説明

シールド電線及びシールド電線のシール方法

【課題】シールド電線を覆う部品を用いることなくシールド電線の内部をシールする。
【解決手段】シールド電線10は、導体11を絶縁性のコア12で包囲し、コア12の外周に筒状をなすシールド用の編組線13を外嵌し、編組線13を絶縁性のシース14で包囲した形態である。シース14には、シース14の外周側から内周側へ連通する切欠部15が形成され、コア12とシース14との隙間には、切欠部15側とシース14の先端部14Fとの間の圧力差により充填剤16が全周に亘って充填されている。この構成によれば、シールド電線10を覆うケース等の部品が不要である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド電線及びシールド電線のシール方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、導体を絶縁性のコアで包囲し、コアの外周に筒状の編組線を外嵌し、編組線を絶縁性のシースで包囲した形態のシールド電線の防水構造が記載されている。この防水構造は、シールド電線の端末部を、シール部材とともに半割のケース内に収容し、シールド電線の端部からコアとシースとの隙間へ浸水することをシール部材で阻止するようになっている。
【特許文献1】特開平11−111361号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来の防水構造では、シールド電線及びシール部材とは別に、シール部材がシールド電線の外周に密着する状態を保つためのケースが必要であったため、部品点数が多くなってコストアップを招く虞があるだけでなく、大型化することも懸念される。
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、シールド電線を覆う部品を用いることなくシールド電線の内部をシールすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の目的を達成するための手段として、請求項1の発明は、導体を絶縁性のコアで包囲し、前記コアの外周に筒状をなすシールド用の編組線を外嵌し、前記編組線を絶縁性のシースで包囲した形態であって、前記シースの端末部から前記コアと前記シースとの隙間へ浸水することを規制したものであって、前記シースには、前記シースの外周側から内周側へ連通する切欠部が形成され、前記コアと前記シースとの隙間には、前記切欠部側と前記シースの前記端末部側との間の圧力差により充填剤が全周に亘って充填されているところに特徴を有する。
請求項2の発明は、請求項1に記載のものにおいて、前記切欠部が、前記シースの全周に亘って連続する形態とされているところに特徴を有する。
【0005】
請求項3の発明は、請求項2に記載のものにおいて、前記充填材が、前記切欠部側から前記シースの前記端末部側に向かって注入されているところに特徴を有する。
【0006】
請求項4の発明は、請求項3に記載のものにおいて、前記編組線のうち前記切欠部において露出する部分が、拡径するように変形した拡径変形部とされており、前記拡径変形部と前記コアとの間に前記充填剤が充填されているところに特徴を有する。
【0007】
請求項5の発明は、導体を絶縁性のコアで包囲し、前記コアの外周に筒状をなすシールド用の編組線を外嵌し、前記編組線を絶縁性のシースで包囲した形態のシールド電線に対し、前記シースの端末部から前記コアと前記シースとの隙間へ浸水することを規制するためのシール方法であって、前記シースに、前記シースの外周側から内周側へ連通する切欠部を形成した上で、前記切欠部側と前記シースの前記端末部側との間の圧力差により、前記コアと前記シースとの隙間に充填剤を全周に亘って充填するところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0008】
<請求項1及び請求項5の発明>
シール用の充填剤は、シースに形成した切欠部側と端末部側との間の圧力差を利用して、コアとシースとの隙間に充填されているので、シールド電線を覆うケース等の部品が不要である。
【0009】
<請求項2の発明>
切欠部がシースの全周に亘って連続しているので、切欠部とシースの端末部との間の圧力差が全周に亘って均一となり、切欠部と端末部との間の充填剤の流れも全周に亘って均一となる。これにより、充填剤を確実に全周に亘って充填することができる。
【0010】
<請求項3の発明>
切欠部を全周に亘って連続する形態とした上で、切欠部を充填剤の注入口としたので、切欠部の開口領域の全体を充填剤で塞ぐことができる。
【0011】
<請求項4の発明>
編組線の拡径変形部とコアとの間に充填された充填剤は、それ自身が有する粘性によって拡径変形部で囲まれた空間内に貯留されるので、切欠部を充分な量の充填剤で埋めることができる。これにより、充填後の未硬化状態の充填剤の一部が、シースとコアの隙間内を切欠部から端末部側に向かって移動しても、切欠部の開口領域を塞いだ状態に保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
<実施形態1>
以下、本発明を具体化した実施形態1を図1乃至図5を参照して説明する。本実施形態のシールド電線10は、図1に示すように、円形断面図の導体11と、この導体11をほぼ全長に亘って包囲する円形断面の絶縁性樹脂からなるコア12と、このコア12に対しほぼ全長に亘って外嵌された円筒状の編組線13と、この編組線13をほぼ全長に亘って包囲する円形断面の絶縁性樹脂からなるシース14とから構成される。
【0013】
導体11の先端部はコア12を除去して剥き出しにされ、この導体11の先端部には周知の形態の接続用端子金具(図示せず)が圧着によって導通可能に接続されている。この接続用端子金具は、図示しない機器のケース内に挿入されて機器側端子金具(図示せず)に接続されている。このケースにおける接続用端子金具の貫通部分は、周知形態のシール手段によって防水が図られている。
【0014】
また、編組線13の先端部は、シース14を除去して剥き出しにされ、この剥き出しにされた編組線13の先端部は、図示は省略するが、円筒状の状態から1本のワイヤ状に纏められており、この纏められた編組線13の先端部には、周知形態のアース用端子金具(図示せず)が圧着により導通可能に接続されている。このアース用端子金具は、図示しない接地部材に対し、導通可能に接続されている。
【0015】
かかるシールド電線10は、シース14の先端部14F(本発明の構成要件である端末部)からコア12とシース14との隙間、即ち編組線13が収容されている円筒状の隙間への浸水を防止するためのシール手段を備えている。以下、その構成を説明する。
シース14には、その先端部14Fに近い位置に対して周方向に沿った切り込みが入れられており、この切り込みによってシース14は、先端部14Fに近い短尺部14Sと、先端部14Fとは反対側の長尺部14Lとに分割されている。短尺部14Sは、先端部14F側へ軸線方向にスライドされ、これにより、シース14における長尺部14Lの先端と短尺部14Sの基端との間には、周方向の溝状をなし、全周に亘って連続し且つ全周に亘って一定幅の切欠部15が形成されている。この切欠部15においては、編組線13が露出する。そして、編組線13の露出部分を外周側へ引っ張り出し、全周に亘って提灯のように拡径変形させる(図2を参照)。この編組線13の拡径変形部13Aは、コア12の外周面から離間しており、コア12の外周と拡径変形部13Aとの間には、充填剤16を貯留することのできる貯留空間13Bが全周に亘って連続する形態で形成されている。この貯留空間13Bと切欠部15は、コア12とシース14との隙間に連通する。また、コア12とシース14との隙間は、シース14の先端部14Fにおいて外部(大気中)に連通している。
【0016】
このようにしてシールド電線10に処理を行った後、シールド電線10には、切欠部15と拡径変形部13Aを全周に亘って覆うハウジング20が組み付けられる。ハウジング20は、上下に分割された略半円形をなす一対の半割部材21を、略円形をなすように合体させて構成される。合体した一対の半割部材21の合せ面は気密が保たれ、ハウジング20の軸線方向における両端部は、シース14の外周面に対して気密状に密着している。これにより、合体状態のハウジング20の内部には、気密状態に保たれた注入空間22が構成される。また、一方の半割部材21に流入口23が形成され、この流入口23には、ポンプ24の下流端から延びる供給路25(変形し難いホース等)の下流端が気密に接続されている。さらに、充填剤16の貯留されているタンク26には、ポンプ24の上流端から延びる吸引路27の上流端が接続されている。ポンプ24、供給路25、タンク26及び吸引路27は、注入空間22内に充填剤16を加圧して供給するための圧送手段を構成する。また、充填剤16は、シリコーンゴムからなる。
【0017】
上記のようにシールド電線10にハウジング20とポンプ24とタンク26を取り付けた後は、ポンプ24を駆動し、タンク26内の液状の充填剤16を加圧した状態で注入空間22内に圧送する。充填剤16の注入量が増大するのに伴ない、注入空間22内の空気は、コア12とシース14の隙間を通り、シース14の先端部14Fにおいて大気中に放出されていく。そして、注入空間22内が充填剤16で満たされると、注入空間22内の充填剤16に作用するポンプ24の加圧力により、切欠部15側とシース14の先端部14F側との間で圧力差が生じ、この圧力差により、注入空間22内の充填剤16がコア12とシース14の短尺部14Sとの隙間に全周に亘って充填される。また、コア12とシース14の短尺部14Sとの隙間は、編組線13が収容されていて液体が流れ難いため、充填剤16の一部は、コア12とシース14の長尺部14Lとの隙間にも全周に亘って流れ込む。そして、所定量の充填剤16がポンプ24から圧送されたら、充填剤16の供給を停止し、充填剤16が硬化するのを待つ。
充填剤16が硬化したら、半割部材21を分離しつつハウジング20をシールド電線10から外す。これにより、コア12とシース14との隙間を充填剤16によって全周に亘ってシールした状態のシールド電線10が出来上がる。
【0018】
上述のように、本実施形態においては、シース14に、シース14の外周側から内周側へ連通する切欠部15を形成し、シール用の充填剤16を、切欠部15とシース14の先端部14Fとの間の圧力差を利用して、コア12とシース14との隙間に充填しているので、シールド電線10を覆うケース等の部品が不要である。
また、切欠部15は、シース14の全周に亘って連続する形態なので、切欠部15とシース14の先端部14Fとの間の圧力差が全周に亘って均一となり、切欠部15と先端部14Fとの間の充填剤16の流れも全周に亘って均一となる。これにより、充填剤16を確実に全周に亘って充填することができる。
また、切欠部15を全周に亘って連続する形態とした上で、切欠部15を充填剤16の注入口とし、充填剤16が切欠部15側から先端部14F側に向かって注入しているので、切欠部15の開口領域の全体を充填剤16で塞ぐことができる。
【0019】
また、本実施形態では、編組線13のうち切欠部15において露出する部分が、拡径するように変形した拡径変形部13Aとされており、この拡径変形部13Aとコア12との間に充填剤16が充填されるようになっている。編組線13の拡径変形部13Aとコア12との間に充填された充填剤16は、それ自身が有する粘性によって拡径変形部13Aで囲まれた空間内に貯留されるので、切欠部15を充分な量の充填剤16で埋めることができる。これにより、充填後の未硬化状態の充填剤16の一部が、シース14とコア12の隙間内を切欠部15から先端部14F側に向かって移動しても、切欠部15の開口領域を塞いだ状態に保つことができる。
【0020】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施態様も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)切欠部は、全周に亘って連続する形態ではなく、周方向におけ一部分のみに開口する形態であってもよい。
(2)充填剤は、切欠部からではなく、シースにおける切欠部とは反対側の端末部から切欠部側に向かって注入してもよい。
(3)切欠部は、軸線方向において離間した複数箇所又は周方向に離間した複数箇所に独立して形成してもよい。
(4)編組線における切欠部から露出した部分は、拡径させず、コアの外周面に接触させたままとしてもよい。
(5)上記実施形態では充填材を加圧することによって切欠部側と端末部側との間に圧力差を生じさせたが、減圧または吸引することによって圧力差を生じさせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施形態1においてシールド電線にシール処理を施す前の状態をあらわす断面図
【図2】シールド電線に対するシール処理において、切欠部から引き出した編組線を拡径変形させた状態をあらわす断面図
【図3】シールド電線に対するシール処理において、シールド電線に対し切欠部を包囲するようにハウジングを組み付けた状態をあらわす断面図
【図4】図3の状態において充填剤を充填した状態をあらわす断面図
【図5】シール処理が施された状態のシールド電線の断面図
【符号の説明】
【0022】
10…シールド電線
11…導体
12…コア
13…編組線
13A…拡径変形部
14…シース
14F…先端部(端末部)
15…切欠部
16…充填剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体を絶縁性のコアで包囲し、前記コアの外周に筒状をなすシールド用の編組線を外嵌し、前記編組線を絶縁性のシースで包囲した形態であって、前記シースの端末部から前記コアと前記シースとの隙間へ浸水することを規制したものであって、
前記シースには、前記シースの外周側から内周側へ連通する切欠部が形成され、
前記コアと前記シースとの隙間には、前記切欠部側と前記シースの前記端末部側との間の圧力差により充填剤が全周に亘って充填されていることを特徴とするシールド電線。
【請求項2】
前記切欠部が、前記シースの全周に亘って連続する形態とされていることを特徴とする請求項1記載のシールド電線。
【請求項3】
前記充填材が、前記切欠部側から前記シースの前記端末部側に向かって注入されていることを特徴とする請求項2記載のシールド電線。
【請求項4】
前記編組線のうち前記切欠部において露出する部分が、拡径するように変形した拡径変形部とされており、
前記拡径変形部と前記コアとの間に前記充填剤が充填されていることを特徴とする請求項3記載のシールド電線。
【請求項5】
導体を絶縁性のコアで包囲し、前記コアの外周に筒状をなすシールド用の編組線を外嵌し、前記編組線を絶縁性のシースで包囲した形態のシールド電線に対し、前記シース端末部から前記コアと前記シースとの隙間へ浸水することを規制するためのシール方法であって、
前記シースに、前記シースの外周側から内周側へ連通する切欠部を形成した上で、
前記切欠部側と前記シースの前記端末部側との間の圧力差により、前記コアと前記シースとの隙間に充填剤を全周に亘って充填することを特徴とするシールド電線のシール方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−226487(P2008−226487A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−58856(P2007−58856)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】