説明

ジカルボン酸及びその塩

【課題】 微生物に資化され難く、さらに耐硬水性に優れるジカルボン酸及びその塩、及び、これらのジカルボン酸及びその塩を含有した水溶性加工油剤、水溶性洗浄剤を提供する。
【解決手段】 エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドのそれぞれのポリマー及び組み合わせからなるポリマーと酸無水物(無水コハク酸、無水マレイン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水フタル酸)のジアシル化反応物であるジカルボン酸及びそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、または、アミン塩からなるジカルボン酸塩、及び、これらのジカルボン酸及びその塩を含有することを特徴とする水溶性加工油剤、水溶性洗浄剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物に資化され難く、さらに耐硬水性に優れるジカルボン酸及びその塩、及び、これらのジカルボン酸及びその塩を含有する水溶性加工油剤、水溶性洗浄剤に関する。更に詳しくは、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドのそれぞれのポリマー及び組み合わせからなるポリマーと酸無水物(無水コハク酸、無水マレイン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水フタル酸)のジアシル化反応物であるジカルボン酸及びそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、または、アミン塩からなるジカルボン酸塩、及び、これらのジカルボン酸及びその塩を含有することを特徴とする水溶性加工油剤、水溶性洗浄剤に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪酸のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、または、アミン塩は、防錆剤、界面活性剤として、使用される。水溶性加工油剤や水溶性洗浄剤には、脂肪酸のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、または、アミン塩が主要な成分として含有されていることが多い。また、脂肪酸は、防腐、防錆効果を発揮するために添加されるアルカリ金属、アンモニウム、または、アミンの中和にも利用でき、pH調整にも重要な役割を果たしている。
【0003】
脂肪酸は、親油基(炭化水素部位)と親水基(カルボキシル基)を有し、界面活性を示す。脂肪酸は種類により、親油基の炭素長が違うが、炭素長を選択することにより界面活性の性質を変化させることができる。
【0004】
しかしながら、主鎖の炭素数が9以上の脂肪酸のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、または、アミン塩は水溶液中にカルシウムイオンが存在すると不溶解性のカルシウム塩を生じ、界面活性剤としての効力を失う。また、主鎖の炭素数が9以上の脂肪酸が水溶性加工油剤や水溶性洗浄剤に含有されている場合、不溶解性のカルシウム塩により、被削材や機械周りへの付着、フィルター詰まり等の問題を引き起こす可能性がある。
【0005】
工業原料として代表的な脂肪酸にトール油脂肪酸やリシノレイン酸などを挙げることができるが、これらの脂肪酸は植物油脂の誘導体であり、微生物により資化され易く、水溶性加工油剤などに含有した場合、腐敗などを引き起こす要因となる。
【0006】
一方、優れた防食性、耐腐敗性、及び耐微生物劣化性を有している金属腐食防止剤として、ポリエーテル化合物に、不飽和カルボン酸系単量体を必須成分として含有するモノエチレン性不飽和単量体をグラフト重合してなる水溶性グラフト重合体が知られている。(特許文献1)
【0007】
【特許文献1】特開平11−264085号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、微生物に資化され難く、さらに耐硬水性に優れるジカルボン酸及びその塩、及び、これらのジカルボン酸及びその塩を含有することを特徴とする水溶性加工油剤、水溶性洗浄剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決する為に鋭意研究を重ねた結果、微生物に資化され難く、耐硬水性に優れる界面活性剤(特に、防錆剤且つ洗浄剤)として有用なジカルボン酸及びその塩を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、以下を提供する。
1.エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドのそれぞれのポリマー及び組み合わせからなるポリマーと酸無水物(無水コハク酸、無水マレイン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水フタル酸)のジアシル化反応物であるジカルボン酸及びそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、または、アミン塩からなるジカルボン酸塩。
2.上記項1に記載のジカルボン酸及びその塩を含有することを特徴とする水溶性加工油剤。
3.上記項1に記載のジカルボン酸及びその塩を含有することを特徴とする水溶性洗浄剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によるジカルボン酸及びその塩は、微生物に資化され難く、さらに希釈水中にカルシウムイオンが存在しても不溶解性の塩を生じず、界面活性剤としての効力を長期間維持できる。また、水溶性加工油剤や水溶性洗浄剤への調合においても、良好な溶解性を示し、安定に配合できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に用いるエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド(以降、アルキレンオキサイドという)のそれぞれのポリマー及び組み合わせからなるポリマーとは、それぞれのアルキレンオキサイドのホモポリマー及び各種アルキレンオキサイド2種以上の組み合わせによるコポリマー(ランダムまたはブロックポリマーでもよい)である。ポリマーの分子量は、一般的に300〜10000が好ましい。より好ましくは、分子量500〜5000である。特に好ましくは、分子量500〜3000である。ポリマーの分子量が300よりも小さいと十分な界面活性を示さず、また、10000よりも大きいとアミンの中和やpH調整の面で十分な効果が得られない。
【0013】
酸無水物と水酸基のアシル化反応は、通常、無触媒、常圧、反応温度100〜150℃程度で進行する。ただし、触媒(p−トルエンスルホン酸等)の使用、あるいは過激な温度条件では、アシル化反応後に、開環し生成したカルボキシル基と水酸基とのエステル化反応が進行するため好ましくない。
【0014】
本発明の使用するアルキレンオキサイドと酸無水物との反応比率は、通常、アルキレンオキサイドのポリマー1当量に対して、酸無水物2.2当量から3当量の過剰使用する。
【0015】
上記のジアシル化反応物は、定法の方法でアルカリ金属、アンモニアまたはアミンで中和すればよい。
【0016】
アルカリ金属としてはナトリウムおよびカリウムが、特に好ましく、また、これらは所望により適宜併用してもよい。
【0017】
アミンとしては、炭素原子数1〜5のアルキルアミン(例えば、エチルアミン、プロピルアミン等)、炭素原子数2〜10のアルカノールアミン(例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、シクロヘキシルジエタノールアミン等)、モルホリン、炭素原子数5〜20のシクロアルキルアミン(例えば、ジシクロヘキシルアミン等)、3,3−ジメチルプロパンジアミン等から調製される上記二塩基酸のアミン塩が例示されるが、特に好ましくは、炭素原子数2〜10のアルカノールアミンである。これらのアミン塩は所望により2種以上適宜併用してもよい。
【0018】
アルカリ金属塩、アンモニウム塩またはアミン塩は混合して使用してもよい。
【0019】
一般的な本発明のジアシル化反応物の合成法を示す。
合成法
アルキレンオキサイドのポリマーと酸無水物のジアシル化反応は、無触媒、無溶媒、常圧下で120〜150℃に5〜12時間加熱して行う。反応終了後、過剰分は昇華除去あるいは留去させて除去してもよく、あるいは、クロマトグラフィー等で精製してもよい。あるいは、そのまま後の中和工程で中和してもよい。
【0020】
反応の終点は、FT−IRを用いアシル化反応により酸無水物に由来するの2つの吸収ピーク(1779cm−1,1848cm−1)が消滅(反応が進行することによって強いエステル基由来の吸収(1728cm−1)が現れる)する時点をもって反応の終点とした。
【0021】
本発明のジカルボン酸を水溶性加工油剤や水溶性洗浄剤に使用する場合のジカルボン酸とアルカリ金属、アンモニア又はアミンとの比率(重量モル比)は、好ましくは1:2〜1:20、特に好ましくは1:5〜1:10である。重量モル比が1:2よりも大きくなると可溶化が困難となって十分な界面活性が発揮されず、また、該重量モル比が1:20よりも小さくなると、界面活性が低下するだけでなく、作業衛生上の問題(例えば、呼吸器系等の刺激や肌荒れ等)が出てくる。
【0022】
水溶性加工油剤或いは水溶性洗浄剤に配合するときは、ジカルボン塩として通常全体の1〜80重量%、好ましくは2〜50重量%である。尚、水溶性加工油剤には、所望により鉱物油(例えば、マシン油、スピンドル油)、動植物油(例えば、ナタネ油、パーム油、牛脂、ヒマシ油)、油性向上剤(例えば、脂肪酸、脂肪酸エステル)、極圧添加剤(例えば、塩素化パラフィン、硫化油脂)、防錆剤(例えば、アルカノールアミン)、界面活性剤(例えば、アニオン、ノニオン、カチオン系界面活性剤)、防腐剤(例えば、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン)、消泡剤(例えば、シリコーン系)、防食剤(例えば、ベンゾトリアゾール)等の添加剤を適宜配合することができる。また、水溶性洗浄剤には、所望により脂肪酸(例えば、イソノナン酸、カプリル酸)、防錆剤(例えば、アルカノールアミン)、界面活性剤(例えば、アニオン、ノニオン、カチオン系界面活性剤)、防腐剤(例えば、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン)、消泡剤(例えば、シリコーン系)、防食剤(例えば、ベンゾトリアゾール)等の添加剤を適宜配合することができる。
【0023】
尚、通常これら水溶性加工油剤或いは水溶性洗浄剤は、水に希釈して使用される。希釈倍率は、一般には、5〜100倍に希釈して使用されるが、使用用途に応じて適宜選定すればよいが、希釈時の本発明のジカルボン酸塩の濃度は、0.01〜16重量%(好ましくは0.02〜10重量%)である。濃度が0.01重量%より低いと十分な界面活性を示さない。また、16重量%を超えると界面活性は増大せず経済的に好ましくない。
【実施例】
【0024】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。実施例に用いた本発明のジアシル化反応物(合成No.1〜23)を表1、表2に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
表3には表1、表2と同じように比較例に用いた脂肪酸を示す。
【0028】
【表3】

【0029】
[実施例1〜24]
表4〜5に示した配合組成の試験液を調製し、以下に示す評価方法により、カルシウムイオンに対する液の安定性(不溶解性カルシウム塩の析出状態)を評価した。
【0030】
[評価方法]
表4〜5に示した試験液のカルシウムイオン濃度を100ppmに調整し、30℃の恒温槽中に、24時間静置した後、析出物の発生状態を目視にて観察した。結果を表4〜5に示した。
判定基準
◎:析出物の発生なし。
○:析出物が微量発生。
△:析出物が少量発生。
×:析出物が多量発生。
【0031】
【表4】

【0032】
【表5】

【0033】
[比較例1〜12]
表6に示した配合組成の試験液を調製し、上記に示した評価方法により、カルシウムイオンに対する液の安定性(不溶解性カルシウム塩の析出状態)を評価した。結果を同様に表6に示した。
【0034】
【表6】

【0035】
[実施例25〜34]
表7に示した配合組成のソルブルタイプの加工油剤を調製し、上記の実施例と同様に評価試験を行った。結果を表7に示した。
【0036】
【表7】

【0037】
[比較例13〜22]
表8に示した配合組成のソルブルタイプの加工油剤を調製し、上記の実施例と同様に評価試験を行った。結果を表7に示した。
【0038】
【表8】

【0039】
[実施例35]
表1、表2に示したジアシル化反応物と表3中のトール油脂肪酸の微生物による分解性を評価した。
【0040】
[評価方法]
表1の合成No.3、12、表2の合成No.13と表3のNo.6(トール油脂肪酸)をpH9.0に調整したDavisの培地(リン酸緩衝液,硫酸アンモニウム,硫酸マグネシウム,炭素源)中に500ppmと腐敗液100ppmを添加し、液温25℃で撹拌し、1週間後のBODを測定した後、分解度[BOD/ThOD×100(%)]を算出した。結果を表9に示した。BODは生物化学的酸素要求量(測定値、単位はmg)で、ThODは理論的酸素要求量(計算値、単位はmg)である。
【0041】
【表9】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、微生物に資化され難く、さらに耐硬水性に優れるジカルボン酸及びその塩として有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドのそれぞれのポリマー及び組み合わせからなるポリマーと酸無水物(無水コハク酸、無水マレイン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水フタル酸)のジアシル化反応物であるジカルボン酸及びそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、または、アミン塩からなるジカルボン酸塩。
【請求項2】
請求項1に記載のジカルボン酸及びその塩を含有することを特徴とする水溶性加工油剤。
【請求項3】
請求項1に記載のジカルボン酸及びその塩を含有することを特徴とする水溶性洗浄剤。

【公開番号】特開2006−219613(P2006−219613A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−35711(P2005−35711)
【出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【出願人】(000135265)株式会社ネオス (95)
【Fターム(参考)】