説明

ジフェニル−ブリッジした置換シクロペンタジエニル−フルオレニルリガンドの製造

【課題】ジフェニルブリッジを有する置換シクロペンタジエニル−フルオレニル触媒成分の効率的な製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジフェニル−ブリッジした置換シクロペンタジエニル−フルオレニルリガンドをベースにしたメタロセン触媒成分の新規な製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アイソタクチック、シンジオタクチックまたはアタクチック等の種々のポリマーを製造できる触媒系を開発することは可能であるが、アイソタクチックまたはシンジオタクチックポリマーが主として製造され、アタクチックポリマーはほとんど製造されない触媒が望ましい。アイソタクチックポリオレフィンを製造するC2−またはC1−対称メタロセン触媒は公知である。例えば、C2−対称ビス−インデニル型ジルコノセンは高分子量の高融点アイソタクチックポリプロピレンを製造できる。しかし、このメタロセン触媒は製造コストが高く、製造に時間がかかる。さらに最も問題になることは最終触媒を構成する混合物中でのラセミ異性体とメソ異性体との比が好ましくないことである。そのため重合反応中にアタクチックポリプロピレンが形成するのを避けるためにメソ立体異性体を分離しなければならないという欠点がある。
【0003】
特許文献1(欧州特許第EP−A−0426644号公報)には触媒成分としてイソプロピル(フルオレニル)(シクロペンタジエニル)二塩化ジルコニウムを用いてプロピレンのようなオレフィンのシンジオタクチックコポリマーを製造する方法が記載されている。シンジオタクチックペンタドの量で測定したシンジオタクチック性rrrrは73〜80%である。
【0004】
特許文献2(欧州特許第EP 747406号公報)にはシンジオタクチック/アイソタクチックブロックポリオレフィン、特にポリプロピレンブロックを形成するためのオレフィンモノマーの重合方法が記載されている。重合触媒の一成分はイソプロピリデンまたはジフェニルメチリデンブリッジを有する3−トリメチルシリル シクロペンタジエニル−9−フルオレニル二塩化ジルコニウムまたはハフニウムである。
【0005】
特許文献3(欧州特許第EP−A−577581号公報)には2位と7位を置換したフルオレニル基を有し、非置換シクロペンタジエニル環を有するメタロセン触媒を用いてシンジオタクチックポリプロピレンを製造する方法が記載されている。
【0006】
特許文献4(欧州特許第EP−A−0419677号公報)には成形時に高い剛性を有する樹脂組成物を製造するためのシンジオタクチックポリプロピレンの製造方法が記載されている。イソプロピル(シクロペンタジエニル−1−フルオレニル)二塩化ジルコニウムのようなメタロセン触媒を用いてポリプロピレンを製造するが、得られた生成物の分子量、融点およびシンジオタクチック性はかなり低い。
【0007】
公知文献には多くのブリッジしたシクロペンタジエニル−フルオレニル成分が記載されているが、実際に製造されたものはほとんどなく、できた錯体の大部分はかなり不安定である。
従って、特性が優れたポリマーを製造することができる新規な触媒系と、その効率的な製造法を開発するというニーズが存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】欧州特許第EP−A−0426644号公報
【特許文献2】欧州特許第EP 747406号公報
【特許文献3】欧州特許第EP−A−577581号公報
【特許文献4】欧州特許第EP−A−0419677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ジフェニル−ブリッジしたシクロペンタジエニル−フルオレニル触媒成分を効率的に製造する方法を提供することにある。
本発明の別の目的は、この触媒成分を用いて高分子量のポリマーを製造することにある。
本発明のさらに別の目的は、この触媒成分を用いて溶融温度の高いポリマーを製造することにある。
本発明のさらに別の目的は、この触媒成分を用いて耐衝撃性が改良された耐衝撃性コポリマーを製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の対象は、下記一般式:
R’(Rb2−Flu)(Rcd52)MQ2
(ここで、R’はジアリルブリッジ、好ましくはジフェニルブリッジであり、Rb、Rc、RdはそれぞれH、1〜12個の炭素原子を有するアルキル基または置換または非置換のシリル基の中から互いに独立して選択され、Mは周期律表の第4族金属であり、Qはハロゲンまたは1〜12個の炭素原子を有するアルキルである)
の触媒成分の製造方法であって、
下記(a)〜(f)の段階から成ることを特徴とする方法にある:
(a)基:(Ra2CRcdフルベン)と、基[Rb2−Flu]-[M’]+とを溶媒中で求核付加反応させ(ここで、Raはハロゲン化芳香族基の中から互いに独立して選択され、M’はアルカリ金属、例えばLi、Na、Kを表す)、
(b)得られたリガンドを加水分解し、分離し、
(c)[化1]のようなパラジウムベース触媒の存在下での溶媒およびプロトン源中での、シクロペンタジエニル基中のCX結合は還元するがC=C結合は還元しない還元系を用いた反応によって芳香族Ra基上のハロゲン置換基を除去し、
【0011】
【化1】

【0012】
(ここで、上記還元系の量はリガンド1当量当たり少なくとも2当量、好ましくは4当量である)
(d)(b)段階で得られたリガンドをR''M''(ここで、R''は1〜6個の炭素原子を有するアルキル基、M''はLi、NaまたはKである)を用いて脱プロトン化してジアニオン(di-anion)リガンドとし、
(e)溶媒中でMQ4(ここで、Mは周期律表の第4族金属、Qはハロゲンまたはアルキルまたはベンジル基である)を用いて(d)段階で得たジアニオンリガンドの塩メタセシス反応を行い、
(f)結晶化によってジアリル−ブリッジした触媒成分を単離する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】Ph2C(3,6−tBu2Flu)(3−tBu−5−Me−Cp)を製造するための反応スキーム。
【図2】ジフェニルリガンドの1H NMRスペクトル。
【図3】Ph2C(3,6−tBu2Flu)(3−tBu−5−Me−Cp)(2)・CH2Cl2のX線結晶図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
段階(a)のハロゲン化芳香族基はハロゲン化フェニルであるのが好ましく、4位が塩素であるフェニルであるのがさらに好ましい。
好ましい還元剤の例はKOtBu/NaBPh4である。
溶媒およびプロトン源の例はTHF/HOiPrである。
【0015】
この触媒は非活性化CX結合と容易に反応するので反応に有利である。さらに、この触媒は室温から100℃までの温度、好ましくは約60℃の温度で反応させることができる。
本明細書中では各位置は下記のように名付ける:
【0016】
【化2】

【0017】
両方のRbが同一で、1〜6個の炭素原子を有するアルキルであるのが好ましく、同じtert-ブチルであるのがさらに好ましい。Rbは1位と8位または2位と7位または3位と6位にあるのが好ましく、Rbがtert-ブチルで、3位と6位にあるのがさらに好ましい。
cは好ましくはHまたはメチルまたはエチルである。
dは3〜6個の炭素原子を有するアルキルであるのが好ましく、さらに好ましくはtert-ブチルである。
MはZr、HfまたはTiであるのが好ましく、さらに好ましくはZrである。
Qはハロゲンまたはメチルであるのが好ましく、さらに好ましくは塩素である。
M''は好ましくはLiである。
【0018】
段階(a)および段階(e)の溶媒は同一でも異なっていてもよく、炭化水素、好ましくはペンタン、トルエンおよび/またはエーテル、例えばテトラヒドロフラン(THF)またはジエチルエーテル(Et2O)の中から選択される炭化水素にすることができる。これらの溶媒は同じEt2Oであるのが好ましい。理論に縛られるものではないが、Et2Oは拘束されたバルキー成分を含む求核付加反応の遷移状態を安定化させると考えられる。段階(a)の反応は0〜90℃の温度、好ましくは約80℃で1〜10日、好ましくは約72時間行なう。
【0019】
段階(c)の反応は室温〜80℃の温度、好ましくは約60℃で1〜4時間、好ましくは約3時間(使用する触媒に依存する)で行なうのが好ましい。触媒の量はXに対して0.1〜5mol%であるのが好ましい。
【0020】
当業者に公知の電離作用を有する任意の活性化剤を用いて上記メタロセン成分の活性化を行なうことができる。この活性化剤は例えばアルミニウム−含有化合物またはホウ素−含有化合物の中から選択できる。アルミニウム−含有化合物にはアルミノキサン(aluminoxane)、アルキルアルミニウムおよび/またはルイス酸がある。アルミノキサンが好ましく、これは下記式で表される直鎖アルキルアルミノキサンおよび/または環状アルキルアルミノキサンのオリゴマーから成る:
直鎖アルミノキサンオリゴマーの場合
【0021】
【化3】

【0022】
環状アルミノキサンオリゴマーの場合
【化4】

【0023】
(ここで、nは1〜40、好ましくは10〜20で、mは3〜40、好ましくは3〜20であり、RはC1〜C8のアルキル基、好ましくはメチル基である)
【0024】
使用可能なホウ素−含有活性化剤は特許文献5(欧州特許第EP−A−0427696号公報)に記載のようなボロン酸トリフェニルカルベニウム、例えばテトラキス−ペンタフルオロフェニル−ボラート−トリフェニルカルベニウムまたは特許文献6(欧州特許第EP−A−0277004号公報)の第6頁30行〜第7頁7行に記載のような一般式[L'−H]+[B Ar1 Ar234]−のものを含む。
【特許文献5】欧州特許第EP−A−0427696号公報
【特許文献6】欧州特許第EP−A−0277004号公報
【0025】
上記触媒系は必要に応じて担体に支持できる。担体を有する場合、担体は多孔質無機酸化物、好ましくはシリカ、アルミナおよびこれらの混合物の中から選択できる。担体はシリカであるのが好ましい。変形例ではフッ素化活性化担体を用いることができる。
【0026】
本発明の触媒系はエチレンおよびα−オレフィンの重合で用いることができる。本発明の触媒系は重量平均分子量が少なくとも500kDa、好ましくは700kDa、融点が150℃以上、好ましくは160℃以上と高いアイソタクチック性の高いプロピレンのホモポリマーの製造で用いるのが好ましい。
【0027】
エチレン含有率が8〜15重量%、重量平均分子量が少なくとも500kDa、好ましくは少なくとも700kDa、メルトフローインデックスMFIが2〜10dg/分であるエチレン−プロピレンゴム(EPR)の製造にも用いることができる。メルトフローインデックスはASTM D 1238規格の方法に従って2.16kgの荷重下、230℃の温度で測定する。
【0028】
本発明で得られるEPRは優れた耐衝撃性を有することに特徴がある。本発明は優れた熱可塑性を有するエラストマーを必要とする全ての用途で使用できる。
【実施例】
【0029】
以下の全ての実験操作は標準的なシュレンク(Schlenk)技術を用い、または、グローブボックス中で、精製アルゴン雰囲気下で行った。溶媒は窒素下にNa/ベンゾフェノン(テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル(Et2O))とNa/K合金(トルエン、ペンタン)とから蒸留し、完全脱気し、窒素下に貯蔵した。重水素化した溶媒(ベンゼン−d6、トルエン−d8、THF−d8 >99.5%D、Deutero GmbH)はNA/K合金から貯蔵チューブへ真空移動させた。クロロホルム−d3およびCD2Cl2は水素化カルシウム上で保管し、使用前に真空移動させた。先駆体3,6−ジ−tert-ブチル−9−[(4−tert-ブチル−2−メチルシクロペンタ−1,4−ジエン−1−イル)[ビス(4−クロロフェニル)]メチル}−9H−フルオレン(1)は公知操作に従って調製した。
【0030】
パラジウムアリル錯体(SIPr)Pd(C35Cl)のワンポット合成
【化5】

【0031】
合成は下記非特許文献1のViciu et alが開発し方法に従って行なった。
【非特許文献1】Viciu et al. (Viciu, M. S. ; Germaneau, R, F.; Navarro-Fernandez, O.; Stevens, E.D.; Nolan, S.P. in Organometallics 2002, 21, 5470-5472)
【0032】
40mLの乾燥THFを真空移動させたシュレンク管に、グローブボックス中で0.70g(1.64mmol)のN,N’−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)−4,5−ジヒドロイミダゾール)2−イリデン)塩化物、0.194g(1.73mmol)のKOtBuおよび0.3g(0.82mmol)のアリルパラジウム塩化物ダイマー[(C35)PdCl2]を導入した。室温で反応させ、12時間攪拌下に維持した。反応混合物をシリカの薄い層に通して生成した「パラジウム黒」を除去した。100mLのヘキサンを添加して沈殿した生成物を洗浄し、減圧乾燥して0.82gの(SIPr)Pd(C35)Clを87%の収率で得た。1Hおよび13C NMRスペクトルは公開されているものと同一であった。
【0033】
リガンドPh2C(3,6−tBu2Flu)(3−tBu−5−Me−Cp)の合成
【化6】

【0034】
スキームは[図1]に示してある。
シュレンク管中で50mlの乾燥THF中に溶かした2.0g(3.09mmol)のリガンド先駆体1に、2.3g(6.72mmol)のNaBPh4と、1,5gの(13.37mmol)のKOtBu、0.018g(0.03mmol)の(SIPr)Pd(C35)Clと、10mLのiPrOHとをアルゴンフラッシュ下に添加した。反応混合物を60℃で3時間攪拌した後、シリカで濾過した。濾液を蒸発させ、残留物をCH2Cl2/MeOH混合物(約1:1)から再結晶し、無色のプリズム[2・CH2Cl2]を得た。この結晶を3mLのトルエンに再び溶して得られる溶液を5〜10時間、減圧下で蒸発、乾燥させて0.89gの(2)を50%の収率で得た。
1H NMR(200MHz、CD2Cl3、233K)δ(Cp中に少なくとも3つの二重結合の異性体を検出した)は下記の通り:
【0035】
【化7】

【0036】
[図3]はPh2C(3,6−tBu2Flu)(3−tBu−5−Me−Cp)(2)・CH2Cl2のX線結晶構造を示す。
【0037】
上記で合成した触媒成分を用いてプロピレンの単独重合または共重合のテストを行なった。触媒はメチルアルミノキサン(MAO)で活性化し、必要に応じてシリカ担体に付着させた。耐衝撃性に優れたアイソタクチック性の高いプロピレンのホモポリマーまたはエチレン−プロピレンゴム(EPR)が製造できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式:
R’(Rb2−Flu)(Rcd52)MQ2
(ここで、R’はジアリルブリッジであり、Rb、Rc、RdはそれぞれH、1〜12個の炭素原子を有するアルキル基または置換または非置換のシリル基の中から互いに独立して選択され、Mは周期律表の第4族金属であり、Qはハロゲンまたは1〜12個の炭素原子を有するアルキルである)
の触媒成分の製造方法であって、
下記(a)〜(f)の段階から成ることを特徴とする方法:
(a)溶媒中で基:(Ra2CRcdフルベン)(ここで、Raはハロゲン化芳香族基の中から互いに独立して選択される基)と、基[Rb2−Flu]-[M’]+(ここで、M’はアルカリ金属、例えばLi、Na、K)とを求核付加反応させ、
(b)得られたリガンドを加水分解し、分離し、
(c)[化1]のようなパラジウムベースの触媒の存在下で、溶媒およびプロトン源中でシクロペンタジエニル基のCX結合は還元するがC=C結合は還元しない還元系を用いた反応で芳香族Ra基上のハロゲン置換基を除去し、
【化1】

(ここで、還元系の量はリガンド1当量当たり少なくとも2当量、好ましくは4当量であり)、
(d)段階(c)で得られたリガンドを、R''M''(ここで、R''は1〜6個の炭素原子を有するアルキル基、M''はLi、NaまたはKである)を用いて脱プロトン化してジアニオン(di-anion)リガンドにし、
(e)段階(d)で得られたジアニオンリガンドを、溶媒中でMQ4(ここで、Mは周期律表の第4族金属であり、Qはハロゲンまたはアルキルまたはベンジルである)を用いて塩メタセシス(salt metathesis)反応させ、
(f)結晶化させてジアリル−ブリッジした触媒成分を単離する。
【請求項2】
段階(a)のハロゲン化芳香族基がハロゲン化フェニルである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ハロゲン化フェニル基が4位が塩素置換基であるフェニルである請求項2に記載の方法。
【請求項4】
両方のRbが同じtert-ブチルで、2位と7位または3位と6位にある請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
cが2位のメチル、Rdが4位のtert-ブチルである請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
還元系がKOtBu/NaBPh4である請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
段階(a)の溶媒がEt2Oである請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
段階(e)の溶媒もEt2Oである請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
M''がLiである請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−504193(P2010−504193A)
【公表日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−528692(P2009−528692)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【国際出願番号】PCT/EP2007/059729
【国際公開番号】WO2008/037608
【国際公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(504469606)トータル・ペトロケミカルズ・リサーチ・フエリユイ (180)
【Fターム(参考)】