説明

ジウレアグリース組成物

【課題】高温で長時間使用してもちょう度変化が少なく、油分離が抑制され、耐久性の延長を図ったグリース組成物を提供する。
【解決手段】ジアルキルジフェニルエーテル、エステル系合成油及びポリα−オレフィン油の少なくとも1種からなる基油に、それぞれ特定分子構造を持つジウレア化合物Aとジウレア化合物Bとを、ジウレア化合物A:ジウレア化合物B=50〜90:50〜10(モル%)で混合してなる増ちょう剤をグリース全量の10〜30質量%の割合で含有するジウレアグリース組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はジウレアグリース組成物に関し、詳しくは、高温で長時間使用した時のちょう度変化及び油分離の抑制を図り、耐久性の延長を図ったグリース組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車や鉄鋼等の各種産業界では、機械技術の進歩が著しく、各種機械部品の小型化、軽量化及び高性能が進み、潤滑箇所が高温となる傾向にある。このため、耐熱性や酸化安定性に優れたグリース組成物が必要となっている。
【0003】
しかし、グリースの主流は金属石けん系であり、万能グリースと呼ばれているリチウム石けんグリースでも滴点が200℃程度であり、130℃以上の高温領域では耐えられない。そのため、高温用グリースとして、各種の金属複合石けん、ナトリウムテレフタラメート、ベントンまたはウレア化合物を増ちょう剤とするグリースや、フッ素グリースが用いられることが多いが、各々欠点がある。例えば、金属複合石けん系グリースは経時硬化性に大きな欠点があり、ナトリウムテレフタラメートグリースは油分離が大きく、ベントングリースは潤滑性に欠点があり、フッ素グリースは高価である。
【0004】
ウレアグリースは、ジウレアグリース及びテトラウレアグリースが主流であり、前述のグリースと比べて種々の利点を有している。しかし、テトラウレアグリースは、長時間高温に曝されるとちょう度が硬化する現象が見られ、更にせん断速度の違いによりグリースが硬化したり軟化したりする。
【0005】
また、ジウレアグリースは、イソシアネートと、その末端に結合するアミンとの組み合わせにより特性が大きく変化する。例えば、ジフェニルメタン基の両端に炭素数8のアルキル基を有するアミンが結合したジウレア化合物と、トリレン基またはビトリレン基の両端に炭素数8のアルキル基を有するアミンが結合したジウレア化合物とを併用したウレアグリース(特許文献1参照)、トリレン基、ジフェニルメタン基またはジメチルビフェニレン基の両端に、炭素数6〜18の直鎖の飽和アルキル基を25〜45モル%、シクロアルキル基を50〜70モル%、芳香族系炭化水素基を5〜25モル%の割合で有するジウレア化合物を増ちょう剤とするウレアグリース(特許文献2参照)、2種類以上の異なるジイソシアネートとアミンとを反応させて得られるジウレア化合物を増ちょう剤とするウレアグリース(特許文献3参照)、等が知られている。しかし、これらジウレアグリースでも、高温で長時間使用されるとちょう度変化が起こり、今後益々高温での使用が想定される中、改善の余地がある。
【0006】
【特許文献1】特開平1−139696号公報
【特許文献2】特開平6−88085号公報
【特許文献3】特許第2777928号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような状況を鑑みてなされたものであり、特に高温で長時間使用してもちょう度変化が少なく、油分離が抑制され、耐久性の延長を図ったグリース組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は下記のジウレアグリース組成物を提供する。
(1)ジアルキルジフェニルエーテル、エステル系合成油及びポリα−オレフィン油の少なくとも1種からなる基油に、一般式(1)で表されるジウレア化合物Aと、一般式(2)で表されるジウレア化合物Bとを、ジウレア化合物A:ジウレア化合物B=50〜90:50〜10(モル%)で混合してなる増ちょう剤をグリース全量の10〜30質量%の割合で含有することを特徴とするジウレアグリース組成物。
【0009】
【化3】

【0010】
(式中、Rはトリレン基またはビトリレン基であり、Rは炭素数6〜12の芳香族系炭化水素基であり、同一でも異なっていてもよい。)
【0011】
【化4】

【0012】
(式中のRはジフェニルメタン基であり、Rは炭素数6〜12の芳香族系炭化水素基であり、同一でも異なっていてもよい。)
(2)ウレア化合物A及びウレア化合物Bは、Rを含むジイソシアネート、Rを含むジイソシアネート、Rを含むアミン及びアミンRを含むアミンを同時に反応させて得られることを特徴とする上記(1)記載のジウレアグリース組成物。
(3)全塩基価が100〜500mgKOH/gの過塩基性金属系清浄剤をグリース全量の1〜10質量%、金属を含まない硫黄−リン系極圧剤をグリース全量の0.1〜5質量%の割合で含有することを特徴とする上記(1)または(2)記載のジウレアグリース組成物。
(4)過塩基性金属系清浄剤がアルカリ土類金属のスルフォネート、フェネート及びサリチレートから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする上記(3)記載のジウレアグリース組成物。
(5)硫黄−リン系極圧剤がチオフォスフェートまたはチオフォスファイトであることを特徴とする上記(3)記載のジウレアグリース組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明のジウレアグリース組成物は、ジイソシアネート成分が異なる2種のジウレア化合物を特定比率で混合した増ちょう剤を含み、それにより、他のウレアグリースに比べて、高温で長時間した場合でもちょう度変化が少なく、耐久性により優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に関して詳細に説明する。
【0015】
[増ちょう剤]
本発明では、下記の一般式(I)で表されるジウレア化合物Aと、一般式(2)で表されるジウレア化合物Bとの混合物を増ちょう剤に用いる。
【0016】
【化5】

【0017】
式中のRはトリレン基またはビトリレン基である。また、Rは炭素数6〜12の芳香族系炭化水素基であり、2つのRは同一でも、異なっていてもよい。具体的には、トリレンジジイソシアネートまたはビトリレンジイソシアネートと、アニリン、ベンジルアミン、トルイジン、クロロアニリン等の芳香族アミンを反応させることにより得ることができる。また、トリレンジジイソシアネートとしては2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート及びこれらの混合物等を使用でき、ビトリレンジイソシアネートとしては3,3’−ビトリレン−4,4’−ジイソシアネート等を使用できる。
【0018】
【化6】

【0019】
式中のRはジフェニルメタン基である。また、Rは炭素数6〜12の芳香族系炭化水素基であり、2つのRは同一でも、異なっていてもよい。具体的には、ジフェニルメタンジイソシアネートと、アニリン、ベンジルアミン、トルイジン、クロロアニリン等の芳香族アミンとを反応させることにより得ることができる。また、ジフェニルメタンジイソシアネートとしてはジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート等を使用することができる。
【0020】
上記のジウレア化合物Aとジウレア化合物Bとの混合比は、ジウレア化合物A:ジウレア化合物B=50〜90:50〜10(モル%)、好ましくは70〜90:30〜10(モル%)である。ジウレア化合物Aが50モル%未満であると熱硬化が大きくなり、90%モル%超では油分離が大きくなり、好ましくない。
【0021】
また、本発明グリース組成物における増ちょう剤の含有量は10〜30質量%、好ましくは15〜25質量%である。10質量%より少ないとグリース状態を維持することは困難となり、また、30質量%より多くなると硬くなりすぎて十分な潤滑状態を発揮することができない。
【0022】
[基油]
基油には、ジアルキルジフェニルエーテル、エステル系合成油及びポリα−オレフィン油を、それぞれ単独で、あるいは2種以上を混合して用いる。
【0023】
ジアルキルジフェニルエーテルは、下記一般式(A)で表される。
【0024】
【化7】

【0025】
式中のR、R及びRは、同一または異なる基であり、これらのうち一つは水素原子であり、他の二つはアルキル基であり、好ましくは炭素数8〜20、より好ましくは12〜14のアルキル基である。
【0026】
エステル系合成油としては、ジ−2−エチルヘキシルセバケート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート等のジエステル、トリメチロールプロパンカプリレート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート等のポリオールエステル、トリメリット酸エステル、トリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテート等の芳香族エステル油が挙げられる。
【0027】
ポリα−オレフィン油は、下記一般式(B)で表される。
【0028】
【化8】

【0029】
式中のRはアルキル基であり、同一分子中に2種類以上の異なったアルキル基が混在してもよいが、好ましくはn−オクチル基である。また、nは3〜8の整数が好ましい。
【0030】
基油動粘度は、40℃で15〜200mm/sであることが好ましい。潤滑特性、蒸発特性及び低温流動性を考慮すると、20〜150mm/sであることがより好ましい。
【0031】
本発明のジウレアグリース組成物には、各種性能を高めるために種々の添加剤を添加剤を適量添加することができるが、中でも下記に示す過塩基性金属系清浄剤及び硫黄−リン系極圧剤を添加することが好ましい。
【0032】
[過塩基性金属系清浄剤]
過塩基性金属系清浄剤とは、全塩基価が100mgKOH/g以上、好ましくは150mgKOH/g以上の金属系清浄剤である。全塩基価の上限値は500mgKOH/g、好ましくは450mgKOH/gである。全塩基価が100mgKOH/g未満の場合は、高温長時間使用時にちょう度変化が大きくなり、一方、全塩基価が500mgKOH/gを超えるものの入手は困難である。尚、本発明において全塩基価とは、JIS K 2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験方法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による全塩基価を意味する。
【0033】
中でも、アルカリ土類金属スルフォネート、アルカリ土類金属フェネート及びアルカリ金属土類サリシレートが好ましい。
【0034】
アルカリ土類金属スルフォネートは、分子量約400〜600の潤滑油もしくは合成的にアルキル置換された芳香族化合物のスルフォン化物のアルカリ土類金属塩であり、前記金属塩としてはカルシウム塩、マグネシウム塩もしくはバリウム塩が用いられ、好ましくはカルシウム塩が用いられる。
【0035】
アルカリ土類金属フェネートは、炭素数約8〜30のアルキル基が付加されたアルキルフェノールの硫化物のアルカリ土類金属塩であり、前記金属塩としてはカルシウム塩、マグネシウム塩もしくはバリウム塩が用いられ、好ましくはカルシウム塩が用いられる。
【0036】
アルカリ土類金属サリシレートは、炭素数14〜18のα−オレフィンでフェノールをアルキル化してアルカリ金属塩とし、コルベ−シュミット反応でカルボキシル基を導入し、複分解等によりアルカリ土類金属塩としたものであり、前記金属塩としてカルシウム塩及びマグネシウム塩が用いられるが、好ましくはカルシウム塩である。
【0037】
過塩基性金属系清浄剤の配合量は、グリース全量の1〜10質量%とすることが好ましく、より好ましくは3〜7質量%である。1質量%未満であると高温で長時間使用した時にちょう度変化が大きくなり、10質量%超であると油分離が大きくなる。
【0038】
[硫黄−リン系極圧剤]
硫黄−リン系極圧剤としては、リン原子及び硫黄原子を有するものを意味し、チオフォスフェート類やチオフォスファイト類等のように分子中にリン原子及び硫黄原子の双方を有するものの他、例えばリン系極圧剤(分子中にリン原子を有するもの)と、硫黄系極圧剤(分子中に硫黄原子を有するもの)とを混合したものを含む。
【0039】
チオフォスフェート類としては、チオリン酸エステルの基本構造を有する、例えば、トリフェニルフォスフォロチオネート(TPPT)等のチオリン酸エステルを用いることができる。チオフォスファイト類としては、(RS)3Pで表される有機トリチオフォスファイト等を用いることができ、例えば、トリブチルトリチオフォスファイトやトリ(2−エチルヘキシル)トリチオフォスファイトが挙げられる。
【0040】
硫黄−リン系極圧剤の配合量は、グリース全量の0.1〜5質量%とすることが好ましく、より好ましくは1〜3質量%である。尚、リン系極圧剤と硫黄系極圧剤とを併用する場合は、両者の合計で前記配合量とする。0.1質量%未満では、高温長時間使用時にちょう度変化が大きくなり、一方、5質量%を超えると油分離が大きくなり、更に熱安定性が劣り、実用的でない。
【0041】
〔その他添加剤〕
本発明のジウレアグリース組成物には、その他にも、フェニル−1−ナフチルアミン等のアミン系、2,6−ジ−tert−ジブチルフェノール等のフェノール系、硫黄系、ジチオリン酸亜鉛等の酸化防止剤;アルカリ金属及びアルカリ土類金属等の有機スルフォン酸塩、アルキル、アルケニルこはく酸エステル等のアルキル、アルケニルこはく酸誘導体、ソルビタンモノオレエート等の多価アルコールの部分エステル等の防錆剤;脂肪酸、動植物油、モンタン酸ワックス等の油性向上剤;ベンゾトリアゾール等の金属不活性化剤等を添加してもよい。また、有機モリブデン等の上記以外の極圧剤を添加してもよい。これら添加剤の添加量は、本発明の目的を損なわない程度であれば特に限定されるものではない。
【0042】
ジウレアグリース組成物の製造方法には制限はなく、ジウレア化合物Aを増ちょう剤とするグリースと、ジウレア化合物Bを増ちょう剤とするグリースとを所定比率で混合してもよいし、基油中で、Rを含むジイソシアネート、Rを含むジイソシアネート、Rを含むアミン及びアミンRを含むアミンを同時に反応させてもよい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、これらの実施例により、本発明が制約されるものではない。
【0044】
(実施例1〜11、比較例1〜2)
表1〜3に示すように、増ちょう剤、基油及び添加剤を含む試験グリースを調製した。尚、実施例の各試験グリースは、基油にTDI、MDI及びp−トルイジンを投入し、ジウレア化合物Aとジウレア化合物Bとを同時に合成した(同時混合)。また、表中の基油及び増ちょう剤の各量、増ちょう剤、基油及び添加剤の各欄に記載された各成分の数値は、グリース全量に対する量である。そして、各試験グリースについて、滴点測定の他に、下記の(1)高温放置試験及び(2)離油度試験を行なった。
【0045】
(1)高温放置試験
ステンレスシャーレ(SUS304)に試験グリースを厚さ3mmに均一に塗布し、上面を開放した状態で、180℃の恒温槽中に240時間放置した。放置後に試験グリースのちょう度を測定し、加熱前のちょう度との差を求めた。結果を表1〜3に併記するが、ちょう度変化が−100以内を合格とした。
(2)離油度試験
JIS K2220の離油度試験に準拠し、試験グリースを180℃の恒温槽中に100時間放置し、放置後の離油度を測定した。結果を表1〜3に併記するが、10質量%以下を合格とした。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
表1〜3に示すように、ジウレア化合物A及びジウレア化合物Bの何れか一方を増ちょう剤とする比較例の各試験グリースに比べて、ジウレア化合物Aとジウレア化合物Bとの混合物を増ちょう剤とする実施例の各試験グリースは、高温でのちょう度変化が小さく、離油量も少なく、優れた耐熱性を示すことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアルキルジフェニルエーテル、エステル系合成油及びポリα−オレフィン油の少なくとも1種からなる基油に、一般式(1)で表されるジウレア化合物Aと、一般式(2)で表されるジウレア化合物Bとを、ジウレア化合物A:ジウレア化合物B=50〜90:50〜10(モル%)で混合してなる増ちょう剤をグリース全量の10〜30質量%の割合で含有することを特徴とするジウレアグリース組成物。
【化1】

(式中、Rはトリレン基またはビトリレン基であり、Rは炭素数6〜12の芳香族系炭化水素基であり、同一でも異なっていてもよい。)
【化2】

(式中のRはジフェニルメタン基であり、Rは炭素数6〜12の芳香族系炭化水素基であり、同一でも異なっていてもよい。)
【請求項2】
ウレア化合物A及びウレア化合物Bは、Rを含むジイソシアネート、Rを含むジイソシアネート、Rを含むアミン及びアミンRを含むアミンを同時に反応させて得られることを特徴とする請求項1記載のジウレアグリース組成物。
【請求項3】
全塩基価が100〜500mgKOH/gの過塩基性金属系清浄剤をグリース全量の1〜10質量%、金属を含まない硫黄−リン系極圧剤をグリース全量の0.1〜5質量%の割合で含有することを特徴とする請求項1または2記載のジウレアグリース組成物。
【請求項4】
過塩基性金属系清浄剤がアルカリ土類金属のスルフォネート、フェネート及びサリチレートから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項3記載のジウレアグリース組成物。
【請求項5】
硫黄−リン系極圧剤がチオフォスフェートまたはチオフォスファイトであることを特徴とする請求項3記載のジウレアグリース組成物。

【公開番号】特開2008−231310(P2008−231310A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−74897(P2007−74897)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【出願人】(000162423)協同油脂株式会社 (165)
【Fターム(参考)】