説明

ジヒドロエトルフィンおよびその調製

本発明は、式(VI)の化合物、またはその塩もしくは誘導体(式中、R1およびR2は、独立して、C1〜8アルキルであり、*は、立体中心を表す)の調製プロセスを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジヒドロエトルフィンの新規作製プロセス、(S)-ジヒドロエトルフィンそれ自体、およびその合成時に調製される中間体に関する。
【背景技術】
【0002】
(R)-ジヒドロエトルフィン(以下に示す)は、強力な鎮痛薬である。
【0003】
【化1】

【0004】
これは、中国において、舌下剤の形として20から180μgの範囲の用量で主に使用される。他の鎮痛剤に比べて、強い鎮痛作用および比較的軽度の副作用を引き起こすと報告されている。また、特開平10-231248には、(R)-ジヒドロエトルフィンの経皮貼付剤としての使用が開示されている。しかし、本出願人の認識している限りでは、このような貼付剤は市販されていない。
【0005】
ジヒドロエトルフィンは、エトルフィンの変種である。(R)-エトルフィンは、動物、例えばゾウを麻酔するのに使用される極めて強力なオピオイドである。1960年代に開発されたものであり、それを調製するための合成経路は周知である。例えば、GB 925,723の実施例12には、以下に示すように、グリニャール試薬(プロピルマグネシウムヨージド)をテバイン誘導体に付加させるエトルフィンの合成が開示されている。
【0006】
【化2】

【0007】
実施例12に記載されている結果は、反応粗生成物をメタノールで粉末にすると、α-異性体が生成され、そのメタノール液を水で希釈し、液体をデカンテーションすれば、メタノール液からβ-異性体が結晶化し得ることを示している。したがって、本出願人は、GB 925,723に記載されている合成経路をジヒドロエトルフィンに適用することができ、(R)と(S)のジアステレオマーが生じることになると予想した。しかし、これは当てはまらないことがわかった。それどころか、ジヒドロテバイン誘導体へのプロピルマグネシウムハライドの付加は予想外に高い立体選択性で起こり、(R)ジアステレオマーしか得られなかった。
【0008】
本出願人らの認識している限りでは、ジヒドロエトルフィンの(S)異性体は、調製されなかった。したがって、(S)-ジヒドロエトルフィンをもたらす代替合成経路、特に(S)-ジヒドロエトルフィンを高いジアステレオマー過剰率で生じる手順が求められている。この異性体は、公知の立体異性体の立体化学を確認する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10-231248
【特許文献2】GB 925,723
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】D'Amourら、「A method for determining loss of pain sensation」、J.Pharmacol Exp Ther、1941、72、74〜79頁
【非特許文献2】Kim SH、Chung JM.、「An experimental model for peripheral neuropathy produced by segmental spinal nerve ligation in the rat」、Pain、1992;50:355〜363頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本出願人は、今回、これらの必要性を満たすプロセスを見い出した。さらに、本出願人は、ジヒドロエトルフィンの(S)異性体が有用な薬理的諸特性、特に鎮痛効果を有することを見い出した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
したがって、一態様から見ると、本発明は、式(VI)の化合物、またはその塩もしくは誘導体
【0013】
【化3】

【0014】
(式中、R1およびR2は、独立して、C1〜8アルキルであり、*は、立体中心、好ましくはS体の立体中心を表す)の調製プロセスであって、式(V)の化合物
【0015】
【化4】

【0016】
(式中、R1、R2、および*は、本明細書で先に定められた通りである)を加水分解するステップを含むプロセスに関する。
【0017】
本発明の好ましいプロセスにおいて、式(V)の化合物は、式(IV)の化合物
【0018】
【化5】

【0019】
(式中、R1は、本明細書で先に定められた通りである)と式R2M(X)Pの化合物(式中、R2はC1〜8アルキルであり、Mは金属であり、Xはハライドであり、pは1または0である)を反応させることによって調製される。
【0020】
本発明の別の好ましいプロセスにおいて、式(IV)の化合物は、式(III)の化合物
【0021】
【化6】

【0022】
(式中、R1は、本明細書で先に定められた通りである)を還元することによって調製される。
【0023】
本発明のさらに別の好ましいプロセスにおいて、式(III)の化合物は、式(I)の化合物
【0024】
【化7】

【0025】
と式(II)の化合物
【0026】
【化8】

【0027】
(式中、R1はC1〜8アルキルである)を反応させることによって調製される。
【0028】
したがって、別の態様から見ると、本発明は、式(VI)の化合物、またはその塩もしくは誘導体
【0029】
【化9】

【0030】
(式中、R1およびR2は、独立して、C1〜8アルキルであり、*は、立体中心、好ましくはS体の立体中心を表す)の調製プロセスであって、
式(I)の化合物と
【0031】
【化10】

【0032】
式(II)の化合物
【0033】
【化11】

【0034】
(式中、R1はC1〜8アルキルである)を反応させて、式(III)の化合物
【0035】
【化12】

【0036】
(式中、R1は、本明細書で先に定められた通りである)を得るステップと、
前記式(III)の化合物を還元して、式(IV)の化合物
【0037】
【化13】

【0038】
(式中、R1は、本明細書で先に定められた通りである)を生成するステップと、
前記式(IV)の化合物と式R2M(X)Pの化合物(式中、R2はC1〜8アルキルであり、Mは金属であり、Xはハライドであり、pは1または0である)を反応させて、式(V)の化合物
【0039】
【化14】

【0040】
(式中、R1、R2、および*は、本明細書で先に定められた通りである)を得るステップと、
(iv)前記式(V)の化合物を加水分解して、式(VI)の化合物を生成するステップと
を含むプロセスを提供する。
【0041】
別の態様から見ると、本発明は、式(VI)の化合物、またはその塩もしくは誘導体に関する。
【0042】
【化15】

【0043】
式中、R1およびR2は、独立して、C1〜8アルキルであり、*は(S)体の立体中心を表す。
【0044】
さらに別の態様から見ると、本発明は、以下に示すように、上記のプロセスにおける中間体である化合物、すなわち式(V)、(IV)、および(III)の化合物、または適用可能な場合にはその塩もしくは誘導体に関する。
【0045】
【化16】

【0046】
式中、R1およびR2は、独立して、C1〜8アルキルであり、*は、(S)または(R)体の立体中心、好ましくは(S)体の立体中心を表す。
【0047】
【化17】

【0048】
式中、R1はC1〜8アルキルである。
【0049】
【化18】

【0050】
式中、R1はC1〜8アルキルである。
【0051】
さらに別の態様から見ると、本発明は、式(III)の化合物の調製プロセスであって、式(I)の化合物
【0052】
【化19】

【0053】
と式(II)の化合物
【0054】
【化20】

【0055】
(式中、R1はC1〜8アルキルである)を反応させるステップを含むプロセスに関する。
【0056】
別の態様から見ると、本発明は、本明細書で先に記載された新規化合物を含む組成物、好ましくは医薬組成物に関する。
【0057】
別の態様から見ると、本発明は、医薬品で(例えば、鎮痛剤として)使用するための本明細書で先に記載された化合物に関する。
【0058】
さらに別の態様から見ると、本発明は、本明細書で先に記載された化合物の、疼痛治療用医薬品の製造での使用に関する。
【0059】
本明細書で使用されている「アルキル」という用語は、直鎖状、環状、または分枝状の飽和脂肪族炭化水素を示すために使用される。化合物(II)〜(VI)において存在する好ましいアルキル基は、直鎖状アルキル基である。好ましいアルキル基は、式CnH2n+1で示されるものであり、式中、nは1から8である。典型的なアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチルが挙げられる。化合物(II)〜(VI)における好ましいアルキル基は非置換である。
【0060】
式(I)の化合物はテバインであり、例えばTasmanian Alkaloids,Ptyから市販されている。あるいは、式(I)の化合物を、文献に記載されている手順に従って調製することができる。
【0061】
本発明の好ましいプロセスにおいて、式(II)の化合物におけるR1は、好ましくはC2〜7アルキル、より好ましくはC3〜5アルキル、特にC3アルキル(例えば、n-プロピル)である。特に好ましい式(II)の化合物はヘキセン-3-オンであり、例えばSigma-Aldrichから市販されている。
【0062】
式(III)の化合物を生成するために、式(I)の化合物と式(II)の化合物を反応させる。これらの化合物が受ける反応は、典型的にはディールス-アルダー反応と呼ばれる。ディールス-アルダー反応は、当技術分野において公知である通常の条件下で実施することができる。式(I)と(II)の化合物の反応は、例えば通常のどの溶媒中でも実施することができる。60℃を上回る沸点を有する溶媒が好ましい(例えば、メタノールおよびエタノール)。エタノールは、特に好ましい溶媒である。
【0063】
式(I)と(II)の化合物間の典型的な反応において、化合物を過剰の溶媒中、例えば10〜24時間加熱還流する。反応のプロセスは、例えばTLCおよび/または1H NMRを使用して、監視することができる。好ましい反応において、式(II)の化合物は、式(I)の化合物に対して1.2〜15モル当量、より好ましくは1.5〜10モル当量、または2〜8モル当量使用される。特に好ましい反応において、式(II)の化合物は、式(I)の化合物に対して約1.2〜2モル当量、より好ましくは1.3〜1.8モル当量、例えば約1.5モル当量使用される。
【0064】
次いで、反応混合物を冷却し、濃縮する。式(III)の化合物である得られる生成物は、通常のワークアップ手順で得ることができ、場合によっては精製してもよい。精製は、例えばメタノールまたはイソプロピルアルコールから結晶化することによって実施することができる。式(III)の化合物は、反応溶媒から直接結晶化することがより好ましい。場合によっては、再結晶してもよい。反応の収率は、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも65%、例えば少なくとも80%である。最大収率は100%である。式(III)の化合物の純度は、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、さらにより好ましくは少なくとも99%、例えば99.5%である。最高純度は100%である。純度は、HPLCを使用して決定することが好ましい。
【0065】
本発明の好ましいプロセスにおいて、式(III)の化合物は、次式:
【0066】
【化21】

【0067】
で示されるものであり、式中、R1は、本明細書で先に定められた通りであり、例えばR1は、C2〜7アルキル、より好ましくはC3〜5アルキル、特にC3アルキル(例えば、n-プロピル)である。
【0068】
式(III)の化合物は、適切な任意の公知の還元反応で還元することができるが、水素化反応(例えば、Parrの容器中でH2を使用、または水素移動)を用いて還元されることが好ましい。例えば、溶媒(例えば、エタノール)中、触媒(例えば、炭素担持パラジウム)を用いて水素圧力下(例えば、H2最高50psi)で、式(III)の化合物を水素化することができる。反応の体積は、好ましくは5〜80L、より好ましくは10〜20Lの範囲、例えば約12Lである。触媒の使用量は、好ましくは10〜60重量%、より好ましくは30〜55重量%の範囲、例えば約50重量%である。反応は、30〜100℃の温度、好ましくは40〜60℃の温度、例えば50℃または65℃で実施することができる。
【0069】
反応の終わりに、その中で使用したいずれの触媒(例えば、パラジウム)も、濾過により除去することができる。次いで、式(IV)の化合物である生成物を、通常のワークアップ手順で単離することができる。式(IV)の化合物を場合によっては精製する。例えば、ヘプタンなどのC1〜8アルカンを用いた洗浄によって、エタノールが除去される。しかし、水素化反応の利点は、クロマトグラフィーおよび/または結晶化による精製を行うことなく、式(IV)の化合物を使用できることである。反応の収率は、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも65%、さらにより好ましくは85%、さらにより好ましくは少なくとも90%である。最大収率は100%である。式(IV)の化合物は、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも99%、例えば少なくとも99.5%の純度で得られる。最高純度は100%である。純度は、HPLCを使用して決定することが好ましい。
【0070】
本発明の好ましいプロセスにおいて、式(IV)の化合物は、次式:
【0071】
【化22】

【0072】
で示されるものであり、式中、R1は、本明細書で先に定められた通りであり、例えばR1は、C2〜7アルキル、より好ましくはC3〜5アルキル、特にC3アルキル(例えば、n-プロピル)である。
【0073】
式(IV)の化合物と式R2M(X)Pの化合物(式中、R2はC1〜8アルキルであり、Mは金属(例えば、アルカリまたはアルカリ土類金属)であり、Xはハライドであり、pは1または0である)を反応させて、式(V)の化合物を生成する。式R2M(X)Pの好ましい化合物において、R2はC1〜3アルキル、より好ましくはC1〜2アルキル、例えばメチルである。
【0074】
式R2M(X)Pの別の好ましい化合物において、Mはマグネシウムまたはリチウム、好ましくはマグネシウムである。MがMgである際には、pは好ましくは1である。Mがリチウムである際には、pは好ましくは0である。Xは存在する際には、Cl、Br、またはIであることが好ましい。式R2M(X)Pの好ましい化合物は、メチルマグネシウムハライド、特にメチルマグネシウムブロミドおよびメチルマグネシウムヨージド、特にメチルマグネシウムブロミドである。
【0075】
式(IV)の化合物と式R2M(X)Pの化合物との反応は、典型的には求核付加反応と呼ばれる。MがMgであり、かつXがハライドである際には、反応はしばしばGrignard付加と呼ばれる。付加反応は、通常のいずれかの溶媒中で実施することができる。好ましい溶媒は、非水性(例えば、無水溶媒)である。好ましい溶媒の例は、エーテル、例えばMTBE、THFまたはジエチルエーテルである。MTBEまたはジエチルエーテルが好ましい。ジエチルエーテルは、特に好ましい溶媒である。式R2M(X)Pの化合物(式中、MはMgであり、XはClであり、pは2である)が使用される際には、THFが特に好ましい。
【0076】
付加反応は、好ましくは20から60℃、より好ましくは30から45℃の範囲、例えば約35℃の温度で実施される。過剰量の式R2M(X)Pの化合物を使用することが好ましい。式(IV)の化合物に対して特に1.2〜4当量、より好ましくは1.5〜3当量の式R2M(X)Pの化合物を使用することが好ましい。
【0077】
式(V)の化合物は、通常の技法を用いて単離することができる。例えば、メタノールを用いて、場合によっては粉末にしてもよい。さらに、または代替として、式(V)の化合物をカラムクロマトグラフィーで精製してもよい。式(V)の化合物は、結晶化することもできる。好ましくは、メタノールを用いて、式(V)の化合物を結晶化する。反応の収率は、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、例えば20〜60%、さらにより好ましくは少なくとも65%である。最大収率は100%である。式(V)の化合物の純度は、好ましくは少なくとも95%、さらにより好ましくは少なくとも99%、例えば少なくとも99.5%である。最高純度は100%である。純度は、HPLCを使用して決定することが好ましい。
【0078】
付加反応によって、式(V)の化合物において19位の炭素に新しい立体中心が生じる。この立体中心の立体配置は、少なくとも部分的にR1およびR2の性質に依存する。したがって、(R)体と(S)体の両方の立体中心が生じる可能性がある。したがって、本発明のプロセスは、式(V)の化合物のラセミ混合物をもたらす可能性がある。それに対応して、本発明は、式(VI)の化合物のラセミ混合物、例えば19-(R)および(S)-ジヒドロエトルフィンを提供する。
【0079】
本発明の好ましいプロセスにおいて、(S)体の立体中心が19位の炭素において生じる。特に好ましいプロセスにおいて、(S)体の立体中心が、19位の炭素に少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、例えば少なくとも95%または少なくとも99%のジアステレオマー過剰率で生じる。したがって、好ましいプロセスにおいては、式(V)の化合物は、(R)-異性体が存在することなく、または実質的に存在することなく得られる。好ましくは、式(V)の化合物には、(R)-異性体が1重量%未満、さらにより好ましくは0.5重量%未満しか含まれていない。
【0080】
本発明の特に好ましいプロセスにおいて、R1はC3〜6アルキル(例えば、プロピル)であり、R2はC1〜2アルキル(例えば、メチル)であり、付加反応で、(S)体の立体中心が、19位の炭素に少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、例えば少なくとも95%または少なくとも99%のジアステレオマー過剰率で生じる。
【0081】
したがって、本発明の好ましいプロセスにおいて、式(V)の化合物は、次式:
【0082】
【化23】

【0083】
で示されるものであり、式中、R1およびR2は本明細書で先に記載された通りであり、例えばR1は、C2〜7アルキル、より好ましくはC3〜5アルキル、特にC3アルキル(例えば、n-プロピル)であり、R2は、C1〜3アルキル、より好ましくはC1〜2アルキル、例えばメチルであり、(*)は、立体中心、好ましくはS体の立体中心を表す。
【0084】
本発明の特に好ましいプロセスにおいて、式(V)の化合物は、
【0085】
【化24】

【0086】
である。
【0087】
前述のように、式(V)の化合物を、場合によっては結晶化させることができる。本発明の好ましいプロセスにおいて、式(V)の化合物を結晶化させる。結晶化プロセスには、任意の通常の溶媒、例えばC1〜4アルコール、水、アセトン、アセトニトリル、DCM、およびMTBEを使用することができる。メタノール、エタノール、水、およびそれらの混合物、特にエタノール/水およびエタノールが好ましい結晶化溶媒である。典型的な結晶化プロセスにおいて、付加反応によって得られた所定量の式(V)の化合物を、選択された溶媒、好ましくはその最小量に溶解し、その溶液を、例えば3〜4日間放置する。結晶化は、-5から5℃、例えば0〜4℃で実施することが好ましい。
【0088】
式(V)の化合物は、アルカリ金属水酸化物を用いて加水分解して、式(VI)の化合物を生成することが好ましい。好ましいアルカリ金属水酸化物はKOHである。加水分解反応において、式(V)の化合物に対して過剰量、例えば10〜40当量過剰量のアルカリ金属水酸化物が使用されることが好ましい。この反応は、通常のいずれかの溶媒中で実施することができる。ジエチレングリコールが好ましい溶媒である。
【0089】
加水分解反応は、150〜220℃、例えば約180〜200℃の範囲の温度で実施されることが好ましい。反応の進行は、通常の技法、例えばTLCで監視することができるが、典型的には10〜20時間、例えば12〜18時間を要する。反応が完了した後、通常の技法を用いて、式(VI)の化合物を単離することができる。式(VI)の化合物を粉末にすることができる。反応の収率は、好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも45%、さらにより好ましくは85%、さらにより好ましくは少なくとも90%である。最大収率は100%である。式(VI)の化合物の純度は、好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%である。最高純度は100%である。純度は、HPLCを使用して決定することが好ましい。
【0090】
式(VI)の化合物は、結晶化することもできる。結晶化での使用に好ましい溶媒はAcCNおよびMTBEである。式(VI)の化合物をC1〜4アルコールおよび/または水、例えばエタノールおよび/またはエタノール/水から結晶化することがより好ましい。
【0091】
好ましい加水分解反応において、式(V)の化合物に存在する立体中心についてそれぞれの立体化学が保持されている。好ましくは、式(VI)の化合物、例えば19-S-ジヒドロエトルフィンは、(R)-異性体が存在することなく、または実質的に存在することなく得られる。(R)-異性体は、好ましくは1重量%未満、より好ましくは0.5重量%未満、さらにより好ましくは0.01重量%未満しか存在しない。
【0092】
したがって、好ましいプロセスにおいて、式(VI)の化合物は、
【0093】
【化25】

【0094】
であり、式中、R1およびR2は本明細書で先に記載された通りであり、例えばR1は、C2〜7アルキル、より好ましくはC3〜5アルキル、特にC3アルキル(例えば、n-プロピル)であり、R2は、C1〜3アルキル、より好ましくはC1〜2アルキル、例えばメチルであり、(*)は、立体中心、好ましくはS体の立体中心を表す。好ましくは、式(VI)の化合物の純度は、例えばHPLCで決定して少なくとも99%である。
【0095】
特に好ましいプロセスにおいて、式(VI)の化合物は、
【0096】
【化26】

【0097】
である。
【0098】
本明細書で先に記載された化合物(V)および(VI)は、当技術分野において周知である技法でそれらの塩および誘導体に変換することができる。好ましい塩は、薬学的に許容される塩である。好ましい誘導体は、薬学的に許容される誘導体である。少量(例えば、<5重量%)で生じることもある誘導体は、6-ヒドロキシ化合物である。これは、加水分解反応によって、6-メトキシ基がさらに加水分解される場合に生成する。6-ヒドロキシ誘導体は、再結晶によって単離することができる。
【0099】
好ましい塩は、本発明の化合物の生物学的有効性および特性を保持し、好適な非毒性の有機酸または無機酸から形成されるものである。酸付加塩が好ましい。塩の代表例としては、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、硝酸などの無機酸に由来するもの、およびp-トルエンスルホン酸、サリチル酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、コハク酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、フマル酸、トリフルオロ酢酸などの有機酸に由来するものが挙げられる。化合物の塩への改変は、化合物の物理的および化学的安定性、吸湿性、流動性、ならびに溶解性の改善が得られる、化学者に周知の技法である。
【0100】
本発明の好ましい化合物は、上述された式(VI)、(V)、(IV)、および(III)の化合物であり、式中、R1は、好ましくはC2〜7アルキル、より好ましくはC3〜5アルキル、特にC3アルキル(例えば、n-プロピル)である。好ましい式(VI)および(V)の化合物では、R2は、C1〜3アルキル、より好ましくはC1〜2アルキル、例えばメチルである。本発明の化合物(VI)および(V)では、19位の炭素の立体中心は(S)である。
【0101】
好ましい式(VI)の化合物は、次式の化合物:
【0102】
【化27】

【0103】
であり、式中、R1およびR2は、本明細書で先に記載された通りであり(例えば、R1は、C2〜7アルキル、より好ましくはC3〜5アルキル、特にC3アルキル(例えば、n-プロピル)であり、R2は、C1〜3アルキル、より好ましくはC1〜2アルキルである)、(*)は(S)体の立体中心を表す。
【0104】
特に好ましい式(VI)の化合物は、次式の化合物である。
【0105】
【化28】

【0106】
本発明の別の好ましい化合物は、式(VI)の化合物の調製における中間体であるものである。よって、本発明の他の好ましい化合物は、式(V-S)の化合物:
【0107】
【化29】

【0108】
であり、式中、R1およびR2は、本明細書で先に記載された通りであり(例えば、R1は、C2〜7アルキル、より好ましくはC3〜5アルキル、特にC3アルキル(例えば、n-プロピル)であり、R2は、C1〜3アルキル、より好ましくはC1〜2アルキルである)、(*)は、(S)体または(R)体の立体中心、好ましくは(S)体の立体中心を表す。
【0109】
特に好ましい式(V)の化合物は、
【0110】
【化30】

【0111】
である。
【0112】
別の好ましい中間体は、以下に示す式(IVa)および(IIIa)の化合物である。
【0113】
【化31】

【0114】
【化32】

【0115】
上述されたように、上記の(IIIa)などの式(III)の化合物は、式(II)の化合物を用いて、ディールス-アルダー反応により生成することができる。この反応は、本発明の別の態様をなす。R1の好ましいものは、本明細書で先に記載された通りである。
【0116】
本発明の化合物には、様々な用途がある。例えば、公知のジヒドロエトルフィン生成物の(R)キラリティーを確認するのに化合物(VI-S)を使用することができる。本発明の化合物のこのような使用は、本明細書で以下に記載する実施例で示される。本発明の化合物(III)および(IV)は、有用な薬学的特性を有することが公知である(R)-ジヒドロエトルフィンの調製においても有用である。
【0117】
さらに、式(VI-S)、(V-S)、(V-R)、(IV)、および(III)の化合物、特に式(VI-S)の化合物は、組成物、好ましくは医薬組成物に組み込むことができる。したがって、本発明は、本明細書で先に記載された本発明の化合物(例えば、式(VI-S)、(V-S)、(V-R)、(IV)、および(III)の化合物、特に(VI-S))および1つまたは複数の薬学的に許容される担体を含む医薬組成物も含む。本発明の化合物、例えば式(VI-S)の化合物は、単独でまたは組成物中で別の活性成分と組み合わせて存在することができる。
【0118】
本発明の組成物、例えば医薬組成物は、通常の任意の形をとることができる。しかし、本発明の組成物は、経皮投与に適した剤形で調製することが好ましい。本発明の代替の好ましい組成物は、非経口投与、例えば静脈内投与に適した剤形で調製される。
【0119】
「経皮」送達は、薬剤が皮膚組織を通過して個体の血流に至るように、本明細書で先に記載された化合物が個体の皮膚表面に投与されることを意味する。「経皮」という用語は、経粘膜投与、すなわち化合物が、粘膜組織を通過して、個体の血流に至るように個体の粘膜(例えば、舌下、頬側、腟内、直腸)表面に投与されることを包含するよう意図されている。
【0120】
本発明の経皮剤形としては、口腔用トローチ剤、スプレー剤、エアゾール剤、クリーム剤、ローション剤、軟膏剤、ゲル剤、液剤、乳剤、懸濁剤、または当業者に公知の他の剤形が挙げられるが、これらに限定されるものではない。口腔内の粘膜組織の治療に適した剤形を洗口剤または口腔ゲル剤として製剤化することができる。さらに、経皮剤形としては、皮膚に適用し、特定の期間着用して、所望量の活性成分の浸透を可能にすることができる「リザーバー型」または「マトリックス型」貼付剤が挙げられる。
【0121】
本発明によって包含される経皮剤形を提供するのに使用することができる好適な添加剤(例えば、キャリアおよび賦形剤)および他の材料は、製剤技術の熟練者に周知のものであり、所与の医薬組成物または剤形が適用される特定の組織によって決まる。そのことを念頭に置いて、典型的な添加剤としては、非毒性で薬学的に許容されるローション剤、チンキ剤、クリーム剤、乳剤、ゲル剤、または軟膏剤を生成するための水、アセトン、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタン-1,3-ジオール、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、鉱油、およびそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。望むなら、保湿剤または湿潤剤も医薬組成物および剤形に添加することができる。このような追加の成分の例は、当技術分野において周知である。
【0122】
治療対象の特定の組織にもよるが、追加の成分は、本発明の化合物を用いた治療の前、それと一緒に、またはその後に使用することができる。例えば、化合物を組織に送達する際に役立つように、浸透増強剤を使用することができる。好適な浸透増強剤としては、アセトン;エタノール、オレイルアルコール、テトラヒドロフリルアルコールなどの様々なアルコール;ジメチルスルホキシドなどのアルキルスルホキシド;ジメチルアセトアミド;ジメチルホルムアミド;ポリエチレングリコール;ポリビニルピロリドンなどのピロリドン;コリドングレード(ポビドン、ポリビドン);尿素;Tween 80(ポリソルベート80)やSpan 60(ソルビタンモノステアラート)などの様々な水溶性または不溶性糖エステルが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0123】
医薬組成物もしくは剤形、または医薬組成物もしくは剤形が適用される組織のpHを、1つまたは複数の活性成分の送達が改善されるように調整することもできる。同様に、溶媒キャリアの極性、そのイオン強度、または張性を、送達が改善されるように調整することができる。ステアラートなどの化合物を医薬組成物または剤形に添加して、送達が改善されるように1つまたは複数の活性成分の親水性または親油性を変更できることも有利である。この点で、ステアラートは、製剤の脂質媒体として、乳化剤または界面活性剤として、かつ送達促進剤または浸透促進剤として機能することができる。活性成分の様々な塩、水和物、または溶媒和物を使用して、得られる組成物の特性をさらに調整することができる。
【0124】
本発明の化合物(例えば、式(VI-S)の化合物)の舌下投与用の口腔ゲル剤は、矯味剤を含めて好適な1つまたは複数の添加剤と化合物を混合することによって調製することができる。本発明の化合物(例えば、式(VI-S)の化合物)の直腸内投与用の坐剤は、カカオバター、サリチラート、ポリエチレングリコールなどの好適な添加剤と化合物を混合することによって調製することができる。腟内投与用の製剤は、活性成分に加えて、当技術分野において公知であるような好適なキャリアを含有する腟坐剤、タンポン、クリーム剤、ゲル剤、パスタ剤、フォーム剤、またはスプレー調合の形とすることができる。
【0125】
局所投与の場合、本発明の化合物を含む医薬組成物は、皮膚、眼、耳、または鼻への投与に適したクリーム剤、軟膏剤、リニメント剤、ローション剤、乳剤、懸濁剤、ゲル剤、液剤、パスタ剤、散剤、スプレー剤、および滴剤の形とすることができる。局所投与は、経皮貼付剤などの手段による経皮投与も含むことができる。この形での送達が特に好ましい。
【0126】
静脈内投与は、本明細書で先に記載された化合物を液剤の形で静脈に直接投与することを意味する。静脈内投与に適した剤形としては、液剤、乳剤、および懸濁剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0127】
したがって、別の態様から見ると、本発明は、静脈内投与される鎮痛剤として使用するための本明細書で先に定義された化合物、特に式(VI-S)の化合物を提供する。
【0128】
典型的には、静脈内投与用の組成物は、無菌の等張性緩衝水溶液を含む。必要なら、組成物は可溶化剤も含むことができる。それらの成分は、別々にまたは一緒に混合して単位剤形として供給することができる。例えば、それらの成分は、気密封止容器、例えば活性剤の量を示すアンプルまたはサッシェ中の乾燥した凍結乾燥粉末または水不含濃縮物として、かつ投与前に混合するための滅菌水または緩衝液のアンプルとして別々に供給することができる。あるいは、組成物は予混合した形で供給してもよい。
【0129】
本発明の化合物(例えば、式(VI-S)の化合物)は、例えば鎮痛をもたらす医薬品で使用することができる。必要とされる化合物の用量は、例えば治療する対象、治療する疼痛の重症度、使用する化合物、投与方法などに依存しているであろうが、当業者によって容易に決定されることになる。
【0130】
したがって、別の態様から見ると、本発明は、疼痛軽減を必要とする対象(例えば、哺乳類)を治療する方法であって、治療有効量の本明細書で先に記載された化合物(例えば、式(VI-S)の化合物)を前記対象に投与するステップを含む方法を提供する。驚くべきことに、フェレットにおける悪心および嘔吐の標準試験で、R-DHEもS-DHEも、以下に記載する試験で使用されるような同様の用量範囲では悪心または嘔吐を誘発しないことも判明した。
【0131】
本発明の化合物は、侵害受容性および神経因性疼痛の治療に特に有用である。
【0132】
次に、本発明を、以下の非限定的実施例および図面に関連して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1a】(R)および(S)-19プロピルジヒドロテビノールの1H NMRスペクトルを示す図である。
【図1b】(R)および(S)-19プロピルジヒドロテビノールの1H NMRスペクトルを示す図である。
【図2】(R)-19プロピルジヒドロテビノールのX線構造を示す図である。
【図3】(R)-19プロピルジヒドロテビノールのX線構造を示す図である。
【図4】(S)-19プロピルジヒドロテビノールのX線構造を示す図である。
【図5】(S)-19プロピルジヒドロテビノールのX線構造を示す図である。
【図6】(R)-ジヒドロエトルフィンのX線構造を示す図である。
【図7】(R)-ジヒドロエトルフィンのX線構造を示す図である。
【図8】(S)-ジヒドロエトルフィンのX線構造を示す図である。
【図9】(S)-ジヒドロエトルフィンのX線構造を示す図である。
【図10】(R)および(S)-ジヒドロエトルフィンに存在するキラル炭素のすべての立体化学を示す図である。
【図11】(R)もしくは(S)DHEまたは基準もしくは比較物質の静脈内投与後の経時曲線を示す図である。
【図12】(R)もしくは(S)DHEまたは基準もしくは比較物質の静脈内投与後の経時曲線を示す図である。
【図13】(R)もしくは(S)DHEまたは基準もしくは比較物質の静脈内投与後の経時曲線を示す図である。
【図14】(R)もしくは(S)DHEまたは基準もしくは比較物質の静脈内投与後の用量反応曲線を示す図である。
【図15】(R)もしくは(S)DHEまたは基準もしくは比較物質の静脈内投与後の用量反応曲線を示す図である。
【図16】(R)もしくは(S)DHEまたは基準もしくは比較物質の静脈内投与後の用量反応曲線を示す図である。
【図17】(R)もしくは(S)DHEまたは基準もしくは比較物質の静脈内投与後の用量反応曲線を示す図である。
【図18】神経因性疼痛の脊髄神経結紮モデルにおける(R)もしくは(S)DHEまたは基準もしくは比較物質の静脈内投与の効果を示す図である。
【図19】神経因性疼痛の脊髄神経結紮モデルにおける(R)もしくは(S)DHEまたは基準もしくは比較物質の静脈内投与の効果を示す図である。
【図20】神経因性疼痛の脊髄神経結紮モデルにおける(R)もしくは(S)DHEまたは基準もしくは比較物質の静脈内投与の効果を示す図である。
【図21】神経因性疼痛の脊髄神経結紮モデルにおける(R)もしくは(S)DHEまたは基準もしくは比較物質の静脈内投与の効果を示す図である。
【図22】神経因性疼痛の脊髄神経結紮モデルにおける(R)もしくは(S)DHEまたは基準もしくは比較物質の静脈内投与の効果を示す図である。
【図23】神経因性疼痛の脊髄神経結紮モデルにおける(R)もしくは(S)DHEまたは基準もしくは比較物質の静脈内投与の効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0134】
(実施例)
(S)-ジヒドロエトルフィンの調製
段階1:ディールス-アルダー反応
【0135】
【化33】

【0136】
方法
テバインを、以下の表で指定する溶媒中ヘキセン-3-オンで処理し、加熱還流した。適切な時間(終夜)の後、反応を冷却し、混合物を蒸発させた。得られた油をイソプロピルアセタート(IPAc)に溶解し、1M 塩酸溶液で洗浄した。酸性の層を合わせ、IPAcで洗浄し、次いで重炭酸ナトリウム溶液で塩基性にし、最後にジクロロメタン(DCM)に抽出した。DCM層を蒸発させて、黄色固体を得た。
【0137】
【表1】

【0138】
エタノールを溶媒として使用して、ワークアップ後の明黄色固体生成物の最終単離収率は70%であり、1H NMRによる品質は非常に良好のようにみえた。
段階2-水素化
【0139】
【化34】

【0140】
方法
炭素担持パラジウム(1g;10%)を使用して、最高50psiの水素圧力下で、段階1の19-プロピルテビノン(4.1g)中間体をエタノール(60ml)中で水素化した。容器の温度は約50℃に維持し、圧力は、水素がさらに取り込まれることが認められなくなるまで50psiに維持した。触媒を濾過し、溶媒を真空蒸留で除去した。単離収率は合計で91%であり、3.8gの生成物が得られた。
【0141】
【表2】

【0142】
段階3-グリニャール付加
【0143】
【化35】

【0144】
方法
19-プロピルジヒドロテビノン(段階2の生成物)を、ジエチルエーテル(35体積)に溶解した。この溶液に、メチルマグネシウムブロミド(92.6モル当量)を5分かけて20〜25℃で添加した(わずかな発熱)。次いで、得られた混合物を、内部温度約40℃に約2時間加熱した後、冷却し、塩化アンモニウム溶液でクエンチした。混合物を2-メチルTHFで抽出し、有機層を真空中で蒸発させて、粘性油を得た。
【0145】
【表3】

【0146】
グリニャール付加の唯一の生成物は(S)-エナンチオマーである。(R)-エナンチオマーは検出されなかった。
【0147】
段階4-(R)および(S)-19-プロピルジヒドロテビノールの結晶化
x線結晶解析用の高品質単結晶を調製するために、一連の実験を多数の溶媒中で実施して、19-プロピルジヒドロテビノールの単結晶を成長させるのに最良の溶媒系を決定した。実験を、以下の表4に要約する。R-エナンチオマーは、代替の方法を使用して調製した。
【0148】
一般に、使用された結晶化方法は以下の通りであった:(段階3で得られた)少量の固体19-プロピルジヒドロテビノールを、最少量をほんの少し超えた溶媒に溶解した。溶液を最高3〜4日間放置し、単結晶を単離するために、溶媒を濾過またはデカンテーションで除去した。
【0149】
【表4】

【0150】
各ジアステレオマーについて、1H NMRスペクトルを図1に示す。
【0151】
段階5-(S)-19-プロピルジヒドロテビノールの加水分解
【0152】
【化36】

【0153】
方法
(段階3の)(S)-19-プロピルジヒドロテビノールをジエチレングリコール(17体積)に溶解し、水酸化カリウム(約20当量)で処理し、12〜18時間約195℃に加熱した。こうした時間の後、反応混合物を室温に冷却し、水(40体積)中にクエンチした。得られた溶液を、固体の塩化アンモニウムでpH 9〜10に酸性化し、混合物をDCM(3回×50体積)で抽出した。有機抽出物を合わせ、真空中で蒸発させて、粗製油(純度約40%)を得た。メタノール中で粉末にすることを、黄色固体が良好な純度(>95%)で形成および単離されるまで繰り返して、純度を上げた。
【0154】
生成物をいくつかの溶媒から再結晶させ、結晶をアセトニトリルから得た。これらをX線結晶学的研究に使用した。
【0155】
類似した反応で、R-エナンチオマーを得た。
【0156】
X線結晶解析研究
X線結晶解析実験はすべて、Oxford Xcalibur単結晶回折計またはNonius Kappa回折計で実施した。両装置とも、モリブデンKαX線源およびCCD検出器を使用するものであった。
【0157】
(R)および(S)19-プロピルジヒドロテビノール
(R)と(S)の両方の19-プロピルジヒドロテビノールについて、いくつかのバッチをX線結晶解析に供した。
【0158】
X線構造を図2〜5に示す。
【0159】
図2および3は、(R)-19-プロピルジヒドロテビノールのX線構造を示す。X線構造から、19位の炭素において、(R)-立体配置を有することが明確にわかる。これは、出発物質テバインに由来する(R)-立体配置を保持するキラルメチルエーテルに帰することができる。
【0160】
さらに、水素原子が見えている図3から、7位の水素が(フラン環の隣の)5位の水素と同じ面に存在し、立体配置は(R)となることがわかる。
【0161】
ここで、このようにして、キラル炭素のすべてに帰属を与え、図10に示す。
【0162】
【表5】

【0163】
図4および5は、(S)-19-プロピルジヒドロテビノールのX線構造を示す。
【0164】
図4から、19位の炭素において、図3に示す結晶と反対の立体化学である(S)-立体配置を有することが明確にわかる。これは、出発物質テバインに由来する(R)-立体配置を保持するキラルメチルエーテルに帰することができる。
【0165】
さらに、7位の炭素上の水素(図5に示す)は、この炭素における立体配置も、第1のジアステレオマーと同様に(R)であることを示す。
【0166】
したがって、今回、2つの化合物間のX線結晶解析による唯一の差異は、19位の炭素における立体配置であると結論付けても差し支えない。
【0167】
【表6】

【0168】
(R)および(S)-ジヒドロエトルフィン
X線構造を図6〜9に示す。
【0169】
図6および7は、(R)-ジヒドロエトルフィンのX線構造を示す。これらの図面から、19位の炭素において(R)立体配置を有することが明確にわかる。これは、元の出発物質テバインに由来する(R)-立体配置を保持するキラルメチルエーテルに帰することができる。
【0170】
【表7】

【0171】
図8および9は、(S)-ジヒドロエトルフィンのX線構造を示す。これらの図面から、19位の炭素において(S)立体配置を有することが明確にわかる。これは、元の出発物質テバインに由来する(R)-立体配置を保持するキラルメチルエーテルに帰することができる。
【0172】
さらに、7位の炭素上の水素(図9に示す)は、この炭素における立体配置も、第1のジアステレオマーと同様に(R)であることを示す。
【0173】
したがって、2つの化合物間のX線結晶解析による唯一の差異は、19位の炭素における立体配置であると結論付けることができる。
【0174】
【表8】

【0175】
プロセスの最適化
以下の方法および機器を使用した。
方法38XBおよびUFC-LC-MUN-1は、Xbridge C18カラムと、アセトニトリルおよび0.01M酢酸アンモニウム(pH 9.2)からなる移動相を使用する逆相グラジエントHPLC手順である。
Bruker Avance 400MHz分光計を使用して、NMRを実施した。
ZMD Micromass質量分析計を使用して、MSを実施した。
Agilent 1100 HPLCシステムを使用して、LCを実施した。
【0176】
段階1:ディールス-アルダー反応
【0177】
【化37】

【0178】
初期の使用方法は上述の通りであった。主な汚染物質は、以下に示す7β-異性体であると同定された。
【0179】
【化38】

【0180】
その後、1-ヘキセン-3-オンの投入量を2.8当量から1.8当量に低減することによって、20-α-エチルテビノンの純度と回収率とを共に改善できることが発見された(Table 10(表9))。1-ヘキセン-3-オンを1.5当量(1.4当量と0.1当量の2回に分けて添加)使用し、反応完了時に、0.5体積の溶媒を留去することによって、さらに改善された。得られた溶液を冷却すると、生成物が固体として沈降し(1時間熟成)、濾過した。
【0181】
手順:オーバーヘッドスターラおよび還流冷却器を備えた1L(3ツ口)フラスコに、次のテバイン(0.32M、100g、1当量)、EtOH(250mL)、および1-ヘキセン-3-オン(90%、0.45M、58mL、1.4当量)を加えた。混合物を13時間加熱還流し、1H NMRで分析し、出発物質(約4.5モル%)を含むことがわかった。1-ヘキセン-3-オンを0.1当量追加し、混合物をさらに2時間加熱した後、室温で終夜撹拌した。分析によって、出発物質(約2.8モル%)が示された。材料を丸底フラスコ(500mL)(EtOH20mLでフラスコを洗浄)に移した。EtOH(約65mL)を真空中50℃で除去し、得られた沈降固体を5℃で1時間撹拌した後、濾過した。固体を氷冷EtOH(4回×20mL)で洗浄し、フィルター上で約1.5時間吸引して乾燥させた。白色固体(105.4g、80%)。
【0182】
【表9】

【0183】
分析方法および工程間検査(IPC)
IPCのため、実験室での作業時に、1H NMR(400MHz)に加えて、HPLC方法38XBを使用した。
【0184】
1H NMRでδ5.05ppmおよび5.3ppm(CDCl3)におけるシグナルに基づいて、出発物質が<5モル%しか残存していなければ、反応は完了したとみなした。
【0185】
純度の確認およびLC-MSには、作業方法UFC-LC-MUN-1を分析実験室で使用した。
【0186】
TLC(5%MeOH/95%DCM)ヨードプラチナート染色:テバインRf=0.25、(7α)-20-エチルテビノンRf=0.66。
【0187】
【表10】

【0188】
1H NMR(CDCl3; 400MHz);δ=0.80(3H, t)、1.4(1H, m)、1.6(3H,六重線)、1.9(1H, d)、2.0(1H, br)、2.4〜2.6(8H, m)、2.9(2H, br)、3.35(2H, d)、3.6(3H, s)、3.85(3H,s)、4.6(1H, s)、5.6(1H, d)、6.0(1H, d)、6.55(1H, d)、6.7(1H, d)
13C NMR(CDCl3; 75MHz);δ=13.71、16.89、22.49、30.25、43.26、43.51、45.57、45.72、47.40、49.94、53.78、56.68、60.06、81.52、95.84、113.61、119.36、125.89、134.07、135.53、141.87、148.07
MS;[M+H]+=410.3
LC; >99.5%純度
TLC; 5:95;MeOH:DCM;単一スポットrf=0.66
【0189】
最適化プロセスの利点
収率が80%に増大。
1-ヘキセン-3-オンの量を1.5当量に低減させたが、変換率または収率は低下しなかった。
1-ヘキセン-3-オンの当量を低減することによって、単離を改善(反応溶媒から直接結晶化)することができ、非常に高い純度の物質が得られる。
容積効率が非常に高い(全体で最大約4体積)。
(HPLCによる)純度が>99%に改善した。
IPCから、1H NMRによる変換率>97%(テバイン<3%)で完了したことがわかる。
【0190】
段階2:水素化
【0191】
【化39】

【0192】
水素化段階の開発作業の結果を、以下のTable 11(表11)に概説する。反応は、触媒添加および反応温度の点から「強調」されてきた。さらに、反応体積を17体積から12体積に低減することによって、生成物の品質および生成物の単離が改善された。
【0193】
興味深いことに、出発物質と生成物は共に、1〜2時間にわたって約80℃まで熱的に安定であり、反応時に、反応温度を高くすることが可能になり、出発物質と生成物の溶解性が増大する。この場合、溶解性は良好な反応性の鍵であることが明らかになり、スケールアップ時にはより高い温度を使用して、反応の完了を実現した。
【0194】
最終のスケールアップ反応において、温度は、初期の反応容器加熱中に「正常」範囲を超えて上昇し、高速反応が観察された(水素取り込み)。温度を55℃に下げると、反応は大幅に減速し、触媒をさらに追加し、温度を約65℃まで上げるとようやく、反応が完了した。
【0195】
生成物の単離は、反応混合物を77℃に温め、非還流温度を生じさせ、次いで触媒を反応混合物から濾別することにより単純化した。得られた溶液は、最初に蒸留により体積を縮小したが、溶液を氷浴中で冷却できることが明らかになり、結晶化した固体を濾過することにより、高純度の材料が良好な収率(72%)で単離された。
【0196】
手順:20-エチルテビノン(0.244M、100g)を、2LのParr水素化容器に加えた。10%Pd/C(50%ウェット品、10g)をEtOH(200mL)中でスラリーにし、水素化容器に加えた。EtOH(1L)を容器に加え、容器をシールし、不活性ガスのアルゴンを充填した(4回)。容器に水素を50psiになるまで補充し(2回)、最後に50psiのままに放置した。温度を35℃に設定した。内部温度は82℃でピークとなり、終夜放冷して室温に戻した(ポット発熱)。容器にH2を補充し、サンプリングし、LCで分析して、完了していないことがわかった。容器を内部温度55〜65℃に加熱し、反応進行をLCで追跡した。水素圧力は、周期的補充によって一貫して50psiに維持した。24時間後、追加の触媒(5g)を充填し、反応を継続した。さらに16時間後、LCおよび1H NMRにより、反応は完了した。内部温度を68℃に上げ、混合物を3Lの丸底フラスコに真空下で移送した。Parr容器を熱EtOH(200mL)で洗い流し、洗液を丸底フラスコに移送した。混合物を77℃に加熱した後、濾過した(GF/F紙)。触媒床を熱EtOH(1回×300mL)で洗浄し、濾液を室温まで放冷した。濾液を氷水浴中で50分間冷却した後、濾過した。回収された固体を氷冷EtOH(1回×100mL)、ヘプタン(1回×300mL)で洗浄し、1.5時間吸引して乾燥させた。白色固体(72g、72%)。
【0197】
【表11】

【0198】
分析方法および工程間検査
IPCのため、実験室での作業時に、1H NMR(400MHz)に加えて、HPLC方法38XBを使用した。反応進行をLC分析で追跡した。100gスケールで実施された反応では、20-エチルテビノンは認められず、96%の20-エチルジヒドロテビノンが示された。
【0199】
純度の確認およびLC-MSには、100gスケールの反応による作業方法生成物を分析実験室で使用した。
【0200】
【表12】

【0201】
分析
1H NMR(CDCl3, 400MHz);δ=0.75(1H, t,t)、0.9(1H, t)、1.35(1H, t,d)、1.5〜1.75(7H, m)、2.1(1H, t,d)、2.3(5H, m)、2.5(2H, q)、2.6〜2.7(3H, m)、3.0(1H,q, t)、3.1(1H,d)、3.5(3H,s)、3.9(3H, s)、4.5(1H, d)、6.6(1H, d)、6.7(1H, d)。
13C NMR(CDCl3, 75MHz);δ=13.73、16.99、17.31、21.98、28.67、30.70、35.17、35.66、43.51、45.24、45.78、48.28、48.91、52.26、56.76、61.35、94.96、114.01、119.16、128.71、132.47、141.76、146.80
LC; >99%
残存溶媒(1H NMRによる); 残存エタノールはなし
【0202】
最適化プロセスの利点
反応体積を17体積から12体積に低減することによって、生成物が直接結晶化することが可能になる。
純度>99%の生成物が収率72%で単離された。
約65℃の温度が、溶解性および反応性に最適と思われるはずである。
フィルター床上の固体を乾燥し、ヘプタンで洗浄することによって、エタノールの痕跡が、次の段階にすぐに使える許容できるレベルに除去される。
【0203】
段階3および4:グリニャール反応および結晶化
【0204】
【化40】

【0205】
作業の結果を以下のTable 12(表13)に要約する。様々なエーテル系溶媒を調査した。ジエチルエーテルとMTBEの差は比較的小さいことがわかったが、ジエチルエーテルが最高の品質の物質をもたらした。
【0206】
一般に、グリニャール反応によって得られた粗製物質には、主に2つの不純物が含まれていた(それぞれ約10%、LC-MS)。不純物は共に、生成物と同じ質量([M+H]+=428.4)を有する。2つの不純物の一方は、暫定的に構造異性体として割り当てられるが、これは、過剰のグリニャール試薬の20-エチルジヒドロテビノンに対する閉環開環反応に起因するものである。
【0207】
【化41】

【0208】
もう一方の不純物は、生成物と同様の保持時間(LC-MS)を有するものであるが、ジアステレオマーの(R)-19-プロピルジヒドロテビノールであると思われる。
【0209】
【化42】

【0210】
不純物は両方共、メタノールを用いた再結晶により効率的に除去される。
【0211】
ジエチルエーテルを用いて、反応温度の役割を調査したところ、反応プロファイルは、反応進行と不純物(LC分析)の両方の点から、室温と還流温度において類似していることが明らかになった。
【0212】
したがって、反応において顕著に純度の差が認められたのは、異なる精製手順(マグネチックスターラを用い、油浴および還流冷却器を使用した再結晶、またはメタノールを用いて、ロータリーエバポレーターでの回転による粉末化)に起因するものと考えられる。
【0213】
メチルマグネシウムヨージドも利用され、ブロミドと類似の結果をもたらした。
【0214】
手順:20-エチルジヒドロテビノン(0.073M、30g)を無水ジエチルエーテル(1050mL;35体積)に溶解した(曇った溶液)。内部温度を28℃未満に維持しながら、メチルマグネシウムブロミド(0.189M、63mL)を1時間かけて滴下した。得られた白色懸濁液を5時間加熱還流し、室温に冷却し、窒素雰囲気中で終夜撹拌した。一定分量(約0.3mL)を採取し、飽和NH4Cl(約1.0mL)でクエンチし、LCで分析した(一定分量の上層をMeCN(約1mL)で希釈)。出発物質のレベルが5%未満になるまで反応を継続した。内部温度を30℃未満に維持しながら、飽和NH4Cl(138mL)を反応混合物に添加することにより、反応をクエンチした。混合物を相分離し、水相をジエチルエーテル(1回×200mL)で抽出し、有機相を合わせて、乾燥した(MgSO4)。溶液を真空中で濃縮して、粘性油(33.4g)を得た。MeOH(100mL)を添加し、混合物を浴温60℃に加熱した後、室温に冷却した。固体を濾過し、氷冷MeOH(3回×25mL)で洗浄し、ヘプタン(1回×25mL)で洗浄し、吸引して乾燥させた。白色固体(21g、68%)
【0215】
【表13】

【0216】
分析方法および工程間検査
実験室での作業時に、1H NMR(400MHz)に加えて、HPLC方法38XBを使用した。反応の一定分量を(飽和NH4Clで)クエンチして、LC分析することにより、反応を追跡した:20-エチルジヒドロテビノール<2.0%および(S)-19-プロピルジヒドロテビノール71%。
純度の確認およびLC-MSには、作業方法UFC-LC-MUN-1を分析実験室で使用した。
【0217】
【表14】

【0218】
1H NMR(CDCl3, 400MHz);δ=0.75(1H, m)、0.85(3H, t)、0.95〜1.1(6H, m)、1.3(1H, m)、1.5〜1.7(7H,m)、1.8(1H,t)、2.0(1H, t,d)、2.1〜2.4(6H, m)、2.6(1H,d)、2.7(1H, t,d)、3.0(1H, d)、3.5(3H, s)、3.8(3H, s)、4.3(1H, s)、4.7(1H, s)、6.5(1H, d)、6.7(1H, d)
13C NMR(CDCl3, 75MHz);δ=15.12、16.96、18.04、21.91、25.55、29.88、31.99、35.53、36.05、38.97、43.53、45.17、46.19、49.09、50.77、52.72、56.93、61.32、80.34、97.05、114.21、119.06、128.84、132.48、141.63、146.97
LC; >99%
【0219】
最適化プロセスの利点
ジエチルエーテルが、最も清浄な粗生成物を生じるようであるが、反応は様々なエーテル系溶媒中で行われる。
【0220】
メタノールからの再結晶に続いて、優れた純度の材料が得られる。
【0221】
段階5:加水分解
【0222】
【化43】

【0223】
著しい変更をすることなく、反応を実行した(Table 13(表15))。再結晶は、エタノール/水の混合物、次いでエタノールから実施した。
【0224】
手順:(S)-DHE(10g)をEtOH(60mL)に添加し、溶解するまで加熱還流した。水(32mL)によって、濁った溶液が形成され、約2時間かけて室温まで放冷した。白色固体を濾過で回収した。(4.26g、回収率42重量%)。純度98%。総重量収率(%)=45%
【0225】
【表15】

【0226】
分析方法および工程間検査
IPCのため、実験室での作業時に、1H NMR(400MHz)に加えて、HPLC方法38XBを使用した。反応をLC分析により追跡し、(S)-19-プロピルジヒドロテビノールが残存していなければクエンチした。反応は92%完了した。
【0227】
純度の確認およびLC-MSには、作業方法UFC-LC-MUN-1を分析実験室で使用した。
【0228】
【表16】

【0229】
1H NMR(CDCl3, 400MHz);δ=0.7(1H, m)、0.8(3H,t)、1.0〜1.1(5H, m)、1.3(1H, m)、1.5〜1.8(6H, m)、1.85(1H, t)、1.95(1H, t,d)、2.1〜2.3(5H, m)、2.6(1H, d)、2.7(1H, t)、3.0(1H, d)、3.5(3H, s)、4.3(1H, s)、4.8(1H, s)、6.0(1H, br)、6.4(1H, d)、6.7(1H, d)
13C NMR(CDCl3, 75MHz);δ=15.10、16.95、18.00、21.99、25.37、29.82、31.96、35.43、36.15、38.93、43.51、45.22、46.50、49.04、52.72、61.33、80.42、97.38、116.61、119.46、127.92、132.07、137.56、145.67
LC; 98.8%
キラルLC;99.44%(S)-DHE, 0.554(R)-DHE
【0230】
最適化プロセスの利点
反応から得られた粗製物質の純度が95%に著しく改善。
メタノールを用いた粉末化の排除-物質は、エタノール/水およびエタノールから再結晶した。
【0231】
段階6:再結晶
【0232】
【化44】

【0233】
含水率が約35%(全体積9.2体積)に増大すると、白色固体が形成した。その後、エタノールおよびエタノール/水の混合物から再結晶すると、物質の純度が改善された(Table 14(表17))。
【0234】
手順:
(1)(S)-DHE(3.0g)をEtOH(10mL)に添加し、懸濁液を加熱還流すると、橙色溶液が生じた。溶液を室温まで16時間かけて放冷した。得られた白色固体を濾過で回収した(2.1g、70重量%)。純度>99%。
(2)(S)-DHE(1.8g)をEtOH(7mL)に添加し、混合物を溶液になるまで加熱還流した。水(2mL)を添加し、濁った溶液を室温まで2時間かけて放冷した。得られた白色固体を濾過で回収した(1.29g、72重量%)。
【0235】
【表17】

【0236】
分析方法および工程間検査
IPCのため、実験室での作業時に、1H NMR(400MHz)に加えて、HPLC方法38XBを使用した。
【0237】
純度の確認およびLC-MSには、作業方法UFC-LC-MUN-1を分析実験室で使用した。キラル純度の確認には、方法UFC-LC-MUN-2を分析実験室で使用した。
【0238】
【表18】

【0239】
最適化プロセスの利点
エタノール/水またはエタノールからの再結晶によって、総純度がよく、(R)-DHEが<0.02%である物質が生じる。
【0240】
疼痛治療における(R)および(S)ジヒドロエトルフィンの使用
ラットにおいて侵害受容のテールフリックテストでの(R)および(S)-ジヒドロエトルフィンの効果
使用されるテストモデルは、当技術分野において周知であり、J.Pharmacol Exp Ther、1941、72、74〜79頁(D'Amourら、A method for determining loss of pain sensation)に記載されている。
【0241】
この試験の目的は、ラットにおいて痛覚に及ぼす効果を検出するように設計されたテールフリックテストで、ジヒドロエトルフィンのR-およびS-異性体(R-DHEおよびS-DHE)の潜在的鎮痛効果を0.1、0.3および0.5μg/kg(R-DHE)および3、10および30μg/kg(S-DHE)の用量で評価することであった。モルヒネ塩酸塩を基準物質として使用し、クエン酸フェンタニルを比較物質として使用した。
【0242】
被験物質および材料
被験物質、基準物質、および媒体
被験物質:ジヒドロエトルフィン(R-DHE無色液体、遊離塩基として使用)およびジヒドロエトルフィン(S-DHE液体;遊離塩基として使用)
被験物質用の媒体:クエン酸緩衝液(クエン酸一水和物:クエン酸ナトリウム:塩化ナトリウム:灌注用水=0.03:0.10:0.86:90.01(g:g:g:mL)の比)[クエン酸一水和物(白色粉末、Sigma、UK)、クエン酸ナトリウム(Sigma、UK)、塩化ナトリウム(白色固体;Merck)、滅菌灌注用水(透明液体;Baxter Healthcare、UK)]
基準物質:モルヒネ塩酸塩(白色粉末;Macfarlan Smith、Edinburgh、UK)
比較物質:クエン酸フェンタニル(白色粉末;Sigma、UK)
【0243】
被験物質、基準物質、および比較物質の貯蔵
被験物質は室温で貯蔵し、光から保護し、基準物質および比較物質は室温で貯蔵した。
投与経路および用量レベル
【0244】
DHEのR-異性体およびS-異性体ならびに媒体の投与経路は静脈内投与であった。ヒトにおいて利用可能な投与経路は静脈内投与である。R-DHEの用量は、0.1、0.3および0.5μg/kgであった。S-DHEの用量は、3、10および30μg/kgであった。モルヒネの用量は5mg/kgであった。モルヒネの投与経路は静脈内投与であった。
【0245】
フェンタニルの用量は、0.5、2および6μg/kgであった。フェンタニルの投与経路は静脈内投与であった。
【0246】
動物
種:ラット
系統:Sprague-Dawley
性別:雄性
動物数:動物111匹を試験に割付けた;残りの動物9匹をストックに戻した。
年齢範囲:9から11週齢(平均体重に基づく)
体重範囲:198から258g
馴化:輸送後、試験調査開始の6日前
供給業者:Harlan UK Ltd
【0247】
動物の個体識別および無作為化
各動物に、唯一の個体識別番号を任意に割付け、データシートおよびケージカードに記入した。個体識別は、動物の尾に耐水性マークを施すことによって行った。
【0248】
動物の健康と福祉
試験はすべて、動物(科学的処置)法1986(Animals(ScientificProcedures)Act 1986)に基づく法律、英国内務省の動物(科学的処置)法1986施行ガイダンス、ならびに実験動物の飼育に関するすべての適用可能な実施規約に従って実施された。この試験において採用された処置は、処置番号213Nに網羅されているものであり、中等度の苦痛に制限される。
【0249】
収容および環境
動物は、おがくずを敷いた平底ケージに5匹までの群単位で収容した。馴化中に、部屋およびケージは、一定の間隔をおいて清浄して、衛生状態を維持した。部屋は、英国内務省の動物(科学的処置)法1986で推奨されているように、12時間の明暗サイクル(07.00点灯、19.00消灯)が得られるように設定された蛍光灯によって照明した。部屋を空調し、空気温度および相対湿度を測定した。馴化期間中、室温(19℃〜22℃の範囲)を維持し、湿度レベルは22%〜44%の範囲内とした。処置期間中の室温(20℃〜21℃の範囲)を維持し、湿度レベルは22%〜26%の範囲内とした。
【0250】
飼料および水
RM1(E)SQCの飼料(Special Diets Services、Witham、UK)および水道水を自由摂取させた。飼料は、各バッチに栄養組成および指定汚染物質(例えば、重金属、アフラトキシンおよび殺虫剤)のレベルを詳述する分析証明書が添付されて輸送された。水については、不純物および汚染物質を定期的に分析した。保存飼料および給水において汚染物質の許容レベルの基準は、それぞれ飼料製造業者および水分析サービスによって確立された分析規格内であった。
【0251】
健康状態
動物は、到着時および試験前に検査した;動物はすべて、健常であり、動物実験に適していると考えられた。
【0252】
実験計画
被験物質、基準物質、および比較物質の製剤化
クエン酸緩衝液は、適量の各成分を正確に計量し、それらを滅菌灌注用水に溶解することによって調製した。成分が完全に溶解すると、溶液の重量オスモル濃度およびpHを測定した。媒体は、pHが5.01であり(pH 4.8〜5.2の範囲内である)、重量オスモル濃度が296mOsmol/kgである(280〜300mOsmol/kgの範囲の間である)ので許容できるとみなされた。次いで、媒体を、最後に無菌条件下でMillex GV stericupに通して濾過し、使用するまで2℃〜8℃で貯蔵した。
【0253】
被験物質であるDHE(R-異性体およびS-異性体)の投与にあたっては、クエン酸緩衝液中の液剤として製剤化した。投与するのに望ましい濃度(R-DHEの場合0.02、0.06および0.10μg/mL、S-DHEの場合0.6、2および6μg/mL)は、おおよそ20μg/mLの濃度で用意された適切なストック溶液を段階希釈することによって実現した。ストック溶液を、Millex GV 0.22μm Durapore無菌フィルターユニットに通してガラスバイアルに入れ、無菌のクエン酸緩衝液を用いたその後の希釈はそれぞれ、無菌操作で行われた。製剤は、(R)DHEについて公知の安定性期間内で調製し、投与に必要とされるまで約4℃で冷蔵貯蔵した。
【0254】
基準物質であるモルヒネ塩酸塩の投与にあたっては、既知量をクエン酸緩衝液に溶解して、1mg/mLの液剤を生成することによって製剤化した。補正係数1.32を適用すると、モルヒネの用量を遊離塩基として表すことが可能になった。液剤は新たに調製し、光から保護した。
【0255】
比較物質であるクエン酸フェンタニルの投与にあたっては、既知量をクエン酸緩衝液に溶解して、ストック溶液の濃度を0.36mg/mLとすることによって製剤化した。次いで、このストック溶液をクエン酸緩衝液で連続的に希釈して、最終濃度を0.1、0.4、および1.2μg/mLとした。補正係数1.57を適用すると、フェンタニルの用量を遊離塩基として表すことが可能になった。液剤は新たに調製し、光から保護した。
【0256】
群の大きさ、用量、および識別番号
処置群は、1群10匹までのラットとして、11群をおいた。処置群にはそれぞれ、文字(A〜K)を付与した。テールフリックテストの投与前基礎値に基づいて、ラットを、投与前日に処置群に無作為に割付けた(下記を参照のこと)。
【0257】
【表19】

【0258】
媒体はクエン酸緩衝液であった。動物に対し、Becton Dickinson 25G(0.5×16mm)針付きポリプロピレン注射器を用いて、投与量5mL/kgで尾静脈に静脈内投与した。5mL/kgの全量を、2分±10秒の間隔にわたってできる限り一定の速度で送達した。ゆっくりボーラス投与した開始時刻と停止時刻を記録した。投与時間を生データに記録した。
【0259】
処置の盲検化
観察者に処置群のアイデンティティが知られないように、投与液剤を符号化した(A〜K)。
【0260】
体重
動物を試験前に計量し、物質の投与と同日に体重を記録した。
【0261】
処置
1. 馴化
行動実験に先立って1度は、各動物に、ルーチンのハンドリングおよび行動実験環境への馴化を施した。
【0262】
2. ベースライン期の行動実験
ラットを、実験1日前に処置部屋に移した。次いで、ラットを、処置部屋で収容し、投与し、観察した。投与前に、すべてのラットにテールフリックテストを3回に分けて実施して(下記を参照のこと)、基礎値を確立した。投与前基礎値を、最終回の試験の示度とした(第1回および第2回の試験によるデータは含まれていないが、馴化の一部分として分類された)。
【0263】
テールフリックテスト:テールフリック装置(Ugo Basile、Italy)の表面にラットを1匹ずつ、その尾が赤外線源の真上に位置するように軽く保持した。次いで、赤外線源を、尾の腹側表面の小領域に適用した。赤外線源の始動は、同時にタイマーを始動し、これによって、尾を偏向する(退避するまたは振り動かす)のにかかる時間が自記された。テールフリック潜時は、各動物について記載された。赤外強度はIR50にて設定され、IR源への最長曝露時間は10秒であった。したがって、非応答動物を退避潜時10秒と割り当てた。
【0264】
3. 群の割付けおよび除外基準
テールフリックテストの投与前基礎値に基づいて、動物を、投与前日に処置群(A〜K)に無作為に割付けた。
【0265】
4. 投与および行動実験
この試験では、動物を絶食させなかった。投与(投与開始に対して)約5、10、20、30、60、および120分後、テールフリックテストを実施して、処置効果を調査した。
【0266】
5. 致死
処置群に割付けされなかった動物はいずれも、試験の終わりに頚椎脱臼により致死させた。残りの動物は、最終の試験期間の終わりにストックに戻した。
【0267】
統計分析
DHE(R-異性体およびS-異性体)群、モルヒネ群、フェンタニル群と媒体群との間で、パラメトリックまたはノンパラメトリック統計処理法を用いて統計的比較を行った。パラメトリック(一元配置分散分析(ANOVA)、ダンネットのt検定)またはノンパラメトリック(クラスカル-ウォリスの統計量、ダンの検定、およびマン-ホイットニーのU検定)統計処理法の選択は、比較対象の群が、等分散性基準(ルービンの平均検定またはF検定により評価)を満足するかどうかに基づいて行われた。P<0.05の際、統計的有意であると想定された。
【0268】
さらに、データを%MPE(最大可能性効果)に変換した。これは、100×(試験-対照)/(カットオフ-対照)と定義されるものであり、「対照」は媒体群測定値であり、「試験」は投与後測定値であり、「カットオフ」は刺激の最大許容時間(テールフリックの場合10秒)であった。DHEの各異性体(R-異性体およびS-異性体)およびフェンタニルの用量反応曲線を、最初の4測定時点について作製し、ED50(50%MPE用量)を算出した。log10(用量×103)について、非線形回帰(最適合直線)シグモイド用量反応で分析を行った。投与後のデータは、60分および120分の時点でベースラインに戻っていたので、これらのデータに関して計算の必要はなかった。
【0269】
結果
テールフリック退避潜時について、群平均値±平均値の標準誤差のデータをTable 15(表20)に要約する。R-DHE、S-DHE、およびフェンタニルについて算出されたED50値を比較して、それらの相対効力を推定した(Table 16(表21))。時間経過グラフプロットを図11から図13に提示し、ED50(50%MPE用量)用量反応曲線およびデータを図14から図17に提示する。
【0270】
【表20】

【0271】
ジヒドロエトルフィン(R-DHE)のテールフリック退避潜時に及ぼす効果(図11)
R-DHEを1回0.1μg/kgで静脈内投与すると、投与5分後におけるテールフリック潜時(7.9±0.7秒;P<0.05;ANOVAおよびダンネットのt検定)が、媒体群データ(5.2±0.6秒)に比べて有意に増大した。R-DHEを1回0.3μg/kgで静脈内投与すると、投与5分および10分後におけるテールフリック退避潜時(それぞれ、9.2±0.5秒;P<0.01;ANOVAおよびダンネットのt検定;7.7±0.7秒;P<0.05;クラスカル-ウォリスおよびダンの検定)が、媒体群データ(それぞれ、5.2±0.6および5.0±0.2秒)に比べて有意に増大したが、他のいずれの時点においても効果がなかった。R-DHEを1回0.5μg/kgで静脈内投与すると、投与5分、10分、20分、および30分後におけるテールフリック退避潜時(それぞれ、9.4±0.6秒;P<0.01;ANOVAおよびダンネットのt検定;9.7±0.3秒;P<0.001;8.8±0.5秒;P<0.01;8.2±0.8秒;P<0.05;すべてクラスカル-ウォリスおよびダンの検定)が、媒体群データ(それぞれ5.2±0.6秒、5.0±0.2秒、5.1±0.2秒、および4.9±0.4秒)に比べて有意に増大した。0.5μg/kg群において、投与60分後におけるテールフリック潜時が有意に低減したことが観察されたが、薬理学的に重要であるとは考えられない。投与120分後、効果は認められなかった。これらのデータは、鎮痛作用が直ちに発現し、投与約5分および10分後にピーク効果に達し、投与60分後時点までに基礎値(媒体対照に匹敵する)に戻ることを示している。
【0272】
R-DHEのED50の推定値、すなわち50%MPEは、投与5分、10分、20分、および30分後においてそれぞれ0.08、0.23、0.25、および0.42μg/kgであった。投与60分および120分後時点において、用量反応はなかった。
【0273】
ジヒドロエトルフィン(S-DHE)のテールフリック退避潜時に及ぼす効果(図12)
S-DHEを1回3μg/kgで静脈内投与すると、いずれの試験時点においても、媒体群データに比べて有意にはテールフリック退避潜時に影響を及ぼさなかった。S-DHEを1回10μg/kgで静脈内投与すると、投与5分および10分後におけるテールフリック退避潜時(それぞれ、9.7±0.3秒および9.3±0.3秒;共に、P<0.01;クラスカル-ウォリスおよびダンの検定)が、媒体群データ(それぞれ、5.2±0.6秒および5.0±0.2秒)に比べて有意に増大した。投与60分後におけるテールフリック退避潜時が有意に低減したことが観察されたが、薬理学的に重要であるとは考えられなかった。S-DHEを1回30μg/kgで静脈内投与すると、投与5分、10分、20分、および30分後におけるテールフリック退避潜時(それぞれ、10.0±0.0秒;P<0.001;9.2±0.8秒;P<0.01;9.1±0.6秒;P<0.001;クラスカル-ウォリスおよびダンの検定および8.3±0.7秒;P<0.01;ANOVAおよびダンネットのt検定)が、媒体群データ(それぞれ、5.2±0.6秒、5.0±0.2秒、5.1±0.2秒、および4.9±0.4秒)に比べて有意に増大した。これらのデータは、鎮痛作用が直ちに発現し、投与5分後時点でピーク効果に達し、投与60分後時点までに基礎値(媒体対照に匹敵する)に戻ることを示している。
【0274】
DHE(S-異性体)のED50の推定値、すなわち50%MPEは、投与5分、10分、20分、および30分後においてそれぞれ2.17、3.80、7.52、および20.95μg/kgであった。投与60分および120分後時点において、用量反応はなかった。
【0275】
フェンタニルのテールフリック退避潜時に及ぼす効果(図13)
フェンタニルを1回0.5μg/kgで静脈内投与すると、いずれの試験時点においても、媒体群データに比べて有意にはテールフリック退避潜時に影響を及ぼさなかった。フェンタニルを1回2μg/kgで静脈内投与すると、投与5分および10分後におけるテールフリック退避潜時(それぞれ、9.0±0.7秒;P<0.01および9.1±0.4秒;P<0.001;共に、クラスカル-ウォリスおよびダンの検定)が、媒体群データ(それぞれ、5.2±0.6秒および5.0±0.2秒)に比べて有意に増大した。フェンタニルを1回6μg/kgで静脈内投与すると、投与5分、10分、および20分後におけるテールフリック退避潜時(それぞれ、10.0±0.0秒;P<0.001;8.4±0.7秒;P<0.01;8.1±0.7秒;P<0.05;すべてクラスカル-ウォリスおよびダンの検定)が、媒体群データ(それぞれ、5.2±0.6秒、5.0±0.2秒、および5.1±0.2秒)に比べて有意に増大した。これらのデータは、鎮痛作用が直ちに発現し、投与5分後時点でピーク効果に達し、投与60分後時点までに基礎値(媒体対照に匹敵する)に戻ることを示している。
【0276】
フェンタニルのED50の推定値、すなわち50%MPEは、投与5分、10分、20分、および30分後においてそれぞれ1.14、1.25、3.11、および9.68μg/kgであった。投与60分および120分後時点において、用量反応はなかった。
【0277】
R-DHE、S-DHE、およびフェンタニルの比較効果
R-DHE、S-DHE、およびフェンタニルについて算出されたED50値を比較して、それらの相対効力を推定した(Table 16(表21))。データは、雄性ラットに各化合物を単回静脈内投与後、最初の30分の間に、R-DHEが、フェンタニルの5倍から23倍の鎮痛効力を示し、S-DHEが、フェンタニルの0.3倍から0.5倍の鎮痛効力を示し、R-DHEが、S-DHEの17倍から50倍の鎮痛効力を示すということを示唆する。
【0278】
【表21】

【0279】
モルヒネのテールフリック退避潜時に及ぼす効果
モルヒネ(5mg/kg)を静脈内投与すると、投与5分、10分、20分、30分後におけるテールフリック退避潜時(4時点すべてにおいて、10.0±0.0秒;P<0.001;マン-ホイットニーのU検定)、および60分後におけるテールフリック退避潜時(8.7±0.9秒;P<0.05;マン-ホイットニーのU検定)が、媒体群データ(それぞれ、5.2±0.6秒、5.0±0.2秒、5.1±0.2秒、4.9±0.4秒、および5.6±0.4秒)に比べて有意に増大した。
【0280】
結論
雄性ラットにおいて、R-DHEの1回0.1、0.3、および0.5μg/kgでの単回静脈内投与、ならびにS-DHEの1回10および30μg/kgでの単回静脈内投与により、投与30分後までのテールフリック退避潜時が有意に用量依存的に増大した。フェンタニルを1回2および6μg/kgで静脈内投与すると、投与30分後までのテールフリック退避潜時が有意に用量依存的に増大した。
【0281】
R-DHE、S-DHE、およびフェンタニルについて算出されたED50値を比較して、それらの相対効力を推定した(Table 16(表21))。データは、雄性ラットに各化合物を単回静脈内投与後、最初の30分の間に、R-DHEが、フェンタニルの5倍から23倍の鎮痛効力を示し、S-DHEが、フェンタニルの0.3倍から0.5倍の鎮痛効力を示し、R-DHEが、S-DHEの17倍から50倍の鎮痛効力を示すということを示唆する。
【0282】
R-DHEおよびS-DHEの静脈内投与後のオピオイド鎮痛活性時間は、これらの化合物の急性疼痛の治療における潜在的利点および治療可能性を際立たせる。
【0283】
モルヒネ投与後に認められた効果は、その公知の薬理活性と一致し、したがって、この試験系は、侵害受容性効果を検出するように感受性を示した。
【0284】
神経因性疼痛の脊髄神経結紮モデルにおける(R)および(S)-ジヒドロエトルフィンの効果
使用される試験モデルは、当技術分野において周知であり、Pain 1992;50:355〜363頁(Kim SH、Chung JM.、An experimental model for peripheral neuropathy produced by segmental spinal nerve ligation in the rat)に記載されている。
【0285】
神経因性疼痛の脊髄神経結紮モデルにおいて、ジヒドロエトルフィンの0.1、0.3、および0.5μg/kg(R異性体)の単回静脈内投与、ならびに3、10、および30μg/kg(S-異性体)の単回静脈内投与後の潜在的鎮痛効果を調査した。ラットの左後肢において、L5とL6脊髄神経をきつく結紮することによって、末梢単神経炎を誘発させた。機械的アロディニアおよび熱痛覚過敏の発症を、確立した行動実験(それぞれ、Von Frey試験およびHargreavesPlantar試験)を用いて監視した。モルヒネを基準物質として使用し、プレガバリンを比較物質として使用した。
【0286】
被験物質および材料
被験物質、基準物質、比較物質、および媒体
被験物質:ジヒドロエトルフィン(R-異性体)およびジヒドロエトルフィン(S-異性体)
被験物質および基準物質用の媒体:クエン酸緩衝液(クエン酸一水和物:クエン酸ナトリウム:塩化ナトリウム:滅菌水=0.03:0.10:0.86:99.01(g:g:g:mL)の比);[クエン酸一水和物(白色粉末;Sigma、UK)、クエン酸ナトリウム(Sigma、UK)、塩化ナトリウム(白色固体;Merck)、滅菌水(透明液体;Baxter Healthcare、UK)]
基準物質:モルヒネ塩酸塩(白色粉末;Macfarlan Smith、Edinburgh、UK)
比較物質:プレガバリン(商標名Lyrica(登録商標);白色カプセル;Pfizer製造、Lindsay & Gilmour Chemist、Juniper Green、Edinburgh供給)
比較物質用の媒体:1%(重量/体積)カルボキシメチルセルロース(CMC、粉末;Sigma、UK)
【0287】
被験物質、基準物質、および比較物質の貯蔵
被験物質は室温で貯蔵し、光から保護し、基準物質および比較物質は室温で貯蔵した。
【0288】
投与経路および用量レベル
ジヒドロエトルフィンのR-異性体およびS-異性体ならびに媒体(クエン酸緩衝液)の投与経路は、静脈内投与であった。これは、ヒトにおいて可能な投与経路である。R-DHEの用量は、0.1、0.3、および0.5μg/kgであり、S-DHEの用量は、3、10、および30μg/kgであった。
【0289】
モルヒネの投与経路は静脈内投与であった。モルヒネの用量は5mg/kgであった。
【0290】
比較物質であるプレガバリンの投与経路は経口投与であった。試験第2相では、プレガバリンの用量は30mg/kgであった。第3相では、比較物質であるプレガバリンの用量レベルは、30、50、および100mg/kgであった。
【0291】
動物
種:ラット
系統:Sprague-Dawley
性別:雄性
動物数:動物75匹を外科的に作製した。
年齢範囲:6から7週齢(手術);8から9週齢(投与第1相);9から10週齢(投与第2相);11から12週齢(投与第3相)。
体重範囲:139から183g(手術);190から257g(投与第1相);210から284g(投与第2相);243から341g(投与第3相)。
馴化:輸送後、行動実験開始の3日前
供給業者:Harlan UK Ltd
【0292】
動物の個体識別および無作為化
各動物に、唯一の個体識別番号を任意に割付け、データシートおよびケージカードに記入した。個体識別は、動物の尾に耐水性マークを施すことによって行った。
【0293】
動物の健康と福祉
試験はすべて、動物(科学的処置)法1986(Animals(ScientificProcedures)Act 1986)に基づく法律、英国内務省の動物(科学的処置)法1986施行ガイダンス、ならびに実験動物の飼育に関するすべての適用可能な実施規約に従って実施された。
【0294】
収容および環境
動物は、おがくずを敷いた平底ケージに5匹までの群単位で収容した。馴化中に、部屋およびケージは、一定の間隔をおいて清浄して、衛生状態を維持した。部屋は、英国内務省の動物(科学的処置)法1986で推奨されているように、12時間の明暗サイクル(07.00点灯、19.00消灯)が得られるように設定された蛍光灯によって照明した。部屋を空調し、空気温度および相対湿度を測定した。馴化期間中、室温(20℃〜22℃の範囲)を維持し、湿度レベルは46%〜59%の範囲内であった。処置期間中の室温(19℃〜22℃の範囲)を維持し、湿度レベルは26%〜43%の範囲内とした。
【0295】
飼料および水
RM1(E)SQCのげっ歯類用エキスパンド飼料(Special Diets Services、Witham、UK)および水道水を自由摂取させた。飼料は、各バッチに栄養組成および指定汚染物質(例えば、重金属、アフラトキシンおよび殺虫剤)のレベルを詳述する分析証明書(COA)が添付されて輸送された。水については、不純物および汚染物質を定期的に分析した。保存飼料および給水において汚染物質の許容レベルの基準は、それぞれ飼料製造業者および水分析サービスによって確立された分析規格内であった。
【0296】
健康状態
動物は、到着時および試験前に検査した;動物はすべて、健常であり、動物実験に適していると考えられた。
【0297】
実験計画
被検物質、基準物質、および比較物質の製剤化
クエン酸緩衝液は、適量の各成分を正確に計量し、それらを滅菌注射用水に溶解することによって調製した。成分が完全に溶解すると、溶液の重量オスモル濃度およびpHを測定した。媒体は、pHが5.03であり(4.8〜5.2の範囲内である)、重量オスモル濃度が295mOsmol/kgである(280〜300mOsmol/kgの範囲の間にある)ので許容できるとみなされた。次いで、媒体を、最後に無菌条件下でMillex GV stericup(0.22μmフィルター)に通して濾過し、使用するまで2℃〜8℃で貯蔵した。
【0298】
被験物質であるジヒドロエトルフィン(R-異性体およびS-異性体)の投与にあたっては、クエン酸緩衝液中の液剤として製剤化した。投与するのに望ましい濃度(R異性体の場合0.02、0.06、および0.10μg/mL、S-異性体の場合0.6、2、および6μg/mL)は、おおよそ20μg/mLの濃度で用意された適切なストック溶液を段階希釈することによって実現した。ストック溶液の実際の濃度を生データに記載した。段階希釈前に、ストック溶液を、Millex GV 0.22μm Durapore無菌フィルターユニットに通してガラスバイアルに入れ、無菌のクエン酸緩衝液を用いたその後の希釈はそれぞれ、無菌操作で行われた。補正係数は適用せず、製剤を遊離塩基として調製した。製剤は、試験の投与日より前に調製し、R-DHEの公知の安定性期間である11日以内で(調製1〜2日後に)使用した。S-DHEは、調製1〜2日後に使用した。ジヒドロエトルフィン(R-異性体およびS-異性体)の投与液剤は、投与に必要とされるまで約4℃で冷蔵貯蔵した。
【0299】
基準物質であるモルヒネ塩酸塩の投与にあたっては、既知量をクエン酸緩衝液に溶解して、1mg/mLの液剤を生成することによって製剤化した。補正係数1.32を適用すると、モルヒネの用量を遊離塩基として表すことが可能になった。液剤は新たに調製し、光から保護した。
【0300】
比較物質であるプレガバリンの投与にあたっては、既知量を1%(重量/体積)CMCに懸濁して、第2相用に3mg/mLの懸濁剤を生成することによって製剤化し、第3相用には、3、5、および10mg/mLの懸濁剤を調製した。補正係数は必要とせず、したがってプレガバリンを遊離塩基として投与した。懸濁剤は新たに調製し、光から保護した。
【0301】
群の大きさ、用量、および識別番号
処置群として、1群最大10匹のラットを5群使用した。処置群にはそれぞれ、文字(第1相:A〜E、第2相:F〜J、第3相:K〜O)を付与した。熱痛覚過敏試験の投与前基礎値に基づいて、ラットを、投与前日に処置群に無作為に割付けた(下記を参照のこと)。
【0302】
【表22】

【0303】
第1相および第2相には、静注用媒体であるクエン酸緩衝液を使用し、第3相には、経口用媒体である1%(重量/体積)CMCを使用した。静注処置群に割付けられた動物に対し、Becton Dickinson 25G(0.5×16mm)針付きポリプロピレン注射器を用いて、投与量5mL/kgで尾静脈に投与した。5mL/kgの全静注量を、2分±10秒の間隔にわたってできる限り一定の速度で送達した。ゆっくり静注ボーラス投与した開始時刻と停止時刻を記録した。経口処置群に割付けられた動物に対し、強制経口投与により投与量10mL/kgで投与した。投与時間を生データに記録した。
【0304】
処置の盲検化
観察者に処置群のアイデンティティが知られないように、投与液剤を符号化した(第1相:A〜E、第2相:F〜J、第3相:K〜O)。試験第2相では、比較物質は異なる投与経路で投与されるので、この群は、投与実施者に対しては盲検化せず、Hと符号化した。また、第3相では、モルヒネ対照を静脈内投与したが、これは媒体群および比較物質群(経口投与)と異なる経路であったので、モルヒネ群は盲検化せず、したがってOと符号化した。
【0305】
体重
動物を手術前、手術後(PO)1日目、および物質投与前の各投与日に計量し、体重を記録した。
【0306】
経日的観察
手術後(PO)0日目以降に、すべての動物について、特に動物の左右後足の状態に注意を払いながら、一般状態観察を毎日行った。
【0307】
処置
1 馴化
行動実験の前に、動物に、ルーチンのハンドリングおよび行動実験環境への馴化を施した。
【0308】
2 ベースライン期の行動実験
ラットを、実験1日前に処置部屋に移した。次いで、ラットを、処置部屋で収容し、投与し、観察した。手術前に、すべてのラットに行動実験を2回に分けて実施して(下記を参照のこと)、基礎値を確立した。手術前基礎値を、試験最終日(2日目)のデータとした(試験初日のデータは、馴化の一部分として分類された)。試験の順序は、機械的アロディニアと、その後に続く熱痛覚過敏であったが、試験と試験の間には、最低5分間を設けた。機械的アロディニア(Von Frey試験):動物をそれぞれ、ワイヤーメッシュケージに入れ、一連のVon Frey式フィラメントを後足の足底面に下から押し付けた。フィラメントを(最も弱い力で始めて)昇順に押し付け、左右両後足の退避閾値を評価した。各フィラメントを、足の中央部の足底面でちょうど曲がり始める時点までへこませた。これを、周波数約1Hzでフィラメント1本当たり約8回から10回繰り返した。退避閾値は、連続した2本以上のVon Frey式フィラメントが反射性退避反応(すなわち、短時間の足フリック)を導き出すための最低の力であると定義された。
【0309】
熱痛覚過敏(HargreavesPlantar試験):試験前に、ガラス床を設けた透明なプラスチックチャンバにラットを1匹ずつ入れ、その環境に短時間馴化させた(約1分)。次いで、動物に、下からその後足の足底面に向けた放射赤外線(IR)熱源を適用し、左右両後足について、退避潜時を算出した。赤外強度はIR50に設定し(熱流束示度250mWcm3をもたらすように設計された設定)、IR源への最長曝露時間は18秒であった。したがって、非応答動物を退避潜時18秒と割り当てた。
【0310】
3 外科処置
動物を、3日にわたって外科的に作製した。各ラットを、必要に応じて1%〜3%酸素中イソフルオランで麻酔した。各ラットを腹臥位に置き、切開部位周辺の表面を剃毛し、外科消毒用アルコールで消毒した。無菌条件下で、左傍脊柱筋群をL4 S2レベルで棘突起から分離した。次いで、L6横突起を小さな骨鉗子で注意深く取り除き、L4 L6脊髄神経を確認した。左L5およびL6脊髄神経を単離し、6-0絹糸できつく結紮した(40倍の倍率で観察)。上にある筋および皮膚を適切な縫合材料で層状に閉じ、完了すると、麻酔を中断した。麻酔から回復すると、最初はソフトパッド床敷を終夜用いて、感染のリスクを低下させ、完全に回復した後、続いておがくず床敷を用いて、ラットをケージメートと共に再び収容した。動物を最低限4日間回復させた後、行動実験を再開した。
【0311】
4 発症試験
手術後、行動実験を投与日前に2回実施して、異痛症/痛覚過敏の発症を監視した。各投与相の前に十分な数の動物が異痛症/痛覚過敏を発症していることを確実にするために、追加の任意試験日も含められた。
【0312】
5 群の割付けおよび除外基準
熱痛覚過敏試験の投与前基礎値に基づいて、動物を、投与前日に処置群に無作為に割付けた。機械的アロディニアと熱痛覚過敏を両方発症した動物のみを試験に含めた。動物は、Von Frey式フィラメントに対するその左足退避閾値が≦5gの力である(モノフィラメント数4.56以下に対応する)場合、機械的アロディニアを発症したとみなされた。動物は、投与前に、熱足底試験装置に対するその左足退避潜時が、左足の手術前の値と≧30%の差を示した場合、熱痛覚過敏を発症したとみなされた。
【0313】
6 投与および行動実験
この試験では、動物を絶食させなかった。投与日毎に、割付けられた動物にはそれぞれ、単回静脈内投与量の被験物質、基準物質、もしくは媒体を投与し、または経口投与量の比較物質もしくは媒体を投与した。試験に対し、3つの相が存在した。各相の投与は2日間にわたって分けられ、最小限の3処置群の動物には投与日毎に投与した。各相が完了した後、試験のその後の相を開始する前に、動物に最低限1週間の休薬期間を与えた。
【0314】
試験第1相および第2相では、投与後(投与開始から約5分)および投与約25分、50分、および120分後に、各ラットの左右両後足を、Von Frey試験で機械的アロディニアについて評価した。投与約15分、35分、60分、および130分後に、各ラットの左右後足を、HargreavesPlantar試験で熱痛覚過敏について評価して、処置効果を調査した。時点はすべて、投与開始に対するものであった。試験第3相では、投与約60分、120分、180分、および240分後に、各ラットの左右後肢を、Von Frey試験で機械的アロディニアについて評価した。投与約70分、130分、190分、および250分後に、各ラットの左右後肢を、HargreavesPlantar試験で熱痛覚過敏について評価して、処置効果を調査した。
【0315】
7 致死
すべての試験動物は、最終の試験期間が終わった後、頚椎脱臼により致死させた。
【0316】
統計分析
処置群間で、パラメトリック(例えば、一元配置分散分析、ダンネットのt検定、スチューデントのt検定)またはノンパラメトリック(例えば、クラスカル-ウォリスの統計量、ダンの検定、マン-ホイットニーのU検定)統計処理法を用いて統計的比較を行った。パラメトリックまたはノンパラメトリック検定の選択は、比較対象の群が、等分散性基準(ルービンの平均検定またはF検定により評価)を満足するかどうかに基づいて行われた。Von Frey試験のデータは、分析する前に対数変換を行った((力(単位:グラム)×10000)のlog10)。試験第2相では、比較物質であるプレガバリンを異なる投与経路で投与したので、プレガバリンのデータと投与前の値をスチューデントの対応のあるt検定で比較した。試験第3相では、基準物質であるモルヒネを媒体および被験物質と異なる投与経路で投与したので、モルヒネのデータと投与前の値をスチューデントの対応のあるt検定で比較した。すべての検定では、P<0.05の際、統計的有意であると想定された。Von Frey試験での統計的有意性は、対数変換後のデータについて行ったものであるが、例示するために結果のセクションにおいて重量グラムで表した。分析の全詳細は、生データに記載されている。
【0317】
結果
退避閾値および退避潜時について、群平均±平均値の標準誤差のデータをTable 17(表23、24)〜Table 22(表31)に要約する。
【0318】
神経因性疼痛状態の発症
神経因性疼痛の異なる2つの要素を、確立した行動実験、すなわち機械的アロディニアの有無を試験するためのVon Frey式フィラメント、および熱痛覚過敏の有無を試験するためのHargreavesPlantar試験を用いて調査した。脊髄神経結紮を受けた動物の大部分は、左後足の2つの行動実験に対する感受性が傷害日後に著しく増大したことを示した。これは、末梢単神経炎の発症を示すものである。右後足には、手術後に感受性の増大はみられなかった。試験の各相では、投与された動物はすべて、確立された行動実験で投与前日に評価して、左後足に神経障害があるとみなされた。
【0319】
行動実験に対する反応に及ぼすR-DHEの効果(第1相)
機械的アロディニア:第1相では、R-DHEを0.1および0.3μg/kgで静脈内投与すると、Von Frey式フィラメントに対する左足または右足退避閾値にいかなる有意な変化も認められなかった。しかし、R-DHEを0.5μg/kgで静脈内投与すると、投与約5分後における左足退避閾値(21.97±2.30g;P<0.01;クラスカル-ウォリスおよびダンの検定)が、媒体群の値(5.43±2.58g)に比べて有意に増大し、また投与約25分後(13.12±3.41g;P<0.05;ANOVAおよびダンネットのt検定)においても、媒体群の値(2.25±0.75g)に比べて有意に増大した(Table 17(表23、24)、図18)。
【0320】
熱痛覚過敏:R-DHEの静脈内投与では、左足退避潜時に及ぼす効果が媒体に比べて有意であると認めることはできなかった。R-DHEを1回0.3μg/kgで静脈内投与すると、投与約35分後における右足退避潜時(14.5±0.7秒;P<0.05;ANOVAおよびダンネットのt検定)が、媒体の値(10.3±0.9秒)に比べて有意に増大した。しかし、これは、右足の退避閾値が右足の投与前の値(14.3±0.6秒)と同様であるので、生理学的に重要でない(Table 18(表25)、図19)。
【0321】
行動実験に対する反応に及ぼすS-DHEの効果(第2相)
機械的アロディニア:第2相では、S-DHEを3および10μg/kgで静脈内投与すると、Von Frey式フィラメントに対する左足または右足退避閾値にいかなる有意な変化も認められなかった。しかし、30μg/kgで静脈内投与すると、投与約5分後における左足退避閾値(24.56±0.33g;P≦0.001;クラスカル-ウォリスおよびダンの検定)が、媒体群の値(6.11±2.39g)に比べて有意に増大し、また投与約25分後(21.92±1.70g;P<0.001;クラスカル-ウォリスおよびダンの検定)においても、媒体群の値(1.66±0.47g)に比べて有意に増大した(Table 19(表26、27)、図20)。
【0322】
熱痛覚過敏:S-DHEを1回3μg/kgおよび10μg/kgで静脈内投与すると、左足および右足退避潜時に及ぼす効果が媒体群の値に比べて有意であると認めることはできなかった。しかし、S-DHEを1回30μg/kgで静脈内投与すると、投与約15分後における左後足退避潜時(17.6±0.4 秒;P<0.01;クラスカル-ウォリスおよびダンの検定)と右後足退避潜時(17.5±0.4秒;P<0.01;クラスカル-ウォリスおよびダンの検定)との両方が、媒体の値(それぞれ、10.3±0.8秒および13.4±0.8秒)に比べて有意に増大した。この右足潜時の増大は、用量レベル30μg/kgでのジヒドロエトルフィン(S-異性体)の中枢効果を示すことができる(Table 20(表28)、図21)。
【0323】
行動実験に対する反応に及ぼすモルヒネの効果(第1相および第3相)
第1相では、基準物質モルヒネと媒体は両方とも、経口投与されたので、両者を比較した。第3相では、基準物質モルヒネと投与前を比較した。というのは、投与前と経口用媒体を比較することは重要ではなかったからである。
【0324】
機械的アロディニア:モルヒネを5mg/kgで静脈内投与した(第1相)後、投与約25分後における左後足退避閾値(19.23±2.73g;P<0.001;スチューデントの対応のない両側t検定)および投与約50分後における左後足退避閾値(21.55±2.40g;P<0.001;スチューデントの対応のない両側t検定)が、媒体の値(2.25±0.75および2.11±0.82g)に比べて有意に増大した。右足の投与前のデータ(16.37±2.20g;P<0.05;スチューデントの対応のない両側t検定)が、媒体の値(22.26±1.52g)に比べて有意に低下していることが認められた。これは、処置群への割付けが熱痛覚過敏試験の投与前の値に基づいているので避けられないことであった(Table 17(表23、24)、図18)。右後足では、他の有意な効果は認められなかった。
【0325】
第3相では、モルヒネ(5mg/kg)の静脈内投与によって、左足退避閾値が投与約60分後(21.32±2.56g;P<0.001;スチューデントの対応のある両側t検定)、120分後(11.08±2.85g;P<0.01;スチューデントの対応のある両側t検定)、および約180分後(3.68±0.97g;P<0.05;スチューデントの対応のある両側t検定)において、投与前の値(1.46±0.37g)に比べて有意に増大した(Table 21(表29、30)、図22)。
【0326】
熱痛覚過敏:第1相において、モルヒネを5 mg/kgで静脈内投与すると、退避潜時が、左足では試験時点のすべてにわたって、右足では投与約15分、35分、および60分後に有意に増大した。具体的には、投与約15分後(左;12.0±1.5秒;P<0.05;マン-ホイットニーのU検定)、(右;17.5±0.5秒;P<0.001;マン-ホイットニーのU検定)、投与35分後(左;16.4±0.9秒;P<0.001;スチューデントの対応のない両側t検定)、(右;16.8±0.7秒;P<0.001;スチューデントの対応のない両側t検定)、および投与約60分後(左;12.8±1.3秒;P<0.01;スチューデントの対応のない両側t検定)、(右;16.3±1.1秒;P<0.05;スチューデントの対応のない両側t検定)において両足で、ならびに投与約130分後(10.6±0.9秒;P<0.05;スチューデントの対応のない両側t検定)において左足で、媒体の値(それぞれ、7.5±0.5秒、12.8±1.1秒、7.0±1.2秒、10.3±0.9秒、7.6±0.9秒、12.4±1.4秒、および7.4±0.9秒)に比べて有意に増大した(Table 18(表25)、図19)。
【0327】
試験第3相では、モルヒネの静脈内投与によって、投与約70分後(11.8±1.2秒;P<0.01;スチューデントの対応のある両側t検定)、投与約190分後(8.0±0.8秒;P<0.05;スチューデントの対応のある両側t検定)、および投与約250分後(10.6±1.4秒;P<0.05;スチューデントの対応のある両側t検定)における左足退避潜時が、投与前の値(6.0±0.5秒)に比べて有意に増大した(Table 22(表31)、図23)。
【0328】
行動実験に対する反応に及ぼすプレガバリンの効果(第2相および第3相)
プレガバリンは、試験第2相では投与前と比較したが、試験第3相では媒体と比較した。試験第2相では、プレガバリンは媒体(静脈内)と異なる経路(経口)で投与した。したがって、媒体との比較は適切でなかった。試験第3相では、3つの用量レベルを用いたプレガバリンに対する用量反応を、投与前とではなく、媒体と比較した。
【0329】
機械的アロディニア:第2相では、プレガバリン(30mg/kg)の経口投与によって、左足退避閾値が投与約50分後(10.35±2.51g;P<0.001;スチューデントの対応のある両側t検定)および投与約120分後(13.90±3.00g;P<0.001;スチューデントの対応のある両側t検定)において、投与前の値(1.09±0.35g)に比べて有意に増大した(Table 19(表26、27)、図20)。
【0330】
第3相では、プレガバリンを1回30mg/kgで経口投与すると、左足退避閾値が投与約120分後(17.06±2.88g;P<0.01;クラスカル-ウォリスおよびダンの検定)および投与約180分後(13.86±3.21g;P<0.01;ANOVAおよびダンネットの検定)において、媒体の値(それぞれ、5.00±2.34gおよび2.57±0.92g)に比べて有意に増大した。プレガバリンを1回50mg/kgで経口投与すると、投与約180分後における左右両足の退避閾値(左足:15.20±3.31g;P<0.01;ANOVAおよびダンネットの検定および右足:24.20±0.39g;P<0.05;クラスカル-ウォリスおよびダンの検定)が、媒体の値(それぞれ、2.57±0.92gおよび16.57±1.75g)に比べて有意に増大し、投与約240分後における左足退避閾値(12.05±3.41g;P<0.05;クラスカル-ウォリスおよびダンの検定)が、媒体の値(1.48±0.30g)に比べて有意に増大した。プレガバリンを1回100mg/kgで経口投与すると、投与約120分後における左足退避閾値(23.29±1.19g;P<0.01;ANOVAおよびダンネットの検定)、投与約180分後における左足および右足退避閾値(左足:19.77±2.70g;P<0.01;ANOVAおよびダンネットの検定および右足:23.70±1.04g;P<0.01;クラスカル-ウォリスおよびダンの検定)が、媒体の値(それぞれ、2.57±0.92および16.57±1.75g)に比べて有意に増大し、投与約240分後においては、左足退避閾値(15.91±2.86g;P<0.001;クラスカル-ウォリスおよびダンの検定)が、媒体の値(1.48±0.30g)に比べて有意に増大した。プレガバリンを50および100mg/kgで投与した後の右足退避閾値の増大は、これらの用量レベルでのプレガバリンの中枢効果を示すものであった。これは、動物において、臨床症状の鎮静レベルが用量依存的に増大することと一致した(Table 21(表29、30)、図22)。
【0331】
熱痛覚過敏:第2相において、プレガバリン(30mg/kg)の経口投与によって、投与約15分、35分、60分、および130分後における左足退避潜時(8.3±0.7秒;P<0.05;8.6±1.0秒;P<0.05;8.8±1.0秒;P<0.05;9.6±0.8秒;P<0.001;すべてスチューデントの対応のある両側t検定)が、投与前の値(6.2±0.5秒)に比べて有意に増大した。これらの有意な増大は、薬理学的に重要であるとはみなされなかった。というのは、第2相において、媒体対照群(静脈内投与)の退避潜時の値(投与約15分、35分、60分、および130分後(10.3±0.8秒;P<0.01;8.1±0.5秒;P<0.05;9.3±0.7秒;P<0.001;9.8±1.0秒;P<0.01;すべてスチューデントの対応のある両側t検定)も、投与前の値(6.2±0.5秒)と比べて同様な増大を示し、試験第3相において、プレガバリンの経口投与では、左足および右足退避潜時について、媒体対照に比べて有意な効果をすべての試験用量(30、50、および100mg/kg)、およびすべての投与後時点(60分、120分、180分、および240分)で示すことができなかったからである。(Table 20(表28)、図21およびTable 22(表31)、図23)。
【0332】
結論
ラットの左後肢において、L5とL6脊髄神経をきつく結紮することによって、末梢単神経炎を誘発させた。機械的アロディニアおよび熱痛覚過敏の発症を、確立した行動実験(それぞれ、Von Frey試験およびHargreavesPlantar試験)を用いて監視した。反応閾値および潜時を、左後足(患部)と右後足(非患部)について評価した。試験の各相では、投与された動物はすべて、確立された行動実験で投与前日に評価して、左後足に神経障害があるとみなされた。
【0333】
R-DHEを0.5μg/kgで静脈内投与すると、投与25分後までに退避閾値(機械的アロディニア)が増大し、投与約5分後にピーク効果に達した。0.5μg/kgでのR-DHEでは、試験時点のいずれにおいても退避潜時(熱痛覚過敏)に効果が認められなかった。R-DHEは、より低用量の0.1および0.3μg/kgでも、機械的アロディニアにも熱痛覚過敏にも効果が認められなかった。
【0334】
S-DHEを1回30μg/kgで静脈内投与すると、退避閾値(機械的アロディニア)(投与約5〜25分後にピーク効果に達した)と退避潜時(熱痛覚過敏)(投与約15分後にピーク効果に達した)とにおいて、有意な鎮痛効果が得られた。3および10μg/kgのS-DHEでは、機械的アロディニアにも熱痛覚過敏にも効果は認められなかった。
【0335】
ラットにおいて、オピオイド化合物、R-DHE、およびS-DHEの静脈内投与は、機械的アロディニアと熱痛覚過敏試験とにおいて、鎮痛活性が実証された。これは、神経因性疼痛の治療におけるこれらの化合物の治療可能性を際立たせる。
【0336】
プレガバリンを(第3相で)100mg/kgまでの用量で投与した後、退避閾値の用量依存的増大がみられ、投与約180分後と240分後の間でピーク効果に達した。熱痛覚過敏試験では、プレガバリンの効果は認められなかった。プレガバリンの投与後に認められた効果は、機械的アロディニアにおいては有意な効果をもつが、熱痛覚過敏には限定的な効果しかもたないという(文献のデータに基づいた)その公知の薬理活性と一致した。
【0337】
モルヒネの静脈内投与後に認められた効果は、機械的アロディニアおよび熱痛覚過敏に有意な効果をもつというその公知の薬理活性と一致した。したがって、この試験系は、ラットにおいて、機械的アロディニアと熱痛覚過敏試験との両方で侵害受容性効果を検出するように感受性を示すものであった。
【0338】
【表23】

【0339】
【表24】

【0340】
【表25】

【0341】
【表26】

【0342】
【表27】

【0343】
【表28】

【0344】
【表29】

【0345】
【表30】

【0346】
【表31】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(VI)の化合物、またはその塩もしくは誘導体
【化1】

[式中、R1およびR2は、独立して、C1〜8アルキルであり、*は、立体中心を表す]の調製プロセスであって、(V)の化合物
【化2】

[式中、R1、R2、および*は、本明細書で先に定められた通りである]を加水分解するステップを含むプロセス。
【請求項2】
前記(V)の化合物が、式(IV)の化合物
【化3】

[式中、R1は、本明細書で先に定められた通りである]と
式R2M(X)Pの化合物[式中、R2はC1〜8アルキルであり、Mは金属であり、Xはハライドであり、pは1または0である]を反応させることによって調製される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記式(IV)の化合物が、式(III)の化合物
【化4】

[式中、R1は、本明細書で先に定められた通りである]を還元することによって調製される、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記式(III)の化合物が、式(I)の化合物
【化5】

と式(II)の化合物
【化6】

[式中、R1はC1〜8アルキルである]を反応させることによって調製される、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
式(VI)の化合物、またはその塩もしくは誘導体
【化7】

[式中、R1およびR2は、独立して、C1〜8アルキルであり、*は、立体中心を表す]の調製プロセスであって、式(I)の化合物
【化8】

と式(II)の化合物
【化9】

[式中、R1はC1〜8アルキルである]を反応させて、式(III)の化合物
【化10】

[式中、R1は、本明細書で先に定められた通りである]を得るステップと、
前記式(III)の化合物を還元して、式(IV)の化合物
【化11】

[式中、R1は、本明細書で先に定められた通りである]を生成するステップと、
前記式(IV)の化合物と式R2M(X)Pの化合物[式中、R2はC1〜8アルキルであり、Mは金属であり、Xはハライドであり、pは1または0である]を反応させて、式(V)の化合物
【化12】

[式中、R1、R2、および*は、本明細書で先に定められた通りである]を得るステップと、
前記式(V)の化合物を加水分解して、式(VI)の化合物を得るステップと
を含むプロセス。
【請求項6】
前記式(VI)の化合物を結晶化するステップをさらに含む、請求項1から5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
R1がプロピルである、請求項1から6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
R2がメチルである、請求項1から7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
式(V)および(VI)における前記立体中心(*)が(S)である、請求項1から8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記式(V)の化合物が、
【化13】

である、請求項1から9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記式(VI)の化合物が、
【化14】

である、請求項1から10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
式(V)および(VI)における前記立体中心(*)が(R)である、請求項1から8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
式(VI)
【化15】

[式中、R1およびR2は、独立して、C1〜8アルキルであり、*は(S)体の立体中心を表す]の化合物、またはその塩もしくは誘導体。
【請求項14】
式(VI)
【化16】

を有する、請求項13に記載の化合物。
【請求項15】
式(V)
【化17】

[式中、R1およびR2は、独立して、C1〜8アルキルであり、(*)は、(S)または(R)体の立体中心、好ましくは(S)体の立体中心を表す]の化合物、またはその塩もしくは誘導体。
【請求項16】
式(Va)
【化18】

を有する、請求項15に記載の化合物。
【請求項17】
式(IV)
【化19】

[式中、R1はC1〜8アルキルである]の化合物。
【請求項18】
式(III)
【化20】

[式中、R1はC1〜8アルキルである]の化合物。
【請求項19】
R1がプロピルである、請求項17または請求項18に記載の化合物。
【請求項20】
式(III)の化合物を作製するプロセスであって、式(I)の化合物
【化21】

と式(II)の化合物
【化22】

[式中、R1はC1〜8アルキルである]を反応させるステップ
を含むプロセス。
【請求項21】
請求項13から19のいずれか一項に記載の化合物を含む医薬組成物。
【請求項22】
医薬品で使用するための、請求項13から19のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項23】
鎮痛剤として使用するための、請求項13から19のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項24】
疼痛を治療するための医薬品の製造における、請求項13から19のいずれか一項に記載の化合物の使用。
【請求項25】
疼痛軽減を必要とする対象を治療する方法であって、前記対象に治療有効量の請求項13から19のいずれか一項に記載の化合物を投与するステップを含む方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公表番号】特表2012−510985(P2012−510985A)
【公表日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−539101(P2011−539101)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【国際出願番号】PCT/GB2009/051655
【国際公開番号】WO2010/067101
【国際公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(599108792)ユーロ−セルティーク エス.エイ. (134)
【Fターム(参考)】