説明

ジルコニア系多孔質体及びその製造方法

【課題】耐熱安定性に優れたジルコニア系多孔質体を製造する。
【解決手段】BJH法に基づく細孔分布において、8〜20nm及び30〜100nmの気孔径にピークを有し、かつ、全気孔容量が0.4cc/g以上であることを特徴とするジルコニア系多孔質体、ならびにBJH法に基づく細孔分布において、20〜110nmの気孔径にピークを有し、かつ、全気孔容量が0.4cc/g以上であることを特徴とするジルコニア系多孔質体に係る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なジルコニア系多孔質体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、触媒担体として用いられているジルコニア単体の400℃における比表面積は、せいぜい100m/g程度である。また、それ以上の比表面積のものは、一般的には一定の構造をもたない非晶質である。このため、ジルコニア単体を触媒担体として用いても、400℃以上の高温では比表面積が小さくなる結果、高温下で安定した性能を得ることができない。従って、触媒担体として用いるためにはさらなる耐熱性(熱安定性)の改善が必要である。
【0003】
これに対し、酸化ジルコニウムと酸化セリウムからなるジルコニア−セリア組成物は、一般に1000℃という高温においても比較的大きな比表面積を確保できる触媒としてジルコニアに比べて耐熱性において有利である。
【0004】
特許文献1には、「pH3〜4.5の範囲においてアルミニウム塩水溶液からアルミニウム成分の少なくとも一部を沈殿させ、該沈殿を含む水溶液を飽和蒸気又は飽和蒸気に近い雰囲気中で所定時間保持して前駆体を生成させ、該前駆体を焼成する」ことにより、「中心細孔径がメソ細孔領域の範囲内にあり、該細孔の分布がシャープであり、細孔の少なくとも一部は三次元の網目状に連通し、該連通経路がランダムで三次元網目構造を有し、かつ実質的に繊維状構造を有しない多孔体」、「前記中心細孔径が、2〜100nmの範囲内にある多孔体」、「メソ細孔容積(2〜100nmの領域にある細孔の容積)の70%以上が、メソ細孔領域に存在する細孔の中心細孔径の±5nm以内の領域にある多孔体」、「ジルコニア系多孔体であって、メソ細孔容積(2〜100nmの領域にある細孔の容積)の40%以上が、メソ細孔領域に存在する細孔の中心細孔径の±5nm以内の領域にある多孔体」を製造することが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、「ジルコニウム塩およびケイ素化合物をアルカリ水溶液に添加することにより生成する酸化ジルコニウムゾルをアルカリ水溶液中で80〜150℃で8時間以上加熱した後、粒状化し、次いで200〜1000℃で焼成処理する」ことにより、「平均粒径が0.5〜300ミクロンで、平均細孔直径が20〜300オングストローム(2〜30nm)であり、シリカを0.1〜10重量%含有する多孔性の液体クロマトグラフィ用正方晶系酸化ジルコニウム粒子」、そして、前記正方晶系酸化ジルコニウム粒子の「細孔容積は0.17〜0.42ml/g」を製造することが開示されている。
【0006】
特許文献3には、「混合セリウムないしジルコニウム酸化物の製造方法において、三価セリウムないしジルコニウム化合物を含有する液体混合物を調製;該混合物を(i)炭酸塩もしくは重炭酸塩及び(ii)塩基と反応間に反応性媒体のpHが中性又は塩基性のままであるような条件下に接触させ;炭酸セリウム化合物を含む沈殿物を収集し;該沈殿物を焼成する」ことにより、「少なくとも0.6cm/gの全気孔量を有し、しかも全気孔容量の少なくとも50%が10〜100nmの直径を有する気孔からなる、混合セリウムないしジルコニウム酸化物」を製造することに加え、その酸化物が「800℃で6時間の焼成後、少なくとも20m/gの比表面積を有する」ことが開示されている。
【特許文献1】特開2001−170500公報
【特許文献2】特許第3129097号公報
【特許文献3】特許第3016865号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、ジルコニアの比表面積及び全細孔容積は記載されていないものの、400℃で焼成したときの中心細孔径9.5nmが600℃で焼成したときに20.5nmに増大していることから、高温(約1000℃)での熱安定性に劣るものと考えられる。
【0008】
特許文献2では、細孔容積が0.17〜0.42ml/gと小さい。これでは、触媒等の各種の用途に使用しても十分に性能を得ることは困難である。
【0009】
特許文献3では、900℃で6時間した場合の比表面積が最大で35m/gであり、熱安定性という点でさらなる改善が必要である。
【0010】
従って、本発明の主な目的は、熱安定性に優れたジルコニア系多孔質体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、従来技術の問題に鑑みて研究を重ねた結果、特定の工程を採用することによって得られる多孔質体が上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、下記のジルコニア系多孔質体及びその製造方法に係る。
【0013】
1. BJH法に基づく細孔分布において、8〜20nm及び30〜100nmの気孔径にピークを有し、かつ、全気孔容量が0.4cc/g以上であることを特徴とするジルコニア系多孔質体。
【0014】
2. 20〜200nmの直径を有する気孔の合計容積が全気孔容量の50%以上を占める前記項1に記載のジルコニア系多孔質体。
【0015】
3. BJH法に基づく細孔分布において、20〜110nmの気孔径にピークを有し、かつ、全気孔容量が0.4cc/g以上であることを特徴とするジルコニア系多孔質体。
【0016】
4. 10〜100nmの直径を有する気孔の合計容積が全気孔容量の50%以上を占める前記項3に記載のジルコニア系多孔質体。
【0017】
5. 一次粒子径が、5〜30nmである前記項1〜4のいずれかに記載のジルコニア系多孔質体。
【0018】
6. 1000℃で3時間焼成後の比表面積が、少なくとも30m/gである前記項1〜5のいずれかに記載のジルコニア系多孔質体。
【0019】
7. ジルコニア系多孔質体を製造する方法であって、
(1)80℃以上95℃未満の硫酸塩化剤と80℃以上95℃未満のジルコニウム塩溶液とを混合することにより調製された塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液Aと、65℃以上80℃未満の硫酸塩化剤と65℃以上80℃未満のジルコニウム塩溶液とを混合することにより調製された塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液Bとを混合する第1工程、
(2)第1工程で得られる反応液を95℃以上で熟成する第2工程、
(3)第2工程で得られる混合液にアルカリを添加して前記塩基性硫酸ジルコニウムを中和することにより、水酸化ジルコニウムを生成させる第3工程、及び
(4)前記水酸化ジルコニウムを熱処理することにより、ジルコニア系多孔質体を得る第4工程
を有するジルコニア系多孔質体の製造方法。
【0020】
8. 前記反応液A及び/又は反応液Bの調製において、塩基性硫酸ジルコニウムを酸化ジルコニウムに換算した生成速度が20g/min・L以下となるように、硫酸塩化剤とジルコニウム塩溶液とを混合する前記項7に記載の製造方法。
【0021】
9. 前記反応液A及び反応液Bの混合割合が、反応液A/(反応液A+反応液B)の液量比として0.1以上1未満である前記項8に記載の製造方法。
【0022】
10. ジルコニア系多孔質体を製造する方法であって、
(1)塩基性硫酸ジルコニウムを酸化ジルコニウムに換算した生成速度が20g/min・L以下となるように、80℃以上95℃未満の硫酸塩化剤と80℃以上95℃未満のジルコニウム塩溶液とを混合することにより、塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液Aを調製する第1工程、
(2)第1工程で得られる反応液を95℃以上で熟成する第2工程、
(3)第2工程で得られる混合液にアルカリを添加して前記塩基性硫酸ジルコニウムを中和することにより、水酸化ジルコニウムを生成させる第3工程、及び
(4)前記水酸化ジルコニウムを熱処理することにより、ジルコニア系多孔質体を得る第4工程
を有するジルコニア系多孔質体の製造方法。
【0023】
11. 前記反応液Aのフリーの酸濃度を0.1〜2.0Nとする前記項7〜10のいずれかに記載の製造方法。
【0024】
12. 前記反応液Bのフリーの酸濃度を0.1〜2.0Nとする前記項7〜9のいずれかに記載の製造方法。
【0025】
13. 第1工程〜第4工程の少なくともいずれかの段階において、希土類元素、遷移金属元素、Ca、Mg、Al、Si及びZnの少なくとも1種の化合物を添加する工程を有する前記項7〜12のいずれかに記載の製造方法。
【0026】
14. 塩基性硫酸ジルコニウムに、希土類元素、遷移金属元素、Ca、Mg、Al、Si及びZnの少なくとも1種の塩を添加する工程を有する前記項7〜12のいずれかに記載の製造方法。
【0027】
15. 水酸化ジルコニウムに、希土類元素、遷移金属元素、Ca、Mg、Al、Si及びZnの少なくとも1種の酸化物及び/又は水酸化物を添加する工程を有する前記項7〜12のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0028】
従来法においては「常温の硫酸塩化剤と常温のジルコニウム塩溶液とを混合し、65〜80℃未満に昇温した後、一定時間保持(熟成)する」ことにより、塩基性硫酸ジルコニウムを生成させ、その後、アルカリで中和し、得られた水酸化物を焼成することによりジルコニア系多孔質体を製造していた。
【0029】
しかしながら、最終製品であるジルコニア系多孔質体の主たる特性は、a)塩基性硫酸ジルコニウムを生成させる段階でほぼ決まってしまい、またb)一般に知られているアルカリによる共沈法による場合はその制御が困難である。このため、気孔径と気孔量との関係は、図1の「従来法」で示すように、気孔径のピークは約7〜10nm、その気孔径の分布はシャープなものであり、全気孔容量は約0.2〜0.4cc/gである。その結果、高温で焼成した場合に焼結しやすくなるため、例えば400℃の焼成での比表面積は80〜150m/gであるものの、1000℃で焼成した場合は30m/g未満となる。これは、内燃機関の排ガス処理用の触媒材料として要求される熱安定性を必ずしも満足するものではない。
【0030】
これに対し、本発明のジルコニア系多孔質体は、特定の細孔構造を有していることから、熱安定性において優れた効果を発揮することができる。すなわち、高温で加熱された場合であっても、比表面積の低下が効果的に抑制される。その結果、従来品に比べて高い比表面積を維持することが可能になる。
【0031】
このような特徴をもつ本発明のジルコニア系多孔質体は、例えば触媒担体として有用である。特に、内燃機関の排ガス処理用触媒材料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
1.ジルコニア系多孔質体
本発明のジルコニア系多孔質体は、特定の細孔構造を有することを特徴とする。より具体的には、次の第一多孔質体及び第二多孔質体(両者を総称する場合は「本発明多孔質体」という。)に特徴をもつ。
【0033】
第一多孔質体は、BJH法に基づく細孔分布において、8〜20nm及び30〜100nmの気孔径にピークを有し、かつ、全気孔容量が0.4cc/g以上であることを特徴とする。上記細孔分布は、後記の実施例1で示す装置及び方法により測定されるものであり、図1のように縦軸を「細孔容積」、横軸を「気孔径」として表されるものである(以下同じ)。このような細孔構造をとることにより、優れた熱安定性を発揮することができる。かかる見地より、上記ピークは、特に10〜18nm及び40〜70nmに現れていることが望ましい。
【0034】
また、上記の全気孔容量は、通常0.4cc/g以上であるが、特に0.5cc/g以上であることが望ましい。なお、全気孔容量の上限は限定されないが、通常は0.7〜0.9cc/g程度である。
【0035】
第一多孔質体は、20〜200nm(特に30〜180nm)の直径を有する気孔の合計容積が全気孔容量の50%以上を占めることが好ましい。
【0036】
第二多孔質体は、BJH法により得られる細孔分布において、20〜110nmの気孔径にピークを有し、かつ、全気孔容量が0.4cc/g以上であることを特徴とする。このような細孔構造をとることにより、優れた熱安定性を発揮することができる。かかる見地より、上記ピークは、特に25〜90nmが好ましく、より好ましくは30〜70nmである。
【0037】
また、上記の全気孔容量は、通常0.4cc/g以上であるが、特に0.5cc/g以上であることが望ましい。なお、全気孔容量の上限は限定されないが、通常は0.7〜0.9cc/g程度である。
【0038】
第二多孔質体は、10〜100nm(特に25〜90nm)の直径を有する気孔の合計容積が全気孔容量の50%以上を占めることが好ましい。
【0039】
本発明多孔質体は、通常は一次粒子が三次元的に連結してなる構造を有する。この場合のX線回折により計算される一次粒子径(平均粒子径)は限定されないが、特に5〜30nmであることが好ましい。かかる粒子径を有する一次粒子で多孔質体が構成されることにより、より優れた熱安定性を得ることができる。
【0040】
本発明の多孔質体は、1000℃で3時間焼成後の比表面積(BET法)が、30m/g以上、1050℃で3時間焼成後の比表面積が25m/g以上であることが好ましい。本発明の多孔質体は、熱安定性に優れ、熱履歴を受けてもその比表面積の低下が効果的に抑制される。その結果として、高温下でも従来品に比べて高い比表面積を確保することができる。上記比表面積は、後記の実施例1のように400℃で焼成して得られた多孔質体に対して1000℃で3時間の焼成を施した後の比表面積を示す。
【0041】
本発明の多孔質体は、基本的には酸化ジルコニウム(ZrO)から構成されるが、後記のように第三成分が添加される場合にはこれらの成分を含んでいても良い。第三成分を含む場合は、これらを含む固溶体又は複合酸化物となる。第三成分の含有量は限定的ではないが、通常は本発明多孔質体中50重量%未満、特に1〜49重量%とすれば良い。なお、本発明の効果を妨げない範囲内で不可避不純物等が含まれていても良い。
2.ジルコニア系多孔質の製造方法
本発明多孔質体の製造方法は、上記のような構造をもつ多孔質体が得られる限り制限されないが、特に本発明の製造方法により好適に製造することができる。すなわち、以下に示す第一方法及び第二方法により製造することが望ましい。
【0042】
第一方法のジルコニア系多孔質体の製造方法は、
(1)80℃以上95℃未満の硫酸塩化剤と80℃以上95℃未満のジルコニウム塩溶液とを混合することにより調製された塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液Aと、65℃以上80℃未満の硫酸塩化剤と65℃以上80℃未満のジルコニウム塩溶液とを混合することにより調製された塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液Bとを混合する第1工程、
(2)第1工程で得られる反応液を95℃以上で熟成する第2工程、
(3)第2工程で得られる混合液にアルカリを添加して前記塩基性硫酸ジルコニウムを中和することにより、水酸化ジルコニウムを生成させる第3工程、及び
(4)前記水酸化ジルコニウムを熱処理することにより、ジルコニア系多孔質体を得る第4工程
を有する。
【0043】
第二方法のジルコニア系多孔質体の製造方法は、
(1)塩基性硫酸ジルコニウムを酸化ジルコニウムに換算した生成速度が20g/min・L以下となるように、80℃以上95℃未満の硫酸塩化剤と80℃以上95℃未満のジルコニウム塩溶液とを混合することにより、塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液Aを調製する第1工程、
(2)第1工程で得られる反応液を95℃以上で熟成する第2工程、
(3)第2工程で得られる混合液にアルカリを添加して前記塩基性硫酸ジルコニウムを中和することにより、水酸化ジルコニウムを生成させる第3工程、及び
(4)前記水酸化ジルコニウムを熱処理することにより、ジルコニア系多孔質体を得る第4工程
を有する。
【0044】
以下、第一方法及び第二方法の各工程についてそれぞれ説明する。なお、両者の第2工程〜第4工程は共通するので、それらはまとめて説明する。
【0045】
第1工程(第一方法)
第一方法の第1工程では、80℃以上95℃未満の硫酸塩化剤と80℃以上95℃未満のジルコニウム塩溶液とを混合することにより調製された塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液Aと、65℃以上80℃未満の硫酸塩化剤と65℃以上80℃未満のジルコニウム塩溶液とを混合することにより調製された塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液Bとを混合する。
【0046】
反応液A及びBで使用される硫酸塩化剤は、ジルコニウムイオンと反応して硫酸塩を生成させるもの(すなわち、硫酸塩化させるもの)であれば良く、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム等が例示される。硫酸塩化剤は、例えば粉末状、溶液状等のいずれの形態であっても良い。この中でも溶液(特に水溶液)として用いることが好ましい。溶液として使用する場合の濃度は適宜設定することができる。
【0047】
反応液A及びBで使用されるジルコニウム塩溶液は、ジルコニウム塩を溶媒に溶解して得られる溶液を用いることができる。ジルコニウム塩は、ジルコニウムイオンを供給するものであれば限定的でなく、例えばオキシ硝酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム等を1種又は2種以上で用いることができる。この中でも、工業的規模での生産性が優れているという見地より、オキシ塩化ジルコニウムを用いることが好ましい。前記溶媒としては、用いるジルコニウム塩の種類等に応じて適宜選択すれば良いが、通常は水を用いることが望ましい。
【0048】
ジルコニウム塩溶液の濃度は、特に制限されないが、一般的には溶媒1000g中に酸化ジルコニウム(ZrO)として5〜200g、特に50〜100gとすることが望ましい。
【0049】
硫酸塩化剤とジルコニウム塩溶液とを混合することにより、塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液を調製する。この場合、反応液Aでは、80℃以上95℃未満の硫酸塩化剤とジルコニウム塩溶液とを混合する。一方、反応液Bでは、65℃以上80℃未満の硫酸塩化剤とジルコニウム塩溶液とを混合する。すなわち、あらかじめ硫酸塩化剤とジルコニウム塩溶液とをそれぞれ上記温度に加熱し、上記温度を維持したまま硫酸塩化剤とジルコニウム塩溶液とを混合する。このように、上記温度で混合された反応液を用いることにより、最終製品であるジルコニア系多孔質の特性(例えば気孔径のピーク位置、全気孔容量、比表面積の耐熱性、一次粒子の凝集度等)を所望の値に設定することができる。
【0050】
硫酸塩化剤とジルコニウム塩溶液との混合は、両者を反応させて塩基性硫酸ジルコニウムが生成するようにすれば良い。なお、硫酸塩化剤とジルコニウム塩は、65℃以上の温度において反応し、塩基性硫酸ジルコニウムが生成する。
【0051】
反応液A及び/又は反応液B(特に反応液A)の調製においては、塩基性硫酸ジルコニウムを酸化ジルコニウムに換算した生成速度が20g/min・L以下(特に15g/min・L以下、さらには10g/min・L以下)となるように、硫酸塩化剤とジルコニウム塩溶液とを混合することができる。これによっても、得られるジルコニア系多孔質体の前記特性を制御することができる。特に、前記反応液A及び反応液Bの混合割合が、反応液A/(反応液A+反応液B)の液量比として0.1以上1未満(好ましくは0.1〜0.9、特に好ましくは0.2〜0.8)である場合に効果的である。生成速度を上記範囲に制御する方法は限定的でなく、例えば一方の反応液に他方の反応液を所定の速度で滴下する方法等を採用することができる。
【0052】
なお、本発明において、「塩基性硫酸ジルコニウムを酸化ジルコニウムに換算した」とは、塩基性硫酸ジルコニウムは、一般式{ZrO(OH)}・(ZrOSO1−x(0<x<1)で表され、分子量を一義的に定めることができないため、塩基性硫酸ジルコニウム中に含まれるジルコニウムが最終製品である酸化ジルコニウムとなった場合を想定し、酸化ジルコニウムに換算した、ことを意味する。
【0053】
なお、本発明における生成速度は、25%硫酸ナトリウム溶液中に16%オキシ酸化ジルコニウムを添加した場合におけるものである。
【0054】
また、本発明における上記「生成速度」は、混合終了後の液量1L当たりにおける生成速度を示す。すなわち、生成速度は、生成量の合計/(混合開始から混合終了までの時間(分))で得られた値をさらに(混合終了後の液量(L))で除した値を意味する。
【0055】
そして、本発明では、反応液A及び/又は反応液Bは、上記温度範囲内で温度が異なる2種以上の反応液として用いても良い。例えば、反応液Aを2種とする場合は、80℃以上85℃未満の硫酸塩化剤と80℃以上85℃未満のジルコニウム塩溶液とを混合して得られる反応液A−1と、85℃以上95℃未満の硫酸塩化剤と85℃以上95℃未満のジルコニウム塩溶液とを混合して得られる反応液A−2とを反応液Aとして用いることができる。また例えば、反応液Bを2種とする場合は、65℃以上70℃未満の硫酸塩化剤と65℃以上70℃未満のジルコニウム塩溶液とを混合して得られる反応液B−1と、70℃以上80℃未満の硫酸塩化剤と70℃以上80℃未満のジルコニウム塩溶液とを混合して得られる反応液B−2とを反応液Bとして用いることができる。このように温度を変えたものを使用することによって、ジルコニア系多孔質体の細孔構造をより精密に制御することができる。
【0056】
本発明では、反応液A及び/又はBは、フリーの酸濃度を0.1〜2.0Nとすることが好ましい。フリーの酸濃度を上記範囲に設定することによって、本発明の多孔質体を構成する凝集粒子の制御をより効果的に行うことができる。フリーの酸濃度の調整は、例えば塩酸、硫酸等を用いることによって実施することができる。本発明では、特に塩酸を用いることが好ましい。
【0057】
次に、反応液Aと反応液Bとを混合する。混合方法、混合順序等は特に限定されない。両者の混合割合は、一般的には酸化ジルコニウム換算で反応液A:反応液B=1:0.1〜9程度の範囲内において、多孔質体の用途、所望の特性等に応じて適宜定めることができる。
【0058】
第1工程(第二方法)
第二方法の第1工程では、塩基性硫酸ジルコニウムを酸化ジルコニウムに換算した生成速度が20g/min・L以下となるように、80℃以上95℃未満の硫酸塩化剤と80℃以上95℃未満のジルコニウム塩溶液とを混合することにより、塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液Aを調製する。
硫酸塩化剤及びジルコニウム塩溶液は、第一方法の第1工程で挙げたものと同様のものを使用することができる。
【0059】
硫酸塩化剤とジルコニウム塩溶液との混合は、塩基性硫酸ジルコニウムを酸化ジルコニウムに換算した生成速度は通常20g/min・L以下とすれば良いが、特に15g/min・L以下とすることが好ましく、より好ましくは10g/min・L以下とする。
【0060】
第2工程(第一方法及び第二方法)
第2工程では、第1工程で得られる反応液を(いったん冷却することなく)95℃以上で熟成する。第2工程により、塩基性硫酸ジルコニウムの生成を完全に行うことにより高い収率を確保することができる。熟成温度の上限は、反応液が沸騰しないように設定すれば良い。熟成時間は、上記温度等に応じて適宜設定することができるが、通常は0.5時間以上、特に1時間以上とすれば良い。
【0061】
第3工程(第一方法及び第二方法)
第3工程では、第2工程で得られる反応液にアルカリを添加して前記塩基性硫酸ジルコニウムを中和することにより、水酸化ジルコニウムを生成させる。
【0062】
アルカリとしては特に限定されず、例えば水酸化アンモニウム、重炭酸アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を使用することができる。アルカリの添加量は、上記反応液から沈殿物を生成させることができれば良く、通常は反応液のpHが9以上、特に10以上とすることが望ましい。アルカリは、そのままの形態で添加しても良いし、適当な溶媒(例えば水)に溶解させて得られる溶液の形態で添加しても良い。
【0063】
生成した沈殿物は、例えばろ過、遠心分離、デカンテーション等の公知の固液分離方法に従って回収すれば良い。回収後、必要に応じて水洗することもできる。また、必要に応じて、乾燥処理を施すこともできる。乾燥処理は、自然乾燥、加熱乾燥等のいずれであっても良い。さらに、乾燥後に粉砕処理、分級処理等を施すこともできる。
【0064】
第4工程(第一方法及び第二方法)
第4工程では、水酸化ジルコニウムを熱処理することにより、ジルコニア系多孔質体を得る。
【0065】
熱処理温度は、通常400〜1100℃の範囲内とすれば良い。熱処理時間は、熱処理温度等に応じて適宜設定できるが、通常は1〜5時間程度とすることが好ましい。熱処理雰囲気は、特に制限されないが、一般的には大気中又は酸化性雰囲気とすることが好ましい。
【0066】
本発明の製造方法では、第1工程〜第4工程の少なくともいずれかの段階において、希土類元素、遷移金属元素、Ca、Mg、Al、Si及びZn(好ましくは希土類元素)の少なくとも1種の化合物(これらを総称して「第三成分」ともいう。)を添加することができる。これにより、得られるジルコニア系多孔質体に対して所望の物性を与えることができる。
希土類元素としては、例えばSc、Y、La、Ce、Pr、Nd等のランタノイド元素が挙げられる。遷移金属元素としては、例えばTi、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、W等が挙げられる。第三成分の化合物としては、例えば金属塩(硝酸塩、硫酸塩、塩化物、炭酸塩等の無機酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩等の有機酸塩)のほか、水酸化物、酸化物等のいずれの形態であっても良い。これらは、添加する段階等に応じて適宜決定することができる。例えば、塩基性硫酸ジルコニウムに添加する場合は、希土類元素、遷移金属元素、Ca、Mg、Al、Si及びZnの少なくとも1種の塩を添加することが望ましい。また、水酸化ジルコニウムに添加する場合は、希土類元素、遷移金属元素、Ca、Mg、Al、Si及びZnの少なくとも1種の酸化物及び/又は水酸化物を添加することが好ましい。なお、酸化物及び/又は水酸化物を用いる場合は、目的とするジルコニア系多孔質の特性に悪影響を与えないように、例えば1100℃以上で焼成する等の前処理を行うことが望ましい。
【0067】
第三成分は、そのままの形態で添加することもできるが、特に第三成分のイオンの形態(溶液)で添加することが望ましい。この場合のイオン濃度は、第三成分の種類等に応じて適宜設定すれば良い。
【0068】
第三成分の添加量は、添加される元素の種類、所望の物性等に応じて適宜設定できるが、通常はジルコニア系多孔質体中50重量%未満、特に1〜49重量%とすることが望ましい。第三成分を使用する場合には、最終的に得られるジルコニア系多孔質体はこれらの成分を含む固溶体又は複合酸化物となる。
【実施例】
【0069】
以下に実施例を示し、本発明の特徴とするところをより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例の範囲に限定されるものではない。
【0070】
なお、実施例中における各物性は、以下の方法により測定した。また、各実施例及び比較例において得られた材料中には不可避不純物として酸化ハフニウム1〜2重量%含有している。
【0071】
(1)比表面積
比表面積計「フローソーブ−II」(マイクロメリティクス製)を用い、BET法により測定した。
【0072】
(2)細孔容積及び細孔半径
測定装置「Autosorb-1, Quantachrome (MODEL NO.AS1KR)」を用い、BJH法により測定した。
【0073】
(3)酸素吸着量(OSC)
測定装置「マルチタスクTPD(TPD−1−AT)」(日本ベル製)を用い、600℃における酸素パルス法により測定した。
【0074】
(4)一次粒子径
X線回折ピークの半値幅より、次式のシェラーの式を用いて計算した。
【0075】
D=kλ/(βcosθ)
ここで、k:定数0.9、λ:X線波長(Å)、β:試料の回折線幅−標準試料の回折線幅(ラジアン)、θ:回折角(度)を示す。
【0076】
実施例1
1)25%硫酸ナトリウム溶液94gを65℃に昇温し、これに予め75℃に加温したZr0換算16%となるオキシ塩化ジルコニウム溶液250gを添加した後、フリー酸濃度が1.5Nになるように塩酸を加え、0.5時間保持し、塩基性硫酸ジルコニウムを生成させた(低温反応液)。
【0077】
2)25%硫酸ナトリウム溶液141gを85℃に昇温し、これに予め85℃に加温したZr0換算16%となるオキシ塩化ジルコニウム溶液375gを添加した後、フリー酸濃度が1.5Nになるように塩酸を加え、0.5時間保持し、塩基性硫酸ジルコニウムを生成させた(高温反応液)。
【0078】
3)上記の低温反応液と高温反応液とを混合し、95℃に加熱後、0.5時間保持することにより熟成を行った。
【0079】
4)次いで、熟成された溶液を室温まで冷却後、Ce0換算20%となる硝酸セリウム溶液125gを添加し、均一に混合した。
【0080】
5)得られた混合溶液に25%水酸化ナトリウムを添加し、pHが13以上になるまで中和し、水酸化物沈殿を生成させた。
【0081】
6)得られた水酸化物沈殿をろ過し、十分に水洗した。
【0082】
7)水洗後、水酸化物を105℃で24時間乾燥した。
【0083】
8)乾燥した水酸化物を大気中400℃で5時間焼成し、酸化ジルコニウム含有ジルコニウム多孔質体を得た。
【0084】
9)前記多孔質体をさらに大気中900〜1100℃で3時間焼成することにより、焼成品を得た。
【0085】
10)前記焼成品について、X線回折にかけると共に比表面積、細孔容積、細孔半径、酸素吸着量(OSC)等をそれぞれ測定した。得られた焼成品の組成(重量%)を表1に示し、物性値を表2及び表3に示す。また、前記9)において、1000℃で焼成して得られた焼成品の細孔分布を図1(「本発明1」)に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
【表3】

図1から明らかなように、「従来法」と比較して、明らかに異なった分布をもっている。すなわち、気孔径のピークが2つあり、全気孔容量は約0.5cc/gであることが判る。そして、このジルコニア系多孔質体は、一次粒子径が5〜30nmの範囲にあり、1000℃で3時間焼成後の比表面積が少なくとも30m/gであり、1050℃で3時間焼成後の比表面積は少なくとも25m/gであることから、比表面積の熱安定性に優れ、かつ、全気孔容量が大きなジルコニア系多孔質体であることがわかる。
【0089】
実施例2
1)25%硫酸ナトリウム溶液237gを85℃に昇温し、これに予め85℃に加温したZr0換算16%となるオキシ塩化ジルコニウム溶液625gを添加した。このとき、前記オキシ塩化ジルコニウム溶液の添加速度は、塩基性硫酸ジルコニウムを酸化ジルコニウムに換算した生成速度が通常の約1/5の速度の約12g/分・Lとなるように調節した。その後、フリー酸濃度が1.5Nになるように塩酸を加え、0.5時間保持し、塩基性硫酸ジルコニウムを生成させた。
【0090】
2)上記の反応液を95℃に加熱後、0.5時間保持することにより熟成を行った。
【0091】
3)次いで、熟成された溶液を室温まで冷却した後、Ce0換算20%となる硝酸セリウム溶液125gを添加し、均一に混合した。
【0092】
4)得られた混合溶液に25%水酸化ナトリウムを添加し、pHが13以上になるまで中和し、水酸化物沈殿を生成させた。
【0093】
5)得られた水酸化物沈殿をろ過し、十分に水洗した。
【0094】
6)水洗後、水酸化物を105℃で24時間乾燥した。
【0095】
7)乾燥した水酸化物を大気中400℃で5時間焼成し、酸化ジルコニウム含有ジルコニウム多孔質体を得た。
【0096】
8)前記多孔質体をさらに大気中900〜1100℃で3時間焼成することにより、焼成品を得た。
【0097】
9)前記の焼成品について、X線回折にかけると共に比表面積、細孔容積、細孔半径、酸素吸着量(OSC)等をそれぞれ測定した。得られた焼成品の組成(重量%)を表1に示し、物性値を表2及び表3に示す。また、前記8)において、1000℃で焼成して得られた焼成品の細孔分布を図1(「本発明2」)に示す。
【0098】
図1の「従来法」による多孔質体は、その気孔径の分布はシャープなものであり、その結果として高温で焼成した場合に焼結しやすく、比表面積の熱安定性は必ずしも満足のいくものでなかった。すなわち、「従来法」で製造されたジルコニア系多孔質体は、「細かな粒子が密に詰まった」状態になっているため、粒子同士の接触面積が大きく、高温にした場合に焼結しやすいものと考えられる。これに対し、実施例2のように、塩基性硫酸ジルコニウムを酸化ジルコニウムに換算した生成速度を「従来法」の1/3以下(好ましくは1/5以下)とすることにより、図1の「本発明2」に示すような気孔径の分布と気孔容量をもち、熱安定性に優れたジルコニア系多孔質体が得られることがわかる。
【0099】
比較例1(共沈法)
1)常温の25%硫酸ナトリウム溶液237gに常温のZr0換算16%となるオキシ塩化ジルコニウム溶液625gを添加した。その後、フリー酸濃度が1.5Nになるように塩酸を加え、75℃に昇温し、1時間保持することにより、塩基性硫酸ジルコニウムを生成させるとともに熟成を行った。
【0100】
2)次いで、熟成された溶液を室温まで冷却した後、Ce0換算20%となる硝酸セリウム溶液125gを添加し、均一に混合した。
【0101】
3)得られた混合溶液に25%水酸化ナトリウムを添加し、pHが13以上になるまで中和し、水酸化物沈殿を生成させた。
【0102】
4)得られた水酸化物沈殿をろ過し、十分に水洗した。
【0103】
5)水洗後、水酸化物を105℃で24時間乾燥した。
【0104】
6)乾燥した水酸化物を大気中400℃で5時間焼成し、酸化ジルコニウム含有ジルコニウム多孔質体を得た。
【0105】
7)前記多孔質体をさらに大気中900〜1100℃で3時間焼成することにより、焼成品を得た。
【0106】
8)前記の焼成品について、X線回折にかけると共に比表面積、細孔容積、細孔半径、酸素吸着量(OSC)等をそれぞれ測定した。得られた焼成品の組成(重量%)を表1に示し、物性値を表2及び表3に示す。また、前記7)において、1000℃で焼成して得られた焼成品の細孔分布を図1(「従来法」)に示す。
【0107】
実施例3
実施例1の工程4)に代えて、次のようにしたほかは、実施例1と同様にして焼成品を製造した。熟成された溶液を室温まで冷却した後、15%四塩化チタン溶液を最終製品(焼成品)の酸化チタン(TiO)含有量が30重量%になるように添加し、均一に混合した。
【0108】
得られた焼成品について、実施例1と同様にして物性を測定した。その結果を表1に示す。得られた焼成品の組成(重量%)を表1に示し、物性値を表2及び表3に示す。また、1000℃での焼成品における細孔分布を測定した結果、図1の「本発明1」とほぼ同様であった。
【0109】
実施例4
実施例2の工程3)に代えて、次のようにしたほかは、実施例1と同様にして焼成品を製造した。熟成された溶液を室温まで冷却した後、15%塩化チタン溶液を最終製品(焼成品)の酸化チタン(TiO)含有量が30重量%になるように添加し、均一に混合した。
【0110】
得られた焼成品について、実施例1と同様にして物性を測定した。得られた焼成品の組成(重量%)を表1に示し、物性値を表2及び表3に示す。また、1000℃での焼成品における細孔分布を測定した結果、図1の「本発明2」とほぼ同様であった。
【0111】
比較例2
比較例1の工程2)に代えて、次のようにしたほかは、実施例1と同様にして焼成品を製造した。熟成された溶液を室温まで冷却した後、15%塩化チタン溶液を最終製品(焼成品)の酸化チタン(TiO)含有量が30重量%になるように添加し、均一に混合した。
【0112】
得られた焼成品について、実施例1と同様にして物性を測定した。得られた焼成品の組成(重量%)を表1に示し、物性値を表2及び表3に示す。また、1000℃での焼成品における細孔分布を測定した結果、図1の「従来法」とほぼ同様であった。
【0113】
実施例5
実施例1の工程4)に代えて、次のようにしたほかは、実施例1と同様にして焼成品を製造した。熟成された溶液を室温まで冷却した後、15%塩化鉄(III)溶液を最終製品(焼成品)の酸化第二鉄(Fe)含有量が5重量%になるように添加し、均一に混合した。
【0114】
得られた焼成品について、実施例1と同様にして物性を測定した。得られた焼成品の組成(重量%)を表1に示し、物性値を表2及び表3に示す。また、1000℃での焼成品における細孔分布を測定した結果、図1の「本発明1」とほぼ同様であった。
【0115】
実施例6
実施例2の工程3)に代えて、次のようにしたほかは、実施例1と同様にして焼成品を製造した。熟成された溶液を室温まで冷却した後、15%塩化鉄(III)溶液を最終製品(焼成品)の酸化第二鉄(Fe)含有量が5重量%になるように添加し、均一に混合した。
【0116】
得られた焼成品について、実施例1と同様にして物性を測定した。得られた焼成品の組成(重量%)を表1に示し、物性値を表2及び表3に示す。また、1000℃での焼成品における細孔分布を測定した結果、図1の「本発明2」とほぼ同様であった。
【0117】
比較例3
比較例1の工程2)に代えて、次のようにしたほかは、実施例1と同様にして焼成品を製造した。熟成された溶液を室温まで冷却した後、15%塩化鉄(III)溶液を最終製品(焼成品)の酸化第二鉄(Fe)含有量が5重量%になるように添加し、均一に混合した。
【0118】
得られた焼成品について、実施例1と同様にして物性を測定した。得られた焼成品の組成(重量%)を表1に示し、物性値を表2及び表3に示す。また、1000℃での焼成品における細孔分布を測定した結果、図1の「従来法」とほぼ同様であった。
【0119】
実施例7
実施例1の工程4)に代えて、次のようにしたほかは、実施例1と同様にして焼成品を製造した。熟成された溶液を室温まで冷却した後、15%塩化アルミニウム溶液を最終製品(焼成品)の酸化アルミニウム(Al)含有量が1重量%になるように添加し、均一に混合した。
【0120】
得られた焼成品について、実施例1と同様にして物性を測定した。得られた焼成品の組成(重量%)を表1に示し、物性値を表2及び表3に示す。また、1000℃での焼成品における細孔分布を測定した結果、図1の「本発明1」とほぼ同様であった。
【0121】
実施例8
実施例2の工程3)に代えて、次のようにしたほかは、実施例1と同様にして焼成品を製造した。熟成された溶液を室温まで冷却した後、15%塩化アルミニウム溶液を最終製品(焼成品)の酸化アルミニウム(Al)含有量が1重量%になるように添加し、均一に混合した。
【0122】
得られた焼成品について、実施例1と同様にして物性を測定した。得られた焼成品の組成(重量%)を表1に示し、物性値を表2及び表3に示す。また、1000℃での焼成品における細孔分布を測定した結果、図1の「本発明2」とほぼ同様であった。
【0123】
比較例4
比較例1の工程2)に代えて、次のようにしたほかは、実施例1と同様にして焼成品を製造した。熟成された溶液を室温まで冷却した後、15%塩化アルミニウム溶液を最終製品(焼成品)の酸化アルミニウム(Al)含有量が1重量%になるように添加し、均一に混合した。
【0124】
得られた焼成品について、実施例1と同様にして物性を測定した。得られた焼成品の組成(重量%)を表1に示し、物性値を表2及び表3に示す。また、1000℃での焼成品における細孔分布を測定した結果、図1の「従来法」とほぼ同様であった。
【0125】
実施例9
実施例1の工程4)に代えて、次のようにしたほかは、実施例1と同様にして焼成品を製造した。熟成された溶液を室温まで冷却した後、15%硝酸セリウム溶液を最終製品(焼成品)の酸化セリウム(CeO)含有量が20%、15%硝酸ランタン溶液を最終製品(焼成品)の酸化ランタン(La)含有量が1.7%及び15%硝酸ネオジム溶液を最終製品(焼成品)の酸化ネオジム(Nd)含有量が5.3%になるように添加し、均一に混合した。
【0126】
得られた焼成品について、実施例1と同様にして物性を測定した。得られた焼成品の組成(重量%)を表1に示し、物性値を表2及び表3に示す。また、1000℃での焼成品における細孔分布を測定した結果、図1の「本発明1」とほぼ同様であった。
【0127】
実施例10
実施例2の工程3)に代えて、次のようにしたほかは、実施例1と同様にして焼成品を製造した。熟成された溶液を室温まで冷却した後、15%硝酸セリウム溶液を最終製品(焼成品)の酸化セリウム(CeO)含有量が20%、15%硝酸ランタン溶液を最終製品(焼成品)の酸化ランタン(La)含有量が1.7%及び15%硝酸ネオジム溶液を最終製品(焼成品)の酸化ネオジム(Nd)含有量が5.3%になるように添加し、均一に混合した。
【0128】
得られた焼成品について、実施例1と同様にして物性を測定した。得られた焼成品の組成(重量%)を表1に示し、物性値を表2及び表3に示す。また、1000℃での焼成品における細孔分布を測定した結果、図1の「本発明2」とほぼ同様であった。
【0129】
比較例5
比較例1の工程2)に代えて、次のようにしたほかは、実施例1と同様にして焼成品を製造した。熟成された溶液を室温まで冷却した後、15%硝酸セリウム溶液を最終製品(焼成品)の酸化セリウム(CeO)含有量が20%、15%硝酸ランタン溶液を最終製品(焼成品)の酸化ランタン(La)含有量が1.7%及び15%硝酸ネオジム溶液を最終製品(焼成品)の酸化ネオジム(Nd)含有量が5.3%になるように添加し、均一に混合した。
【0130】
得られた焼成品について、実施例1と同様にして物性を測定した。得られた焼成品の組成(重量%)を表1に示し、物性値を表2及び表3に示す。また、1000℃での焼成品における細孔分布を測定した結果、図1の「従来法」とほぼ同様であった。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】実施例1、実施例2及び従来法で得られた多孔質体の細孔分布を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BJH法に基づく細孔分布において、8〜20nm及び30〜100nmの気孔径にピークを有し、かつ、全気孔容量が0.4cc/g以上であることを特徴とするジルコニア系多孔質体。
【請求項2】
20〜200nmの直径を有する気孔の合計容積が全気孔容量の50%以上を占める請求項1に記載のジルコニア系多孔質体。
【請求項3】
BJH法に基づく細孔分布において、20〜110nmの気孔径にピークを有し、かつ、全気孔容量が0.4cc/g以上であることを特徴とするジルコニア系多孔質体。
【請求項4】
10〜100nmの直径を有する気孔の合計容積が全気孔容量の50%以上を占める請求項3に記載のジルコニア系多孔質体。
【請求項5】
一次粒子径が、5〜30nmである請求項1〜4のいずれかに記載のジルコニア系多孔質体。
【請求項6】
1000℃で3時間焼成後の比表面積が、少なくとも30m/gである請求項1〜5のいずれかに記載のジルコニア系多孔質体。
【請求項7】
ジルコニア系多孔質体を製造する方法であって、
(1)80℃以上95℃未満の硫酸塩化剤と80℃以上95℃未満のジルコニウム塩溶液とを混合することにより調製された塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液Aと、65℃以上80℃未満の硫酸塩化剤と65℃以上80℃未満のジルコニウム塩溶液とを混合することにより調製された塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液Bとを混合する第1工程、
(2)第1工程で得られる反応液を95℃以上で熟成する第2工程、
(3)第2工程で得られる混合液にアルカリを添加して前記塩基性硫酸ジルコニウムを中和することにより、水酸化ジルコニウムを生成させる第3工程、及び
(4)前記水酸化ジルコニウムを熱処理することにより、ジルコニア系多孔質体を得る第4工程
を有するジルコニア系多孔質体の製造方法。
【請求項8】
前記反応液A及び/又は反応液Bの調製において、塩基性硫酸ジルコニウムを酸化ジルコニウムに換算した生成速度が20g/min・L以下となるように、硫酸塩化剤とジルコニウム塩溶液とを混合する請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記反応液A及び反応液Bの混合割合が、反応液A/(反応液A+反応液B)の液量比として0.1以上1未満である請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
ジルコニア系多孔質体を製造する方法であって、
(1)塩基性硫酸ジルコニウムを酸化ジルコニウムに換算した生成速度が20g/min・L以下となるように、80℃以上95℃未満の硫酸塩化剤と80℃以上95℃未満のジルコニウム塩溶液とを混合することにより、塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液Aを調製する第1工程、
(2)第1工程で得られる反応液を95℃以上で熟成する第2工程、
(3)第2工程で得られる混合液にアルカリを添加して前記塩基性硫酸ジルコニウムを中和することにより、水酸化ジルコニウムを生成させる第3工程、及び
(4)前記水酸化ジルコニウムを熱処理することにより、ジルコニア系多孔質体を得る第4工程
を有するジルコニア系多孔質体の製造方法。
【請求項11】
前記反応液Aのフリーの酸濃度を0.1〜2.0Nとする請求項7〜10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
前記反応液Bのフリーの酸濃度を0.1〜2.0Nとする請求項7〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】
第1工程〜第4工程の少なくともいずれかの段階において、希土類元素、遷移金属元素、Ca、Mg、Al、Si及びZnの少なくとも1種の化合物を添加する工程を有する請求項7〜12のいずれかに記載の製造方法。
【請求項14】
塩基性硫酸ジルコニウムに、希土類元素、遷移金属元素、Ca、Mg、Al、Si及びZnの少なくとも1種の塩を添加する工程を有する請求項7〜12のいずれかに記載の製造方法。
【請求項15】
水酸化ジルコニウムに、希土類元素、遷移金属元素、Ca、Mg、Al、Si及びZnの少なくとも1種の酸化物及び/又は水酸化物を添加する工程を有する請求項7〜12のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−36576(P2006−36576A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−217757(P2004−217757)
【出願日】平成16年7月26日(2004.7.26)
【出願人】(000208662)第一稀元素化学工業株式会社 (56)
【Fターム(参考)】