説明

ジブクレーン

【課題】 軸受による滑らかな旋回性能を落とすことなく、ビームの旋回運動に対して制動機能を働かせて旋回の作業性及び安全性を向上させる。
【解決手段】 固定されたマスト1の上端に吊り腕としてのビーム2が軸受3を介して縦軸まわりに旋回自在に張り出され、このビーム2に吊り装置4が設けられて構成される手動旋回式のジブクレーンにおいて、ビーム2の基端部に下向きに設けられたスカート部8の下部後面側に、ブレーキバンド14とこれをマスト外周面に押し付けるブレーキバネ16及び調整ねじ17からなる押し付け機構を備えたブレーキ装置13を設け、このブレーキ装置13によってビーム2の旋回運動に対してブレーキ力を働かせるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固定されたマストに吊り装置を備えたビーム(ジブ)を張り出し、このビームを手動で旋回させるジブクレーンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のジブクレーンを図5,6に示す。
【0003】
両図において、1は円筒状のマストで、据付面にこのマスト1が固定され、その上端部に吊り腕としての水平なビーム2の基端部が軸受3を介して取付けられ、これによってビーム2が縦軸(軸受3の中心)Xまわりに旋回自在な状態で張り出される。
【0004】
吊り装置4は、図示しない水平移動用引きロープによってビーム2に沿って水平に移動する電動巻上式のチェーンブロック5に吊りフック6を取付けて構成され、この吊りフック6付きのチェーンブロック5で吊荷を上げ下げする。7はチェーンブロック5の巻上/巻下を制御する操作盤である。
【0005】
また、ビーム2の基端部に、平面形状がコの字形のスカート部8がマスト1に沿って下向き垂直に設けられ、このスカート部8の下端部に、荷重の反力受けとしての左右一対のガイドローラ9,9がローラ枠10を介して取付ボルト11…によって取付けられている。
【0006】
一方、ビーム2の先端に旋回用引きロープ12が取付けられ、同ロープ12を引っ張ってビーム2を左右に旋回させるように構成されている。
【0007】
なお、このようなジブクレーンについて本発明に関連する先行特許文献は見当たらない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、このような手動旋回式の従来のジブクレーンにおいては、ビーム2の旋回中心部分での旋回抵抗が軸受3によってきわめて小さくなっており、ビーム2が、風を受けても回ってしまうほど小さな力で旋回するため、据付面のわずかな傾斜によって勝手に旋回したり、手動旋回時に力の加減によって急旋回したり旋回速度が速くなり過ぎたり、また目標地点をオーバーする過旋回が生じたりする等、作業性及び安全性の点で好ましくない事態が発生していた。
【0009】
なお、対策として軸受性能を落としてビーム3の旋回中心部分の回転抵抗を増加させることが考えられるが、こうすると軸受部分ががたついて旋回運動の滑らかさが失われる等、弊害が大きいため得策でない。
【0010】
そこで本発明は、軸受による滑らかな旋回性能を落とすことなく、ビームの旋回運動に対して制動機能を働かせて旋回の作業性及び安全性を向上させることができるジブクレーンを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明は、固定されたマストの上部に吊り腕としてのビームが軸受によって縦軸まわりに旋回自在な状態で張り出され、このビームに、荷を吊り上げる吊り装置が設けられたジブクレーンにおいて、上記ビームの旋回運動に対するブレーキ力を発揮するブレーキ装置が設けられたものである。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1の構成において、マストが円筒状に形成される一方、ビームの基端部にスカート部がマストに沿って下向きに設けられ、このスカート部に、ブレーキ体と、このブレーキ体をマストの外周面に押し付けてブレーキ力を発揮させる押し付け機構とから成るブレーキ装置が設けられたものである。
【0013】
請求項3の発明は、請求項2の構成において、スカート部の下部前面側に、吊り荷重の反力受けとしてガイドローラがマスト外周面に接触する状態で設けられ、スカート部の下部後面側にブレーキ装置が設けられたものである。
【0014】
請求項4の発明は、請求項2または3の構成において、押し付け機構は、ブレーキ体をマストの外周面に弾性的に押し付けるブレーキバネと、このブレーキバネを圧縮して押し付け力を調整する調整ねじとを具備するものである。
【0015】
請求項5の発明は、請求項2〜4のいずれかの構成において、ブレーキ体として、中央部にマスト外周面に接触するブレーキ面を備えたブレーキバンドが設けられ、押し付け機構が、このブレーキバンドの両端部に設けられたものである。
【0016】
請求項6の発明は、請求項5の構成において、ブレーキ面が、マスト外周面に面接触する曲面に形成されたものである。
【0017】
請求項7の発明は、請求項5または6の構成において、スカート部に、ブレーキバンドの両端部を下側から支持するバンド支持部が設けられたものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、ブレーキ装置によってビームの旋回運動に対してブレーキ力を加えるため、ビームの回転抵抗が小さ過ぎることによる回り過ぎ(据付面の傾斜に基づく自然旋回や、急旋回、速過ぎる旋回、過旋回等)を抑え、旋回の作業性と安全性を向上させることができる。
【0019】
この場合、請求項2の発明によると、ガイドローラを取付けるために元々装備されたスカート部にブレーキ装置を設けるため、ブレーキ装置を付加するための大がかりな改造や構造の複雑化を抑え、部品も節減できることからコストを安くできる。また、ブレーキ装置が低い位置にあるため、取付けやブレーキ力の調整、ブレーキ体の点検、取替え等のメンテナンスが容易となる。
【0020】
また、請求項3の発明によると、吊り荷重の反力を受ける部分(ガイドローラ)に対して反対側のほぼ同じ高さ位置にブレーキ装置を設けているため、荷を吊った状態でスカート部8の下部後面側が反力で前面側に引っ張られることにより、ブレーキバンド14がマスト外周面に押し付けられる。
【0021】
従って、荷重が大きいほどマスト外周面に対するブレーキバンド14の接触圧力が大きくなる。
【0022】
つまり、吊り荷重に応じてブレーキ力が変化し、吊荷重量が大きいほどブレーキ力が強くなり、旋回速度が抑えられるため、作業の安全性が一層高くなる。
【0023】
請求項4の発明によると、ブレーキ体をバネ力によってマストの外周面に押し付けるため、ブレーキ体がマスト外周面に確実に接触することで安定したブレーキ作用を得ることができる。また、吊荷の重量や、求められる旋回速度などに応じてブレーキ力を任意に調整することができる。
【0024】
さらに、請求項5〜7の発明によると、ブレーキバンドの両側を均等にマスト側に押すため、両旋回方向に対して均等で安定したブレーキ作用を得ることができる。
【0025】
この場合、請求項6の発明によると、ブレーキバンドのブレーキ面をマスト外周面に面接触させるため、より確実なブレーキ作用を得ることができる。
【0026】
また、請求項7の発明によると、ブレーキバンドの重量をバンド支持部で支えるため、バンドの傾きを防止し、安定した押し付け力を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の実施形態を図1〜図4によって説明する。
【0028】
以下の実施形態において、図5,6に示す従来のジブクレーンと同じ部分には同一符号を付して示し、その重複説明を省略する。
【0029】
ビーム2の基端部に設けられたスカート部8の下部後面側、すなわちガイドローラ9,9による反力受け部分と反対側でかつ反力受け部分とほぼ同じ高さ位置にブレーキ装置13が設けられている。
【0030】
このブレーキ装置13は、図2〜図4に示すようにマスト1と直交して配置されたブレーキ体としてのブレーキバンド14を備え、このブレーキバンド14がマスト1の外周面に押し付けられることによってブレーキ力が発揮される。
【0031】
このブレーキバンド14の中央部は、マスト外周面に面接触する曲面状に形成され、この曲面状の中央部にブレーキ面を形成するライニング15が取付けられている。
【0032】
また、このブレーキバンド14をマスト外周面に押し付ける押し付け機構として、ブレーキバンド14の両端部にブレーキバネ(コイルスプリング)16,16と、このブレーキバネ16,16を圧縮してバネ力(押し付け力)を調整する調整ねじ(ボルト)17,17とが設けられている。
【0033】
このブレーキ装置13をスカート部8に取付ける手段として、スカート部8の左右両側外面にブラケット18,18が取付けられている。
【0034】
このブラケット18,18には、ブレーキバンド14の両端部を下側から支持するバンド支持部19,19と、調整ねじ17,17を支持する調整ねじ受け部20,20とが設けられている。
【0035】
調整ねじ17,17は、ブレーキバネ16,16、ブレーキバンド14の両端部及び調整ねじ受け部20,20を貫通し、その貫通端側に配置されたナット21,21に対するねじ込み量を調整することによってブレーキバネ16,16の圧縮力、すなわちマスト外周面に対するブレーキバンド14の押し付け力が大小調整される。
【0036】
このブレーキ装置13により、ビーム2の旋回運動に対してブレーキ力が加えられるため、クレーン据付面の傾斜による自然旋回や、旋回操作時におけるビーム2の急旋回、速過ぎる旋回、過旋回といった回り過ぎを抑え、旋回の作業性と安全性を向上させることができる。
【0037】
この場合、ガイドローラ9,9を取付けるために元々ビーム基端部に設けられたスカート部8にブレーキ装置13を設けているため、ブレーキ装置13を装備するための取付部材をビーム2に新たに付加する必要がない。
【0038】
従って、大がかりな改造や構造の複雑化を抑え、部品も節減できるため、組立が簡単となるとともに、コストを安くできる。
【0039】
また、ブレーキ装置13がスカート部8の下部という低い位置にあるため、ブレーキ装置13の取付けやブレーキ力の調整、ブレーキバンド14の点検、取替えなどのメンテナンスが容易となる。
【0040】
一方、このブレーキ装置13によると、性能面で次のような効果を得ることができる。
【0041】
(i) 吊り荷重はビーム2から軸受3を介してマスト1に直接伝えられるほか、スカート部8及びガイドローラ9,9を介してマスト1に伝えられ、その反力がガイドローラ9,9を介してスカート部8に作用する。
【0042】
ここで、ブレーキ装置13をスカート部8の下部後面側、すなわち反力受け部分と反対側でほぼ同じ高さ位置に設けているため、上記のように荷を吊った状態でスカート部8の下部後面側が反力で前面側に引っ張られることにより、ブレーキバンド14がマスト外周面に押し付けられる。
【0043】
従って、荷重が大きいほどマスト外周面に対するブレーキバンド14の接触圧力が大きくなる。
【0044】
つまり、吊り荷重に応じてブレーキ力が変化し、吊荷重量が大きいほどブレーキ力が強くなり、旋回速度が抑えられるため、作業の安全性が一層高くなる。
【0045】
(ii) ブレーキバンド14をブレーキバネ16,16のバネ力によってマスト外周面に押し付けるため、ブレーキバンド13がマスト外周面に常に確実に接触することで安定したブレーキ作用を得ることができる。
【0046】
(iii) 調整ねじ17,17により、吊荷の重量や、求められる旋回速度などに応じてブレーキ力を任意に調整することができる。
【0047】
(iv) この場合、ブレーキバンド14の両側を均等にマスト側に押すため、両旋回方向に対して均等で安定したブレーキ作用を得ることができる。
【0048】
(v) ブレーキバンド14のライニング15をマスト外周面に互いの曲面で面接触させるため、より確実なブレーキ作用を得ることができる。
【0049】
(vi) ブレーキバンドの重量をバンド支持部19,19で支えるため、ブレーキバンド14の傾きを防止し、安定した押し付け力を得ることができる。また、組立時におけるブレーキバンド14の組み込みが容易となる。
【0050】
ところで、上記実施形態ではブレーキバンド14の両端部を押してその中央部をマスト外周面に圧接させる構成をとったが、ブレーキバンド14の中央部を直接、ブレーキバネと調整ねじでマスト外周面に押し付ける構成をとってもよい。
【0051】
また、ブレーキ体としてはブレーキバンド14に限らず、ディスクをマスト外周面に圧接させるディスクブレーキを採用してもよい。
【0052】
さらに、バンド式またはディスク式のブレーキ体を、上記実施形態のようにスカート部8の下部でなく、上部または中間部の後面側、もしくは前面側、あるいはマスト1を挟み込む状態で前後両側に設けてもよい。また、上部に設ける場合、スカート部8でなく、ビーム2の基端部下面側に設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施形態にかかるジブクレーンを示す側面図である。
【図2】図1のII−II線拡大断面図である。
【図3】図1の一部拡大図である。
【図4】図3に示す部分の背面図である。
【図5】従来のジブクレーンを示す側面図である。
【図6】図5のVI−VI線拡大断面図である。
【符号の説明】
【0054】
1 マスト
2 ビーム
3 軸受
4 吊り装置
5 吊り装置を構成するチェーンブロック
6 同吊りフック
8 スカート部
9,9 ガイドローラ
12 旋回用の引きロープ
13 ブレーキ装置
14 ブレーキバンド(ブレーキ体)
15 ブレーキ面を形成するライニング
16 ブレーキバネ
17 調整ねじ
18 ブレーキ装置取付用のブラケット
19,19 同ブラケットのバンド支持部
20,20 同ブラケットの調整ねじ受け部
21 調整ねじがねじ込まれるナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定されたマストの上部に吊り腕としてのビームが軸受によって縦軸まわりに旋回自在な状態で張り出され、このビームに、荷を吊り上げる吊り装置が設けられたジブクレーンにおいて、上記ビームの旋回運動に対するブレーキ力を発揮するブレーキ装置が設けられたことを特徴とするジブクレーン。
【請求項2】
請求項1記載のジブクレーンにおいて、マストが円筒状に形成される一方、ビームの基端部にスカート部がマストに沿って下向きに設けられ、このスカート部に、ブレーキ体と、このブレーキ体をマストの外周面に押し付けてブレーキ力を発揮させる押し付け機構とから成るブレーキ装置が設けられたことを特徴とするジブクレーン。
【請求項3】
請求項2記載のジブクレーンにおいて、スカート部の下部前面側に、吊り荷重の反力受けとしてガイドローラがマスト外周面に接触する状態で設けられ、スカート部の下部後面側にブレーキ装置が設けられたことを特徴とするジブクレーン。
【請求項4】
請求項2または3記載のジブクレーンにおいて、押し付け機構は、ブレーキ体をマストの外周面に弾性的に押し付けるブレーキバネと、このブレーキバネを圧縮して押し付け力を調整する調整ねじとを具備することを特徴とするジブクレーン。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれか1項に記載のジブクレーンにおいて、ブレーキ体として、中央部にマスト外周面に接触するブレーキ面を備えたブレーキバンドが設けられ、押し付け機構が、このブレーキバンドの両端部に設けられたことを特徴とするジブクレーン。
【請求項6】
請求項5記載のジブクレーンにおいて、ブレーキ面が、マスト外周面に面接触する曲面に形成されたことを特徴とするジブクレーン。
【請求項7】
請求項5または6記載のジブクレーンにおいて、スカート部に、ブレーキバンドの両端部を下側から支持するバンド支持部が設けられたことを特徴とするジブクレーン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate