説明

ジシラノール化合物の製造方法及び保存方法

【課題】末端変性率が高く、且つ、得られたシラノール化合物の保存安定性に優れる、末端シラノール化合物の製造法及び保存法を提供する。
【解決手段】両末端にSi−Cl結合を有するジクロロシラン化合物を加水分解して、ジシラノール化合物を調製する方法において、加水分解を第3級アミン化合物の存在下で行うことを特徴とする方法、及び、下記式(3)で表される含フッ素ジシラノール化合物を、
HO−Z−R1−Rf−R1−Z−OH (3)
該含フッ素ジシラノール化合物のシラノール基1モルに対して、0.001〜20モルの3級アミンの存在下で保存する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両末端にシラノール基を有する含フッ素有機ケイ素化合物の製造方法および保存方法に関する。該ケイ素化合物は、縮合反応硬化型ゴム組成物のベースポリマーとして有用である。
【背景技術】
【0002】
従来、オルガノクロロシラン(Si−Cl化合物)からシラノール化合物(Si−OH化合物)を得る方法としては、トリオルガノクロロシランとヘキサオルガノジシラザンとの混合物をpH6〜9の条件下で加水分解する方法(特許文献1)、トリオルガノクロロシランとヘキサオルガノジシラザンとの混合物を、pH調整剤を用いることなく単に加水分解する方法(特許文献2)などがあるが、これらは比較的分子量が小さく、分液、水洗や蒸留などの単離操作が容易に行える場合にのみ有用であり、ポリマーのような分子量が大きい化合物の末端変性には適用することが困難であった。
【0003】
ポリマー等の分子量が大きい化合物にも適用が可能な方法として、プロピレンオキサイドなどのエポキサイド化合物と水との混合物中にクロロシラン化合物を滴下して、シラノール化合物を得る方法(特許文献3)が知られている。しかし、この方法は加水分解により発生する塩化水素とプロピレンオキサイドとの反応により生じるアルコール化合物が、未反応のクロロシラン化合物と反応し、アルコキシ化合物を副生する反応も起こるため、末端変性率、即ち、−Clから−OHへの変換率、が70〜80%台以上にはならないという問題がある。
【0004】
末端変性率90%以上を達成できる方法として、両末端に塩素原子を有する有機ケイ素化合物に無水酢酸を反応させ、両末端にCH3COO基を導入し、これを加水分解する方法(特許文献4)が知られている。しかし、反応で生成される酢酸がシラノール化合物の縮合触媒として作用して、シラノール化合物の縮合物が生成されてしまうという問題がある。また、精製工程において、除去されなかった酢酸により、シラノール化合物の保存中に縮合物が生成されてしまう問題がある。
【特許文献1】特公昭46−8690号公報
【特許文献2】特公昭62−57188号公報
【特許文献3】特開平11−292884号公報
【特許文献4】特開2000−226413号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、末端変性率が高く、且つ、得られたシラノール化合物の保存安定性に優れる、末端シラノール化合物の製造法及び保存法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち、本発明は、両末端にSi−Cl結合を有するジクロロシラン化合物を加水分解して、ジシラノール化合物を調製する方法において、加水分解を第3級アミン化合物の存在下で行うことを特徴とする方法である。
また、本発明は、下記式(3)で表される含フッ素ジシラノール化合物を、
HO−Z−R1−Rf−R1−Z−OH (3)
[式中、Rfは2価のフッ化炭化水素基又は2価のフッ化ポリエーテル基であり、R1は、互いに独立に、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子及びイオウ原子よりなる群から選ばれた少なくとも1種の原子を有してよい、置換又は非置換の2価の炭化水素基であり、Zは下記式(2)
−SiR23− (2)
(但し、R2、R3は、同一又は異種の1価有機基である。)で示される基である。]
該含フッ素ジシラノール化合物のシラノール基1モルに対して、0.001〜20モルの3級アミンの存在下で保存する方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法は、90%以上の高い末端変性率を達成できる。また本発明の保存方法によれば、ジシラノール化合物が縮合することなく、安定に保存される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の方法は、ジクロロシラン化合物を、第3級アミン化合物の存在下で、加水分解反応に付することを特徴とする。第3級アミン化合物を、反応で発生する塩化水素トラップ剤として使用することは知られている(例えば特表2005−522515)。しかし、ジシラノール化合物の調製に利用した例はない。また、後述するように、第3級アミンが該ジシラノール化合物同士の縮合を防ぎ、既に述べたエポキサイド化合物等に比べ、顕著に高い転換率を与えること、及び、ジシラノール化合物の保存安定効果があることは、従来技術からは予測されなかったことである。
【0009】
第3級アミン化合物としては、塩化水素をトラップすることができる広汎な化合物を使用することができる。好ましくは、下記式(4)で表されるものが使用される。
−[N(R)−Q]−R (4)
(Rはエーテル結合を有していてよい、炭素数1〜20の一価の炭化水素基であり、Rは、それぞれ独立に、エーテル結合を有していてよい炭素数1〜20の一価の炭化水素基であり、Rは水素原子またはエーテル結合を有していてよい炭素数1〜20の一価の炭化水素基であり、R、R、Rは互いに結合されて環状構造を形成していても良く、Qは、それぞれ独立に、エーテル結合を有していてよい炭素数1〜20の2価の炭化水素基から選ばれる基であり、aは1〜10の整数である)
【0010】
炭素数1〜20の一価の炭化水素基には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基等が包含される。
【0011】
Qとしては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、メチルエチレン基、ブチレン基、ヘキサメチレン基等のアルキレン基;シクロヘキシレン基等のシクロアルキレン基;フェニレン基、トリレン基、キシリレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基等のアリーレン基およびこれら構造にエーテル結合性酸素を含んだ構造が挙げられる。中でも下記式、
−(CH)n−
または
−(CH)n−O−(CH)m−
(n、mは、それぞれ1〜8の整数である)
で、表されるものが好ましい。
【0012】
式(4)において、aは1〜20の整数であるが特に1〜6が好ましい。aが2以上の場合には、繰り返し単位、[N(R)−Q]、毎にR及びQが異なっていてもよい。さらに、R、R、Rのうちの少なくとも2つが結合して環状構造をなしていても良い。この場合R、R、Rが結合した構造しては例えば前述のQの構造と同様の構造をとることが出来る。
【0013】
好ましい第3級アミン化合物の例としては、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリへキシルアミン、トリオクチルアミン、テトラエチルエチレンジアミン、ペンタエチルジエチレントリアミン、ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、1,4−ジメチルピペラジン等のピペラジン誘導体、N-メチルモルホリン等のモルホリン誘導体、1-アザビシクロ[2,2,2]オクタン1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、N,N−ジメチルアニリン等アニリン誘導体及びこれらの混合物が挙げられ、より好ましくはトリエチルアミン及びトリブチルアミンである。また、後述する本発明の保存方法と組合わせる場合には、低沸点の第3級アミン、例えばトリエチルアミンと、高沸点の第3級アミン、例えばトリ-n-ブチルアミンを混合して使用することが有利である。
【0014】
ジクロロシラン化合物は、好ましくは下記式(1)で表される(以下「ジクロロ化合物(1)」とする)、
Cl−Z−R1−Rf−R1−Z−Cl (1)
において、Rfは2価のフッ化炭化水素基又は2価のフッ化ポリエーテル基である。2価のフッ化炭化水素基としては、炭素数1〜6、好ましくは炭素数4〜6の直鎖状又は分岐状のフッ化アルキレン基、例えば−C48−、−C612−が挙げられる。
【0015】
2価のフッ素化ポリエーテル基としては、例えば下記のものが挙げられる。

m、nは夫々1〜100の整数であり、但し、m+nの平均が5〜150である。


nは2〜100、但し平均で5〜50、の整数であり、mは1〜20、但し平均で1〜10の整数である。

nは2〜100、但し平均で5〜50、の整数であり、mは1〜20、但し、平均で1〜10、の整数である。



nは2〜200、但し、平均で5〜100、の整数である。



m、nは夫々1〜100の整数であり、但し、m+nの平均が5〜150である。
【0016】
式(1)において、R1は、互いに独立に、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子及びイオウ原子よりなる群から選ばれた少なくとも1種の原子を有してよい、置換又は非置換の2価の炭化水素基である。好ましくは炭素数2〜20の基であり、エチレン基、プロピレン基、メチルエチレン基、ブチレン基、ヘキサメチレン基等のアルキレン基;シクロヘキシレン基等のシクロアルキレン基;フェニレン基、トリレン基、キシリレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基等のアリーレン基;これらアルキレン基とアリーレン基との組み合わせ;及びこれらアルキレン基及びアリーレン基の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子で置換された基が挙げられる。
【0017】
また、R1において、酸素原子は−O−として、窒素原子は−NR−(Rは水素原子、又は炭素数1〜10のアルキル基又はアリール基)又は−N=として、ケイ素原子は−SiR’R”−(R’,R”は各々炭素数1〜10のアルキル基又はアリール基)として、また硫黄原子は−S−として、酸素原子及び窒素原子が、アミド基、−CONR−(Rは上記と同じ)として、酸素原子、窒素原子及びイオウ原子がスルホンアミド基、−SO2NR−(Rは上記と同じ)、として存在してよい。
【0018】
1の例としては、下記のものが挙げられる。なお、下記において、Meはメチル基、Phはフェニル基であり、また下記の各式において左側にRfが、右側にZが結合する。


【0019】
式(1)において、Zは下記式(2)で表される基である。
−SiR23− (2)
ここで、R2、R3は同一又は異種の1価の有機基であり、好ましくは、炭素数1〜12の炭化水素基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;及びこれらの基の水素原子の一部又は全部がフッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子等で置換したクロロメチル基、ブロモエチル基、クロロプロピル基、トリフルオロプロピル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシル基等が挙げられる、好ましくは、メチル基である。
【0020】
ジクロロ化合物(1)の加水分解における、ジクロロ化合物(1)、第3級アミン、及び水のそれぞれの量は、ジクロロ化合物(1)に含まれるSi−Cl結合のモル数に応じて調整される。まず水については、ジクロロ化合物(1)に含まれるSi−Cl結合のモル数に対し、等モル以上、好ましくは2倍モル以上の量で使用する。第3級アミンは、ジクロロ化合物化合物(1)に含まれるSi−Cl結合のモル数に対して、0.1倍モル量以上、好ましくは2倍モル量以上で用いられる。該量の上限については、特に制限はなく、溶媒を兼ねて50倍モル以上の量を用いてもよい。
【0021】
加水分解反応は、公知の手順に従って行ってよい。好ましくは、未反応のジクロロ化合物(1)と生成したジシラノール化合物との縮合反応を防止するため、水と第3級アミンとの混合物中に、ジクロロ化合物(1)を少量ずつ添加する方法、あるいは、第3級アミンとジクロロ化合物(1)を先に十分に混合させ、そこに水を投入する方法が使用される。
【0022】
加水分解反応に際し、反応に影響を与えない範囲内で、反応混合物を有機溶媒で希釈してもよい。特に、有機溶媒が各成分や反応物を溶解し、均一に分散させる場合には、反応を円滑に行うことができるので有用である。希釈を行う際には水、第3級アミン、化合物(1)あるいはそれらの混合物のそれぞれを別途事前に同一もしくはそれぞれ異なる有機溶媒で希釈しておくことも可能である。このような有機溶媒としては、例えは、n−ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、石油エーテル、キシレン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、n−ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、ジブチルケトン、酢酸エチル等のケトン系溶媒;メチレンクロライド、クロルベンゼン、クロロホルム等の塩素化炭化水素系溶媒;トリフルオロベンゼン、1,3−ビストリフルオロメチルベンゼン、フルオアルキルエーテル等のフッ素系溶媒等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0023】
反応条件は特に制限されないが、好ましくは1〜70℃の温度で行う。反応時間は、通常1〜24時間である。
【0024】
上記反応で生成される塩化水素及び塩化水素と前記3級アミノ化合物との塩は、反応後の反応混合物の水洗、吸着剤による吸着処理など任意の方法で除去することが可能である。好ましくは、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の炭酸塩、炭酸水素塩のいずれか、あるいはこれらの混合物(以下「炭酸塩」とする)を反応混合物に加えた状態で系内の水分を除去した後に、固体状の物を濾別する。
【0025】
ここで用いられる炭酸塩としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等が好適である。
【0026】
炭酸塩は、反応前のジクロロ化合物(1)に含まれるSi−Cl結合のモル数に対して、アルカリ金属化合物の場合には0.55〜10倍モル、特に好ましくは1.1〜3倍モルを、アルカリ土類金属化合物で1.1〜20倍モル、特に好ましくは2〜5倍モルを、粉体成分として反応後の反応混合物に添加し、十分に攪拌操作を実施することが好ましい。その際、温度は1〜100℃の範囲で任意であってよく、攪拌時間は、粉体の大きさ、攪拌効率等に依存して適宜調整されるが、室温であれば6時間、90℃であれば1時間程度でよいことが見出された。次いで、水分及び余剰の第3級アミンを、分液もしくは減圧留去あるいはこれらの併用により除去した後に、濾過により固形分を除去する。
【0027】
上記濾過の際には、必要に応じて反応系を有機溶媒で希釈し、濾過後に溶媒を留去させる方法をとることもできる。このような有機溶媒としては、トリフルオロベンゼン、1,3−ビストリフルオロメチルベンゼン、フルオアルキルエーテル等のフッ素系溶媒等が好適であり、これらは、1種単独で又は2種以上を混合して使用することができる。また、減圧留去は通常60〜120℃付近で行われる。
【0028】
また濾過と同時あるいは濾過後に、生成物を含む濾液を、硫酸ナトリウムや硫酸マグネシウム、モレキュラシーブ等による脱水、活性炭、活性白土、アルミナ、ポリマー吸着剤等による有機、無機不純物の物理吸着、化学吸着等の任意の精製手段を用いることも出来る。以上の手段により、末端のSi-OH変性率が90%以上で、含フッ素ジシラノール化合物を製造することができる。
【0029】
本発明は、式(3)で表される含フッ素ジシラノール化合物(以下「ジシラノール化合物(3)とする」)の保存方法にも関する。即ち、ジシラノール化合物(3)のシラノール基1モルに対して、3級アミン化合物を0.001〜20倍モル、好ましくは0.005〜0.2倍量を添加した状態で保存する。3級アミン化合物が存在することによって、ジシラノール化合物(3)中に微量の酸性成分が残存又は混入したとしても、ジシラノール化合物同士の縮合反応が抑制され、安定に保存される。
【0030】
該3級アミン化合物としては、沸点が100℃以上の物が特に好ましく、例えば、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン等が挙げられる。
【0031】
上記保存方法は、本発明の方法で得られたジシラノール化合物だけでなく、該方法以外の方法で得られたジシラノール化合物についても適用することができる。例えば、前記した本発明第一の実施形態によって合成されたものの他に、特許文献3及び4に示される方法で合成されたものにも利用できる。本発明の保存方法を、本発明の製造方法と組み合わせて適応すると、大変に有利である。即ち、化合物(1)の加水分解の際に、減圧蒸留で除去し易い低沸点の第3級アミン、たとえば沸点98℃のトリエチルアミンと、減圧蒸留で除去され難い高沸点の第3級アミン、例えば沸点216℃のトリ-n-ブチルアミンを混合して使用すれば、加水分解時には十分な量の3級アミンを系中に存在させ、かつ最終生成物中には所定量の3級アミンを残存させることが出来る。
【0032】
実施例
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
実施例1
撹拌棒、温度計を備えた1L4つ口フラスコに、水20g、トリエチルアミン20g、1,3−ビストリフルオロメチルベンゼン40gを仕込み、5℃に冷却して、該温度を維持しながら攪拌した。続いて、上部仕込み口を窒素封止した500ml滴下ロートに下記式(5)で示される化合物300g及び1,3−ビストリフルオロメチルベンゼン150gの混合物を仕込み、フラスコ系内の温度を5〜10℃に維持しながら、フラスコ内に滴下した。


(a,b共に1以上の整数であって、かつa+bの平均が90)

滴下完了後、室温で2時間攪拌した後に、炭酸カルシウム6.0gを添加して1時間攪拌した。その後、フラスコにジムロートを装着し、フラスコ内の温度を90℃に昇温してからさらに2時間攪拌した。これを一旦室温に戻してからエバポレータで、80℃、2mmHgで水、トリエチルアミン及び溶媒の1,3−ビストリフルオロメチルベンゼンを留去した。留去後に室温に戻してから1,3−ビストリフルオロメチルベンゼン150g、活性炭6gを添加し、2時間攪拌後、濾過板を用いて加圧濾過を行い、回収した濾液について80℃、2mmHgで減圧留去を行うことで無色透明な液状化合物276gを得た。
得られた化合物は下記式(6)で示される化合物であることが、1H−NMRスペクトルから確認された。N−CH3に対する末端のSi−OH量から算出される末端変性率は94%であった。

(Rfは上述のとおりである。)
1H−NMRスペクトル:
δ0.05(s,HO−Si−CH3
δ0.30(s,arom−Si−CH3
δ0.45(m,HO−Si−CH2
δ0.70(m,arom−Si−CH2
δ1.70(s,Si−OH)
δ3.30(s,N−CH3
δ7.1〜7.5(m,arom)
【0034】
実施例2
撹拌棒、温度計を備えた1L4つ口フラスコに、トリエチルアミン 20g、1,3−ビストリフルオロメチルベンゼン 200g、(5)の化合物300g、を仕込み、室温で30分攪拌した後に3℃まで冷却した。続いて冷却したフラスコ内を十分攪拌しながら上部からロートで水20gを投入した。水の投入に伴い系内の温度は9℃まで上昇したことを確認し、昇温終了後30分攪拌してから冷却を停止した後、室温まで自然昇温させた。次いで、炭酸カルシウム6.0gを添加して1時間攪拌した後に、フラスコにジムロートを装着し90℃に昇温してからさらに2時間攪拌した。これを一旦室温に戻してからエバポレータで、80℃、2mmHgで水、トリエチルアミン及び溶媒の1,3−ビストリフルオロメチルベンゼンを留去した。留去後に室温に戻してから1,3−ビストリフルオロメチルベンゼン 150g、活性炭6gを添加し、2時間攪拌後、濾過板を用いて加圧濾過を行い、回収した濾液について80℃、2mmHgで減圧留去を行うことで化合物(6)273gを得た。N−CH3に対する末端のSi−OH量から算出される末端変性率は93%であった。
【0035】
比較例1
(5)の化合物200gを用い、特許文献4の実施例に示される方法で、上記一般式(6)で示され、N−CH3に対する末端のSi−OH量から算出される末端変性率93%の化合物184gを得た。
【0036】
実施例3
実施例1で得られた(6)の化合物100gに対して、トリ-n-ブチルアミ 0.5gを添加し、室温で1時間攪拌した。
【0037】
実施例4
比較例1で得られた(6)の化合物100gに対してトリ-n-ブチルアミン 0.5gを添加し、室温で1時間攪拌した。
【0038】
実施例5
フラスコ内にトリエチルアミン20gに加えて、トリ-n-オクチルアミン2gを添加した以外は、実施例1と全く同様の手順でN−CH3に対する末端のSi−OH量から算出される末端変性率は94%の化合物271gを得た。
【0039】
保存安定性
実施例1〜5及び比較例1で得られた各化合物の保存安定性について、それぞれ初期及び、密閉容器中70℃で7日保存後、及び、21日保存後に、GPC測定を下記の条件で行った。
カラム :東ソー(株)製 TSK-GEL MultiporeHxL × 2
溶媒 :旭硝子(株)製 アサヒクリン AK225
カラム温度 :35℃
カラム流量 :1ml/min
検出器 :ユーロセップ社 蒸発光散乱検出器 DDL―31
検出温度 :45℃

図1は、保存により、高分子量、即ち縮合成分、ピークの割合が増すことを例示するGPCチャートである。図1において、ピーク全体の面積に対する低分子量物(「未縮合成分」という)ピークの面積割合を、図2に示すような解析法で、保存安定性の指標として求めた。

未縮合成分の割合(R)=斜線部の面積(S‘)/ピーク全体の面積(S)
未縮合成分残存率(r)=(R保存後/(R初期)×100 (%)

結果を表1に示す。表1において未縮合成分残存率の単位は%である。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示すように、比較例1のジシラノール化合物は、7日後においても、かなり縮合が進んでいた。これに対して、本発明の方法で得られたジシラノール化合物は、70℃で保存した後であっても、80%以上が縮合しないままで残った。また、第3級アミンの存在下で保存されたもの(実施例3〜5)は、ほぼ90%またはそれ以上、製造直後の状態が維持される。特に、実施例5では、トリ-n-オクチルアミンが製造段階、保存段階の双方において、効果を奏した。
【産業上の利用可能性】
【0042】
第3級アミンを使用する本発明の方法によれば、ジシラノール化合物を高い収率で作ることができる。また、本発明の保存方法は、ジシラノール化合物を、長期に亘り安定に保存することができる。さらに、該製造方法で使用した第3級アミンを系内に残存させて保存すれば、大変に効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】保存により、高分子量分が増加することを例示するGPCチャートである。
【図2】未縮合成分残存率の求め方を示す、GPCクロマトグラムの解析例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両末端にSi−Cl結合を有するジクロロシラン化合物を加水分解して、ジシラノール化合物を調製する方法において、加水分解を第3級アミン化合物の存在下で行うことを特徴とする方法。
【請求項2】
ジクロロシラン化合物が、下記式(1)で表されることを特徴とする請求項1記載の方法。
Cl−Z−R1−Rf−R1−Z−Cl (1)
(式(1)中、Rfは2価のフッ化炭化水素基又は2価のフッ化ポリエーテル基であり、R1は、互いに独立に、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子及びイオウ原子よりなる群から選ばれた少なくとも1種の原子を有してよい、置換又は非置換の2価の炭化水素基であり、Zは下記式(2)で示される基であり
−SiR23− (2)
式(2)中、R2、R3は、互いに同一又は異種の1価有機基である)
【請求項3】
第3級アミン化合物が下記式(4)で表されることを特徴とする、請求項1または2記載の製造方法。
−[N(R)−Q]−R (4)
(Rはエーテル結合を有していてよい、炭素数1〜20の一価の炭化水素基であり、Rは、互いに独立に、エーテル結合を有していてよい炭素数1〜20の一価の炭化水素基であり、Rは水素原子またはエーテル結合を有していてよい炭素数1〜20の一価の炭化水素基であり、R、R、及びRのうちの少なくとも2つが結合されて環状構造を形成していてもよく、Qは、互いに独立に、エーテル結合を有していてよい炭素数1〜20の2価の炭化水素基から選ばれる基であり、aは1〜10の整数である)
【請求項4】
第3級アミン化合物が、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリへキシルアミン、トリオクチルアミン、テトラエチルエチレンジアミン、ペンタエチルジエチレントリアミン、ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、1,4−ジメチルピペラジン、N-メチルモルホリン、1-アザビシクロ[2,2,2]オクタン1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、及びN,N−ジメチルアニリンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
第3級アミン化合物が、トリエチルアミンとトリ-n-ブチルアミンの混合物である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
第3級アミン化合物が、式(1)で表される化合物中のSi−Cl結合1モルに対して、0.1モル以上の量で存在することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
第3級アミン化合物が、式(1)で表される化合物中のSi−Cl結合1モルに対して、2〜50モルの量で存在することを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記加水分解の工程後に、該加水分解反応混合物に、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の炭酸塩、炭酸水素塩又はこれらの混合物を加える工程をさらに含む、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
下記式(3)で表される含フッ素ジシラノール化合物を、
HO−Z−R1−Rf−R1−Z−OH (3)
[式中、Rfは2価のフッ化炭化水素基又は2価のフッ化ポリエーテル基であり、R1は、互いに独立に、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子及びイオウ原子よりなる群から選ばれた少なくとも1種の原子を有してよい、置換又は非置換の2価の炭化水素基であり、Zは下記式(2)
−SiR23− (2)
(但し、R2、R3は、同一又は異種の1価有機基である。)で示される基である。]
該含フッ素ジシラノール化合物のシラノール基1モルに対して、0.001〜20モルの3級アミンの存在下で保存する方法。
【請求項10】
3級アミンが、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、及びトリオクチルアミンからなる群より選ばれる、請求項9記載の方法。
【請求項11】
含フッ素ジシラノール化合物が、請求項1〜8のいずれか1項記載の方法で調製されたものであり、3級アミンの少なくとも一部が、該方法において使用された3級アミンである、請求項9記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれか1項記載の方法において使用された3級アミンがトリ-n-ブチルアミン及び/又はトリ-n-オクチルアミンである、請求項11記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−24657(P2008−24657A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−199782(P2006−199782)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】