説明

ジュベール症候群に関連するCC2D2A遺伝子変異及びその同定診断法

本発明は、精神遅滞の常染色体劣性型であるジュベール症候群に関連するCC2D2A遺伝子における変異について、対象をスクリーニングする方法を提供するものである。また、本発明は、DHEGGSGMES(SEQ ID NO:1)で終結するアミノ酸配列を含む蛋白質などの、ジュベール症候群に関連する蛋白質を提供するものである。また、前記蛋白質をコードするヌクレオチド配列、及び、ジュベール症候群に関連するヌクレオチド配列もしくは蛋白質を同定するために対象をスクリーニングする方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子変異に関する。特に、本発明は、精神遅滞に関連する遺伝子変異に関する。
【背景技術】
【0002】
精神遅滞(MR)は、約600万人のアメリカ人、及び50万人を超えるカナダ人の14歳未満の子供が罹患している疾患である(Shea、2006)。MRは、認知発達障害及び適応性の発達障害によって定義される混成した疾患群に対する一般用語である。その他よく使用される用語としては、「一般的学習障害(general learning disorder)」、「精神障害(mental handicap)」、「学習能力障害(learning disability)」、「知的障害(intellectual handicap)」、及び「知的能力障害(intellectual disability)」(Leonard&Wen、2002)、また、「知的障害(mentally challenged)」及び「発育遅延(developmental delay)」(Shea、2006)などが挙げられる。MR有病率は、通常、人口の約1%とされ(Szymanski&King、1999)、女性罹患者に比べ男性罹患者の割合が高い(1.4:1;Murphy等、1998)。
【0003】
MRは、通常、知能指数(IQ)に従って分類される。「精神障害診断及び統計マニュアル(Diagnostic & Statistical Manual of Mental Disorders)」(第4版;DSM−IV、1994)では、軽度MRはIQ範囲50−55から70、中度MRは35−40から50−55、重度MDは20−25から35−40、及び最重度MRは20−25未満とされている。MR症例の病因的根拠を解明しようとする試みは重要である。なぜなら、その試みにより、関連共存症(例えば、ウィリアムズ症候群における大動脈弁狭窄症)の診断に役立つ可能性、出産前診断及び/又は遺伝カウンセリング(例えば、脆弱性X症候群)に役立つ可能性、もしくはフェニルケトン尿症のような治療可能な疾患が同定される可能性が生じるからである(Shea、2006)。さらに、MRの原因を解明することで、MR児を持つ家族が問題に対処する際、及び、支援基盤を利用する際の助けとなり得る。
【0004】
これまで、MRに対する遺伝学的貢献が行われてきた。従来より、MRの遺伝型は、2つの大範疇に細分される。一つ目の症候性MRは、認知障害及びそれに伴うその他臨床学的及び生物学的特徴によって特徴付けられる。二つ目の非症候群型のMRは、認識機能障害が唯一の症状発現である。遺伝因子は、精神遅滞症例の約3分の2の病因に関与している(Curry、2002)。罹患者が出産することは稀であるため、精神遅滞の遺伝型においては、X連鎖性もしくは常染色体劣性遺伝形式がもっとも妥当と考えられる。X連鎖性精神遅滞について、これまでに、60を超える遺伝子が報告されている(Chelly等、2006)。しかし、常染色体劣性精神遅滞の分子基盤は、まだほとんど解明されていない。常染色体劣性遺伝は、非症候性精神遅滞(NSMR)全罹患者のおおよそ4分の1において関与していると推定される(Basel−Vanagaite等にて検討)が、常染色体劣性NSMRを引き起こすものとしては、4つの常染色体遺伝子しかこれまでに報告されていない7−10。その4つの常染色体とは次の通りである:4q26染色体上PRSS12遺伝子(ニューロトリプシン[MIM #606709])、19p13.12染色体上CC2D1A遺伝子[MIM #610055]、3p26染色体上CRBN遺伝子(セレブロン[MIM #609262])、及びごく最近発見された6q16.1−q21上GRIK2(イオンチャネル型グルタミン酸受容体6[MIM #138244])。しかし、これらの遺伝子のそれぞれは、ごく少数のARMR家系員もしくは血縁のないARMR罹患者でしか確認されていない(PRSS12、N=1;CRBN、N=1;CC2D1A、N=9;GRIK2、N=1)。これら遺伝子のうちごく最近発見されたGRIK2は、78の血縁イラン家系におけるホモ接合性マッピングによって最近位置付けされた常染色体劣性非症候性精神遅滞(NSMR)についての8つの新規遺伝子座のうちの1つにおいて発見された。しかし、その他7つの遺伝子座については、疾病遺伝子もしくは変異はいまだ報告されていない(Najmabadi等、2007)。ニューロトリプシン(PRSS12)は、常染色体劣性非症候性精神遅滞の病因において最初に報告された遺伝子であった。この疾患遺伝子座は、ゲノムにおいて所定の400マイクロサテライトマーカーを用いたホモ接合性マッピングにより、4q24−q25染色体上に位置付けされた。この区間には、DKK2、PL34、CASP6、ANK2、CAMK2D、TRPC3、及びPRSS12遺伝子などの、約29の既知機能遺伝子が含まれる。全罹患者において、PRSS12遺伝子のエクソン7におけるホモ接合性4bp欠失が共分離しているのが発見され、それにより、前記欠失の147bp下流において未成熟終止コドンが生じていた(Molinari等、2002)。軽度の常染色体劣性非症候性精神遅滞を有する別の家系では、未成熟終止コドンを生じさせるナンセンス変異が、ATP依存性のLonプロテアーゼをコードするCRBN遺伝子において同定された。CからTへの置換により、前記遺伝子のアルギニン残基が、エクソン11の終止コドン(R419X)に変換されていた(Higgins等、2004)。これまで、PRSS12及びCRBN遺伝子における変異は、それぞれ一家系でしか報告されていない。最近、重度の常染色体劣性NSMRを有する9つの血縁家系において、蛋白質短縮型変異がCC2D1A遺伝子で同定された。CC2D1A蛋白質は、カルシウム依存性リン脂質結合に関与している(Basel−Vanagaite等、2006)。
【0005】
最近の研究では、78の血縁イラン家系におけるホモ接合性マッピングにより、常染色体劣性非症候性精神遅滞(NSMR)について8つの新規遺伝子座が位置付けされている。しかし、疾患遺伝子もしくは変異はいまだ報告されていない(Najmabadi等、2007)。最近公表された別の研究では、常染色体劣性非症候性精神遅滞についての新規遺伝子座が、1p21.1−p13.3に位置付けされている(Uyguner、2007)。
【0006】
当該分野では、精神遅滞に関連する遺伝子マーカーの同定が必要とされている。さらに、当該分野では、精神遅滞に関連するヌクレオチド配列の同定が必要とされている。また、当該分野では、精神遅滞に対する新規診断分析が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、遺伝子変異に関する。特に、本発明は、精神遅滞に関連する遺伝子変異に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、SEQ ID NO:7の断片を含む蛋白質が提供される。好適な実施形態において、前記蛋白質は、779もしくはそれより手前のアミノ酸において短縮される。別の実施形態において、前記蛋白質は、C2ドメインの全てもしくは一部が消失している。他の蛋白質もまた、本願記載の通り意図される。
【0009】
本発明によれば、DHEGGSGMES(SEQ ID NO:1)で終結するアミノ酸配列を含む蛋白質が提供される。
【0010】
また、本発明によれば、前記アミノ酸配列がSEQ ID NO:2、SEQ ID NO:3、もしくはSEQ ID NO:4を含む、上記蛋白質が提供される。
【0011】
また、本発明によれば、SEQ ID NO:3との同一性が約80%から100%である上記蛋白質が提供される。
【0012】
また、本発明は、上記蛋白質をコードする核酸を提供する。
【0013】
また、本発明は、SEQ ID NO:3もしくは4で定義される蛋白質をコードする上記核酸を提供する。
【0014】
また、本発明は、上記核酸の相補体を含む核酸を提供する。さらに別の実施形態(限定するものではない)において、前記核酸は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、上記核酸もしくはその相補体とハイブリッド形成することができる。
【0015】
また、本発明は、7から100個のヌクレオチドを含む上記核酸を提供する。さらに、前記核酸を、1以上の部位で標識してもよい。
【0016】
また、本発明は、上記ヌクレオチド配列であって、前記配列が、1つ以上の調節エレメントを含むヌクレオチド構造物中に存在することを特徴とするヌクレオチド配列を提供する。
【0017】
また、本発明は、精神遅滞に関連する遺伝子配列について対象をスクリーニングする方法を提供するものであって、前記方法は、
a)前記対象から、DNAもしくはRNAを含む生体サンプルを取得する段階と、
b)C末端にSEQ ID NO:1を含む蛋白質をコードする核酸について、前記サンプルを分析し、前記核酸の存在により、前記対象が、精神遅滞に関連する遺伝子配列を有していることが示される段階とからなることを特徴とする。
【0018】
前記方法において、前記の分析段階は、ハイブリダイゼーションアッセイ、ヌクレオチドシーケンシング、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、もしくはそれらの組み合わせの1種以上からなり得る。
【0019】
また、本発明は、上記スクリーニング方法であって、分析される前記サンプルが血液サンプルであることを特徴とするスクリーニング方法を提供する。
【0020】
さらに、本発明は、精神遅滞に関連する変異蛋白質について対象をスクリーニングする方法を提供するものであって、前記方法は、
a)前記対象から生体サンプルを取得する段階と、
b)C末端にSEQ ID NO:1を含む蛋白質について、前記サンプルを試験し、前記蛋白質の存在により、前記対象が精神遅滞に関連する変異蛋白質を発現する遺伝子配列を有していることが示される段階とからなることを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、精神遅滞に関連する遺伝子配列について対象をスクリーニングする方法を提供するものであって、前記方法は、
a)前記対象から、DNAもしくはRNAを含む生体サンプルを取得する段階と、
b)SEQ ID NO:7で定義されるCC2D2A蛋白質、アイソフォーム、もしくは自然発生したその対立遺伝子多型をコードするヌクレオチド配列における1つ以上の変異について、前記サンプルを分析し、前記1つ以上の変異の存在により、前記蛋白質の1個以上のアミノ酸の欠失、もしくは前記蛋白質の未成熟短縮が生じる結果となり、前記対象が精神遅滞に関連する遺伝子配列を有していることが示される段階とからなることを特徴とする。
【0022】
また、本発明は、上記方法であって、前記の1つ以上の変異が、欠失、逆位、転座、重複、スプライスドナー部位変異、点変異、もしくはその類であることを特徴とする方法を提供する。
【0023】
また、本発明は、上記方法であって、前記の1つ以上の変異がエクソン19で生じることを特徴とする方法を提供する。
【0024】
また、本発明は、上記方法であって、前記の1つ以上の変異が、C2ドメインの全てもしくは一部を消失させることを特徴とする方法を提供する。
【0025】
また、本発明は、上記方法であって、前記の1つ以上の変異により、779もしくはそれより手前のアミノ酸におけるCC2D2A蛋白質の短縮が生じることを特徴とする方法を提供する。
【0026】
また、本発明は、上記方法であって、前記の1以上の変異により、前記蛋白質に、1個以上のナンセンスアミノ酸(nonsense amino acid)が付加されることを特徴とする方法を提供する。
【0027】
また、本発明は、
a)DHEGGSGMES(SEQ ID NO:1)で終結し、且つ精神遅滞に関連するアミノ酸配列を含む蛋白質、
b)SEQ ID NO:7で定義される蛋白質の短縮型、もしくはC2ドメインの全てもしくは一部が欠失した蛋白質、
c)好適には精神遅滞に関連しない類似CC2D2A野生型蛋白質でなく、上記a)、b)、もしくはa)及びb)の蛋白質に選択的に結合する抗体、
d)本願記載の精神遅滞に関連する変異を含む蛋白質もしくはその断片をコードするヌクレオチド配列を増幅するための1つ以上の核酸プライマー、
e)本願記載の精神遅滞に関連する変異を含む蛋白質もしくはその断片をコードするヌクレオチド配列とハイブリッド形成する、約9から100個のヌクレオチドを含む1つ以上の核酸プローブ、
f)バッファ、dATP、dTTP、dCTP、dGTP、DNAポリメラーゼ、もしくはそれらの組み合わせを含む1以上の試薬、
g)対象において、精神遅滞に関連するヌクレオチド配列もしくは蛋白質の存在を分析、診断、もしくは決定するための指示事項、
h)本願記載の成分を使用する、もしくは本願記載の方法を行うための指示事項、もしくは、それらの組み合わせ、もしくはそれらの下位組み合わせ(sub−combination)を含むキットを意図するものである。
【0028】
本発明のこの概要は、必ずしも、本発明の全特徴を記載したものではない。
【0029】
本発明の上記及びその他の特徴は、添付図面を参照する下記説明によって一層明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本願記載の代表的な蛋白質及びヌクレオチド配列を示したものである。A)網膜色素変性症を伴う精神遅滞に関連する、第一のCC2D2A短縮蛋白質、B)網膜色素変性症を伴う精神遅滞に関連する、第二のCC2D2A短縮蛋白質、C)CC2D2A短縮蛋白質をコードする代表的なヌクレオチド配列、D)非短縮蛋白質をコードする代表的な野生型CC2D2Aヌクレオチド配列、及びE)代表的な野生型CC2D2A蛋白質。
【図2】ミアンワリ地区出身家系の家系図を図示したものである。
【図3】前記ミアンワリ家系における二点及び多点連鎖解析を図示したものである。
【図4】前記ミアンワリ家系におけるハプロタイプ解析を示したものである。
【図5】CC2D2A遺伝子における変異領域のイデオグラム的な表現である。
【図6】CC2D2A cDNA及びコードされた蛋白質のイデオグラム的な表現である。
【図7】複数の組織におけるCC2D2A遺伝子の発現を示したものである。
【図8】ウサギ抗血清が組み換えCC2D2Aを認識した結果を示したものである。Cos−7細胞を、空のベクター(1)、CC2DAHisMyc(2)、もしくはPTCHD1HisMyc(3)でトランスフェクトした。レーン2の150から250Kdaの間で強いバンドがみられるが、対照レーン1及び3では検知されない。理論的サイズは、191kDa(186kDaのCC2D2Aと、6kDaのHisMycタグとの加算)である。抗血清を、0.1%TBS−T含有5%ミルク溶液で、1:500に希釈した。二次抗体は、1:20000に希釈した抗ウサギIgG HRP(Jackson immunoresearch)であった。
【発明を実施するための形態】
【0031】
下記に好適な実施形態を記載する。
【0032】
本発明者等は、ホモ接合性マッピング及びそれに続く変異スクリーニングにより、網膜色素変性症を伴う常染色体劣性精神遅滞に関与する新規遺伝子を同定した。前記遺伝子CC2D2A(KIAA1345とも呼ばれる。;NCBI MIM entry 612013;(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/dispomim.cgi?id=612013))は、コイルドコイル領域に加え、蛋白質のC末端領域付近にC2ドメインを含んでいる。C2モチーフは、カルシウム依存性リン脂質結合に関与すると考えられる。これまでに同定されている3つのARMR遺伝子の1つであるCC2D1Aもまた、コイルドコイル領域に加え、蛋白質のC末端に向かって単一のC2ドメインを含んでいる。いかなる場合においても理論に拘束されたり、限定することを望むものではないが、これら2つの蛋白質は類似機能を有し、且つ神経発達(阻害されることにより発達遅延が生じる)にとって重要な同一もしくは並行経路の構成要素である可能性がある。
【0033】
蛋白質及びアミノ酸
本発明によれば、SEQ ID NO:7の断片を含む蛋白質が提供される。好適な実施形態において、前記蛋白質は、779もしくはそれより手前のアミノ酸において短縮される。別の実施形態において、前記蛋白質は、C2ドメインの全てもしくは一部が消失している。他の蛋白質もまた、本願記載の通り意図される。
【0034】
本発明によれば、DHEGGSGMES(SEQ ID NO:1)で定義されるアミノ酸配列、より好適には、TLDHEGGSGMES(SEQ ID NO:2)で定義されるアミノ酸配列で終結する蛋白質が提供される。SEQ ID NO:1にて提供される前記配列は、より大きな蛋白質、例えば、これに限るものでないが、SEQ ID NO:3もしくはSEQ ID NO:4で定義される蛋白質のC末端を構成してもよい。
【0035】
また、本発明では、SEQ ID NO:3の断片を含む蛋白質も意図され、前記断片は、SEQ ID NO:1で定義されるアミノ酸配列で終結する断片であり、例えば、SEQ ID NO:2を含むアミノ酸X−783(Xは、例えば、2、5、10、20、50、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、710、720、730、740、750、760、770、772、もしくはその間の任意の値であるが、これに限るものでない。)が挙げられる。
【0036】
本発明は、さらに、SEQ ID NO:3で定義される少なくとも11の連続アミノ酸を含んでなる80%〜100%の同一性を有し、且つ、DHEGGSGMES(SEQ ID NO:1)で定義されるアミノ酸配列で終結する蛋白質を意図する。例えば、前記蛋白質は、SEQ ID NO:3との同一性が、80%、82%、84%、86%、88%、90%、92%、94%、96%、98%、99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、99.9%、もしくは100%であっても良く、そのC末端はSEQ ID NO:1で終結している。さらに、前記蛋白質は、上記値のうちの任意の2つの値、もしくは上記値の間の任意の値で定義される特定パーセントの同一性もしくは幅のある同一性を有していてもよい。
【0037】
ポリペプチド配列間の同一性の程度の決定には、当該分野で周知のあらゆる方法を用いることができる。密接に関連した配列を検索するために、例えば、Tatiana等(FEMS Microbial Lett.174:247 250(1999))や、全米バイオテクノロジー情報センターのウェブページ(ncbi.nlm.gov/BLAST/)に記載されているようなデフォルトパラメータに従い、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool;Altschul S F、Gish W、Miller W、Myers E W、Lipman D J(1990)、J Mol Biol 215、403 410)などの配列検索方法を用いることができるが、これらに限られることを望むものではない。BLASTは、所定の配列アラインメントにおいて幅広く使用されており、アラインメントにおけるずれ(gaps)(挿入もしくは欠失)の導入を可能にするギャップドBLAST(Gapped BLAST)や、配列相同性について高精度な検索を行えるPSI−BLAST(Altschul等、Nucleic Acids Res.25:3389 3402(1997))のような改良されたBLASTアルゴリズム;もしくは、ExPASy(EMBL−欧州バイオインフォマティクス研究所)のウェブサイトで入手可能なFASTAなどが挙げられる。DNAもしくはRNA配列を比較して配列同一性の程度を決定するために、当該分野で周知の同様の方法を用いてもよい。
【0038】
核酸
また本発明は、核酸を意図するものであり、前記核酸は、
a)上記蛋白質もしくはその断片をコードする配列、
b)上記蛋白質もしくはその断片をコードする配列の相補体である配列、
c)ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、上記蛋白質もしくはその断片をコードする核酸とハイブリッド形成することができる配列、もしくは、
d)5’もしくは3’非翻訳領域、イントロン配列、又は、上流プロモーターもしくはその他調節配列内に含まれる核酸とハイブリッド形成することができる配列を含むことを特徴とする。
【0039】
一実施形態において、前記核酸は、SEQ ID NO:1、より好適にはSEQ ID NO:2で定義されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む。さらなる実施形態において、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、又は、SEQ ID NO:1を含むSEQ ID NO:3もしくはSEQ ID NO:4の断片をコードするヌクレオチド配列を含む核酸が提供される。例えば、いかなる場合においても限定することを望むものではないが、前記核酸は、SEQ ID NO:3をコードする配列を含んでもよい。上記の代表的な配列は例示であって、いかなる場合においても、包括的であること、もしくは限定すること意図したものではない。
【0040】
本発明のさらなる実施形態において核酸が提供されるが、前記核酸は、上記アミノ酸配列(例えば、SEQ ID NO:1)を含む蛋白質をコードする突然変異型CC2D2A遺伝子に結合する少なくとも約7個のヌクレオチドの核酸であることを特徴とし、SEQ ID NO:1以外の配列で終結する蛋白質をコードする野生型CC2D2A遺伝子には結合しない。例えば、いかなる場合においても限定するものではないが、突然変異型CC2D2A遺伝子はSEQ ID NO:5を含み、野生型CC2D2A遺伝子はSEQ ID NO:6を含む。前記核酸は、精神遅滞に関連する遺伝子変異の保因者もしくは前記遺伝子変異を有する対象を特定するスクリーニング方法におけるプローブとして用いてもよい。
【0041】
本発明では、少なくとも約7個のヌクレオチドのヌクレオチド配列を含むプローブが意図され、前記プローブは、好適には、7個を超えるヌクレオチド(例えば、これに限られないが、9、11、15、17、21、25、27、30、40、50、100、もしくはそれ以上の数のヌクレオチド)を含む。さらに、前記プローブの大きさは、上記値のうちの任意の2つの値、もしくは上記値の間の任意の値で定義され得る。また、ハイブリダイゼーションアッセイ及びその他の分析もしくは試験での同定を容易にするため、前記プローブは、当該分野で周知とされる適切な構成物(例えば、これらに限られないが、蛍光色素分子、放射活性基、化学置換基、酵素、抗体、もしくはその類の1つ以上)で標識されてもよい。
【0042】
本願記載の核酸は、精神遅滞に関連する蛋白質を産生する際の、精神遅滞を有する対象を特定もしくは診断するプローブ、対象もしくはその子孫において精神遅滞を生じさせるもしくは生じやすくさせる変異を保因する対象を特定もしくは診断するプローブ、精神遅滞に関連する遺伝子からの蛋白質産生を調節するために使用され得るアンチセンスもしくは短鎖抑制性RNA(short inhibitory RNA)、もしくはその組み合わせとして使用してもよい。
【0043】
本発明は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、本願記載の蛋白質をコードするヌクレオチド配列とハイブリッド形成する核酸を意図するものである。上記のストリンジェントなハイブリダイゼーション条件として、例えば、これに限るものではないが、65℃にて4×SSCで一晩(約16〜20時間)ハイブリダイゼーションした後、65℃にて0.1×SSCで1時間洗浄、もしくは、65℃にて0.1×SSCで20もしくは30分間の洗浄を2回行うものが挙げられる。また、典型的なストリンジェントなハイブリダイゼーション条件として、42℃にて4×SSC、50%ホルムアミド中で一晩(16〜20時間)ハイブリダイゼーションした後、65℃にて0.1×SSCで1時間洗浄、もしくは、65℃にて0.1×SSCで20もしくは30分間、もしくは一晩(16〜20時間)の洗浄を2回;もしくは、65℃でチャーチリン酸緩衝溶液(7%SDS;0.5M NaPOバッファ pH7.2;10mM EDTA)にてハイブリッド形成し、50℃にて0.1×SSC、0.1%SDSで20もしくは30分間の洗浄を2回、もしくは、ユニーク配列領域に対し、65℃にて2×SSC、0.1%SDSで20もしくは30分間の洗浄を2回行うものが挙げられる。
【0044】
本発明はさらに、1つ以上の調節エレメントもしくは調節領域へ有効に結合(operatively linked)する上記核酸を含むヌクレオチド構造物に関する。「調節エレメント」もしくは「調節領域」という用語は、必ずしもではないが通常は、遺伝子の上流にある核酸の一部を意味し、DNAもしくはRNAのいずれか、もしくはDNA及びRNAの両方を含み得る。調節エレメントとしては、器官特異性を媒介できるもの、もしくは発生遺伝子もしくは時間的な遺伝子活性化を調整できるものが挙げられる。さらに、「調節エレメント」には、プロモーターエレメント、コアプロモーターエレメント、外的刺激に反応して誘導されるエレメント、構成的に活性化されたエレメント、もしくは陰性調節エレメントもしくは転写エンハンサーなどのプロモーター活性を増減させるエレメントが含まれ得る。調節エレメント活性を示すヌクレオチド配列とは、プロモーター、コアプロモーター、構成的調節エレメント、陰性エレメントもしくはサイレンサー(すなわち、プロモーター活性を減少させるエレメント)、もしくは転写もしくは翻訳エンハンサーなどの対象となる機能のコード配列と有効に結合する際のヌクレオチド配列を意味している。
【0045】
「有効に結合(operatively linked)」とは、特定の配列同士(例えば、調節エレメント及び対象となるコード領域)が、直接的もしくは間接的に相互作用し、遺伝子発現の媒介もしくは調節といった目的とする機能を果たすことを意味する。有効に結合する配列の相互作用は、例えば、有効に結合する配列と相互作用する蛋白質によって媒介され得る。
【0046】
本願で用いられる調節エレメントには、転写開始もしくは転写の後に活性化されるエレメント、例えば、翻訳及び転写エンハンサー、翻訳及び転写リプレッサー、及びmRNA安定性もしくは不安定性デターミナントなどの、遺伝子発現を調節する調節エレメントも含まれる。本開示において、「調節エレメント」という用語は、必ずしもではないが通常は、構造遺伝子のコード配列の上流(5’)側のDNA配列も意味し、その配列には、ある特定の部位で転写を開始するのに必要なRNAポリメラーゼ及び/又はその他因子に対する認識を備えることによってコード領域の発現を調整する配列が含まれる。ある特定の部位で確実に転写を開始させるRNAポリメラーゼもしくはその他転写因子に対する認識を備えた調節エレメントの例として、プロモーターエレメントが挙げられる。プロモーターエレメントは、転写開始に関与するコアプロモーターエレメント、及び、遺伝子発現を修正するその他調節エレメントを含む。当然のことながら、イントロン内に位置するヌクレオチド配列、もしくは、コード領域配列の3’もまた、対象となるコード領域の発現調節に寄与し得る。また、調節エレメントには、転写開始部位の下流(3’)、もしくは転写領域内、もしくはその両方に位置するエレメントも含まれる。本発明においては、転写後調節エレメントとして、例えば、翻訳及び転写エンハンサー、翻訳及び転写リプレッサー、及びmRNA安定性デターミナントなどの、転写開始後に活性化されるエレメントが挙げられる。
【0047】
上記調節エレメントもしくはその断片は、異種の調節エレメントの活性を調節するために、その異種の調節エレメントもしくはプロモーターと効果的に付随(有効に結合)していてもよい。そのような調節としては、異種の調節エレメントの転写活性の増強もしくは抑制、転写後事象の調節、もしくは異種の調節エレメントの転写活性の増強/抑制及び転写後事象の調節の両方が挙げられる。例えば、1つ以上の調節エレメントもしくはその断片は、構成的、誘導性の組織特異性プロモーターもしくはその断片、もしくは調節エレメントの断片と効果的に付随し得る。例えば、これに限るものではないが、植物、昆虫、菌類、細菌、酵母、もしくは動物細胞内にある前記プロモーターの活性を調節するために、TATAもしくはGC配列を本発明の調節エレメントと効果的に付随させてもよい。
【0048】
調節エレメントには複数の種類があり、発生的に調節され、誘導性で且つ構成的なものが挙げられる。発生的に調節された調節エレメント、もしくはその制御下で遺伝子の発現差異を調整する調節エレメントは、特定の器官もしくは器官の組織内において、その器官もしくは組織が発達する間の特定の時期に活性化される。しかし、発生的に調節された調節エレメントには、ある器官もしくは組織内において、特定の発達段階で優先的に活性化されるものもあり、それらはまた、発生的に調節された方法で活性化されるか、もしくは植物内のその他の器官もしくは組織においても基礎レベルで活性化され得る。
【0049】
「プロモーター」とは、コード領域の5’末端におけるヌクレオチド配列、もしくは転写開始及び転写速度調節に不可欠なシグナル全てを含む前記ヌクレオチド配列の断片を意味する。通常、誘導性プロモーターと構成的プロモーターの2種類のプロモーターがある。
【0050】
誘導性プロモーターは、誘導因子に反応して、1つ以上のDNA配列もしくは遺伝子の転写を直接的もしくは間接的に活性化できるプロモーターである。誘導因子が存在しなければ、DNA配列もしくは遺伝子は転写されない。通常、転写を活性化する誘導性プロモーターへ特異的に結合する蛋白質因子は不活性化状態で存在し、前記蛋白質因子はその後、誘導因子によって、直接的もしくは間接的に活性化状態へ変換される。上記誘導因子は、例えば、蛋白質、代謝物、成長調節物質、又は、熱、低温、もしくは有毒物質によって直接的に課せられるか、もしくは、ウィルスなどの病原体や病因物質の作用によって間接的に課せられる生理的ストレス、などの化学的因子であり得る。
【0051】
構成的プロモーターは、生物の様々な部分を通じ、及び/又は連続的に生物の発生を通じ、遺伝子の発現を指示する。本願記載の蛋白質もしくはその断片の発現を促進するために、任意の適当な構成的プロモーターを使用することができる。周知の構成的プロモーターの例としては、これに限られないが、CaMV 35S転写物(Odell等、1985、Nature、313:810−812)に関連するものが挙げられる。
【0052】
本願で用いられる「構成的」という用語は、遺伝子が全ての細胞型において同じレベルで発現されることを必ずしも意味するとは限らず、多数の変異が頻繁に認められながらも、遺伝子が幅広い細胞型において発現されることを意味する。
【0053】
本発明の遺伝子構造物は、さらに、3’非翻訳領域を含むものである。3’非翻訳領域とは、ポリアデニル化シグナルと、mRNAプロセッシングもしくは遺伝子発現をもたらし得るその他の調節シグナルとからなるDNAセグメントを含む遺伝子部分を意味している。ポリアデニル化シグナルは、通常、mRNA前駆体の3’末端へポリアデニル酸トラック(track)を付加するという特徴を有する。
【0054】
また、本発明の遺伝子構造物は、必要な場合は、追加的なエンハンサー(翻訳もしくは転写エンハンサーのいずれか)を含んでもよい。これらのエンハンサー領域は、当業者に周知であり、ATG開始コドンおよび隣接配列を含み得る。配列全体を確実に翻訳するため、前記開始コドンは、コード配列のリーディングフレームと一致しなければならない。翻訳制御シグナルおよび開始コドンは、天然および合成の両方を含む、様々な起源に由来するものであり得る。翻訳開始領域は、転写開始領域源、もしくは構造遺伝子から提供され得る。この配列はまた、遺伝子を発現させるために選択される調節エレメントに由来してもよく、mRNAの翻訳を強化させるために特異的に修飾されてもよい。
【0055】
本発明は、さらに、上記核酸を含むベクターを含む。本発明の核酸配列での使用に適した発現ベクターとしては、これらに限られないが、プラスミド、ファージミド、ウイルス粒子及びベクター、ファージ等が挙げられる。昆虫細胞においては、バキュロウイルス発現ベクターが適している。植物細胞においては、カリフラワーモザイクウイルスやタバコモザイクウイルスなどのウィルス発現ベクター、及び、Tiプラスミドのようなプラスミド発現ベクターが適している。発現ベクター全体もしくはその一部は、宿主細胞ゲノムに組み込むことができる。
【0056】
本願記載の蛋白質もしくはその断片を産生するために、様々な発現系が使用できることは当業者に理解されるであろう。体外産生に関し、使用される明確な宿主細胞は、本発明において重要ではない。蛋白質もしくはその断片は、原核宿主(例えば、大腸菌もしくは枯草菌)もしくは、真核宿主(例えば、サッカロミセスもしくはピキア(Pichia);COS、NIH 3T3、CHO、BHK、293、もしくはHeLa細胞のような哺乳類細胞;昆虫細胞;もしくは植物細胞)において産生することができる。形質転換もしくは形質移入の方法、及び、発現ベクターの選択は、選択される宿主系に依存し、当業者によって容易に決定可能である。形質転換及び形質移入の方法は、例えば、Ausubel等(1994)Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley&Sons、New Yorkに記載されており、また、様々な発現ベクターは、例えば、Cloning Vectors:A Laboratory Manual(Pouwels等、1985、Supp.1987)にて提供されているもの、及び様々な商業供給業者によって提供されているものから選択できる。さらに、宿主細胞は、挿入配列の発現を調節するもの、もしくは特定の望ましい方法で遺伝子産物を修飾/処理するものを選べばよい。蛋白質産物のそのような修飾(例えば、グリコシル化)、及びプロセッシング(例えば、切断)は、蛋白質活性において重要である。種々の宿主細胞が、蛋白質及び遺伝子産物の翻訳後プロセッシング及び修飾に対し、特徴的且つ特異的なメカニズムをもつ。発現した蛋白質の正確な修飾及びプロセッシングを確実に行うための適切な細胞株もしくは宿主系は、当業者が選択することができる。
【0057】
スクリーニング方法
また、本発明は、精神遅滞に関連する遺伝子配列について対象をスクリーニングする方法を提供するものであって、前記方法は、
a)前記対象から、DNAもしくはRNAを含む生体サンプルを取得する段階と、
b)SEQ ID NO:7で定義されるCC2D2A蛋白質、アイソフォーム、もしくは自然発生したその対立遺伝子多型をコードするヌクレオチド配列における1つ以上の変異について、前記サンプルを分析し、前記1つ以上の変異の存在により、前記蛋白質の1個以上のアミノ酸の欠失、もしくは前記蛋白質の未成熟短縮が生じる結果となり、前記対象が精神遅滞に関連する遺伝子配列を有していることが示される段階とからなることを特徴とする。
【0058】
上記方法において、前記の1つ以上の変異には、これらに限定するものでないが、欠失、逆位、転座、重複、スプライスドナー部位変異、点変異、もしくはその類が含まれる。前記の1つ以上の変異は、例えば、エクソン1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、もしくはそれ以上の蛋白質のいかなる領域でも生じ得る。好適な実施形態において、前記の1つ以上の変異は、エクソン19で生じる。別の実施形態において、前記の1つ以上の変異は、C2ドメインの全てもしくは一部、例えば、(10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、もしくは100%といった)5%〜100%のC2ドメインを消失させる。さらなる実施形態において、前記の1つ以上の変異により、C2ドメイン(例えば、これに限るものでないが、779もしくはそれより手前のアミノ酸)のSEQ ID NO:7で定義されるCC2D2A蛋白質の短縮が生じる。しかし、いかなる場合においても限定することを望むものではないが、本発明では、配列中のそれより手前、もしくはそれより後の任意のアミノ酸における未成熟短縮が意図される。
【0059】
また、本発明は、精神遅滞に関連する遺伝子配列について対象をスクリーニングする方法を提供するものであり、前記方法は、
a)前記対象から、DNAもしくはRNAを含む生体サンプルを取得する段階と、
b)SEQ ID NO:6で定義されるCC2D2A蛋白質、アイソフォーム、もしくは自然発生したその対立遺伝子多型をコードする遺伝子配列における1つ以上の変異について、前記サンプルを分析し、前記の1つ以上の変異の存在により、前記蛋白質の1個以上のアミノ酸の欠失、もしくは前記蛋白質の未成熟短縮が生じる結果となり、前記対象が精神遅滞に関連する遺伝子配列を有していることが示される段階とからなることを特徴とする。
【0060】
また、本発明は、精神遅滞に関連する遺伝子配列について対象をスクリーニングする方法を提供するものであり、前記方法は、
a)前記対象から、DNAもしくはRNAを含む生体サンプルを取得する段階と、
b)C末端においてSEQ ID NO:1を含む蛋白質をコードする核酸について、前記サンプルを分析し、前記核酸の存在により、前記対象が精神遅滞に関連する遺伝子配列を有していることが示される段階とからなることを特徴とする。
【0061】
前記方法において、段階b)は、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、もしくはその断片を含む蛋白質をコードする核酸について分析する段階を含み得ると理解される。
【0062】
「サンプルを分析」という用語は、上記定義の蛋白質をコードする核酸について、前記対象から得られたサンプルの特性を明らかにすることを意味し、且つ、これらに限定されないが、ハイブリダイゼーションアッセイ、ヌクレオチドシーケンシング、RT−PCR(ただし、これに限定されない)等を含むヌクレオチドPCR、もしくはそれらの組み合わせを含むことを意味している。
【0063】
対象から得られたサンプルは、DNAもしくはRNAが得られる任意の組織サンプルもしくは生体液サンプルを含む。例えば、これらに限られないが、DNAは、血液、毛包細胞、皮膚細胞、頬の細胞、唾液細胞、組織生検、もしくはその類から得られる。好適な実施形態において、前記サンプルは、血液である。
【0064】
また、本発明は、複数の対象からの生体サンプル内において、前記蛋白質を同定する及び/又はその特性を明らかにするスクリーニング方法も意図している。そのようなサンプルは、DNAもしくはRNAを含んでもよいし、含まなくてもよい。例えば、前記スクリーニングもしくは試験方法では、サンプル中の上記蛋白質を同定するため、これらに限るものではないが、ELISAsもしくはその類の抗体結合アッセイ、蛋白質シーケンシング、電気泳動分離といった、免疫学的方法を用いてもよい。当業者には自明であるが、前記スクリーニング方法によって、本願定義の蛋白質と、当該分野で周知の野生型蛋白質との区別が可能となる。
【0065】
また、さらなる実施形態において、本発明は、精神遅滞に関連する変異蛋白質について対象をスクリーニングする方法を提供するものであり、前記方法は、
a)前記対象から生体サンプルを取得する段階と、
b)C末端においてSEQ ID NO:1を含む蛋白質について前記サンプルを試験し、前記蛋白質の存在により、前記対象が、精神遅滞に関連する変異蛋白質を発現する遺伝子配列を有していることが示される段階とからなることを特徴とする。
【0066】
前記方法において、段階b)は、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、もしくはその断片を含む蛋白質について試験する段階を含み得ると理解される。
【0067】
キット
また、本発明は、キットを提供するものであり、該キットは、本願記載の蛋白質(例えば、これに限定するものでないが、C末端においてSEQ ID NO:1を含み、且つ精神遅滞に関連する蛋白質);精神遅滞に関連しない類似野生型蛋白質よりも、本願記載の蛋白質(例えば、これに限定するものでないが、C末端においてSEQ ID NO:1を含む蛋白質)と選択的に結合し、且つ精神遅滞に関連する抗体;本願記載の精神遅滞に関連する変異を含む蛋白質もしくはその断片をコードするヌクレオチド配列を増幅するための1つ以上の核酸プライマー;本願記載の精神遅滞に関連する変異を含む蛋白質もしくはその断片をコードするヌクレオチド配列とハイブリッド形成する約9から100個のヌクレオチドを含む1つ以上の核酸プローブ;バッファ、dATP、dTTP、dCTP、dGTP、DNAポリメラーゼ(ただし、これらに限られない)などの1以上の試薬;対象において、精神遅滞に関連するヌクレオチド配列もしくは蛋白質の存在を分析、診断、もしくは決定するための指示事項;本願記載の成分を使用するため、もしくは本願記載の方法を行うための指示事項、もしくはそれらの組み合わせを含むことを特徴とする。
【0068】
次の実施例において、本発明をさらに詳述する。
【実施例1】
【0069】
実施例1:材料及び方法
【0070】
罹患者
本研究で究明を行った家系は、パキスタンのパンジャブ州出身である。本研究の全参加者から適切なインフォームドコンセントを得た。罹患者の臨床検査より、初期の運動発達遅延、正常範囲内の前後径周囲(OFC)、及び正常な顔面外観が明らかとなった。異形症特徴(dysmorphic feature)、肝脾腫大症、心雑音、及び皮膚異常はみられなかった。罹患者2人について脳の構造MRIを行い、その結果は概して正常であったが、うち1人において軽度の小脳萎縮の兆候がみられた。ジュベール症候群の顕著な兆候である大臼歯徴候(Molar−tooth sign:MTS)も確認された。
【0071】
サンプル採集及びDNA抽出
罹患者5人及び前記家系の非罹患家系員12人から血液サンプルを採集した。標準方法によって、末梢血白血球からゲノムDNAを抽出した。家系員1人においてのみ、リンパ芽球細胞株の樹立に成功した。
【0072】
SNPホモ接合性もしくは自己接合性マッピング
Affymertix GeneChip Mapping 500Kアレイを用い、罹患者5人及び非罹患1人からのDNAサンプルを分析した。前記アレイでは、SNP間の物理的距離の中央値2.5Kb、物理的距離の平均値5.8Kbの〜500,000個のSNPの分析が可能である。前記SNPの平均ヘテロ接合度は0.30である。しかし、本試験では、GeneChip Mapping 500KアレイセットのNspIチップだけを用い、前記サンプルにおいて〜260,000個のSNPの遺伝子型決定が行われた。メーカーの使用説明書(Affymetrix Mapping 500K Assay Manual)に従って、サンプルプロセッシング、標識化、及びハイブリダイゼーションを行った。GeneChip Scannerでアレイをスキャンし、GeneChip(登録商標)Operating Software(GCOS)及びGeneChip(登録商標)Genotyping Analysis Software(GTYPE)(ver.3.0.2)でデータを処理し、SNPアレルコール(allele call)を生成した。
【0073】
コピー数分析
dChip分析装置を用いたハイブリダイゼーション強度の比較分析より、欠失及び重複事象を含むコピー数多型(CNV)を推定した(Li及びWong、2003;Zhao、2004;Zhao、2005)。正規化後、隠れマルコフモデル(HMM)を用いて、生信号データからDNAコピー数を推定した。
【0074】
マイクロサテライトマーカーを用いたDNA解析及び連鎖解析
標準的プロトコルを用い、4p領域における12蛍光標識マイクロサテライトマーカーをPCR増幅し、ABI 3730xl DNA分析装置にて電気泳動した。Genemapperソフトウェア(Applied Biosystems)を用いて遺伝子型をコールし、MLINKソフトウェアを用いて連鎖解析を行った。
【0075】
細胞遺伝学的解析
標準的な細胞遺伝学的手順によりリンパ芽球細胞株を培養し、染色体分析を行った。Thermotronにて固定細胞からスライドを作成し、熟成させて、GTG分染を行った。
【0076】
DNAシーケンシング及び変異スクリーニング
Primer3(v.0.3.0)を用いてPCRプライマーを設計し、臨界領域内の既知遺伝子の全エクソン及びイントロン−エクソン境界を増幅させた。標準的な条件を用いてPCRを行い、その産物を精製し、さらに、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Ready Reaction Kit(Applied Biosystems)を用いて直接シーケンスを行った。
【0077】
発現解析
前記ミアンワリ家系においてスプライス変異が含まれるエクソン19に及ぶ、エクソン18からの順方向プライマー(5’−ACAGTCAGTCGGCCACTAGG)(SEQ ID NO:8)及びエクソン25からの逆方向プライマー(5’−GTTCTGCCAGCTTGAAAAGG)(SEQ ID NO:9)を用い、RT−PCRによって、CC2D2A遺伝子についての発現解析を行った。
【0078】
CC2D2Aのバイオインフォマティクス解析
Genomatix社のPromoterInspectorを用い、CC2D2Aについてプロモーター解析を行った。全米バイオテクノロジー情報センターのBLASTアルゴリズム(Altschul等、1997)、及びUCSC Human Genome Project Working Draftを用い、ホモロジー検索を行った。ヨーロッパ分子生物学研究所(EMBL)のSMART(Simple Modular Architecture Research Tool)プログラム、東京大学のPSORT IIスイートプログラム、SOSUIアルゴリズム、及びSwiss EMBNetのCOILS Programを用い、蛋白質のドメイン予測を行った。進化を通じて高度に保存された蛋白質の領域を同定し、さらなる潜在的な機能的関連モチーフがCC2D2Aにおいて同定されるよう、CLUSTAL−Wを用い、様々な種にわたる、(既知の、及びゲノム配列もしくはcDNA配列から予測される)CC2D2A相同分子種について比較配列分析を行った。
【0079】
結果
本願記載の精神遅滞及び網膜色素変性症についての遺伝子座が、NCBIにおいて、MIM entry 612285の番号を付与された(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/dispomim.cgi?id=612285)。
【0080】
ホモ接合性マッピング/自己接合性マッピング
ホモ接合性マッピング(自己接合性マッピング)により、罹患者4人において、染色体4の短腕(4p15.2−p15.33)上における〜11.2Mbのホモ接合性及びハプロタイプ一致(haploidentical)領域が共通に確認されたが、健常者や第5の罹患者では確認されなかった。これは、罹患者5人中4人において存在する唯一の大きな(5Mbを超える)ホモ接合性及びハプロタイプ一致領域であり、5人全員に存在するものではなかった。隣接SNP(rs2191685及びrs7664104(それぞれpテロメアから14.001及び25.203Mbに存在))のシーケンシングにより、〜39個の遺伝子を含む11.2Mbの臨界領域(UCSC Genome Browser)が詳細に位置付けされた(UCSC March 2006)。
【0081】
コピー数多型(CNV)解析
ホモ接合性マッピング(自己接合性マッピング)では、全罹患者に共通する領域が確認されなかったため、本発明者等は、さらに、表現型で分離する大きな染色体欠失もしくは重複が存在するのではないかという仮説をたてた。興味深いことに、コピー数解析より、前記家系の他4人の罹患者とは疾患ハプロタイプを共有していない第5の罹患者において、X染色体全体の重複が示された。続いて行われた細胞遺伝学的解析では、核型48,XXXXが示された。この稀なテトラソミーは、精神遅滞に大抵付随するため、この女性は表現型模写であることが示された。
【0082】
連鎖解析
4p領域における12マイクロサテライトマーカーを用いた、家系員17人の遺伝子型決定により、染色体4p15.33−p15.2上の遺伝子座への連鎖が確認された。MLINKソフトウェアを用いて連鎖を計算したところ、マーカーD4S419において、二点間の最大対数尤度(LOD)スコア3.59(シータ=0.0)が得られた。
【0083】
変異スクリーニング
11.2Mbの臨界領域は、約39個の注釈付き遺伝子を含んでいる(UCSC 2004)。フェニルケトン尿症2型についての遺伝子(PKU2;MIM +262630)であるキノイドジヒドロプテリジン還元酵素(QDPR)が前記臨界領域内に位置するため、本発明者等は、まず、上記遺伝子が候補遺伝子である可能性があると考え、QDPRの全コード配列及びスプライス部位をスクリーニングした。上流のホモ接合性塩基置換が同定されたが、これも、非罹患である親の1人におけるホモ接合型であり、疾患で分離していなかった。さらに、患者の血液サンプルの生化学分析によっても、この遺伝子は排除された。前記領域におけるその他全ての既知遺伝子配列分析により、CC2D2A遺伝子のエクソン19におけるスプライスドナー部位変異(IVS19+1:GからC)が同定された。この変異は、表現型で分離しており、3つのナンセンスアミノ酸(M、E、S)の付加、及びそれに続く蛋白質の未成熟短縮を生じさせると予測される。CC2D2A(NM_001080522)遺伝子は、長さ〜5KbのmRNAを生じ、また、少なくとも13個の異なるアイソフォームから構成されるが、前記アイソフォームは、4p15.33上において、ゲノムDNA〜131.5Kb(15,080,760−15,212,278bp;UCSC March 2006)におよぶ最大37個のエクソンを有する。CC2D2A蛋白質は、(エクソンの利用方法によるが、)最大1620個のアミノ酸を含み、C2ドメインは、この遺伝子の1042−1202にあると予測される。RT−PCR、及びそれに続いて行った罹患者のリンパ芽球由来cDNAを用いた配列分析により、本発明者等は、前記スプライス変異によりエクソン19のスキッピングが生じていると断定した。エクソン18のエクソン20へのスプライシングによるフレームシフトが生じ、未成熟終止コドンが740番のアミノ酸で蛋白質を短縮する前に、13個のナンセンスアミノ酸(ECPSHLKLMAVTS*)がエクソン18を越えて付加される。したがって、C2ドメインが消失することとなる。本発明者等は、同じパキスタン人である健常な対照からの460本の染色体をスクリーニングしたが、前記のような変異は同定できなかった。
【0084】
CC2D2A遺伝子及びコードされた蛋白質のバイオインフォマティクス解析
4p15.33上のCC2D2Aのゲノム構成を図5に示す。Genomatix社のElDorado及びPromoterInspectorプログラムを用いた、CC2D2A遺伝子における配列及びその周辺の配列の解析により、15,080,088−15,080,860bp(4pテロメア;UCSC March 2006)に、773bpの推定プロモーター配列の存在が示された。Simple Modular Architecture Research Tool(SMART:http://smart.embl.de)を用いた蛋白質配列分析により、1042から1202の残基(1620個のアミノ酸アイソフォーム中)からC2ドメインの存在が示された。蛋白質キナーゼC保存領域2(CalB)としても知られるC2ドメインは、Ca2+依存性の膜標的モジュールであり、膜輸送もしくはシグナル変換に関与する多くの蛋白質に存在する。TMpredを用いた膜透過(TM)予測により、1つの強いTMへリックス(残基1278から1297)が存在する、もしくははっきりとしたTMドメインが存在しないという2つの可能性が示唆された。COILS v.21を用いたコイルドコイル解析により、90%を超える確立でコイルドコイル構造を有する蛋白質の3つの伸張、すなわち、アミノ酸残基442−463、472−492、及び533−580が予測された(21残基ウィンドウを使用)。SOSUIにより、前記蛋白質は、平均疎水性が−0.655で可溶性であると予測されている。シグナルペプチドは同定されなかったが、k−NN予測より、細胞内の核局在化が示唆される(核91.3%、細胞骨格4.3%、細胞膜4.3%)。二次構造は、主に、伸長鎖を有する、αへリックス及びランダムコイルであると予測される(Network Protein Sequence解析;http://npsa−pbil.ibcp.fr)。シグナルペプチドは見つからなかった。さらに、初期解析より、CC2D2Aは、多数の潜在CaMKII認識部位(9RXXS/T及び3S/TXD部位)及び多くの推定PKCリン酸化部位を有しているであろうことが示された。PredictProteinスイートを用い、2つの推定核局在化シグナルも確認された(残基587のQRAKKKKRK、及び残基1021のRPRRK)。並列解析により、CC2D1A及び1Bとの相同性は示されていない。CC2D2Bとの相同性は34%であるが、CC2D2AのC末端終端(残基1250−1620)方向のみである。CC2D2Bは、コイルドコイルもC2ドメインも有していない。
【0085】
CC2D2Aの比較配列分析
本発明者等は、完全長コード配列、もしくは18種のゲノムDNA及び発現配列タグ(EST)から予測される相同分子種を用い、異種間配列分析を行った。CLUSTALWを用いた比較分析により、蛋白質配列は脊椎動物の進化を通じて高度に保存されていることが判る(図5)。ヒト配列は、チンパンジーとの配列同一性が99.4%、アカゲザルとは96.9%、ウマとは88.8%、マウス及びラットとは84.8%、フクロネズミとは75.7%、ニワトリとは70.7%、ゼノパスとは60%、ゼブラフィッシュとは59.6%、ウニとは44.7%である。ヒト蛋白質は、線虫蛋白質(C.elegans protein)K07G5.3(NP_492026)との同一性が21.6%、ショウジョウバエ蛋白質CG18631(NP_611230)との同一性が29.9%で、C末端終端(ヒトではアミノ酸1301番から、線虫ではアミノ酸894番から、及びショウジョウバエではアミノ酸200番からカルボキシル末端まで)に向かって生じる最も強力な重複及び相同性を有しており、以上のことから、C2ドメインに加え、この領域に対する保存された機能性が示唆される。この蛋白質についてのWormBase情報より、幼生期及び成虫期の間に、頭部及び尾部ニューロン(また、頭部及び尾部のその他未同定細胞)を含む神経系に、前記蛋白質が発現していることが示されている。K07G5.3遺伝子のRNAiを介したノックダウンは、非致死的であった。
【0086】
生物種間の完全長cDNA配列の対比較から算出したKa/Ks比より、CC2D2A遺伝子配列が全体的に保存されていることが明らかとなった。近縁の種の種間比較でも、高水準の全体的な保存が確認された。霊長類におけるC2ドメインの対比較から算出されたKa及びKs値は、完全長の霊長類配列比較におけるKa及びKsより高かった。対して、マウス−ラットC2ドメイン比較におけるKa値は、完全長マウス−ラット比較におけるKaより低かった。しかし、げっ歯類C2ドメインのKs値は、げっ歯類完全長配列のものより若干高かった。さらに、C2ドメインが、その隣接配列とは異なる進化的プロファイルを有しているか否かを調べるため、この領域の上流及び下流500塩基対(隣接領域1および2、以降FR1及びFR2と称す)を対比較で分析した。ヒト、チンパンジー、及びアカゲザルの霊長類族では、Ka及びKs値とも、FR1もしくはFR2よりC2ドメインのほうが高かった。マウス−ラット比較では、C2ドメインのKaは、FR1及びFR2のKaより低く、C2ドメインのKsは、FR1のKsよりは高いものの、FR2と同程度であった。
【0087】
保存されたC末端での進化速度を調べるため、次に、C末端ドメイン(ヒトにおけるコード配列の最後の1113個のヌクレオチドを含む)を、N末端ドメインの最初の1115個のヌクレオチドと比較した。全ての対比較において、C末端のKa/Ks比は、N末端のものより著しく低く、C末端が生物種間でよく保存されていることのさらなる証拠が得られた。
【0088】
発現解析
RT−PCR分析より、CC2D2Aが多くの組織で発現していることが示されている(図7)。12の組織からのcDNAパネルでは、様々な度合いではあるが、各組織において発現が確認され、前立腺、膵臓、腎臓、肺、及び肝臓では最大となる発現が、また、脾臓、小腸、結腸、骨格筋、卵巣、胸腺、及び心臓ではより低い発現がみられた。脳での発現もまた強力であった。さらに、Cos−7細胞におけるCC2D2A−GFP融合蛋白質の発現は、潜在的な核局在化シグナルの存在が予測されたにもかかわらず、ほぼ例外なく細胞質性のようであった。
【0089】
CC2D2A抗体
OPEN Biosystems(アラバマ州ハンツビル)の実施により、2つのエピトープをウサギに注射し、それらエピトープに対する抗CC2D2A抗体を得た。予測CC2D2A蛋白質の全体の大きさが〜186kDaであることから、2つのエピトープを用いた。使用された配列は、ヒトのCC2D2A配列(NP_001073991)であった。第一のエピトープは、中央ではあるがN末端からコイルドコイル及びC2ドメイン(RSKRFRLLHLRSQEVPEFRNYK(SEQ ID NO:10))、及びミアンワリ家系における変異部分に存在し、一方、第二のエピトープは、C末端尾部上(EDDHRAELLKQLGDYRFSGFPL(SEQ ID NO:11))に存在している。また、これらのエピトープは、マウスのCCD2A相同分子種(NP_758478)において100%保存されており、これによって、前記抗体が、ヒト及びマウスCC2D2Aについて潜在的に交差反応性を示すものとなっている。ウサギ抗血清は、親和性精製により精製した。
【実施例2】
【0090】
実施例2:ジュベール症候群に関連するCC2D2A
【0091】
本発明者等は、精神遅滞及び網膜色素変性症を有するパキスタン家系における、ホモ接合性/自己接合性マッピング及びそれに続く遺伝子シーケンシングによる、遺伝子CC2D2A内の短縮変異の同定について報告してきた。理論により限定もしくは拘束されることを望むものではないが、前記家系の症状は、ジュベール症候群(MIM 213300)と部分的に一致しているとも考えられる。
【0092】
Joubert−Boltshauser症候群としても知られるジュベール症候群(JS)は、フランス系カナダ家系において最初に報告された、稀な常染色体劣性疾患である(Joubert等、1969)。JSは、臨床的及び遺伝的に混成した疾患群であり、神経放射線学的兆候である「大臼歯徴候(MTS)」を有する小脳虫部の低形成及びそれに伴う神経学的症状(異常呼吸パターン及び発育遅延を含む)によって特徴付けられる。その他様々な特徴としては、眼振、網膜ジストロフィー、顔面異形症特徴(dysmorphic facial features)、低血圧症、運動失調、後頭部脳瘤(occipital encephalocele)、腎疾患、眼球欠損(oculo colobomas)、肝異常、及び多指症が挙げられる。よくみられる特有な顔面異形症特徴としては、大きな頭部、前額突出、高い位置にある曲線的な眉、内眼角贅皮、下垂症(稀に)、顕著な鼻孔を有する上向きの鼻、開いた口(初期段階では卵型の口の傾向があるが、後になるにつれ偏菱形となり、最終的には口角が下がった三角形となる)、舌突出及び舌の律動的運動、及びまれにみられる低位及び傾斜耳介が挙げられる(Maria等、1999)。神経眼科的検査では、眼球運動失行がみられる。
【0093】
現在ジュベール症候群関連疾患(JSRD)と呼ばれる一群の症候群では、MTSが確認されている。JSRDには、
1.古典的JS(MIM213300)
2.JS及びレーバー先天性黒内障(LCA)
3.JS及びネフロン癆(NPHP[MIM 256700])
4.JS及びLCA及びNPHP(小脳・眼・腎症候群(cerebello−oculo−renal syndrome;CORSとも呼ばれる。MIM 608091)
5.小脳虫部機能低下/形成不全(cerebellar vermis hypo/aplasia)、精神遅滞(oligophrenia)、先天性運動失調(congenital ataxia)、眼球欠損、肝線維症(COACH[MIM 216360])症候群
6.口・顔・指症候群VI型(MIM 277170)
が含まれ、また、多指症や脳ヘルニアなどのその他特徴も前記の6つの下位群にそれぞれ含まれる。
【0094】
JSRDについて同定されている多くの遺伝子は、繊毛に限局しており、したがって、JSRDは、繊毛機能障害もしくは繊毛症(ciliopathy)であると考えられる。JSRD変異は、AHI1、CEP290、NPHP1、RPGRIP1L、TMEM67、及びARL13Bで発見されている。
【0095】
さらに、別の症候群であるメッケル症候群(メッケル−グルーバー症候群としても知られる;MKS;MIM 249000)は、JSRDの臨床的特徴のうちのいくつかを共有している。MKSを引き起こす変異は、TMEM67、RPGRIPL1で発見されていたが、現在は、CC2D2Aでも発見されている(Tallila等、2008)。MKSは、通常、致死的である。
【0096】
JSの有病率において、米国では、おおよそ1:100,000(Parisi等、1999−2006)と推定されていたが、特に、軽度の罹患者において、臨床的兆候もしくはMRI所見が十分に認識及び診断されていないため、前記値は低く見積もられたものである可能性がある(Parisi等、2007)。
【0097】
パキスタン家系の罹患者4人中2人(年長者(男性、27歳)及び年少者(女性、18ヶ月))について、全面的な神経学的検査及びMRIを1人の開業医が行った。JSRD特徴の多くはみられなかったが、医者により、女児のMRIにおいてMTSの存在が報告され、診断としてジュベール症候群が示されたが、その他の特徴がみられないことから排除された。続いて、1人の眼科医により、前記家系の全罹患者4人の検査が行われ、最年長の男性は、明らかに、夜盲症を含む視力障害を有していた。4人全員に眼振がみられた。年長の3人は、夜盲症及び進行性網膜色素変性症を有していた。最年少者(検査時、わずか3歳)は、乱視を有していた。
【0098】
この家系における障害は、特徴的MTS、精神遅滞、眼振、及び網膜症(及び少なくとも検査した年長の罹患者においては、運動失調及び小脳萎縮)を有し、ジュベール症候群に関連しているとみられる。したがって、本発明の実施形態では、本願記載の核酸もしくは蛋白質を分析することにより、ジュベール症候群もしくはジュベール症候群に関連するヌクレオチド配列について、対象をスクリーニングする方法が提供される。ジュベール症候群に関連する症状の多くが、治療的介入によって治療可能及び/又は抑制可能であるため、ジュベール症候群の早期診断もしくはそのリスクを有する対象の特定が望ましい。
【0099】
全ての参考文献は、参照により本願に組み込まれる。
【0100】
本発明は、1つ以上の実施形態について述べられている。しかしながら、請求項に記載された発明の範囲を逸脱することなく多くの変形及び改良が可能であることは、当業者なら言うまでもない。
【0101】
参考文献:
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UCSC:http://genome.ucsc.edu
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PSORT:http://psort.ims.u−tokyo.ac.jp/cgi−bin/runpsort.pl
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COILS:http://www.ch.embnet.org/software/COILS_form.html
【0102】
【表1】

【図1A】

【図1B】

【図1C−1】

【図1C−2】

【図1D−1】

【図1D−2】

【図1D−3】

【図1D−4】

【図1E】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
SEQ ID NO:7の断片を含む蛋白質。
【請求項2】
779もしくはその手前のアミノ酸で短縮された請求項1に記載の蛋白質。
【請求項3】
C2ドメインの全てもしくは一部が消失している請求項1に記載の蛋白質。
【請求項4】
DHEGGSGMES(SEQ ID NO:1)で終結するアミノ酸配列を含む請求項1に記載の蛋白質。
【請求項5】
請求項1に記載の蛋白質であって、前記アミノ酸が、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:3、もしくはSEQ ID NO:4を含むことを特徴とする蛋白質。
【請求項6】
SEQ ID NO:3との同一性が約80%から100%である請求項1に記載の蛋白質。
【請求項7】
請求項1に記載の蛋白質をコードする核酸。
【請求項8】
SEQ ID NO:3もしくは4で定義される蛋白質をコードする請求項7に記載の核酸。
【請求項9】
請求項7で定義される核酸の相補体を含む核酸。
【請求項10】
ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、請求項7で定義される核酸もしくはその相補体とハイブリッド形成することができる核酸。
【請求項11】
7から100個のヌクレオチドを含む請求項10に記載の核酸。
【請求項12】
標識化されている請求項11に記載の核酸。
【請求項13】
1つ以上の調節エレメントを含むヌクレオチド構造物中に存在する請求項7に記載のヌクレオチド配列。
【請求項14】
精神遅滞に関連するヌクレオチド配列について対象をスクリーニングする方法であって、前記方法は、
a)前記対象からDNAもしくはRNAを含む生体サンプルを取得する段階と、
b)C末端にSEQ ID NO:1を含む蛋白質をコードする核酸について、前記サンプルを分析し、前記核酸の存在により、前記対象が精神遅滞に関連する遺伝子配列を有していることが示される段階とからなることを特徴とする。
【請求項15】
請求項14に記載の方法であって、分析段階に、ハイブリダイゼーションアッセイ、ヌクレオチドシーケンシング、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、もしくはそれらの組み合わせのうちの1種以上を含むことを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項14に記載の方法であって、前記サンプルが血液サンプルであることを特徴とする方法。
【請求項17】
精神遅滞に関連する変異蛋白質について対象をスクリーニングする方法であって、前記方法は、
a)前記対象から生体サンプルを取得する段階と、
b)C末端にSEQ ID NO:1を含む蛋白質について、前記サンプルを試験し、前記蛋白質の存在により、前記対象が精神遅滞に関連する変異蛋白質を発現する遺伝子配列を有していることが示される段階とからなることを特徴とする。
【請求項18】
精神遅滞に関連する遺伝子配列について対象をスクリーニングする方法であって、前記方法は、
a)前記対象から、DNAもしくはRNAを含む生体サンプルを取得する段階と、
b)SEQ ID NO:7で定義されるCC2D2A蛋白質、アイソフォーム、もしくは自然発生したその対立遺伝子多型をコードするヌクレオチド配列における1つ以上の変異について、前記サンプルを分析し、前記1つ以上の変異の存在により、前記蛋白質の1個以上のアミノ酸の欠失、もしくは前記蛋白質の未成熟短縮が生じる結果となり、前記対象が精神遅滞に関連する遺伝子配列を有していることが示される段階とからなることを特徴とする。
【請求項19】
請求項18に記載の方法において、前記の1つ以上の変異が、欠失、逆位、転座、重複、スプライスドナー部位変異、点変異、もしくはその類であることを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項18に記載の方法において、前記の1つ以上の変異が、エクソン19で生じることを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項18に記載の方法において、前記の1つ以上の変異が、C2ドメインの全てもしくは一部を消失させることを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項18に記載の方法において、前記の1つ以上の変異により、779もしくはそれより手前のアミノ酸におけるCC2D2A蛋白質の短縮が生じることを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法において、前記の1つ以上の変異により、前記蛋白質に、1個以上のナンセンスアミノ酸(nonsense amino acid)が付加されることを特徴とする方法。
【請求項24】
a)DHEGGSGMES(SEQ ID NO:1)で終結し、且つ精神遅滞に関連するアミノ酸配列を含む蛋白質、
b)SEQ ID NO:7で定義される蛋白質の短縮型、もしくはC2ドメインの全てもしくは一部が欠失した蛋白質、
c)好適には、精神遅滞に関連しないCC2D2A型蛋白質でなく、上記a)もしくはb)の蛋白質に選択的に結合する抗体、
d)上記a)、b)、もしくはa)及びb)の蛋白質をコードするヌクレオチド配列、
e)本願記載の精神遅滞に関連する変異を含む蛋白質もしくはその断片をコードするヌクレオチド配列を増幅するための1つ以上の核酸プライマー、
f)本願記載の精神遅滞に関連する変異を含む蛋白質もしくはその断片をコードするヌクレオチド配列とハイブリッド形成する、約9から100個のヌクレオチドを含む1つ以上の核酸プローブ、
g)バッファ、dATP、dTTP、dCTP、dGTP、DNAポリメラーゼ、もしくはそれらの組み合わせを含む1以上の試薬、
h)対象において、精神遅滞に関連するヌクレオチド配列もしくは蛋白質の存在を分析、診断、もしくは決定するための指示事項、
i)本願記載の成分を使用する、もしくは本願記載の方法を行うための指示事項、もしくはこれらの組み合わせ、もしくはこれらの下位組み合わせ(sub−combination)を含むキット。
【請求項25】
ジュベール症候群に関連するヌクレオチド配列について対象をスクリーニングする方法であって、前記方法は、
a)前記対象からDNAもしくはRNAを含む生体サンプルを取得する段階と、
b)C末端にSEQ ID NO:1を含む蛋白質をコードする核酸について、前記サンプルを分析し、前記核酸の存在により、前記対象がジュベール症候群に関連する遺伝子配列を有していることが示される段階とからなる。
【請求項26】
CC2D2Aによってコードされる蛋白質に対する抗体。

【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−539957(P2010−539957A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−527307(P2010−527307)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【国際出願番号】PCT/CA2008/001760
【国際公開番号】WO2009/043173
【国際公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(510094126)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE FOR ADDICTION AND MENTAL HEALTH
【住所又は居所原語表記】250 College Street,Toronto,Ontario M5T 1R8 Canada
【Fターム(参考)】