説明

ジエン系ゴム組成物

【課題】耐熱性、耐圧縮永久歪特性および耐久性をバランスよく改善せしめ、タイヤのリムクッション部などに好適に用いられるジエン系ゴム組成物を提供する。
【解決手段】天然ゴムを10重量%以上含有するジエン系ゴムブレンド物100重量部当り、モノメタクリル酸亜鉛3.8〜12重量部、窒素吸着比表面積N2SA(JIS K6217-2準拠)が50〜160m2/gのカーボンブラック50〜90重量部を配合してなり、加硫促進剤/硫黄重量比が1.2〜1.6であるジエン系ゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジエン系ゴム組成物に関する。さらに詳しくは、空気入りタイヤリムクッション部の加硫成形用ゴム材料などとして好適に用いられるジエン系ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車車両においては、空気入りタイヤとリムとの嵌合性を向上させるため、リムと当接するビード部の内周側にリムクッションゴムを配置するようにした空気入りタイヤが用いられている。このような構造の採用により、リム組みした際に圧縮変形したリムクッションゴムの反発弾性によりリムとの密着性が向上し、リム嵌合性及び耐リム滑り性を高めることができる。
【0003】
このリムクッション部には、路面からの物理的な応力がかかるばかりではなく、回転トルクなどの応力が直接かかることとなる。従って、リムクッション部には、路面からの応力と、これと逆向きとなるリムからの応力がかかるため、耐久性がタイヤの他の部分に比べて損なわれやすい傾向にある。また、高速走行による発熱等による変形や熱老化も受けやすい。
【0004】
このため、リムクッション部のゴムの耐熱性、耐圧縮永久歪特性、耐久性は、タイヤ内圧保持の関係上非常に重要であり、これらの性能が低いと熱による劣化、各種応力による変形、破断による空気圧の低下によってタイヤのたわみが大きくなり、これらは故障が促進されるなどの現象につながる。ここで、耐圧縮永久歪特性を向上させる方法として、カーボンブラックの増量や硫黄など加硫系配合剤の増量などの手法が用いられているが、これらの手法ではゴムの破断強度が低下し、亀裂が発生するなどの問題がある。
【0005】
本出願人は先に、リムクッション部などに好適に用いられるゴム組成物として、天然ゴムおよび/またはポリイソプレンゴム18〜55重量部、ポリブタジエンゴム43〜80重量部、およびスチレン-ブタジエン共重合ゴム2重量部以上10重量部未満からなるブレンドゴムを有し、前記スチレン-ブタジエン共重合ゴム中のスチレン含有量が該スチレン-ブタジエン共重合ゴム100重量%に対して35重量%以下であるゴム組成物を提案している。かかるゴム組成物より得られるリムクッション部は、耐圧縮永久歪特性にはすぐれているものの、耐熱老化性および耐久性の点でさらなる改善が望まれている。
【特許文献1】特開2007−302715号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、耐熱性、耐圧縮永久歪特性および耐久性をバランスよく改善せしめ、タイヤのリムクッション部などに好適に用いられるジエン系ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる本発明の目的は、天然ゴムを10重量%以上含有するジエン系ゴムブレンド物100重量部当り、モノメタクリル酸亜鉛3.8〜12重量部、窒素吸着比表面積N2SA(JIS K6217-2準拠)が50〜160m2/gのカーボンブラック50〜90重量部を配合してなり、加硫促進剤/硫黄重量比が1.2〜1.6であるジエン系ゴム組成物によって達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るジエン系ゴム組成物は、耐熱性、耐圧縮永久歪特性および耐久性をバランスよく改善せしめるので、空気入りタイヤのリムクッション部などの加硫成形材料として好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
ジエン系ゴムブレンド物としては、天然ゴム(NR)を10重量%以上、好ましくは10〜80重量%を含有するものが用いられる。天然ゴム量がこれより少ない割合で用いられると圧縮永久歪特性が悪化するようになり好ましくない。天然ゴムとブレンドされる合成ジエン系ゴムとしては、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、ニトリルゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等の少なくとも一種が用いられ、SBRとしては、乳化重合SBR(E-SBR)、溶液重合SBR(S-SBR)のいずれをも用いることができる。ゴムブレンド物としては、好ましくはNRおよびBRよりなるブレンドゴムが用いられる。
【0010】
モノメタクリル酸亜鉛は、メタクリル酸が亜鉛に対して配位結合しているものと考えられ、〔CH(CH3)=CHCOO〕2Znで表わされるジメタクリル酸亜鉛とは区別される。実際には、モノメタクリル酸亜鉛として市販されているサートマー社製品SR709等をそのまま用いることができる。また、モノメタクリル酸亜鉛の合成例としては、塩基過剰でメタクリル酸と酸化亜鉛とを反応させて得られた、例えば60重量%のモノメタクリル酸亜鉛と30重量%のジメタクリル酸亜鉛、10重量%の酸化亜鉛とからなる混合塩が挙げられる。
【特許文献2】特表平11−512776号公報
【0011】
モノメタクリル酸亜鉛は、ジエン系ゴム100重量部当り3.8〜12重量部、好ましくは4.0〜10重量部の割合で用いられる。モノメタクリル酸亜鉛の配合割合がこれよりも少ないと、耐久性が悪化するようになり、一方これよりも多い割合で用いられると、耐熱性が悪化するようになるので好ましくない。ここでモノメタクリル酸亜鉛は、酸化亜鉛を用いることなく亜鉛化合物として単独で用いることもできるし、亜鉛化合物の合計量が12重量部以内であれば、酸化亜鉛等との併用も可能である。
【0012】
また、カーボンブラックとしては、窒素吸着比表面積N2SA(JIS K6217-2準拠)50〜160m2/g、好ましくは60〜140m2/gのものが、ジエン系ゴム100重量部当り50〜90重量部、好ましくは60〜80重量部の割合で用いられる。かかる窒素吸着比表面積N2SAを有するカーボンブラックとしては、SAF、ISAF、HAFのグレードのカーボンブラックが用いられ、これより小さい窒素吸着比表面積N2SAを有するカーボンブラック、例えばFEF、GPFカーボンブラックを用いた場合には、高剛性を満足させることができない。また、カーボンブラックが、これより少ない割合で用いられるとカーボンブラックの補強作用が発揮されず、耐摩耗性が低下するようになり、一方これよりも多く用いられると、ゴムの破断強度が低下し、耐久性が悪化するようになる。
【0013】
ジエン系ゴム組成物中には、ゴムの配合剤として加硫剤としての硫黄0.5〜3重量部、好ましくは1〜2重量部およびチアゾール系(MBT、MBTS、ZnMBT等)、スルフェンアミド系(CBS、DCBS、BBS等)、グアニジン系(DPG、DOTG、OTBG等)、チウラム系(TMTD、TMTM、TBzTD、TETD、TBTD等)、ジチオカルバミン酸塩系(ZTC、NaBDC等)、キサントゲン酸塩系(ZnBX等)等の加硫促進剤0.6〜4重量部、好ましくは1〜2.5重量部が用いられ、これらは加硫促進剤/硫黄重量比が1.2〜1.6、好ましくは1.3〜1.5となるような割合で添加される。加硫促進剤/硫黄重量比が、これより小さい場合には耐熱性に劣るようになり、一方これより大きい場合には耐久性が劣るようになる。
【0014】
以上の各成分を必須成分とするジエン系ゴム組成物中には、さらにゴムの配合剤として一般的に用いられている配合剤、例えばタルク、クレー、グラファイト、珪酸カルシウム等の補強剤または充填剤、ステアリン酸、パラフィンワックス、アロマオイル等の加工助剤、老化防止剤、可塑剤などが必要に応じて適宜配合されて用いられる。
【0015】
組成物の調製は、ニーダ、バンバリーミキサ等の混練機およびオープンロール等を用いる一般的な方法で混練することによって行われ、得られた組成物は、用いられたジエン系ゴムに応じた加硫温度で加硫され、リムクッション部(図1において符号3で示される)を形成する。
【実施例】
【0016】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0017】
実施例1
天然ゴム(STR20) 50重量部
ブタジエン共重合ゴム(日本ゼオン製品NIPOL BR1220) 50 〃
HAFカーボンブラック(東海カーボン製品シースト300 70 〃
:窒素吸着比表面積N2SA 81m2/g)
モノメタクリル酸亜鉛(サートマー社製品SR709) 8 〃
老化防止剤(住友化学製品アンチゲン6C) 3 〃
硫黄(鶴見化学工業製品金華印油入微粉硫黄、硫黄分95%) 1.5 〃
加硫促進剤(大内新興化学工業製品ノクセラーNS-P) 2 〃

以上の各成分の内、加硫促進剤と硫黄を除く各成分を3L密閉型ミキサで5分間混練し、150℃に達したとき放出してマスターバッチを得た。このマスターバッチに加硫促進剤と硫黄を加え、オープンロールで混練し、ジエン系ゴム組成物を得た(加硫促進剤/硫黄重量比=1.40)。
【0018】
実施例2
実施例1において、モノメタクリル酸亜鉛量が4重量部に変更され、またさらに亜鉛華(正同化学工業製品酸化亜鉛3種)が2重量部用いられた。
【0019】
比較例1(標準例)
実施例1において、モノメタクリル酸亜鉛の代わりに亜鉛華(酸化亜鉛3種)4重量部が用いられ、また硫黄量が2重量部に変更されて用いられた(加硫促進剤/硫黄重量比=1.05)。
【0020】
比較例2
実施例1において、モノメタクリル酸亜鉛の代わりに亜鉛華(酸化亜鉛3種)4重量部が用いられた。
【0021】
比較例3
実施例1において、HAFカーボンブラックの代わりにGPFカーボンブラック(東海カーボン製品HTC♯G:窒素吸着比表面積26m2/g)が同量用いられ、またモノメタクリル酸亜鉛量が7重量部に変更されて用いられた。
【0022】
比較例4
実施例1において、モノメタクリル酸亜鉛量が3重量部に変更されて用いられた。
【0023】
比較例5
実施例1において、モノメタクリル酸亜鉛量が14重量部に変更されて用いられた。
【0024】
比較例6
実施例1において、モノメタクリル酸亜鉛量が7重量部に、また硫黄量が2重量部にそれぞれ変更されて用いられた(加硫促進剤/硫黄重量比=1.05)。
【0025】
比較例7
実施例1において、モノメタクリル酸亜鉛量が7重量部に、また硫黄量が1重量部にそれぞれ変更されて用いられた(加硫促進剤/硫黄重量比=2.10)。
【0026】
比較例8
実施例1において、天然ゴムが用いられず、ブタジエン共重合ゴム量が100重量部に、またモノメタクリル酸亜鉛量が7重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
【0027】
以上の各実施例および比較例で得られたジエン系ゴム組成物を150℃で30分間加硫して所定の加硫ゴム試験片を得、得られた加硫ゴム試験片について、耐熱老化性、圧縮永久歪および耐屈曲疲労性の測定を行った。
耐熱老化性:JIS K6251準拠、80℃、96時間後の破断伸び/初期破断伸びを算出測定
し、標準例で得られた値を100とする指数で示した
(この値が大きい程、耐熱老化性に優れていることを示している)
圧縮永久歪:JIS K6262準拠、25%の歪率で70℃、22時間後の歪率を測定し、標準例
で得られた値を100とする逆数を指数で示した
(この値が大きい程、圧縮永久歪が良好であることを示している)
耐屈曲疲労性:JIS K6260-1999に準拠、3万回屈曲した後の亀裂長さを測定し、標準
例で得られた値を100とする指数で示した
(この値が大きい程、耐屈曲疲労性が良好であることを示している)
【0028】
得られた結果は、次の表に示される。

圧縮永久歪 耐熱老化性 耐屈曲疲労性
実施例1 105 110 105
〃 2 105 108 100
比較例1 100 100 100
〃 2 105 105 95
〃 3 100 95 120
〃 4 110 105 95
〃 5 95 120 110
〃 6 95 105 100
〃 7 110 115 95
〃 8 105 95 105
【0029】
以上の結果から、次のようなことがいえる。
(1) 各実施例では、耐熱老化性、耐圧縮永久歪特性および耐久性がバランスよく改善されている。
(2) 標準例である比較例1と比較して、モノメタクリル酸亜鉛を配合することなく、ただ単に硫黄量を少なくしたのみでは、耐屈曲疲労性が悪化する(比較例2)。
(3) 標準例である比較例1と比較して、カーボンブラックのグレードとしてGPFを用いると、圧縮永久歪特性が悪化する(比較例3)。
(4) 標準例である比較例1と比較して、モノメタクリル酸亜鉛量を規定量以下の割合で配合すると、耐屈曲疲労性(耐久性)が悪化する(比較例4)。
(5) 標準例である比較例1と比較して、モノメタクリル酸亜鉛量を規定量以上の割合で配合すると、耐熱老化性が悪化する(比較例5)。
(6) 標準例である比較例1と比較して、モノメタクリル酸亜鉛量が規定量内であっても、加硫促進剤/硫黄重量比が規定された範囲よりも小さいと、耐熱老化性が悪化する(比較例6)。
(7) 標準例である比較例1と比較して、モノメタクリル酸亜鉛量が規定量内であっても、加硫促進剤/硫黄重量比が規定された範囲よりも大きいと、耐屈曲疲労性(耐久性)が悪化する(比較例7)。
(8) 標準例である比較例1と比較して、モノメタクリル酸亜鉛量が規定量内であっても、天然ゴムが用いられないと、圧縮永久歪特性が悪化する(比較例8)。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】空気入りタイヤの要部断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 ビードフィラー
2 ビードコア
3 リムクッション
4 チェーファー
5 カーカス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムを10重量%以上含有するジエン系ゴムブレンド物100重量部当り、モノメタクリル酸亜鉛3.8〜12重量部、窒素吸着比表面積N2SA(JIS K6217-2準拠)が50〜160m2/gのカーボンブラック50〜90重量部を配合してなり、加硫促進剤/硫黄重量比が1.2〜1.6であるジエン系ゴム組成物。
【請求項2】
空気入りタイヤリムクッション部の加硫成形用ゴム材料として用いられる請求項1記載のジエン系ゴム組成物。
【請求項3】
請求項2記載のジエン系ゴム組成物から加硫成形されたリムクッション部を有する空気入りタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2009−242577(P2009−242577A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90598(P2008−90598)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】