説明

ジョセフソン接合を備えた電子デバイスとその製造方法

【課題】プロセス条件やニオブ電極の接続具合、すなわちパターンに依存しない、ジョセフソン接合を備えた電子デバイスの形成方法、およびその方法で形成された信頼度の高いジョセフソン接合を備えた電子デバイスを提供する。
【解決手段】ニオブ膜、ニオブ配線中の水素を放出させて十分低い濃度にするか、もしくはジョセフソン接合電極ニオブからの水素移動を抑制し、一定の水素濃度を保てるようにすることで設計値どおりの接合特性を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジョセフソン接合を備えた電子デバイスおよびその製造方法に係わり、特に超電導集積回路デバイスに適用して効果の大きい電子デバイスとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高集積化された電子デバイスでは、これを構成する要素の特性ばらつきを小さく一定の範囲に収めることが必要である。超電導ジョセフソン素子では、同一の寸法に設計されたジョセフソン接合の臨界電流値が許容範囲を超えてばらつかないような製造プロセスが求められる。これまで、このばらつきを決める最大要因の一つがエッチングであると考えられており、正確な形、寸法のパターン転写ができると考えられるプラズマエッチング技術も検討されている。これは多数の接合の臨界電流値が全体としてばらついている場合であり、0.93平方ミクロンの接合で1.4%のばらつき(標準偏差)が達成できることが報告されている(非特許文献1を参照)。
【0003】
また、Tolpygoらは多数の接合の臨界電流値全体のばらつきではなく、少数個のみが大きく平均値から外れる現象を報告している(非特許文献2を参照)。たとえ少数個でも許容範囲を大きく超える接合が存在することは多数の接合を集積した大規模な回路の実現が困難になってしまうため、現時点ではこちらのほうが深刻な問題と考えられる。彼らはばらつきの原因を製造プロセス中の変化、すなわち、成膜装置、エッチング装置等、プラズマを使う工程での劣化の可能性が高いとしている。
【0004】
【特許文献1】米国特許7081417号明細書
【特許文献2】特願2003−183879号
【特許文献3】特願2004−183879号
【非特許文献1】H.Akaike, Y.Kitagawa,T. Satoh, K.Hinode, S.Nagasawa,and M. Hidaka, “Nb/AlOx/Nb junctions fabricated using ECR plasma etching”, Physica C 412-414(2004), p.1442-1446.
【非特許文献2】S.K. Tolpygo, D. Amparo, A. Kirichenko, and D. Yohannes, “Plasma Process-Induced Damage to Josephson Junctions in Superconducting Integrated Circuits”, Extended Abstract of 11th International Superconductive Electronics Conference (2007), 発表番号O-101
【非特許文献3】E. Schroader, Z. Naturforsch. 12a, 247 (1957),p.247
【非特許文献4】G.C. Rauch, R.M. Rose, J. Wulff: Less-Common Metals 8, (1965), p.99
【非特許文献5】N.M. Jisrawi, M.W. Ruckman, T.R. Thurstion, G.Reisfeld, M.Weinert, and M. Strongin, “Reversible depression in the Tc of thin Nb films due to enhanced hydrogen absorption,” Phys. Rev. B58, (1998), p.6585
【非特許文献6】G. Alefeld and J. Volkl, “Hydrogen in Metals I, II,” Springer-Verlag,(1978),pp.321-348
【非特許文献7】Y. Fukai, “The Metal-Hydrogen System” , Springer-Verlag, (1992), pp.207-299
【非特許文献8】「金属データブック」、日本金属学会編、丸善、(1993)、pp.20-25
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の非特許文献2で開示しているものと同等と思われるジョセフソン接合臨界電流値の変動、ばらつきを本発明者らも観測・検討してきた。検討結果の要旨を以下で説明する。
この文献に述べられているのと同様のテストパターンで測定した1000個の接合での臨界電流値の分布を図12にヒストグラムで示した。1000個の接合は同一寸法、従って同じ臨界電流値を持つように設計してある。ここで用いたジョセフソン素子は、その接合が3.0μm□で、臨界電流値Jが2.5kA/cmである。1000個の接合のほとんど(99%以上)は平均値の周りの±数%の臨界電流値を持つが、大きく(20%程度)ずれたものが少数個、必ず存在する。
【0006】
もう一つの例を図13で説明する。これは接合部は同じだが接続している配線が少し異なる2種類の接合(STDとCCの記号で区別)、各々1000個の臨界電流値の分布例である。STDと書いたものは図12のものである。ここで用いたジョセフソン素子は、その接合が3.0μm□で、臨界電流値Jが2.5kA/cmである。従来、設計上は区別されず、同じ臨界電流値を持つと考えられている接合が各々のばらつきの範囲を超えて大きく異なる臨界電流値を示している。
【0007】
これら2例は、極少数ながら大きく臨界電流値の違う接合が存在すること、接合部が同じでも配線接続の仕方による臨界電流値に差があることを示している。実際の回路素子の臨界電流値の分布は(より多種類の接続の仕方があるため)図14に模式的に示したように非常に広い範囲に分布すると推定される。極少数でも10%を超えるような広い範囲に回路要素の特性値がばらつくと数千個〜数万個以上の回路要素を集積した大規模な集積回路を作ることは大変困難になる。従って、大規模集積回路を実現するにはこのような回路要素のばらつきを抑制して狭い範囲に抑えることが必須となる。本発明ではプロセスもしくは素子構造で何らかの改良を加えることでこのようなばらつきを抑制することが目的である。
【0008】
上述の非特許文献2では臨界電流値変動がプラズマプロセスが原因となって引き起こされる劣化と推定している。しかし本発明者らの検討によると、変動の根本原因は素子の電極材料であるニオブ中に水素が混入し、素子内で場所による濃度差ができることが原因であることを突き止めた。水素の濃度に応じてニオブ電極の超電導特性が変化するため、水素濃度変化が直接に超電導臨界電流値変動を引き起こしてしまうことがわかった。混入する水素濃度がニオブ膜の成膜装置によって違っていたり、成膜条件、使用状況にも依存することが判明した。また、成膜以外の工程で、水素がニオブ電極に入る場合も、水素がニオブ電極から出る場合もあり、さらにそれがプロセス条件やニオブ電極の接続具合に依存する(パターン依存性)という非常に込み入った仕組みがあり、そのためこの現象が複雑に見えることも分かってきた。
【0009】
本発明の目的は、ニオブ電極中の水素濃度ばらつきを十分小さく抑えて、プロセス条件やニオブ電極の接続具合、すなわちパターンに依存しない、設計値どおりの臨界電流値を持ったジョセフソン接合を備えた電子デバイスの形成方法、およびその方法で形成された信頼度の高いジョセフソン接合を備えた電子デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者の用いているジョセフソン接合の製造プロセスで作ったニオブ膜中の水素濃度を加熱放出ガス分析法で評価したところ0.4〜5%(原子%)の水素放出があることを測定した。この製造プロセスは代表的なものであるから、現在広く実施されている通常一般のジョセフソン接合の製造工程でも同程度(0.1〜数%)の水素がニオブ中に混入していると考えられる。
【0011】
ニオブの成膜工程、エッチング工程が主なものであり、酸化層のないニオブ面が露出すると、雰囲気中の水素ガスもしくはイオンがニオブ膜内に進入する。雰囲気の水素濃度が十分低い場合にはニオブ内から外部へ放出される。成膜工程、ドライエッチング工程で意図的に水素ガス(もしくはCHFのような分解して水素もしくは水素イオンを生成するガス)を添加していなくても、大気中の水分が残留し、プラズマで分解して水素となるため、水素分圧を無視できないことがある。
【0012】
数10%以上の多量の水素を含んだ、いわゆる水素化ニオブの超伝導特性が著しく劣化することは良く知られている(非特許文献3を参照)。
【0013】
しかしながらα相と呼ばれる、常温で最大5%までの水素を固溶した合金では超伝導特性に変化はないとされてきた(非特許文献4を参照)。
ところが最近になってこのような数%程度の水素の混入でも超伝導特性に変化が生じることが薄膜ニオブについて報告された(非特許文献5を参照)。
【0014】
この報告に従えば水素濃度が高いほどニオブ電極の超電導特性が劣化するため、水素濃度変化が直接に超電導臨界電流値変動を引き起こしてしまう可能性が高い。
現時点までの筆者らの検討で、1%(原子数)程度の水素混入が数10%の超電導臨界電流値変動を引き起こしていると推定される。
したがって、たとえば回路内の臨界電流値を設計値から10%程度のばらつきに抑えるためには、すべてのジョセフソン接合近傍のニオブ電極中の水素濃度を0.1%程度の精度で一定にすることができればよいことになる。最終的に完成する素子の電極・配線のニオブから水素を出来る限り放出させて、濃度を0.1%以下にするのも一つの方法である。
【0015】
ニオブ中の水素濃度を一定にする際に考慮しなければならないのは次の点である。
(a)水素は室温でもニオブ中を移動する。いわゆる拡散現象に従っており、拡散距離(移動距離)は時間の1/2乗に比例する。室温での拡散距離の目安は1cm/日 程度である。プロセスは通常数分〜数時間で一つの工程、たとえばニオブのパターニングを実施する。この間に数10〜数100ミクロンの範囲では拡散によって濃度がほぼ均一になるが、チップ全体mmのオーダでは不均一性が残る。島状にパターニングされて他の層のニオブと直接接続されていない(詳細後述、アルミニウム、モリブデンを経由しての接続は水素が拡散しない)ニオブ領域では水素の移動が止まり、その領域固有の水素濃度に決まってしまう。ニオブジョセフソン接合素子で用いられることのある、パラジウム、白金、チタン等でも水素が移動しやすい。
(b)水素は、アルミニウム中はほとんど移動できないので、ジョセフソン接合のバリア膜を超えては移動しない。ジョセフソン接合素子で用いられることのあるモリブデン、タングステンやその窒化物等、またニオブ窒化物でも水素はほとんど移動しない(非特許文献6乃至8を参照)。
【0016】
これを元に考えると、ニオブの実際のジョセフソン接合素子では、(電気的には接続していても)水素の移動しにくいアルミニウム、モリブデンで区切られた多数のニオブの領域に分けられていることがわかる。プロセス次第ではこれらのニオブ領域の水素濃度に差が生じてしまうわけである。
【0017】
水素移動の観点から分割されたニオブの領域の水素濃度を一様にするために次のような方法を考えた。
(1)ニオブに水素放出処理を施し、臨界電流値の変動が無視できる程度まで水素濃度を下げる。
(1−1)水素は水素分圧の十分低い減圧(真空)中でニオブの酸化層のない表面を露出させればニオブ外に放出される。
(1−2)ニオブ表面にパラジウムもしくは白金の層を設ければ水素分圧の低い大気中でも水素は放出される。プロセスの途中でパラジウムもしくは白金の層を形成して水素放出後、パラジウムもしくは白金を除去してから上層を形成する。
(1−3)最終的に素子表面まで貫通する水素抜きの電極を各々の水素移動の観点から分割されたニオブの島ごとに設ける。電極の表面にはパラジウムもしくは白金の層を形成する。
(2)接合近傍に水素が通過しにくい領域を形成して、プロセス中で隣接する領域との水素の流入・流出を止めてしまうことで一様な水素濃度を実現できる場合もある。
【0018】
実際に作製した素子中で個々の接合電極の水素濃度を測定するのは難しい。ニオブ電極の体積が微小であるため、直接水素濃度を測ることは実際上無理である。そこで実接合と同じ構造で室温での接合抵抗が測定できるケルビン型4端子テストパターンを同一ウエハ上に作製し、このテストパターンの抵抗値から水素濃度ばらつきを推定した。その際の推定手順を以下で説明する。
(2−1)テストパターンの室温抵抗値の変動量は素子動作温度(代表的には液体ヘリウム温度4.2K)での接合臨界電流値の変動量にほぼ等しいことを確認した。
(2−2)テストパターン(接合)室温抵抗変動量は同じ濃度が含まれたニオブ配線抵抗変動量の約5倍になることを確認した(図15)。
(2−3)ニオブ配線抵抗変動量はニオブ中の水素濃度(原子%)の約7倍になることを確認した(図16)。
(2−4)上記の関係から実素子の接合の臨界電流密度を±5%の範囲に収めるには、電極の水素濃度はほぼ±0.15%、望ましくは±0.1%の範囲に制御すればよいことがわかる。
(2−5)水素濃度がこの範囲に制御されているかどうかは素子の臨界電流値が±5%の範囲に収まっているかどうかで判定できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ニオブ電極の接続具合、すなわちパターンに依存したジョセフソン接合の臨界電流値の設計値からのずれを抑制でき、大規模で高性能のジョセフソン接合LSIを実現することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
<実施例1>
図1は本発明を適用して効果のある超伝導ジョセフソン接合素子の一例を示す断面図である。1はシリコン基板、2はシリコン熱酸化膜による絶縁膜、3はスパッタにより形成したSiOによる各層の絶縁膜、Nb(図1中で、Nb11、Nb31、Nb51などで示す。)は超伝導配線のニオブ層、Alは酸化アルミニウムの層、Moはモリブデンの層である。図では、絶縁膜SiO層3は、図が煩雑になるので、参照符号は最下層に付した。他の層は、同じ右下がりのハッチングを付すことで絶縁膜SiO層を表示することとした。同様に、以下の図面においても、シリコン基板は右下がりの太いハッチング、シリコン熱酸化膜による絶縁膜は左下がりの細いハッチング、絶縁膜SiO層は右下がりの細いハッチング、ニオブ層は左下がりの太いハッチング、酸化アルミニウム層は太い塗りつぶしの線、Mo層は太い左下がりのハチングで表示する。
【0021】
図1に示す素子は、例えば、以下の要領で形成される。シリコン基板1の上に形成されたシリコン熱酸化膜2の上にニオブ層Nb11,Nb12の配線パターンを形成する。その上に絶縁膜SiO層3を形成した後に平坦化する。次いで、ニオブ層Nbの配線パターンを形成し、その上に絶縁膜SiO層3を形成した後平坦化し、ニオブ層Nbの配線パターンとニオブ層Nb31およびNb31の配線パターンを接続するための開口を絶縁膜SiO層3の該当位置に形成する。そして、全面に3層積層のニオブNb膜-酸化アルミニウムAl膜-ニオブNb膜を形成した後パターニングによって、ジョセフソン接合電極、Nb41およびNb42を形成する。これらのジョセフソン接合をそれぞれJJ1、JJ2と呼ぶことにする。引き続きパターニングを行い、酸化アルミニウムAl膜のパターンを所定の位置に形成、さらにパターニングを続けてニオブ層Nb31,Nb32およびNb33の配線パターンを形成する。この段階で、3層積層のニオブNb膜-酸化アルミニウムAl膜-ニオブNb膜のパターニングが終わり、ニオブ層Nbと接続されたニオブ配線パターンと層Nb31およびNb33が形成される。
【0022】
次いで、その上に絶縁膜SiO層3を形成した後平坦化する。ニオブ層Nb51をNb41に、ニオブ層Nb52をNb42に接続するため、所定の位置の絶縁膜SiO層3に開口を形成する。そして、ニオブ膜を基板全面に形成したのち、ニオブ層Nb51、ニオブ層Nb51の配線をパターニングする。
【0023】
この図でニオブはいくつかの領域に分断されている。水素はニオブNb中は高速で移動し均一な濃度になるが、酸化アルミニウムAl23およびモリブデンMoが水素を通さないので、水素濃度の観点からニオブは次の6つの領域に分かれる。( )内のNb領域が同じ濃度になる。プロセスによってはこれら6つの領域の水素濃度がすべて異なる可能性もある。
(Nb11)、(Nb12)、
(Nb31、Nb、Nb33)、(Nb32)、
(Nb51、Nb41)、(Nb52、Nb42
この中で、ジョセフソン接合の特性を決めるのは、
JJ1では、(Nb32)と(Nb51、Nb41)、
JJ2では、(Nb31、Nb、Nb33)と(Nb52、Nb42)である。
【0024】
従来の方法、構造で出製造された回路の動作を調べた結果、動作範囲が設計値から大きくずれる、マージンが狭くなる、極端な場合には動作しないか誤動作をするといった不良が頻発していることがわかった。このような状況では多くのジョセフソン接合を集積した大規模な回路の実現は非常に困難であった。
これは、従来、ニオブ中の水素について全く考慮されておらず、上記のような領域ごとに水素濃度が異なり、接合特性、臨界電流密度が設計値からずれてばらつくことが原因であろうと推察される。
【0025】
そこで水素濃度を一様にして、ばらつきの少ない設計値どおりの臨界電流値を持ったジョセフソン接合を持った素子を実現するために、次に示す方法で素子を作成した。
【0026】
試料ウエハを5枚用意し、図1に示す素子の製造工程でニオブ膜を形成した後、パターニング前に図2に示す(1)〜(4)の4通りの脱水素処理を施した。1枚は本発明の処理を施さない従来法で形成した。
具体的にはNb11、Nb12となる1層目のニオブ層形成後、Nbとなる2層目のニオブ層の形成後、Nb51、Nb52となる5層目のニオブ形成後に処理を施した。Nb31、Nb32、Al、Nb41、Nb42となる層は3層の積層膜として形成しており、ここでは処理を施していない。
例として、最上層の5層目のニオブ形成後のウエハ断面状態を図3に示した。このようにウエハ表面全体をニオブ膜が覆っている状態で図2に示す(1)〜(4)の処理を施すわけである。
【0027】
ここで(1)〜(4)の処理について説明する。
(1)純アルゴンガスを流して非酸化性に保ったベーク炉で300℃―5分の熱処理をする。アルゴンでなく真空でも良いが、水素ガス分圧が十分低いことが必要(ニオブ中に残留する水素の濃度を1%より十分少なくするには、室温では少なくとも10−4Pa程度以下)。なお、上記のベーク炉で温度150℃以上、ベーク時間は3分以上で明確な効果が確認できた。より高温で長時間の処理ほど効果が大きいのは言うまでも無いが、600℃以上、30分程度以上の処理をしても著しい改善はない。
【0028】
一方、Nb−Al−Nbの接合構造は、200℃以上の高温にすると劣化する。したがって接合構造を形成した後は処理温度を150℃まで下げた。本実施例では最上層5層目のニオブの処理の場合である。
(2)ロードロック型の真空装置(到達真空度:10−5Pa台)にニオブ膜を成膜したウエハを導入し、0.5Paのアルゴンガスを導入して500Wで10分RF放電した。この処理はウエハ表面をクリーニングする処理として行うもので、ニオブ膜を形成しただけの段階で行うことはない。クリーニングを目的とする場合にはニオブや絶縁膜(SiO等)のスパッタエッチ速度が速いほうが望ましいが、今回のエッチングレートは1nm/分と非常に遅くしてあり、表面に酸化性の吸着物が吸着するのを防げる範囲で遅いほうが望ましい。ニオブの目減り量を減らすためである。
【0029】
この場合も長時間の処理が大きな効果をもたらすことはいうまでもない。3分程度から明瞭な効果が確認でき、本発明のように1ミクロン程度の厚さのニオブの膜の場合は、アルゴンガスによるクリーニング時間は20分程度で効果は飽和する。
(3)上記(2)の処理で、ウエハ温度を150℃に上げて実施した。時間は2分程度と短時間で(2)と同等程度の効果が得られている。
【0030】
この場合も高温で長時間の処理が大きな効果をもたらすことはいうまでもない。150℃以上で短時間化効果が明瞭になり、1分以下の処理でも効果が確認でき、3分程度で効果は飽和した。短時間化効果はより高温で処理するほど大きくなるが、300℃以上で1分以下になると思われる。
(4)上記(2)の装置で、ニオブ膜の表面を10nm程度アルゴンガスのクリーニング除去して真空を破らず直ぐに極薄い厚さ5nmのパラジウム膜をスパッタ法でウエハ表面に成膜した。そのまま真空もしくはアルゴンガスの雰囲気で10分保持した後、再度アルゴンガスのスパッタクリーニングですべてのパラジウム膜を除去してニオブを完全に露出させる。
【0031】
この場合に重要な点はパラジウムの膜厚である。パラジウムを2nm以下に薄くすると効果が急激に減少した(パラジウムの連続膜が形成できていない可能性がある)。従って実際上は3nm以上の膜厚があればいいと判断できる。膜厚形成時間との兼ね合いで、ここでは上限の膜厚を50nm程度としている。また長時間、保持するほど効果がおおきいことは言うまでも無いが、2分で明瞭な効果があり20分以上で効果が飽和する。
【0032】
作成した素子を4.2Kの液体ヘリウム中に保持して接合の臨界電流値を測定した。図1に示す2種類の接続構造の違う接合をそれぞれ10試料づつ測定し、ばらつきの範囲を求めた。結果を図17の表1に示す。
【0033】
従来法で作成した接合の臨界電流値は20%程度もの広い範囲にばらついていたが、本発明の方法で作成したものでは±5%程度の範囲に収まっており、制御性が向上していることがわかる。
また、臨界電流値の分布を詳細にみると、従来法では頻発していた大きく臨界電流値がずれた接合(説明図1のIcが大きく20%程度ずれたもの)の発生がまったくなくなっていることが確認できた。
【0034】
上述の(4)の処理では一旦形成したパラジウム膜をスパッタクリーニングで完全に除去した後、次のパターニング工程に進んだ。しかし、ニオブ上にパラジウム膜を残したままでパターニングすることもできる。最初にスパッタクリーニング法もしくはイオンミリング法でパラジウム層をエッチングした後、反応性エッチングでニオブ層をパターニングすればよい。ここでは通常のリソグラフィー法を用いてレジストのパターンを形成した後、イオンミリング法で20nm程度のエッチングをし、引き続いて六フッ化イオウガスの反応性プラズマエッチングでニオブ層をパターニングした。パラジウム層は十分薄いため、レジストパターンは両方のエッチング処理の間になくなることはなかった。この処理法ではニオブ層の上層にパラジウム層が積層されて残る。さらにこの上に接続孔、上層ニオブ配線を形成することも特に問題にならない。接続孔底のパラジウムは上層ニオブ膜を形成する前に十分スパッタクリーニングすれば除くことが可能で、超電導特性をそこなうことはない。たとえ残存した場合でも素子が超電導動作状態になれば近接効果により超電導電流が流れる。
このようにして作製した素子の特性は、ほぼ(4)と同等で従来法より優れていた。
本実施例の脱水素処理は実施できるすべてのニオブ層に対して施しているが、接合と直接ニオブでつながらない層に対しては不要である。接合近傍で処理によって特に水素濃度が高くなる特定の層にだけ施しても有効であることは言うまでもない。
【0035】
<実施例2>
本実施例は、実施例1と同様の脱水素処理をニオブ膜をパターニングした後、ニオブが島状になった状態で施すものである。実施例1と同等の処理のフローを図4に示した。特に、特許文献1、もしくは特許文献2、3に記載のニオブ多層配線の平坦化法を用いる場合は水素を含むガス、たとえばCHF等によるSiOのエッチング処理が必要になるが、その処理によって水素がパターニングされたニオブ配線に侵入し高濃度化するため、特に有効である。このような平坦化エッチングを施さない場合はニオブ配線をパターニングした後、引き続いて実施すればよい。平坦化エッチングを実施する場合は平坦化エッチングに引き続いて、もしくはさらにCMP等で平坦化が完了した後に実施すればよい。
【0036】
図5は上記特許もしくは出願の平坦化法のフローを示したもので、配線層一層分の平坦化工程を示している。図を順に追いながら説明する。
図5Aに示すように、シリコン基板1上に絶縁膜として絶縁膜SiO層2を形成した。最初の金属層としてニオブ層3(300nm厚)をスパッタリング法で形成した。
【0037】
次に図5Bに示すように、通常のフォトリソグラフィー法、ドライエッチング法を使って所望の形状にパターニングした。その上に絶縁膜層としてスパッタ法で絶縁膜SiO層3a(SiO;300nm厚)を成膜した。その際、下地にニオブ配線層101の無い領域に形成された絶縁膜SiO層3aの表面がニオブ配線層3の表面とほぼ同じ位置になるように絶縁膜SiO層の厚さを調整し、350nmの絶縁膜SiO層3aを形成した。50nmほど厚くしたのはニオブ層3のパターンニングの際、Nb下地の絶縁膜SiO層2が50nm程度エッチングされているのを補うためである。
【0038】
ニオブ層3で出来ている下地段差が小さい場合は通常のスパッタ法を用いることも可能であるが、ニオブ層3による配線の間を隙間なく埋めて、絶縁信頼性の良い配線系を作るには段差被覆性の優れたバイアススパッタ法が適している。
【0039】
図5Bで形成した絶縁膜SiO層3aの凸部を除去するためのマスクをレジスト膜により形成した結果を図5Cに示した。これは、図5Bの状態で全面にレジスト膜を設け、ニオブ配線層Nb101の配線パターンのほぼ逆パターンとなるようフォトリソグラフィー技術により形成した結果である。
【0040】
図5Dは上記フォトレジストマスク53によって絶縁膜SiO層3aをエッチングし、必要な部分として領域3bのみを残した状態を示している。エッチングガスとしてCHFを用いた。これにより、ニオブ層Nb101のエッチングレートは絶縁膜SiO2層3aのエッチングレートの1/10〜1/20に小さくすることが出来る。その結果、十分なオーバーエッチング時間をとることが出来、絶縁膜SiO層3aのエッチング厚さが場所によって、少々異なってもニオブ層Nb101の表面までエッチングして止めることが出来た。図5Dを参照して分かるように、逆パターンを太らせることで、オーバーエッチング時間を大きくとっても、パターンのずれによる絶縁膜SiO層3aの望ましくないエッチングを防止できる。
【0041】
図5Eは、図5Dの処理後、フォトレジストマスク53を除去した状態を示している。この段階で残っている絶縁膜SiOの領域3bの段差はニオブ層Nb101による配線パターンの周辺部3cだけになる。これらのパターンの幅は概ね0.5μm以下である。すなわち、本発明によれば、ニオブ配線パターンNb101の部分にもともと存在する幅の広い絶縁膜SiO層3aの表面凸部を、図5Eに示すように、配線の周辺部だけの幅が狭い表面凸部3cに変えることが出来た。しかも、これらの幅が狭い表面凸部3cの密度は低く、通常パターンでは凸部の割合は10%程度以下に出来る。
【0042】
図5Fは図5Eに示した構造に対して、CMP(Chemical Mechanical Polishing、化学機械研磨)処理を施し、突起部を研磨除去して平坦化したものである。
【0043】
このフローの中で図5Eもしくは5Fのどちらかの段階で本発明の処理を施せばよい。本実施例では図5Fの状態のウエハに対して脱水素処理を施した。一層毎に上述の平坦化処理を施しており、その度に毎回、脱水素処理を施した。
【0044】
試料ウエハを5枚用意し、図1に示す素子の製造工程でニオブ膜を形成した後、パターニング後に図4に示す(1)〜(4)の4通りの脱水素処理を施した。1枚は本発明の処理を施さない従来法で形成した。
【0045】
ここでの(1)〜(4)の処理について説明する。
(1)純アルゴンガスを流して非酸化性に保ったベーク炉で300℃―5分の熱処理をする。実施例1の処理(1)と同様である。
(2)ロードロック型の真空装置(到達真空度:10−5Pa台)にニオブ膜を成膜したウエハを導入し、0.5Paのアルゴンガスを導入してVdc〜100Vで20分RF放電した。放電パワーは0.1W/cm程度である。この条件ではニオブのエッチングレートは非常に小さく、0.1nm/分程度で、この処理によるニオブの目減り量は初期膜厚の200nmに比べて無視できる量である。
ニオブの一部をスパッタ除去することでニオブ表面をクリーニング(清浄化)する場合は高いエッチングレートで処理する。少なくとも数nm/分程度、これを達成するために通常はVdcが数100Vの条件のアルゴンプラズマを用いる。
【0046】
Vdcを小さくしすぎると表面に吸着が起こり水素除去の効果がなくなる。また、Vdcを大きくするとニオブ膜の目減り量が大きくなり不都合である。実際にはVdc=50〜150Vの範囲で両者の許容範囲を見出すことができた。
(3)上記(2)の処理をウエハ温度を150℃に上げて実施した。時間は5分程度と短時間で(2)と同等程度の効果が得られている。
(4)実施例1の処理(4)と同様である。
作製した素子を4.2Kの液体ヘリウム中に保持して接合の臨界電流値を測定した。図1に示す2種類の接続構造の違う接合をそれぞれ10試料づつ測定し、ばらつきの範囲を求めた。結果を図18の表2に示す。
従来法で作成した接合の臨界電流値は20%程度もの広い範囲にばらついていたが、本発明の方法で作成したものでは±5%程度の範囲に収まっており、制御性が向上していることがわかる。
【0047】
また、臨界電流値の分布を詳細にみると、従来法では頻発していた大きく臨界電流値がずれた接合(説明図1のIcが大きく20%程度ずれたもの)の発生がまったくなくなっていることが前述の実施例同様に確認できた。
【0048】
本実施例の脱水素処理は実施できるすべてのニオブ層に対して施しているが、接合と直接ニオブでつながらない層に対しては不要である。接合近傍で処理によって特に水素濃度が高くなる特定の層にだけ施しても有効であることは言うまでもない。
【0049】
<実施例3>
この実施例は実施例2と同様の脱水素処理を接合層形成工程の途中、上層ニオブ膜をパターニングしてニオブが島状になっており、下層のニオブ層はパターニング前でウエハの全面に残っている状態で施すものである。図6を使い順を追って処理を説明する。
【0050】
図6は、実施例1で説明した図1の構造を作る途中、ジョセフソン接合の形成工程を詳細に示している。
図6Aは、平坦化された下地絶縁膜SiO層の所定の位置に接続孔を開口しニオブ−アルミ−ニオブ(Nb−Al23−Nb)の三層膜を形成した状態を示している。この状態のウエハに通常のフォトリソグラフィーおよびエッチング処理を施し、上層ニオブNbをパターニングしてニオブNb41、Nb42を形成する。ニオブ層のドライエッチングにはSFガスを用いた。アルミニウムAl23はこのガスによりほとんどエッチングされない。図6Bがその状態を示している。引き続いてウエハ全面にSiO層を形成し、前述と同様のフォトリソグラフィーおよびエッチング処理を施して先に形成したニオブ電極Nb41、Nb42を覆う領域SiO41,SiO42を形成する。さらにこのSiO領域をマスクにしてアルミニウム層(実際には上層を酸化し、酸化アルミニウムAl23−アルミニウムAlの2層構造になっている。簡単のため単にアルミニウム、もしくはAl23と略記する)もアルゴンスパッタリングによりエッチングする。図6Cはこの状態を表している。
【0051】
この段階の試料ウエハを5枚用意し、図7に示す(1)〜(4)の4通りの本発明の脱水素処理を施した。1枚は本発明の処理を施さない従来法で形成した。
【0052】
ここでの(1)〜(4)の処理について説明する。
(1)純アルゴンガスを流して非酸化性に保ったベーク炉で150℃―60分の熱処理をする。この段階ではジョセフソン接合層が形成されているため他の配線層のような高温(実施例1、2では300℃)の処理は接合特性を劣化させてしまう。150℃で60分という比較的長時間保持する処理である。
(2)ロードロック型の真空装置(到達真空度:10−5Pa台)にニオブ膜を成膜したウエハを導入し、0.5Paのアルゴンガスを導入してVdc〜100Vで20分RF放電した。放電パワーは0.1W/cm程度である。この条件ではニオブのエッチングレートは非常に小さく、0.1nm/分程度で、この処理によるニオブの目減り量は初期膜厚の200nmに比べて無視できる量である。
ニオブの一部をスパッタ除去することでニオブ表面をクリーニング(清浄化)する場合は高いエッチングレートで処理する。少なくとも数nm/分程度、これを達成するために通常はVdcが数100Vの条件のアルゴンプラズマを用いる。実施例2の(2)と同じ処理である。
(3)上記(2)の処理をウエハ温度を150℃に上げて実施した。時間は5分程度と短時間で(2)と同等程度の効果が得られている。実施例2の(3)と同じ処理である。
(4)実施例2の処理(4)と同様である。
【0053】
作成した素子を4.2Kの液体ヘリウム中に保持して接合の臨界電流値を測定した。図1に示す2種類の接続構造の違う接合をそれぞれ10試料づつ測定し、ばらつきの範囲を求めた。結果を図19の表3に示す。
【0054】
これまでの実施例と同様に、従来法で作成した接合の臨界電流値は20%程度もの広い範囲にばらついていたが、本発明の方法で作成したものでは実施例1、2の結果ほどではないもののばらつきは比較的狭い範囲に収まっており、制御性が向上していることがわかる。
【0055】
また、臨界電流値の分布を詳細にみると、従来法では頻発していた大きく臨界電流値がずれた接合(説明図1のIcが大きく20%程度ずれたもの)の発生がまったくなくなっていることが前述の実施例同様に確認できた。
【0056】
本実施例の脱水素処理は接合形成層のパターニングの途中で実施できるもので、他の配線層に対しては実施例1または2だけが実施できる。
【0057】
<実施例4>
この実施例は実施例1〜3と同じ目的で行う処理方法とその方法で作られる素子構造を示すものである。図9を使ってその構造を説明する。
図1に示したジョセフソン接合をニオブ配線で接続した構造をウエハ上に形成し、図9Aに示すように、表面をSiO膜で覆った後、接合の両側の電極ニオブに接続できるような接続孔を開口する。今の場合、接合JJ1の上部電極Nb51と下部電極Nb53への接続孔をフォトリソグラフィーおよびドライエッチングによって形成する。下部電極Nb53は接合JJ1の形成時の下部電極Nb32への接続のために設けたものである。
【0058】
この接続孔は個々のジョセフソン接合の電極毎に形成しなければならないが、いくつかのジョセフソン接合が並列もしくは直列に接続されていて一つの連続したニオブの領域になっている場合は共通の接続孔を設ければよい。しかし、ニオブ領域の体積が非常に大きくなっている場合は多数の接続孔を設ける方が効果は顕著である。これは先に説明したように、ニオブ中の水素拡散にある程度の時間がかかるためである。
【0059】
SiO膜の開口後、ウエハ全面にパラジウム層Pdをスパッタリング法で形成する。図9Bはこの段階でのウエハ断面の構造を示している。パラジウムは水平方向のハッチングを入れた領域である。パラジウムを直接形成するのでなく、パラジウム層の下に薄くチタンの層を酸化膜との接着性改善のために設けても良い。ここでは5nmのチタン層の上に50nmのパラジウム層を形成している。チタン層はあからさまに表示していない。
この状態で基板を数時間〜数週間室温もしくは100〜200℃程度に保持する。保持環境の水素分圧が低い(室温では10−8Pa程度以下)ことが必要だが、特に水素の使用場所に近い等でなければ通常の実験室で十分である。保持時間は素子内の水素がニオブ中を拡散移動しパラジウムの領域から大気中に放出され、ニオブ内の水素濃度が十分低くなるよう十分長く取る必要がある。保持温度、素子の配線構造の複雑さ等にも依存する。ニオブ配線のどの位置からでも最近傍のパラジウム接続位置までの距離を1mm程度以下になるように接続部を設けた場合には室温で1週間程度あれば十分であった。100ミクロン程度まで高頻度に接続部が形成できる場合には数時間程度まで短くすることができた。この場合の距離は水素の拡散経路であるからニオブ配線内の道のりとして算出した長さである。
【0060】
また、次の図9Cに示す構造まで加工した後に大気中に保持してもよい。図9Cは、引き続き通常のフォトリソグラフィー法を用いてNb層との接続孔近傍にパラジウムを残すようなフォトレジストパターンを形成する。さらに引き続いて、アルゴンイオンのミリング法を利用してパラジウム層とチタン層の積層膜(もしくはパラジウム層)をパターニングし、パラジウム電極Pd11、Pd12をつくったものである。水素放出部の面積が図9Bに比べて桁違いに小さいが、必要な保持時間は大差なかった。
通常のジョセフソン接合を備えた素子の使用環境、保持環境の水素分圧は十分低い場合がほとんどであるから、図9Cの構造で素子製造を終えても良い。今の場合、念のため万一、水素を含む環境に曝された場合にも素子性能の劣化を起こさないよう、図9Dに示すように表面をSiO層4aで覆った。
【0061】
図9Cのパラジウム−チタン電極Pd13、Pd14、は最終的に必要ではないので図9Eに示すようにすべてミリングにて除去してもよい。さらに表面をSiO層4で覆った図9Fに示す構造にすれば、後で水素雰囲気に曝されても素子特性の変動がない。
【0062】
以上説明した方法で作成したジョセフソン接合の臨界電流値を従来構造のものと比較したところ実施例1〜3の方法(4)と同等の非常に良い制御性が得られた。ばらつきは設計値から±数%の範囲に収めることができた。
また、臨界電流値の分布を詳細にみると、従来法では頻発していた大きく臨界電流値がずれた接合(説明図1のIcが大きく20%程度ずれたもの)の発生がまったくなくなっていることが前述の実施例同様に確認できた。
【0063】
この構造によってより多数のジョセフソン接合を形成した際のばらつきも小さく抑えることができるようになったため、数万〜数10万個の接合を集積した大規模回路素子の製造が可能になった。
【0064】
本発明により接合特性のばらつきが抑制できるようになっただけでなく、個々の接合の超伝導特性も改善されている。その一例を図20の表4に示した。ギャップ電圧、Vm、Ic・Rn等超伝導回路作成の際重要な特性値が本発明の方法と構造により大きな値となっており、接合特性が改善されていることがわかる。
また、多数のジョセフソン接合が備わった回路だけでなく、接合数は少なくても個々の接合の特性が優れたものが求められる素子にも本発明は有効である。
【0065】
<実施例5>
本実施例は、実施例1〜4のようにニオブ中に取り込まれた水素をニオブ外に放出させて接合特性改善を目指すものではなく、水素濃度の異なる層との接続部に水素の拡散しにくい構造を設け、接合製造後の特性変動を抑制するものである。図10を使ってその構造を説明する。
【0066】
図10は図1、図8と同類のジョセフソン接合をニオブ配線で接続した回路の一部の断面構造を示している。製造方法は実施例1〜4に記載した従来方法によるものである。図10には3つのジョセフソン接合、JJ11、JJ12、JJ13が示されているが、実際の回路動作用に臨界電流値を設計してあるのは中央のJJ12だけである。両側のJJ11とJJ13は、JJ12の臨界電流値の2倍の臨界電流値を持つように接合面積を決めている。後に述べる水素濃度変化、それによる臨界電流値の変動が生じた場合にも回路を流れうる最大電流値以上になるように設定しておけば、特に2倍である必要はなく、素子面積の観点からは小さいほうが望ましい。回路動作上、これら二つの接合の臨界電流値を超える電流がこの回路に流れることはないので、これら二つの接合は単なるニオブ配線として働く。
【0067】
しかしながら、水素移動の経路としてみると両側の二つの接合は水素移動をせき止め、実際に回路動作する接合JJ12の上部と下部の両電極の水素濃度を一定に保つ働きをする。JJ12の上部電極配線Nb42、Nb52を介して直接Nb32に接続すると、それに接続しているNb21と水素の行き来が生じる。また、JJ12の下部電極配線Nb31に直接、Nb51、Nb61、Pd11を接続するとこの経路を通じてNb中の水素が外部に放出され、水素濃度は大きく減少する。実回路中には接続の仕方の異なる接合があり、水素濃度のばらつき、従って接合特性のばらつきが生じてしまうことになる。本実施例のようにJJ11とJJ13の接合特性は変動するが、JJ12の特性は接合が完成した時点から変動せず、実回路内で多数ある接合を設計値どおり作成することが出来る。
【0068】
以上、ジョセフソン接合における水素拡散を抑制するバリア層として用いた構造について説明したが、これはアルミニウムがニオブと違って水素の拡散係数が非常に小さいことを利用しているものである。従って、水素の拡散を抑制できるものであれば、接合に限らず利用できる。非常に薄いアルミニウム層(一部が酸化されていなくてもよい)、窒化ニオブ層等でも同様の構造が出来る。また、回路に抵抗成分が入ることが許容できる場合はモリブデンのような、動作条件で超伝導にならない材料を使うことも可能なことはいうまでもない。
【0069】
<実施例6>
本実施例は、実施例1〜4と同じ目的で行う処理方法とその方法で作られる素子構造を示すものである。図11を使ってその構造を説明する。
図1に示したジョセフソン接合をニオブ配線で接続した構造をウエハ上に形成し、図11Aに示すように、表面をSiO膜5で覆う。このSiO膜5の所定の位置に開口部を通常のフォトエッチング法で形成する。層間の接続配線を形成する通常の開口部(V1)以外に、上層への接続の無い開口部(DV1)を設ける(図11B)。引き続き、図11Cに示すように、ウエハ全面にニオブ層(Nb)をスパッタリング法で形成した。通常は引き続いてこのニオブ層をパターニングするが、ここでは約1日、室温で放置した。この間にニオブ層(Nb)を通じて水素が拡散し、直接つながっていなかったニオブ層の水素濃度が一様になる。この場合は下層ニオブ(Nb32)と電極二オブ(Nb41)間で水素が行き来し、一様になるわけである。上層部への接続の無い水素拡散のためだけの開口部を狭い間隔で設ければ、短時間で一様な水素濃度に達することができる。ここでは500ミクロン程度の間隔で開口部を設けたため1日程度の放置時間をとった。ジョセフソン接合が劣化しない程度の100度程度の温度に加熱しても放置時間を短くすることが出来ることはいうまでもない。
【0070】
その後通常のフォトエッチング法でニオブ層をパターニングし配線Nb54を形成する。特に上層への接続のない開口部(DV1)のニオブはエッチング除去した。このエッチングの際、下層のニオブ(Nb32)にエッチングが及んで劣化するのを避けるため、図11Eに示すように、この部分にニオブの島(Nb55)を残しても良い。
前述した実施例と同様に、この方法および構造によってより多数のジョセフソン接合を形成した際のばらつきも小さく抑えることができるようになったため、数万〜数10万個の接合を集積した大規模回路素子の製造が可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明を適用した超伝導多層配線の一例を示す断面図。
【図2】本発明の製造工程のプロセスフローを示す図。
【図3】本発明の処理を適用した一例を示す断面図。
【図4】本発明の製造工程の別のプロセスフローを示す図。
【図5A】本発明の処理を施すウエハの製造途中工程での素子断面。
【図5B】本発明の処理を施すウエハの製造途中工程での素子断面。
【図5C】本発明の処理を施すウエハの製造途中工程での素子断面。
【図5D】本発明の処理を施すウエハの製造途中工程での素子断面。
【図5E】本発明の処理を施すウエハの製造途中工程での素子断面。
【図5F】本発明の処理を施すウエハの製造途中工程での素子断面。
【図6A】本発明の処理を施すウエハの製造途中工程での素子断面。
【図6B】本発明の処理を施すウエハの製造途中工程での素子断面。
【図6C】本発明の処理を施すウエハの製造途中工程での素子断面。
【図7】本発明の製造工程のさらに別のプロセスフローを示す図。
【図8A】本発明の構造を示す素子断面図(途中工程)。
【図8B】本発明の構造を示す素子断面図(最終工程)。
【図8C】本発明の構造を示す素子断面図(最終工程)。
【図9A】本発明の別の構造を示す素子断面図。
【図9B】本発明の別の構造を示す素子断面図。
【図9C】本発明の別の構造を示す素子断面図。
【図9D】本発明の別の構造を示す素子断面図。
【図9E】本発明の別の構造を示す素子断面図。
【図9F】本発明の別の構造を示す素子断面図。
【図10】本発明の別の構造を示す素子断面図。
【図11A】本発明のさらに別の構造を示す素子断面図。
【図11B】本発明のさらに別の構造を示す素子断面図。
【図11C】本発明のさらに別の構造を示す素子断面図。
【図11D】本発明のさらに別の構造を示す素子断面図。
【図11E】本発明のさらに別の構造を示す素子断面図。
【図12】テストパターンで測定した接合での臨界電流値の分布図。
【図13】別のテストパターンで測定した接合での臨界電流値の分布図。
【図14】実際の回路における接合での臨界電流値分布の模式図。
【図15】接合抵抗変動量とニオブ配線抵抗変動量との相関図。
【図16】ニオブ配線抵抗変動量とニオブ中の水素濃度との相関図。
【図17】Nb成膜後の各種水素放出処理法に対応する実測臨界電流値を示す表。
【図18】Nbパターニング後の各種水素放出処理法に対応する実測臨界電流値を示す表。
【図19】Nbパターニング後の各種水素放出処理法に対応する実測臨界電流値を示す表。
【図20】各種水素放出処理法に対応するジョセフソン接合特性を示す表。
【符号の説明】
【0072】
1…シリコン基板、
2…シリコン熱酸化膜、
3,3a,3b,3c,4,4a…シリコン酸化膜、SiO41,SiO42…シリコン酸化膜(SiO)、
Nb,Nb,Nby…ニオブ層、
Nb11,Nb,Nb31,Nb32,Nb33,Nb41,Nb42,Nb51,Nb52,Nb53,Nb101…ニオブ配線層(パターン)、
Al…表面を酸化したアルミニウムパターン、
Mo…Moパターン、
JJ1,JJ2,JJ11,JJ12,JJ13…ジョセフソン接合部、
53…フォトレジスト、
Pd…パラジウム層、
Pd11,Pd12,Pd13,Pd14…パラジウム電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に絶縁膜を形成する第1の工程と、
前記絶縁膜上にニオブ膜を形成する第2の工程と、
前記第1のニオブ膜上に形成されたレジストをマスクとして前記ニオブ膜を所望の形状にパターニングすることにより、ニオブ配線を形成する第3の工程とを備え、
前記第2の工程が完了し、前記第3の工程を開始する前に、前記のニオブ膜表面に対する表面処理工程を有することを特徴とするジョセフソン接合を備えた電子デバイスの製造方法。
【請求項2】
前記表面処理工程は、アルゴンスパッタリングを用いて、3〜20分間処理することを特徴とする請求項1記載のジョセフソン接合を備えた電子デバイスの製造方法。
【請求項3】
前記表面処理工程は、アルゴンスパッタリングを用いて、処理温度150〜300℃で、1〜3分間処理することを特徴とする請求項1記載のジョセフソン接合を備えた電子デバイスの製造方法。
【請求項4】
前記表面処理工程は、純アルゴン中で、処理温度150〜600℃で、3〜30分間処理することを特徴とする請求項1記載のジョセフソン接合を備えた電子デバイスの製造方法。
【請求項5】
前記表面処理工程は、アルゴンスパッタリングにより前記のニオブ膜の表面を概ね10nmクリーニング除去し、その後に前記のニオブ膜の表面上にパラジウム膜を3〜50nm堆積し、さらに2〜20分間真空中またはアルゴン中に晒し、その後にアルゴンスパッタリングにより前記パラジウム膜の表面を概ね10nmクリーニング除去することを特徴とする請求項1記載のジョセフソン接合を備えた電子デバイスの製造方法。
【請求項6】
基板上に絶縁膜を形成する第1の工程と、
前記絶縁膜上にニオブ膜を形成する第2の工程と、
前記のニオブ膜上に形成されたレジストをマスクとして前記のニオブ膜を所望の形状にパターニングする第ことにより、ニオブ配線を形成する第3の工程とを備え、
前記第3の工程が完了した後に、前記のニオブ配線表面に対する表面処理工程を有することを特徴とするジョセフソン接合を備えた電子デバイスの製造方法。
【請求項7】
前記表面処理工程は、DCバイアス条件がVdc=50〜100Vであるアルゴンスパッタリングを用いて、3〜20分間処理することを特徴とする請求項6記載のジョセフソン接合を備えた電子デバイスの製造方法。
【請求項8】
前記表面処理工程は、DCバイアス条件がVdc=50〜100Vであるアルゴンスパッタリングを用いて、処理温度150〜300℃で、1〜3分間処理することを特徴とする請求項6記載のジョセフソン接合を備えた電子デバイスの製造方法。
【請求項9】
前記表面処理工程は、純アルゴン中で、処理温度150〜600℃で、3〜30分間処理することを特徴とする請求項6記載のジョセフソン接合を備えた電子デバイスの製造方法。
【請求項10】
前記表面処理工程は、アルゴンスパッタリングにより前記のニオブ膜の表面を概ね10nmクリーニング除去し、その後に前記のニオブ膜の表面上にパラジウム膜を3〜50nm堆積し、さらに2〜20分間真空中またはアルゴン中に晒し、その後にアルゴンスパッタリングにより前記パラジウム膜の表面を概ね10nmクリーニング除去することを特徴とする請求項6記載のジョセフソン接合を備えた電子デバイスの製造方法。
【請求項11】
基板上に絶縁膜を形成する第1の工程と、
前記絶縁膜上に第1のニオブ膜を形成する第2の工程と、
前記第1のニオブ膜上に極薄絶縁膜を形成する第3の工程と、
前記極薄絶縁膜上に第2のニオブ膜を形成する第4の工程と、
を有し、
前記第2のニオブ膜に形成されたレジストをマスクとして前記第2のニオブ膜を所望の形状にパターニングする第5の工程と、パターニングされた前記第2のニオブ膜上および前記パターニングにより露出した前記極薄絶縁膜上に形成されたレジストをマスクとして前記極薄絶縁膜を所望の形状にパターニングする第6の工程と、前記パターニングされた前記第2のニオブ膜および前記極薄絶縁膜と、前記第1のニオブ膜上に形成されたレジストをマスクとして前記第1のニオブ膜を所望の形状にパターニングする第7の工程とにより、ニオブジョセフソン接合を有する素子部を形成する工程と、を備え、
前記第6の工程が完了し、第7の工程を開始する前に、前記第1のニオブ膜表面に対する表面処理工程を有することを特徴とするジョセフソン接合を備えた電子デバイスの製造方法。
【請求項12】
前記表面処理工程は、DCバイアス条件がVdc=50〜100Vであるアルゴンスパッタリングを用いて、3〜20分間処理することを特徴とする請求項11記載のジョセフソン接合を備えた電子デバイスの製造方法。
【請求項13】
前記表面処理工程は、DCバイアス条件がVdc=50〜100Vであるアルゴンスパッタリングを用いて、処理温度150〜300℃で、1〜3分間処理することを特徴とする請求項11記載のジョセフソン接合を備えた電子デバイスの製造方法。
【請求項14】
前記表面処理工程は、純アルゴン中で、処理温度150℃以下で、30〜60分間処理することを特徴とする請求項11記載のジョセフソン接合を備えた電子デバイスの製造方法。
【請求項15】
前記表面処理工程は、アルゴンスパッタリングにより前記第1のニオブ膜の表面を概ね10nmクリーニング除去し、その後に前記第1のニオブ膜の表面上にパラジウム膜を3〜50nm堆積し、さらに2〜20分間真空中またはアルゴン中に晒し、その後にアルゴンスパッタリングにより前記パラジウム膜の表面を概ね10nmクリーニング除去することを特徴とする請求項11記載のジョセフソン接合を備えた電子デバイスの製造方法。
【請求項16】
基板に設けられた絶縁膜と、
前記絶縁膜上に第1のニオブ膜と、極薄絶縁膜と、第2のニオブ膜とがこの順に前記基板側から積層されてなる第1の接合面積を有する第1のジョセフソン接合部と、
前記第1の接合面積より大きい接合面積を有する第2のジョセフソン接合部とを有し、
前記第1のジョセフソン接合の第1もしくは第2のニオブ膜と前記第2のジョセフソン接合の第1もしくは第2のニオブ膜が互いに接続され、かつ他のニオブ配線とは互いに分離されていることを特徴とするジョセフソン接合を備えた電子デバイス。
【請求項17】
基板に設けられた絶縁膜と、
前記絶縁膜上に第1のニオブ膜と、極薄絶縁膜と、第2のニオブ膜とがこの順に前記基板側から積層されてなる第ジョセフソン接合部と、を有し、
前記第1のニオブ膜が、直接もしくは前記第1のニオブ膜が延在する領域上に設けられた第3のニオブ膜を介してパラジウム膜と接続され、このパラジウム膜上に導体がないことを特徴とするジョセフソン接合を備えた電子デバイス。
【請求項18】
基板に設けられた絶縁膜と、
前記絶縁膜上に第1のニオブ膜と、極薄絶縁膜と、第2のニオブ膜とがこの順に前記基板側から積層されてなる第ジョセフソン接合部と、を有し、
前記第2のニオブ膜が、直接もしくは前記第2のニオブ膜が延在する領域上にもうけられた第3のニオブ膜を介してパラジウム膜に接続されこのパラジウム膜上に導体がないことを特徴とするジョセフソン接合を備えた電子デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図5F】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【図9E】
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【図9F】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図11D】
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【図11E】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2009−111306(P2009−111306A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−284729(P2007−284729)
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「低消費電力型超電導ネットワークデバイスの開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【出願人】(391004481)財団法人国際超電導産業技術研究センター (144)
【Fターム(参考)】