説明

シール構造

【課題】シール部材を備えるカバー部材の加工公差が、シール部材の回転軸に対する締代に影響することを少なくして、シール性の維持を図るようにしたシール構造を提供する。
【解決手段】カバー部材5と、該カバー部材5に貫装された回転軸7との間における当該貫装部分52のシール構造であって、前記回転軸7にはシール部材8が相対回転可能に嵌装され、該シール部材8と前記貫装部分52におけるカバー部材5との間には、シール部材8に同心的に外嵌一体とされた金属環9が介在されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カバー部材と、該カバー部材に貫装された回転軸との間における当該貫装部分、例えば、自動車用エンジンのチェーンカバー(フロントカバー)におけるクランクシャフトの貫装部分のシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用エンジンにおいて、エンジン本体(クランク室)内に回転自在に支持されたクランクシャフトは、その端部において、オイルシールを介してエンジンオイル等の漏出を防止すべくエンジン本体との間が密封されるよう構成される(特許文献1乃至3参照)。また、クランクシャフトの一端部がクランク室より突出し、チェーンカバーによって区画されたチェーン室内において、クランクスプロケットが固着一体とされ、該クランクスプロケットにはチェーン(タイミングチェーン)が巻き掛けられ、カムシャフト等との駆動伝達系が形成されるよう構成される。そして、クランクシャフトの前記一端部は、更に前記チェーンカバーを貫通して外部に突出し、クランクプーリー等を介して他の駆動伝達系に連結されるよう構成されることもある(特許文献4参照)。そして、エンジンのチェーンカバー内には、チェーン機構による前記駆動伝達系の円滑性を維持する為に潤滑オイルが装填される。その為、クランクシャフトのチェーンカバーにおける貫装部分には、オイルシールからなるシール部材がクランクシャフトと相対回転可能に嵌装され、チェーンカバー内の潤滑オイルの外部漏出の防止が図られている。オイルシールは、ゴム等の弾性体からなるリップ部を有し、該リップ部が前記嵌装状態でクランクシャフトの周体に弾性摺接することによって、この摺接部分のシール性を維持するよう構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平05−71542号公報
【特許文献2】実開平05−96537号公報
【特許文献3】特開平09−300399号公報
【特許文献4】特開平09−13988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献4に開示されたようなチェーンカバーは、通常、剛性があり、熱膨張の少ないアルミニウム等の金属材(例えば、アルミニウムの鋳造品)によって形成されている。そして、チェーンカバーにおけるクランクシャフトの前記貫装部分には透孔が開設され、該透孔にオイルシールからなるシール部材が取付けられる。このようなチェーンカバーのシリンダブロック及びシリンダヘッドの前側部に対する締結合体は、先ず、クランクシャフトにオイルシールを嵌装し、該前側部に突設された位置決ピンと、チェーンカバーに設けられた位置決孔とにより位置合せした上で、ボルトを締結することによりなされる。
【0005】
而して、前記チェーンカバーは、作製過程で加工公差が生じることは不可避であり、その為、位置決ピン及び位置決孔により位置合せをしても、オイルシールとクランクシャフトとの間にこの加工公差に基づく心ずれが生じる。しかも、チェーンカバーのように広い領域を覆うものにおいては、加工公差の程度がわずかであっても、斯かる心ずれの程度に大きく影響する。このような心ずれが生じた状態で前記締結を行うと、前記リップ部のクランクシャフトに対する締代がクランクシャフトの周方向で偏りを生じた状態となり、これがシール性を低下させる一要因となることがある。特に、チェーンカバーが剛性のある金属材によって形成されているから、前記心ずれは、リップ部で直接的に吸収され、これが前記締代の偏りとなって現れることになる。
【0006】
特許文献1には、エンジン本体に取付けられる樹脂リテーナに対し、樹脂製の補強環に一体とされたオイルシール(リップ部材)を、該補強環を介して着脱自在に取付け、オイルシールをクランクシャフトに嵌装させるようにした密封装置が開示されている。ここで、リテーナ及び補強環を共に樹脂製としたのは軽量化を実現する為とされている。しかし、このリテーナは、クランクシャフト周りの限られた大きさのものであるから、リテーナの加工公差がオイルシールの締代に影響することは少ないと考えられる。
【0007】
また、特許文献2には、エンジンの後部に取付けられたリアエンドプレート及びフライホイルハウジングのいずれかからなるエンジン後部連結部材をオイルシール支持部材とし、このオイルシール支持部材の内周壁部にクランクシャフトの周面に臨むオイルシールを装着したオイルシール構造が開示されている。しかし、このオイルシール構造においても、オイルシール支持部材となるリアエンドプレート及びフライホイルハウジングの加工公差がオイルシールの締代に少なからず影響することは予想されるところであり、本特許文献では、この加工公差の締代に対する影響を回避する方策について、特に言及されておらず、この課題はなお未解決であると解される。
【0008】
更に、特許文献3には、クランクケースとトランスミッションケースとの間に配置され、クランケースから突出するクランクシャフトに装着されて、オイルパン内のエンジンオイルの外部への漏出を防止するオイルシールケースが開示されている。このオイルシールケースは、内部に環状の芯金を埋め込んだ弾性部材と、芯金の円板状突部の外周部分をこれを覆う弾性部材と共に埋設一体とする合成樹脂部材(枠体)とからなり、該オイルシールケースは、前記弾性部材の内周部がクランクシャフトの外周面に摺接するよう、前記合成樹脂部材をして、クランクケース又はトランスミッションケースに取付けられる。しかし、この場合も枠体としての合成樹脂部材は、クランクシャフト周りの限られた大きさのものであるから、その加工公差がオイルシールの締代に影響することは少ないと考えられる。
【0009】
本発明は、上記の実情に鑑みなされたものであり、シール部材を備えるカバー部材の加工公差が、シール部材の回転軸に対する締代に影響することを少なくして、シール性の維持を図るようにしたシール構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るシール構造は、カバー部材と、該カバー部材に貫装された回転軸との間における当該貫装部分のシール構造であって、前記回転軸にはシール部材が相対回転可能に嵌装され、該シール部材と前記貫装部分におけるカバー部材との間には、シール部材に同心的に外嵌一体とされた金属環が介在されていることを特徴とする。
【0011】
本発明に係るシール構造においては、前記金属環の外周に環状弾性緩衝部材を固着し、該弾性環状部材を該連結環を介してカバー部材に結合するようにしても良い。この場合、前記連結環の内周部に周溝を形成し、前記弾性環状部材を、該周溝内に周壁に沿って径方向に弾性摺接可能に収容するよう構成しても良い。更に、本発明に係るシール構造を、前記カバー部材が、潤滑オイルが存在する部位を覆うものであって、前記シール部材がオイルシールであるシール構造に適用しても良い。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るシール構造においては、カバー部材と、該カバー部材に貫装された回転軸との間に、シール部材が回転軸に対して相対回転可能に嵌装されているから、このシール部材によってカバー部材と回転軸との間がシールされ、カバー部材によって形成される空間内に存在する潤滑オイル等が、回転軸の周面に沿って漏出することが防止される。そして、該シール部材と前記貫装部分におけるカバー部材との間には、シール部材に同心的に外嵌一体とされた金属環が介在されているから、カバー部材を所定の部位に取付ける際、先ず、シール部材を回転軸に嵌装した段階で、金属環及びシール部材と回転軸との同心的な嵌装関係が自ずと定まる。従って、この嵌装関係をカバー部材の取付基準とすれば、カバー部材に加工公差があっても、シール部材の回転軸に対する締代を所期の設計どおりに維持した状態でカバー部材を取付固定することができ、締代の偏りによってシール部材のシール性が低下するようなことがない。
【0013】
本発明において、前記金属環の外周に環状弾性緩衝部材を固着した場合、金属環とカバー部材との間に弾性緩衝部材が介在することになるから、運転中のカバー部材の振動がこの弾性緩衝部材で吸収され、前記締代の経時的な変化も抑制することができる。この場合、弾性環状部材を該連結環を介してカバー部材に結合するようにしているから、連結環に対して弾性緩衝部材を結合した上で、カバー部材の所定部位、即ち、前記貫装部分に取付けるようにすれば、本シール構造を簡易に構成することができる。更に、前記連結環の内周部に周溝を形成し、前記弾性環状部材を、該周溝内に周壁に沿って径方向に弾性摺接可能に収容するよう構成した場合、弾性環状部材の弾性特性と周溝内での径方向の弾性摺接とが相俟って、前記振動による締代の経時的変化の抑制作用がより顕著となる。
【0014】
また、本発明のシール構造を、前記カバー部材が、潤滑オイルが存在する部位を覆うものであって、前記シール部材がオイルシールであるシール構造に適用した場合、前述のとおり、カバー部材の加工公差が、オイルシールの回転軸に対する締代に影響せず、オイルシールのシール性能が維持され、カバー部材によって覆われた部位に存在する潤滑オイルの前記貫装部分からの漏出防止が的確になされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のシール構造が採用されたエンジンの概略的外観正面図である。
【図2】図1におけるX−X線矢視拡大断面図である。
【図3】他の実施形態の断面図である。
【図4】更に他の実施形態の断面図である。
【図5】更に他の実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態について図面に基づいて説明する。図1のエンジン1は、シリンダブロック2と、該シリンダブロック2の上面に締結合体されるシリンダヘッド3と、シリンダブロック2の下面に締結合体されるオイルパン4と、縦方向に合体されたシリンダブロック2、シリンダヘッド3及びオイルパン4の前側部にこれらの合体方向と直交する方向よりこれらに跨るよう締結合体されるアルミニウム等の金属材(例えば、アルミニウムの鋳造品)からなるチェーンカバー(フロントカバー)5と、シリンダヘッド3及びチェーンカバー5の上端面に両者に跨るよう締結合体されるシリンダヘッドカバー(ロッカーカバー)6とより構成される。エンジンの仕様によっては、ベルト(タイミングベルト)によって前記駆動伝達系が構成される場合があり、この場合は、チェーンカバー5はベルトカバーと称される。
【0017】
シリンダブロック2の下部は前記オイルパン4の上部空間と通じるクランク室(図示省略)とされ、該クランク室内にクランクシャフト(回転軸)7が回転自在に横架されている。該クランクシャフト7の一端部71は、シリンダブロック2の前側部よりチェーンカバー5内を貫きチェーンカバー5の外面に突出している。クランクシャフト7には、チェーンカバー5で区画されるチェーン室(飛散した潤滑オイルが存在する部位)50内において、不図示のチェーンプーリー(クランクスプロケット)が装着され、チェーン室50内に配設されるカムシャフト用プーリー(不図示)等との間にタイミングチェーン(不図示)が掛け渡されてカムシャフト等への駆動伝達系が構成される。また、クランクシャフト7の一端部71は、チェーンカバー5に形成された貫通孔51(図2参照)より突出し、該一端部71には、不図示の補機類等との駆動伝達系を構成する為のプーリー(不図示)が装着される。該貫通孔51によって、後記する貫装部分52が構成される。クランクシャフト7の他端部72は、シリンダブロック2の後側部より突出し、該他端部72には不図示のフライホイールが装着される。
尚、図例では、クランクシャフト7を概念的に示しているが、不図示のクランクアーム及びコンロッドを介して各ピストンに連結されるものであることは言うまでもない。
【0018】
前記クランクシャフト7のチェーンカバー5に対する貫装部分52の構造について詳述する。図2において、貫装部分52におけるクランクシャフト7の周体にはシール部材としてのオイルシール(シールリング)8が嵌装されている。該オイルシール8としては、従来公知の汎用品が採用可能であり、その詳細構造の説明は割愛するが、環状の芯金にゴム等の弾性体からなるリップ部材を固着一体に備え、該リップ部材は少なくともクランクシャフト7の周体に弾性摺接するリップを含み、この弾性摺接により油密構造を構成するものである。オイルシール8の外周部には、金属環9が同心的に外嵌一体とされている。更に、該金属環9の外周部にはゴム等の弾性体からなる環状の弾性緩衝部材10が固着一体とされている。弾性緩衝部材10の金属環9に対する一体化は、ゴムの加硫接着、或いは接着剤を介してなされる。金属環9の外周部には凹凸部9aが形成され、この凹凸部9aにおける前記ゴム材の噛合一体によって、金属環9と弾性緩衝部材10との固着強度が高められている。金属環9を構成する金属材としては、剛性に富んでいることが望ましく、具体的には、鉄鋼、SUS304,SUS316,SUS430等のステンレス、アルミニウム合金等が望ましく採用される。
【0019】
前記弾性緩衝部材10の外周部には、金属板或いは合成樹脂の成型体からなる連結環(図例は金属製)11が固着一体とされ、この連結環11を介して、前記弾性緩衝部材10、金属環9及びオイルシール8がチェーンカバー5の貫装部分52に取付けられている。弾性緩衝部材10と連結環11との固着一体は、例えば、金属材により事前に形成された連結環11に対してゴム材を加硫成型することによってなされる。両者の固着強度を強化する為、図例では、連結環11の内周部近傍に周方向に沿って適宜間隔で透孔11aを形成し、ゴム材の成型時に該透孔11a内にゴム材を進入させ、この進入部分でアンカー効果を持たせるようにしている。弾性緩衝部材10を構成するゴム材としては、NBR、ACM、FKM、H−NBR、AEM等が望ましく採用される。また、連結環11のチェーンカバー5に対する固着は、チェーンカバー5の内面における貫通孔51の周辺部に周方向に適宜間隔で突設されたピン51b…と、連結環11の対応部位に形成されたピン孔11bとのリベット溶接及び接面間の溶接によってなされている。
尚、連結環11としては、アルミニウム等の金属板製のものが用いられるが、軽量化の観点から、合成樹脂の成型体によるものも採用可能である。
【0020】
前記のように、金属環9、弾性緩衝部材10及び連結環11を介しオイルシール8が取付けられたチェーンカバー5を、図1に示すようなエンジン1の所定部位に締結合体させる場合、オイルシール8をクランクシャフト7に嵌装した上で、ボルト5a…を締結する。チェーンカバー5の周囲には鍔部5bが形成されており、ボルト5aによる締結合体は、この鍔部5bにおいてなされる。チェーンカバー5を締結合体することにより、シリンダブロック2及びシリンダヘッド3の前側部との間にチェーン室50が形成され、該チェーン室50には飛散した潤滑オイル(不図示)が存在している。
【0021】
そして、金属環9がオイルシール8に同心的に外嵌一体とされているから、チェーンカバー5を前記のとおり所定の部位に取付ける際、オイルシール8をクランクシャフト7に嵌装した段階で、金属環9及びオイルシール8とクランクシャフト7との同心的な嵌装関係が自ずと定まる。従って、チェーンカバー5を締結させる為のボルト挿通孔(不図示)の径を、前記ボルト5aを遊挿し得る大きさとしておけば、チェーンカバー5に加工公差等があっても、この嵌装関係をチェーンカバー5の取付基準とした上で、ボルト5aを締結することにより、オイルシール8のクランクシャフト7に対する締代を、偏りを生じさせず所期の設計どおりに維持した状態でチェーンカバー5を取付固定することができる。これによってオイルシール8とクランクシャフト7との間のシール性が安定的に発現される。また、金属環9とチェーンカバー5との間に弾性緩衝部材10が存在することとも相俟って、エンジン1の運転中の振動等によってチェーンカバー5に相対移動があっても、この相対移動のオイルシール8に対する伝播がより効果的に遮断される。従って、オイルシール8によるシール性が経時的に低下することもない。
【0022】
図3に示す例では、前記と同様に、オイルシール8の外周部に金属環10が固着一体とされ、更に、金属環10の外周部には環状の弾性緩衝部材10が固着一体とされている。該弾性緩衝部材10の外周部には、金属板或いは合成樹脂の成型体からなる連結環(図例は金属製)11が、前記と同様の透孔11aによるアンカー部分も含んで固着一体とされている。弾性緩衝部材10は軟質ゴムによる環状の成型体からなり、内周側の金属環9との固着部分及び外周側の連結環11との固着部分の間に、断面略くの字形の環状屈曲部10aを有している。そして、チェーンカバー5には前記と同様に貫通孔51が形成されているが、本実施形態では、貫通孔51の開口縁部に拡径方向に凹む周溝53を有している。貫通孔51の周辺部におけるチェーンカバー5の内面側部分は、分割環状部片54で構成され、該分割環状部片54をチェーンカバー5に溶接又は接着一体とすることにより前記周溝53が形成されるように構成されている。該周溝53は、該周溝53の底部相当部位であって、前記貫通孔51の周辺部に形成された段部53aに前記連結環11を溶接或いは接着等により固着一体に嵌着した上で、前記分割環状部片54を連結環11を挟むようにしてチェーンカバー5の内面に溶接又は接着一体とすることにより形成され、これにより図示のようなシール構造が構成される。
【0023】
図3に示す実施形態の場合も、金属環9及び弾性緩衝部材10が、チェーンカバー5とオイルシール8との間に介在することにより、前記と同様にチェーンカバー5の加工公差の影響を少なくし、また、振動等によるオイルシール8の経時的なシール性の変化を抑えることができる。そして、弾性緩衝部材10が軟質のゴムからなること、及び前記環状屈曲部10aを有していることにより、弾性緩衝部材10が径方向への弾性変形性に富み、これにより振動吸収性がより優れたものとなる。従って、オイルシール8の前記締代の所期状態の維持がなされ、経時的なシール性の変化の抑制がより効果的になされる。
その他の構成は、図2に示す例と同様であるから、共通部分に同一の符号を付し、その説明を割愛する。
【0024】
図4に示す例では、弾性緩衝部材10を図3に示す例と同様の形状とし、連結環11を図3の例における分割環状部片54を含むような形状とすることにより、実質的に貫通孔51の開口縁部に拡径方向に凹む周溝53を有するよう構成した点で図3の例と異なる。即ち、この実施形態では、オイルシール8、金属環10及び弾性緩衝部材10を前記と同様の固着関係で一体とした連結環11を、前記周溝53の底部相当部位であって、チェーンカバー5の内面における前記貫通孔51の周辺部に形成された段部53aに溶接又は接着により固着一体として図示のようなシール構造が構成される。従って、この実施形態においても、図3に示す実施形態と同様の作用効果が得られる。
その他の構成は、図3に示す例と同様であるから、共通部分に同一の符号を付し、その説明を割愛する。
【0025】
図5に示す例では、連結環11の内周部には拡径方向に凹む周溝110が形成され、弾性環状部材10が、該周溝110内に周壁111,111に沿って径方向に弾性摺接可能に収容されている。具体的には、連結環11が2つの合せ部材11a,11bからなり、一方の合せ部材11aは断面形状に段差形状部を含む異形環状部材からなり、他方の合せ部材は断面形状が方形の平環状部材からなり、両合せ部材11a,11bを合体させると、図示のように前記段差形状部のチェーン室50側開口が他方の合せ部材11bによって区画され、これにより図示のような周溝110が形成されるよう構成されている。金属環9は、その外周部の中央部に径方向に突出する外向鍔部9bを有し、弾性環状部材10は、前記と同様にゴム材からなり、金属環9の外周部及び外向鍔部9bの形状に沿って、これらを覆うように固着一体に形成されている。そして、弾性環状部材10の外向鍔部9bの両側部(アキシャル面)を覆う部分には、クランクシャフト7の軸方向に平行に突出する環状山形ビード部10a,10aが左右対称に形成されている。
【0026】
前記構造の金属環9に対する弾性環状部材10の固着一体化は、ゴム材の加硫成型によってなされるが、外向鍔部9bの両側部を覆う部分の外面幅d1は、前記周溝110の溝幅d0より小さく設定され、また、前記環状ビード部10a,10aの頂部間幅d2は周溝110の溝幅d0より大きく設定される。更に、連結環11における前記周溝110の溝底部の内径(半径)r0、連結環11の内周部の内径(半径)r1、弾性環状部材10における前記外向鍔部9bの外周部を覆う部分の外径(半径)r2及び弾性環状部材10における金属環9の外周部を覆う部分の外径(半径)r3の大小関係は、r0>r2>r1>r3となるよう設定される。
【0027】
オイルシール8と、前記のように構成される金属環9、弾性環状部材10及び連結環11と、チェーンカバー5との組付構造を略述する。先ず、金属環9と弾性環状部材10とを前述のように、加硫成型により一体化した上で、金属環9をオイルシール8に同心的に外嵌一体とする。次いで、前記一方の合せ部材11aにおける前記段差形状部に弾性環状部材10の前記外向鍔部9bを覆う部分を宛がい、他方の合せ部材11bを一方の合せ部材11aに合体させ、合体面を溶接又は接着により相互に固着し、図示のように周溝110を有する連結環11を構成する。この連結環11を構成する際、環状ビード部10a,10aの頂部間幅d2>周溝110の溝幅d0の関係とされているから、環状ビード部10a,10aが2点鎖線の状態から実線の状態ように圧縮され、金属環9及び弾性環状部材10は、連結環11に対して径方向への相対弾性摺接が許容された状態で弾性保持される。前記r0>r2>r1>r3となる大小関係によって、この金属環9及び弾性環状部材10の連結環11に対する径方向への相対弾性摺接が許容される。そして、環状ビード部10a,10aは、周溝110の両周壁111,111間に、弾性圧縮状態とされるから、この部分のシール構造も構成される。更に、この状態で連結環11をチェーンカバー5の貫通孔51に嵌合し、嵌合部分を溶接又は接着することにより、連結環11とチェーンカバー5の一体化がなされる。連結環11とチェーンカバー5との嵌合部の形状は、図示のような所謂印籠(いんろう)嵌合のような形状が嵌合強度を得る上で望ましいが、単純な円環部の同心嵌合形状であっても良い。
【0028】
前記のように、オイルシール8、金属環9、弾性環状部材10及び連結環11が組付けられたチェーンカバー5を、図1に示すようなエンジン1の所定部位に締結合体させる場合、先ず、オイルシール8をクランクシャフト7に嵌装する。この時、金属環9がオイルシール8に同心的に外嵌一体とされているから、クランクシャフト7、オイルシール8及び金属環9の同心的な一体関係が確立される。その後、前記のようにボルト5a…によって、チェーンカバー5を前記所定部位に締結合体させることになるが、チェーンカバー5に加工公差があると、貫通孔51の中心とクランクシャフト7の軸心とがずれることになる。しかし、金属環9及び弾性環状部材10は、連結環11に対して径方向への相対弾性摺接が許容された状態で弾性保持されているから、前記ずれはこの相対弾性摺接によって吸収される。
【0029】
従って、オイルシール8のクランクシャフト7に対する嵌装状態では、金属環9、オイルシール8及びクランクシャフト7の前記同心的な一体関係は変化せず、オイルシール8のリップ部のクランクシャフト7に対する締代は、その周方向に亘って均等な状態に維持される。また、エンジン1の運転によってチェーンカバー5に振動が生じても、振動が前記相対弾性摺接によって吸収され、同様に金属環9、オイルシール8及びクランクシャフト7の前記同心的な一体関係に変化が生じることがない。よって、チェーンカバー5に加工公差があっても、或いは、チェーンカバー5に振動が生じても、これらに影響されずに、前記締代は偏ることなく所期の均等な状態に維持される。チェーンカバー5の締結合体によって形成されるチェーン室50内には、前述のとおり飛散した潤滑オイルが存在するが、締代に偏りのないオイルシール8の嵌装状態によって、意図するシール性が維持され、貫装部分52における潤滑オイルの漏出が確実に防止される。
その他の構成は、前記各例と同様であるから、共通部分に同一の符号を付し、ここでもその説明を割愛する。
【0030】
尚、上記実施形態では、エンジン1におけるチェーンカバー5に対するクランクシャフト7の貫装部分52でのシール構造を例示したが、これに限られず、他のカバー部材と回転軸との貫装部分、特に、カバー部材が剛性があり、加工公差が不可避的に生じ易いものの場合や、振動環境におかれる場合の貫装部分に適用すると、同様の効果が得られる。また、弾性緩衝部材9、連結環10及び金属環11の形状や、これら相互の固着一体構造も図例のものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0031】
1 エンジン
5 チェーンカバー(カバー部材)
50 チェーン室(潤滑オイルが装填される部位)
52 貫装部分
7 クランクシャフト(回転軸)
8 オイルシール(シール部材)
9 金属環
10 弾性緩衝部材
11 連結環
110 周溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カバー部材と、該カバー部材に貫装された回転軸との間における当該貫装部分のシール構造であって、
前記回転軸にはシール部材が相対回転可能に嵌装され、該シール部材と前記貫装部分におけるカバー部材との間には、シール部材に同心的に外嵌一体とされた金属環が介在されていることを特徴とするシール構造。
【請求項2】
請求項1に記載のシール構造において、
前記金属環の外周には環状弾性緩衝部材が固着され、該弾性環状部材は連結環を介してカバー部材に結合されていることを特徴とするシール構造。
【請求項3】
請求項2に記載のシール構造において、
前記連結環の内周部には周溝が形成され、前記弾性環状部材が、該周溝内に周壁に沿って径方向に弾性摺接可能に収容されていることを特徴とするシール構造。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のシール構造において、
前記カバー部材は、潤滑オイルが存在する部位を覆うものであって、前記シール部材はオイルシールであることを特徴とするシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−242897(P2010−242897A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93387(P2009−93387)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000225359)内山工業株式会社 (204)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】