説明

シール構造

【課題】外径側環状部材及び内径側環状部材の少なくとも一方が径方向、軸方向の何れの方向に熱伸び等の変形をした場合であっても、シール性が悪化することのないシール構造を提供する。
【解決手段】同心に配置され、各々の間に軸方向に延びる空間を形成する外径側環状部材及び内径側環状部材とを備え、前記空間をシールするシール構造であって、前記外径側環状部材及び内径側環状部材の何れか一方である第1部材には、前記外径側環状部材及び内径側環状部材の他方である第2部材に対向する面に溝が周方向に沿って形成されており、
前記溝の全周に亘って挿入された弾性シール部材を備え、前記弾性シール部材は、前記溝内を前記第1部材の径方向に移動できるシール部と、該シール部を前記第2部材側に付勢する付勢部とが弾性材料によって一体に形成されてなるとともに、前記溝の周方向に複数に分割されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシール構造に関するものであり、詳しくは同心に配置された外径側環状部材及び内径側環状部材との間に形成される軸方向に延びる空間をシールするシール構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばガスタービンにおいては、同心に配置され各々の間に軸方向に延びる空間を形成する外径側環状部材及び内径側環状部材が配置される箇所が存在し、前記空間からの流体の漏洩を防止するためのシール構造が必要な場合がある。
【0003】
このような、同心に配置される外径側環状部材及び内径側環状部材の間の空間をシールするシール構造として例えばフェイスシールが知られている。
フェイスシールは、外径側環状部材の内径側環状部材との対向面の周方向全周に亘って設けられた溝と、該溝内に挿入され外径側環状部材の径方向に移動できるシール部材と、前記溝内に設けられ前記シール部材を前記内径側環状部材側に付勢するバネとから構成されるものである。フェイスシールによれば、バネによって内径側環状部材側に付勢されたシール部材が内径側環状部材の外側表面に押し付けられて、シール部材と内径側環状部材との間の隙間が無くなり、外径側環状部材及び内径側環状部材の間の空間がシールされる。なお、フェイスシールは、内径側環状部材の外径側環状部材との対向面の周方向全周に亘って溝が設けられ、該溝にシール部材を挿入し、該シール部材をバネによって外径側環状部材側に付勢する構成とすることも可能である。
【0004】
フェイスシールに関する技術として、例えば特許文献1には固定子ベーンの環状列の内側シュラウドとガスタービンの径方向に内側の環状のシールハウジングとの間を固定的にシールするためのシール装置としてフェイスシールを用いたガスタービンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許平2−3007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、フェイスシールは、シール相手面(シール部材が押し付けられる面)に粗度、うねり等がある場合にはシール特性が悪化する。
また、部品点数が多く構造が複雑で組立て、製造コストが高い。
【0007】
従って、本発明は係る従来技術の問題点に鑑み、外径側環状部材及び内径側環状部材に粗度やうねりがある場合でもシール特性が悪化することなく、しかも構造が簡単で組立、製造コストの低いシール構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明においては、同心に配置され、各々の間に軸方向に延びる空間を形成する外径側環状部材及び内径側環状部材とを備え、前記空間をシールするシール構造であって、前記外径側環状部材及び内径側環状部材の何れか一方である第1部材には、前記外径側環状部材及び内径側環状部材の他方である第2部材に対向する面に溝が周方向に沿って形成されており、前記溝の全周に亘って挿入された弾性シール部材を備え、前記弾性シール部材は、前記溝内を前記第1部材の径方向に移動できるシール部と、該シール部を前記第2部材側に付勢する付勢部とが弾性材料によって一体に形成されてなるとともに、前記溝の周方向に複数に分割されていることを特徴とする。
【0009】
これにより、付勢部によってシール部を前記第2部材側に付勢することで、シール部が前記第2部材に押し付けられる。シール部は弾性材料で形成されているため、前記第2部材に確実に押し付けられ、前記空間を確実にシールすることができる。また、前記第2部材に粗度、うねり等がある場合であっても、シール部は弾性材料で形成されているため前記第2部材の粗度、うねり等にシール部が変形して追従することができるため、シール性が悪化することがない。
【0010】
さらに、シール部と付勢部を一体に形成しているため、シール構造全体に係る部品点数を少なくすることができるとともに、組立、製造コストも低い。
【0011】
なお、「一体に形成されてなる」とは、付勢部とシール部とを一体的に成型する場合のみならず、付勢部とシール部を別個に作成してから接着剤等を用いて一体化する場合も含まれる。
【0012】
また、前記付勢部はコイルバネ形状や、蛇腹形状であるとよい。
付勢部がコイルバネ形状や蛇腹形状である場合には、付勢部がバネの効果を持ち確実にシール部を付勢させることができる。
ここで、コイルバネ形状とは、前記付勢部を形成する弾性部材をコイル形(らせん形)に巻いて作った形状を意味する。
【0013】
また、前記シール部材はカーボンナノチューブを主成分とする粘弾性材料からなるとよい。
カーボンナノチューブを主成分とする粘弾性材料は、耐熱性に優れ、1000℃程度まで粘弾性を維持できるので、高温部の過酷な環境下でも十分に用いることができる。
なお、カーボンナノチューブ(CNT)を主成分とする粘弾性材料は、例えば、スパッタリングによりシリコン基板上に鉄触媒を付着させ、アルゴンイオンによる反応性イオンエッチングにより触媒を調製した後、この基板上にスーパーグロース法によってCNTを合成して得たCNT構造体を圧縮することで作製できる。なお、CNTを主成分とする粘弾性材料は、参考文献「Ming Xu, Don N. Futaba, Takao Yamada, Motoo Yumura and Kenji Hata, "Carbon Nanotubes with Temperature-Invariant Viscoelasticity from -196℃ to 1000℃," Science, Vol. 330, No. 6009, pp.1364-1368 (2010), Published online 3 December 2010. DOI:10.1126/science.1194865」に記載された手法により作製してもよい。
【発明の効果】
【0014】
外径側環状部材及び内径側環状部材に粗度やうねりがある場合でもシール特性が悪化を防止でき、しかも構造が簡単で組立、製造コストの低いシール構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態1に係るシール構造が適用されるガスタービンのディフューザ周辺を示す概略断面図である。
【図2】実施例におけるシール構造を示した断面図である。
【図3】実施例における弾性シール部材と外側円筒との位置関係を示す概略構成図である。
【図4】実施例におけるシール部の外側円筒と対向する面の一部平面図である。
【図5】付勢部がコイルバネ形状である弾性シール部材の一部を示す斜視図である。
【図6】弾性シール部形成体を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【実施例】
【0017】
本発明のシール構造は、例えばガスタービンのディフューザと内車室との間のシールに用いることができる。
まず、図1を用いて、本発明のシール構造が適用される一例であるガスタービンのディフューザ周辺の構成について説明する。
図1は、実施形態1に係るシール構造が適用されるガスタービンのディフューザ周辺を示す概略断面図である。
【0018】
図1に示すように、タービン本体1は、回転軸となるロータ2と、ロータ2に固定される動翼4と、ロータ2との間に燃焼ガスを流す空間を構成するようにロータ2の外周を覆う内車室6と、内車室6の内壁に設置される静翼8と、内車室6の外周側を覆うことで内車室6との間に冷却空気を流す空間を構成する外車室10と、を備える。尚、内車室6は外車室10と接続されることで固定される。又、ロータ2の後端(下流側)が、軸受ハウジング12に納められた軸受14によって支持される。
【0019】
そして、このタービン本体1の下流側に、動翼4及び静翼8を流れた燃焼ガスを排気するための2重環状で構成されたディフューザ16が設置される。このディフューザ16は、その外壁面が最終段の動翼4のシュラウド面と同一面を形成する内側円筒18と、その内壁面が内車室6の内壁面と同一面を形成する外側円筒20とを有する。さらに、ディフューザ16は、内側円筒21の内側に設置された軸受ハウジング12を支持するために放射状に配置されたストラット24と、このストラット24を覆うとともに内側円筒18と外側円筒20とを接続して内側円筒18を固定するストラットカバー26と、外側円筒20と外車室10のそれぞれに接続して外側円筒20を固定する固定用リング28と、を備える。
【0020】
ディフューザ16において、内側円筒18と外側円筒20とを同心に配置することで、内側円筒18と外側円筒20との間に環状の流路が形成される。このとき、内側円筒18は円筒形状であるが、外側円筒20は下流ほど直径が大きくなる円錐台形状を呈しており、このため、ディフューザ16は、上流から下流に向かって流路の断面積が次第に大きくなる。そして、ストラットカバー26によって、内側円筒18と外側円筒20との間隔を保って環状流路の形状が維持される。
【0021】
以上の構成において、図1にaで示したように、ガスタービンの排気が内車室6と外側円筒20との間の隙間を通り、ストラットカバー26内を介して、軸受14に流入することを防止するために内車室6と外側円筒20の間(図1にAで示す位置)に本発明のシール構造が適用される。
【0022】
図2は、実施例におけるシール構造50を示した断面図である。
図2において、同心に配置される外径側環状部材である内車室6と内径側環状部材である外側円筒20との間には、軸方向に延びる空間60が形成されている。
【0023】
内車室6の外側円筒20に対する対向面には、周方向の全周に亘って溝58が形成されている。
【0024】
溝58には、溝58の全周に亘って弾性シール部材52が挿入されている。弾性シール部材52は、シール部54と、付勢部56とが一体に形成されてなるものであって、耐熱性弾性部材によって形成されている。該耐熱性弾性部材としては、空間60でシールするガスタービンの排ガス温度に耐えうる部材として、カーボンナノチューブを主成分とする粘弾性材料を挙げることができる。
【0025】
シール部54は、付勢部56がシール部54よりも溝58の奥側(外側円筒20から遠い側)に位置するように溝58内に挿入されている。また、シール部54は、溝58内を内車室6の径方向に移動できるように溝58内に挿入されている。
【0026】
また、付勢部56は、その一端でシール部54と一体化しているとともに、他端は溝58の奥面58aに取り付けられている。また、付勢部56は、図2に示すように蛇腹状の形状をしており、シール部54を外側円筒20側に付勢するバネ力を有している。蛇腹状の付勢部56を有する弾性シール部52は、図6に示すような弾性シール部形成体を成型して、該弾性シール部形成体を加工して作製するとよい。図6において、シール部54に相当するシール部相当部154と両面に交互に溝部157a、157b、157c・・・が設けられた板部156とが一体となった弾性シール部形成体152を射出成型により一体に成型し、その後溝部157a、157b、157c・・・で板部を折り曲げることにより作成する。これにより弾性シール部形成対152は単純な形状であるので、射出成型で簡単に成型することができるので、弾性シール部52を簡単に作製することができるためである。
【0027】
なお、付勢部56の形状は、ジグザグバネの形状に限られるものではなく、シール部54を外側円筒20側に付勢するバネ力を有する形状であればよく、例えば図5に示すようなコイルバネ状(らせん状)の形状とすることもできる。図5は、付勢部がコイルバネ形状である弾性シール部材の一部を示す斜視図である。図5に示すように、付勢部がコイルバネ形状である弾性シール部材52は、シール部材54に複数のコイルバネ形状の付勢部56が周方向に沿って配されている。
【0028】
図3は、実施例における弾性シール部材52と外側円筒20との位置関係を示す概略構成図である。図3に示すように、外側円筒20の外周側に弾性シール部材52が位置し、弾性シール部材52は周方向に複数の分割弾性シール部材52a、52b・・・に分割されている。
【0029】
以上の構成のシール構造50において、付勢部56のバネ力によりシール部54を外側円筒20の外表面に押し付けることにより、空間60が密閉され、空間60を確実にシールすることができる。
【0030】
また、外側円筒20に粗度やうねり等がある場合においても、シール部54は弾性部材で形成されているので、前記粗度やうねり等に追従してシール部54も変形する。従って、外側円筒20に粗度やうねり等がある場合であっても空間60を確実にシールすることができる。
【0031】
図4は、実施例におけるシール部54の外側円筒20と対向する面の一部平面図である。図4に示すように、シール部54の外側円筒20と対向する面に、周方向に溝部62を設けることができる。この場合、シール部54が、さらに外側円筒20の変形に追従して変形しやすくなる。
【0032】
本実施例によれば、付勢部56によってシール部54を外側円筒20に付勢することで、シール部54が外側円筒20の外表面に押し付けられる。シール部54は弾性材料で形成されているため、外側円筒54に確実に押し付けられ、空間60を密閉して確実にシールすることができる。また、外側円筒20が熱伸び等によって変形した場合であっても、シール部54は弾性材料で形成されているため外側円筒20の変形にシール部が変形して追従することができるため、シール性が悪化することもない。
【0033】
さらに、シール部54と付勢部56を一体に形成しているため、シール構造50全体に係る部品点数を少なくすることができるとともに、弾性シール部材52の成型が簡単である。
【0034】
なお、本実施例においては、内車室6に溝58を設け、溝58に弾性シール部材52を挿入しているが、逆に外側円筒20に溝を設けて該溝に弾性シール部材を挿入することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
外径側環状部材及び内径側環状部材の少なくとも一方が径方向、軸方向の何れの方向に熱伸び等の変形をした場合であっても、シール性が悪化することのないシール構造として利用することができる。
【符号の説明】
【0036】
6 内車室(外径側環状部材)
20 外側円筒(内径側環状部材)
50 シール構造
52 弾性シール部材
54 シール部
56 付勢部
58 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同心に配置され、各々の間に軸方向に延びる空間を形成する外径側環状部材及び内径側環状部材とを備え、前記空間をシールするシール構造であって、
前記外径側環状部材及び内径側環状部材の何れか一方である第1部材には、前記外径側環状部材及び内径側環状部材の他方である第2部材に対向する面に溝が周方向に沿って形成されており、
前記溝の全周に亘って挿入された弾性シール部材を備え、
前記弾性シール部材は、前記溝内を前記第1部材の径方向に移動できるシール部と、該シール部を前記第2部材側に付勢する付勢部とが弾性材料によって一体に形成されてなるとともに、前記溝の周方向に複数に分割されていることを特徴とするシール構造。
【請求項2】
前記付勢部はコイルバネ状に形成されていることを特徴とする請求項1記載のシール構造。
【請求項3】
前記付勢部は蛇腹形状に形成されていることを特徴とする請求項1記載のシール構造。
【請求項4】
前記シール部材はカーボンナノチューブを主成分とする粘弾性材料からなることを特徴とする請求項1〜3何れかに記載のシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−211616(P2012−211616A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76693(P2011−76693)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】