説明

ジオキソアントラセンスルホン酸塩誘導体

抗炎症活性を有し得る化合物は、一般式(I)を有し、
【化1】


式中、R、R、Rはそれぞれ独立して、H、またはC1−4アルキル基、もしくはC2−4アシル基であり、RおよびRはそれぞれ独立して、H、または式−SOの基であり、ここで、Rは、H、またはC1−4アルキル基、もしくはC2−4アシル基であり、但し、RおよびRの少なくとも一方は、式−SOの基であり、あるいは、薬剤的に許容可能なその塩である。

【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
本発明は、あるジオキソアントラセンスルホン酸塩誘導体、この誘導体の調製のためのプロセス、ならびに、特にIL−1ファミリーの炎症誘発性サイトカインに影響された状態、特に炎症性および自己免疫性の疾患、例えば関節炎の疾患の治療法における、薬物としてのこの化合物の使用に関する。
【0002】
ライン(Rhein)、4,5−ジヒドロキシ−9,10−ジオキソ−2−アントラセンカルボン酸、およびそのジアセチル化誘導体(diacetylated derivative)ジアセレインは、多数の医薬品の適用のために知られている。特に、ラインおよびジアセレインは、関節炎の疾患、特には、例えばUS 4,244,968、GB 1 578 452、EP 544 880 B1、EP 636 602 B1、およびUS 6,610,750に記述されているような変形性関節症および慢性関節リウマチ、ならびに、EP 1 248 608 B1に記述されているような乾癬および付随する状態の処置での使用のために知られている。ラインおよびジアセレインはまた、種々の状態、例えば、炎症性疾患、自己免疫性疾患、血管の疾患、痛み軽減、糖尿病性ネフローゼの処置のためにも記述されて来ている。
【0003】
サイトカインIL−1(α,β)およびTNF−αは、炎症性プロセスおよび軟骨分解の媒介において重要な役割を果たすものと考えられている。IL−1およびTNF−αはまた、菌体内毒素およびその他の感染性刺激物に対する生物学的な応答の媒介においても関係するものと考えられてもいる。炎症誘発性および抗炎症性のサイトカインの広範な評論が、C.A.Dinarello医師、およびL.L.Moldawer博士により、臨床医のための入門書“Proinflammatory and Anit-inflammatory Cytokines in Rheumatoid Arthritis”, 2000, Amgen Inc.に示されている。サイトカインIL−1およびTNF−αは、変形性関節症、慢性関節リウマチ、乾癬性関節炎、乾癬、パジェット病、骨粗鬆症、潰瘍性大腸炎およびクローン病を含む炎症性腸疾患(inflammatory bowl diseases)、子宮内膜症、ウェゲナー肉芽腫症、アルツハイマー病およびパーキンソン病といった神経性機能障害、骨髄腫、骨髄性白血病、骨転移、糖尿病性ネフローゼ、慢性心臓病、関節硬化症、喘息といった、多数の炎症性および自己免疫性の状態のメカニズムに関係して来ている。
【0004】
ジアセレインおよびその活性な代謝産物ラインは、インターロイキン−1(IL−1)ファミリー、特にIL−1βの炎症誘発性異化サイトカインの合成および活動を阻害することが知られている。ラインおよびジアセレインは、IL−6、IL−8、および組織壊死因子(TNF−α)といったその他のサイトカインの発現を阻害することが示されて来た。ラインおよびジアセレインによる炎症性サイトカインIL−1およびTNF−αの阻害は、例えば、WO 02/058681、WO 01/051044、J. Martel-PelletierらのJournal of Rheumatology, 1998, 25(4), 753-762、E. DouniらのArthritis Res Ther, 2004, 6: R65-R72において記述されている。
【0005】
これらの状態に苦しむ患者からの軟骨組織は、健康な個体からの軟骨細胞に比較して、高レベルのTNF−αおよびIL−1を発現し、IL−1阻害因子としてのラインの作用のこの特異的なメカニズムは、ある関節炎の状態、例えば、慢性関節リウマチ、変形性関節症、および乾癬性関節炎の処置における、ラインおよびジアセレインの有効性の少なくとも一部を説明するものと思われる。
【0006】
しかしながら、ジアセレイン中に存在する代謝産物アロエエモジンは、結腸および腎臓の細胞における染色体異常誘発性の影響を有することが示されて来ている。コメットアッセイ(Comet assay)によりテストされたアロエエモジンの遺伝毒性は、例えば、S.O. MuellerらのMutation Research, 371, (1996), 165-173により報告されている。
【0007】
さらに、ラインおよびジアセレインは、水溶液における溶解性に乏しく、医薬品剤形(この剤形から治療薬を生物が利用可能である剤形)の調製を困難にするという欠点を有する。ラインおよびジアセレインの乏しい溶解度は、非経口投与のための調合物に関して特に問題である。
【0008】
ジアセレイン、およびその活性代謝産物ラインは、長期に亘る処置中である患者に下痢性の影響を生じる傾向を有することが知られている。この下痢性の影響は、少なくとも一部で、ラインおよびジアセレインの非常に乏しい溶解度に起因するのではないか、と思われている。
【0009】
IL−1ファミリーの炎症誘発性サイトカインにより影響または仲介された状態、特には、関節炎の疾患を含む炎症性および自己免疫性の疾患の処置または治療法のために、さらなる化合物を提供することが今なお必要とされている。
【0010】
IL−1ファミリーの炎症誘発性サイトカインの阻害に対して活性を有し、ラインおよび/またはジアセレインのある欠点に立ち向かわせる代替の化合物を提供することがさらに有利であろう。
【0011】
IL−1ファミリーの炎症誘発性サイトカインの阻害に対して改善された活性を有する化合物を提供することがさらに有利であろう。
【0012】
ここで、式(I)の新規な医薬品化合物が提供される。
【化1】

式中、
、R、Rはそれぞれ独立して、H、またはC1−4アルキル基、もしくはC2−4アシル基であり、
およびRはそれぞれ独立して、H、または式−SOの基であり、ここで、Rは、H、またはC1−4アルキル基、もしくはC2−4アシル基であり、
但し、RおよびRの少なくとも一方は、式−SOの基である。
【0013】
本発明の特定の実施形態に従うと、式(I)の化合物であって、R、R、R、およびRがHであり、Rが−SOHである化合物(式(III))が提供される。
【化2】

【0014】
式(I)の化合物が、IL−1ファミリーの炎症誘発性サイトカインの生成を阻害することができることが、発明者らにより予想外にも見出された。Rおよび/またはRが−SOHである式(I)の化合物はまた、有利な溶解性質を示すことも示された。
【0015】
本発明のある一つの側面に従えば、式(I)の化合物の調製のためのプロセスが提供され、このプロセスは、式(II)の対応する化合物を硫酸(sulphuric acid)で処理することを含み、
【化3】

式中、R、R、およびRはそれぞれ独立してHである。
【0016】
ここで、本発明のある一つの側面に従えば、好適な薬剤的に許容可能な賦形剤と併せて、式(I)の化合物を含む、医薬品組成物が提供される。
【0017】
さらなる側面に従えば、本発明は、ヒトまたは獣医学の適用のための薬物としての使用のための式(I)の化合物に関し、IL−1ファミリーのサイトカインに仲介または影響された状態の処置、特には、炎症性または自己免疫性の疾患の処置のための式(I)の化合物に関し、IL−1ファミリーのサイトカインに仲介または影響された状態、特には、炎症性または自己免疫性の疾患の処置のための薬物の調製のための式(I)の化合物の使用に関し、また、対象者に治療上有効な量の式(I)の化合物を投与することを含む、IL−1ファミリーのサイトカインに仲介または影響された状態の処置のための方法に関する。
【0018】
本発明のその他の目的および利点は、特許請求の範囲、ならびに、以下の詳細な説明、実施例、および添付の図面から明らかになるであろう。
【0019】
本発明は、式(I)の化合物を提供する。
【化4】

式中、
、R、Rはそれぞれ独立して、H、またはC1−4アルキル基、もしくはC2−4アシル基であり、
およびRはそれぞれ独立して、H、または式−SOの基であり、ここで、Rは、H、またはC1−4アルキル基、もしくはC2−4アシル基であり、
但し、RおよびRの少なくとも一方は、式−SOの基である。
【0020】
本発明のある一つの実施形態に従うと、RおよびRは独立して、H、C1−4アルキル基、またはC2−4アシル基から選択され、RはHであり、RおよびRは、Hまたは−SOHであってよく、但し、RおよびRの少なくとも一方は、−SOHである。好ましい実施形態において、RおよびRは、両方ともHであるか、または両方ともアセチル基であるかのいずれかであり、RおよびRは、両方ともHであり、Rは−SOHである。
【0021】
本発明のある一つの実施形態に従うと、R、R、RはHであり、RおよびRは独立して、H、または−SOHであり、但し、RおよびRの少なくとも一方は、−SOHである。
【0022】
本発明の好ましい実施形態に従うと、式(III)の化合物(6−スルホ−4,5−ジヒドロキシ−9,10−ジオキソ−2−アントラセンカルボン酸)が提供される。
【化5】

【0023】
本発明の化合物は、これらの薬剤的に許容可能な塩の形態にあってもよい。特には、ナトリウム、カリウム、またはアンモニウム塩が企図される。
【0024】
式(I)の化合物は、本発明に従うプロセスにより調製されてよく、このプロセスは、式(II)の化合物を濃縮された硫酸で処理して、スルホン酸(sulphonic acid)の形態にある式(I)の対応する化合物を生成することを含み、
【化6】

ここで、R、R、およびRはHである。さらなるステップにおいて、所望のC1−4アルキル基、またはC2−4アシル基が、従来の技術を用いて選択的に置換されることができる。例えば、所望のC2−4アシルオキシ基を導入する、C2−4アシルハロゲン化物、または対応するアシル無水物との反応、対応するエステルを形成するC1−4アルコールとの反応、または、例えば、Cアルキル基を導入するジアゾメタン(CH)、もしくは対応するC2−4アルキル基を導入するC2−4アルキルハロゲン化物との反応である。所望の置換に応じて、既知の保護基が導入されてもよく、必要であれば、従来のプロセスを用いて開裂されてもよい。
【0025】
硫酸が代替的に、ピロ硫酸(pyrosulphuric acid)に置き換えられることができる。
【0026】
硫酸との反応は、好ましくは60〜120℃の間の温度、好ましくはおよそ100℃で行なわれる。
【0027】
酸との反応時間は、例えば、反応温度、使用される酸、所望の生成物(すなわち、ジ−、またはモノ−スルホン酸置換)などに応じて、異なり得る。一般的な指標としては、1時間〜48時間の間の反応時間、例えばおよそ24時間が予見され得る。反応の進行は、有利には、例えばHPLCによりモニターされてもよく、所望のジ−、またはモノ−スルホン酸塩置換された生成物への反応が完了した時点で、反応が止められてもよい。
【0028】
生成物は、例えば、対応する金属ハロゲン化物(例えば、NaCl)、または対応する金属アルカリ化剤(metal alkalizing agent)(NaOH、KOH、またはNHといったもの)を加えることにより、その生成物の対応する塩の形態で単離されてもよい。予見される塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム、またはアンモニウムといった、任意の薬剤的に許容可能な塩を含む。
【0029】
このようにして得られた式(I)の化合物は、例えば、調製用HPLC、または液液分配(liquid-liquid partitioning)といった、任意の好適な従来の精製プロセスを用いて精製されてもよい。
【0030】
本発明に従う式(I)の化合物は、IL−1ファミリーの炎症誘発性サイトカインの阻害における活性を示す。
【0031】
ヒト軟骨細胞におけるインビトロの研究において、式(I)の化合物は、ラインに比較して、インターロイキン−1(IL−1β)の改善された阻害を示すことが予想外にも示された。
【0032】
有利なことに、式(I)の化合物は、ジアセレイン中に存在する代謝産物アロエエモジンを回避させることができる。
【0033】
IL−1ファミリーの炎症誘発性サイトカインの阻害におけるそれらの活性の点から見て、本発明の化合物は、異常に高い、または増加されたレベルのIL−1により特徴づけられる状態の処置のために企図されている。
【0034】
本発明の化合物で処置され得る状態としては、炎症性および自己免疫性の疾患を含む。言及され得る状態としては、慢性関節リウマチ、変形性関節症、骨粗鬆症、乾癬性関節炎、乾癬(psoriaris)、アテローム性動脈硬化症、パジェット病、慢性心臓病、潰瘍性大腸炎およびクローン病を含む炎症性腸疾患、子宮内膜症、ウェゲナー肉芽腫症、アルツハイマー病およびパーキンソン病といった神経性機能障害、骨髄腫、骨髄性白血病、骨転移、糖尿病性ネフローゼ、肺気腫(pneumonary emphysema)、喘息を含む。
【0035】
したがって、本発明のある一つの側面は、健康な個体に比較して増加したレベルのIL−1により特徴づけられる状態を処置する方法に関し、この方法は、対象者に、有効な量の本発明に従う化合物、またはその薬剤的に許容可能な塩を投与することを含む。この状態は好ましくは、炎症性疾患、または自己免疫性疾患である。特には、処置されるべき状態としては、関節の炎症性疾患、特には、変形性関節症、または慢性関節リウマチを含む。乾癬性関節炎、および乾癬もまた、特に言及され得る。
【0036】
本発明の化合物は、ラインに比較して改善されたそれらの物理的な性質のためにも、広範囲にわたる、上述された炎症性および自己免疫性の疾患において臨床的な有用性がありそうである。
【0037】
本発明のある一つの側面に従うと、好適な薬剤的に許容可能な賦形剤と併せて、式(I)の化合物を含む、医薬品組成物が提供される。本発明に従う医薬品組成物は、ヒト使用のためのものであってもよいし、あるいは、獣医学的な使用のためのものであってもよい。
【0038】
本発明に従う医薬品組成物は、例えば、経口、筋肉内、静脈内、皮下、直腸、局所的、経皮的、鼻腔内、関節内(intrarticular)、舌下、および腹腔内の投与を含む、任意の経路による投与のために好適な調合物を有してもよい。
【0039】
経口投与のための調合物としては、例えば、錠剤、硬もしくは軟ゼラチンカプセル(hard or soft gelatin capsules)、トローチ剤、水性もしくは油性懸濁液、再構成のための分散性粉末もしくは顆粒、シロップ、またはエマルジョンを含み得る。
【0040】
非経口投与のための調合物は、任意の他の無毒の非経口的に許容可能な希釈剤または溶媒中の無菌の注射用の溶液または懸濁液のような、無菌の注射用の水性の緩衝された溶液または懸濁液の形態、または使用時の再構成のために凍結乾燥された形態といった、任意の好適な医薬品形態であってもよい。
【0041】
本発明の組成物は、例えば、水性もしくは油性のキャリアでの、クリーム、ゲル、軟膏、またはエマルジョンの形態で、局所的な投与のための調合物中で提供されてもよい。
【0042】
本発明に従う式(I)の化合物は、スルホネート基(sulphonate group)の存在により、ラインまたはジアセレインよりもより優れた水への溶解性を示すことが予期されている。例えば、R、R、RがHであり、RおよびRが独立してまたは両方ともSOHである本発明に従う式(I)の化合物は、特に優れた水溶液への溶解性を示すことが示された。例えば、式(III)の化合物は、1.2mg/mLの水への溶解度を有しており、一方、ラインおよびジアセレインは事実上、水に不溶性である。
【0043】
本発明の化合物の優れた溶解性質は、例えば注射または注入により、特には、関節内、筋肉内、静脈内、もしくは皮下の注射または注入のように、非経口的な経路により好都合にも化合物が投与されることを可能にする。
【0044】
医薬品組成物は、好適な薬剤的に既知の賦形剤および/または添加物を用いて、当技術分野で既知の方法に従って調製され得る。
【0045】
任意の好適な従来の薬剤的に許容可能な賦形剤としては、例えば、選択された投与の経路に従う、希釈剤、結合剤、界面活性剤、潤滑剤、懸濁剤、乳化剤、緩衝剤、固結防止剤(anticaking agents)、水性または油性のキャリア、崩壊剤(disintegrating agents)、保存剤(preserving agents)、香味料、甘味料、着色料が企図される。
【0046】
好適な投与計画(dosage regime)は、数ある中でも、治療上の適用、状態の重症度、および処置されるべき患者に関して、といった因子に応じて異なり得る。典型的な一日の投与量は、一日あたり、患者の体重のkgあたり約0.05mg〜約150mgのオーダーで異なり得る。一般的な期間では、一日あたり約10mg〜500mg、例えば、一日あたり約10mg〜約250mgの間の一日の投与量が予見され得る。ここからのユニット投与量における活性成分の量は、上記の因子に依存し、選ばれた投与の経路にも依存し、一般的には、ユニット剤形あたりの活性成分が1mg〜500mgの領域になるであろう。
【0047】
本発明は、下記の非限定的な実施例によりさらに例証される。
【0048】
〔実施例〕
<実施例1>
6−スルホ−4,5−ジヒドロキシ−9,10−ジオキソ−2−アントラセンカルボン酸の調製
99%を超える純度を有する純粋なジアセレインの脱アセチル化により生成されたライン(1g)を、濃縮された硫酸(100mL)中に溶解した。この溶液を100℃で加熱し、24時間攪拌した。反応が完了するまで、HPLCを用いてリアルタイムで反応の進行を追った。反応混合物を次に冷却させ、攪拌しながら2Lの水へと注いだ。結果として生じた溶液を次に、一晩4℃で保管した。未反応のライン加塩材料(rhein salting material)を、遠心機により除去した。110gの塩化ナトリウムを加えることにより、化合物6−スルホ−4,5−ジヒドロキシ−9,10−ジオキソ−2−アントラセンカルボン酸をそのナトリウム塩として沈殿させた。結果として得られた懸濁液を1時間4℃で冷却し、その後、遠心分離して固体生成物を分離し、減圧下で乾燥した。2.32gの生成物が得られた。
【0049】
塩の除去
上記のように得られた生成物を、4℃で30分間混合しながら水(115mL)に加えた。懸濁液を次に遠心分離し、デカントして残りの塩を含む上澄みを除去した。伝導率計(Radiometer CDM 206)で測定される伝導率が一定(およそ330μS/cm)になるまで、7回この操作を繰り返した。遠心分離した後の残渣を次に、減圧下で乾燥して、HPLCにより決定されたときに95.6%の純度を有する生成物を480mg得た。
【0050】
<実施例2>
性質決定
H−NMR分析
実施例1で得られた生成物のH−NMRスペクトルを、Bruker(登録商標)分光計を用いて400MHzで、ジメチルスルホキシド(DMSO)中で行なった。図1(a)〜図1(c)に示されている得られたスペクトルは、生成物6−スルホ−4,5−ジヒドロキシ−9,10−ジオキソ−2−アントラセンカルボン酸との一致を示している。
【0051】
H−NMRスペクトルは、4つだけの芳香族プロトンの存在を指し示しており、このうち2つがメタ位にあり、2つがオルト位にある。ヒドロキシル置換基だけを予め有していた環にスルホン酸置換が起こったことを示している。増加分に基づいて算出(caculated)された化学的な転置に匹敵する化学的な転置(シフト)が、スルホン酸基の置換がオルト位におけることを示している。
【0052】
質量分析
Agilent 1100 LC-MS Spectrometerを用い、大気圧でのネガティブエレクトロスプレーモード(negative eletro-spray mode)のイオン化を用いて、実施例1の生成物に対して質量分光分析法を行なった。図2に示されている得られたスペクトルは、364にピークを示しており、このため、生成物6−スルホ−4,5−ジヒドロキシ−9,10−ジオキソ−2−アントラセンカルボン酸、式(III)との一致を示している。
【0053】
<実施例3>
6−スルホ−4,5−ジヒドロキシ−9,10−ジオキソ−2−アントラセンカルボン酸ナトリウム塩の調製
99%を超える純度を有する純粋なジアセレインの脱アセチル化により生成されたライン(1g)を、濃縮された硫酸(100mL)中に溶解した。この溶液を100℃で加熱し、24時間攪拌した。反応が完了するまで、HPLCを用いてリアルタイムで反応の進行を追った。反応混合物を次に、冷却させ、攪拌しながら2Lの水に注いだ。結果として生じた溶液を次に、一晩4℃で保管した。遠心機により、未反応のライン加塩材料を除去した。上澄み(surnatant)のpHを1MのNaOHで7.0に調節した。生成物6−スルホ−4,5−ジヒドロキシ−9,10−ジオキソ−2−アントラセンカルボン酸をそのナトリウム塩の形態で次に単離し、逆相C18シリカカラムおよびメタノール/水/HPO溶出剤を用いて、調製用HPLCによりこの溶液から精製した。1gの生成物が単離され、実施例2におけるようなNMRおよびMSにより、6−スルホ−4,5−ジヒドロキシ−9,10−ジオキソ−2−アントラセンカルボン酸ナトリウム塩と特徴づけられた。
【0054】
<実施例4>
ヒト軟骨細胞におけるIL−1β阻害についてのインビトロの研究
ヒトの正常な軟骨細胞および骨関節炎(OA)軟骨細胞によるIL−1βサイトカインのリポ多糖(LPS)に刺激された生成を阻害することにおける実施例1の化合物およびラインの活性を研究した。
【0055】
材料および方法
正常な被験者またはOA患者の外傷性の骨折が原因である全股関節プロテーゼのための整形外科手術の間に、ヒト軟骨を得た。OAを有する患者は、下記の基準、すなわち、(1)両側性のOA、(2)放射線学および病理学のサポートによる中程度のOA(Kellgren-LaurenceグレードI−III)との診断、に基づいて選択した。
【0056】
4人のOA患者と9人の正常な被験者とから得られた軟骨試料から、単離された軟骨細胞の懸濁液を調製した。試料は、無菌状態下で入手し、維持した。軟骨を小片へと切断し、48時間37℃で炭酸塩/炭酸水素塩緩衝剤中で1mg/mLのクロストリジウムのコラゲナーゼでインキュベートした。いったん軟骨マトリクスから分離した軟骨細胞を、1500RPMで5分間遠心分離した。培地(10%SCFを補ったDMEM)中に懸濁した分離された軟骨細胞を実験のために用いた。細胞生存度を、トリパンブルー色素排除法(Trypan blue exclusion)により評価した。
【0057】
IL−1βの生成に対する細菌性菌体内毒素(LPS)による軟骨細胞のインビトロの刺激を以下のように行なった。
すなわち、培地中1x10細胞/mLのアリコートを、15mLのFalcon管において接種し、旋動振盪機(100RPM)においてかき混ぜ続けた。
【0058】
20mg/mLのライン、または濃度を増やしていった(1、5、10、20、および30μg/mL)テスト化合物(実施例1の化合物)を含むMPS(10μg/mL)の存在下で48時間、軟骨細胞を培養した。ラインを含むサンプルについて、ラインの疎水性の特質に関連する溶解性の問題を最小限にするために、溶液を5分間超音波処理に供した。テスト化合物の溶液については、その優れた溶解性のためにこの問題は存在しなかった。
【0059】
軟骨組織によるIL−1β生成を、ELISAキットにより種々のサンプル培養液中の培地でアッセイした。
図3は、ELISAにより評価したときの、LPS刺激された正常な軟骨細胞およびOA軟骨細胞におけるIL−1β生成についての、ラインおよび実施例1の化合物で得られた結果を示している。図4は、テスト化合物(実施例1の化合物)による、正常な軟骨細胞のIL−1β生成の投与量依存性の阻害を示している。図3に示した結果は、ラインに比較して、本発明の化合物が有意に増加したIL−1β阻害活性を示すことを示している。図4は、本発明に従う化合物が、10〜20mg/mLの間で阻害が最大になる、IL−1β生成の有意な阻害を提供することを示している。
【0060】
〔実施の態様〕
(1)式(I)の化合物、またはその薬剤的に許容可能な塩であって、
【化7】

式中、
、R、Rはそれぞれ独立して、H、またはC1−4アルキル基、もしくはC2−4アシル基であり、
およびRはそれぞれ独立して、H、または式−SOの基であり、ここで、Rは、H、またはC1−4アルキル基、もしくはC2−4アシル基であり、
但し、RおよびRの少なくとも一方は、式−SOの基である、
化合物またはその塩。
(2)実施態様(1)に記載の化合物において、
、Rは独立して、H、またはC1−4アルキル基、もしくはC2−4アシル基であり、RおよびRはHであり、Rは−SOHである、化合物。
(3)実施態様(1)または(2)に記載の化合物において、
式(III)を有する、化合物。
【化8】

(4)実施態様(1)〜(3)のいずれかに記載の化合物において、
薬物としての使用のための、化合物。
(5)実施態様(1)〜(3)のいずれかに記載の化合物において、
IL−1ファミリーの炎症誘発性サイトカインにより仲介または影響された状態の処置のための、化合物。
(6)実施態様(1)〜(3)のいずれかに記載の化合物において、
炎症性または自己免疫性の状態の処置のための薬物としての使用のための、化合物。
(7)実施態様(1)〜(3)のいずれかに記載の化合物において、
慢性関節リウマチ、変形性関節症、骨粗鬆症、乾癬性関節炎、乾癬、アテローム性動脈硬化症、パジェット病、慢性心臓病、潰瘍性大腸炎およびクローン病を含む炎症性腸疾患、子宮内膜症、ウェゲナー肉芽腫症、アルツハイマー病およびパーキンソン病といった神経性機能障害、骨髄腫、骨髄性白血病、骨転移、糖尿病性ネフローゼ、肺気腫、喘息から選択される状態の処置のための、化合物。
(8)実施態様(7)に記載の化合物において、
前記状態が、変形性関節症、慢性関節リウマチ、乾癬性関節炎、および乾癬から選択される、化合物。
(9)医薬品組成物であって、
活性成分として、実施態様(1)〜(3)のいずれかに記載の化合物、またはその薬剤的に許容可能な塩を含む、医薬品組成物。
(10)実施態様(9)に記載の医薬品組成物において、
前記組成物が、非経口投与のためのものである、医薬品組成物。
(11)実施態様(9)に記載の医薬品組成物において、
前記組成物が、経口投与のためのものである、医薬品組成物。
(12)実施態様(9)に記載の医薬品組成物において、
前記組成物が、局所的投与のためのものである、医薬品組成物。
(13)IL−1ファミリーの炎症誘発性サイトカインにより仲介または影響された状態の処置のための方法において、
治療上有効な量の、実施態様(1)〜(3)のいずれかに記載の化合物、またはその薬剤的に許容可能な塩を、対象者に投与すること、
を含む、方法。
(14)炎症性または自己免疫性の疾患の処置のための方法において、
治療上有効な量の、実施態様(1)〜(3)のいずれかに記載の化合物、またはその薬剤的に許容可能な塩を、対象者に投与すること、
を含む、方法。
(15)実施態様(13)に記載の方法において、
前記疾患が、変形性関節症、慢性関節リウマチ、乾癬性関節炎、および乾癬から選択される、方法。
(16)実施態様(1)〜(3)のいずれかに記載の化合物の使用において、
IL−1ファミリーの炎症誘発性サイトカインにより仲介または影響された状態の処置のための薬物の製造のための、使用。
(17)式(I)の化合物、またはその薬剤的に許容可能な塩の調製のための方法において、
【化9】

式中、
、R、Rはそれぞれ独立して、H、またはC1−4アルキル基、もしくはC2−4アシル基であり、
およびRはそれぞれ独立して、H、または式−SOの基であり、ここで、Rは、H、またはC1−4アルキル基、もしくはC2−4アシル基であり、
但し、RおよびRの少なくとも一方は、式−SOの基であり、
前記方法は、
式(II)の化合物を濃縮された硫酸で処理することを含み、
【化10】

式中、
、R、RはHである、方法。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1a】本発明に従う化合物のH−NMRスペクトルを示している。
【図1b】本発明に従う化合物のH−NMRスペクトルを示している。
【図1c】本発明に従う化合物のH−NMRスペクトルを示している。
【図2】本発明に従う同じ化合物の質量分析を示している。
【図3】ヒト軟骨細胞におけるIL−1βサイトカイン生成の阻害に対する本発明に従う化合物の影響を示すグラフ表示である。
【図4】本発明に従う化合物によるヒト軟骨細胞におけるIL−1βサイトカイン生成の投与量依存性の阻害を示すグラフ表示である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の化合物、またはその薬剤的に許容可能な塩であって、
【化1】

式中、
、R、Rはそれぞれ独立して、H、またはC1−4アルキル基、もしくはC2−4アシル基であり、
およびRはそれぞれ独立して、H、または式−SOの基であり、ここで、Rは、H、またはC1−4アルキル基、もしくはC2−4アシル基であり、
但し、RおよびRの少なくとも一方は、式−SOの基である、
化合物またはその塩。
【請求項2】
請求項1に記載の化合物において、
、Rは独立して、H、またはC1−4アルキル基、もしくはC2−4アシル基であり、RおよびRはHであり、Rは−SOHである、化合物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の化合物において、
式(III)を有する、化合物。
【化2】

【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の化合物において、
薬物としての使用のための、化合物。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の化合物において、
IL−1ファミリーの炎症誘発性サイトカインにより仲介または影響された状態の処置のための、化合物。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の化合物において、
炎症性または自己免疫性の状態の処置のための薬物としての使用のための、化合物。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載の化合物において、
慢性関節リウマチ、変形性関節症、骨粗鬆症、乾癬性関節炎、乾癬、アテローム性動脈硬化症、パジェット病、慢性心臓病、潰瘍性大腸炎およびクローン病を含む炎症性腸疾患、子宮内膜症、ウェゲナー肉芽腫症、アルツハイマー病およびパーキンソン病といった神経性機能障害、骨髄腫、骨髄性白血病、骨転移、糖尿病性ネフローゼ、肺気腫、喘息から選択される状態の処置のための、化合物。
【請求項8】
請求項7に記載の化合物において、
前記状態が、変形性関節症、慢性関節リウマチ、乾癬性関節炎、および乾癬から選択される、化合物。
【請求項9】
医薬品組成物であって、
活性成分として、請求項1〜3のいずれかに記載の化合物、またはその薬剤的に許容可能な塩を含む、医薬品組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の医薬品組成物において、
前記組成物が、非経口投与のためのものである、医薬品組成物。
【請求項11】
請求項9に記載の医薬品組成物において、
前記組成物が、経口投与のためのものである、医薬品組成物。
【請求項12】
請求項9に記載の医薬品組成物において、
前記組成物が、局所的投与のためのものである、医薬品組成物。
【請求項13】
IL−1ファミリーの炎症誘発性サイトカインにより仲介または影響された状態の処置のための方法において、
治療上有効な量の、請求項1〜3のいずれかに記載の化合物、またはその薬剤的に許容可能な塩を、対象者に投与すること、
を含む、方法。
【請求項14】
炎症性または自己免疫性の疾患の処置のための方法において、
治療上有効な量の、請求項1〜3のいずれかに記載の化合物、またはその薬剤的に許容可能な塩を、対象者に投与すること、
を含む、方法。
【請求項15】
請求項13に記載の方法において、
前記疾患が、変形性関節症、慢性関節リウマチ、乾癬性関節炎、および乾癬から選択される、方法。
【請求項16】
請求項1〜3のいずれかに記載の化合物の使用において、
IL−1ファミリーの炎症誘発性サイトカインにより仲介または影響された状態の処置のための薬物の製造のための、使用。
【請求項17】
式(I)の化合物、またはその薬剤的に許容可能な塩の調製のための方法において、
【化3】

式中、
、R、Rはそれぞれ独立して、H、またはC1−4アルキル基、もしくはC2−4アシル基であり、
およびRはそれぞれ独立して、H、または式−SOの基であり、ここで、Rは、H、またはC1−4アルキル基、もしくはC2−4アシル基であり、
但し、RおよびRの少なくとも一方は、式−SOの基であり、
前記方法は、
式(II)の化合物を濃縮された硫酸で処理することを含み、
【化4】

式中、
、R、RはHである、方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−503170(P2011−503170A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−533705(P2010−533705)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【国際出願番号】PCT/IB2008/054777
【国際公開番号】WO2009/063427
【国際公開日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(509176318)
【Fターム(参考)】