説明

ジベンズ[b,e]オキセピン誘導体の製造方法及びその中間体

【課題】市販の化合物を出発原料として使用し、抗アレルギー剤として有用なジベンズ[b,e]オキセピン誘導体を工業的有利に製造する方法を提供するとともに、その製造の新規中間体を提供すること。
【解決手段】化合物(I)を下記4工程の反応に付し、ジベンズ[b,e]オキセピン誘導体(VII)を得る方法を提供するとともに、第一工程により得られる化合物(III)を新規中間体として提供する。
【化1】


(式中、X及びYはハロゲン原子を示し、Rは低級アルキル基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗アレルギー剤として有用な下記のジベンズ[b,e]オキセピン誘導体[化合物(VII)(一般名:オロパタジン)]の製造方法と、その新規中間体(III)に関する。
【化1】

(式中、Rは低級アルキル基を示す。)
【背景技術】
【0002】
化合物(VII)の製造方法は多数開示されているが、化合物(III)を合成中間体として使用する方法は知られていない。
【0003】
【非特許文献1】ジャーナル オブ メディシナル ケミストリー(J.Med.Chem.)19(7),941(1976)
【非特許文献1】ジャーナル オブ メディシナル ケミストリー(J.Med.Chem.)20(11),1499(1977)
【特許文献1】特公昭51−95085号公報
【特許文献2】特公昭60−9510号公報
【特許文献3】特公平5−86925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記の化合物(VII)を従来の方法により製造する場合、途中の工程に危険を伴う酸化反応が必要であったり、精製困難な類縁化合物を副生するなどの理由により、精製工程が増え、収率が低下するなどの問題があった。
したがって本発明の課題は、市販の化合物を出発原料として使用し、高純度の化合物(VII)を工業的有利に製造する方法を提供するとともに、その製造の新規中間体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、市販の2−ブロモメチルベンゾニトリルを出発原料として使用することにより、所期の目的を達成することができることを見出し、さらに検討を加え本発明を完成することができた。
【0006】
すなわち本発明によれば、
[1]式(I)
【化2】

(式中、Xは脱離基を示す。)で表される化合物と、式(II)
【化3】

(式中、Rは低級アルキル基を示す。)で表される化合物とを反応させて式(III)
【化4】

(式中、Rは前記と同じ。)で表される化合物とし、これを加水分解して式(IV)
【化5】

で表される化合物を得、これを溶媒に溶解し、酸無水物と強酸性物質を加え、反応させて式(V)
【化6】

で表される化合物とし、これに式(VI)
【化7】

(式中、Yはハロゲン原子を示す。)で表される化合物を反応させて式(VII)
【化8】

で表される化合物又はその薬理上許容される塩を製造する方法、
【0007】
[2]式(III)
【化9】

(式中、Rは低級アルキル基を示す。)で表される化合物、
【0008】
[3]式(I)
【化10】

(式中、Xは脱離基を示す。)で表される化合物と、式(II)
【化11】

(式中、Rは前記と同じ。)で表される化合物とを反応させて式(III)
【化12】

(式中、Rは前記と同じ。)で表される化合物を製造する方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0009】
前記[1]の発明によれば、抗アレルギー剤として有用なジベンズ[b,e]オキセピン誘導体(VII)(一般名:オロパタジン)を高純度かつ高収率で製造することができる。また、前記[2]の発明によれば、そのジベンズ[b,e]オキセピン誘導体(VII)の中間体(III)を提供することができ、さらに前記[3]の発明によれば、中間体(III)の工業的に有利な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において、化合物(I)のXとしては、例えば塩素原子、臭素原子、沃素原子、メシル基、トシル基等を挙げることができ、好ましくは臭素原子である。化合物(I)と化合物(II)との反応は、化合物(I)に対し化合物(II)を通常1倍〜1.5倍モル使用し、溶媒中、塩基の存在下で行われる。その溶媒としては、トルエン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、2−プロパノール、t−ブタノール、酢酸エチル、アセトン、塩化メチレン等を挙げることができ、好ましくはトルエン、N,N−ジメチルホルムアミドである。ここで用いる塩基としては、有機塩基、無機塩基ともに使用でき、トリエチルアミン、ピリジン、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が好ましく、中でも炭酸カリウムが好ましい。この反応は前記溶媒中で塩基の存在下0℃〜120℃で行うことができ、好ましくは80℃〜90℃で1時間〜3時間行うとよい。
前記反応で得られた化合物(III)は、溶媒を留去した状態で特に精製することなく次の反応に使用することができる。
【0011】
化合物(III)の加水分解は、特に困難はなく、常法により化合物(IV)を高収率で得ることができる。
【0012】
次に、化合物(IV)を溶媒中、酸無水物及び強酸性物質の存在下で反応させることにより、化合物(V)を得る。ここで用いる溶媒としては、トルエン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸エチル、アセトン等を挙げることができ、好ましくはトルエンである。酸無水物は、化合物(IV)に対して通常1倍〜3倍モル使用し、例えば無水酢酸、無水桂皮酸、無水マレイン酸、無水フタル酸等が好適に使用できる。強酸性物質としては、トリフルオロメタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等の有機酸、ナフィオン等の強酸性樹脂、ポリリン酸、硫酸等の鉱酸を挙げることができ、好ましくはトリフルオロメタンスルホン酸やナフィオンである。その使用量は、例えばナフィオンの場合、化合物(IV)に対し重量比で0.1倍〜0.5倍、好ましくは0.25倍〜0.3倍であり、トリフルオロメタンスルホン酸の場合、触媒量程度でよい。反応温度は、0℃〜150℃が好ましく、より好ましくは100℃〜110℃である。反応は通常0.5時間〜3時間で終了する。
【0013】
化合物(V)と化合物(VI)の反応は、化合物(V)に対し化合物(VI)を1倍〜3倍モル使用し、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ヘキサン、塩化メチレン等の溶媒中で行ない、−20℃〜20℃、好ましくは−10℃〜10℃で1時間〜5時間程度行えばよい。
【実施例1】
【0014】
(1)2−(4−カルボキシメチルフェノキシ)メチル安息香酸
アセトニトリル50mlに2−ブロモメチルベンゾニトリル10g(0.051モル)、p−ヒドロキシフェニル酢酸メチル8.0g(0.048モル)および
炭酸カリウム8.6g(0.062モル)を加えて混合し、80〜90℃で2時間撹拌した。この反応混合物に40%水酸化ナトリウム水溶液60mlを加え、溶媒の約半分を減圧留去し、100℃前後で2時間撹拌した後、氷水と濃塩酸を加えてpH1とした。析出した結晶を濾取し2−(4−カルボキシメチルフェノキシ)メチル安息香酸の白色結晶13.5g(収率93%)を得た。
【0015】
(2)6,11−ジヒドロ−11−オキソジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸
2−(4−カルボキシメチルフェノキシ)メチル安息香酸5g(17.5ミリモル)及び無水酢酸3.46mlをトルエン25mlに溶解し、この溶液を100〜110℃に保って1時間撹拌後、放冷しナフィオン樹脂1.25gを加え、反応溶液を再び100〜110℃に保って9時間撹拌した。室温まで放冷後、ナフィオン樹脂を濾去して溶媒を減圧留去した。残渣をトルエンとヘプタンの混合液から再結晶して6,11−ジヒドロ−11−オキソジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸の結晶4.2g(収率89%)を得た。
【0016】
(3)(11Z)−11−[3−(ジメチルアミノ)プロピリデン]−6,11−ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸
(3−ジメチルアミノプロピル)トリフェニルホスホニウムブロミド臭化水素酸塩19.2g(0.0377モル)をテトラヒドロフラン25mlに懸濁し、氷水浴にて冷却、撹拌下、1.6規定のn−ブチルリチウムヘキサン溶液36mlを加えた。この混合液を、テトラヒドロフラン25mlに6,11−ジヒドロ−11−オキソジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸5g(0.0187モル)を溶かした溶液に滴下し、室温にて2時間撹拌した。次いで溶媒を減圧留去し、残渣に水25mlを加え、ジイソプロピルエーテルで洗浄後、水層に塩酸を加えてpHを1〜2とし、減圧濃縮した。得られた残渣に2−プロパノールを加え、かき混ぜることにより析出した白色結晶を濾取し、(11Z)−11−[3−(ジメチルアミノ)プロピリデン]−6,11−ジヒドロジベンズ[b,e]オキセピン−2−酢酸の塩酸塩4.2g(HPLC純度:99%、換算収率65.8%)を得た。
融点:250℃(分解)
元素分析:理論値(%):C 67.46 H 6.47 N 3.75
実測値(%):C 67.36 H 6.42 N 3.77
1H−NMR(DMSO−d)δ(ppm):7.38−7.28(4H,m),7.10−7.07(2H,m),6.78(1H,d),5.64(1H,t),
3.56(2H,s),3.25(2H,t),2.80(2H,m),2.71(1H,t)
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明により、抗アレルギーとして有用なジベンズ[b,e]オキセピン誘導体
(一般名:オロパタジン)を工業的に有利に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

(式中、Xは脱離基を示す。)で表される化合物と、式(II)
【化2】

(式中、Rは低級アルキル基を示す。)で表される化合物とを反応させて式(III)
【化3】

(式中、Rは前記と同じ。)で表される化合物とし、これを加水分解して式(IV)
【化4】

で表される化合物を得、これを溶媒に溶解し、酸無水物と強酸性物質を加え、反応させて式(V)
【化5】

で表される化合物とし、これに式(VI)
【化6】

(式中、Yはハロゲン原子を示す。)で表される化合物を反応させて式(VII)
【化7】

で表される化合物又はその薬理上許容される塩を製造する方法。
【請求項2】
式(III)
【化8】

(式中、Rは低級アルキル基を示す。)で表される化合物。
【請求項3】
式(I)
【化9】

(式中、Xは脱離基を示す。)で表される化合物と、式(II)
【化10】

(式中、Rは前記と同じ。)で表される化合物とを反応させて式(III)
【化11】

(式中、Rは前記と同じ。)で表される化合物を製造する方法。

【公開番号】特開2007−31363(P2007−31363A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−218011(P2005−218011)
【出願日】平成17年7月27日(2005.7.27)
【出願人】(593030071)大原薬品工業株式会社 (40)
【Fターム(参考)】