説明

ジアリールピレン化合物、有機電界発光素子用材料、有機電界発光素子用組成物、及び有機電界発光素子

【課題】有機電界発光素子の有機層に有用な化合物であって、耐久性が高く、高発光な有機電界発光素子を与える化合の提供。
【解決手段】下記式で表されるジアリールピレン化合物。


(Ar1及びAr2は、置換基を有していてもよい、ピレン環由来の基及びフェナントロリン環由来の基以外の6員環からなる芳香族基を、X及びZは、置換基を有していてもよいC50以下の基を、R1及びR2は、HまたはC50以下の基を表わす。X、Z、R1及びR2は、アリールアミン構造及び直鎖アルケン構造を含まない。i及びjは、0以上5以下の整数であり、m及びnは、1以上5以下の整数である。但しi+jは1以上である。i、j、mまたはnがそれぞれ2以上のとき、一分子内に複数存在するAr1、Ar2、XまたはZは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。)該ピレン化合物は有機電界発光素子の発光層のホストに使用するとドーパントを効率良く発光できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジアリールピレン化合物、有機電界発光素子用材料、有機電界発光素子用組成物、及び有機電界発光素子に関する。詳しくは安定であり、有機電界発光素子の発光層のホストに使用するのに好ましいジアリールピレン化合物、及びそれを用いた有機電界発光素子用材料、有機電界発光素子用組成物、さらには、それを用いた高色純度、高効率、長寿命な有機電界発光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、薄膜型の電界発光素子としては、無機材料を使用したものに代わり、有機薄膜を用いた有機電界発光素子の開発が行われるようになっている。有機電界発光素子は、通常、陽極と陰極との間に、正孔注入層、正孔輸送層、有機発光層、電子輸送層などを有し、この各層に適した材料が開発されつつある。さらに、該有機電界発光素子の発光色も赤、緑、青と、それぞれに開発が進んでいる。
しかしながら、中でも青色発光素子は、効率、寿命、耐熱性の観点で満足できるものではなく、フルカラーディスプレイ用途への適用は限定的であるという課題があった。
【0003】
例えば、特許文献1では、下記式で示される化合物を用いた、4置換ピレン青色蛍光材料が開示されている。
【化1】

【0004】
しかしながら、この化合物はピレン環の分子間の重なりが起こりやすく、容易に会合体を形成し、純度の高い青色のホスト材料としては利用することは難しかった。
【0005】
また、特許文献2には、下記式で示される化合物を用いた、青色蛍光材料が開示されている。
【化2】

【0006】
しかしながら、この化合物はピレン環の置換基として活性が高いアミン構造を有しており、有機電界発光素子のホストとしての耐久性が低かった。
【0007】
【特許文献1】特開2004−075567号公報
【特許文献2】欧州特許庁1775335号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものである。即ち、本発明は有機電界発光素子の有機層に有用な化合物であって、耐久性が高く、高色純度、高発光、長寿命な有機電界発光素子を提供できる化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討した結果、ピレン骨格の2,7位に特定の置換基を導入させることにより、電気的な酸化や還元を繰り返し受けても安定な有機化合物が得られることがわかり、この有機化合物を用いることにより、有機電界発光素子、とりわけ高輝度、高効率かつ長寿命な有機電界発光素子を得ることができることがわかり、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は、下記式(1)で表されることを特徴とする、ジアリールピレン化合物に存する(請求項1)。
【化3】

(式(1)中、Ar1およびAr2は、各々独立に、置換基を有していてもよい、ピレン環由来の基及びフェナントロリン環由来の基以外の6員環からなる芳香族基を表わす。
X及びZは、各々独立に置換基を有していてもよい炭素数50以下の基を表わす。
1及びR2は、各々独立に水素原子または炭素数50以下の基を表わす。
X、Z、R1及びR2は、アリールアミン構造及び直鎖アルケン構造を含まない。
i及びjは、各々独立に0以上5以下の整数であり、m及びnは、各々独立に1以上5以下の整数である。但しi+jは1以上である。i、j、mまたはnがそれぞれ2以上のとき、一分子内に複数存在するAr1、Ar2、XまたはZは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【0011】
このとき、Ar1およびAr2が、各々独立に下記式(2a)〜(2l)の群から選ばれるいずれかの芳香族基であることが好ましい(請求項2)。
【化4】

【0012】
また、X及びZが、各々独立に芳香族基であることが好ましい(請求項3)。
【0013】
また、ジアリールピレン化合物が、下記式(3−1)〜(3−6)のいずれかで表わされることが好ましい(請求項4)。
【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

(式(3−1)〜(3−6)中、X1、X2、Z1およびZ2は、各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数50以下の基を表わす。
1及びR2は、各々独立に水素原子または炭素数50以下の基を表わす。
1、X2、Z1、Z2、R1及びR2は、アリールアミン構造及び直鎖アルケン構造を含まない。)
【0014】
このとき、X1、X2、Z1およびZ2が、各々独立に芳香族基であることが好ましい(請求項5)。
【0015】
また、R1およびR2が水素原子であることが好ましい(請求項6)。
【0016】
本発明の別の要旨は、上記のジアリールピレン化合物からなることを特徴とする、有機電界発光素子用材料に存する(請求項7)。
【0017】
本発明の別の要旨は、上記のジアリールピレン化合物を含有することを特徴とする、有機電界発光素子用組成物に存する(請求項8)。
【0018】
このとき、有機電界発光素子用組成物が、溶剤を含有することが好ましい(請求項9)。
【0019】
本発明の別の要旨は、陽極、陰極、およびこれら両極間に設けられた有機発光層を有する有機電界発光素子であって、上記のジアリールピレン化合物を含有する有機層を有することを特徴とする、有機電界発光素子に存する(請求項10)。
【発明の効果】
【0020】
本発明のジアリールピレン化合物は、電気的な酸化や還元を繰返し受けても安定である。また、本発明のジアリールピレン化合物を発光層、特に発光層のホストに使用するとドーパントを効率よく発光させることができる。
このため、本発明の電荷輸送材料、又は本発明の有機電界発光素子用組成物を用いた有機電界発光素子によれば、高色純度、高輝度、高効率かつ長寿命な有機電界発光素子が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々に変更して実施することができる。
【0022】
本発明において、単に「芳香族基」と称した場合には、芳香族炭化水素基、及び芳香族複素環基の何れも含むものとする。
本発明において、「置換基を有していてもよい」とは、置換基を1又は2以上有していてもよいことを意味するものとする。
【0023】
本発明は、前記式(1)で表されることを特徴とする、ジアリールピレン化合物(以下、適宜「本発明のジアリールピレン化合物」ということがある。)に関する。また、該ジアリールピレン化合物からなる有機電界発光素子用材料(以下、適宜「本発明の有機電界発光素子用材料」ということがある。)、有機電界発光素子用組成物(以下、適宜「本発明の有機電界発光素子用組成物」ということがある。)、並びに、それらを含有する有機電界発光素子(以下、適宜「本発明の有機電界発光素子」ということがある。)に関する。
以下、これらについて説明する。
【0024】
[1.ジアリールピレン化合物]
<1−1.ジアリールピレン化合物の構造>
本発明のジアリールピレン化合物は、下記式(1)で表される構造を有する化合物である。
【化11】

(式(1)中、Ar1およびAr2は、各々独立に、置換基を有していてもよい、ピレン環由来の基及びフェナントロリン環由来の基以外の6員環からなる芳香族基を表わす。
X及びZは、各々独立に置換基を有していてもよい炭素数50以下の基を表わす。
1及びR2は、各々独立に水素原子または炭素数50以下の基を表わす。
X、Z、R1及びR2は、アリールアミン構造及び直鎖アルケン構造を含まない。
i及びjは、各々独立に0以上5以下の整数であり、m及びnは、各々独立に1以上5以下の整数である。但しi+jは1以上である。i、j、mまたはnがそれぞれ2以上のとき、一分子内に複数存在するAr1、Ar2、XまたはZは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【0025】
<1−1−1.Ar1、Ar2について>
前記式(1)のAr1及びAr2について説明する。式(1)中のAr1及びAr2は、各々独立に、置換基を有していてもよい、ピレン環由来の基及びフェナントロリン環由来の基以外の6員環からなる芳香族基を表わす。
ここで「6員環からなる芳香族基」とは、6員環の単環である芳香族基、若しくは2以上の6員環が縮合してなる縮合環である芳香族基をいう。
【0026】
フェナントロリン環は、フェナントロリン環の含有する窒素原子が金属原子イオンを捕集するため、有機電界発光素子の安定性や効率が低下すると考えられるため、分子内に存在しないことが好ましい。したがって、Ar1及びAr2はフェナントロリン環由来の基以外であることが好ましい。
【0027】
ピレン環は、強い正孔輸送性を有していると考えられるため、分子内に2つ以上存在しないほうが好ましい。従って、式(1)には既にピレン環を1つ有しているので、Ar1及びAr2はピレン環由来の基以外であることが好ましい。
【0028】
本発明のジアリールピレン化合物は、ピレン骨格の2,7位にピレン環由来の基及びフェナントロリン環由来の基以外の6員環からなる芳香族基を導入している。斯かる構造によって安定性の高いジアリールピレン化合物が得られる。
さらに、主骨格(ピレン骨格)に共役による共鳴安定化を有している環のみで構成されることによって、さらに安定性の高いジアリールピレン化合物が得られる。
【0029】
Ar1とAr2とは互いに同じ基でもよいし、異なる基が任意の組み合わせ及び比率であってもよい。また、1分子中に複数のAr1又はAr2が存在する場合、それらの基は互いに同じ基であってもよいし、異なる基が任意の組み合わせ及び比率であってもよい。
以下、Ar1及びAr2について詳述するが、ある芳香環に由来する基を、その芳香環の名称に「環基」を付して呼称する。例えば、ベンゼン環に由来する基をベンゼン環基という。
【0030】
(芳香族基)
Ar1、Ar2の芳香族基としては、例えば、ベンゼン環基、ナフタレン環基、フェナントレン環基、アントラセン環基、ナフタセン環基、クリセン環基、トリフェニレン環基、コロネン環基、ピリジン環基、ピラジン環基、ピリミジン環基、トリアジン環基、キノキサリン環基、キノリン環基、イソキノリン環基、キナゾリン環基等があげられる。
【0031】
中でも、合成の簡便さからベンゼン環基、ナフタレン環基、フェナントレン環基、アントラセン環基、ピリジン環基、ピラジン環基、ピリミジン環基、トリアジン環基、キノキサリン環基、キノリン環基、イソキノリン環基、キナゾリン環基等が好ましい。また、化合物の安定性の面からベンゼン環基、ナフタレン環基、フェナントレン環基、アントラセン環基が好ましく、ベンゼン環基、ナフタレン環基、フェナントレン環基がさらに好ましく、ベンゼン環基が特に好ましい。
【0032】
上記の中でも、下記式(2a)〜(2l)の群から選ばれるいずれかの芳香族基である
ことが好ましいく、下記式(2a)〜(2d)の群から選ばれるいずれかの芳香族基であることがさらに好ましい。
【化12】

【0033】
(Ar1及びAr2の有する置換基)
Ar1、Ar2は置換基を有していてもよく、その置換基の具体例としては、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数6以上25以下の芳香族炭化水素基、炭素数3以上20以下の芳香族複素環基、炭素数1以上20以下のアルキルオキシ基、炭素数3以上20以下の(ヘテロ)アリールオキシ基、炭素数1以上20以下のアルキルチオ基、炭素数3以上20以下の(ヘテロ)アリールチオ基、シアノ基が挙げられる。中でも、化合物の安定性の面からアルキル基、芳香族炭化水素基が好ましく、芳香族炭化水素基が特に好ましい。
【0034】
炭素数1以上20以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、シクロヘキシル基、デシル基、オクタデシル基等が挙げられる。中でも、メチル基、エチル基、イソプロピル基が好ましい。また、メチル基、エチル基が原料の入手しやすさ、安価さなどから好ましく、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基は非極性溶媒に高い溶解性を持つため好ましい。
【0035】
炭素数6以上25以下の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等のナフチル基;9−フェナンチル基、3−フェナンチル基等のフェナンチル基;1−アントリル基、2−アントリル基、9−アントリル基等のアントリル基;1−ナフタセニル基、2−ナフタセニル基等のナフタセニル基;1−クリセニル基、2−クリセニル基、3−クリセニル基、4−クリセニル基、5−クリセニル基、6−クリセニル基等のクリセニル基;1−ピレニル基等のピレニル基;1−トリフェニレニル基等のトリフェニル基;1−コロネニル基等のコロネニル基;等が挙げられる。中でも、化合物の安定性の面からフェニル基、2−ナフチル基、1−アントリル基、9−フェナントリル基、9−アントリル基が好ましく、化合物の精製のし易さからフェニル基、2−ナフチル基が特に好ましい。
【0036】
炭素数3以上20以下の芳香族複素環基としては、例えば、2−チエニル基、2−フリル基、2−イミダゾリル基、9−カルバゾリル基、2−ピリジル基、1,3,5−トリアジン−2−イル基等が挙げられる。中でも、安定性の面から9−カルバゾリル基が好ましい。
【0037】
炭素数1以上20以下のアルキルオキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、オクタデシルオキシ基等が挙げられる。
【0038】
炭素数3以上20以下の(ヘテロ)アリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、1−ナフチルオキシ基、9−アントリルオキシ基、2−チエニルオキシ基等が挙げられる。
【0039】
炭素数1以上20以下のアルキルチオ基の例としては、メチルチオ基、エチルチオ基、イソプロピルチオ基、シクロヘキシルチオ基等が挙げられる。
【0040】
炭素数3以上20以下の(ヘテロ)アリールチオ基の例としては、フェニルチオ基、1−ナフチルチオ基、9−アントリルチオ基、2−チエニルチオ基等が挙げられる。
【0041】
(m、nについて)
式(1)中、m及びnは1以上5以下の整数である。m又はnが2以上の場合、本発明のジアリールピレン化合物1分子中に複数のAr1又はAr2が存在することになるが、それらはそれぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0042】
<1−1−2.X、Zについて>
前記式(1)のX及びZについて説明する。式(1)中のX及びZは、各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数50以下の基を表わす。
XとZとは互いに同じ基でもよいし、異なる基が任意の組み合わせ及び比率であってもよい。また、1分子中に複数のX又はZが存在する場合、それらの基は互いに同じ基であってもよいし、異なる基が任意の組み合わせ及び比率であってもよい。
【0043】
(X、Zの種類)
X及びZの具体例としては、アルキル基、芳香族基、アルキルオキシ基、(ヘテロ)アリールオキシ基、アルキルチオ基、(ヘテロ)アリールチオ基、シアノ基が挙げられる。中でも、化合物の安定性の面からアルキル基、芳香族基が好ましく、芳香族基が特に好ましい。
【0044】
アルキル基としては、炭素数1以上20以下が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、シクロヘキシル基、デシル基、オクタデシル基等が挙げられる。好ましくは、メチル基、エチル基、イソプロピル基である。メチル基、エチル基が原料の入手しやすさ、安価さなどから好ましく、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基は非極性溶媒に高い溶解性を持つために好ましい。
【0045】
芳香族基としては、芳香族炭化水素基および芳香族複素環基が挙げられ、好ましくは芳香族炭化水素基である。
芳香族炭化水素基としては、炭素数6以上25以下が好ましく、ベンゼン環基;1−ナフタレン、2−ナフタレン等のナフタレン環基;9−フェナントレン、3−フェナントレン等のフェナントレン環基;1−アントラセン、2−アントラセン、9−アントラセン等のアントラセン環基;1−ナフタセン、2−ナフタセン等のナフタセン環基;1−クリセン、2−クリセン、3−クリセン、4−クリセン、5−クリセン、6−クリセン等のクリセン環基;1−ピレン等のピレン環基;1−トリフェニレン等のトリフェニレン環基;1−コロネン等のコロネン環基;等が挙げられる。中でも、化合物の安定性の面からベンゼン環基、2−ナフタレン環基、1−アントラセン環基、9−フェナントレン環基、9−アントラセン環基が好ましく、化合物の精製のし易さからベンゼン環基、2−ナフタレン環基が特に好ましい。
【0046】
芳香族複素環基としては、炭素数3以上20以下が好ましく、例えば、2−チオフェン等のチオフェン環基、2−フラン等のフラン環基、2−イミダゾール等のイミダゾール環基、9−カルバゾール等のカルバゾール環基、2−ピリジン等のピリジン環基、1,3,5−トリアジン−2−イル基等のトリアジン環基等が挙げられる。中でも化合物の安定性の面から9−カルバゾール環基が好ましい。
【0047】
アルキルオキシ基としては、炭素数1以上20以下が好ましく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、オクタデシルオキシ基等が挙げられる。中でも溶解性向上とガラス転移温度の面からメトキシ基、エトキシ基が好ましい。
【0048】
(ヘテロ)アリールオキシ基としては、炭素数3以上20以下が好ましく、例えば、フェノキシ基、3−フェノキシフェノキシ基、2−ナフチルオキシ基、9−アントリルオキシ基、2−チエニルオキシ基等が挙げられる。中でも溶解性向上の面からフェノキシ基、3−フェノキシフェノキシ基、2−ナフチルオキシ基が好ましく、3−フェノキシフェノキシ基が特に好ましい。
【0049】
アルキルチオ基としては、炭素数1以上20以下が好ましく、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、イソプロピルチオ基、シクロヘキシルチオ基等が挙げられる。中でも溶解性向上とTgの面からメチルチオ基、エチルチオ基が好ましい。
【0050】
(ヘテロ)アリールチオ基としては、炭素数3以上20以下が好ましく、例えば、フェニルチオ基、1−ナフチルチオ基、9−アントリルチオ基、2−チエニルチオ基等が挙げられる。中でも溶解性向上の面からフェニルチオ基が好ましい。
【0051】
X及びZは、その合計の炭素数が50を超えない範囲で結合していてもよい。
具体例としては、[1,1’:3’,1”:3”,1''':3''',1''''−クインクェフェニル]−3−イル、[1,1’:3’,1”:3”,1'''−クゥアテルフェニル]−3−イル、[1,1’:3’,1”−テルフェニル]−3−イル、[1,1’:4’,1”:4”,1''':4''',1''''−クインクェフェニル]−4−イル、6−[1,1’:3’,1”−テルフェニル]−3−イルナフタレン−2−イル等があげられる。
【0052】
上述のX及びZの具体例として挙げられた基は、さらに置換基を有していてもよい。
該置換基としては、前述の<1−1−1.Ar1、Ar2について>の(Ar1及びAr2の有する置換基)で例示された置換基と同様の置換基が挙げられる。
【0053】
なお、本発明のジアリールピレン化合物を有機電界発光素子の発光層のホストとして使用する場合には、有機電界発光素子の安定性の面から、X及びZに部分構造としてアリールアミン構造を有しないことが好ましい。ここで、アリールアミン構造とは下記式で表される構造である。
【化13】

(上記式中、Ara,Arb,Arcは芳香族基を表わす。)
【0054】
また、有機電界発光素子の安定性の面から、X及びZの部分構造として直鎖アルケン構造を有しないことが好ましい。直鎖アルケン構造は非常に活性が高く、化学的安定性が低いためである。ここで、直鎖アルケン構造とは環を形成していないアルケンをいう。
【0055】
(i、jについて)
式(1)中、i及びjは0以上5以下の整数であり、i+jは1以上である。i又はjが2以上の場合、本発明のジアリールピレン化合物1分子中に複数のX又はZが存在することになるが、それらはそれぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。
また、i又はjが0の場合、X又はZは存在しないことを表わす。
【0056】
<1−1−3.R1、R2について>
前記式(1)のR1及びR2について説明する。式(1)中のR1及びR2は、各々独立に、水素原子または炭素数50以下の基を表わす。中でも水素原子が好ましい。
【0057】
炭素数50以下の基の具体例としては、上記の<1−1−2.X、Zについて>と同様の基を挙げることができる。
1及びR2のピレン骨格における2,7位以外であれば導入位置に制限はない。
【0058】
<1−1−4.その他>
本発明のジアリールピレン化合物は、3、4、7、及び8員環構造を有しないことが好ましい。該構造は歪みが高く、環の安定性が不十分になる可能性がある。また、フルオレン環のような5員環も有しないことが好ましい。容易に酸化を受けるため、環の安定性が不十分になる可能性がある。
以上のことから、安定性の高い有機電界発光素子を得る面から、本発明のジアリールピレン化合物がピレン骨格の他に環状構造を有する場合、該環状構造は6員環の単環、若しくは2以上の6員環が縮合してなる縮合環からで形成されることが好ましい。
【0059】
<1−2.ジアリールピレン化合物>
本発明のジアリールピレン化合物は、上記の特徴を有していれば他に制限はない。中でも、好ましい構造として、下記式(3−1)〜(3−6)で表される化合物が挙げられる。なお、下記式(3−1)〜(3−6)中、式(1)と同じ置換基については、同じ符号を用いて表わしている。
【化14】

【化15】

【化16】

【化17】

【化18】

【化19】

(式(3−1)〜(3−6)中、X1、X2、Z1およびZ2は、各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数50以下の基を表わす。
1及びR2は、各々独立に水素原子または炭素数50以下の基を表わす。
1、X2、Z1、Z2、R1及びR2は、アリールアミン構造及び直鎖アルケン構造を含まない。)
【0060】
<1−2−1.式(3−1)〜(3−6)の化合物の構造>
(X1、X2、Z1、Z2について)
前記式(3−1)〜(3−6)中、X1、X2、Z1、及びZ2は、各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数50以下の基を表わす。炭素数50以下の基、及びその置換基の具体例としては、上述の<1−1−2.X、Zについて>と同様の基を挙げることができる。
【0061】
なお、X1、X2、Z1およびZ2が、各々独立に芳香族基であることが好ましい。芳香族基としては、前述の<1−1−2.X、Zについて>で例示した芳香族基と同様の基を挙げることができる。
【0062】
(R1、R2について)
前記式(3−1)〜(3−6)中、R1及びR2は、各々独立に、水素原子または炭素数50以下の基を表わす。該置換基の具体例としては、前述の<1−1−3.R1、R2について>と同様の基を挙げることができる。なお、R1及びR2のピレン骨格における導入位置は、2位、7位以外であれば制限はない。
なお、R1およびR2が、水素原子であることが好ましい。
【0063】
<1−2−2.式(3−1)〜(3−6)の化合物の特徴>
式(3−1)〜(3−6)の化合物は、ピレン骨格の2,7位に芳香族炭化水素環が置換していることでジアリールピレン化合物の安定性が向上している。このとき、本発明のジアリールピレン化合物を有機電界発光素子の発光層のホストとして使用する場合には、有機電界発光素子の安定性の面から、X1、X2、Z1、及びZ2の部分構造としてアリールアミン構造が存在しないことが好ましい。
【0064】
式(3−1)及び(3−3)の構造を有する化合物は、共役による共鳴安定化構造をとりつつ化合物が湾曲した構造をとるため、通常溶解性が向上する。
また、式(3−2)の構造を有する化合物は、オルト位の置換基の立体障害により分子全体が3次元的にねじれた形になるため、通常溶解性が向上する。
【0065】
式(3−4)及び(3−5)の構造を有する化合物は、比較的正孔を運びやすいピレン骨格に、比較的電子を輸送しやすい多環芳香環を置換した構造をとるため、通常正電荷及び負電荷共に輸送性が向上する。
なお、式(3−5)の構造を有する化合物は、ピレン環を挟んで非対称的な構造をとるため、分子の溶解性が向上する。
【0066】
式(3−6)の構造を有する化合物は、分岐型の置換基を有する骨格により、通常分子の非対称性の向上、分子鎖の延長による自由度の向上、並びに分子鎖の立体障害の効果により、分子の通常溶解度が向上する。
【0067】
特に式(3−1)〜(3−6)のX1、X2、Z1、及びZ2に複素環を有する化合物は、比較的正孔を運びやすいピレン骨格に、比較的電子を輸送しやすい含窒素複素環を置換した構造を有するため、正電荷及び負電荷共に輸送性が向上する。
【0068】
<1−2−3.ジアリールピレン化合物の分子量>
本発明のジアリールピレン化合物の分子量は、通常400以上、好ましくは500以上、さらに好ましくは600以上、また、通常7000以下であり、好ましくは5000以下、特に好ましくは2000以下である。この範囲を下回ると、熱耐久性が低下する可能性がある。また、この範囲を上回ると、化合物の精製が困難になるという可能性がある。
【0069】
[1−3.ジアリールピレン化合物の製造方法]
本発明のジアリールピレン化合物は、公知の合成方法を任意に組み合わせることによって製造することができる。
以下、その一例を説明するが、本発明のジアリールピレン化合物の製造方法は、以下の例に限定されない。
【0070】
本発明のジアリールピレン化合物は、ピレンを出発原料として、硼素化、金属触媒を用いたカップリング反応経て、合成することができる。
具体的に、ピレンの2,7位に原子団Aが置換した化合物の場合を例にして説明すると、該化合物は、以下のスキームに従い合成することができる。
【0071】
【化20】

以下、上記スキーム中に示した各反応段階について説明する。
【0072】
<硼素化反応>
不活性ガス下、反応基質1モルと硼素試薬1モル以上30モル以下とを極性又は無極性の溶媒に、溶解又は懸濁させ、イリジウムシクロオクタジエン系触媒と2,2’−ビピリジル系配位子とを加えることにより、硼素化された基質の混合物を得ることができる。なお、イリジウム触媒に代えてロジウム系触媒を用いることも可能である。
【0073】
溶媒としては、硼素化剤と反応せず、基質を溶解又は懸濁させるものであれば特に制限はないが、ヘキサン、シクロヘキサン等の非ベンゼン系無極性溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒;ヘキサン、シクロヘキサン等の非ベンゼン系無極性溶媒;等が好ましく、中でも非ベンゼン系無極性溶媒が特に好ましい。
これらは1種類を単独で用いてもよく、また2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
【0074】
硼素化された基質の混合物は精製してもよい。精製は、本発明の効果を著しく損なわない限り制限はないが、蒸留、濾過、抽出、再結晶、再沈殿、懸濁洗浄、クロマトグラフィー等任意の方法を行なってよく、またこれらの方法を2種以上組み合わせて行なってもよい。
【0075】
<カップリング反応>
ホウ素化されたピレン(反応基質)1モルと、炭化水素芳香族基を有するハロゲン化物又はトリフルオロメタンスルホン酸エステル化試薬1モル以上30モル以下とを、遷移金属元素触媒及び塩基存在下で、無極性又は極性溶媒中で反応させることにより、カップリングされた基質の混合物を得ることができる。
【0076】
遷移金属元素触媒としては、例えば、有機パラジウム触媒、有機ニッケル触媒、有機銅触媒、有機白金触媒、有機ロジウム触媒、有機ルテニウム触媒、有機イリジウム触媒等が挙げられる。中でも、反応の簡便さや反応収率の高さから有機パラジウム触媒が好ましい。これらは1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
【0077】
塩基としては、特に限定はしないが、金属水酸化物、金属塩、有機アルカリ金属試薬などが好ましい。これらは1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
【0078】
溶媒としては、反応基質に対して活性である溶媒以外であれば特に限定はないが、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の非芳香族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒;水;等が挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。また、必要により、界面活性剤を1mol%以上100mol%以下加えることもできる。
【0079】
<精製方法>
上記の各合成で得られた生成物の精製方法としては、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知の何れの方法を用いることが出来る。
【0080】
具体例としては、「分離精製技術ハンドブック」(1993年、(財)日本化学会編)、「化学変換法による微量成分および難精製物質の高度分離」(1988年、(株)アイピーシー発行)、あるいは「実験化学講座(第4版)1」(1990年、(財)日本化学会編)の「分離と精製」の項に記載の方法等が挙げられる。
【0081】
さらに具体的には、抽出(懸濁洗浄、煮沸洗浄、超音波洗浄、酸塩基洗浄を含む)、吸着、吸蔵、融解、晶析(溶媒からの再結晶、再沈殿を含む)、蒸留(常圧蒸留、減圧蒸留)、蒸発、昇華(常圧昇華、減圧昇華)、イオン交換、透析、濾過、限外濾過、逆浸透、圧浸透、帯域溶解、電気泳動、遠心分離、浮上分離、沈降分離、磁気分離、各種クロマトグラフィー(形状分類:カラム、ペーパー、薄層、キャピラリー。移動相分類:ガス、液体、ミセル、超臨界流体。分離機構:吸着、分配、イオン交換、分子ふるい、キレート、ゲル濾過、排除、アフィニティー。)などが挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
【0082】
生成物の確認や純度の分析方法としては、ガスクロマトグラフ(GC)、高速液体クロマトグラフ(HPLC)、キャピラリー電気泳動測定(CE)、サイズ排除クロマトグラフ(SEC)、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)、交差分別クロマトグラフ(CFC)質量分析(MS、LC/MS、GC/MS、MS/MS)、核磁気共鳴装置(NMR(1H−NMR、13C−NMR))、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)、紫外可視近赤外分光光度計(UV.VIS,NIR)、電子スピン共鳴装置(ESR)、透過型電子顕微鏡(TEM−EDX)電子線マイクロアナライザー(EPMA)、金属元素分析(イオンクロマトグラフ、誘導結合プラズマ−発光分光(ICP−AES)原子吸光分析(AAS)蛍光X線分析装置(XRF))、非金属元素分析、微量成分分析(ICP−MS、GF−AAS、GD−MS)等を必要に応じ、適用可能である。これらは1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
【0083】
[1−4.ジアリールピレン化合物の好ましい例]
以下、本発明のジアリールピレン化合物の好ましい例について例示する。なお、以下は例示であって、本発明のジアリールピレン化合物は、前記式(1)で表わされる化合物であれば制限はない。
【0084】
【化21】

【0085】
【化22】

【0086】
【化23】

【0087】
【化24】

【0088】
【化25】

【0089】
【化26】

【0090】
<1−5.ジアリールピレン化合物の用途>
本発明のジアリールピレン化合物は、高耐熱性、有機溶剤に対する優れた溶解性、あるいは高い電荷輸送性を有するため、電荷輸送材料あるいは発光材料として、電子写真感光体、有機電界発光素子、光電変換素子、有機太陽電池、有機整流素子等に好適に使用できる。
また、高い一重項励起準位、優れた蛍光量子収率、優れた電気的耐久性、あるいは優れた非晶質性を有することから、本発明のジアリールピレン化合物からなる電荷輸送材料を用いることにより、耐熱性に優れ、長期間安定に駆動(発光)する有機電界発光素子が得られる。そのため、本発明のジアリールピレン化合物および電荷輸送材料は有機電界発光素子材料として、とりわけ好適である。
【0091】
[2.有機電界発光素子用材料]
本発明のジアリールピレン化合物は、電荷輸送材料として用いることができる。ここで、電荷輸送材料とは、公知の何れかの方法を用いて成膜したときに、電荷輸送性を有する膜を形成することを目的とした材料のことである。
【0092】
また、本発明のジアリールピレン化合物は、電荷輸送材料の中でも特に有機電界発光素子用材料として用いることが好ましい。ただし、電荷輸送能を有するので、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層等に用いることが好ましく、中でも発光層に用いることが好ましい。特に、発光層においてホスト材料あるいはドーパント材料として用いられることが好ましい。特にホスト材料として用いることが好ましい。
【0093】
本発明の有機電界発光素子材料を用いて有機層を形成する場合には、湿式成膜法、蒸着法等、公知の何れの方法でも行なうことができるが、中でも湿式成膜法に用いることが好ましい。
この場合、本発明のジアリールピレン化合物を溶剤に分散又は溶解させた状態で成膜し、その後、溶剤の一部あるいは全部を除去することで、電荷輸送性を有する有機層を形成することができる。
【0094】
[3.有機電界発光素子用組成物]
本発明はまた、本発明のジアリールピレン化合物を含有する有機電界発光素子用組成物に関する。
本発明の有機電界発光素子用組成物には、本発明のジアリールピレン化合物の他、有機電界発光素子、特に発光層に用いられる電荷輸送性化合物を含有することができる。本発明のジアリールピレン化合物をホスト材料とし、他の電荷輸送性化合物をドーパント材料として含んでいてもよいし、本発明のジアリールピレン化合物をドーパント材料とし、他の電荷輸送性化合物をホスト材料として含んでいてもよい。また、ドーパント材料、ホスト材料ともに、本発明のジアリールピレン化合物であってもよい。
【0095】
他の電荷輸送性化合物としては、例えば、ペリレン、ピレン、アントラセン、クリセン、クマリン、p−ビス(2−フェニルエテニル)ベンゼンおよびそれらの誘導体、キナクリドン誘導体、DCM(4-(dicyanomethylene)-2-methyl-6-(p-dimethylaminostyryl)-4H-pyran)系化合物、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、アザベンゾチオキサンテン等が挙げられる。
【0096】
<発光材料>
有機電界発光素子用組成物は、特に発光材料を含有することが好ましい。
ここで、発光材料とは、不活性ガス雰囲気下、室温で、希薄溶液中における、蛍光量子収率が30%以上である材料であって、希薄溶液中における蛍光スペクトルとの対比から、それを用いて作製された有機電界発光素子に通電した際に得られるELスペクトルの一部または全部が、該材料の発光に帰属される材料、と定義される。
【0097】
発光材料の具体例としては、アリールアミノ基が置換された縮合芳香族環化合物、アリールアミノ基が置換されたスチリル誘導体等があげられる。
【0098】
アリールアミノ基が置換された縮合芳香族環化合物としては、国際公開第2006/070712号パンフレットにおいて式(6)〜式(11)で表わされる化合物が好ましい。なお、式(11)における核炭素数が5〜40のアリール基として、国際公開第2006/070712号パンフレットに記載されている例示の他に、ベンゾフェナンスリルも好ましい。
【0099】
アリールアミノ基が置換されたスチリル誘導体としては、国際公開第2006/070712号パンフレットにおいて、式(12)で表わされる化合物が好ましい。
【0100】
その他、青色用の発光材料として以下の化合物を使用することもできる。
【化27】

【0101】
【化28】

【0102】
【化29】

【0103】
なお、青色用の発光材料としては好ましい化合物としては、中心骨格に好ましくは3以上、更に好ましくは4以上、また、好ましくは7以下、更に好ましくは6以下の芳香環核が縮合したアリール基である。その中心骨格としては、クリセニル基、ナフタセニル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基、コロニル基、フルオランテニル基、ベンゾフェナントリル基、アセナフトフルオランテニル基、フルオレニル基等が挙げられる。
【0104】
有機電界発光素子用組成物の発光材料は、1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
また、有機電界発光素子用組成物に対する発光材料は、該組成物を100重量部とすると、通常1重量部以上、また、通常50重量部以下、好ましくは30重量部以下である。この範囲を上回ると、発光効率の低下、駆動寿命の低下、発光スペクトルのブロード化等が生じる可能性がある。また、この範囲を下回ると、発光寿命の低下、駆動寿命の低下、駆動電圧の上昇が生じる可能性がある。
【0105】
<溶剤>
有機電界発光素子用組成物は、さらに溶剤を含有することが好ましい。
ここで溶剤とは、湿式成膜により本発明のジアリールピレン化合物を含む層を形成するために用いる、揮発性を有する液体成分である。
【0106】
溶剤は、溶質が良好に溶解する溶剤であれば特に限定されないが、以下の例が好ましい。
例えば、n−デカン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、ビシクロヘキサン等のアルカン類;トルエン、キシレン、メチシレン、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素類;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール、ジフェニルエーテル等の芳香族エーテル類;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル類、シクロヘキサノン、シクロオクタノン、フェンコン等の脂環族ケトン類;シクロヘキサノール、シクロオクタノール等の脂環族アルコール類;メチルエチルケトン、ジブチルケトン等の脂肪族ケトン類;ブタノール、ヘキサノール等の脂肪族アルコール類;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル類;等が挙げられる。
中でも好ましくは、アルカン類や芳香族炭化水素類である。これらの溶剤は1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
【0107】
(沸点)
溶剤の沸点は、通常100℃以上、好ましくは150℃以上、より好ましくは200℃以上である。この範囲を下回ると、湿式成膜時において、有機電界発光素子用組成物からの溶剤蒸発による、成膜安定性の低下する可能性がある。
また、より均一な膜を得るためには、成膜直後の液膜から溶剤が適当な速度で蒸発することが好ましい。このため、溶剤の沸点は通常80℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、また、通常270℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは沸点230℃以下である。
【0108】
(使用量)
溶剤の使用量は、有機電界発光素子用組成物100重量部に対して、好ましくは10重量部以上、より好ましくは50重量部以上、特に好ましくは80重量部以上、また、好ましくは99.95重量部以下、より好ましくは99.9重量部以下、特に好ましくは99.8重量部以下である。含有量が10重量部を下回ると、粘性が高くなりすぎ、成膜作業性が低下する可能性がある。一方、99.95重量部を上回ると、成膜後、溶媒を除去して得られる膜の厚みが稼げなくなるため、成膜が困難となる傾向がある。
【0109】
<その他、有機電界発光素子用組成物に含有してよいもの>
有機電界発光素子用組成物には、必要に応じて、上記の化合物等の他に、更に他の化合物を含有していてもよい。
【0110】
例えば、上記の溶剤の他に、別の溶剤を含有していてもよい。そのような溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
【0111】
また、成膜性の向上を目的として、レベリング剤や消泡剤等の各種添加剤を含有してもよい。
【0112】
[4.有機電界発光素子]
本発明はまた、基板上に、陽極、陰極、およびこれら両極間に設けられた有機発光層を有する有機電界発光素子であって、本発明のジアリールピレン化合物を含有する層を有することを特徴とする有機電界発光素子に関する。
【0113】
<構成>
図1は、本発明の有機電界発光素子として好適な構造例を示す断面模式図である。
図1において、有機電界発光素子10は、基板1上に陽極2、正孔注入層3、正孔輸送層4、発光層5、正孔阻止層6、電子輸送層7、陰極バッファ層8、陰極9をこの順に積層され形成されている。これらの層のうち、正孔注入層3から陰極バッファ層8(ただし、発光層5を除く)までの層は、必要に応じて全ての層が積層されていても、何れかの層が積層されていなくてもよい。
【0114】
また、本発明の有機電界発光素子は、本発明の効果を著しく損なわない限り、図1の構成に限定されず、任意の形状、配置等をとることができる。例えば、基板上に上記の有機発光素子10とは逆順に積層(即ち、陰極側から積層)してもよい。
【0115】
本発明の有機電界発光素子は、有機電界発光素子を構成する少なくとも1つの層に、本発明のジアリールピレン化合物を含有する。ただし、本発明のジアリールピレン化合物を含有する層は、電荷輸送能を有するので、正孔注入層3、正孔輸送層4、発光層5、電子輸送層7等に用いることが好ましく、中でも発光層5に用いることが好ましい。
以下、図1を例として、上記の層について詳説する。
【0116】
<基板1>
基板1は、有機電界発光素子10の支持体となるものである。
基板1の材料は、本発明の効果を著しく損なわない制限はないが、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシート等が好ましい。特に、ガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホンなどの透明な合成樹脂の板が好ましい。これらは1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
【0117】
なお、基板1として、合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意することが望ましい。基板1のガスバリア性が低すぎると、基板1を通過した外気により、有機電界発光素子10が劣化する場合がある。このため、合成樹脂基板の少なくとも片面に、緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する方法等を講じることが好ましい。
【0118】
基板1の厚さは制限されないが、通常0.01mm以上、好ましくは0.1mm以上、さらに好ましくは0.2mm以上、また、通常5cm以下、好ましくは2cm以下、さらに好ましくは1cm以下である。
【0119】
なお、基板1は単一の層からなる構成であってもよいし、複数の層が積層された構成を有していてもよい。後者の場合、複数の層は同一の材料からなる層であってもよいし、異なる材料からなる層であってもよい。
【0120】
<陽極2>
基板1の上には、陽極2が形成される。
陽極2は、基板1と反対方向の隣接する層への正孔注入の役割を果たすものである。
【0121】
陽極2の材料は、導電性を有していれば制限はないが、例えば、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウムおよび/またはスズの酸化物などの金属酸化物、ヨウ化銅などのハロゲン化金属、カーボンブラック、あるいは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等が好ましい。これらは1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
【0122】
陽極2を形成する手法は制限されないが、通常はスパッタリング法、真空蒸着法等が用いられる。また、銀等の金属微粒子、ヨウ化銅などの微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末等を用いて陽極2を形成する場合には、これらを適当なバインダー樹脂溶液に分散させ、基板1上に塗布することにより、陽極2を形成することもできる。
【0123】
更に、導電性高分子を材料として用いる場合は、電解重合により基板1上に薄膜を直接形成したり、基板1上に導電性高分子を塗布して陽極2を形成したりすることもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。
【0124】
なお、図1において、陽極2は単層構造であるが、所望により複数の層が積層された積層構造としてもよい。後者の場合、複数の層は同一の材料からなる層であってもよいし、異なる材料からなる層であってもよい。
更には、陽極2を上述の基板1と一体に形成し、陽極2が基板1を兼ねる構成としてもよい。
【0125】
陽極2の厚みは、陽極2に求められる透明性により適宜選定される。
陽極2に透明性が求められる場合には、可視光の透過率を通常60%以上、好ましくは80%以上とすることが望ましい。この場合、陽極2の厚みは、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下である。陽極2が薄すぎると、電気抵抗が大きくなる場合がある。また、厚すぎると透明性が低下する。
【0126】
一方、陽極2が不透明でよい場合、陽極2の厚みは任意である。
【0127】
なお、陽極2に付着した不純物を除去し、イオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させることを目的として、陽極2の表面に対して、紫外線(UV)処理、オゾン処理をしたり、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ等のプラズマ処理をしたりすることが好ましい。
【0128】
<正孔注入層3>
陽極2の上には、正孔注入層3が形成することができる。
正孔注入層3は、陽極2の陰極側に隣接する層へ正孔を輸送する層である。
なお、本発明の有機電界発光素子10は、正孔注入層3を省いた構成であってもよい。
【0129】
正孔注入層3は、正孔輸送性化合物を含むことが好ましく、正孔輸送性化合物と電子受容性化合物とを含むことがより好ましい。更には、正孔注入層3中にカチオンラジカル化合物を含むことが好ましく、カチオンラジカル化合物と正孔輸送性化合物とを含むことが特に好ましい。
【0130】
正孔注入層3は、必要に応じて、バインダー樹脂や塗布性改良剤を含んでもよい。なお、バインダー樹脂は、電荷のトラップとして作用し難いものが好ましい。
【0131】
また、正孔注入層3は、電子受容性化合物のみを湿式成膜法によって陽極2上に成膜し、その上から直接、有機電界発光素子用組成物を塗布、積層することも可能である。この場合、有機電界発光素子用組成物の一部が電子受容性化合物と相互作用することによって、正孔注入性に優れた層が形成される。
【0132】
(正孔輸送性化合物)
上記の正孔輸送性化合物としては、4.5eV〜6.0eVのイオン化ポテンシャルを有する化合物が好ましい。ただし、湿式成膜法に用いる場合には、湿式成膜法に用いる溶媒への溶解性が高い方が好ましい。
【0133】
正孔輸送性化合物の例としては、芳香族アミン化合物、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、ポリチオフェン誘導体等が挙げられる。中でも非晶質性、可視光の透過率の点から、芳香族アミン化合物が好ましい。
【0134】
芳香族アミン化合物の種類は特に制限されず、低分子化合物であっても高分子化合物であってもよいが、表面平滑化効果の点から、重量平均分子量が1000以上、1000000以下の高分子化合物(繰り返し単位が連なる重合型炭化水素化合物)が好ましい。
【0135】
また、芳香族アミン化合物の中でも、特に、芳香族三級アミン化合物が好ましい。ここで、芳香族三級アミン化合物とは、芳香族三級アミン構造を有する化合物であって、芳香族三級アミン由来の基を有する化合物も含む。
【0136】
芳香族三級アミン高分子化合物の好ましい例としては、下記式(i)で表わされる繰り返し単位を有する高分子化合物が挙げられる。
【化30】

(上記式(i)中、Ara1、Ara2は各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表わす。Ara3〜Ara5は、各々独立して、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基、または置換基を有していてもよい2価の芳香族複素環基を表わす。Zaは、下記の連結基群の中から選ばれる連結基を表わす。また、Ara1〜Ara5のうち、同一のN原子に結合する二つの基は互いに結合して環を形成してもよい。)
【化31】

(上記各式中、Ara6〜Ara16は、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環、または置換基を有していてもよい芳香族複素環由来の1価または2価の基を表わす。Ra1およびRa2は、各々独立して、水素原子または任意の置換基を表わす。)
【0137】
Ara1〜Ara16としては、任意の芳香族炭化水素環または芳香族複素環由来の1価または2価の基が適用可能である。これらの基は各々同一であっても、互いに異なっていてもよい。また、これらの基は、更に任意の置換基を有していてもよい。置換基の分子量としては、通常400以下、中でも250以下程度が好ましい。
【0138】
Ara1、Ara2としては、高分子化合物の溶解性、耐熱性、正孔注入・輸送性の観点から、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、チオフェン環、ピリジン環由来の1価の基が好ましく、フェニル基、ナフチル基がさらに好ましい。
【0139】
また、Ara3〜Ara5としては、耐熱性、酸化還元電位を含めた正孔注入・輸送性の点から、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環由来の2価の基が好ましく、フェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基がさらに好ましい。
【0140】
一般式(i)で表される繰り返し単位を有する芳香族三級アミン高分子化合物の具体例としては、国際公開第2005/089024号パンフレットに記載の化合物が挙げられる。
正孔注入層の材料として用いられる正孔輸送性化合物は、このような化合物のうち何れか1種を単独で含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。
2種以上の正孔輸送性化合物を含有する場合、その組み合わせは任意であるが、芳香族三級アミン高分子化合物1種または2種以上と、その他の正孔輸送性化合物1種または2種以上とを併用するのが好ましい。
【0141】
(電子受容性化合物)
電子受容性化合物としては、酸化力を有し、上述の正孔輸送性化合物から一電子受容する能力を有する化合物が好ましい。具体的には、電子親和力が4eV以上である化合物が好ましく、5eV以上の化合物である化合物がさらに好ましい。
【0142】
電子受容性化合物の例としては、例えば、4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート等の有機基の置換したオニウム塩、塩化鉄(III)(特開平11−251067号公報)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等の高原子価の無機化合物、テトラシアノエチレン等のシアノ化合物、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(特開2003−31365号公報)等の芳香族ホウ素化合物、フラーレン誘導体、ヨウ素等が挙げられる。
【0143】
上記の化合物のうち、強い酸化力を有する点で、有機基の置換したオニウム塩、高原子価の無機化合物等が好ましい。また、種々の溶剤に可溶で湿式塗布に適用可能である点で、有機基の置換したオニウム塩、シアノ化合物、芳香族ホウ素化合物等が好ましい。
【0144】
電子受容性化合物として好適な有機基の置換したオニウム塩、シアノ化合物、芳香族ホウ素化合物の具体例としては、国際公開第2005/089024号パンフレットに記載のものが挙げられ、その好適例も同様である。例えば、下記構造式で表わされる化合物が挙げられるが、何らそれらに限定されるものではない。
なお、電子受容性化合物は1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
【化32】

【0145】
(カチオンラジカル化合物)
カチオンラジカル化合物としては、正孔輸送性化合物から一電子取り除いた化学種であるカチオンラジカルと、対アニオンとからなるイオン化合物が好ましい。但し、カチオンラジカルが正孔輸送性の高分子化合物由来である場合、カチオンラジカルは高分子化合物の繰り返し単位から一電子取り除いた構造となる。
【0146】
カチオンラジカルとしては、正孔輸送性化合物として前述した化合物から一電子取り除いた化学種であることが好ましい。正孔輸送性化合物として好ましい化合物から一電子取り除いた化学種であることが、非晶質性、可視光の透過率、耐熱性、溶解性などの点から好適である。
【0147】
ここで、カチオンラジカル化合物は、前述の正孔輸送性化合物と電子受容性化合物を混合することにより生成させることができる。即ち、前述の正孔輸送性化合物と電子受容性化合物とを混合することにより、正孔輸送性化合物から電子受容性化合物へと電子移動が起こり、正孔輸送性化合物のカチオンラジカルと対アニオンとからなるカチオンイオン化合物が生成する。
【0148】
PEDOT/PSS(Adv.Mater.,2000年,12巻,481頁)やエメラルジン塩酸塩(J.Phys.Chem.,1990年,94巻,7716頁)等の高分子化合物由来のカチオンラジカル化合物は、酸化重合(脱水素重合)することによっても生成する。
【0149】
ここでいう酸化重合は、モノマーを酸性溶液中で、ペルオキソ二硫酸塩等を用いて化学的に、または、電気化学的に酸化するものである。この酸化重合(脱水素重合)の場合、モノマーが酸化されることにより高分子化されるとともに、酸性溶液由来のアニオンを対アニオンとする、高分子の繰り返し単位から一電子取り除かれたカチオンラジカルが生成する。
【0150】
(正孔注入層3の製造方法)
正孔注入層3は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意の方法で形成することができるが、例えば、湿式成膜法または真空蒸着法により陽極2上に形成される。
【0151】
湿式成膜法による層形成の場合、前述した各材料(正孔輸送性化合物、電子受容性化合物、カチオンラジカル化合物)の1種または2種以上の所定量を、必要により電荷のトラップとして作用し難いバインダー樹脂や塗布性改良剤と共に溶剤に溶解させて、まず塗布溶液を調製する。次いで、スピンコート、スプレーコート、ディップコート、ダイコート、フレキソ印刷、スクリーン印刷、インクジェット法等の湿式成膜法により陽極上に塗布し、乾燥して、正孔注入層3を形成させることができる。
【0152】
湿式成膜法による層形成のために用いられる溶剤としては、前述の各材料(正孔輸送性化合物、電子受容性化合物、カチオンラジカル化合物)を溶解することが可能な溶剤であれば、その種類は特に限定されない。なお、正孔注入層に用いられる各材料(正孔輸送性化合物、電子受容性化合物、カチオンラジカル化合物)を失活させる可能性のある失活物質または失活物質を発生させる物質を含まないことが好ましい。
好ましくは、溶剤の具体例としては、エーテル系溶剤またはエステル系溶剤が挙げられる。
【0153】
上記塗布溶液中における溶剤の濃度は、通常10重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50%重量以上、また、通常、99.999重量%以下、好ましくは99.99重量%以下、さらに好ましくは99.9重量%以下である。なお、2種以上の溶剤を混合して用いる場合には、これらの溶剤の合計がこの範囲を満たすようにすればよい。
【0154】
真空蒸着法による層形成の場合には、まず、前述した各材料(正孔輸送性化合物、電子受容性化合物、カチオンラジカル化合物)の1種または2種以上を真空容器内に設置されたるつぼに入れ(2種以上材料を用いる場合は各々のるつぼに入れ)、次いで、真空容器内を適当な真空ポンプで10-4Pa程度まで排気する。その後、るつぼを加熱し(2種以上材料を用いる場合は各々のるつぼを加熱し)、蒸発量を制御して蒸発させて(2種以上材料を用いる場合はそれぞれ独立に蒸発量を制御して蒸発させ)、るつぼと向き合って置かれた基板の陽極上に正孔注入層を形成させることができる。なお、2種以上の材料を用いる場合は、それらの混合物をるつぼに入れ、加熱し蒸発させて正孔注入層形成に用いることもできる。
【0155】
上述のようにして形成される正孔注入層3の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。正孔注入層3が薄すぎると、正孔注入性が不十分になる可能性がある。また、厚すぎると、抵抗が高くなる場合がある。
【0156】
なお、正孔注入層3は単一の層からなる構成としてもよいが、複数の層が積層された構成としてもよい。後者の場合、複数の層は同一の材料からなる層であってもよいし、異なる材料からなる層であってもよい。
【0157】
<正孔輸送層4>
正孔輸送層4は、正孔注入層3が有る場合には正孔注入層3の上に、正孔注入層3が無い場合には陽極2の上に形成することができる。
正孔輸送層4によって、発光層5へ正孔を輸送し効率良く注入することができる。
なお、本発明の有機電界発光素子10は、正孔輸送層4を省いた構成であってもよい。
【0158】
正孔輸送層4に利用できる材料としては、正孔輸送性が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることが好ましい。そのために、イオン化ポテンシャルが小さく、可視光の光に対して透明性が高く、正孔移動度が大きく、安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが好ましい。
また、多くの場合発光層5に接するため、発光層5からの発光を消光したり、発光層5との間でエキサイプレックスを形成して効率を低下させないことが好ましい。
【0159】
このような正孔輸送材料としては、例えば、前述の正孔注入層3に使用される正孔輸送性化合物に加えて、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルで代表わされる2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5−234681号公報)、4,4’,4”−トリス(1−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(J.Lumin.,72−74巻、985頁、1997年)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン化合物(Chem.Commun.,2175頁、1996年)、2,2’,7,7’−テトラキス−(ジフェニルアミノ)−9,9’−スピロビフルオレン等のスピロ化合物(Synth.Metals,91巻、209頁、1997年)、4,4’−N,N’−ジカルバゾールビフェニルなどのカルバゾール誘導体等が挙げられる。
【0160】
更には、後述する成膜法により薄膜を形成した後、加熱や光や磁気等の電磁波照射などによって重合する化合物や、任意の複数化合物が予め重合した高分子を利用することも可能である。このような重合する化合物としては、架橋基を有するトリアリールアミン誘導体、フルオレン誘導体などが挙げられる。
【0161】
このような高分子としては、例えばポリビニルカルバゾール、ポリビニルトリフェニルアミン(特開平7−53953号公報)、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン(Polym.Adv.Tech.,7巻、33頁、1996年)等が挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
【0162】
正孔輸送層4は、例えば、スプレー法、印刷法、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法などの通常の塗布法や、インクジェット法、スクリーン印刷法など各種印刷法等の湿式成膜法や、真空蒸着法などの乾式成膜法で形成することができる。
【0163】
塗布法の場合は、正孔輸送材料の1種又は2種以上に、必要により正孔のトラップにならない重合開始剤、バインダー樹脂や塗布性改良剤などの添加剤を混合し、適当な溶剤に溶解して塗布溶液を調製し、スピンコート法などの方法により陽極2あるいは正孔注入層3上に塗布し、乾燥して正孔輸送層4を形成する。
【0164】
バインダー樹脂としては、例えばポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル等が挙げられる。バインダー樹脂は使用量が多いと正孔移動度を低下させるので、少ない方が望ましく、通常、正孔輸送層中の含有量で50重量%以下が好ましい。
【0165】
また、真空蒸着法の場合には、例えば正孔輸送材料を真空容器内に設置されたルツボに入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで減圧した後、ルツボを加熱して、正孔輸送材料を蒸発させ、ルツボと向かい合って置かれた、陽極2あるいは正孔注入層3上に正孔輸送層4を形成させることができる。
【0166】
正孔輸送層4の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0167】
<発光層5>
発光層5は、正孔輸送層4が有る場合には正孔輸送層4の上に、正孔輸送層4が無くて正孔注入層3が有る場合には正孔注入層3の上に、正孔輸送層4と正孔注入層3が無い場合には陽極2の上に形成される。
発光層5は前述の正孔注入層3や正孔輸送層4、及び後述する正孔阻止層6や電子輸送層7等とは独立した層であってもよいが、独立した発光層5を形成せず、正孔輸送層4や電子輸送層7など他の有機層が発光層の役割を担ってもよい。
【0168】
発光層5は、電界を与えられた電極間において、陽極2から直接に、又は正孔注入層3や正孔輸送層4等を通じて注入された正孔と、陰極9から直接に、又は陰極バッファ層8や電子輸送層7や正孔阻止層6等を通じて注入された電子との再結合により励起されて、主たる発光源となる層である。
なお、本発明の発光層5は、本発明のジアリールピレン化合物を含有する層であることが好ましい。具体的には、本発明の有機電界発光素子用材料又は本発明の有機電界発光素子用組成物を用いることが好ましい。
【0169】
発光層5は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意の方法で形成することができるが、例えば、湿式成膜法または真空蒸着法により陽極2上に形成される。ただし、大面積の発光素子10を製造する場合には、湿式成膜法の方が好ましい。湿式成膜法、及び真空蒸着法の方法は、正孔注入層3と同様の方法を用いて行なうことができる。
【0170】
一般に有機電界発光素子においては、同じ材料で比較した場合、電極間の膜厚の薄い方が、実効電界が大きくなって注入される電流が多くなるので、駆動電圧が低下する可能性がある。その為、電極間の総膜厚は薄い方がよいが、あまりに薄いとITO等の電極に起因する突起により短絡や、隣接する層界面近傍への励起子拡散に起因する消光などが発生する可能性がある。従って、ある程度の膜厚を有することが望ましい。
したがって、発光層5以外に正孔注入層3や正孔輸送層4、後述する正孔阻止層6や電子輸送層7等の有機層を有する場合、発光層5と他の有機層とを合わせた総膜厚としては、通常30nm以上、好ましくは50nm以上であり、さらに好ましくは100nm以上、また、1000nm以下、好ましくは500nm以下であり、さらに好ましくは300nm以下である。
【0171】
また、発光層5以外の有機層の導電性が高い場合、発光層5に注入される電荷量が増加する。例えば正孔注入層3の膜厚を厚くして発光層4の膜厚を薄くする等により、総膜厚としてある程度の膜厚を維持しながら駆動電圧を下げることも可能である。斯かる場合、発光層5の膜厚としては、通常10nm以上、好ましくは20nm以上で、通常300nm以下、好ましくは200nm以下である。
なお、本実施の形態の有機電界発光素子10が、陽極2および陰極9の両極間に、発光層5のみを有する場合の発光層5の膜厚としては、通常30nm以上、好ましくは50nm以上、また、通常500nm以下、好ましくは300nm以下である。
【0172】
<正孔阻止層6>
正孔阻止層6は、発光層5の上に形成することができる。
正孔阻止層6は、陽極2から注入され移動してくる正孔が陰極9に到達するのを阻止することができ、且つ陰極9から注入された電子を効率よく発光層5に輸送、注入することができる化合物によって形成されることが望ましい。
なお、本発明の有機電界発光素子10は、正孔阻止層6を省いた構成であってもよい。
【0173】
正孔阻止層6に利用できる材料としては、電子移動度が高く、かつ、正孔移動度が低いことが好ましい。また、エネルギーギャップ(HOMO(最高被占軌道;Highest Occupied Molecular Orbital)とLUMO(最低空軌道;Lowest Unoccupied Molecular Orbital)との差)が大きいことや、発光層5中で生成した励起子のエネルギーが正孔阻止層6を形成する材料へ移動しないことや、発光層5との間でエキサイプレックスを形成して効率を低下させないこと等がさらに好ましい。
【0174】
このような条件を満たす正孔阻止層用の材料としては、例えば、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(フェノラト)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2−メチル−8−キノラト)アルミニウム−μ−オキソ−ビス−(2−メチル−8−キノリラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(特開平11−242996号公報)、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール誘導体(特開平7−41759号公報);バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(特開平10−79297号公報);2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物(国際公開第2005/022962号パンフレット);等が挙げられる。
これらは1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
【0175】
正孔阻止層6の膜厚は、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。正孔阻止層6は、正孔注入層3から発光層5までの各層と同様の方法で形成することができ、湿式成膜法、真空蒸着法等を用いることができる。
【0176】
<電子輸送層7>
電子輸送層7は、正孔阻止層6が有る場合には正孔阻止層6の上に、正孔阻止層が無い場合には発光層5の上に形成することができる。
電子輸送層7は、電界を与えられた電極間において陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送することができる化合物によって形成されることが望ましい。
なお、本発明の有機電界発光素子10は、電子輸送層7を省いた構成であってもよい。
【0177】
電子輸送層7に利用できる電子輸送性化合物としては、陰極9または陰極バッファ層8からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し注入された電子を効率よく輸送することができる化合物であることが好ましい。
【0178】
このような条件を満たす電子輸送性化合物としては、例えば8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体等の金属錯体(特開昭59−194393号公報)、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3−または5−ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5,645,948号)、キノキサリン化合物(特開平6−207169号公報)、フェナントロリン誘導体(特開平5−331459号公報)、2−t−ブチル−9,10−N,N’−ジシアノアントラセンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛等が挙げられる。
これらは1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
【0179】
電子輸送層7の膜厚は、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。電子輸送層7は、正孔注入層3から正孔阻止層6までの各層と同様の方法で形成することができ、例えば、湿式成膜法、又は真空蒸着法により形成することができる。中でも真空蒸着法が好ましい。
【0180】
<陰極バッファ層8>
陰極バッファ層8は、電子輸送層7が有る場合には電子輸送層7の上に、電子輸送層7が無くて正孔阻止層6が有る場合には正孔阻止層6の上に、電子輸送層7と正孔阻止層6が無い場合には発光層5の上に形成することができる。
陰極バッファ層8は、陰極9から注入された電子を効率よく隣接する有機層へ注入する層である。
なお、本発明の有機電界発光素子10は、陰極バッファ層8を省いた構成であってもよい。
【0181】
陰極バッファ層8に利用できる材料としては、仕事関数の低い金属を使用することが好ましい。有機層へ電子注入を効率よく行うためである。
具体的には、例えば、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属が用いられる。また、LiF、MgF2、Li2O、Cs2CO3等の金属塩を利用することもできる(Appl.Phys.Lett.,70巻,152頁,1997年;特開平10−74586号公報;IEEETrans.Electron.Devices,44巻,1245頁,1997年;SID 04 Digest,154頁)。これらは1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
【0182】
陰極バッファ層8の膜厚としては、通常0.01nm以上、好ましくは0.1nm以上で、通常は10nm以下、より好ましくは5nm以下である。
【0183】
陰極バッファ層8は、前述の正孔注入層3から電子輸送層7までの各層と同様の方法で形成することができ、例えば、湿式成膜法、又は真空蒸着法により形成することができる。
真空蒸着法の場合には、例えば、真空容器内に設置されたるつぼ又は金属ボートに蒸着源を入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで減圧する。その後、るつぼ又は金属ボートを加熱して蒸発させ、るつぼまたは金属ボートと向き合って置かれた基板上に陰極バッファ層8を形成することができる。
【0184】
アルカリ金属の蒸着は、例えばクロム酸アルカリ金属と還元剤をニクロムに充填したアルカリ金属ディスペンサーを用いて行うことができる。このディスペンサーを真空容器内で加熱することにより、クロム酸アルカリ金属が還元されてアルカリ金属が蒸発される。有機電子輸送材料とアルカリ金属とを共蒸着する場合は、有機電子輸送材料を真空容器内に設置されたるつぼに入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで減圧する。その後、各々のるつぼ及びディスペンサーを同時に加熱して蒸発させ、るつぼおよびディスペンサーと向き合って置かれた基板上に陰極バッファ層8を形成することができる。このとき、陰極バッファ層8の膜厚方向において均一に共蒸着されるが、膜厚方向において濃度分布があってもよい。
【0185】
<陰極9>
陰極9は、陰極バッファ層8が有る場合には陰極バッファ層8の上に、陰極バッファ層8が無くて電子輸送層7が有る場合には電子輸送層7の上に、陰極バッファ層8と電子輸送層7が無くて正孔阻止層6が有る場合には正孔阻止層6の上に、陰極バッファ層8と電子輸送層7と正孔阻止層6とが無い場合には発光層5の上に形成される。
陰極9は、隣接する陽極側の層(陰極バッファ層8、電子輸送層7等)に電子を注入する役割を果たす。
【0186】
陰極9の形成には、前記陽極2に使用される材料を用いることが可能である。効率よく電子注入を行うには、仕事関数の低い金属を用いることが好ましく、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の金属又はそれらの合金が用いられる。
低仕事関数合金電極を形成する素材の具体例としては、アルミニウム、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等が挙げられる。
これらは1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
【0187】
陰極9の膜厚は、通常は陽極2と同様であるが、低仕事関数金属からなる陰極を保護する目的で、陰極9の上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層することができる。この目的に適した金属としては、例えば、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が挙げられる。
【0188】
<その他の構成層>
以上、図1に示す層構成の素子を中心に説明してきたが、本発明の有機電界発光素子は、陽極2及び陰極9と、発光層5との間には、その性能を損なわない限り、上記説明にある層の他に任意の層を有していてもよい。また、発光層の役割を担う最低一層の有機層以外の任意の層を省略してもよい。
【0189】
また、正孔阻止層6と同様の目的で、発光層5の陽極側に隣接する形で電子阻止層を設けることも可能である。電子阻止層は、発光層5から移動してくる電子が正孔注入層3あるいは正孔輸送層4に到達するのを阻止することで、発光層5内で正孔との再結合確率を増やし、生成した励起子を発光層5内に閉じこめる役割と、陽極側の層から注入された正孔を効率よく発光層5に注入する役割とがある。
【0190】
更には、図1に示す層構成を複数段重ねた構造(発光ユニットを複数積層させた構造)とすることも可能である。この場合、段間(発光ユニット間)の界面層(陽極がITO、陰極がAlの場合はその2層)の代わりに、例えばV25等を電荷発生層(CGL)として用いると、段間の障壁が少なくなり、発光効率・駆動電圧の観点からより好ましい。
【0191】
本発明の有機電界発光素子は、単一の素子、アレイ状に配置された構造からなる素子、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構造のいずれにおいても適用することができる。
また、本発明の有機電界発光素子において、透明陰極を用いることにより、上方より(基板1とは反対側の面より)発光を取り出す、トップエミッション型の素子として形成することも可能である。
【実施例】
【0192】
以下、本発明について、実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りがない限り、以下の記載において「部」とは「重量部」のことを表わす。
【0193】
[実施例1]
本発明のジアリールピレン化合物の一種を合成した。合成は、硼素化したピレン(下記化合物2)を出発物質として、目的化合物1(本発明のジアリールピレン化合物)を得る多段階反応を行なった。
以下、該多段階反応の合成経路について、2段階に分けて各反応段階の実施内容について説明する。
【0194】
(第1段階)
以下の式は、該多段階反応の合成経路のうち、1−ブロモ−3−ヨードベンゼンと3−ビフェニルボロン酸とから、化合物1を合成するまでを表わしたスキームである。
【0195】
【化33】

【0196】
窒素雰囲気下、室温で1−ブロモ−3−ヨードベンゼン(15g)と、3−ビフェニルボロン酸(10g)とを、トルエン(252ml:上記のスキームでは「Toluene」と表わす。)と、エタノール(126ml:上記のスキームでは「EtOH」と表わす。)との混合溶媒に加え、さらにテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(2.91g:上記のスキームでは「Pd(PPh34」と表わす。)と、2M炭酸カリウム水溶液(63ml:上記スキームでは「K2CO3」と「H2O」とで表わす。)とを加え、7時間還流させた。
【0197】
室温まで放冷後、反応混合物をトルエンで抽出し、有機層を水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン=10/1)にて精製し、化合物1(13.5g)を得た。
【0198】
(第2段階)
以下の式は、該多段階反応の合成経路のうち、化合物1と化合物2とから、目的化合物1を合成するまでを表わしたスキームである。
【0199】
【化34】

【0200】
窒素雰囲気下、室温で化合物2(1g)と、化合物1(1.32g)とを、トルエン(22ml:上記のスキームでは「Toluene」と表わす。)と、エタノール(11ml:上記のスキームでは「EtOH」と表わす。)との混合溶媒に懸濁し、さらにテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.13g:上記のスキームでは「Pd(PPh34」と表わす。)と、2M炭酸ナトリウム水溶液(5.5ml:上記スキームでは「Na2CO3」と「H2O」とで表わす。)とを加え、10時間還流させた。
【0201】
室温まで放冷後、反応混合物をろ過し、ろ取物を再結晶(N,N−ジメチルホルムアミド)にて精製することで化合物(0.97g)を得た。該化合物に、DEI−MS(Desorption electron ionization mass spectrum:脱離電子イオン化法マススペクトル法)を行なった結果、m/z=658(M+)であった。これにより該化合物が目的化合物1(0.97g)であることを確認した。
【0202】
[実施例2]
本発明のジアリールピレン化合物の一種を合成した。合成は、硼素化したピレン(下記化合物2)を出発物質として、目的化合物2(本発明のジアリールピレン化合物)を得た。以下の式は、該合成について表わしたスキームである。
【0203】
【化35】

【0204】
窒素雰囲気下、室温で化合物2(1g)と、化合物3(1.22g)とを、トルエン(22ml:上記のスキームでは「Toluene」と表わす。)と、エタノール(11ml:上記のスキームでは「EtOH」と表わす。)との混合溶媒に加え、さらにテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.13g:上記のスキームでは「Pd(PPh34」と表わす。)と、2M炭酸セシウム水溶液(5.5ml:上記スキームでは「Cs2CO3」と「H2O」とで表わす。)とを加え、8時間還流させた。
【0205】
反応混合物をろ過し、ろ取物を再結晶(N,N−ジメチルホルムアミド)にて精製することで化合物(0.62g)を得た。該化合物に、DEI−MSを行なった結果、m/z=606(M+)であった。これにより該化合物が目的化合物2(0.62g)であることを確認した。
【0206】
(目的化合物2の物性)
上記方法により得られた目的化合物2のガラス転移温度は93℃、窒素気流下での重量減少開始温度は533℃であった。
【0207】
[実施例3]
本発明のジアリールピレン化合物の一種を合成した。合成は、硼素化したピレン(下記化合物2)を出発物質として、目的化合物3(本発明のジアリールピレン化合物)を得る多段階反応を行なった。
以下、該多段階反応の合成経路について、4段階に分けて各反応段階の実施内容について説明する。
【0208】
(第1段階)
1−ブロモ−3−ヨードベンゼンと3−ビフェニルボロン酸とから、化合物1を合成する方法については、実施例1の第1段階と同様である。
以下の式は、該多段階反応の合成経路のうち、化合物1から化合物4を合成するまでを表わしたスキームである。
【0209】
【化36】

【0210】
窒素雰囲気下、−70℃で化合物1(6.8g)のテトラヒドロフラン(120ml:上記のスキームでは「THF」と表わす。)溶液に、n−ブチルリチウムの1.57Mヘキサン溶液(16.8ml:上記のスキームでは「BuLi」と表わす。)を滴下し、5時間半撹拌後、トリメトキシボラン(7.4ml:上記のスキームでは「B(OMe)3」と表わす。)を加え2時間半撹拌した。
【0211】
室温まで昇温後、反応混合物に1N塩酸(上記のスキームでは「H+」と表わす。)を入れ1時間撹拌し、飽和食塩水及び塩化メチレンを入れ抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。残渣を、シリカゲルを充填したカラムクロマトグラフィー上に展開させ、先ず塩化メチレンにて不純物及び副生成物を溶出後、溶媒を塩化メチレンと酢酸エチルの1対1混合溶媒に換え、目的物を溶出させ、化合物4(3.89g)を得た。
【0212】
(第2段階)
以下の式は、該多段階反応の合成経路のうち、化合物4と3,5−ジブロモフェノールとから、化合物5を合成するまでを表わしたスキームである。
【0213】
【化37】

【0214】
窒素雰囲気下、室温で化合物4(3.87g)と、3,5−ジブロモフェノール(1.69g)とを、トルエン(67ml:上記のスキームでは「Toluene」と表わす。)と、エタノール(34ml:上記のスキームでは「EtOH」と表わす。)との混合溶媒に加え、さらにテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.39g:上記のスキームでは「Pd(PPh34」と表わす。)と、2M炭酸ナトリウム水溶液(17ml:上記スキームでは「Na2CO3」と「H2O」とで表わす。)とを加え、7時間半還流させた。
【0215】
室温まで放冷後、反応混合物をトルエンで抽出し、有機層を水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。残渣を、シリカゲルを充填したカラムクロマトグラフィー上に展開させ、先ずヘキサンと塩化メチレンの1対1混合溶媒にて不純物及び副生成物を溶出後、溶媒をヘキサンと塩化メチレンの1対4混合溶媒に換え、目的物を溶出させ、化合物5(3.20g)を得た。
【0216】
(第3段階)
以下の式は、該多段階反応の合成経路のうち、化合物5から、化合物6を合成するまでを表わしたスキームである。
【0217】
【化38】

【0218】
化合物5(2.88g)の塩化メチレン溶液(16ml:上記のスキームではジクロロメタンを「CH2Cl2」と表わす。)に、ピリジン(0.41g:上記のスキームでは「Pyridine」と表わす。)を加え、氷冷下でトリフルオロメタンスルホン酸無水物(3.45g:上記のスキームではジクロロメタンを「Tf2O」と表わす。)を滴下し、1時間半撹拌後、3時間水冷撹拌した。
【0219】
反応混合物に氷水及び1N塩酸を加え、塩化メチレンで抽出し、有機層を氷水、1N塩酸、飽和食塩水の順で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン=2/1)にて精製し、化合物6(3.3g)を得た。
【0220】
(第4段階)
以下の式は、該多段階反応の合成経路のうち、化合物2と化合物6とから、目的化合物3を合成するまでを表わしたスキームである。
【0221】
【化39】

【0222】
窒素雰囲気下、室温で化合物2(0.6g)と、化合物6(1.89g)とを、トルエン(13ml:上記のスキームでは「Toluene」と表わす。)と、エタノール(6.6ml:上記のスキームでは「EtOH」と表わす。)との混合溶媒に懸濁し、さらにテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.07g:上記のスキームでは「Pd(PPh34」と表わす。)と、2M炭酸ナトリウム水溶液(3.3ml:上記スキームでは「Na2CO3」と「H2O」とで表わす。)とを加え、12時間還流させた。
【0223】
室温まで放冷後、反応混合物をトルエンで抽出し、有機層を水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。残渣を、シリカゲルを充填したカラムクロマトグラフィー上に展開させ、先ずヘキサンと塩化メチレンの3対1混合溶媒にて不純物及び副生成物を溶出後、溶媒をヘキサンと塩化メチレンの2対1混合溶媒に換えて精製し、その後再沈殿(塩化メチレン/エタノール)して、化合物(1.17g)を得た。該化合物に、DEI−MSを行なった結果、m/z=1266(M+)であった。これにより該化合物が目的化合物3(1.17g)であることを確認した。
【0224】
(目的化合物3の物性)
上記方法により得られた目的化合物2のガラス転移温度は118℃、窒素気流下での重量減少開始温度は579℃であった。
【0225】
[実施例4]
本発明のジアリールピレン化合物の一種を合成した。合成は、硼素化したピレン(下記化合物2)を出発物質として、目的化合物4(本発明のジアリールピレン化合物)を得る多段階反応を行なった。
以下、該多段階反応の合成経路について、3段階に分けて各反応段階の実施内容について説明する。
【0226】
(第1段階)
以下の式は、該多段階反応の合成経路のうち、1,3−ジヨードベンゼンと3−ブロモフェニルボロン酸とから、化合物7を合成するまでを表わしたスキームである。
【0227】
【化40】

【0228】
窒素雰囲気下、室温で1,3−ジヨードベンゼン(4.1g)と、3−ブロモフェニルボロン酸(5g)とを、トルエン(124ml:上記のスキームでは「Toluene」と表わす。)と、エタノール(62ml:上記のスキームでは「EtOH」と表わす。)との混用溶媒に加え、さらにテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.72g:上記のスキームでは「Pd(PPh34」と表わす。)と、2M炭酸ナトリウム水溶液(31ml:上記スキームでは「Na2CO3」と「H2O」とで表わす。)とを加え、8時間還流させた。
【0229】
室温まで放冷後、反応混合物をトルエンで抽出し、有機層を水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン=10/1)にて精製し、化合物7(3.79g)を得た。
【0230】
(第2段階)
以下の式は、該多段階反応の合成経路のうち、化合物7と3−ビフェニルボロン酸とから、化合物8を合成するまでを表わしたスキームである。
【0231】
【化41】

【0232】
窒素雰囲気下、室温で化合物7(3.79g)と、3−ビフェニルボロン酸(1.45g)とを、トルエン(48ml:上記のスキームでは「Toluene」と表わす。)と、エタノール(24ml:上記のスキームでは「EtOH」と表わす。)との混合溶媒に加え、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.56g:上記のスキームでは「Pd(PPh34」と表わす。)と、2M炭酸ナトリウム水溶液(12ml:上記スキームでは「Na2CO3」と「H2O」とで表わす。)とを加え、7時間半還流させた。
【0233】
室温まで放冷後、反応混合物をトルエンで抽出し、有機層を水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン=5/1)にて精製し、化合物8(2.14g)を得た。
【0234】
(第3段階)
以下の式は、該多段階反応の合成経路のうち、化合物2と化合物8とから、目的化合物4を合成するまでを表わしたスキームである。
【化42】

【0235】
窒素雰囲気下、室温で化合物2(0.2g)と、化合物8(0.43g)とを、トルエン(4ml:上記のスキームでは「Toluene」と表わす。)と、エタノール(2ml:上記のスキームでは「EtOH」と表わす。)との混合溶媒に懸濁し、さらにテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.025g:上記のスキームでは「Pd(PPh34」と表わす。)と、2M炭酸ナトリウム水溶液(1ml:上記スキームでは「Na2CO3」と「H2O」とで表わす。)とを加え、7時間半還流させた。
【0236】
室温まで放冷後、反応混合物をトルエンで抽出し、有機層を水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン=2/1)にて精製することで化合物(0.18g)を得た。該化合物に、DEI−MSを行なった結果、m/z=962(M+)であった。これにより該化合物が目的化合物4(0.18g)であることを確認した。
【0237】
[実施例5]
本発明のジアリールピレン化合物の一種を合成した。合成は、硼素化したピレン(下記化合物2)を出発物質として、目的化合物5(本発明のジアリールピレン化合物)を得た。以下の式は、該合成について表わしたスキームである。
【0238】
【化43】

【0239】
窒素雰囲気下、室温で化合物2(0.65g)と、化合物9(1.63g)とを、トルエン(9.6ml:上記のスキームでは「Toluene」と表わす。)と、エタノール(2.4ml:上記のスキームでは「EtOH」と表わす。)との混合溶媒に懸濁し、さらにテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.10g:上記のスキームでは「Pd(PPh34」と表わす。)と、2M炭酸ナトリウム水溶液(4.8ml:上記スキームでは「Na2CO3」と「H2O」とで表わす。)とを加え、11時間半還流させた。
【0240】
室温まで放冷後、反応混合物をろ過し、ろ取物を再沈殿(テトラヒドロフラン/エタノール)にて精製することで化合物(0.81g)を得た。該化合物に、DEI−MSを行なった結果、m/z=1116(M+)であった。これにより該化合物が目的化合物5(0.81g)であることを確認した。
【0241】
(目的化合物5の物性)
上記方法により得られた目的化合物1のガラス転移温度は、125℃であった。
また、窒素気流下での重量減少開始温度は、756℃であった。
【0242】
[実施例6]
本発明のジアリールピレン化合物の一種を合成した。合成は、硼素化したピレン(下記化合物2)を出発物質として、目的化合物6(本発明のジアリールピレン化合物)を得る多段階反応を行なった。
以下、該多段階反応の合成経路について、2段階に分けて各反応段階の実施内容について説明する。
【0243】
(第1段階)
以下の式は、該多段階反応の合成経路のうち、化合物2と1,2−ジメトキシエタンとから、化合物10を合成するまでを表わしたスキームである。
【0244】
【化44】

【0245】
窒素雰囲気下、室温で化合物2(3g)を1,2−ジメトキシエタン(260ml:上記のスキームでは「DME」と表わす。)に溶解させた後、そこに9−ブロモフェナントレン(1.69g)を加えて撹拌し、さらにテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.38g:上記のスキームでは「Pd(PPh34」と表わす。)と、2M炭酸ナトリウム水溶液(16ml:上記スキームでは「Na2CO3」と「H2O」とで表わす。)とを加え、10時間半還流させた。
【0246】
室温まで放冷後、反応混合物をろ過し、ろ液を濃縮し、塩化メチレンに溶解させて抽出し、有機層を水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン=1/1)にて精製し、エタノールで懸濁洗浄することで化合物10(0.90g)を得た。
【0247】
(第2段階)
以下の式は、該多段階反応の合成経路のうち、化合物4と3,5−ジブロモフェノールとから、化合物5を合成するまでを表わしたスキームである。
【0248】
【化45】

【0249】
窒素雰囲気下、室温で化合物10(1.1g)と、化合物8(1g)とを、トルエン(11ml:上記のスキームでは「Toluene」と表わす。)と、エタノール(5.6ml:上記のスキームでは「EtOH」と表わす。)との混合溶媒に加え、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.13g:上記のスキームでは「Pd(PPh34」と表わす。)と、2M炭酸ナトリウム水溶液(2.8ml:上記スキームでは「Na2CO3」と「H2O」とで表わす。)とを加え、8時間還流させた。
【0250】
室温まで放冷後、反応混合物をトルエンで抽出、有機層を水で洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥、減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン=3/1)にて精製し、再沈殿(塩化メチレン/エタノール)することで化合物(1.3g)を得た。該化合物に、DEI−MSを行なった結果、m/z=758(M+)であった。これにより該化合物が目的化合物6(1.3g)であることを確認した。
【0251】
(目的化合物6の物性)
上記方法により得られた目的化合物2のガラス転移温度は124℃、窒素気流下での重量減少開始温度は553℃であった。
【0252】
[実施例7]
本発明のジアリールピレン化合物の一種を合成した。合成は、硼素化したピレン(下記化合物2)を出発物質として、目的化合物7(本発明のジアリールピレン化合物)を得た。以下の式は、該合成について表わしたスキームである。
【0253】
【化46】

【0254】
窒素雰囲気下、室温で化合物10(0.48g)と、化合物11(0.35g)とを、トルエン(4.8ml:上記のスキームでは「Toluene」と表わす。)と、エタノール(2.4ml:上記のスキームでは「EtOH」と表わす。)との混合溶媒に加えて撹拌し、さらにテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.055g:上記のスキームでは「Pd(PPh34」と表わす。)と、2M炭酸ナトリウム水溶液(1.2ml:上記スキームでは「Na2CO3」と「H2O」とで表わす。)とを加え、還流させた。
【0255】
反応混合物をろ過し、ろ取物を再結晶(N,N−ジメチルホルムアミド)にて精製することで化合物(0.5g)を得た。該化合物に、DEI−MSを行なった結果、m/z=658(M+)であった。これにより該化合物が目的化合物7(0.5g)であることを確認した。
【0256】
(目的化合物7の物性)
上記方法により得られた目的化合物7のガラス転移温度は149℃、窒素気流下での重量減少開始温度は540℃であった。
【0257】
[比較例1]
比較例として比較化合物1を合成した。合成は、硼素化したピレン(下記化合物2)と化合物3とを出発物質として、比較化合物1を得た。以下の式は、該合成について表わしたスキームである。
【0258】
【化47】

【0259】
窒素雰囲気下、室温で化合物2(1g)、化合物12(1.39g)とを、トルエン(22ml:上記のスキームでは「Toluene」と表わす。)と、エタノール(11ml:上記のスキームでは「EtOH」と表わす。)との混合溶媒に懸濁し、さらにテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.13g:上記のスキームでは「Pd(PPh34」と表わす。)と、2M炭酸ナトリウム水溶液(5.5ml:上記スキームでは「Na2CO3」と「H2O」とで表わす。)とを加え、8時間還流させた。
【0260】
室温まで放冷後、反応混合物をろ過し、ろ取物を再結晶(N,N−ジメチルホルムアミド)にて精製することで化合物(0.67g)を得た。該化合物に、DEI−MSを行なった結果、m/z=688(M+)であった。これにより該化合物が比較化合物1(0.67g)であることを確認した。
【0261】
[実施例8]
以下の製造法で有機電界発光素子を作製した。
【0262】
(陽極の形成)
ガラス基板の上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を150nmの厚さで成膜した(スパッタ成膜品、シート抵抗15Ω)。これに、通常のフォトリソグラフィ技術により2mm幅のストライプにパターニングして陽極を形成した。
パターン形成したITO基板を、アセトンによる超音波洗浄、純水による水洗、イソプロピルアルコールによる超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、紫外線オゾン洗浄を行った。
【0263】
(正孔注入層の形成)
陽極の上に正孔注入層を形成した。正孔注入層の材料として、下記に示す構造式の芳香族アミノ基を有する非共役系高分子化合物(PB−1:重量平均分子量が29400、数平均分子量が12600)を用いて、電子受容性化合物(PI−1)と共にスピンコートした。
【0264】
スピンコートは、[表1]の条件で行なった。また、PB−1とPI−1との使用比率は、PB−1:PI−1=10:4(重量比)とした。
スピンコートを行なった後、260℃で180分の乾燥を行ない、膜厚30nmの均一な正孔注入層の薄膜を形成した。
【化48】

【化49】

【表1】

【0265】
(正孔輸送層)
正孔注入層の上に正孔輸送層を形成した。正孔輸送層の材料として、以下に示す化合物(HT−3)を用いて、真空蒸着法により膜厚20nmの均一な正孔輸送層の薄膜を形成した。
【0266】
【化50】

【0267】
(発光層)
正孔輸送層の上に発光層を形成した。発光層の材料として、実施例2で製造した目的化合物2(本発明のジアリールピレン化合物)、及び蛍光発光性のドーパント(D−1)を用いて、同時に真空蒸発着法(同時蒸着)を行なうことにより発光層を形成した。
【0268】
同時蒸着は、目的化合物2とD−1とが目的化合物2:D−1=95:5(重量比)になるように行い、膜厚40nmの均一な発光層の薄膜を形成した。
【化51】

【0269】
(正孔阻止層・電子輸送層)
発光層の上に正孔阻止層、正孔阻止層の上に電子輸送層を形成した。
正孔阻止層の材料として、下記に示すHB−1を用いて、真空蒸着法により膜厚10nmの正孔阻止層を形成した。
次に、電子輸送層の材料として、下記に示すET−1を用いて、真空蒸着法により膜厚30nmの電子素子層を形成した。
【化52】

【0270】
(陰極バッファ層・陰極)
電子輸送層の上に陰極バッファ層を、陰極バッファ層の上に陰極を形成した。
真空蒸着法により、陰極バッファ層の材料としてフッ化リチウム(LiF)を用いて膜厚0.5nmの陰極バッファ層を、陰極の材料としてアルミニウムを用いて膜厚80nmの陰極を、それぞれ陽極であるITOストライプと直交する形状の2mm幅のストライプ状に積層した。
【0271】
以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。この素子からは、電界発光ピーク波長466nmの青色発光が得られた。なお、実施例8及び実施例9で得られた有機電界発光素子の特性及び駆動寿命をまとめて[表2]に示す。
【0272】
[実施例9]
発光層の材料として、目的化合物2とD−1とが目的化合物2:D−1=95:5(重量比)になるように同時蒸着する代わりに、目的化合物2と下記の化合物(E−1)とD−1とを目的化合物2:E−1:D−1=70:30:5になるように同時蒸着し、膜厚40nmの均一な発光層の薄膜を形成した以外は、実施例8と同様にして有機電界発光素子が得られた。この素子からは、電界発光ピーク波長466nmの青色発光が得られた。
【0273】
【化53】

【0274】
[実施例8、実施例9の結果]
実施例8、及び実施例9の結果を、以下表2に示す。
【表2】

【0275】
[実施例10]
正孔輸送層と発光層との形成以外は、実施例8と同様にして有機電界発光素子が得られた。この素子からは、電界発光ピーク波長464nmの青色発光が得られた。なお、[実施例10]及び[実施例11]で得られた有機電界発光素子の特性及び駆動寿命をまとめて[表5]に示す。
以下、正孔輸送層と発光層との形成について説明する。
【0276】
(正孔輸送層)
正孔注入層の上に正孔輸送層を形成した。正孔輸送層の材料として、以下に示す化合物(HT−1)を用いて、スピンコートにより発光層を形成した。
【0277】
スピンコートは、[表3]の条件で行なった。スピンコートを行なった後、230℃で60分の乾燥を行ない、膜厚20nmの均一な正孔輸送層の薄膜を形成した。
【化54】

【表3】

【0278】
(発光層)
正孔輸送層の上に発光層を形成した。発光層の材料として、実施例3で製造した目的化合物3(本発明のジアリールピレン化合物)、及び蛍光発光性のドーパント(D−1)を用いて、スピンコートにより発光層を形成した。
【0279】
スピンコートは、[表4]の条件で行なった。また、目的化合物3とD−1との使用比率は、目的化合物3:D−1=10:1(重量比)とした。
スピンコートを行なった後、100℃で60分の乾燥を行ない、膜厚40nmの均一な発光層の薄膜を形成した。
【化55】

【0280】
【表4】

【0281】
[実施例11]
発光層の材料として、目的化合物3とD−1とを目的化合物3:D−1=10:1(重量比)の使用比率で用いる代わりに、実施例6で得られた目的化合物6を用いて、膜厚40nmの均一な発光層の薄膜を形成した以外は、実施例10と同様にして有機電界発光素子が得られた。この素子からは、電界発光ピーク波長466nmの青色発光が得られた。
【0282】
【化56】

【0283】
[実施例10、実施例11の結果]
実施例10、及び実施例11の結果を、以下表5に示す。
【表5】

【0284】
以上の結果から、本発明の化合物を用いることにより、高色純度、高輝度かつ長寿命な素子を作成することが可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0285】
本発明のジアリールピレン化合物は、電気的な酸化や還元を繰返し受けても安定である。また、本発明のジアリールピレン化合物を発光層、特に発光層のホストに使用するとドーパントを効率よく発光させることができる。そのため、有機電界発光素子用組成物に好適に用いることができ、さらには、それを用いた高効率、長寿命な有機電界発光素子に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0286】
【図1】本発明の有機電界発光素子の構造の一例を、模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0287】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 正孔阻止層
7 電子輸送層
8 陰極バッファ層
9 陰極
10 有機電界発光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される
ことを特徴とする、ジアリールピレン化合物。
【化1】

(1)
(式(1)中、Ar1およびAr2は、各々独立に、置換基を有していてもよい、ピレン環由来の基及びフェナントロリン環由来の基以外の6員環からなる芳香族基を表わす。
X及びZは、各々独立に置換基を有していてもよい炭素数50以下の基を表わす。
1及びR2は、各々独立に水素原子または炭素数50以下の基を表わす。
X、Z、R1及びR2は、アリールアミン構造及び直鎖アルケン構造を含まない。
i及びjは、各々独立に0以上5以下の整数であり、m及びnは、各々独立に1以上5以下の整数である。但しi+jは1以上である。i、j、mまたはnがそれぞれ2以上のとき、一分子内に複数存在するAr1、Ar2、XまたはZは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項2】
Ar1およびAr2が、各々独立に下記式(2a)〜(2l)の群から選ばれるいずれかの芳香族基である
ことを特徴とする、請求項1に記載のジアリールピレン化合物。
【化2】

【請求項3】
X及びZが、各々独立に芳香族基である
ことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のジアリールピレン化合物。
【請求項4】
下記式(3−1)〜(3−6)のいずれかで表わされる
ことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のジアリールピレン化合物。
【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

(式(3−1)〜(3−6)中、X1、X2、Z1およびZ2は、各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数50以下の基を表わす。
1及びR2は、各々独立に水素原子または炭素数50以下の基を表わす。
1、X2、Z1、Z2、R1及びR2は、アリールアミン構造及び直鎖アルケン構造を含まない。)
【請求項5】
1、X2、Z1およびZ2が、各々独立に芳香族基である
ことを特徴とする、請求項4に記載のジアリールピレン化合物。
【請求項6】
1およびR2が水素原子である
ことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載のジアリールピレン化合物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のジアリールピレン化合物からなる
ことを特徴とする、有機電界発光素子用材料。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のジアリールピレン化合物を含有する
ことを特徴とする、有機電界発光素子用組成物。
【請求項9】
溶剤を含有する
ことを特徴とする、請求項8に記載の有機電界発光素子用組成物。
【請求項10】
陽極、陰極、およびこれら両極間に設けられた有機発光層を有する有機電界発光素子であって、
請求項1〜6のいずれか一項に記載のジアリールピレン化合物を含有する有機層を有する
ことを特徴とする、有機電界発光素子。

【図1】
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【公開番号】特開2009−96771(P2009−96771A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−271460(P2007−271460)
【出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】