説明

シール装置

【課題】フローティングシール及び回転軸の磨耗を抑制してフローティングシール及び回転軸の長寿命化を図ることが可能なシール装置を提供する。
【解決手段】このシール装置は、作動流体が導入される高圧室2aを区画する壁体2dの貫通孔2e内に配設されるとともに貫通孔2eに挿通された回転軸4に当該回転軸4の変位に追従可能な状態で外嵌されるフローティングシール12を備え、このフローティングシール12と回転軸4の外周面との間の隙間にシール流体を導入することにより、高圧室2aを封止するものであって、回転軸4には、その外周面に開口し、フローティングシール12の内周面と当該回転軸4の外周面との間の隙間にシール流体を噴き出させるための噴出孔4bが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、回転機において、筐体内の所定の空間に隣接する位置に回転軸に対して所定の隙間をもつように外嵌するフローティングシールを設け、そのフローティングシールの内面と回転軸の外面との間の隙間にシール流体を導入して前記所定の空間を封止するシール装置が知られている。下記の特許文献1には、このようなシール装置の一例が開示されている。
【0003】
図6は、特許文献1に開示されたシール装置の構造を示す断面図である。このシール装置102は、回転機に設けられており、この回転機では、機内側の空間と大気側の空間とに亘って延びる回転軸150が設けられている。そして、シール装置102は、回転機の機内側の空間と大気側の空間との間の位置において、回転軸150の周りを囲むように設けられている。
【0004】
シール装置102は、回転軸150の周りを囲むように配置されるとともに、回転機の筐体152に固定されたシールケーシング104を備えている。このシールケーシング104内には、シールリングケーシング106とシールリング取付板108とが設けられている。そして、回転軸150に対して微小な隙間をもつようにリング状のフローティングシール110が外嵌している。このフローティングシール110は、前記シールリングケーシング106と前記シールリング取付板108とによって回転軸150の径方向に移動可能に保持されているとともに回り止めされている。
【0005】
シールケーシング104及びシールリングケーシング106には、導入路104a,106aが設けられている。また、フローティングシール110には、径方向に貫通する複数の細孔110aが設けられている。細孔110aは、フローティングシール110において軸方向に間隔をあけて配置されているとともに、周方向に所定間隔で配置されている。
【0006】
そして、シール流体が前記導入路104a,106aからフローティングシール110の各細孔110aを通じてフローティングシール110の内面と回転軸150の外面との間の隙間に導入され、このシール流体によって回転機の機内側の空間が封止されるようになっている。また、シール流体は、周方向に配置された各細孔110aからフローティングシール110の内面と回転軸150の外面との間の隙間にそれぞれ噴き出され、それによって各細孔110aから噴き出されるシール流体の圧力によって回転軸150とフローティングシール110との間の隙間が保持され、回転軸150がフローティングシール110に接触しないようになっている。
【特許文献1】特開平4−266666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に開示されたシール装置では、回り止めされたフローティングシール110において周方向に所定間隔で設けられた細孔110aからフローティングシール110の内面と回転軸150の外面との間の隙間にシール流体が噴き出されるので、フローティングシール110の内面と回転軸150の外面との間の隙間のうち各細孔110a間に位置する部分では、シール流体の圧力が低下する虞がある。このため、フローティングシール110の細孔110a間の部分へ向かって回転軸150のブレが生じた場合には、回転軸150がフローティングシール110に接触してフローティングシール110及び回転軸150に磨耗が生じ、フローティングシール110及び回転軸150の寿命が低下する虞がある。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、フローティングシール及び回転軸の磨耗を抑制してフローティングシール及び回転軸の長寿命化を図ることが可能なシール装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明によるシール装置は、作動流体が導入される所定の空間を区画する壁体の貫通孔内に配設されるとともに前記貫通孔に挿通された回転軸に当該回転軸の変位に追従可能な状態で外嵌されるフローティングシールを備え、このフローティングシールと前記回転軸の外周面との間の隙間にシール流体を導入することにより、前記所定の空間を封止するシール装置であって、前記回転軸には、その外周面に開口し、前記フローティングシールと当該回転軸の外周面との間の隙間にシール流体を噴き出させるための噴出孔が設けられている。
【0010】
このシール装置では、回転軸が回転しているときにその回転軸の噴出孔を通じてフローティングシールと回転軸の外周面との間の隙間にシール流体を噴き出させることができる。すなわち、このシール装置では、シール流体の噴き出される位置が回転軸の回転に伴って周方向に移動するので、回転軸の全周からシール流体が噴き出されるのと近い状態となる。このため、フローティングシールと回転軸の外周面との間の隙間におけるシール流体の圧力が周方向で均等に近づき、回転軸が径方向においてどの方向にブレを生じたとしてもフローティングシールとの接触を防ぐことができる。その結果、フローティングシール及び回転軸の磨耗を抑制し、フローティングシール及び回転軸の長寿命化を図ることができる。
【0011】
上記シール装置において、前記噴出孔は、前記回転軸の周方向に所定間隔で複数設けられていることが好ましい。
【0012】
このように構成すれば、噴出孔が回転軸の周方向の1箇所のみに設けられている場合に比べて回転軸の周方向においてより多くの箇所でシール流体を噴き出させることができるので、回転軸の回転開始直後や停止直前等のように回転軸の回転速度が遅いときでも、フローティングシールと回転軸の外周面との間の隙間においてシール流体の圧力を周方向で均等化しやすくなる。このため、回転軸の回転速度が遅いときに回転軸が径方向においてどの方向にブレを生じた場合でも、フローティングシールに対して回転軸が接触するのを抑制することができる。
【0013】
上記シール装置において、前記噴出孔は、前記フローティングシールが設けられた範囲において前記回転軸の軸方向に所定間隔で複数設けられていることが好ましい。
【0014】
このように構成すれば、噴出孔が回転軸の軸方向の1箇所のみに設けられている場合に比べて、回転軸の軸方向により幅広くシール流体が噴き出されるので、フローティングシールと回転軸の外周面との間の隙間をより安定的に保持することができる。特に、この構成では、軸方向の複数個所でフローティングシールと回転軸の外周面との間の隙間を確保する圧力が作用するため、回転軸が軸方向に対して傾くブレを生じた場合でも、そのブレにフローティングシールを追従させることができる。このため、そのような軸方向に対して傾くブレが回転軸に生じた場合でも、フローティングシールに回転軸が接触するのを防ぐことができる。
【0015】
上記シール装置において、前記シール流体は、前記所定の空間における作動流体の圧力よりも大きい圧力で前記噴出孔から前記フローティングシールと前記回転軸の外周面との間の隙間に噴き出されることが好ましい。
【0016】
このように構成すれば、前記所定の空間からフローティングシールと回転軸の外周面との間の隙間を通じて作動流体が漏出するのをシール流体によって確実に防ぐことができる。
【0017】
この場合において、前記シール流体は、前記作動流体と同じ流体からなることが好ましい。
【0018】
シール流体が前記所定の空間における作動流体の圧力よりも大きい圧力で噴出孔から噴き出される場合には、シール流体が所定の空間に流れ込み、作動流体と混ざる虞がある。しかしながら、この構成によれば、シール流体が作動流体と同じ流体からなるので、それらが混ざり合ったとしても、作動流体からシール流体を分離させる等の煩雑な処理を行わなくてもよい。
【0019】
上記シール装置において、前記フローティングシールの内面には、凹凸部が設けられていることが好ましい。
【0020】
このように構成すれば、凹凸部が前記所定の空間から作動流体がフローティングシールの内面と回転軸の外周面との間の隙間を通じて漏出するのに抵抗となるので、フローティングシールの内面が凹凸のない形状に形成されている場合に比べて前記所定の空間からフローティングシールの内面と回転軸の外面との間の隙間を通じて作動流体が漏出するのをより有効に防ぐことができる。特に、シール流体が前記所定の空間における作動流体の圧力よりも小さい圧力で噴出孔から噴き出される場合には、作動流体が所定の空間からフローティングシールの内面と回転軸の外周面との間の隙間を通じて漏出しやすくなるが、この場合でも前記凹凸部によってその作動流体の漏出を有効に抑制することができる。
【0021】
上記シール装置において、前記噴出孔は、前記回転軸の内部において径方向外側で、かつ、前記所定の空間側へ向かって前記回転軸の軸心に対して斜めに延びていてもよい。
【0022】
このように構成すれば、シール流体が噴出孔からフローティングシールと回転軸の外周面との間の隙間に前記所定の空間側へ向かって斜めに噴き出すので、所定の空間から作動流体がフローティングシールと回転軸の外周面との間の隙間を通じて漏出するのをより防ぎやすくなる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明によれば、フローティングシール及び回転軸の磨耗を抑制してフローティングシール及び回転軸の長寿命化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0025】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態によるシール装置の断面図であり、図2は、そのシール装置を適用する回転機の回転軸を軸方向に見た図である。まず、図1及び図2を参照して、本発明の第1実施形態によるシール装置の構成について説明する。
【0026】
この第1実施形態によるシール装置は、圧縮機やその他の回転機に適用されている。この回転機は、筐体2と、回転軸4とを備えている。筐体2の内部には、高圧室2aと、低圧室2bが設けられている。高圧室2aは、所定の圧力で作動流体が導入される空間であり、この高圧室2aは、本発明の所定の空間の概念に含まれるものである。低圧室2bは、筐体2内において高圧室2aと隣り合うように配置されており、その内部の圧力は高圧室2a内の圧力に比べて低い圧力、例えば大気圧になっている。筐体2には、高圧室2aと低圧室2bを区画する壁体2dがそれら両室2a,2bの間に設けられている。この壁体2dには、高圧室2a側から低圧室2b側へ貫通する貫通孔2eが設けられており、この貫通孔2eは、回転軸4の外径よりも大きい内径を有する断面円形状に形成されている。回転軸4は、貫通孔2eに挿通されて高圧室2aから低圧室2bに亘って延びており、軸回りに回転自在に設けられている。
【0027】
この第1実施形態によるシール装置は、このような回転機において高圧室2aを封止して高圧室2aから低圧室2bへ作動流体が漏出するのを防ぐものである。
【0028】
具体的には、シール装置は、回転軸4の外径よりもわずかに大きい内径を有するリング状のフローティングシール12を備えている。貫通孔2eの内周面には、凹部2fが形成されている。この凹部2fは、軸方向に垂直な断面においてその外形が円形となるように形成されており、貫通孔2eと同軸となるように設けられている。この凹部2fの軸方向の寸法は、フローティングシール12の軸方向の寸法よりもわずかに大きくなっている。また、この凹部2fは、フローティングシール12の外径よりも大きい内径を有する。そして、フローティングシール12は、この凹部2f内に径方向にゆとりをもって嵌め込まれているとともに、回転軸4にゆとりをもって外嵌されている。このような構成により、フローティングシール12は、回転軸4のブレ等の変位に追従して凹部2f内で径方向のゆとりの分だけ移動できるようになっている。また、フローティングシール12は、軸方向に均一な内径を有しており、その内周面が凹凸のない形状に形成されている。
【0029】
凹部2fの軸方向の両内面には、凹部2fと同軸となるようにOリング14がそれぞれ配設されており、各Oリング14は、フローティングシール12の軸方向の対応する端面に接触している。この各Oリング14によって、フローティングシール12の軸方向の両端面と対応する凹部2fの各内面との間がシールされている。
【0030】
回転軸4の内部には、供給路4aと、噴出孔4bとが設けられている。
【0031】
供給路4aは、回転軸4の低圧室2b側の端部から高圧室2a側へ向かって延びており、フローティングシール12の高圧室2a側の端部の手前の位置で閉塞されている。この供給路4aは、回転軸4と同軸となるように配置されているとともに回転軸4の軸心に沿って延びている。供給路4aは、シール流体を噴出孔4bに供給するための通路であり、この供給路4aを通って噴出孔4bにシール流体が流れ込むようになっている。なお、シール流体としては、高圧室2aに導入される作動流体と同じ流体が用いられる。例えば、作動流体が所定のガスであれば、そのガスと同じガスがシール流体として用いられる。
【0032】
噴出孔4bは、フローティングシール12の内周面と回転軸4の外周面との間の隙間にシール流体を噴き出させるためのものである。この噴出孔4bは、回転軸4において供給路4aから径方向外側に延びるとともに、回転軸4の外周面に開口する細孔からなる。噴出孔4bは、回転軸4の周方向に等間隔で複数設けられている。また、周方向に複数設けられた噴出孔4bを1組として、複数組の噴出孔4bが、フローティングシール12が設けられた範囲において回転軸4の軸方向に等間隔で設けられている。各組の噴出孔4bは、軸方向に見て周方向の同じ位置に配置されている。なお、各組の噴出孔4bは、軸方向に見て周方向の位置が徐々にずらして配置されていてもよく、また、軸方向に見て周方向の位置がランダムとなるように配置されていてもよい。
【0033】
そして、供給路4aにその基端部からシール流体を導入する図略の導入装置が設けられている。この導入装置によって供給路4aに導入されたシール流体は、供給路4aから各噴出孔4bを通じてフローティングシール12の内周面と回転軸4の外周面との間の隙間に高圧室2aにおける作動流体の圧力よりも大きい圧力で噴き出される。
【0034】
次に、この第1実施形態によるシール装置の動作について説明する。
【0035】
まず、回転機において、高圧室2aに所定圧力の作動流体が導入されているとともに、停止している回転軸4の供給路4aに図略の導入装置からシール流体が導入される。このシール流体は、供給路4aを通って各噴出孔4bに流れ込むとともに、各噴出孔4bからフローティングシール12の内周面と回転軸4の外周面との間の隙間に径方向外側へ向かって噴き出される。この際、シール流体は、各噴出孔4bから高圧室2aの作動流体の圧力よりも大きい圧力で噴き出される。この噴き出されたシール流体により高圧室2aが封止され、高圧室2aからフローティングシール12の内周面と回転軸4の外周面との間の隙間を通って低圧室2bへ作動流体が漏出するのが抑制される。この状態で、回転軸4の回転が始動され、回転軸4は所定の回転速度で回転する。
【0036】
そして、上記のように各噴出孔4bからシール流体が噴き出されることによって、フローティングシール12は、回転軸4の周りに隙間をもつように浮いた状態となる。この際、回転軸4の回転に伴って各噴出孔4bの位置が周方向に移動するので、回転軸4の全周からシール流体が噴き出されるのと近い状態になる。このため、各噴出孔4bから噴き出されたシール流体の圧力は、フローティングシール12の内周面と回転軸4の外周面との間の隙間においてその周方向で均等に近づく。これにより、回転軸4が振れ回りして回転軸4にブレが生じた場合に、そのブレに追従してフローティングシール12が移動し、回転軸4の外周面とフローティングシール12の内周面との間に周方向に均等な隙間が維持される。なお、回転軸4の回転の停止も、各噴出孔4bからシール流体が噴き出されている状態で行われる。回転軸4の回転の始動時及び停止時は、回転軸4のブレが大きくなることがあるため、各噴出孔4bからのシール流体の噴出は、回転軸4の回転の始動前に開始されるとともに回転軸4の回転の停止後に停止されることにより、そのような回転軸4の回転の始動時及び停止時の大きなブレに起因する回転軸4とフローティングシール12との接触が有効に防止されるようになっている。
【0037】
以上説明したように、この第1実施形態によるシール装置では、回転軸4が回転しているときにその回転軸4の各噴出孔4bを通じてフローティングシール12の内周面と回転軸4の外周面との間の隙間にシール流体を噴き出させることができ、フローティングシール12の内周面と回転軸4の外周面との間の隙間におけるシール流体の圧力を周方向で均等に近づけることができる。このため、回転軸4が径方向においてどの方向にブレを生じたとしてもシール流体の圧力によってフローティングシール12との接触を防ぐことができる。その結果、フローティングシール12及び回転軸4の磨耗を抑制し、フローティングシール12及び回転軸4の長寿命化を図ることができる。
【0038】
また、第1実施形態では、噴出孔4bが、回転軸4の周方向に所定間隔で複数設けられているので、噴出孔4bが回転軸4の周方向の1箇所のみに設けられている場合に比べて回転軸4の周方向においてより多くの箇所でシール流体を噴き出させることができる。噴出孔4bが回転軸4の周方向の1箇所のみに設けられている場合には、回転軸4の回転開始直後や停止直前等のように回転軸4の回転速度が遅いときにフローティングシール12の内周面と回転軸4の外周面との間の隙間において周方向でシール流体の圧力が低くなる箇所が生じやすい。これに対して、この第1実施形態の構成では、回転軸4の周方向においてより多くの箇所でシール流体を噴き出させることができ、回転軸4の回転速度が遅いときでも、フローティングシール12の内周面と回転軸4の外周面との間の隙間においてシール流体の圧力を周方向で均等化しやすくなる。その結果、回転軸4の回転速度が遅いときに回転軸4が径方向においてどの方向にブレを生じた場合でも、フローティングシール12に対して回転軸4が接触するのを抑制することができる。
【0039】
また、第1実施形態では、噴出孔4bが、フローティングシール12が設けられた範囲において回転軸4の軸方向に所定間隔で複数設けられているので、噴出孔4bが回転軸4の軸方向の1箇所のみに設けられている場合に比べて、回転軸4の軸方向により幅広くシール流体が噴き出される。このため、フローティングシール12の内周面と回転軸4の外周面との間の隙間をより安定的に保持することができる。特に、この第1実施形態では、軸方向の複数個所でフローティングシール12の内周面と回転軸4の外周面との間の隙間を確保するシール流体の圧力が作用するため、回転軸4が軸方向に対して傾くブレを生じた場合でも、そのブレにフローティングシール12を追従させることができる。このため、そのような軸方向に対して傾くブレが回転軸4に生じた場合でも、フローティングシール12に回転軸4が接触するのを防ぐことができる。
【0040】
また、第1実施形態では、シール流体が、高圧室2aにおける作動流体の圧力よりも大きい圧力で各噴出孔4bからフローティングシール12の内周面と回転軸4の外周面との間の隙間に噴き出されるので、高圧室2aからフローティングシール12の内周面と回転軸4の外周面との間の隙間を通じて低圧室2bへ作動流体が漏出するのをシール流体によって確実に防ぐことができる。
【0041】
なお、このようにシール流体が高圧室2aにおける作動流体の圧力よりも大きい圧力で噴出孔4bから噴き出される場合には、シール流体が高圧室2aに流れ込み、作動流体と混ざる虞がある。しかしながら、この第1実施形態では、シール流体が作動流体と同じ流体からなるので、それらが混ざり合ったとしても、作動流体からシール流体を分離させる等の煩雑な処理を行わなくてもよい。
【0042】
(第2実施形態)
図3は、本発明の第2実施形態によるシール装置の断面図である。次に、この図3を参照して、本発明の第2実施形態によるシール装置の構成について説明する。
【0043】
この第2実施形態では、上記第1実施形態と異なり、フローティングシール12の内周面に凹凸部12aが設けられている。
【0044】
具体的には、フローティングシール12の内周面に設けられた凹凸部12aは、ラビリンス形状(迷路状)に形成されている。すなわち、凹凸部12aは、高圧室2aから低圧室2bへ向かう経路において迷路状に入り組んだ形状を呈しており、作動流体が高圧室2aからフローティングシール12の内面と回転軸4の外周面との間の隙間を通って低圧室2bへ漏出しようとする際に抵抗となる。
【0045】
この第2実施形態によるシール装置の上記以外の構成は、上記第1実施形態によるシール装置の構成と同様である。
【0046】
以上説明したように、この第2実施形態では、フローティングシール12の内周面にラビリンス形状の凹凸部12aが設けられているので、その凹凸部12aが高圧室2aから作動流体がフローティングシール12の内周面と回転軸4の外周面との間の隙間を通じて漏出するのに抵抗となる。このため、フローティングシール12の内周面が凹凸のない形状に形成されている場合に比べて高圧室2aからフローティングシール12の内周面と回転軸4の外周面との間の隙間を通じて作動流体が漏出するのをより有効に防ぐことができる。
【0047】
なお、シール流体は、高圧室2aにおける作動流体の圧力よりも多少小さい圧力で各噴出孔4bから噴き出されてもよい。この場合には、シール流体によって作動流体を遮る力が弱くなるので、高圧室2aからフローティングシール12の内周面と回転軸4の外周面との間の隙間を通じて低圧室2bへ作動流体がわずかに漏出する。しかしながら、この場合でも、この第2実施形態のようにフローティングシール12の内周面に凹凸部12aが設けられていることにより、前記作動流体の漏出を有効に抑制することができる。
【0048】
また、フローティングシール12の内周面に凹凸部を設ける場合に従来のようにシール流体を噴き出させるための複数の細孔をフローティングシール12に設けようとすると、フローティングシール12の内周面側における各細孔の開口部を同じ形状に形成することが凹凸部があるために非常に困難となる。これに対して、この第2実施形態では、回転軸4に各噴出孔4bが設けられているので、フローティングシール12の内周面に凹凸部12aが設けられていても、各噴出孔4bの加工に影響がなく、各噴出孔4bを容易に同じ形状に加工することができる。
【0049】
この第2実施形態によるこれ以外の効果は、上記第1実施形態による効果と同様である。
【0050】
(第3実施形態)
図4は、本発明の第3実施形態によるシール装置の断面図である。次に、この図4を参照して、本発明の第3実施形態によるシール装置の構成について説明する。
【0051】
この第3実施形態によるシール装置では、上記第1実施形態によるシール装置と異なり、各噴出孔4bが斜めに延びている。
【0052】
具体的には、この第3実施形態では、回転軸4に設けられた各噴出孔4bが、回転軸4の内部において供給路4aから径方向外側で、かつ、高圧室2a側へ向かって回転軸4の軸心に対して斜めに延びている。これにより、各噴出孔4bからシール流体がフローティングシール12の内周面と回転軸4の外周面との間の隙間に噴き出される際、高圧室2a側へ向かって斜めに噴き出される。
【0053】
この第3実施形態によるシール装置の上記以外の構成は、上記第1実施形態によるシール装置の構成と同様である。
【0054】
以上説明したように、この第3実施形態では、各噴出孔4bからシール流体がフローティングシール12の内周面と回転軸4の外周面との間の隙間に高圧室2a側へ向かって斜めに噴き出すので、その噴き出すシール流体の動圧も高圧室2aから低圧室2b側への作動流体の漏出を防ぐために寄与する。これにより、高圧室2aから作動流体がフローティングシール12の内周面と回転軸4の外周面との間の隙間を通じて低圧室2bへ漏出するのをより防ぎやすくなる。
【0055】
この第3実施形態の上記以外の効果は、上記第1実施形態による効果と同様である。
【0056】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0057】
例えば、図5に示す上記第2実施形態の変形例のようにフローティングシール12が回転軸4の軸方向に並んで複数設けられているとともに、回転軸4において各フローティングシール12に対応する位置に複数の噴出孔4bがそれぞれ設けられていてもよい。
【0058】
具体的には、壁体2dの貫通孔2eを囲む内面に2つの凹部2fが軸方向に並んで設けられており、その各凹部2fにフローティングシール12がそれぞれ嵌め込まれている。回転軸4において各フローティングシール12に対応する位置には、複数の噴出孔4bが供給路4aと繋がるようにそれぞれ設けられている。
【0059】
この変形例の構成では、主として高圧室2aに近い方のフローティングシール12において高圧室2aからの作動流体の漏出を防ぎ、低圧室2bに近い方のフローティングシール12は、高圧室2aに近い方のフローティングシール12において何らかの不具合が生じて作動流体が低圧室2b側へ流れたときにその作動流体を遮るバックアップとしての役割を有する。
【0060】
そして、高圧室2aに近い方のフローティングシール12に対応して設けられた各噴出孔4bは、低圧室2bに近い方のフローティングシール12に対応して設けられた各噴出孔4bに比べて大径となっている。これにより、高圧室2a側のフローティングシール12の内周面と回転軸4の外周面との間の隙間に噴き出されるシール流体の流量が、低圧室2b側のフローティングシール12の内周面と回転軸4の外周面との間の隙間に噴き出されるシール流体の流量に比べて多くなっている。このため、高圧室2a側のフローティングシール12において有効に作動流体の低圧室2b側への漏出を防ぐことができるとともに、バックアップとしての低圧室2b側のフローティングシール12では、シール流体の流量が無駄に多くなるのを防ぐことができる。なお、この構成に限らず、高圧室2a側のフローティングシール12に対応して設けられた各噴出孔4bと低圧室2b側のフローティングシール12に対応して設けられた各噴出孔4bとが同径に形成されていてもよい。
【0061】
また、この変形例の構成では、1つの供給路4aに対して複数のフローティングシール12のそれぞれに対応する各噴出孔4bが繋がっている。従来のようにフローティングシール12にシール流体を噴き出させるための細孔を形成する場合には、複数のフローティングシール12を設けようとすると、各フローティングシール12の細孔へ繋がるように筐体2に複数の供給路を形成する必要があるため、その加工が煩雑となる。これに対して、この変形例の構成では、回転軸4に1つの供給路4aを形成するだけでその供給路4aに対して各フローティングシール12に対応する噴出孔4bが繋がるように形成することができるので、加工の手間を削減することができる。
【0062】
また、上記第2実施形態では、フローティングシール12の内周面の凹凸部12aをラビリンス形状としたが、この凹凸部12aの形状はラビリンス形状に限られない。例えば、フローティングシール12の内周面の凹凸部を当たったシール流体が高圧室2a側へ向かって進むような螺旋溝にしてもよい。この場合には、各噴出孔4bから噴き出されてフローティングシール12の内周面に当たったシール流体が螺旋溝に沿って高圧室2a側へ移動するため、そのシール流体の動圧によって高圧室2a内の作動流体が低圧室2b側へ漏出するのを効果的に抑制することができる。
【0063】
また、上記以外の種々の形状に形成された凹凸部をフローティングシール12の内周面に設けてもよい。例えば、フローティングシール12の内周面に軸方向に連続して形成された複数の円環状の凹凸からなる凹凸部や、フィン状やその他の種々の形状の突起からなる凹凸部をフローティングシール12の内周面に設けてもよい。
【0064】
また、シール流体として、高圧室2aに導入される作動流体と異なる流体を用いてもよい。例えば、作動流体が水蒸気等のガスである場合にシール流体として油を用いてもよい。また、作動流体のガスと同じ物質の液体をシール流体として用いてもよい。具体的には、作動流体が水蒸気である場合にシール流体として水を用いてもよい。
【0065】
また、高圧室2aから排出された作動流体の一部を供給路4aに供給して各噴出孔4bからシール流体として噴き出させてもよい。
【0066】
また、上記実施形態と異なり、供給路4aを回転軸4の高圧室2a側から低圧室2b側へ延びるように設け、その供給路4a内をシール流体が高圧室2a側から低圧室2b側へ流れるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の第1実施形態によるシール装置の断面図である。
【図2】シール装置を適用する回転機の回転軸を軸方向に見た図である。
【図3】本発明の第2実施形態によるシール装置の断面図である。
【図4】本発明の第3実施形態によるシール装置の断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態の変形例によるシール装置の断面図である。
【図6】従来の一例によるシール装置の断面図である。
【符号の説明】
【0068】
2a 高圧室(所定の空間)
2d 壁体
2e 貫通孔
4 回転軸
4b 噴出孔
12 フローティングシール
12a 凹凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体が導入される所定の空間を区画する壁体の貫通孔内に配設されるとともに前記貫通孔に挿通された回転軸に当該回転軸の変位に追従可能な状態で外嵌されるフローティングシールを備え、このフローティングシールと前記回転軸の外周面との間の隙間にシール流体を導入することにより、前記所定の空間を封止するシール装置であって、
前記回転軸には、その外周面に開口し、前記フローティングシールと当該回転軸の外周面との間の隙間にシール流体を噴き出させるための噴出孔が設けられている、シール装置。
【請求項2】
前記噴出孔は、前記回転軸の周方向に所定間隔で複数設けられている、請求項1に記載のシール装置。
【請求項3】
前記噴出孔は、前記フローティングシールが設けられた範囲において前記回転軸の軸方向に所定間隔で複数設けられている、請求項1または2に記載のシール装置。
【請求項4】
前記シール流体は、前記所定の空間における作動流体の圧力よりも大きい圧力で前記噴出孔から前記フローティングシールと前記回転軸の外周面との間の隙間に噴き出される、請求項1〜3のいずれか1項に記載のシール装置。
【請求項5】
前記シール流体は、前記作動流体と同じ流体からなる、請求項4に記載のシール装置。
【請求項6】
前記フローティングシールの内面には、凹凸部が設けられている、請求項1〜3のいずれか1項に記載のシール装置。
【請求項7】
前記噴出孔は、前記回転軸の内部において径方向外側で、かつ、前記所定の空間側へ向かって前記回転軸の軸心に対して斜めに延びている、請求項1〜6のいずれか1項に記載のシール装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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