説明

ジクロロブテンの製造方法

【課題】汎用の材料金属により構成された装置により、ジクロロブテンを高収率で、後工程での溶媒分離に要するエネルギーが少なくて済む、ジクロロブテン濃度の高い反応液を得る方法を提供し、さらに、より高い選択性でクロロプレンモノマーの原料である3,4−ジクロロ−1−ブテンを製造する方法を提供する。
【解決手段】陰イオン交換樹脂よりなる平均粒径が50μm以下の微粒径触媒の存在下、溶媒中20〜70℃の反応温度で1,3−ブタジエンに塩素を反応させ、3,4−ジクロロ−1−ブテンおよび1,4−ジクロロ−2−ブテンを製造するジクロロブテンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶媒中にて1,3−ブタジエンに塩素を付加し、3,4−ジクロロ−1−ブテンおよび1,4−ジクロロ−2−ブテンを製造するジクロロブテンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
商業規模のプラントにおいて、3,4−ジクロロ−1−ブテンおよび1,4−ジクロロ−2−ブテンは、220〜300℃の気相反応により、大過剰のブタジエンと塩素を接触させ製造されている。この方法では、収率が90%程度と低く、大量の廃棄物が発生する。また3,4−ジクロロ−1−ブテンは脱塩酸反応によりクロロプレンモノマーを製造する原料であるが、この気相反応により生成するジクロロブテン中の3,4−ジクロロ−1−ブテンの生成比率は35%程度と低く、主に(65%程度)生成する1,4−ジクロロ−2−ブテンは異性化により3,4−ジクロロ−1−ブテンに変換する必要がある。
【0003】
以上の問題点を解決するために従来より液相において低温下で1,3−ブタジエンを塩素化する方法が検討されている。例えば、特許文献1では、反応溶媒として主に四塩化炭素を使用し、1,3−ブタジエンの液相塩素化反応について詳細な検討をしており、反応条件、触媒種、触媒濃度など反応の基礎的事項を解明している。
【0004】
また、特許文献2には、常圧における沸点が−15〜40℃の溶媒を用い、反応で発生する熱を溶媒および未反応1,3−ブタジエンの揮発により除去しつつ反応し、反応器底部より反応液を取出す方法が開示されている。この方法では、溶媒として、塩素ガスと実質的に反応しないフロン類、またはn−ブタン、ペンタンを使用し、ピリジン触媒の存在下において、3,4−ジクロロ−1−ブテンおよび1,4−ジクロロ−2−ブテンを高収率で製造することができる。またこの方法では生成するジクロロブテン中の3,4−ジクロロ−1−ブテンの生成比率が48乃至55%と高く、クロロプレンモノマーを製造するにあたり、1,4−ジクロロ−2−ブテンを異性化により3,4−ジクロロ−1−ブテンに変換する労力が軽減されるため有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】英国特許第1435826号公報
【特許文献2】米国特許第5077443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1では、溶媒として現在利用が困難な四塩化炭素が使用されている。また、特許文献2記載の方法で使用されているフロン類は、1,2−ジクロロテトラフルオロエタン(沸点4℃),1,1−ジクロロ−1−フルオロエタン(沸点32℃)など、オゾン層破壊係数の大きい特定フロンであり、現在では使用することは困難である。一方、n−ブタンおよびペンタンなどの炭化水素類も使用されているが、これらは塩素化を受け易く溶媒のロスが多い。更に、この方法で反応器底部より得られる反応混合物中の総ジクロロブテンの濃度は、1,2−ジクロロテトラフルオロエタンを溶媒として使用した実施例1および実施例5〜15において、溶媒/総ジクロロブテン重量比で6〜10(モル比では4.4〜7.3)と希薄なため、溶媒分離工程での熱エネルギー消費量が多い。また特許文献1および特許文献2に記載の方法において使用される触媒を使用すると、金属材質が激しく腐食されるため、汎用の材料金属を使用するのは困難である。
【0007】
本発明の目的は、汎用の材料金属により構成された装置により、ジクロロブテンを高収率で、後工程での溶媒分離に要するエネルギーが少なくて済む、ジクロロブテン濃度の高い反応液を得る方法を提供することである。更に本発明のもう一つの目的は、より高い選択性でクロロプレンモノマーの原料である3,4−ジクロロ−1−ブテンを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、以上の課題を解決すべく鋭意検討した結果、所定の条件下で1,3−ブタジエンの液相塩素化方法を行うと、汎用の材料金属により構成された装置により、ジクロロブテンが高収率、かつ後工程での溶媒分離に要するエネルギーが少なくて済む高濃度にて得られること、更に、より高い選択性でクロロプレンモノマーの原料である3,4−ジクロロ−1−ブテンが得られることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。すなわち、本発明は、陰イオン交換樹脂よりなる平均粒径が50μm以下の微粒径触媒の存在下、溶媒中20〜70℃の反応温度で1,3−ブタジエンに塩素を反応させ、3,4−ジクロロ−1−ブテンおよび1,4−ジクロロ−2−ブテンを製造することを特徴とするジクロロブテンの製造方法である。
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明の製造方法は、陰イオン交換樹脂よりなる平均粒径が50μm以下の微粒径触媒の存在下、溶媒中20〜70℃の反応温度で1,3−ブタジエンに塩素を反応させ、3,4−ジクロロ−1−ブテンおよび1,4−ジクロロ−2−ブテンを製造するものである。
【0011】
本発明の製造方法において触媒は必須であり、陰イオン交換樹脂よりなる微粒径触媒を使用する。その特徴は、反応液中に固体微粒子として存在することであり、陰イオン交換樹脂表面のイオン交換基が触媒中心として作用し有利な効果が得られるものである。
【0012】
陰イオン交換樹脂は、その母体樹脂の種類(スチレン系、アクリル系、メタクリル系)、樹脂構造(ゲル型、マクロポーラス型)、イオン交換基の種類(3級アミン、4級アンモニウム他)、イオン交換基窒素原子のアルキル置換基(メチル、ヒドロキシエチル、エチル)の種類などにより種々のグレードが存在し、概ね0.3〜1.25mmのビーズの形態で供給されている。本発明の製造方法の目的を達成するためにはこのような如何なる種類の陰イオン交換樹脂でも触媒として使用可能である。本発明の製造方法で好適に使用できるのは、イオン交換基窒素原子が炭素原子2個以上の直鎖のアルキル基またはヒドロキシアルキル基で置換された3級アミン型または4級アンモニウム型の陰イオン交換樹脂であり、置換基としてジエチル(3級アミン型)、トリエチル(4級アンモニウム型)、ジメチルヒドロキシエチル(4級アンモニウム型)、ジn−プロピル(3級アンモニウム型)、トリn−プロピル(4級アンモニウム型)、ジn−ブチル(3級アンモニウム型)、トリn−ブチル(4級アンモニウム型)などが例示される。置換基が大きくなるほど生成するジクロロブテン中の3,4−ジクロロ−1−ブテンの生成比率が高く1,4−ジクロロ−2−ブテンを異性化により3,4−ジクロロ−1−ブテンに変換する労力が軽減され有利である。
【0013】
本発明で使用される陰イオン交換樹脂中の水分はループリアクターの金属材質を腐食させる原因となるため前処理により10%以下、好ましくは5%以下、さらに好ましくは2%以下とする。除去方法としては、特に限定するものではなく、例えば、加熱蒸発またはアセトンなどの水と完全混和する溶媒で処理し樹脂内部の水分と置換し、その後減圧乾燥するなどしてもよい。
【0014】
陰イオン交換樹脂よりなる微粒径触媒の使用量は、平均粒径が小さく表面のイオン交換基が多いものは反応液中での濃度は少なくてよいが、平均粒径が大きく表面交換基が少ないものは多目に使用する必要があり、無触媒反応を抑制して副反応生成物の増加を防止し、本発明の効果を著しく向上させるためには、触媒平均粒径により5〜100g/lの範囲で調節することが好ましく、20〜60g/lの範囲で調節することがさらに好ましい。
【0015】
本発明の製造方法においては、陰イオン交換樹脂よりなる平均粒径が50μm以下の微粒径触媒を反応液中に存在させることが必須である。微粒径触媒の平均粒径が50μmを超えると触媒単位重量あたり表面のイオン交換基の量が少なく、多量の触媒が必要となるため不利である。触媒の良好な流動状態を維持するための多大なエネルギーを必要とせず、また反応管等の閉塞を起こりにくくするため、陰イオン交換樹脂よりなる微粒径触媒は、平均粒径30μm以下であることが好ましい。
【0016】
反応液中に50μm以下の微粒径触媒を存在させる手法としては、例えば、第一の手法として、平均粒径が50μmを超える陰イオン交換樹脂のビーズを乾燥し、50μm以下に粉砕したものをループリアクターに投入する方法があげられる。粉砕方法は特に限定するものではなく、乾式法または湿式法のいずれを用いても良いが、乾式で粉砕時の発熱による温度上昇が抑制できる方式、具体的にはジェットミルなどにより行うのが好ましい。第二の手法として、懸濁重合や乳化重合等により得られる50μm以下のスチレン系またはアクリル系のコポリマービーズにイオン交換基を導入して50μm以下の微粒径触媒を調製、乾燥した後に、それをそのままループリアクターに投入する方法やその他の方法があげられる。
【0017】
本発明の製造方法を実施する際の溶媒は炭素数が4〜7の飽和炭化水素、すなわちブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等より選択され、工業用ヘキサンのような各種成分の混合物でもかまわない。
【0018】
本発明の製造方法での反応温度は20〜70℃である。20℃未満の場合には、反応熱の除去が難しく、70℃を超えると副反応が多くジクロロブテン収率が著しく低下する。好ましくは30〜60℃である。
【0019】
3,4−ジクロロ−1−ブテンおよび1,4−ジクロロ−2−ブテンの製造は、連続的に行っても、バッチ式でも良いが、生産効率、生産コスト等で有利なため、連続的に行うことが好ましい。
【0020】
本発明の製造方法の具体的実施態様について図1,図2により例示的に説明するが、あくまでも例であって、これらに限定されるものではなく、さらに記載する種々の条件もそれらに限定されるものではない。図1,図2は1,3−ブタジエンと塩素の反応部1、除熱部2、循環ポンプ3およびインラインフィルター4が配管により連結されたループリアクターを形成し、該ループ内を反応液が0.4〜4m/秒の液線速度で循環し、該反応液中には陰イオン交換樹脂よりなる微粒径触媒が分散している。
【0021】
1,3−ブタジエンと溶媒は、溶媒1リットルあたり1,3−ブタジエンを100〜400gの比率でフィードする。これらはループリアクターのどの場所に入れてもかまわないが、1,3−ブタジエンの不均一な溶解状態は、塩素との反応において望ましくない副反応の増加を招く恐れがあるため、循環ポンプ3のインペラー部、またはスタティックミキサーなどの挿入物により生じるレイノルズ数10000以上の高乱流条件下にフィードし反応部1に至るまでに均一に混合溶解する。
【0022】
循環ポンプ3は、遠心ポンプまたは渦巻きポンプ等どのような形式を用いてもかまわないが、ガスによりキャビテーションし難い方式のものが好ましい。
【0023】
反応部1はSUS316など汎用の金属材質で作成されたチューブである。ここにおいて、フィードされた塩素は、反応温度20〜70℃、好ましくは30〜60℃において反応消費される。
【0024】
フィードされた塩素の不十分な分散状態は副反応生成物のみならず、溶媒の塩素化ロスをも増大させるため、ベンチュリノズルなどの高度分散が可能な吹きこみ手段の使用、またはスタティックミキサーなどの挿入物を配管内に設置するなどの手段により生じるレイノルズ数10000以上の高乱流条件下に塩素をフィードする。更に塩素のフィードは、以下の式1で規定される1,3−ブタジエンのモル倍率により制御する。これは塩素フィード点における塩素に対する1,3−ブタジエンの過剰倍率を表すもので、特に限定するものではないが、塩素フィード点において塩素が高濃度となるのを防いで副生成物の増加を防止してジクロロブテン類の収率を向上させるため、好ましくは10〜150、さらに好ましくは20〜100である。
【0025】
【数1】

塩素は分割してフィードすることが望ましい。このとき式1で規定される各塩素フィード点における1,3−ブタジエンのモル倍率は分割数で除した値となり、局所的な塩素の高濃度領域を効果的に抑制できるため、塩素分割フィードのメリットは大きい。分割数は多いほど有利ではあるが、設備は複雑になるため2〜10分割でよい。塩素の分割フィードは図1のループリアクターに示されるように、反応部の長さ方向に分割フィードしても良いし、また図2のように複数の反応管を並列に配置した反応部において、各反応管毎に分割フィードしても良い。反応部の長さ方向に分割フィードする図1の場合、循環する反応液に塩素がフィードされた時点から0.2〜1秒後に次の塩素フィード点に循環する反応液が到達するように塩素フィード部を配置する。各塩素フィード点間の距離は循環する反応液の線速度により決定される。循環する反応液の反応部における線速度を1m/秒と設定した場合、各塩素フィード点間は0.2〜1mの間隔で配置される。図2のように複数の反応管を並列に配置した反応部においては、各反応管の長さは、循環する反応液が反応管を通過するのに少なくとも1秒必要とする長さとすればよい。
【0026】
反応液中の1,3−ブタジエンの濃度範囲は特に限定するものではないが、生成物のジクロロブテン類に塩素が付加する副反応を防止して収率を維持しつつ、ブタジエンの重合ロスを防ぐため、好ましくは5〜50g/l、さらに好ましくは10〜30g/lである。
【0027】
反応液中のジクロロブテン(3,4−ジクロロ−1−ブテンおよび1,4−ジクロロ−2−ブテンの合計)濃度は特に限定するものではないが、生産性を向上させて、反応液から溶媒除去するのに必要なエネルギーを少なくしつつ、副反応を防止してジクロロブテン収率を向上させるため、好ましくは150〜400g/l、さらに好ましくは200〜300g/lである。
【0028】
反応熱は除熱部2において除去される。形式は特に限定しないがシェルアンドチューブ(多管)式の熱交換器が好適である。除熱の条件としては、循環する反応液中に分散している陰イオン交換樹脂よりなる微粒径触媒が伝熱面に付着し、伝熱効率の低下が抑制できるように反応液の線速度は1m/秒以上とするのが好ましい。除熱部2はループリアクターのどの場所に設置しても良く、反応部1としてシェルアンドチューブ(多管)式の熱交換器を使用し除熱部2を兼ねることもできる。
【0029】
反応液の一部はクロスフロー方式のインラインフィルター4において触媒と分離して抜出され、触媒が分散した反応液の大部分は反応液の循環ループ内にとどまる。抜き出された反応液は後工程の溶媒分離工程へ送られる。インラインフィルターは複数のユニットを直列または並列に設置し交代で使用するのが好ましい。インラインフィルターのエレメントは、循環する反応液中の触媒粒子を完全に捕捉できるように、充分小さい孔径であることが必要である。エレメントの形式は焼結金属または焼結セラミックのほか焼結金網など如何なる形式でも使用できる。焼結金網は目の細かい金網が積層され高温で互いに結合されたものであり、下層ほど目が粗い構造とすることで目詰まりしにくいという利点があり、本発明の製造方法に好適に使用できる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の製造方法により、汎用の材料金属により構成された装置により、高収率かつ後工程での溶媒分離に要するエネルギーが少なくて済む高濃度でジクロロブテンを含む反応液が得られる。更にまた、より高い選択性でクロロプレンモノマーの原料である3,4−ジクロロ−1−ブテンを製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明で用いられるループリアクターの例を示す図である。
【図2】本発明で用いられるループリアクターの他の例を示す図である。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0033】
反応液の組成分析はガスクロマトグラフィー(キャピラリーカラム:J&W DB−5;0.25mmI.D.×30m)により行った。
【0034】
ジクロロブテン収率、3,4−ジクロロ−1−ブテン選択率および溶媒塩素化率は以下の計算式により算出した。
【0035】
ジクロロブテン収率(塩素ベース)=生成ジクロロブテン(モル)/フィード塩素(モル)
ジクロロブテン収率(ブタジエンベース)=生成ジクロロブテン(モル)/(フィードブタジエン(モル)−未反応ブタジエン(モル))
3,4−ジクロロ−1−ブテン選択率=3,4−ジクロロ−1−ブテン/(3,4−ジクロロ−1−ブテン+1,4−ジクロロ−2−ブテン)
溶媒塩素化物副生率=副生塩素化溶媒(モル)/フィード塩素(モル)
実施例中の陰イオン交換樹脂Cl含量はホルハルト法により次のように測定した。乾燥樹脂0.1gをコニカルビーカーに採り、純水20ml、試薬硝酸10mlおよびAgNO標準溶液(0.05モル/l)10ml加えて、2分間攪拌しAgClを沈殿させた。次に指示薬として鉄ミョウバンを加え、NHSCNの標準溶液(0.05モル/l)で過剰のAgNOを逆滴定し、樹脂中のCl含有量を求めた。
【0036】
また、陰イオン交換樹脂中の水分含有率は100℃での加熱減量として求めた。
【0037】
平均粒径は、粒子径・粒度分布測定装置(マイクロトラックHRA3920,日機装社製)を用いて、水を分散媒として測定した。
【0038】
なお、実施例においてジクロロブテンの製造方法に使用したループリアクターは以下の通りである。
【0039】
<ループリアクター>
循環ポンプとしてのマグネット式遠心ポンプ(SUS316製、インバータによる回転数制御)、2本直列に連結されたインラインフィルターユニット(SUS316L焼結金網製、500メッシュ、3500メッシュ、200メッシュ、100メッシュ、60メッシュ、40メッシュのSUS316製の金網が積層焼結され、チューブ状に加工されたもの、フィルター部内径10mm×長さ100mm)、および除熱部を兼ねる反応管(SUS316製、内径10mm×長さ500mm×3本、各反応管入り口には塩素のフィード口が設置されている)が直列に接続され、内容積が0.5リットルのループリアクターを構成している。溶媒および1,3−ブタジエンは循環ポンプの吸込口手前にフィードし、塩素ガスは3本の反応管入り口に3等分に分割フィードした。ループリアクター内の液量を一定に制御するため、反応管直後に設置した液面センサーに連動した抜出しポンプによりインラインフィルターを介して反応液を抜き出すようにしている。
【0040】
実施例1
市販の陰イオン交換樹脂ムロマックXSA−4222(母体樹脂スチレン系、マクロポーラス型、イオン交換基窒素原子がエチル基で置換された4級アンモニウム型の強塩基性樹脂(Cl型))ビーズをカラムに充填し、アセトンに浸し数時間放置の後アセトンを流出させた。この操作を3回繰り返し樹脂内部の水分をアセトンで置換した後に、カラムに乾燥窒素気流を流通させアセトンを除去した。得られた脱水乾燥樹脂ビーズを日本ニューマチック工業製超音速ジェット粉砕機PJM TypeNにより粉砕し粉砕品(平均粒径23μm、日機装社製マイクロトラック測定値)を得た。得られた乾燥粉砕樹脂のCl含量は、2.6g−モル/kg、水分は8.0重量%であった。
【0041】
次にこの樹脂25gをヘキサンに分散させループリアクターに仕込み、反応液中の濃度を50g/lとし、液の循環流量を9リットル/分に調節した。溶媒ヘキサン(工業用1級)を毎分30.0ml、1,3−ブタジエンを毎分6.0g、塩素ガスを毎分7.2gフィードし反応した。反応温度は反応部出口45℃に制御した。反応液の1,3−ブタジエン濃度は12.8g/lで式1で計算される1,3−ブタジエンのモル倍率は63であった。反応液はインラインフィルターを介して触媒と分離し、33g/分で抜出し、滞留時間は12分であった。1,3−ブタジエン転化率は90.5%、反応液のジクロロブテン濃度は36.2重量%(270g/l)、溶媒/ジクロロブテン重量比は1.67(モル比2.43)で、ジクロロブテン収率は塩素ベースで92.9%、1,3−ブタジエンベースで95.9%であった。またジクロロブテン中の3,4−ジクロロ−1−ブテン選択率は63.9%で、溶媒ヘキサン塩素化物の副生率は0.2%であった。
【0042】
連続試験におけるSUS316製反応管の平均減肉速度は0.015mm/Yであり、腐食は殆どみとめられなかった。また、SUS316L製インラインフィルターの重量は試験前と同じであった。
【0043】
実施例2
陰イオン交換樹脂としてムロマックXMA−4613(母体樹脂スチレン系、マクロポーラス型、イオン交換基窒素原子がメチル基で置換された4級アンモニウム型の強塩基性樹脂(Cl型))を実施例1と同様の操作で乾燥粉砕し、平均粒径37μm、Cl含量3.3g−モル/kg、水分8.6重量%の触媒樹脂を調製した。
【0044】
次にこの樹脂25gをヘキサンに分散させループリアクターに仕込み、反応液中の濃度を50g/lとし、液の循環流量を6リットル/分に調節した。溶媒ヘキサン(工業用1級)を毎分30.0ml、1,3−ブタジエンを毎分5.4g、塩素ガスを毎分5.3gフィードし反応した。反応温度は反応部出口50℃に制御した。反応液の1,3−ブタジエン濃度は30.4g/lで式1で計算される1,3−ブタジエンのモル倍率は142であった。反応液はインラインフィルターを介して触媒と分離し、31g/分で抜出し、滞留時間は12分であった。1,3−ブタジエン転化率は76.6%、反応液のジクロロブテン濃度は29.4重量%(200g/l)、溶媒/ジクロロブテン重量比は2.22(モル比3.23)で、ジクロロブテン収率は塩素ベースで94.9%、1,3−ブタジエンベースで95.9%であった。またジクロロブテン中の3,4−ジクロロ−1−ブテン選択率は57.0%で、溶媒ヘキサン塩素化物の副生率は0.15%であった。連続試験におけるSUS316製反応管の平均減肉速度は0.01mm/Yであり、腐食は殆どみとめられなかった。
【0045】
実施例3
陰イオン交換樹脂としてアンバーライトIRA−958(母体樹脂アクリル系、マクロポーラス型、イオン交換基窒素原子がメチル基で置換された4級アンモニウム型の強塩基性樹脂(Cl型))を実施例1と同様の操作で乾燥粉砕し平均粒径48μm、Cl含量3.1g−モル/kg、水分8.2重量%の触媒樹脂を調製した。
【0046】
次にこの樹脂25gをヘキサンに分散させループリアクターに仕込み、反応液中の濃度を50g/lとし、液の循環流量を6リットル/分に調節した。溶媒ヘキサン(工業用1級)を毎分31ml、1,3−ブタジエンを毎分5.6g、塩素ガスを毎分6.2gフィードし反応した。反応温度は反応部出口50℃に制御した。反応液の1,3−ブタジエン濃度は21.9g/lで式1で計算される1,3−ブタジエンのモル倍率は84であった。反応液はインラインフィルターを介して触媒と分離し、32g/分で抜出し滞留時間は12分であった。1,3−ブタジエン転化率は83%、反応液のジクロロブテン濃度は31.2重量%(220g/l)、溶媒/ジクロロブテン重量比は2.05(モル比2.98)で、ジクロロブテン収率は塩素ベースで93.8%、1,3−ブタジエンベースで96.1%であった。またジクロロブテン中の3,4−ジクロロ−1−ブテン選択率は54.6%で、溶媒ヘキサン塩素化物の副生率は0.2%であった。連続試験におけるSUS316製反応管の平均減肉速度は0.03mm/Yであった。
【0047】
実施例4
反応容器にモノマーとしてスチレン137gおよびジビニルベンゼン(異性体混合物)15.2g、希釈剤としてイソオクタン102g、水相として1%ポリビニルアルコール水溶液605g、重クロム酸ナトリウム1.0g、開始剤として過酸化ベンゾイル(25%含水)2.0gを仕込み、1Hrで130℃に昇温しその後110℃で15Hr反応した。得られたビーズを水洗し、100μmから500μmの篩で湿式分級した。そして水蒸気蒸留により希釈剤のイソオクタンを除去した後に、120℃で10Hr乾燥させ乾燥ビーズ95gを回収した。
【0048】
1リットル容器に、得られたスチレン−ジビニルベンゼンコポリマービーズ(架橋度10%)50gを仕込み、クロロメチルエーテル(GC純度90%、メチラール10%含む)を300ml添加し20分間放置した。塩化亜鉛25gを加え攪拌を開始。50℃において5時間反応した後、反応スラリーをガラスフィルターで濾過し母液を分離した。フィルター上の樹脂に水を添加し過剰のクロロメチルエーテルを分解し、さらに水洗しメタノール洗浄の後、減圧デシケーター中に保存した。得られたクロロメチル化樹脂150gのうち50gを1リットル三角フラスコに採り、ジn−プロピルアミン150mlを添加。穏やかに発熱しながら膨潤した樹脂に水を加え分散し、5Hr攪拌した。反応母液をガラスフィルターで分離除去し、フィルター上の樹脂を希塩酸で洗浄した。過剰の塩酸を純水で十分洗い流した後アセトンで処理し、乾燥窒素気流中で乾燥し、イオン交換基窒素原子がn−プロピル基で置換された3級アミン塩酸塩型のマクロポーラス型陰イオン交換樹脂37gを得た。この樹脂は、交換基導入時の膨潤ストレスにより50μm以下に破壊されており、Cl含量は3.2g−モル/kgであった。
【0049】
得られた陰イオン交換樹脂を触媒とした以外は、実施例1と同様にして反応を行った。ジクロロブテン収率は塩素ベースで93.1%、1,3−ブタジエンベースで94.4%であった。またジクロロブテン中の3,4−ジクロロ−1−ブテン選択率は72%で、溶媒ヘキサン塩素化物の副生率は0.2%であった。連続試験におけるSUS316製反応管の平均減肉速度は0.05mm/Yであった。
【0050】
実施例5
陰イオン交換樹脂としてアンバーライトIRA−400J(母体樹脂スチレン系、ゲル型、イオン交換基窒素原子がメチル基で置換された4級アンモニウム型の強塩基性樹脂(Cl型))を実施例1と同様の操作で乾燥粉砕し平均粒径27μm、Cl含量3.6g−モル/kg、水分7.6重量%の触媒樹脂を調製した。
【0051】
次にこの樹脂15gをヘキサンに分散させループリアクターに仕込み、反応液中の濃度を30g/lとし、液の循環流量を6リットル/分に調節した。溶媒ヘキサン(工業用1級)を毎分30ml、1,3−ブタジエンを毎分5.6g、塩素ガスを毎分6.6gフィードし反応した。反応温度は反応部出口50℃に制御した。反応液の1,3−ブタジエン濃度は16.2g/lで式1で計算される1,3−ブタジエンのモル倍率は68であった。反応液はインラインフィルターを介して触媒と分離し、32g/分で抜出し滞留時間は12分であった。1,3−ブタジエン転化率は87%、反応液のジクロロブテン濃度は32.4重量%(230g/l)、溶媒/ジクロロブテン重量比は1.94(モル比2.82)で、ジクロロブテン収率は塩素ベースで91.8%、1,3−ブタジエンベースで95.5%であった。またジクロロブテン中の3,4−ジクロロ−1−ブテン選択率は56.8%で、溶媒ヘキサン塩素化物の副生率は0.2%であった。連続試験におけるSUS316製反応管の平均減肉速度は0.03mm/Yであった。
【0052】
実施例6
陰イオン交換樹脂としてアンバーライトIRA−458RF(母体樹脂アクリル系、ゲル型、イオン交換基窒素原子がメチル基で置換された4級アンモニウム型の強塩基性樹脂(Cl型))を実施例1と同様の操作で乾燥粉砕し平均粒径36.8μm、Cl含量3.6g−モル/kg、水分8.5重量%の触媒樹脂を調製した。
【0053】
次にこの樹脂15gをヘキサンに分散させループリアクターに仕込み、反応液中の濃度を30g/lとし、液の循環流量を6リットル/分に調節した。溶媒ヘキサン(工業用1級)を毎分30ml、1,3−ブタジエンを毎分5.7g、塩素ガスを毎分6.8gフィードし反応した。反応温度は反応部出口50℃に制御した。反応液の1,3−ブタジエン濃度は14.4g/lで式1で計算される1,3−ブタジエンのモル倍率は42であった。反応液はインラインフィルターを介して触媒と分離し、32g/分で抜出し滞留時間は12分であった。1,3−ブタジエン転化率は87%、反応液のジクロロブテン濃度は33.1重量%(240g/l)、溶媒/ジクロロブテン重量比は1.91(モル比2.77)で、ジクロロブテン収率は塩素ベースで90.6%、1,3−ブタジエンベースで95.0%であった。またジクロロブテン中の3,4−ジクロロ−1−ブテン選択率は55.3%で、溶媒ヘキサン塩素化物の副生率は0.2%であった。連続試験におけるSUS316製反応管の平均減肉速度は0.03mm/Yであった。
【0054】
比較例1
循環ポンプとしてのマグネット式遠心ポンプ(接液部テフロン(登録商標))および除熱部を兼ねる反応管(SUS316製、内径10mm×長さ500mm×3本、各反応管入り口には塩素のフィード口が設置されている)が直列に接続されループリアクターを構成している。溶媒および1,3−ブタジエンは反応部手前にフィードし、塩素ガスは3等分に分割フィードした。反応液の一部は圧力センサーに連動する開閉バルブにより系外に抜き出すようになっている。触媒としてピリジンを溶媒ヘキサン中に0.2g/lの濃度で溶解して連続的にフィードして使用した以外は、実施例と同様に操作を行った。
【0055】
ジクロロブテン収率は塩素ベースで93.0%、1,3−ブタジエンベースで94.5%、また3,4−ジクロロ−1−ブテン選択率は51.2%と良好であったが、SUS316製反応管の平均減肉速度は3.2mm/Yと、激しい腐食が観測された。
【0056】
比較例2
実施例と同じループリアクターを使用し、無触媒で反応した。液の循環流量を6リットル/分に調節し、溶媒ヘキサン(工業用1級)を毎分30.0ml、1,3−ブタジエンを毎分4.8g、塩素ガスを毎分5.3gフィードし反応した。反応温度は反応部出口50℃に制御した。反応液はインラインフィルターを介して、30g/分で抜出した。1,3−ブタジエン転化率は77.8%、反応液のジクロロブテン濃度は24.1重量%(170g/l)、溶媒/ジクロロブテン重量比は4.7(モル比6.8)であった。ジクロロブテン収率は塩素ベースで77.7%、1,3−ブタジエンベースで83.2%、溶媒ヘキサン塩素化物の副生率は2.2%と副反応生成物が多く低収率であった。またジクロロブテン中の3,4−ジクロロ−1−ブテン選択率は、イオン交換樹脂を触媒とした場合に比較し低く、45.1%であった。
【0057】
比較例3
陰イオン交換樹脂として平均粒径77μmの小粒径陰イオン交換樹脂ダウエックス1×8(母体樹脂スチレン系、ゲル型、イオン交換基窒素原子がメチル基で置換された4級アンモニウム型の強塩基性樹脂(Cl型))を粉砕せずに実施例1と同様の操作で乾燥のみ行った。得られた小粒径乾燥ビーズ50gをヘキサンに分散させ実施例と同じループリアクターに仕込み、反応液中の濃度を100g/lとし、液の循環流量を6リットル/分に調節した。溶媒ヘキサン(工業用1級)を毎分30.0ml、1,3−ブタジエンを毎分5.9g、塩素ガスを毎分6.1gフィードし反応した。反応温度は反応部出口50℃に制御した。反応液はインラインフィルターを介して触媒と分離し、32g/分で抜出した。1,3−ブタジエン転化率は98.2%、反応液のジクロロブテン濃度は29.1重量%(210g/l)、溶媒/ジクロロブテン重量比は2.18(モル比3.17)であった。ジクロロブテン収率は塩素ベースで88.1%、1,3−ブタジエンベースで72.0%、溶媒ヘキサン塩素化物の副生率は0.76%、またジクロロブテン中の3,4−ジクロロ−1−ブテン選択率は52.3%であった。以上のように粉砕した陰イオン交換樹脂を使用する場合に比べて反応成績は悪いものであった。
【符号の説明】
【0058】
1 反応部
2 除熱部
3 循環ポンプ
4 インラインフィルター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰イオン交換樹脂よりなる平均粒径が50μm以下の微粒径触媒の存在下、溶媒中20〜70℃の反応温度で1,3−ブタジエンに塩素を反応させ、3,4−ジクロロ−1−ブテンおよび1,4−ジクロロ−2−ブテンを製造することを特徴とするジクロロブテンの製造方法。
【請求項2】
粉砕した陰イオン交換樹脂よりなる平均粒径が50μm以下の微粒径触媒を使用することを特徴とする請求項1に記載のジクロロブテンの製造方法。
【請求項3】
反応部、除熱部、循環ポンプおよびインラインフィルターが配管により連結されたループリアクターを形成し、該ループ内を陰イオン交換樹脂よりなる微粒径触媒が分散した反応液が循環ポンプにより循環しているループリアクターを用いて、
1)循環する反応液に1,3−ブタジエンと溶媒をフィードし、十分混合せしめた後、
2)レイノルズ数10000以上の高乱流条件下、塩素をフィードし反応液中に混合分散し、1,3−ブタジエンと塩素を反応せしめ、3,4−ジクロロ−1−ブテンおよび1,4−ジクロロ−2−ブテンを生成し、
3)インラインフィルターにおいて反応液の一部とともに、生成した3,4−ジクロロ−1−ブテンおよび1,4−ジクロロ−2−ブテンをループリアクター外に抜き出し、陰イオン交換樹脂よりなる微粒径触媒はループリアクター内にとどめ反応液の大部分とともに1,3−ブタジエンと溶媒のフィード領域に循環し、
4)除熱をループ内の任意の場所で除熱部により行う、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のジクロロブテンの製造方法。
【請求項4】
溶媒が炭素数4〜7の飽和炭化水素であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかの項に記載のジクロロブテンの製造方法。
【請求項5】
陰イオン交換樹脂におけるイオン交換基窒素原子が炭素原子2個以上の直鎖のアルキル基またはヒドロキシアルキル基で置換された3級アミン型または4級アンモニウム型の陰イオン交換樹脂であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかの項に記載のジクロロブテンの製造方法。
【請求項6】
インラインフィルターが焼結金網製であることを特徴とする請求項3〜請求項5のいずれかの項に記載のジクロロブテンの製造方法。
【請求項7】
以下の式1で規定される1,3−ブタジエンのモル倍率が10〜150、反応液中の1,3−ブタジエン濃度が5〜50g/l、反応液中のジクロロブテン濃度が150〜400g/lの条件において反応させることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかの項に記載のジクロロブテンの製造方法。
【数1】


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−100610(P2010−100610A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210650(P2009−210650)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】