説明

ジェット騒音の音源モデル化方法、ジェット騒音の解析方法および航空機の設計方法

【課題】 ジェット騒音の音源モデル化方法、これを利用するジェット騒音の解析方法および航空機の設計方法を提供する。
【解決手段】 ジェット流を定常RANS解析して強度分布を求め、これを離散化して複数の点音源を設定して各音源強度を求める。さらに既存のデータベースを利用して遠方音場の観測点の騒音レベルに基づいて、各点音源の位相を最適化して決定する。このようにして、音源強度と位相とで規定される複数の点音源を有する音源モデルを生成することができる。この音源モデルを用いて、ジェット流の周囲の音場を解析することによって、ジェット騒音の解析することができ、この解析結果に基づいて、騒音を遮蔽できる機体を備える航空機を設計する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジェット流によって発生するジェット騒音をモデル化する方法およびジェット騒音を解析する方法に関し、さらにこれらの方法を利用して航空機を設計する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機を設計するにあたって、エンジンから噴出されるジェット流によるジェット騒音を低減することが要求され、このジェット騒音の機体による遮蔽効果を利用することが考えられている。機体による遮蔽効果を確認するためには、ジェット騒音の音場を解析する必要があり、ジェット流に対して、Large Eddy Simulation(LES)またはDirect
Navie-Stokes(DNS)といった、非定常Navier-Stokes(NS)解析を行い、その結果得られた圧力変動から、周囲の音場の状態を求めている。非定常NS解析には、膨大な計算時間がかかるので、現存する計算機の能力では、実機大の解析は、極めて困難であり、実質的に不可能である。
【0003】
他の従来の技術として、特許文献1には、流れ場に位置する物体の周りに発生する空力音の音源分布を求める空力音源探査システムとして、所定の有限な計算領域内の速度ベクトルの分布を算出し、この速度ベクトルの分布から計算領域外の渦の影響も考慮して物体周りの音源分布を算出する空力音源探査システムが、開示されている。この空力音源探査システムでは、流れ場における速度ベクトルを算出する範囲として、所定の有限な計算領域を設定し、この計算領域外の渦の影響を領域内の渦の影響に置き換えたうえで、Howeの渦音の式と物体形状に適したコンパクトグリーン関数を組み合わせた式を用い、二重極音源の分布を求めるように構成されている。この特許文献1のシステムは、流れ場に音源分布がある場合の音源の部分状態を求めることはできるが、ジェット騒音の音場解析に用いることはできない。
【0004】
また他の従来の技術として、特許文献2には、複数の騒音源による騒音の程度や分布状態を解析する騒音環境評価システムとして、建物や障壁等の建造物の配置と騒音源とを入力し、入力された建造物の配置と騒音源から音の伝播経路を音線でモデル化し、距離減衰式を使って各伝播経路により観測点の音圧レベルを求めて合成する騒音環境評価システムが、開示されている。この特許文献2のシステムは、建造物の配置と騒音源を入力することによって、簡便に現状の騒音の程度や分布状態を評価することができ、計画条件の変更等による騒音環境の変化を自在にシミュレーションすることができるが、ジェット騒音の音場解析に用いることはできない。
【0005】
さらに他の従来の技術として、特許文献3には、被予測対象となる音源の音響パワーレベルと、音源からの距離とに基づいて騒音レベルを予測する方法であって、音源を中心とする半球空間面を円周方向に複数の要素面に等分割したときの各要素面での音響パワーと、この音響パワーを平均した平均音響パワーとを演算し、この平均音響パワーに対する前記各要素面での音響パワーの比率を騒音指向性として騒音レベルの補正を行う騒音レベルの予測方法が、開示されている。この特許文献3の方法であっても、ジェット騒音の音場解析に用いることはできない。
【0006】
【特許文献1】特開2005−3368号公報
【特許文献2】特開平6−4512号公報
【特許文献3】特開平1−227023号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ジェット騒音の解析を可能にするジェット騒音の音源モデル化方法を提供することであり、そのジェット騒音の音源モデル化方法を利用するジェット騒音の解析方法および航空機の設計方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ジェット流を解析して求められるジェット音源の強度分布を離散化し、複数の点音源を設定して各点音源の音源強度を求め、
予め把握されているジェット流に関する遠方自由音場での騒音レベルに基づいて、各点音源の位相を求めることを特徴とするジェット騒音の音源モデル化方法である。
【0009】
また本発明は、ジェット流のジェット軸線に沿って、各点音源を設定することを特徴とする。
【0010】
さらに本発明は、前記ジェット騒音の音源モデル化方法によって生成される音源モデルを用いて、ジェット騒音による周辺の音場を解析することを特徴とするジェット騒音の解析方法である。
【0011】
さらに本発明は、前記ジェット騒音の解析方法によって、機体によるジェット騒音への影響を考慮して航空機を設計することを特徴とする航空機の設計方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ジェット流が解析されてジェット音源の強度分布が求められる。この強度分布が離散化されて、複数の点音源が設定され、各点音源の音源強度が求められる。さらにジェット流に関して予め把握されている遠方自由音場での騒音レベルに基づいて、各点音源の位相が求められる。このようにジェット流の解析によって、複数の点音源を設定して各点音源の音源強度を求め、その後既知の騒音レベルのデータを利用して、各点音源の騒音の位相を求めることによって、ジェット流による騒音を短期間でモデル化して、実用的にジェット騒音の音源モデルを得ることができる。さらに複数の点音源に分割され、かつ各点音源の位相が既知の騒音レベルに合致するように決定されることによって、実際のジェット騒音を高精度にモデル化することができ、たとえば物体による騒音の遮蔽効果の解析など、ジェット流の周辺の音場の解析に好適に用いることが可能な音源モデルを得ることができる。
【0013】
また本発明によれば、各点音源は、ジェット流のジェット軸線に沿って設定される。ジェット流の騒音は、ジェット軸線に関して軸対称の分布を有しており、無駄の少ない音源モデルが得られる。またジェット軸線に沿う位置には、物体が設けられることが少なく、この位置に各点音源を設定することによって、たとえば物体による騒音の遮蔽効果の解析など、ジェット流の周辺の音場の解析に好適な音源モデルを実現することができる。
【0014】
また本発明によれば、前述の音源モデル化方法によって得られる好適な音源モデルを用いて、ジェット騒音による周辺の音場を解析することができる。これによってたとえば物体による騒音の遮蔽効果など、ジェット流の周辺の音場を好適に解析することができる。
【0015】
また本発明によれば、前述の解析方法によって、機体によるジェット騒音への影響を好適に解析することができ、この解析結果に基づいて航空機を設計することができる。これによってジェット騒音を低減可能な好適な航空機を設計することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、本発明の実施の一形態のジェット騒音の解析方法(以下「騒音解析方法」という)を示すフローチャートである。図2は、図1の騒音解析方法を実行する騒音解析装置20を示すブロック図である。図3は、ジェットエンジン26によって発生するノイズを説明するためにノズル30を示す断面図である。本実施の形態の騒音解析方法は、ジェット騒音の音源モデル化方法を含み、音源モデル化方法でモデル化される音源モデルを用いてジェット流の周辺の音場を解析する方法である。したがって騒音解析装置20は、音源モデルを生成するモデル化装置でもある。
【0017】
航空機は、搭載されるジェットエンジン26のノズル30からジェット流31を噴出して推進力を得ている。ジェットエンジン26に起因して発生する騒音は、図3に実線27で示すような指向性を持って拡がる圧縮機に起因する騒音と、図3に破線28で示すような指向性を持って拡がるタービンおよび燃焼室に起因する騒音と、図3に二点鎖線29で示すような指向性を持って拡がるジェット流31に起因するジェット騒音とがある。ジェット流31に起因するジェット騒音は、騒音レベルが高く、広範囲に拡がるので、ジェット流31を噴出して推進力を得る航空機、特に、たとえばマッハ数M=1.6で巡航する超高速輸送機では、その開発および設計にあたって、ジェット騒音を低減することが求められる。超高速輸送機で用いられるターボファンエンジンなどと呼ばれるジェットエンジン26は、低バイパス比のエンジンであり、前述のようにジェット(ミキシング)騒音が主音源となる。このジェット騒音を低減するために、エジェクターノズル、ローブミキサーなどを用いることが考えられるが、重量が増加し、飛行性能を低下させてしまうという問題がある。したがって超高速輸送機などの航空機では、ジェット騒音を如何に低減するかが重要な問題である。
【0018】
ジェット騒音を、機体による遮蔽することができれば、機体に関してジェット流と反対側の領域に到達するジェット騒音を低減することが可能であり、しかも騒音低減のためだけの部材を設けることないので、重量増加を招くことがない。たとえばこのような観点から、機体による遮蔽効果を評価するために、本発明の騒音解析方法が用いられる。機体には、たとえば主翼、胴体、垂直尾翼、水平尾翼などが含まれる。機体による遮蔽効果の評価は、あくまでも用途の一例であり、本発明の騒音解析方法は、他の目的でジェット騒音を解析するために用いられてもよい。
【0019】
図2に示す騒音解析装置20は、入力手段21と、記憶手段22と、外部記録手段23と、演算手段24と、出力手段25とを備える。この騒音解析装置20は、たとえばスーパーコンピュータなどのコンピュータと呼ばれる計算装置を用いて実現される。入力手段21は、ジェット流31に関するジェット情報、ジェット騒音の音源モデル化および解析を指令する指令情報を含む情報を入力するための手段、たとえばキーボードなどである。ジェット流31に関する情報は、たとえばジェット条件であり、このジェット条件には、ノズル30の内径、ノズル30の出口におけるジェット流31の速度(以下「ジェット出口速度」という)、ノズル30の出口におけるジェット流31の温度(以下「ジェット出口温度」という)、ノズル30の出口におけるジェット流31の圧力(以下「ジェット出口圧力」という)が含まれる。
【0020】
記憶手段22は、コンピュータ内部に設けられる媒体に情報を記憶するための手段、たとえばハードディスクドライブおよび半導体メモリなどである。外部記録手段23は、たとえばコンパクトディスク(略称CD)およびデジタルバーサタイルディスク(略称DVD)などの着脱可能な記録媒体に、情報を記録し、記録媒体に記録される情報を再生する手段である。記憶手段22および外部記録手段23を含んで、情報を保持する情報保持手段が構成され、たとえば本発明の音源モデル化方法および騒音解析方法を実行するための演算プログラム、および演算プログラムによる演算に必要なデータなどが記憶される。情報保持手段には、入力手段21によって入力される情報が、一時的に保持されてもよい。
【0021】
演算手段24は、たとえば中央演算処理ユニット(略称CPU)によって実現され、入力手段21によって入力される指令情報に基づいて、記憶手段22および外部記録手段23のいずれかから、最適演算プログラム、解析演算プログラムなどを含む演算プログラムおよびデータを読込み、ジェット条件を用いて、ジェット騒音の音源モデル化および騒音解析のための演算を実行する。出力手段25は、演算手段24による演算結果を含む情報を出力する手段である。出力手段25は、たとえば表示装置であり、または印刷手段である。
【0022】
またジェット条件などの情報を、外部記録手段23で読取可能な記録媒体に記録しておき、外部記録手段23に読込ませて入力することも可能である。また演算手段24による演算結果は、外部記録手段23によって記録媒体に記録するようにして出力してもよい。したがって外部記録手段23は、情報を入力する手段としても機能し、また演算結果を含む情報を出力する手段としても機能する。
【0023】
このような騒音解析装置20によって、具体的には、演算手段24によって、騒音解析方法が実行される。演算手段24は、入力手段21によって、ジェット条件が入力され、騒音解析を指令する指令情報が与えられると、図1に示すように、ステップs0で騒音解析を開始し、ステップs1に進む。ステップs1の条件設定工程では、演算手段24は、入力されるジェット条件を取得して、演算に用いる条件として設定する。ステップs1での条件設定が終了すると、ステップs2に進む。
【0024】
ステップs2の諸元算出工程では、計算格子を生成し、RANS(Raynolds-Averaged
Navier Stokes)解析によって、ジェット流31の定常流れ場の諸元(以下「定常流諸元」という)を解いて求める。ジェット流31の定常流諸元には、速度、温度、圧力、乱流強度、乱流減衰率などが含まれている。ステップs2での諸元算出が終了すると、ステップs3に進む。
【0025】
ステップs3の伝播係数算出工程では、定常流諸元を用いて、音波の伝播係数を算出する。ステップs3の伝播係数の算出が終了すると、ステップs4に進む。ステップs4の音源強度算出工程では、ジェット流31をそのジェット流の軸線(以下「ジェット軸線」という)Lに沿って分割し、各区分中心点に点音源を設定し、各点音源の音源強度を算出する。ステップs4での音源強度算出が終了すると、ステップs5に進む。
【0026】
ステップs5の騒音レベル取得工程では、既存のデータベースを用い、ステップs1で設定したジェット条件と同一のジェット条件のジェット流31における遠方の観測点での騒音レベルを、指向角φ毎に、既存のデータベースから抽出して求める。指向角φは、図3に示すように、ノズル30の出口におけるジェット軸線L上の点P0を中心としてジェット軸線Lに対する角度を意味し、アジマス角とも呼ばれる。データベースは、たとえば予め実験により測定されたデータが蓄積されるデータベースである。ステップs5での騒音レベル取得が終了すると、ステップs6に進む。
【0027】
ステップs6の位相決定工程では、ステップs5で騒音レベルを求めた各観測点での騒音レベルを、各点音源に位相を仮定して算出し、この算出した騒音レベルと、データベースから抽出した騒音レベルとを比較し、これらが合致するように位相を最適化して決定する。このように位相を決定することによって、ジェット流によるジェット騒音を、音源強度および位相が規定される複数の点音源によってモデルリングする音源モデルを得る。ステップs6での位相決定が終了すると、ステップs7に進む。
【0028】
ステップs1〜s6の工程によって、音源モデル化方法が構成され、音源モデルが生成される。ステップs7の音場解析工程では、生成される音源モデルを用いて、ジェット流の周辺の音場を解析する。このとき、その音場に機体が配置されるように想定して解析することによって、機体による遮蔽効果を評価することが可能である。このステップs7の音場解析が終了すると、ステップs8に進み、騒音解析方法を終了する。
【0029】
本実施の形態では、空間的な音源強度分布を得るために定常RANS解析結果を用いて得られる音源強度分布を離散化して点音源の分布に置き換え、各点音源に対してたとえばCold Jetなどのデータベースから得られる指向性に合致するように、各点音源の位相角を合わせこむようにしている。こうして生成した音源モデルは、指向性を再現するのに有効であり、本発明は、好適なジェット騒音のモデル化方法である。このモデル化方法で生成される音源モデルを用い、ジェット騒音を解析する。
【0030】
本実施の形態では、機体によるジェット騒音の遮蔽効果などを確認するために、機体形状を模擬した簡易形状モデルを生成し、音源モデルおよび簡易形状モデルを用いて、音波の伝播を解析するソフトを利用して、ジェット流の周辺の音場を解析し、機体によるジェット騒音の遮蔽による低減効果を評価する。そして遮蔽効果の高い機体を選定し、その形状の機体を設計するようにすれば、好適な機体を設計することができる。本発明に従う設計方法では、このように音源モデルを用いた、機体による遮蔽効果の高い機体を求めるようにして、航空機の機体を設計することができる。音源モデルを用いた音場の解析に用いる方法は、特に限定されるものではなく、たとえば有限要素法、境界要素法などを用いることができ、本実施の形態では、たとえば高速多重極境界要素法(Fast Multipole
Boundary Element Method;略称FMBEM)を用いる。
【0031】
本発明に従うモデル化方法の大きな特徴点は、定常RANS解析などの解析結果を用いて離散化して複数の点音源を設定し、各点音源を、音源強度と位相特性とで規定することによって、ジェット騒音の特性を高精度に好適に表すことが出来る点である。ジェット騒音には、ジェットが亜音速ジェットであるか超音速ジェットであるかによって、また機体の飛行速度に基づく周囲の速度の違いによる影響を受けているか否か、またコールドジェット(Cold Jet)であるかホットジェット(Hot Jet)であるかなど、様々な条件での騒音特性が存在する。本発明に従うモデル化方法および解析方法は、これらの様々な条件の騒音に適用することが可能である。
【0032】
図4は、ジェット流の非定常流の解析結果の一例を示す図である。コンピュータの計算能力の向上に伴い、LES(Large Eddy Simulation)およびDNS(Direct Numerical
Simulation)などによって、図4に示すようにジェット流31の非定常流の解析を行い、ジェット流31から発生するジェット騒音を直接計算する方法が盛んに研究されている。しかし実際問題として、現存のコンピュータの能力では、実機相当の範囲にわたって、高レイノルズ数条件に対応した十分な格子数を取って計算すると、計算時間が膨大になるなどの問題があり、実用化することができない。
【0033】
これに対して、本発明のようにジェット流31の定常RANS(Reynolds Averaged
Navier-Stokes)解析の結果から得られる定常流諸元を用いて、ジェット騒音を推算する。定常RANS解析は、計算流体力学(Computational Fluid Dynamics;略称CFD)に基づく解析(以下「CFD解析」という)である。本発明では、CFD解析は、定常解析で済み、さらに今回の場合は軸対称の2次元流を対象として解析すればよく、大幅に数値計算を軽減することができる。
【0034】
図5は、定常RANS解析に基づくジェット騒音の推算のイメージを説明するためにジェット流31を示す断面図である。定常RANS解析で求められる、時間平均した速度、時間平均した密度および時間平均した圧力によって、ジェット流31内の音波の伝播がモデル化して表される。特徴的な現象としては、図5の仮想音源40に関して例に挙げて説明すると、音波がジェット流31の外縁の強い速度剪断層を横切るとき、ジェット流31の内部の方が外部よりも流速が大きく、波面は内部の方が外部より速く進み、結果として、音波の進行方向は、矢符44で示すように外部に向かうように曲げられる現象がある。
【0035】
また定常RANS解析で求められる、乱流統計量によって、音源強度の分布と時間的おび空間的な位相関係がモデル化して表される。乱流統計量には、時間平均した乱流強度および時間平均した乱流減衰率が含まれる。特徴的な現象としては、図5に示す2つの仮想音源41,42と仮想観測点43とを例に挙げて説明すると、ジェット流31内の異なる2点の仮想音源41,42から発生した音波は、仮想観測点43に到達し干渉が起こるが、各仮想音源41,42の時間的および空間的な位相関係によって、仮想観測点43で強めあったり、打ち消しあったりする。
【0036】
上述の音波の伝播と、音源強度の分布と時間的および空間的な位相関係との2つのモデルを統合することによって、遠方場における騒音に対するジェット流31内の各音源の寄与を算出することができる。
【0037】
ジェット流31に対して遠方の点xにおける音源の音源強度S(x,f)[Pa/Hz]は、次の式(1)で表され、式(1)中の変数の一部は、式(2)〜(4)で表される。
【0038】
【数1】

【0039】
各変数は、次のとおりである。
【0040】
【数2】

【0041】
各変数c、cτ、Aは、乱流モデルによって代わる調整定数であり、実験などによる既知の騒音のデータと良く合致するように決定される。以下、式中に用いられる「^」および「 ̄」付の変数記号は、文章中では、「^」および「 ̄」を文字の次に記載して示す。たとえば運動エネルギーの基準変動量の変数記号は、文章中では、「q^」と記し、時間平均密度の変数記号は、文章中では、「ρ ̄」と記す。
【0042】
なお、前述の座標xは、ノズル出口中心からの距離R、ジェット軸線Lとなす角Θ、基準面からの回転角Φからなる球面座標(R,Θ,Φ)によって表せる。
【0043】
音源強度S(x,f)は、座標位置xにおける位置の周波数fの音の強度を表す。伝播係数p(x,x,f)は、座標位置xと座標位置xとの間の周波数fの音波の伝播係数を表す。座標は、ノズル30の出口からの距離を表すジェット軸線Lと一致するy軸を取り、y軸からの距離rと、y軸まわりの角度位置αとで表される円筒座標(y,r,α)の座標であり、座標位置は、各座標値y,r,αで表される。
【0044】
音波の伝播係数p(x,x,f)は、変数u(x,x,f)、v(x,x,f)、w(x,x,f)とともに、以下の方程式(5)を数値的に解くことによって得られる。
【0045】
【数3】

【0046】
各変数または記号は、次のとおりである。
γ:比熱比
δ:ディラックのδ関数
:座標位置xのy座標値
:座標位置xのr座標値
α:座標位置xのα座標値
i:虚数単位
:音波の伝播係数
【0047】
音源強度が前記式(1)〜式(4)で表され、伝播係数が前記式(5)で表されることを踏まえ、本発明の解析方法について、以下に、ステップs1から振り返って説明する。ステップs1では、前述のようにジェット条件を取得し、設定する。表1に、ジェット条件の一例を示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1には、ケース1とケース2の2つのジェット条件の例を示す。ここではジェット出口温度は、省略して示し、ジェット出口圧力は、周囲大気の静圧に対するジェット流31の静圧の比である静圧比で示す。マッハ数は、周囲大気に対するノズル30の移動速度である。密度比は、周囲大気の密度に対するジェット流31の密度の比である。たとえばこのようなジェット条件が、入力手段21などがから入力され、演算手段24に取得される。
【0050】
図6は、RANS解析結果のマッハ数分布を示すグラフである。図6には、ケース1の場合の結果であって、ジェット軸線Lを含む断面のジェット軸線Lの一方側の分布を示し、横軸に前記円筒座標のy座標値を示し、縦軸にr座標値を示す。図6において、比較的白に近い色の領域は、マッハ数M=0.3程度の領域であり、混合層34に相当し、この混合層34よりもy軸寄りの比較的黒い色の領域は、マッハ数M=0.6程度の領域であり、コア33に相当し、混合層34よりもy軸と反対側の比較的黒い色の領域は、マッハ数M=0程度の領域であり、ジェット流31の外部の領域に相当する。
【0051】
図7は、RANS解析結果の乱流エネルギーを示すグラフである。図7には、ジェット軸線L上の位置となるy軸上の位置における乱流エネルギーについて、ケース1の結果を実線で示し、ケース2の結果を破線で示す。横軸は、y座標値を示し、y座標値の値は、ノズル30の内径Dを1とする値である。縦軸は、乱流エネルギーq/a0を示す。a0は、周囲大気の音速である。図7に示すように、乱流エネルギーは、ノズル30の出口から間隔をあけた位置から急激に大きくなり、ピークを向かえた後、ノズル30から遠ざかるにつれて徐々に小さくなっていく。
【0052】
図8は、RANS解析結果のエネルギー散逸状態を示すグラフである。図8には、ジェット軸線L上の位置となるy軸上の位置における乱流エネルギーの散逸状態について、ケース1の結果を実線で示し、ケース2の結果を破線で示す。横軸は、y座標値を示し、y座標値の値は、ノズル30の内径Dを1とする値である。縦軸は、乱流エネルギーの散逸状態を表す状態量ωD/a0を示す。図8に示すように、乱流エネルギーの散逸は、ノズル30の出口から間隔をあけた位置から急激に早くなり、ピークを向かえた後、ノズル30から遠ざかるにつれて徐々に遅くなっていく。
【0053】
図9は、RANS解析結果の速度の変動の2乗平均値qと、平均乱流減衰率ωとを示すグラフである。横軸は、y座標値を示し、縦軸は、速度の変動の2乗平均値qおよび平均乱流減衰率ωを示す。速度の変動の2乗平均値qは、実線で示し、平均乱流減衰率ωは、二点鎖線で示す。図9は、たとえばケース1の場合の結果を示す。ステップs2では、設定されるジェット条件に基づいて、RANS解析を行い、たとえば図6〜図9に示すように基礎データとなる定常流諸元を求める。
【0054】
次にステップs3では、定常流諸元を用いて、ジェット流31内部の任意の座標位置xの点から、ジェット流31外部の任意の座標位置xの点への音波の伝播特性p(x,x,f)を求める。この伝播特性p(x,x,f)は、前記式(5)を数値的に解くことによって取得する。
【0055】
そして次のステップs4では、ジェット流31をジェット軸線Lに沿う方向に、したがってy軸方向に、たとえば図9に示すように間隔Δyで分割し、分割した各領域のy軸上の中点に、音源をそれぞれ設定する。このようにジェット軸線L上に、等間隔に、複数の点音源Onを設定する。nは、点音源を識別するための番号であり、自然数であって、ノズル30寄りの点音源から順に、1,2,3,…n−1,n,n+1,…と割り当てられる。
【0056】
図10は、各点音源Onの音源強度Snの求め方を説明するための図である。さらにステップs4では、各点音源Onの音源強度Snは、前記式(1)を基にした次の式(6)と、前記式(2)〜式(4)を用いて、算出される。
【0057】
【数4】

【0058】
各変数は、次のとおりである。
D:ノズル30の出口の内径
uj:ジェット出口速度
:ジェット流31内部の任意の点の座標
x:ジェット流31から遠方の任意の点の座標
【0059】
図11は、各点音源Onの位相ψの求め方を説明するための図である。図12は、既存のデータベースの騒音レベル(SPL)の一例を示すグラフである。データベースは、たとえばESDU(Engineering and Sciences Data Unit)を用いることができる。ステップs5では、図11に示すように、ジェット流31の遠方における、互いに指向角φが異なる複数の観測点Mmを設定する。mは、各観測点に識別のために割り振られる自然数の番号であり、指向角φが小さい方から順に1,2,3,…,m−1,m,m+1,…と割り当てられる。各観測点の指向角は、φmで表し、各観測点の既存のデータベースから抽出した騒音レベルをLmで表す。図11に示す例では、たとえば3つの観測点M1〜M3が設定される。たとえば観測点M1は、指向角φが30度の観測点であり、観測点M2は、指向角φが40度の観測点であり、観測点M3は、指向角φが60度の観測点である。そしてたとえば図12に示すような既存のデータベースから、各観測点Mmにおける騒音レベルLmを抽出して取得する。このようにステップs5では、既存のデータベースから、遠方の騒音レベルLmを、指向角φm毎に求める。
【0060】
次にステップs6では、各点音源Onの位相ψnを決定する。各観測点Mmの騒音レベルは、各点音源Onの音源強度Snを用いて、式(7)で求めることができる。この式(7)で求められる騒音レベルは、既存のデータベースから抽出される騒音レベルLmと区別するために、「^」を付けてL^mで表す。さらに理解を容易にするために、既存データベースから抽出した騒音レベルを、既知騒音レベルLmといい、式(7)で算出される騒音レベルを、算出騒音レベルL^mという。
【0061】
【数5】

【0062】
ここでprefは、基準音圧(=2×10−5[Pa])であり、iは虚数単位である。
そしてステップs6では、式(7)で求まる算出騒音レベルL^mから既知騒音レベルLmを減算した差の2乗和が最小となるように、たとえば最適化アルゴリズムを用いて、各点音源Onの位相ψnを決定する。この位相決定のための最適化アルゴリズムは、特に限定されるものではなく、勾配法、遺伝的アルゴリズムなどを用いることができる。このように、音源強度Snと位相ψnとで規定される、複数の点音源Onで表され音源モデルが生成される。
【0063】
生成される音源モデルを用い、さらに機体モデルを用い、ステップs7で、ジェット流31の周囲の音場を解析し、機体によるジェット騒音の遮蔽効果を評価する。このような解析方法の解析結果に基づき、遮蔽効果の高い機体の形状を選定し、この機体形状を採用することによって、ジェット騒音を低減可能な機体を設計することができる。
【0064】
図13は、生成される音源モデルの一例の音源強度分布を示すグラフである。図14は、生成される音源モデルの一例の位相分布を示すグラフである。図13には、横軸にy座標を示し、縦軸に音源強度Snを示す。図14には、横軸にy座標を示し、縦軸に位相角φnを示す。図13および図14の横軸は、各点音源Onのジェット軸線Lに沿う位置をy座標で示しており、y座標の値は、ノズル30の出口の内径Dを1としている。また図13および図14には、表1のケース2の場合の結果であって、周波数fが4kHzの騒音に関する結果を実線で示し、周波数fが1kHzの騒音に関する結果を破線で示し、周波数fが250Hzの騒音に関する結果を二点鎖線で示す。このように本発明の方法によれば、音源強度Snと位相ψnとで各点音源Onを規定する音源モデルを生成することができる。
【0065】
図15は、表1のケース1の場合について生成した音源モデルを用いて推算した騒音レベルの一例を示すグラフである。図16は、表1のケース2の場合について生成した音源モデルを用いて推算した騒音レベルの一例を示すグラフである。図15および図16は、微細渦による音響放射に着目し、ステップs6で、指向角が90度の観測点に関して、既知騒音レベルLmと算出騒音レベルL^mとが最も一致するように、各位相角ψnを決定した音源モデルを用いた場合の推算結果を示す。
【0066】
図15および図16には、横軸に周波数を示し、縦軸に騒音レベルを示す。また図15および図16には、○、■、◆、△で、既存のデータベースであるESDUから抽出した、指向角φが30度、60度、90度、120度の騒音レベルを示す。また図15および図16には、実線、破線、二点鎖線、一点鎖線で、生成した音源モデルを用いて周辺音場解析して推算した、指向角φが30度、60度、90度、120度の騒音レベルを示す。図15および図16に示すように、指向角φが30度の方向の観測点に関して、既存のデータベースの騒音レベルと推算した騒音レベルとの間に多少のずれが見られるが、比較的、既存のデータベースの騒音レベルと近い推算結果が得られている。
【0067】
図17は、表1のケース1の場合について生成した音源モデルを用いて推算した騒音レベルの他の例を示すグラフである。図18は、表1のケース2の場合について生成した音源モデルを用いて推算した騒音レベルの他の例を示すグラフである。図17および図18は、大規模乱流構造による音響放射に着目し、ステップs6で、指向角が30度の観測点に関して、既知騒音レベルLmと算出騒音レベルL^mとが最も一致するように、各位相角ψnを決定した音源モデルを用いた場合の推算結果を示す。
【0068】
図17および図18には、横軸に周波数を示し、縦軸に騒音レベルを示す。また図17および図18には、○、■、◆、△で、既存のデータベースであるESDUから抽出した、指向角φが30度、60度、90度、120度の騒音レベルを示す。また図17および図18には、実線、破線、二点鎖線、一点鎖線で、生成した音源モデルを用いて周辺音場解析して推算した、指向角φが30度、60度、90度、120度の騒音レベルを示す。図17および図18に示すように、指向角φに拘わらず、既存のデータベースの騒音レベルと近い推算結果が得られている。図3に示すように、ジェット騒音は、巨視的に見ると、指向角30度の方向に放射される指向特性を有しており、図17および図18の推算に用いた音源モデルは、このジェット騒音の放射方向の観測点に着目して位相決定したモデルである。ジェット騒音の放射方向とは、ジェット騒音の放射強度が強い方向である。このようにジェット騒音の指向特性を考慮し、ジェット騒音の放射方向に着目してモデル化した音源モデルは、指向角が30度から120度までの範囲を含む広範囲の騒音を模擬可能な精度の高い音源モデルであることがわかる。
【0069】
このような本発明の音源モデル化方法および騒音解析方法は、たとえばソニックブーム強度を半減する、翼胴一体の低ソニックブームおよび低抵抗機体の騒音解析、設計に用いることができる。また本発明の音源モデル化方法および騒音解析方法は、エンジンを機体の上方に配置することによって機体で騒音を遮蔽する、騒音遮蔽機体の騒音解析、設計に用いることができる。さらに本発明の音源モデル化方法および騒音解析方法は、離着陸および超音速飛行を可能にする無人機などの高度システム統合技術のための、騒音解析、設計に用いることができる。さらにまた本発明の音源モデル化方法および騒音解析方法は、ロケットの打ち上げ発射台付近の音場解析のために用いることができる。
【0070】
前述の実施の形態は、本発明の例示に過ぎず、本発明の構成を変更することができる。たとえば解析に用いる計算法、アルゴリズムなどは変更可能であるし、点音源の設定位置もジェット軸線上の等間隔に限定されるものではなく、変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施の一形態のジェット騒音の解析方法を示すフローチャートである。
【図2】図1の騒音解析方法を実行する騒音解析装置20を示すブロック図である。
【図3】ジェットエンジン26によって発生するノイズを説明するためにノズル30を示す断面図である。
【図4】ジェット流の非定常流の解析結果の一例を示すグラフである。
【図5】定常RANS解析に基づくジェット騒音の推算のイメージを説明するためにジェット流31を示す断面図である。
【図6】RANS解析結果のマッハ数分布を示すグラフである。
【図7】RANS解析結果の乱流エネルギーを示すグラフである。
【図8】RANS解析結果のエネルギー散逸状態を示すグラフである。
【図9】RANS解析結果の速度の変動の2乗平均値qと、平均乱流減衰率ωとを示すグラフである。
【図10】各点音源Onの音源強度Snの求め方を説明するための図である。
【図11】各点音源Onの位相ψの求め方を説明するための図である。
【図12】既存のデータベースの騒音レベル(SPL)の一例を示すグラフである。
【図13】生成される音源モデルの一例の音源強度分布を示すグラフである。
【図14】生成される音源モデルの一例の位相分布を示すグラフである。
【図15】表1のケース1の場合について生成した音源モデルを用いて推算した騒音レベルの一例を示すグラフである。
【図16】表1のケース2の場合について生成した音源モデルを用いて推算した騒音レベルの一例を示すグラフである。
【図17】表1のケース1の場合について生成した音源モデルを用いて推算した騒音レベルの他の例を示すグラフである。
【図18】表1のケース2の場合について生成した音源モデルを用いて推算した騒音レベルの他の例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0072】
20 騒音解析装置
21 入力手段
22 記憶手段
23 外部記録手段
24 演算手段
25 出力手段
30 ノズル
31 ジェット流
50 遮蔽板
L ジェット軸線
O1,O2,…,On 点音源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジェット流を解析して求められるジェット音源の強度分布を離散化し、複数の点音源を設定して各点音源の音源強度を求め、
予め把握されているジェット流に関する遠方自由音場での騒音レベルに基づいて、各点音源の位相を求めることを特徴とするジェット騒音の音源モデル化方法。
【請求項2】
ジェット流のジェット軸線に沿って、各点音源を設定することを特徴とする請求項1に記載のジェット騒音の音源モデル化方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のジェット騒音の音源モデル化方法によって生成される音源モデルを用いて、ジェット騒音による周辺の音場を解析することを特徴とするジェット騒音の解析方法。
【請求項4】
請求項3に記載のジェット騒音の解析方法によって、機体によるジェット騒音への影響を考慮して航空機を設計することを特徴とする航空機の設計方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−102095(P2008−102095A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−286819(P2006−286819)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度 超高速輸送機実用化開発調査「超高速輸送機の機体形状最適化設計」契約、産業活力再生特別措置法30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】