説明

シール材

【課題】多数の板材を貼り合わせる際に使用されるろう材を、該板材の接触部分全体に至らせず、部分的な配置とすることで、動翼と接触する箇所の板材の被切削性を確保し、動翼と接触した際に、該動翼が損傷することを防止できるシール材の提供を目的とする。
【解決手段】複数の板材11・12を互いに厚さ方向に交差するように配置して構成されたシール材10であって、互いに交差する板材11・12の少なくとも一方(板材11)に、他方の板材12が嵌め込まれるスリット14が設けられ、該スリット14は、他方の板材11が密に嵌め込まれる狭小部14Bと、この狭小部14Bより幅広く形成されて、他方の板材12との間に隙間18を有する拡大部14Aとを形成し、前記互いに交差する板材11・12は、全体として複数方向に同一形状を連続させた平面形をなすことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動翼の先端部と分割環との間や、静翼の内側シュラウドと動翼のプラットフォームとの間などのガスタービン用高温ハニカムシールに適用されるシール材の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ガスタービンにおいては、動翼の先端部と分割環との間や、静翼の内側シュラウドと動翼のプラットフォームとの間などに、もれ空気に対して抵抗を与えるガスタービン用高温ハニカムシールが配置されており、このようなハニカムシールを分割環や,静翼に貼りつけ,動翼の先端部等からガスが漏れないようにしている。
このハニカムシールとしては、特許文献1に示されるようなセル状構造物が採用されている。例えば、図9(A)及び(B)に符号1で示されるハニカムシール材は、基材2の上面に熱処理したろう材3により固定されるハニカム構造体であって、このようなハニカム構造体によって、動翼の先端部等が接触したとしても、ハニカムシール材1が削れることで,分割環や静翼の損傷を防ぐようにしている。
【0003】
具体的には、ハニカムシール材1は、図10の平面図に示されるように構成されている。該ハニカムシール材1は、プレス加工により凹凸が交互に形成された薄板材料(板材)4を、凸部同士が密着するようにスポット溶接で仮付けすることで六角形ハニカム形状を形成し、該ハニカムシール材1を、上述した図9に示されるように、ろう材3を介して基材2上に貼り付けることで、シール構造体を構成するものである。
このとき、該ハニカムシール材1と基材2との間のろう材3が、薄板材料4が合わさった隙間(符号5)部分にも毛細管現象により侵入することで,全体の剛性が確保されるようになっている。
なお、図11に示される平面図は、動翼Fがハニカムシール材1上を矢印A方向に横断する様子が示されたものであり、動翼Fの先端部等が該ハニカムシール材1に接触したとしても、ハニカムシール材1側が削れることで,該静翼Fの損傷を防ぐものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4083009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のようなハニカムシール材1では、多数の薄板材料4を貼り合わせた六角形状のハニカム構造であり、六角形の辺が二重に重なった箇所は、二重であるが故に固いのみならず、基材2上にろう付けする際に、二重の薄板材料4の隙間5に沿うように、毛細管現象でろう材3が吸い上げられることで、全体の剛性が確保されるという効果がある。しかしながら、このような高い剛性ために、薄板材料4の被切削性が低下し,動翼Fと接触した際に,動翼Fの方が削れてしまうという問題があった。
【0006】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、多数の薄板材料(板材)4を貼り合わせる際に使用されるろう材3を、該薄板材料4の接触部分全体に至らせず、部分的な配置とすることで、動翼Fと接触する箇所の薄板材料4の被切削性を確保し、動翼Fと接触した際に、該動翼Fが損傷することを防止できるシール材の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。すなわち、本発明では、複数の板材を互いに厚さ方向に交差するように配置して構成されたシール材であって、互いに交差する板材の少なくとも一方に、他方の板材が嵌め込まれるスリットが設けられ、このスリットは、他方の板材が密に嵌め込まれる狭小部と、この狭小部より幅広く形成されて、他方の板材との間に隙間を有する拡大部とを形成し、 前記互いに交差する板材は、全体として複数方向に同一形状を連続させた平面形をなすことを特徴とする。
【0008】
また、本発明のシール材では、前記シール材を前記狭小部の側で基材にろう付けしたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明のシール材では、前記一方側の板材に形成されるスリットを、上部に拡大部を有しかつ下部に狭小部を有するテーパー形状に形成したことを特徴とする。
【0010】
また、本発明のシール材では、前記一方側の板材に形成されるスリットを、上部に同一幅かつ幅広の拡大部を有しかつ下部に同一幅でかつ幅狭の狭小部を有し、かつこれら拡大部と狭小部との間に段部を有する形状に形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、互いに交差する板材の少なくとも一方に、他方の板材が嵌め込まれるスリットを設け、該スリットを、他方の板材が密に嵌め込まれる狭小部と、該狭小部より幅広に形成されて他方の板材が嵌め込まれた場合に該他方の板材との間に隙間を形成する拡大部と、を有する構成としたので、前記板材を基材に固定する場合に、毛細管現象により、他方の板材が密に嵌め込まれるスリットの狭小部にろう材が浸透し、該狭小部にて、一方と他方の双方の板材が固定されることになる。
これにより、他方の板材との間に隙間を有する拡大部においては、双方の板材の動きが規制されず、その結果、例えば、動翼の先端部と分割環との間に、本発明のシール材を設置した場合において、動翼と接触する箇所の該板材の被切削性を確保することができ、動翼と接触した場合であっても、該動翼が損傷することを防止できる効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例1を示すシール材の斜視図。
【図2】実施例1のシール材と動翼との位置関係を示す平面図。
【図3】本発明の実施例2を示すシール材の斜視図。
【図4】本発明が適用されたシール材の具体例1。
【図5】本発明が適用されたシール材の具体例2。
【図6】本発明が適用されたシール材の具体例3。
【図7】本発明が適用されたシール材の具体例4。
【図8】図4〜図7のシール材に本発明を適用する場合の実例を示す斜視図。
【図9】(A)シール材と基材との位置関係を示す斜視図、(B)上記(A)の正面図。
【図10】従来のシール材を示す平面図。
【図11】シール材上を移動する動翼を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0013】
本発明の実施例1について図1及び図2を参照して説明する。図1に符号10で示すものは実施例1に係わるシール材であって、互いに厚さ方向に交差するように配置された複数の板材11・12によって、全体として平面形に構成されている。
【0014】
図1中、下側に位置する板材11は、その下部がろう付けによって基材(図9に示される基材2)に固定される一方側の板部材である。
この板材11は、板材本体13の上部であり、かつ該板材本体13の長さ方向に沿って一定の間隔をおいて、下部に向けて漸次幅が縮小されるテーパー状の間隙を有するスリット14が複数配置され形成されたものである。そして、このような構成により、各スリット14の上部は幅広の拡大部14Aが形成され、かつ該スリット14の下部は、他方の板材12が密に嵌め込まれる幅狭の狭小部14Bが形成されている。また、このスリット14は板材本体13の上側途中まで形成され、その下方は、もう他方の板材12が嵌め込まれる嵌合面15(後述する)となっている。
【0015】
図1中、上側に位置する板材12は、板材本体16の下部に、全体として四角形状となる幅狭のスリット17が形成された他方側の板部材であって、該スリット17は、前記板材11のスリット14と同一のピッチで複数配置されている。また、これらスリット17は、板材本体16の下側に凹状に形成され、一方側の板材11に嵌め込まれた場合に、スリット14の狭小部14B、及び該スリット14の下方に位置する嵌合面15に嵌合されるようになっている。
【0016】
そして、このように構成されたシール材10では、板材11・12のそれぞれに形成されたスリット14とスリット17とを互いに嵌め込むことで、他方側の板材12のスリット17が、板材11のスリット14の狭小部14Bに嵌め合わされるとともに、該スリット17の下方の嵌合面15に密着される。一方、該板材11のスリット14の拡大部14A内においては、該板材11と、該板材12の上部(符号12Aで示す)との間で、隙間18が形成されることになる。
その結果、シール材10の板材11を基材(図9に示される基材2)に固定する場合に、毛細管現象により、他方の板材12と、板材11のスリット14の狭小部14B及び該板材11の嵌合面15との間の微小な隙間内にろう材が浸透し、当該隙間のろう材によって、一方と他方の双方の板材11・12が固定されることになる。
これにより、他方の板材12との間に隙間18を有する板材11のスリット14の拡大部14Aにおいては、板材11・12の動きは規制されず、その結果、例えば、動翼の先端部と分割環との間に、当該シール材10を設置した場合に、動翼と接触する箇所の該板材11・12の被切削性を確保することができる。
【0017】
なお、上述した板材11及び板材12では、例えば、図2に示すように、板材11及び12を格子状に配置することによって、全体として複数方向に同一形状を連続させたハニカム構造のシール材10を構成することができる。そして、このとき、シール材10を、動翼Fの移動方向(矢印Aで示す)に対し,板材11・12を斜めとする配置とすることで、該板材11・12に対する動翼Fの接触を漸次行うようにし、これによって動翼Fと板材11・12とが同時に接触する面積を小さくして、該動翼Fが減耗を最小限に防止することができる。なお、図2では、板材11・12の交差角度が直角となるようにしているが、交差角度は直角に限定されず、板材11・12が傾斜するように配置しても良い。
【0018】
以上詳細に説明したように本発明の実施例1に示されるシール材10では、互いに交差する板材11・12の少なくとも一方の板材11に、他方の板材12が嵌め込まれるスリット14を設け、該スリット14を、他方の板材12が密に嵌め込まれる狭小部14Bと、該狭小部14Bより幅広に形成されて他方の板材12が嵌め込まれた場合に該他方の板材12との間に隙間18を形成する拡大部14Aと、を有する構成としたので、該シール材10を基材に固定する場合に、毛細管現象により、一方の板材11に他方の板材12が密に嵌め込まれるスリット14の狭小部14Bにろう材が浸透し、該狭小部14Bにて、一方と他方の双方の板材11・12が固定されることになる。これにより、他方の板材12との間に隙間18を有する一方の板材11の拡大部14Aにおいては、双方の板材11・12の動きは規制されず、その結果、例えば、動翼Fの先端部と分割環との間に、本発明のシール材を設置した場合において、動翼Fと接触する箇所の該板材の被切削性を確保することができ、動翼Fと接触した場合であっても、該動翼Fが損傷することを防止できる効果が得られる。
【実施例2】
【0019】
本発明の実施例2について図3を参照して説明する。実施例2は、実施例1と構成を同じくする箇所に同一符号を付し、重複した説明を省略する。
実施例2のシール材20において、実施例1と構成を異にするのは、一方側の板材11に形成されたスリット21の形状である。すなわち、実施例1のスリット14では、下部に向けて漸次幅が縮小されるテーパー状の間隙を有する形状とし、各スリット14の上部を幅広の拡大部14A、該スリット14の下部を幅狭の狭小部14Bとしたが、実施例2のスリット21では、このようなテーパー形状とせず段部を有する形状としている。
【0020】
すなわち、実施例2のスリット21では、上部に、他方の板材12が嵌め込まれた場合に該板材12との間に隙間22を形成する幅広の拡大部21Aが形成され、下部に、他方の板材12のスリット17に丁度嵌合される幅狭の狭小部21Bが形成されている。これらスリット21の拡大部21A及び狭小部21Bは、それぞれ傾斜せず同一の幅を有するように形成され、これら拡大部21Aと狭小部21Bとの間は、段部21Cが形成されている。
【0021】
そして、このように構成されたシール材20では、板材11・12のそれぞれに形成されたスリット21とスリット17とを互いに嵌め込むことで、他方側の板材12のスリット17が、板材11のスリット21の狭小部21Bに嵌め合わさるとともに、該板材11のスリット21の下方に位置する嵌合面15に密着される。一方、該板材11のスリット21の拡大部21A内においては、該板材11と、前記板材12の上部(符号12Aで示す)との間で、隙間22が形成されることになる。
その結果、シール材20の板材11を基材(図9に示される基材2)に固定する場合に、毛細管現象により、他方の板材12と、板材11のスリット21の狭小部21B及び嵌合面15との間の微小な隙間にろう材が浸透し、当該隙間のろう材によって、双方の板材11・12が固定されることになる。
これにより、他方の板材12との間に隙間22を有する板材11のスリット21の拡大部21Aにおいては、板材11・12の動きは規制されず、その結果、例えば、動翼の先端部と分割環との間に、当該シール材20を設置した場合において、動翼と接触する箇所の該板材の被切削性を確保することができる。
【0022】
なお、上記実施例1及び2のシール材10・20は、図2に示すような、板材11及び12を格子状に設置したハニカムシール材に適用できる他、図4〜図7に示すような、板材11・12の交差重なり部(符号Cで示す)を有するハニカムシール材にも適用しても良い。そして、この場合、板材11・12の交差重なり部Cにおいて、例えば、他方側の板材12を図8に示すように曲折させ、その曲折部30にて、板材11のスリット14又は21に嵌合されるスリット17を形成しても良いが、その嵌合方式は特に限定されるものではない。
【0023】
なお、図4〜図7において、図4に示すハニカムシール材は、板材11・12により構成されるシール材10又は20のセルが。平面視、菱形に形成され、その頂部を面取りすることで、交差重なり部Cを形成したものである。また、図4に示すハニカムシール材では、菱形の短辺の対角線に沿う矢印A方向に、動翼が移動するように設置されている。
図5に示すハニカムシール材は、図4と同様の交差重なり部Cを有し、板材11・12により構成されるシール材10又は20のセルが、平面視、ほぼ正方形に形成され、かつその対角線に沿う矢印A方向に、動翼が移動するようにした例である。
図6に示すハニカムシール材は、図4と同様の交差重なり部Cを有し、板材11・12により構成されるシール材10又は20のセルが、平面視、菱形に形成され、かつ菱形の長辺の対角線に沿うに沿う矢印A方向に、動翼が移動するようにした例である。
図7は、板材11・12を波型にし、波の頂部が合わさる箇所に、図4と同様の交差重なり部Cを形成したものである。
【0024】
なお、上記実施例では、板材11・12のスリット14・17・21の嵌合長さをどの程度とするかは適宜設定可能である。例えば、板材11のスリット14・21の長さを、板材本体13の幅方向半分程度とし、かつこれに合わせて板材12のスリット17の長さを調整しても良い。
【0025】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、動翼の先端部と分割環との間や、静翼の内側シュラウドと動翼のプラットフォームとの間などのガスタービン用高温ハニカムシールに適用されるシール材に関する。
【符号の説明】
【0027】
10 シール材
11 板材
12 板材
14 スリット
14A 拡大部
14B 狭小部
17 スリット
18 隙間
20 シール材
21 スリット
21A 拡大部
21B 狭小部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の板材を互いに厚さ方向に交差するように配置して構成されたシール材であって、
互いに交差する板材の少なくとも一方に、他方の板材が嵌め込まれるスリットが設けられ、
このスリットは、他方の板材が密に嵌め込まれる狭小部と、この狭小部より幅広く形成されて、他方の板材との間に隙間を有する拡大部とを形成し、
前記互いに交差する板材は、全体として複数方向に同一形状を連続させた平面形をなすことを特徴とするシール材。
【請求項2】
前記シール材を前記狭小部の側で基材にろう付けしたことを特徴とする請求項1のシール材。
【請求項3】
前記一方側の板材に形成されるスリットを、上部に拡大部を有しかつ下部に狭小部を有するテーパー形状に形成したことを特徴とする請求項1又は2のいずれか1項に記載のシール材。
【請求項4】
前記一方側の板材に形成されるスリットを、上部に同一幅かつ幅広の拡大部を有しかつ下部に同一幅でかつ幅狭の狭小部を有し、かつこれら拡大部と狭小部との間に段部を有する形状に形成したことを特徴とする請求項1又は2のいずれか1項に記載のシール材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−196797(P2010−196797A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−42496(P2009−42496)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】