説明

ジチオエステルの製造方法

本発明は、ジチオカルボン酸および/またはジチオカルボン酸塩を、ビニル化合物および/または脱離基を有するアルキル化合物と反応させる、ジチオエステルを製造する方法に関し、反応を二相系で実施し、前記相の一方が水からなり、水相と有機相の質量比が95:5〜5:95の範囲にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はジチオエステルの製造方法に関する。
【0002】
ジチオカルボン酸およびジチオカルボン酸エステルの製造方法はかなり前から知られている(Houben Weyl、Methoden der Organischen Chemie、Vol.E5、1985、891〜916頁参照)。
【0003】
ラジカル重合の分野での新しい発展によりジチオエステルがますます重要になってきた。RATF(Reversible Addition Fragmentation Chain Transfer、可逆的付加、断片化、連鎖移動反応)は制御された方法で形成される狭い分子量分布を有するポリマーを製造するために重要な重合技術である。特定の置換基のパターンを有するジチオエステルがこの目的に特に適していることが一般に示された。例えば米国特許第6458968号はRAFT重合に使用することができるジチオエステルの製造方法を記載する。
【0004】
しかしこれらの化合物を製造する通常の方法は重大な欠点と結びついている。若干の場合にかなり高価な化合物を使用しなければならず、または所望の生成物の収率がかなり低い。更にジチオエステルの製造に使用される多くの化合物が酸素または水に対してかなり弱い。
【0005】
RAFT重合に使用できる有利なジチオエステルに属する特定のエステルはクミルジチオベンゾエート(2−フェニルプロプ−2−イルジチオベンゾエート)である。
【0006】
この化合物を製造する合成法はα−メチルスチレンへのジチオ安息香酸の添加からなる。
【0007】
この反応法によるジチオエステルの合成が35%未満の低い収率を生じ、適当な化合物を単離するために、分取クロマトグラフィーが必要であることが一部の著者により報告されている(WO98/01478号およびHans de Brouwer、Ph.D.Thesis、Technical Univerrsity Eindhoven、2001、RAFT memorabilia:living radical polymerization in homogeneous and heterogeneous media参照)。H.de Brouwerの研究は特に不活性ガス雰囲気下でジチオカルボン酸中間生成物を入念に取り扱って、ブレンステッド酸およびルイス酸を使用する収率の増加が繰り返された試験で示されたように、収率の改良を生じないことを示す。
【0008】
ここで確認され、議論された技術水準を考慮して、本発明の基礎となる課題は特に高い収率を可能にするジチオエステルの製造方法を提供することである。
【0009】
特に前記方法を安価に実施することが可能であるべきである。従って本発明のもう1つの課題は工業的規模で簡単な方法で実施できるジチオエステルの製造方法を提供することである。この関係で特に現存する装置の使用が可能であるべきである。
【0010】
従って本発明の課題は更に得られた処理生成物を複雑な精製法を使用せずに、特にクロマトグラフィー処理を使用せずにRAFT重合に使用できるジチオカルボン酸エステルの製造方法を提供することである。
【0011】
詳細に説明しないが、技術水準の導入の議論から当業者に直ちに明らかであるこれらおよび他の課題は本発明により、請求項1の特徴部分を有する方法により解決される。本発明の方法の有利な変形は請求項1の従属請求項で保護される。
【0012】
意想外にも、相の一方が水からなり、水相と有機相の質量比が95:5〜5:95の範囲にある二相系の反応の実施により、ジチオカルボン酸および/またはジチオカルボン酸塩を、ビニル化合物および/または脱離基を有するアルキル化合物と反応させることによりジカルボン酸エステルを製造する方法が提供され、前記方法できわめて高い収率が達成できる。
【0013】
更に本発明の方法は直ちに予想できない、技術水準よりすぐれた一連の利点を達成する。これらには特に次の特徴を有する。
(1)本発明の方法は既存の装置で容易に実施できる。
(2)本発明の方法は比較的安価な化学物質を使用して実施できる。
(3)更に本発明の方法は工業的規模でのジチオエステルの製造を可能にする。
(4)更に本発明の方法により製造されたジチオカルボン酸エステルは複雑な精製なしにRAFT重合に使用することができ、特にクロマトグラフィー処理を省ける。
【0014】
本発明の方法において、ジチオカルボン酸および/またはジチオカルボン酸塩を使用する。これらの化合物は当業者に知られ、その製造は例えばHouben Weyl Methoden der Organischen Chemie Vol E5,1985,891−916および米国特許第5555262号に記載されている。
【0015】
ジカルボン酸またはその塩は例えば有機金属化合物を二硫化炭素と反応させることにより得られる。
【0016】
ジチオカルボン酸化合物は有利にジチオカルボン酸基に対してα位にラジカル安定置換基を含む。これらの置換基は特にアリール、ヘタリール、−CN、−CORおよび−CORを含み、Rはそれぞれアルキルまたはアリール基、芳香族および/またはヘテロ芳香族基であるが、芳香族基が有利である。
【0017】
本発明により芳香族基は有利に6〜20個、特に6〜12個の炭素原子を有する単環または多環芳香族化合物の基のことである。ヘテロ芳香族基は少なくとも1個のCH基がNにより置換されているおよび/または少なくとも2個の隣接するCH基がS、NHまたはOにより置換されているアリール基を含み、ヘテロ芳香族基は3〜19個の炭素原子を有することができる。
【0018】
本発明により有利である芳香族基またはヘテロ芳香族基はベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、ジフェニルエーテル、ジフェニルメタン、ジフェニルジメチルメタン、ビスフェノン、ジフェニルスルホン、チオフェン、フラン、ピロール、チアゾール、オキサゾール、イミダゾール、イソチアゾール、イソキサゾール、ピラゾール、1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ジフェニル−1,3,4−オキサジアゾール、1,3,4−チアジアゾール、1,3,4−トリアゾール、2,5−ジフェニル−1,3,4−トリアゾール、1,2,5−トリフェニル−1,3,4−トリアゾール、1,2,4−オキサジアゾール、1,2,4−チアジアゾール、1,2,4−トリアゾール、1,2,3−トリアゾール、1,2,3,4−テトラゾール、ベンゾ〔b〕チオフェン、ベンゾ〔b〕フラン、インドール、ベンゾ〔c〕チオフェン、ベンゾ〔c〕フラン、イソインドール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾイソオキサゾール、ベンゾイソチアゾール、ベンゾピラゾール、ベンゾチアジアゾール、ベンゾトリアゾール、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、カルバゾール、ピリジン、ビピリジン、ピラジン、ピラゾール、ピリミジン、ピリダジン、1,3,5−トリアジン、1,2,4−トリアジン、テトラジン、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、1,8−ナフチリジン、1,5−ナフチリジン、1,6−ナフチリジン、1,7−ナフチリジン、フタラジン、ピリドピリミジン、プリン、プテリジン、キノリジン、4H−キノリジン、ジフェニルエーテル、アントラセン、ベンゾピロール、ベンゾオキサチアジアゾール、ベンゾオキサジアゾール、ベンゾピリジン、ベンゾピラジン、ベンゾピラジジン、ベンゾピリミジン、ベンゾトリアジン、インドリジン、ピリドピリジン、イミダゾピリミジン、ピラジノピリミジン、カルバゾール、アクリジン、フェナジン、ベンゾキノリン、フェノキサリン、フェノチアジン、アクリジジン、ベンゾプテリジン、フェナントロリン、およびフェナントレネンから誘導され、これらはそれぞれ置換されていてもよい。
【0019】
本発明の1つの特別な構成においてジチオカルボン酸化合物またはその塩は1〜8個、有利に1〜6個、特に1〜3個のジチオカルボン酸基を含む。有用な塩は特にアルカリ金属塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩またはリチウム塩、アンモニウム塩およびアルカリ土類金属塩、例えば、マグネシウム塩またはカルシウム塩である。
【0020】
本発明の方法の1つの特別な実施態様において、一般式1
【0021】
【化1】

(式中、Rは1〜20個の炭素原子を有する基であり、mは1〜6の整数であり、Mは水素原子、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン(第一級、第二級、第三級、または第四級アンモニウムイオンを使用することができる)またはアルカリ土類金属イオンを有する基である)のジチオカルボン酸またはジチオカルボン酸塩を使用する。Mがアルカリ土類金属イオンを有する基である場合は、金属イオンの第2電荷は例えばハロゲン化物イオン、例えば臭化物イオン、塩化物イオンまたは他のジカルボン酸基により均衡にされていてもよく、Mは特にMgBr、MgClまたはMgSCRであってもよい。
【0022】
1〜20個の炭素原子を有する基の表現は1〜20個の炭素原子を有する有機化合物の基を表す。この基はすでに記載された芳香族基およびヘテロ芳香族基のほかに、特にアルキル、シクロアルキル、アルコキシ、シクロアルコキシ、アルケニル、アルカノイル、アルコキシカルボニル基およびヘテロ脂肪族基を含む。前記基は分枝状または非分枝状であってもよい。これらの基は更に一般的な置換基を有してもよい。置換基の例は1〜6個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状アルキル基、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、2−メチルブチル、またはヘキシル、シクロアルキル基、例えばシクロペンチルおよびシクロヘキシル、芳香族基、例えばフェニルまたはナフチル、アミノ基、エーテル基、エステル基およびハロゲン化物を含む。
【0023】
有利なアルキル基はメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、1−ブチル。2−ブチル、2−メチルプロピル、t−ブチル基、ペンチル、2−メチルブチル、1,1−ジメチルプロピル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、1,1,3,3−テトラメチルブチル、ノニル、1−デシル、2−デシル、ウンデシル、ドデシル、ペンタデシル、およびエイコシル基を含む。
【0024】
有利なシクロアルキル基はシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、およびシクロオクチル基を含み、これらのそれぞれは分枝状または非分枝状アルキル基により置換されていてもよい。
【0025】
有利なアルケニル基はビニル、アリル、2−メチル−2−プロペニル、2−ブテニル、2−ペンテニル、2−デセニル、および2−エイコセニル基を含む。
【0026】
有利なアルキニル基はエチニル、プロパルギル、2−メチル−2−プロピニル、2−ブチニル、2−ペンチニル、および2−デシニル基を含む。
【0027】
有利なアルカノイル基はホルミル、アセチル、プロピオニル、2−メチルプロピオニル、ブチリル、バレロイル、ピバロイル、ヘキサノイル、デカノイル、およびドデカノイル基を含む。
【0028】
有利なアルコキシカルボニル基はメトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、ヘキシルオキシカルボニル、2−メチルヘキシルオキシカルボニル、デシルオキシカルボニル、またはドデシルオキシカルボニル基を含む。
【0029】
有利なアルコキシ基は炭化水素基が前記の有利なアルキル基の1つであるアルコキシ基を含む。
【0030】
有利なシクロアルコキシ基は炭化水素基が前記の有利なシクロアルキル基の1つであるシクロアルコキシ基を含む。
【0031】
有利なヘテロ脂肪族基は少なくとも1個の炭素単位がO、SまたはNR基により置換され、Rが水素、1〜6個の炭素原子を有するアルキル基、1〜6個の炭素原子を有するアルコキシ基、またはアリール基である前記の有利なシクロアルキル基を含む。
【0032】
有利なジチオカルボン酸は特にフェニルジチオ安息香酸、p−クロロジチオ安息香酸、チオフェン−2−ジチオカルボン酸、フラン−2−ジチオカルボン酸、o−、m−、p−アルキルジチオ安息香酸、o−、m−、p−ハロゲンジチオ安息香酸、ポリアルキルジチオ安息香酸、および他の同様に置換されたアリール基を含む。これらの酸の塩も同様に有利である。
【0033】
本発明によりジチオカルボン酸および/またはその塩をビニル化合物および/または脱離基を含むアルキル化合物と反応させる。これらの化合物は同様に当業者に知られている。
【0034】
本発明の1つの特別な構成において、使用される脱離基を有するアルキル化合物はアルキルハロゲン化物、例えば塩化物、ヨウ化物または臭化物、擬ハロゲン化物基、例えばNまたはSCNを有するアルキル化合物またはスルホネート基、例えばトリフレート基を有するアルキル化合物である。
【0035】
ジチオカルボン酸またはその塩を、一般式(II)
【0036】
【化2】

(式中、R、R、RおよびR基は互いに独立に水素または1〜20個の炭素原子を有する基である)のビニル化合物と反応させることが有利である。R、R、Rおよび/またはR基の少なくとも1つが芳香族基であることが特に有利である。
【0037】
有利なビニル化合物は特にスチレン、側鎖に1つのアルキル置換基を有する置換されたスチレン、例えばα−メチルスチレン、α−エチルスチレン、環に1つのアルキル置換基を有する置換されたスチレン、例えばビニルトルエン、p−メチルスチレン、ハロゲン化スチレン、例えばモノクロロスチレン、ジクロロスチレン、トリブロモスチレン、およびテトラブロモスチレン、複素環のビニル化合物、例えば2−ビニルピリジン、3−ビニルピリジン、2−メチル−5−ビニルピリジン、3−エチル−4−ビニルピリジン、2,3−ジメチル−5−ビニルピリジン、ビニルピリミジン、ビニルピペリジン、9−ビニルカルバゾール、3−ビニルカルバゾール、4−ビニルカルバゾール、1−ビニルイミダゾール、2−メチル−1−ビニルイミダゾール、N−ビニルピロリドン、2−ビニルピロリドン、N−ビニルピロリジン、3−ビニルピロリジン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルブチロラクタム、ビニルオキソラン、ビニルフラン、ビニルチオフェン、ビニルチオラン、ビニルチアゾール、および水素化ビニルチアゾール、ビニルオキサゾール、水素化ビニルオキサゾール、ビニルエーテルおよびイソプレニルエーテルを含む。
【0038】
一般に脱離基を有するアルキル化合物は一般式(III)
【0039】
【化3】

(式中、R,RおよびR基は互いに独立に水素または1〜20個の炭素原子を有する基であり、Xは脱離基である)により表わすことができる。
【0040】
式(III)中の脱離基は有利にハロゲン原子、例えば塩素、臭素、またはヨウ素、擬ハロゲン原子基、例えばNまたはSCN、または式OS−R(Rは1〜20個の炭素原子を有する基である)の基、例えばトリフレート基である。
【0041】
脱離基を有する有利なアルキル化合物は、特にハロゲン化ベンジル、例えばp−クロロメチルスチレン、α−ジクロロキシレン、α、α−ジクロロキシレン、α、α−ジブロモキシレン、およびヘキサキス(α−ブロモメチル)ベンゼン、塩化ベンジル、臭化ベンジル、1−ブロモ−1−フェニルエタン、1−クロロ−1−フェニルエタン、クミルクロリドおよびクミルブロミド、α位でハロゲン化されたカルボン酸誘導体、例えばプロピル−2−ブロモプロピオネート、メチル−2−クロロプロピオネート、エチル−2−クロロプロピオネート、メチル−2−ブロモプロピオネート、エチル−2−ブロモイソブチレート、トシル化合物、例えばベンジルトシレート、およびクミルトシレートを含む。
【0042】
本発明により、本発明の方法を二相系で実施し、一方の相は水を含有し、水相と有機相の質量比は95:5〜5:95、有利に80:20〜20:80の範囲内である。
【0043】
有機相は有利に不活性有機溶剤を含有する。本発明の目的のために、不活性はジチオカルボン酸塩とビニル化合物および/または脱離基を有するアルキル化合物との反応で溶剤が変化しないことを意味する。これらの溶剤の例は芳香族炭化水素、エステル、エーテルおよび脂肪族炭化水素を含む。これらの中で脂肪族炭化水素が有利である。これらの脂肪族炭化水素は特にヘキサン、ヘプタン、オクタン、およびノナン、および高級同族体を含む。更に使用される不活性有機溶剤は鉱油または種々の粘度のポリα−オレフィンであってもよい。
【0044】
鉱油は公知であり、市販されている。これらは一般に石油または原油から蒸留および/または精製および場合により他の精製および仕上げ工程により得られ、鉱油の用語は特に原油または石油の高沸点留分を含む。一般に鉱油の沸点は5000Paで200℃より高く、有利に300℃より高い。頁岩油の低温炭化、無煙炭のコークス化、空気を排除した褐炭の蒸留および無煙炭または褐炭の水素化による製造も同様に可能である。少ない割合の鉱油は植物(例えばホホバ、西洋アブラナ)または動物(例えば牛脚油)に由来する原料からも製造する。従って鉱油はその由来に依存して種々の割合の芳香族、環状、分枝状、および直鎖状炭化水素を有する。
【0045】
ポリα−オレフィンは周知であり、100℃で2、4、6、100cSt.の粘度を有して販売されている。これらは一般にα−オレフィンのオリゴマー化により製造する。
【0046】
一般に原油または鉱油においてパラフィンベースフラクション、ナフテン系フラクションおよび芳香族フラクションに区別され、パラフィンベースフラクションの用語は比較的長い鎖または枝分かれの多いイソアルカンに関し、ナフテン系フラクションはシクロアルカンに関する。更に鉱油はその由来および仕上げに依存して種々の割合のn−アルカン、イソアルカンおよびヘテロ原子、特にO,Nおよび/またはSを有し、これにより限られた範囲で極性が付与される化合物を有し、イソアルカンはモノメチル分枝状パラフィンとして知られる低い分枝度を有する。しかし個々のアルカン分子が長鎖分枝状基およびシクロアルカン基および芳香族フラクションを有することができるので、分類は困難である。本発明の目的のために、例えばDIN51378により分類を行うことができる。極性部分はASTMD2007により決定することができる。
【0047】
有利な鉱油中のn−アルカンの割合は3質量%未満であり、O,Nおよび/またはSを含有する化合物の割合は6質量%未満である。芳香族化合物およびモノメチル分枝状パラフィンの割合は一般にそれぞれ0〜40質量%の範囲内である。1つの有利な構成において、鉱油は主としてナフテン系アルカンおよびパラフィンベースアルカンを含有し、これらは一般に13より多い、有利に18より多い、特に20より多い炭素原子を有する。これらの化合物の割合は一般に60質量%以上、有利に80質量%以上であるが、これは制限を意味するものでない。有利な鉱油はそれぞれ鉱油の全質量に対して芳香族フラクション0.5〜30質量%、ナフテン系フラクション15〜40質量%、パラフィンベースフラクション35〜80質量%、n−アルカン3質量%までおよび極性化合物0.05〜5質量%を含有する。
【0048】
尿素分離およびシリカゲル上の液体クロマトグラフィーのような一般的な方法により行われた特に有利な鉱油の分析は例えば以下の成分を示し、%はそれぞれ使用される鉱油の全質量に関する。
約18〜31個の炭素原子を有するn−アルカン:
0.7〜1.0%
少ない分枝を有し、18〜31個の炭素原子を有するアルカン:
1.0〜8.0%
14〜32個の炭素原子を有する芳香族化合物:
0.4〜10.7%
20〜32個の炭素原子を有するイソアルカンおよびシクロアルカン:
60.7〜82.4%
極性化合物:
0.1〜0.8%
損失:
6.9〜19.4%。
【0049】
種々の組成を有する鉱油の分析および鉱油のリストに関する有効な情報は例えばUllmanns Encyclopedia of Industrial Chemistry 第5版、CD−ROM1997、lubricants and related productsに見出すことができる。
【0050】
本発明の方法の1つの特別な構成において、ハロゲンアルキル化合物および/またはビニル化合物を有機相に溶解する。
【0051】
ビニル化合物を反応させる場合は、ラジカル阻害剤を有機相に添加することができる。ラジカル阻害剤は特に立体障害フェノール、立体障害アミン、およびカテコール、トコフェロール、没食子酸エステル、および酸化防止剤であることが知られている他の物質を含む。
【0052】
水相は水のほかに他の成分、例えば水溶性有機化合物、例えばアルコール、または相間移動触媒、例えばクラウンエーテルまたはトリカプリルメチルアンモニウムクロリド、および他の異なって置換されたアンモニウム塩およびホスホニウム塩を含有することができる。
【0053】
水相のpH値を6以下、有利に4以下の値に調節することが有利である。本発明の1つの特別な構成において、これは一般に4以下、特に2以下のpK値を有する強酸により達成される。pK値は標準条件下で20℃の温度で決定する。これらの酸は当業者に知られており、特に塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素、硫酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、硝酸およびトリフルオロ酢酸を含む。
【0054】
本発明の1つの特別な構成において、少なくとも1個のジチオカルボン酸を水と混合し、この混合物に有機相を添加する。
【0055】
反応物質の特性に依存して反応継続時間は広い範囲内にあることができる。一般にかなり短い時間で高い反応率が達成される。一般に反応継続時間は1分〜48時間、有利に30分〜24時間の範囲内にあり、反応率は反応混合物の分析により決定する。
【0056】
本発明の反応は広い温度範囲内で実施することができる。この温度が−10℃〜100℃、特に0〜80℃、特に有利に15〜25℃の範囲内にあることが有利である。
【0057】
本発明の1つの特別な構成において、反応を不活性ガス雰囲気下で実施する。この目的に適した不活性ガスは当業者に知られており、例えば窒素または希ガスを使用できる。
【0058】
反応後、反応混合物を公知方法により精製することができる。一般に有機相から水相を分離し、反応生成物を公知方法、例えばクロマトグラフィー、蒸留、抽出等により有機相から精製することができる。過剰のジチオカルボン酸またはその塩を塩基性水溶液、例えば水酸化ナトリウム溶液を用いる抽出により除去することができる。オレフィンまたは揮発性アルキルハロゲン化物は反応混合物から蒸発により除去することができる。
【0059】
しかし高い収率のために、水相を除去後、反応混合物をそのまま使用して公知のRAFT技術により狭い分子量分布のポリマーを取得することができる。
【0060】
本発明を以下の実施例により説明するが、実施例に限定されない。
【0061】
例1
分液漏斗中でクミルアルコール25g(Aldrich)(0.18モル)および37%水性塩酸(Aldrich)150mlを振動することによりクミルクロリドを製造した。得られたクミルクロリドをヘプタン50mlに抽出し、残りのHClを中和するために、ヘプタン溶液を過剰の無水重炭酸カリウム(Aldrich)と混合した。クミルクロリドを有するヘプタン溶液を、ミツカミ等、Macromolecules、34、No7、2249(2001)により製造され、ジチオ安息香酸ナトリウム約0.2モルを含有するジチオ安息香酸ナトリウム水溶液250mlに添加した。アリコート330(Aldrich、トリカプリルメチルアンモニウムクロリド)の滴を添加した。二相混合物を窒素下で16時間攪拌した。この時間の後に最初は褐色の水相が淡い黄色になり、その上の有機相が濃いすみれ色を示した。ヘプタンを除去後、クミルジチオベンゾエート41gが得られ、これはクミルアルコールに対して84%の収率を意味する。
【0062】
例2
ミツカミ等、Macromolecules、34、No7、2249(2001)により製造され、ジチオ安息香酸ナトリウム約0.25モルを含有するジチオ安息香酸ナトリウム水溶液300ml、1,3−ジイソプロペニルベンゼン(Aldrich、0.1モル、0.2当量)15.8gおよびヘプタン50mlを500ml分液漏斗に入れた。水性塩酸(37%、Aldrich)約3mlをこれに繰り返して添加した。酸を添加後、混合物を振動した。褐色の水層が淡い黄色になり、有機層の色が濃いすみれ色になった。16時間後、有機相を水相から分離した。引き続き有機相を2%水酸化ナトリウム水溶液で水相がもはや褐色でなくなるまで抽出した。引き続き有機相を水50mlの分量で3回洗浄した。ヘプタンを除去後、濃いすみれ色の油状物26.5gが得られた。この油状物をシリカゲルカラムを使用するクロマトグラフィーにより精製し、10.6g(27%)が得られた。
【0063】
例3
ジエチルエーテル中3モルフェニルマグネシウムブロミド100mlをテトラヒドロフラン(THF)150ml中二硫化炭素35gに添加し、この間温度を40℃以下に維持した。1時間後、水50mlの添加により反応を終了した。回転蒸発器によりエーテルおよびTHFを除去し、その後得られた混合物を水150mlの添加により500ml分液漏斗に移した。ヘプタン50mlおよびα−メチルスチレン40gをこれに添加した。濃縮した水性塩酸を引き続きそれぞれ激しく振動して少量ずつ添加した。水相がほとんど無色になるまで塩酸の添加を継続した。水相のpH値が7未満の値に低下した。有機相が濃いすみれ色になり、この色はジチオエステルの特徴である。すみれ色の有機相を水相から分離した。混合物から回転蒸発器を使用して揮発性物質を除去した。ジチオ安息香酸を含有するすみれ色の油状物93.5gが得られた。油状物に含まれるジチオ安息香酸を2%水酸化ナトリウム溶液を用いる抽出により除去し、その後クミルジチオベンゾエート85gが得られ、更に精製せずにRAFT重合に使用することができる。
【0064】
ジチオ安息香酸を引き続く反応工程で再びα−メチルスチレンと反応させることができ、ほぼ100%のジチオ安息香酸を反応させる。
【0065】
例4
硫黄粉末32gを12%ナトリウムメトキシド溶液432gに添加した。塩化ベンゾイル63gをこの溶液に1時間にわたり攪拌しながら滴下した。温度が43℃に上昇し、褐色が生じた。すべての塩化ベンゾイルを添加した後に反応混合物を5時間かけて67℃に加熱し、引き続き7℃に冷却した。沈殿物が形成され、反応混合物から濾過により除去した。沈殿物をメタノールで洗浄し、その後回転蒸発器を用いてメタノールを除去した。
【0066】
得られた固体を水400mlを用いて500ml分液漏斗に移した。水溶液をトルエン50mlの分量で3回に分けて使用して抽出した。得られた水溶液188.2g(ジチオ安息香酸ナトリウム約0.173モルを含有する)を250ml分液漏斗に移した。α−メチルスチレン20.5gおよびヘプタン30mlをこれに添加した。37%水性塩酸を分割してこれに添加し、それぞれの添加後に激しく振動した。水相がほとんど無色になり、7未満のpH値を有するまで塩酸の添加を継続した。有機相を2%水酸化ナトリウム水溶液を使用して抽出した。引き続き揮発性物質を除去した。濃いすみれ色の油状物31.5gが得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジチオカルボン酸および/またはジチオカルボン酸塩を、ビニル化合物および/または脱離基を有するアルキル化合物と反応させる、ジチオエステルを製造する方法において、前記方法が、反応を二相系で実施し、前記相の一方が水からなり、水相と有機相の質量比が95:5〜5:95の範囲にあることを特徴とする、ジチオエステルを製造する方法。
【請求項2】
第2の相が不活性有機溶剤を含有する請求項1記載の方法。
【請求項3】
不活性有機溶剤が脂肪族炭化水素である請求項2記載の方法。
【請求項4】
溶剤をヘキサン、ヘプタン、オクタンおよびノナンから選択する請求項3記載の方法。
【請求項5】
溶剤が鉱油である請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
ジチオカルボン酸塩を水相に溶解する請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
水相のpH値が6以下である請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
水相を強酸と混合する請求項7記載の方法。
【請求項9】
酸をHCl、HBr、HI、HSO,メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、硝酸およびトリフルオロ酢酸から選択する請求項8記載の方法。
【請求項10】
ハロゲンアルキル化合物および/またはビニル化合物を有機相に溶解する請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
ジチオカルボン酸および/またはジチオカルボン酸塩が少なくとも1個のラジカル安定置換基を含有する請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
ラジカル安定置換基が−CN、−CORおよび−CORであり、Rがそれぞれアルキルまたはアリール基、芳香族基またはヘテロ芳香族基である請求項10記載の方法。
【請求項13】
相間移動触媒を使用する請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
水相と有機相の質量比が20:80〜80;20である請求項1から13までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
反応を−10〜100℃の範囲の温度で実施する請求項1から14までのいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
反応を保護ガス雰囲気下で実施する請求項1から15までのいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
脱離基を有するアルキル化合物がアルキルハロゲン化物、擬ハロゲン化物基を有するアルキル化合物またはスルホネート基を有するアルキル化合物である請求項1から16までのいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
一般式(I)
【化1】

(式中、Rは1〜20個の炭素原子を有する基であり、mは1〜6の整数であり、Mは水素原子またはアルカリ金属イオン、アンモニウムイオンまたはアルカリ土類金属イオンを含む基である)のジチオカルボン酸またはジチオカルボン酸塩を使用する、請求項1から17までのいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
ジチオカルボン酸またはその塩を、一般式(II)
【化2】

(式中、R、R、RおよびR基は互いに独立に水素または1〜20個の炭素原子を有する基である)のビニル化合物を反応させる、請求項1から18までのいずれか1項記載の方法。
【請求項20】
、R、Rおよび/またはR基が芳香族基である請求項19記載の方法。
【請求項21】
ジチオカルボン酸またはその塩を、脱離基を有する、一般式(III)
【化3】

(式中、R,RおよびR基は互いに独立に水素または1〜20個の炭素原子を有する基であり、Xは脱離基である)の化合物と反応させる、請求項1から20までのいずれか1項記載の方法。

【公表番号】特表2006−520339(P2006−520339A)
【公表日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−504496(P2006−504496)
【出願日】平成16年3月2日(2004.3.2)
【国際出願番号】PCT/EP2004/002058
【国際公開番号】WO2004/083169
【国際公開日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(399020957)ローマックス アディティヴス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (38)
【氏名又は名称原語表記】RohMax Additives GmbH
【住所又は居所原語表記】Kirschenallee, D−64293 Darmstadt, Germany
【Fターム(参考)】