説明

ジアルキルフェノール

本発明は、メタ−クレゾールのアルキル化、蒸留、および結晶化による4−イソプロピル−3−メチルフェノールの製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタ−クレゾールのアルキル化、蒸留、および結晶化による4−イソプロピル−3−メチルフェノールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4−イソプロピル−3−メチルフェノールは、例えば、非常に皮膚にやさしい化粧品、口内洗浄液、およびシャンプーにおいて抗菌剤および殺菌剤として使用されている。4−イソプロピル−3−メチルフェノールの製造は、原理上は公知である。
【0003】
このように、(特許文献1)は、実質的にチモール(2−イソプロピル−5−メチルフェノール)を、さらには多数の芳香族副生物を与えるためのジルコニウム触媒上でのメタ−クレゾール(m−クレゾール、3−メチルフェノール)とプロペンとの反応を記載している。同定された一副生物は、反応混合物中に2%でまたは第1蒸留後に4.4%で存在する4−イソプロピル−3−メチルフェノールであった。4−イソプロピル−3−メチルフェノールの単離は記載されていない。
【0004】
(特許文献2)は、酸性亜鉛触媒上でのm−クレゾールとプロペンとの反応において19.5%以下の4−イソプロピル−3−メチルフェノールの形成を記載している。ここでも、4−イソプロピル−3−メチルフェノールの単離は記載されていない。
【0005】
(特許文献3)は、塩基性アルミナ触媒上でのメタ−クレゾールとプロペンとの反応において約2%の4−イソプロピル−3−メチルフェノールの形成を記載している。多種多様な副生物からの4−イソプロピル−3−メチルフェノールの単離は記載されていない。
【0006】
さらに、メタ−クレゾールのイソブテンとの反応における副生物として、費用のかかる、かつ、複雑な操作によって4−イソプロピル−3−メチルフェノールを得ることは(特許文献4)から公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第3,331,879号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第2139622 A号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第2528303 A号明細書
【特許文献4】米国特許第2,603,662号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
その回収が行われなかったか非常に厄介であるかのいずれかである非常に多くの他の副成分と一緒に、m−クレゾールのアルキル化における副成分としての4−イソプロピル−3−メチルフェノールの形成が前述の方法の全てに共通している。それ故、4−イソプロピル−3−メチルフェノールが効率的に得られることを可能にする方法を提供する必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
a)チモールおよび未反応メタ−クレゾールが、反応混合物から蒸留により大部分除去され、そして
b)工程a)から残る残留物が次に、極めて不揮発性のまたは非揮発性の物質を除去するために蒸留され、得られた留出物が、場合によっては任意選択で5重量%以下の水を添加した後に、結晶化されるか、または
c)工程a)から残る残留物が、場合によっては任意選択で5重量%以下の水を添加した後に、結晶化させられ、結晶化した残留物が極めて不揮発性のまたは非揮発性の物質から蒸留によって分離される
ことを特徴とする、メタ−クレゾールとプロペンとの反応による4−イソプロピル−3−メチルフェノールの製造方法が見いだされた。
【0010】
本発明の範囲は、記載された範囲ならびに式およびパラメーターの好ましい範囲のみならず、実用的な理由から、たとえ以下に明確におよび完全に記載されない場合でも、任意の所望の組み合わせも包含する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
当業者に公知である方法で実施することができる、プロペンを用いたm−クレゾールのアルキル化(例えば、独国特許出願公開第3824284 A号明細書または独国特許出願公開第2528303 A号明細書を参照されたい)は典型的には、約1重量%〜3重量%の4−イソプロピル−3−メチルフェノールを含有する反応混合物を生成する。
【0012】
本発明の方法の一工程a)において、チモールおよび未反応メタ−クレゾールが反応混合物から蒸留により大部分除去される。形容語句「大部分」は本明細書では、後に残る残留物が合計して80%以下、好ましくは55%以下、より好ましくは20%以下になる、チモールおよび未反応メタ−クレゾールの合計含有率を有することを意味する。
【0013】
この蒸留は、従来の方式で、例えば、非連続的にまたは連続的に実施することができ、大気圧に対して低くされた圧力下での連続蒸留が好ましい。
【0014】
後に残る残留物は典型的には、4−イソプロピル−3−メチルフェノールのみならず、20〜30個の低分子構造の他の副成分、さらには高分子副成分も含む。蒸留後に、後に残る、そして典型的には黒に着色している残留物中の4−イソプロピル−3−メチルフェノールの量は、通例10重量%〜30重量%である。
【0015】
工程b)に従って、工程a)から残る残留物は、極めて不揮発性のまたは非揮発性の物質を除去するために先ず蒸留することができ、得られた留出物は、場合によっては任意選択により5重量%以下の水を添加した後に、結晶化させることができる。
【0016】
これに代えて、工程c)に従って、工程a)から残る残留物は結晶化させることができ、結晶化した残留物は、極めて不揮発性のまたは非揮発性の物質から蒸留によって分離することができる。
【0017】
工程b)またはc)での蒸留は、従来の方式で、例えば、連続的にまたは非連続的に行われてもよい。蒸留は好ましくは、ショートパスエバポレーター、インターナル(internal)なしの塔、または流下薄膜エバポレーターあるいは薄膜エバポレーターを用いて行われる。この蒸留にとっては一理論段で十分である。
【0018】
好適な蒸留条件は、当業者が容易に決定することができる。
【0019】
本発明の方法の一実施態様では、工程a)およびb)の蒸留はまた、同時に実施することができる。この場合には側留取り出し塔における蒸留が好ましい。
【0020】
工程b)に従って留出物は結晶化され、工程c)に従って工程a)から残る残留物は結晶化される。これらの場合に結晶化は、例えば、−50〜80℃の温度で行われてもよい。結晶化は好ましくは0〜50℃の温度で、より好ましくは5〜35℃の温度で行われる。
【0021】
本発明の一実施態様では、工程b)による留出物または工程a)から残る残留物は、留出物の重量を基準にして、好ましくは0.01重量%から5重量%、より好ましくは1重量%〜5重量%の水と混ぜ合わせられる。
【0022】
別の実施形態では、結晶化は、工程b)による留出物または工程a)から残る残留物が結晶の4−イソプロピル−3−メチルフェノールと、好ましくはほんの少しの結晶と、混ぜ合わせられるように行われる。この結晶化は、連続的にまたは非連続的に行われてもよい。好ましくは2〜200時間放置すると結晶ケーキが形成され、それからデカンテーションによって重量を基準にして、85%〜95%の典型的な純度の4−イソプロピル−3−メチルフェノールを得ることが可能である。意外にも、工程a)からの残留物の、または工程b)による留出物の他の物質もまた固体であるけれども、結晶化は溶剤または希釈剤なしで行うことができる。それらの例は、49℃の融点の2−イソプロピル−5−メチルフェノール、12℃の融点の3−メチルフェノール、および49〜51℃の融点の3−イソプロピル−5−メチルフェノールである。
【0023】
工程b)またはc)に従って得られた結晶性4−イソプロピル−3−メチルフェノールは、C〜Cアルコールで、これらのアルコールの混合物でまたはこれらのアルコールの1種以上と水との混合物で洗浄することによってさらに精製することができる。好ましいC〜Cアルコールは、メタノール、エタノール、およびイソプロパノールである。水との混合物において、水の分率は例えば1重量%〜90重量%、好ましくは40重量%〜90重量%である。
【0024】
純度のさらなる上昇のために、本発明により得られる4−イソプロピル−3−メチルフェノールを再結晶することもまた可能である。再結晶用の好ましい溶剤は、上述のC〜Cアルコール、これらのアルコールの混合物、またはこれらのアルコールの1種以上と水との混合物である。再結晶は好ましくは、濾過助剤または活性炭を添加して行われる。
【0025】
別の実施形態では、結晶化は、それが冷却の結果として連続的にまたは非連続的に行われるように行われてもよい。冷却は好ましくは、他のインターナルによって冷却可能な管、管束または容器で行われ、この装置は、周囲温度と比較して冷却され、得られた結晶は、他の化合物が排出された後に、インターナルによって冷却可能な管、管束または他の容器の加熱によって溶かし出される。この操作は好ましくは繰り返され、高純度4−イソプロピル−3−メチルフェノールが得られる。
【0026】
工程a)およびc)に従ったプロセスレジームにおいて、同じ操作で、高純度4−イソプロピル−3−メチルフェノールを取得し得ることは有利である。
【0027】
本発明の特別な利点は、室温で同様に固体である非常に多数のさらなる副成分の存在にもかかわらず、チモール製造における副成分として、4−イソプロピル−3−メチルフェノールを効率的に、かつ、高純度で取得できるという事実に見られるべきである。
【実施例】
【0028】
150℃および1ミリバール(100Pa)で、18.5重量%のチモール、9.5重量%の3−イソプロピル−5−メチルフェノール、26.2重量%の4−イソプロピル−3−メチルフェノール、16.5重量%の2,6−ジイソプロピル−3−メチルフェノール、24.2重量%の2,4−ジイソプロピル−5−メチルフェノール、および合計して約5重量%になる、約22種の異なる他のアルキル化クレゾールを含有する、チモール製造からの1000gの黒色残留物を、塔なしのクライゼン(Claissen)アタッチメントを用いて蒸留した。これは、おおよそ上記の組成の993.3gの黄色がかった留出物を与えた。このオイルのうち、200gに22℃で、3mlの水中の懸濁液中の0.4gの純粋な4−イソプロピル−3−メチルフェノール結晶を種結晶として加えた。48時間後に、40.2g(理論量の76.7%)の4−イソプロピル−3−メチルフェノールの無色結晶が得られ、少量のメタノールで洗浄した後、それらは95.1%の純度を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタ−クレゾールをプロペンと反応させることによる4−イソプロピル−3−メチルフェノールの製造方法であって、
a)チモールおよび未反応メタ−クレゾールが反応混合物から蒸留により大部分除去され、
b)工程a)から残る残留物が次に、極めて不揮発性のまたは非揮発性の物質を除去するために蒸留され、得られた留出物が、場合によっては任意選択で5重量%以下の水を添加した添加後に、結晶化されるか、または
c)工程a)から残る残留物が、場合によっては任意選択で5重量%以下の水を添加した後に、結晶化させられ、結晶化した残留物が極めて不揮発性のまたは非揮発性の物質から蒸留によって分離される、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
工程a)およびb)の前記蒸留が同時に実施されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程b)またはc)による前記結晶化が−50〜80℃の温度で行われることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程b)からの前記留出物または工程a)からの前記残留物が水と混ぜ合わせられることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程b)からの前記留出物または工程a)からの前記残留物が結晶の4−イソプロピル−3−メチルフェノールと混ぜ合わせられることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記結晶化が冷却の結果として行われることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記冷却が他のインターナルを用いて冷却可能な管、管束または容器中で行われ、この装置が周囲温度と比較して冷却され、得られた結晶が、他の化合物が排出された後に、他のインターナルによって冷却可能な管、管束または容器の加熱によって溶かし出されることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項記載の方法に従って製造された4−イソプロピル−3−メチルフェノールの、抗菌または殺菌組成物の成分としての使用。

【公表番号】特表2010−533738(P2010−533738A)
【公表日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−517356(P2010−517356)
【出願日】平成20年7月15日(2008.7.15)
【国際出願番号】PCT/EP2008/059217
【国際公開番号】WO2009/016028
【国際公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(505422707)ランクセス・ドイチュランド・ゲーエムベーハー (220)
【Fターム(参考)】