説明

ジペプチジルペプチダーゼIVの阻害剤としてのN−置換チオモルホリン誘導体およびその医薬的使用

ジペプチジルペプチダーゼIVの阻害剤としての、式IのN-置換チオモルホリン化合物、その異性体、医薬として許容できる塩、溶媒和物、水和物またはプロドラッグ。式Iの化合物の調製方法。式Iの化合物を含む医薬組成物。医薬技術分野における、特には、糖尿病、特にII型糖尿病、高血糖症、X症候群、高インスリン血症、肥満症、アテローム性動脈硬化症、および免疫系によって調節される全種類の疾患を治療および予防するための医薬調製における式Iの化合物の使用。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPP-IV)の阻害剤としてのN-置換チオモルホリン誘導体、またはその可能な異性体、医薬として許容できる塩、溶媒和物、水和物もしくはプロドラッグ、ならびに式Iの化合物を調製する方法、式Iの化合物を含む医薬組成物、および医療分野における、特には、糖尿病(特にII型糖尿病)、高血糖症、X症候群、高インスリン血症、肥満症、アテローム性動脈硬化症、および免疫系によって調節される全種類の疾患を治療および予防するための医薬の調製における式Iの化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ジペプチジルペプチダーゼIV(DPP-IV)は、様々な哺乳動物の組織に広く発現し、一種のT細胞活性化抗原CD26であり、一種のアデノシンデアミナーゼ(ADA)結合タンパク質でもある、マルチファンクショナルII型膜貫通グリコシル化タンパク質である。ヒトDPP-IV(hDPP-IV)の単鎖は、5つの構造ドメイン:cytomereドメイン(1〜6)、膜貫通ドメイン(7〜28)、高グリコシル化ドメイン(29〜323)、システインリッチドメイン(324〜551)および触媒ドメイン(552〜766)に分けられる766のアミノ酸からなり、異なる種は、これらのドメインの長さにおいて互いに僅かに異なる。可溶性DPP-IVは、約210〜290kDaのホモ二量体であり、重合して最高900kDaの複合体を形成することもできる。DPP-IVは、高グリコシル化ドメインおよびシステインリッチドメインによってアミノ末端で形成される疎水性ヘリックスを介して膜と結合し、カルボキシル末端のそのセリンプロテアーゼドメインは、α/δ加水分解酵素と相同である。DPP-IVの二量体形態は、それが効果を発揮する予備条件である(ヘテロ二量体は、一種の線維芽細胞活性化タンパク質FAPαである)。
【0003】
DPP-IVが、神経ペプチドの代謝、T細胞の活性化、癌細胞および内皮の付着、ならびにHIVのリンパ球への侵入において、重要な役割を果たしていることは一般に同意されている。DPP-IVは、最後から2番目のアミノ酸が主にプロリン、アラニンまたはヒドロキシプロリンであるペプチドのN-末端から、ジペプチドを特異的に切断することができる。DPP-IVが効果を発揮する基質として、T2DM免疫応答シグナル伝達の過程において重要な役割を果たす2種類のインクレチン:グルカゴン様ペプチド1(GLP-17-36)および胃抑制ペプチド(GIP1-42)のセグメントが挙げられる。GLP-1およびGIPは、摂取される炭水化物および脂肪に応答して、胃粘膜のL細胞およびK細胞によってそれぞれ分泌され、摂食後の血中糖濃度を安定させるのに重要な役割を果たしているインクレチンである。食後、胃粘膜ストレス分泌物のGLP-1およびGIPは、ともに膵臓に作用してグルコース誘発インスリン分泌を強化し、血中糖濃度を調節する。一方、生体内におけるDPP-IVは、それらを加水分解して対応するアミノ末端切断のGIP3-42およびGLP-19-36を生成するため、それらはインスリン誘発活性を失う。したがって、DPP-IVの阻害剤は、GIPおよびGLP-1の活性を強化し、それに応じて糖耐性レベルを改善することが可能であることが分かる。
【0004】
Marguetら、およびConarelloらによって得られたDPP-IV欠損マウスの実験結果により、DPP-IV欠損マウスが、完全に生存することができ、正常表現型を所有する一方、野生型マウスと比較して、DPP-IV欠損マウスも、より高い糖耐性およびより高い血中インスリンGLP-1濃度を呈することが実証された。
【0005】
要するに、血漿DPP-IV活性を阻害することは、血中糖濃度を低下させるのに有効であり、下記に列挙する少なくとも3つの機序において作用する:
第一に、インスリンの活性を保護する:生理学的条件下で、血液循環におけるインタクトなGLP-1の半減期は1分未満であり、DPP-IVでの分解後のGLP-1の不活性代謝物は、GLP-1受容体と結合して活性GLP-1に拮抗し、それによって、単独で注入されたGLP-1の作用期間を短くする一方、DPP-IVの阻害剤は、内因性GLP-1および外因性GLP-1さえも、DPP-IVによる非活性化から完全に保護することができる。GLP-1は、インスリン遺伝子発現の促進、β細胞成長の促進、グルカゴン分泌の阻害、腹部膨満感の獲得、摂取の減少、および胃排出の阻害を含めて、様々な生理的活性を有しており、それによって血中糖レベルを正常化することが知られている;ならびに、DPP-IVの阻害剤は、GLP-1のレベルを増加させることに加えて、GLP-1代謝物の拮抗作用を低減できることも知られている。その上、小腸の上部にあるk細胞によって分泌されたGIPは、Gタンパク質共役受容体に作用することにより、アデニル・シクラーゼ、活性化酵素A2の活性を増加して、細胞中のカルシウムイオンレベルを増加し、インスリンの放出を促進する。GIPは、プロインスリン遺伝子の転写および翻訳を促進し、形質膜のグルコース転移を亢進させ、β細胞ヘキソキナーゼの活性を増加させることも可能であり、したがって、GIPは、II型糖尿病(T2DM)の治療に有効である。しかし、GLP-1と同様に、内因性GIPも、DPP-IVによって急速に非活性化される。Deaconらは、ブタにGIPを静脈内注射した後、放射免疫アッセイによって示されたインタクトなGIPの免疫能は僅か14.5%であることを明らかにした。DPP-IVの阻害剤を使用した場合、GIPの免疫能は49%に増加した。これにより、DPP-IVは、生体内でGIPを分解する唯一の酵素ではないが、GIPの非活性化に重要な役割を果たしていることが実証された。明らかに、DPP-IVの阻害剤は、活性インクレチンを保護することができるので、その結果、活性インクレチンは、その効力を発揮することができる。
【0006】
第二に、膵島β細胞の再生を刺激する:Pospisilikらは、P32/98(DPP-IVの阻害剤)を、2回/日、ストレプトゾトシン誘発DM雄性マウスに投与し、7週間後、免疫組織化学的分析によって、対照群と比較して、膵島の数が35%増加し、β細胞全体の数が120%増加し、膵島β細胞の画分が12%増加し、血漿インスリンレベルが正常に近づきつつあることが認められた。インスリン再生の刺激、およびβ細胞生存の増加に対するDPP-IVの阻害剤の効力は、それが、膵島におけるネスチン陽性膵島誘導前駆体(NIP)細胞の表面で、GLP-1とGLP-1受容体との間の結合を改善し、それによって、NIP細胞が膵島細胞に分化するのを促進するためであると思われる。
【0007】
第三に、糖耐性およびインスリン感受性を向上する:DPP-IVの阻害剤は、DMを治療するのに有効であるだけでなく、DMの発生および発達を延ばす点において予防的効力も発揮することができることが、研究によって示された。Sudreらは、FE999011(長期活性のDPP-IVの阻害剤)を使用することによって肥満マウスの治療を研究し、FE999011が、用量依存的にグルコースの放出を遅延させ、FE999011を10mg/kg、2回/日の適用により、糖耐性を増加できることを証明した。上記で述べたのと同じ用量を使用することによる長期治療は、肥満マウスにおける高血糖症の発生を21日延ばすことができる一方、多飲症および過食などの症状を強め、高トリグリセリド血症の発生を減少し、血中遊離脂肪酸の増加を予防することができ、さらに、治療後、基礎血漿GLP-1レベルは増加し、膵臓GLP-1受容体の遺伝子発現は明らかに亢進した。したがって、該研究者らは、DPP-IVの阻害剤が、障害性グルコース耐性がII型糖尿病に発達するのを延ばすことができると考えた。他の研究においても、DPP-IVの阻害剤の適用は、障害性グルコース耐性を改善し、インスリン感受性を増加し、グルコースに対するβ細胞の応答を改善することができることが示された。
【0008】
したがって、DPP-IVの阻害剤は、II型糖尿病、およびDPP-IVによって調節される他の疾患を治療することが可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPP-IV)の活性を阻害することによって、エンテロインスリン(enteroinsulin)を分解から保護し、障害性グルコース耐性を改善し、インスリン感受性を増加させて、血中糖レベルを低減させる目的を果たし、したがって、糖尿病およびDPP-IVによって調節される他の疾患を有効的に治療することが可能である、新規な構造を有するジペプチジルペプチダーゼIV阻害剤の一種類を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、請求項において定義した通りの式Iの新規化合物、またはこの可能な異性体、医薬として許容できる塩、溶媒和物、水和物もしくはプロドラッグを提供する:
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、
R1は、水素、シアノ、ハロゲンまたはトリフルオロメチルから選択され、
Aは、その側鎖に少なくとも1個の官能基を含有するアミノ酸であり、
Bは、Aの側鎖で前記官能基に共有結合している化合物であり、0から5つのアミノ酸からなるポリペプチド類から選択される)。
【0013】
本発明の一実施形態において、式IにおけるAは、α-アミノ酸である。
【0014】
本発明の別の実施形態において、式IにおけるAは、天然型α-アミノ酸である。
【0015】
本発明の別の実施形態において、式IにおけるAは、非天然型アミノ酸である。
【0016】
本発明の別の実施形態において、式IにおけるAは、ロイシン、バリン、グリシン、アラニン、バリン、イソロイシン、フェニルアラニン、プロリン、トリプトファン、セリン、チロシンおよびシステインからなる群から選択され、好ましくはバリンである。
【0017】
本発明の最も好ましい化合物は:
化合物1:(R)-3-シアノ-4-(2-アミノ-3-メチル-ブチリル)チオモルホリン塩酸塩、もしくは
化合物2:(R)-3-シアノ-4-(2-アミノ-4-メチル-ペンタノイル)チオモルホリン塩酸塩、
またはその可能な異性体、医薬として許容できる塩、溶媒和物、水和物もしくはプロドラッグである。
【0018】
別の態様において、本発明は、式Iの化合物、またはその医薬として許容できる塩もしくは水和物を調製する方法に関する。
【0019】
本明細書の式Iの化合物は、以下の反応式に従って、BOC保護Aをチオモルホリン-(R)-3-カルボン酸アミドと反応させることによって調製することができる:
【0020】
【化2】

【0021】
(式中、Aは、その側鎖に少なくとも1個の官能基を含有するアミノ酸であり、好ましくはバリンおよびロイシンである)。
【0022】
具体的には、BOCで保護されたようなアミノ酸、および等モルのチオモルホリン-(R)-3-カルボン酸アミドを、乾燥THF中に溶解し、次いで、1.5倍のEDCIおよび1.5倍のHOBTを添加し、2倍のジイソプロピルエチルアミンを滴下によりさらに添加した後、室温で12時間〜16時間撹拌する。反応の完了後、反応生成物を減圧下で濃縮し、水を添加することによって希釈し、次いで、酢酸エチルで抽出する。得られた有機相を、無水硫酸ナトリウムで4時間乾燥させ、そこから溶媒を減圧下で除去し、次いで、残渣を乾燥THFに溶解し、そこに2倍のトリフルオロ酢酸無水物を添加した。1時間撹拌した後、気泡が発生しなくなるまで飽和NaHCO3で生成物を洗浄し、次いで酢酸エチルで抽出し、無水硫酸ナトリウムで4時間乾燥させ、シリカゲルクロマトグラフィーカラム(酢酸エチル:シクロヘキサン=1:4)で分離して無色の油性物質を得る。油性物質を3N塩酸酢酸エチル中に溶解した後、5時間撹拌して、標的化合物を得る。必要であれば、式Iの化合物は、当技術における従来の方法に従って、この医薬として許容できる塩、溶媒和物、水和物またはプロドラッグに、さらに変換することができる。
【0023】
別の態様において、本発明は、式Iの化合物を調製するのに重要な中間体である式IIIの化合物を調製する方法に関する。本発明は、操作に簡単および容易であり、式IIIの立体選択性化合物の調製のための大規模な合成に適当である、新規種類の立体選択的環化方法を提供する。式IIIの化合物は、アンモニフィケイション(ammonification)によって式IIの化合物に変換することができ、式IIの化合物は、Aとさらに反応させて式Iの化合物を得ることができる。
【0024】
【化3】

【0025】
本明細書の式IIIの化合物は、以下の反応経路に従って調製することができる:
【0026】
【化4】

【0027】
具体的に、式IVの化合物は、酸結合剤として塩基の存在下にて、水中で立体選択的環化反応を受けて式IIIの化合物を得る。酸結合剤としての塩基は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエチルアミン、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウムを含むがこれに限定されず、好ましくは炭酸水素ナトリウムが挙げられる。
【0028】
式IIIの化合物であるチオモルホリン-3-カルボン酸メチルエステル塩酸塩の具体的な調製手順は、実施例1を参照されたい。
【0029】
本発明は、さらに、式Iの化合物またはその可能な異性体、医薬として許容できる塩、溶媒和物、水和物もしくはプロドラッグ、ならびに1つまたは複数の医薬として許容できるビヒクルまたは賦形剤を含む医薬組成物に関する。
【0030】
本明細書における「医薬組成物」という用語は、1つまたは複数の活性成分を、ビヒクルを形成する1つまたは複数の不活性成分と混合することによって、またはこれらの成分の任意の2つ以上の、直接もしくは間接的な組合せ、複合体形成または凝集によって、またはこれらの成分の1つもしくは複数の分解によって、またはこれらの成分の1つもしくは複数の他の種類の反応もしくは相互作用によって形成される任意の生成物を表す。したがって、本明細書における医薬組成物として、本発明の化合物を医薬として許容できるビヒクルと混合することによって形成される任意の組成物が挙げられる。
【0031】
本明細書における医薬組成物は、1つまたは複数の他の活性成分、例えば、1つまたは複数の、DPP-IVの他の阻害剤をさらに含むことができる。該他の活性成分は、インスリン感受性改善薬、PPARアゴニスト、ビグアナイドまたはPTP-1B阻害剤などから選択される。
【0032】
別の態様において、本発明は、糖尿病(特にII型糖尿病)、高血糖症、X症候群、高インスリン血症、肥満症、アテローム性動脈硬化症および免疫系によって調節される全種類の疾患を含むがこれに限定されない、ジペプチジルペプチダーゼIVに伴う疾患の治療用医薬の調製のための、式Iの化合物、またはその可能な異性体、医薬として許容できる塩、溶媒和物、水和物もしくはプロドラッグの使用に関する。
【0033】
別の態様において、本発明は、治療が必要な患者に、式Iの化合物、またはその可能な異性体、医薬として許容できる塩、溶媒和物、水和物もしくはプロドラッグの治療有効量を投与することを含む、ジペプチジルペプチダーゼIVに伴う疾患を治療する方法であって、ジペプチジルペプチダーゼIVに伴う疾患が、糖尿病(特にII型糖尿病)、高血糖症、X症候群、高インスリン血症、肥満症、アテローム性動脈硬化症および免疫系によって調節される全種類の疾患を含むがこれに限定されない方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態であり、本発明を例証するためのものであり、いかなる方法においても本発明を限定するものではないことが理解されよう。
【0035】
化合物の融点は、RY-1融点装置を使用することによって決定し、温度計は較正しなかった。質量スペクトルは、Micromass ZabSpec高分解能質量分析計を使用して決定した。1H NMRは、JNM-ECA-400超電導NMR分光計を使用することによって決定し、1H NMRの動作周波数は400MHzであった。
【実施例】
【0036】
(実施例1:チオモルホリン-(R)-3-カルボン酸アミドの調製)
【0037】
【化5】

【0038】
ステップ1. 2-ヒドロキシエチルシステインの調製
109.5g(0.9mol)L-システインを2000mlフラスコ中に入れ、1000mlの水で溶解し、そこに1mol/l NaOH溶液24mlを添加した。氷浴において、96ml(1.8mol)のエチレンオキシドを、システイン溶液中に滴下によりゆっくり添加した。1時間撹拌した後、氷浴を除去し、混合物を室温に温め、さらに1時間反応させた。反応生成物を、1000mlの無水エチルエーテルで4回抽出する一方、水層を回収した。水層を蒸発乾固させて、黄色結晶生成物を得た。黄色結晶生成物を、水:エタノール=85ml:350mlで再結晶させ、ろ過し、95%エタノール2000mlで洗浄し、乾燥させて、白色結晶生成物121.8gを収率74.3%で得た。
1H-NMR (400MHz, D2O) δ: 2.80 (t, 2H, J = 6.036Hz)、3.08 (dd, 1H, J1 = 7.48Hz, J2 = 14.80Hz)、3.18 (dd, 1H, J1 = 4.27Hz, J2 = 14.81Hz )、3.77〜3.81 (m, 2H)、3.96 (dd, 1H, J1 = 4.272Hz, J2 = 7.816Hz)。
【0039】
ステップ2. 2-クロロエチルシステインの調製
40g(0.24mol)の2-ヒドロキシエチルシステインを、1000mlフラスコ中に入れ、そこに550mlの濃塩酸を添加した後、7時間還流させた。還流の完了後、反応混合物を室温で放置し、白色結晶を分離し、それをろ過し、乾燥させて、白色結晶生成物41.6gを収率93.8%で得た。
1H-NMR (400MHz, D2O) δ: 3.01〜3.04 (m, 2H)、3.12 (dd, 1H, J1 = 7.35Hz, J2 = 15.07Hz)、3.26 (dd, 1H, J1 = 4.444Hz, J2 = 14.984Hz)、3.78〜3.84 (m, 2H)、4.27〜4.30 (m, 1H)。
【0040】
ステップ3. メチル2-クロロエチルシステイン塩酸塩の調製
39g(0.21mol)の2-クロロエチルシステインを、500mlの無水メタノールで溶解し、氷浴で冷却した。80ml(1.1mol)の塩化チオニルを、氷浴中の該溶液に滴下によりゆっくり添加した。その後、反応混合物を温め、室温で24時間反応させた。減圧下で溶媒を除去した後、反応生成物を無水メタノール(200ml×2)で溶解し、次いで、蒸発乾固させて、余剰の塩化チオニルを除去した。得られた固体を、50mlの無水メタノールおよび160mlの無水エチルエーテルで再結晶させた結果、白色結晶37.5gが収率76.1%で得られた。
1H-NMR (400MHz, D2O) δ: 2.99〜3.049 (m, 2H)、3.20 (dd, 1H, J1 = 7.50Hz, J2 = 14.00Hz)、3.34 (dd, 1H, J1 = 4.480Hz, J2 = 15.034Hz)、3.78〜3.82 (m, 2H)、3.90 (s, 3H)、4.45 (dd, 1H, J1 = 4.50Hz, J2 = 7.48Hz)。
【0041】
ステップ4. チオモルホリン-3-カルボン酸メチルエステル塩酸塩の調製
20g(0.085mol)のメチル2-クロロエチルシステイン塩酸塩を、200mlの水で溶解し、120ml水に溶解させた7.2g(0.085mol)の炭酸水素ナトリウム溶液を、上記で得られた溶液に氷浴条件下で滴下により添加し、次いで、氷浴中において一定温度を維持しながら、1時間混合溶液を反応させた。得られた反応生成物を、酢酸エチル(100ml×3)で抽出し、生じたエステル層を合わせ、無水硫酸ナトリウムで4時間乾燥させた。減圧下で蒸発させることによって、溶媒を除去した。生じた残渣を、400mlの無水メタノールで溶解し、室温で5日間撹拌しながら反応させた後、減圧下で蒸発させることによって溶媒を除去した。生じた残渣を、無水メタノール/酢酸エチルで再結晶させて、白色結晶8.9gを収率49.2%で得た。
1H-NMR (400MHz, DMSO-d6) δ: 2.86〜2.88 (m, 1H)、2.96〜2.99 (m, 1H)、3.06〜3.22 (m, 3H)、3.48〜3.50 (m, 1H)、3.78 (s, 3H)、4.42 (dd, 1H, J1 = 3.52Hz, J2 = 8.56Hz)、10.1 (brs, 2H)。
【0042】
ステップ5. チオモルホリン-(R)-3-カルボン酸アミドの調製
8.9g(0.042mol)のチオモルホリン-3-カルボン酸メチルエステル塩酸塩を、200mlの無水メタノールで溶解し、NH3を投入した。反応混合物を48時間反応させ、次いで、溶媒を蒸発乾固させた。生じた残渣を無水エタノールで溶解し、ろ過して不溶物を除去し、次いで、溶媒を蒸発乾固させた。その後、生じた残渣を、無水メタノール/無水エチルエーテルで再結晶させて、白色結晶5.44gを収率89.2%で得た。
1H-NMR (400MHz, CDCl3) δ: 1H-NMR (400MHz, CDCl3) δ ppm: 2.45〜2.47 (d, 1H, J = 8.4Hz)、2.50〜2.55 (m, 2H)、2.56〜2.58 (m, 1H)、3.21〜3.28 (m, 2H)、5.33 (s, 1H)、7.08 (s, 1H)、7.26 (s, 1H)。
【0043】
(実施例2:化合物1((R)-3-シアノ-4-(2-アミノ-3-メチル-ブチリル)チオモルホリン塩酸塩)の調製)
【0044】
【化6】

【0045】
0.217g(0.001mol)のBoc-Valおよび実施例1において調製された0.147g(0.001mol)のチオモルホリン-(R)-3-カルボン酸アミドを、20mlの乾燥THFで溶解し、そこに0.29g(0.0015mol)のEDCIおよび0.18gのHOBT(0.0015mol)を添加し、0.35ml(0.002mol)のジイソプロピルエチルアミンを滴下によりさらに添加した後、室温で12時間撹拌した。反応の完了後、反応生成物を減圧下で濃縮した。残渣を20mlの水で希釈し、酢酸エチル(50ml×3)で抽出した。得られた有機相を、無水硫酸ナトリウムで4時間乾燥させた後、減圧下で溶媒を除去した。生じた残渣を、20mlの乾燥THFで溶解し、そこに2.8ml(0.002mol)のトリフルオロ酢酸無水物を添加した後、1時間撹拌した。得られた生成物を、気泡が発生しなくなるまでNaHCO3の飽和水溶液で洗浄し、次いで、酢酸エチル(50ml×3)で抽出し、無水硫酸ナトリウムで4時間乾燥させ、シリカゲルクロマトグラフィーカラム(AcOEt:シクロヘキサン=1:4)で分離して、無色油性物質を得た。油性物質を、30mlの3N塩酸酢酸エチルで溶解した後、5時間撹拌した結果、白色沈殿物が得られた。析出物をろ過し、次いで、得られたフィルターケーキを、酢酸エチルで洗浄した結果、標的化合物0.072gが白色固体として、収率27.2%で得られた。
1H-NMR (400MHz, DMSO) δ ppm: 0.90〜0.95 (m, 6H)、2.01〜2.06 (m, 1H)、2.50 (s, 1H)、2.85〜3.01 (m, 3H)、3.39〜3.44 (m, 1H)、4.33〜4.44 (m, 2H)、6.15 (s, 1H)、8.43 (brs, 3H)。
FAB-MS m/e: 228 [M+1]+
【0046】
(実施例3:化合物2((R)-3-シアノ-4-(2-アミノ-4-メチル-ペンタノイル)チオモルホリン塩酸塩)の調製)
【0047】
【化7】

【0048】
0.231g(0.001mol)のBoc-Leuおよび実施例1において調製された0.147g(0.001mol)のチオモルホリン-(R)-3-カルボン酸アミドを、20mlの乾燥THFで溶解し、そこに0.29g(0.0015mol)のEDCIおよび0.18gのHOBT(0.015mol)を添加し、0.35ml(0.002mol)のジイソプロピルエチルアミンを、滴下によりさらに添加した後、室温で12時間撹拌した。反応の完了後、反応生成物を減圧下で濃縮した。残渣を20mlの水で希釈し、酢酸エチル(50ml×3)で抽出した。得られた有機相を、無水硫酸ナトリウムで4時間乾燥させた後、減圧下で溶媒を除去した。生じた残渣を、20mlの乾燥THFで溶解し、そこに2.8ml(0.002mol)のトリフルオロ酢酸無水物を添加した後、1時間撹拌した。得られた生成物を、気泡が発生しなくなるまでNaHCO3の飽和水溶液で洗浄し、次いで、酢酸エチル(50ml×3)で抽出し、無水硫酸ナトリウムで4時間乾燥させ、シリカゲルクロマトグラフィーカラム(酢酸エチル:シクロヘキサン=1:4)で分離して、無色油性物質を得た。油性物質を、30mlの3N塩酸酢酸エチルで溶解した後、5時間撹拌した結果、白色沈殿物が得られた。析出物をろ過し、次いで、得られたフィルターケーキを、酢酸エチルで洗浄した結果、標的化合物0.096gを白色固体として、収率34.8%で得られた。
1H-NMR (400MHz, D2O) δ ppm: 0.77〜0.81 (m, 6H)、1.41〜1.61 (m, 1H)、2.48〜2.52 (d, 1H, J = 7.6Hz)、2.68〜2.28 (m, 2H)、2.90〜2.95 (m, 1H)、3.51〜3.57 (t, 2H, J = 12.4Hz)、3.88〜3.93 (d, 1H, J = 14.4Hz)、3.35〜3.70 (m, 1H)、5.97 (s, 1H)。
EI-MS m/e: 241 [M+]。
【0049】
(実施例4:DPP-IV阻害活性ならびに化合物1および化合物2のIC50の決定)
ステップ1. DPP-IVの調製
ヒト大腸癌細胞株細胞(Caco-2)の培養:Caco-2細胞を、DMEM(10%ウシ胎児血清、1%NAAを含有する高グルコース)の培地で培養し、株化細胞を、1:1または1:2の比率で継代し、ほぼコンフルエンスに達した後、2〜3日毎に培地を1回取り替えながら、細胞を2〜3週間さらに培養した。細胞が刷子縁突出を呈しているのが観察された時、細胞が分化済みであったことが実証され、次いで、細胞を回収した。
【0050】
DPP-IVの調製:細胞を、予冷したPBSで2〜3回洗浄し、0.5〜1mlの氷冷10mMトリス-HCl(0.15M NaCl、0.04t.i.uアプロチニン、0.5%非イオン性界面活性剤P40含有、pH8)を、各培養ビンに添加して、細胞を溶解した後、遠心管においてそれらを回収した。4℃、35000g、30分間で遠心分離後、得られた上澄みを回収し、タンパク質含有量の検出を行い、次いで、低温冷蔵庫に貯蔵した。
【0051】
ステップ2. DPP-IVの活性決定および化合物のスクリーニング
試験群には、酵素対照群、基質対照群、酵素反応対照群および化合物群があり、試験は、150μLの反応系を使用し、96穴プレート中で行った。96穴プレートにおいて、希釈した試験化合物を、該化合物群に30μL/ウェルで添加し、20μLのDPP-IV溶液を、酵素対照群ならびに該化合物群に添加し;分析用緩衝液(140mM NaCl、10mM KCl、1%ウシ血清アルブミン含有する25mMトリス-HCl pH7.4)を、酵素対照群に130μL、基質対照群に125μL、酵素反応対照群に105μL、および該化合物群に75μL添加し;次いで、25μLの基質(1mM)を添加した後、室温で10分間反応させた。酵素対照群には基質を添加しなかった。10分間の反応後、25%氷酢酸を19μL/ウェルで添加して、反応を終結させた。酵素較正装置を使用し、405nMの波長で吸光度を決定した。算定した阻害率を、以下の表に列挙した。
【0052】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iの化合物、またはその可能な異性体、医薬として許容できる塩、溶媒和物、水和物もしくはプロドラッグ:
【化1】

(式中、
R1は、水素、シアノ、ハロゲンまたはトリフルオロメチルから選択され、
Aは、その側鎖に少なくとも1個の官能基を含有するアミノ酸であり、
Bは、Aの側鎖で前記官能基に共有結合している化合物であり、0から5つのアミノ酸からなるポリペプチドからから選択される)。
【請求項2】
式IにおけるAが、α-アミノ酸、好ましくは天然型α-アミノ酸である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
式IにおけるAが、非天然型アミノ酸である、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
式IにおけるAが、ロイシン、バリン、グリシン、アラニン、バリン、イソロイシン、フェニルアラニン、プロリン、トリプトファン、セリン、チロシンおよびシステインからなる群から選択され、好ましくはバリンである、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
(R)-3-シアノ-4-(2-アミノ-3-メチル-ブチリル)チオモルホリン塩酸塩
(R)-3-シアノ-4-(2-アミノ-4-メチル-ペンタノイル)チオモルホリン塩酸塩
から選択される請求項1に記載の化合物、またはその異性体、医薬として許容できる塩、溶媒和物、水和物もしくはプロドラッグ。
【請求項6】
以下の反応式に従って、BOC-保護Aをチオモルホリン-(R)-3-カルボン酸アミドと反応させる段階を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の化合物を調製する方法:
【化2】

(式中、Aは、その側鎖に少なくとも1個の官能基を含有するアミノ酸である)。
【請求項7】
前記方法における重要な中間体のチオモルホリン-(R)-3-カルボン酸アミドを、以下の段階によって調製する、請求項6に記載の方法:
酸結合剤としての塩基の存在下にて水中で立体選択的環化反応を下記式IVの化合物に行う段階、下記式IIIの化合物を得る段階、および次いで、アンモニフィケイションによって、式IIIの化合物をチオモルホリン-(R)-3-カルボン酸アミドに変換する段階。
【化3】

【請求項8】
式Iの化合物、またはその可能な異性体、医薬として許容できる塩、溶媒和物、水和物もしくはプロドラッグ、および1つまたは複数の医薬として許容できるビヒクルまたは賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項9】
ジペプチジルペプチダーゼIVの阻害剤を調製するための、請求項1に記載の化合物の使用。
【請求項10】
糖尿病(特にII型糖尿病)、高血糖症、X症候群、高インスリン血症、肥満症、アテローム性動脈硬化症および免疫系によって調節される全種類の疾患を含むがこれに限定されない、ジペプチジルペプチダーゼIVに伴う疾患を治療および/または予防するための医薬を調製するための、請求項1に記載の化合物の使用。

【公表番号】特表2010−523502(P2010−523502A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−501351(P2010−501351)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【国際出願番号】PCT/CN2007/001757
【国際公開番号】WO2008/119208
【国際公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(509275943)北京摩力克科技有限公司 (1)
【Fターム(参考)】