012】
そこで、本発明は、前記した課題を解決すべくなされたものであり、シールド導体のほつれ防止と、シールド加締め部での電線固着力の向上を共に確実に図ることができるシールド電線の接続構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、シールド電線のシールド導体をシールド加締め部で加締めて接続するシールド電線の接続構造であって、シールド加締め部には、穴が設けられていると共に、シールド加締め部の電線接触面は、穴の周囲で、且つ、電線引っ張り方向の下流側の領域が少なくともローレット加工しないローレット未加工面であり、他の領域がローレット加工によるローレット加工面に形成されていることを特徴とする。
【0014】
前記穴の周囲は、電線引っ張り方向の上流側の領域がローレット加工面であり、電線引っ張り方向の下流側の領域がローレット未加工面とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、シールド導体が凹凸のローレット加工面に密着するため、シールド導体がほつれることがない。又、シールド導体が加締めによる圧縮力を受けるため、シールド導体がシールド加締め部の穴に食い込む。そして、穴の周縁にはローレット加工面の凹部が位置することがないため、穴によるエッジ効果が弱くなることがない。従って、強い締め付け力を作用させなくても、所定以上の電線固着力(電線引っ張り強度)が得られる。以上より、シールド導体のほつれ防止と、シールド加締め部での電線固着力の向上を共に確実に図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態を示し、(a)シールドコネクタの斜視図、(b)はシールド加締め部及び電線加締め部の展開図である。
【図2】本発明の一実施形態を示し、図1のA−A線断面図である。
【図3】本発明の一実施形態を示し、図1の B−B線断面図である。
【図4】本発明の一実施形態の変形例を示し、シールド加締め部及び電線加締め部の展開図である。
【図5】従来例を示し、シールドコネクタの断面図である。
【図6】従来例を示し、(a)はシールド加締め部の断面図、(b)はシールド加締め部内で芯線が断線した状態を示す断面図である。
【図7】従来例を示し、シールド加締め部及び電線加締め部の展開図である。
【図8】従来例を示し、シールド加締め部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
(一実施形態)
図1〜図3は本発明の一実施形態を示す。この実施形態は、本発明に係るシールド電線の接続構造をシールドコネクタ1に適用したものである。図1(a)において、シールドコネクタ1は、インナーハウジング2と、このインナーハウジング2内に収容された接続端子3と、インナーハウジング2の外周を被うシールドシェル10とを備えている。
【0019】
インナーハウジング2は、所定の誘電率の絶縁体より形成されている。接続端子3は、芯線加締め部3aと、相手端子との接続を行う接点部(図示せず)とを有する。
【0020】
シールドシェル10は、導電性材より形成されている。シールドシェル10は、インナーハウジング2の前面及び後面を除いた全域を被う箱状のシールド本体11と、このシールド本体11より後方に向かって延設されたシールド加締め部12及び電線加締め部20とを有する。シールド加締め部12の構成は、下記に詳述する。
【0021】
同軸のシールド電線Wは、導体である芯線30と、この芯線30の外周を被う絶縁内皮31と、この絶縁内皮31を被うシールド導体である編組線32と、この編組線32の外周を被う絶縁外皮33とから構成されている。シールド電線Wの端末部では、絶縁内皮31と絶縁外皮33がそれぞれ所定長さ剥ぎ取られて芯線30と編組線32がそれぞれ露出されている。そして、露出された芯線30は、接続端子3の芯線加締め部3aに加締め接続されている。露出された編組線32は、シールドシェル10のシールド加締め部12に加締め接続されている。シールド電線Wは、絶縁外皮33の上からシールドシェル10の電線加締め部20に加締め固定されている。
【0022】
次に、シールド加締め部12の詳しい構成を説明する。図1(b)に示すように、シールド加締め部12は、底面壁12aとこの底面壁12aの両側端より突設された一対の帯状体12b,12cとから構成されている。シールド加締め部12には、幅方向に沿って一直線上に等間隔で複数の穴13を設けられている。複数の穴13は、底面壁12aに2つ、一方の帯状体12bに2つ形成されている。各穴13は、丸形状である。
【0023】
シールド加締め部12の導体接触面は、各穴13の周囲で、且つ、電線引っ張り方向Pの下流側がローレット加工されないローレット未加工面14とされている。図1(b)では、明確化のため、ローレット未加工面14の領域S1を仮想線で囲んで示す。シールド加締め部12の導体接触面は、各穴13の周囲で、且つ、電線引っ張り方向Pの上流側と、各穴13の周囲より外側の領域がローレット加工されたローレット加工面15に形成されている。ローレット未加工面14は、フラットな面である。ローレット加工面15は、格子状の浅い凹凸面である。
【0024】
図2及び図3に詳しく示すように、シールド加締め部12は、底面壁12a上に配置された編組線32を一対の帯状体12b,12cで包み込むようにして加締めている。一対の帯状体12b,12cは、穴13が形成された側の帯状体12bを内側にし、他方の帯状体12cを外側にして折り畳んでいる。
【0025】
シールド加締め部12の箇所では、編組線32が凹凸のローレット加工面15に密着するため、編組線32がほつれることがない。又、編組線32が加締めによる圧縮力を受けるため、編組線32がシールド加締め部12の各穴13に食い込む。そして、各穴13の電線引っ張り方向の下流側では、各穴13の周縁にローレット加工面15の凹部15a(図3に示す)が位置することがないため、穴13によるエッジ効果が弱くなることがない。従って、強い締め付け力を作用させなくても、所定以上の電線固着力(電線引っ張り強度)が得られる。以上より、編組線32のほつれ防止と、シールド加締め部12での電線固着力の向上を共に確実に図ることができる。
【0026】
ローレット未加工面14の領域S1は、穴13の周縁に臨むようにローレット加工面15の凹部15aが形成されない範囲であれば良い。
【0027】
シールド導体は、編組線32であるが、電磁シールド効果が得られる構造であれば良い。
【0028】
この実施形態では、本発明に係るシールド電線の接続構造をシールドコネクタ1に適用した場合を示したが、シールドコネクタ1以外にも適用できる。つまり、シールド電線Wのシールド導体(編組線32)をシールド加締め部12で加締めて接続する箇所に全て適用可能である。
【0029】
(シールド加締め部の変形例)
図4は、シールド加締め部12Aの変形例を示す。この変形例のシールド加締め部12Aでは、底面壁12aの2つの穴13の周囲で、且つ、電線引っ張り方向Pの下流側がローレット加工されないローレット未加工面14とされている。一方の帯状体12bの2つの穴13の周囲は、全てローレット加工されたローレット加工面15に形成されている。
【0030】
この変形例でも、前記一実施形態とほぼ同様の作用・効果が得られる。
【0031】
また、他の変形例として、各穴の周囲を全てローレット加工されないローレット未加工面とし、各穴の周囲より外側の領域をローレット加工されたローレット加工面に形成しても良い。
【符号の説明】
【0032】
W シールド電線
12,12A シールド加締め部
13 穴
14 ローレット未加工面
15 ローレット加工面
32 編組線(シールド導体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド電線のシールド導体をシールド加締め部で加締めて接続するシールド電線の接続構造であって、
前記シールド加締め部には、穴が設けられていると共に、前記シールド加締め部の電線接触面は、前記穴の周囲で、且つ、電線引っ張り方向の下流側の領域が少なくともローレット加工しないローレット未加工面であり、他の領域がローレット加工によるローレット加工面に形成されていることを特徴とするシールド電線の接続構造。
【請求項2】
請求項1記載のシールド電線の接続構造であって、
前記穴の周囲は、電線引っ張り方向の上流側の領域がローレット加工面に形成され、電線引っ張り方向の下流側の領域がローレット未加工面であることを特徴とするシールド電線(W)の接続構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−62168(P2013−62168A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200420(P2011−200420)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】