説明

スイッチング回路の制御装置

【課題】スイッチング回路の損失を低減させる。
【解決手段】スイッチング回路の制御装置10は、還流ダイオードに転流電流が流れるときに、この還流ダイオードに並列なスイッチング素子をオン作動させるPWM演算部25と、モータの目標回転数および目標トルクに基づき、スイッチング素子をオン作動させるオン時間を変更するデッドタイム演算部25aと、を備える。デッドタイム演算部25aは、目標回転数の増大に伴ってオン時間を減少傾向に変化させるとともに、力行を正かつ回生を負とする目標トルクの絶対値の増大に伴ってオン時間を減少傾向に変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スイッチング回路の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば電動車両などに搭載され、直流電源から供給される電力を用いてスイッチング回路のスイッチング素子(例えば、MOSFET:Metal Oxide Semi-conductor Field Effect Transistorのような逆導通可能な双方向性の半導体素子)をON/OFF制御することでモータなどの負荷を駆動させる装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
この装置に具備されるスイッチング回路は、高電位側端子に接続されてハイサイドアームを構成するハイ側スイッチング素子と、低電位側端子に接続されてローサイドアームを構成するロー側スイッチング素子と、各スイッチング素子に逆導通方向に並列に接続される還流ダイオードとにより構成され、ハイサイドアームとローサイドアームとの接続点にはモータなどの誘導性負荷が接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特願2010−103840
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来技術に係る装置によれば、スイッチング回路の損失および素子の発熱を低減するために、例えば電流量に応じて並列に接続されたスイッチング素子および還流ダイオードの何れか一方に電流を流したり、例えば対をなすハイ側スイッチング素子およびロー側スイッチング素子の何れか一方に流れる順方向電流に応じて、転流電流が流れる他方のON時間を設定したり、例えば転流電流が流れるスイッチング素子の温度に応じて、転流電流が流れるON時間を設定している。
これらに対して、スイッチング回路の損失を、より一層、低減させることが望まれている。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、スイッチング回路の損失を低減させることが可能なスイッチング回路の制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決して係る目的を達成するために、本発明の請求項1に係るスイッチング回路の制御装置は、直列に接続された複数の双方向導通型のスイッチング素子(例えば、実施の形態での各トランジスタUH,UL,VH,VL,WH,WL)および各前記複数のスイッチング素子毎に並列に接続された前記スイッチング素子の順方向導通に対して逆導通する逆導通素子(例えば、実施の形態での各還流ダイオードDUH,DUL,DVH,DVL,DWH,DWL)から構成され、直流電源(例えば、実施の形態でのバッテリ11)と交流電動機(例えば、実施の形態でのモータ12)との間で電力変換を行なうスイッチング回路(例えば、実施の形態でのインバータ13)の制御装置であって、前記逆導通素子に転流電流が流れるときに、該逆導通素子に並列な前記スイッチング素子をオン作動させる制御手段(例えば、実施の形態でのPWM演算部25)と、前記交流電動機の目標回転数を取得する目標回転数取得手段(例えば、実施の形態での処理装置14)と、前記交流電動機の目標トルクを取得する目標トルク取得手段(例えば、実施の形態での処理装置14)と、前記目標回転数および前記目標トルクに基づき、前記スイッチング素子をオン作動させるオン時間を変更するオン時間変更手段(例えば、実施の形態でのデッドタイム演算部25a)と、を備える。
【0007】
さらに、本発明の請求項2に係るスイッチング回路の制御装置では、前記オン時間変更手段は、前記目標回転数の増大に伴って前記オン時間を減少傾向に変化させるとともに、力行を正かつ回生を負とする前記目標トルクの絶対値の増大に伴って前記オン時間を減少傾向に変化させる。
【0008】
さらに、本発明の請求項3に係るスイッチング回路の制御装置は、前記直流電源の電圧を検出する電圧検出手段(例えば、実施の形態での電圧センサ33)を備え、前記オン時間変更手段は、前記電圧検出手段によって検出された前記電圧に基づき、前記オン時間を変更する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の請求項1に係るスイッチング回路の制御装置によれば、交流電動機の制御に用いられるパラメータである目標回転数および目標トルクに基づいて、転流電流が流れる逆導通素子に並列なスイッチング素子のオン時間を制御することにより、交流電動機の特性を考慮しつつ、スイッチング回路の損失を低減することができ、しかも、制御処理が複雑化することを防止することができる。
【0010】
さらに、本発明の請求項2に係るスイッチング回路の制御装置によれば、順方向電流が増大する場合には、逆導通素子に流れる転流電流を増大させることによって、スイッチング素子に転流電流が流れることによる導通損失を低減し、スイッチング回路の損失を低減することができる。
【0011】
さらに、本発明の請求項3に係るスイッチング回路の制御装置によれば、交流電動機およびスイッチング回路の特性を総合的に考慮して、転流電流が流れる逆導通素子に並列なスイッチング素子のオン時間を詳細かつ柔軟に制御することができ、スイッチング回路の損失を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態に係るスイッチング回路の制御装置の構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るスイッチング回路の制御装置の構成図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るスイッチング回路の制御装置におけるモータの目標トルクと回転数と順方向電流との対応関係の一例を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るスイッチング回路の制御装置におけるハイ側スイッチング素子およびロー側スイッチング素子のオン/オフの状態の一例を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係るスイッチング回路の制御装置におけるハイ側スイッチング素子およびロー側スイッチング素子および還流ダイオードに流れる電流の一例を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係るスイッチング回路の制御装置におけるハイ側スイッチング素子およびロー側スイッチング素子のオン/オフの状態の例を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態に係るスイッチング回路の制御装置の実施例および比較例における電流の通電状態の例を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態に係るスイッチング回路の制御装置のモータの目標トルクおよび目標回転数とスイッチング素子のデッドタイムとの対応関係の例を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態に係るスイッチング回路の制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図10】本発明の実施の形態に係るスイッチング回路の制御装置の実施例および比較例における電流の通電状態の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係るスイッチング回路の制御装置について添付図面を参照しながら説明する。
本実施の形態によるスイッチング回路の制御装置10は、例えば車両に搭載され、図1および図2に示すように、バッテリ11を直流電源として3相(例えば、U相、V相、W相の3相)交流のブラシレスDCモータ12(以下、単に、モータ12と呼ぶ)を制御するインバータ13と、処理装置14とを備えて構成されている。
【0014】
インバータ13は、スイッチング素子(例えば、双方向性のMOSFET:Metal Oxide Semi-conductor Field Effect Transistor)を複数用いてブリッジ接続してなるブリッジ回路13aと平滑コンデンサCとを具備し、このブリッジ回路13aがパルス幅変調(PWM)された信号によって駆動される。
【0015】
このブリッジ回路13aでは、例えば各相毎に対をなすハイ側およびロー側U相トランジスタUH,ULと、ハイ側およびロー側V相トランジスタVH,VLと、ハイ側およびロー側W相トランジスタWH,WLとがブリッジ接続されている。
そして、各トランジスタUH,VH,WHはドレインがバッテリ11の正極側端子に接続されてハイ側アームを構成し、各トランジスタUL,VL,WLはソースがバッテリ11の接地された負極側端子に接続されてロー側アームを構成している。
そして、各相毎に、ハイ側アームの各トランジスタUH,VH,WHのソースはロー側アームの各トランジスタUL,VL,WLのドレインに接続され、各トランジスタUH,UL,VH,VL,WH,WLのドレイン−ソース間には、ソースからドレインに向けて順方向となるようにして各還流ダイオードDUH,DUL,DVH,DVL,DWH,DWLが接続されている。
【0016】
つまり、ブリッジ回路13aは、各相毎にハイ側スイッチング素子(各トランジスタUH,VH,WH)および還流ダイオード(各還流ダイオードDUH,DVH,DWH)を逆並列に接続(すなわち、双方向導通型のハイ側スイッチング素子と、該ハイ側スイッチング素子の順方向導通に対して逆導通する還流ダイオードとを並列に接続)してなるハイ側アームと、各相毎にロー側スイッチング素子(各トランジスタUL,VL,WL)および還流ダイオード(各還流ダイオードDUL,DVL,DWL)を逆並列に接続(すなわち、双方向導通型のロー側スイッチング素子と、該ロー側スイッチング素子の順方向導通に対して逆導通する還流ダイオードとを並列に接続)してなるロー側アームとが、各相毎に直列に接続されて構成されている。
そして、各相毎に、ハイ側アームおよびロー側アームの接続点にモータ12のステータ巻線12aが接続されている。
【0017】
インバータ13は、例えばモータ12の駆動時において、処理装置14から出力されて各トランジスタUH,VH,WH,UL,VL,WLのゲートに入力されるスイッチング指令であるゲート信号(つまり、PWM信号)に基づき、各相毎に対をなす各トランジスタのオン(導通)/オフ(遮断)状態を切り替える。これによって、バッテリ11から供給される直流電力を3相交流電力に変換し、3相のステータ巻線12aへの通電を順次転流させることで、各相のステータ巻線12aに交流のU相電流IuおよびV相電流IvおよびW相電流Iwを通電する。
【0018】
一方、例えばモータ12の回生時において、インバータ13は、モータ12の回転角に基づいて同期がとられて処理装置14から出力されるゲート信号(つまり、PWM信号)に基づき、各相毎に対をなす各トランジスタのオン(導通)/オフ(遮断)状態を切り替えることによって、モータ12から出力される3相交流電力を直流電力に変換してバッテリ11に充電可能である。
【0019】
処理装置14は、例えば、回転直交座標をなすdq座標上で電流のフィードバック制御(ベクトル制御)をおこなうものであり、目標d軸電流Idc及び目標q軸電流Iqcを演算し、目標d軸電流Idc及び目標q軸電流Iqcに基づいて各相電圧指令Vu,Vv,Vwを算出し、各相電圧指令Vu,Vv,Vwに応じてインバータ13に対するゲート信号であるPWM信号を出力する。そして、実際にインバータ13からモータ12に供給される各相電流Iu,Iv,Iwをdq座標上に変換して得たd軸電流Id及びq軸電流Iqと、目標d軸電流Idc及び目標q軸電流Iqcとの各偏差がゼロとなるように制御をおこなう。
処理装置14は、例えば、電流指令演算部21と、差分演算部22と、電流フィードバック演算部23と、dq−3相変換部24と、PWM演算部25と、3相−dq変換部26とを備えて構成されている。
【0020】
電流指令演算部21は、モータ12の目標トルクと回転数とに基づき、インバータ13からモータ12に供給される各相電流Iu,Iv,Iwを指定するための電流指令を演算しており、この電流指令は、回転する直交座標上での目標d軸電流Idc及び目標q軸電流Iqcとして差分演算部22へ出力されている。
【0021】
なお、モータ12の回転数は、例えば、回転子(図示略)の回転角(例えば、所定の基準回転位置からの回転子の磁極の回転角度)を検出する回転角センサ31から出力される検出値に基づき算出されてもよいし、あるいは、回転子(図示略)の回転数を検出する回転数センサ(図示略)により検出されてもよい。
【0022】
電流指令演算部21は、例えば図3に示すように、予めモータ12の目標トルクと回転数とスイッチング素子の順方向電流との所定の対応関係を示すマップなどのデータを複数の異なる電源電圧(つまり、バッテリ11の出力電圧)毎に対応付けて記憶している。
そして、電流指令演算部21は、モータ12の目標トルクと回転数と電圧センサ33により検出される電源電圧とに応じたスイッチング素子の順方向電流を、予め記憶しているマップに対するマップ検索などにより取得し、この順方向電流に応じた目標d軸電流Idc及び目標q軸電流Iqcを演算する。
【0023】
なお、例えば図3に示す適宜の電源電圧Aに対する所定のマップでは、目標トルクの増大あるいは回転数の増大あるいは電源電圧の低下に伴い、順方向電流が増大傾向に変化するように設定されているが、これに限定されず、例えばモータ12やインバータ13などの特性あるいは素子特性データなどに応じた適宜の傾向を示すように設定されてもよい。
【0024】
また、回転直交座標をなすdq座標は、例えばモータ12の回転子(図示略)に具備される永久磁石による界磁極の磁束方向をd軸(界磁軸)とし、このd軸と直交する方向をq軸(トルク軸)としており、回転子の回転位相に同期して回転している。
これにより、インバータ13からモータ12の各相に供給される交流信号に対する電流指令として、直流的な信号である目標d軸電流Idcおよび目標q軸電流Iqcを与えるようになっている。
【0025】
差分演算部22は、電流指令演算部21から出力される目標d軸電流Idcおよび目標q軸電流Iqcと3相−dq変換部26から出力されるd軸電流Idおよびq軸電流Iqとの各偏差ΔId,ΔIqを算出する。
電流フィードバック演算部23は、例えばPID(比例積分微分)動作などにより、各偏差ΔId,ΔIqを制御増幅してd軸電圧指令値Vdおよびq軸電圧指令値Vqを算出する。
【0026】
dq−3相変換部24は、モータ12の回転子(図示略)の回転角を検出する回転角センサ31から出力される回転角の検出値により、dq座標上でのd軸電圧指令値Vdおよびq軸電圧指令値Vqを、静止座標である3相交流座標上での電圧指令値であるU相出力電圧VuおよびV相出力電圧VvおよびW相出力電圧Vwに変換する。
【0027】
PWM演算部25は、例えばモータ12の駆動時には、各相のステータ巻線12aに交流の正弦波状のU相電流IuおよびV相電流IvおよびW相電流Iwを通電するために、各相出力電圧Vu,Vv,Vwと三角波などのキャリア信号とを比較して、インバータ13の各トランジスタUH,VH,WH,UL,VL,WLをオン/オフ駆動させるゲート信号(つまり、PWM信号)を生成する。
【0028】
PWM演算部25は、例えば図4に示すように、いわゆる相補PWM(パルス幅変調)によってブリッジ回路13aのハイ側アームおよびロー側アームの各スイッチング素子を交互にON/OFF駆動させる。そして、各相毎のハイ側スイッチング素子およびロー側スイッチング素子のオンの比率は、各相毎のハイ側およびロー側オンデューティDutyU(H,L),DutyV(H,L),DutyW(H,L)により設定されている。
これにより、ハイ側アームのハイ側スイッチング素子(SW1)のオンおよびロー側アームのロー側スイッチング素子(SW2)のオフの状態と、ハイ側アームのハイ側スイッチング素子(SW1)のオフおよびロー側アームのロー側スイッチング素子(SW2)のオンの状態とが、交互に切り替えられる。
【0029】
そして、例えば図5に示すように、ハイ側アームのハイ側スイッチング素子(SW1)のオンにおいてハイ側スイッチング素子(SW1)に順方向電流が流れる場合には、ロー側アームのロー側スイッチング素子(SW2)のオンにおいてロー側スイッチング素子(SW2)に逆方向電流が流れると共に、このロー側スイッチング素子(SW2)に逆並列に接続されている還流ダイオード(2)に転流電流が流れる。
【0030】
一方、ロー側アームのロー側スイッチング素子(SW2)のオンにおいてロー側スイッチング素子(SW2)に順方向電流が流れる場合には、ハイ側アームのハイ側スイッチング素子(SW1)のオンにおいてハイ側スイッチング素子(SW1)に逆方向電流が流れると共に、このハイ側スイッチング素子(SW1)に逆並列に接続されている還流ダイオード(1)に転流電流が流れる。
【0031】
なお、例えば図5に示すように、転流電流が流れている還流ダイオードに並列なスイッチング素子のオンの状態において、並列接続されたスイッチング素子および還流ダイオードの両方に転流電流(逆方向電流)が流れる場合には、転流電流(逆方向電流)がスイッチング素子のみ、あるいは還流ダイオードのみに流れる場合に比べて、並列接続されたスイッチング素子および還流ダイオードの合成抵抗が小さくなることに伴って、スイッチング回路全体としての損失を低減させることができる。
【0032】
そして、PWM演算部25は、モータ12に通電される相電流の方向に応じたハイ側スイッチング素子およびロー側スイッチング素子の何れかをオン作動させるオン時間に係るデッドタイムを、モータ12の目標回転数および目標トルクおよび電圧センサ33により検出される電源電圧(つまり、バッテリ11の出力電圧)により設定可能なデッドタイム演算部25aを備えている。
【0033】
例えば、デッドタイム演算部25aは、ハイ側スイッチング素子(各トランジスタUH,VH,WH)およびロー側スイッチング素子(各トランジスタUL,VL,WL)のうち順方向電流が流れるスイッチング素子のデッドタイムを所定の最小デッドタイムTd_Min(例えば、5%など)とする。
そして、ハイ側スイッチング素子(各トランジスタUH,VH,WH)およびロー側スイッチング素子(各トランジスタUL,VL,WL)のうち転流電流が流れている還流ダイオードに並列なスイッチング素子のデッドタイムを、モータ12の目標回転数および目標トルクおよび電源電圧により設定する。
【0034】
これにより、例えば図6に示すように、デッドタイム演算部25aによって設定されるスイッチング素子(転流電流が流れている還流ダイオードに並列なスイッチング素子)のオンデューティ(SW2_Ton)はゼロから所定の最小デッドタイムTd_Minに対応する所定の上限値(=100%−SW1_Ton%−Td_Min%)までの間の適宜の値(例えば、a%,b%,c%など)となるように設定される。
【0035】
これにより、例えば図7(A)に示すようにスイッチング素子としてIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を採用する比較例では、スイッチング素子のオンであってもスイッチング素子に逆方向電流が流れずに還流ダイオードのみに転流電流が流れることに対して、例えば図7(B),(C)に示すようにスイッチング素子としてMOSFET(Metal Oxide Semi-conductor Field Effect Transistor)を採用する実施例では、デッドタイム演算部25aによって設定されるデッドタイムに応じてスイッチング素子と還流ダイオードの両方に転流電流(逆方向電流)が流れる。
【0036】
デッドタイム演算部25aは、例えば、ハイ側スイッチング素子およびロー側スイッチング素子のうち転流電流が流れている還流ダイオードに並列なスイッチング素子のデッドタイムに係るマップあるいは数式を記憶しており、該マップあるいは数式に基づいて、転流電流が流れている還流ダイオードに並列なスイッチング素子のデッドタイムを設定する。
【0037】
なお、例えば図8に示す適宜の電源電圧Aに対する所定のマップでは、モータ12の目標回転数または力行を正かつ回生を負とする目標トルクが増大することに伴い、スイッチング素子の損失が増大すると判断されて、デッドタイムが増大傾向に変化するように設定され、スイッチング素子に流れる逆方向電流が低下傾向に変化するように(つまり、スイッチング素子に逆並列に接続された還流ダイオードに流れる転流電流が増大傾向に変化するように)設定されている。
【0038】
また、例えば電源電圧が増大することに伴い、スイッチング素子の損失が低下すると判断されて、デッドタイムが低下傾向に変化するように設定され、スイッチング素子に流れる逆方向電流が増大傾向に変化するように(つまり、スイッチング素子に逆並列に接続された還流ダイオードに流れる転流電流が低下傾向に変化するように)設定されている。
なお、デッドタイムの傾向はこれに限定されず、例えばモータ12やインバータ13などの特性あるいは素子特性データなどに応じた適宜の傾向を示すように設定されてもよい。
【0039】
そして、3相−dq変換部26は、各相電流検出部32により検出された各相電流Iu,Iv,Iwの検出値と、回転角センサ31から出力される回転角の検出値とにより、モータ12の回転位相による回転座標すなわちdq座標上でのd軸電流Idおよびq軸電流Iqを算出する。
【0040】
本実施の形態によるスイッチング回路の制御装置10は上記構成を備えており、次に、このスイッチング回路の制御装置10の動作例、特に、ハイ側スイッチング素子およびロー側スイッチング素子の何れかをオン作動させるオン時間に係るデッドタイムを設定する処理について説明する。
【0041】
先ず、例えば図9に示すステップS01においては、モータ12の回転角および相電流と、電源電圧(つまり、バッテリ11の出力電圧)を取得する。
次に、ステップS02においては、相電流がゼロよりも大きいか、つまり相電流の符号が正であるか否かを判定する。
この判定結果が「YES」の場合には、ステップS03に進む。
一方、この判定結果が「NO」の場合には、後述するステップS05に進む。
【0042】
そして、ステップS03においては、オン作動において順方向電流が流れるハイ側アームのハイ側スイッチング素子のデッドタイムTdHを所定の最小デッドタイムTd_Min(例えば、5%など)とする。
次に、ステップS04においては、オン作動において順方向電流が流れていない(つまり、逆方向電流が流れる)ロー側アームのロー側スイッチング素子のデッドタイムTdLを、例えばモータ12の目標回転数および目標トルクおよび電源電圧に基づく所定のマップに対するマップ検索により演算し、後述するステップS07に進む。
【0043】
また、ステップS05においては、転流電流が流れている還流ダイオードに並列なスイッチング素子(つまりオン作動において逆方向電流が流れるスイッチング素子)であるハイ側アームのハイ側スイッチング素子のデッドタイムTdHを、例えばモータ12の目標回転数および目標トルクおよび電源電圧に基づく所定のマップに対するマップ検索により演算する。
次に、ステップS06においては、オン作動において順方向電流が流れるロー側アームのロー側スイッチング素子のデッドタイムTdLを所定の最小デッドタイムTd_Min(例えば、5%など)とし、ステップS07に進む。
【0044】
そして、ステップS07においては、この時点で設定されている各デッドタイムTdH,TdLを決定し、エンドに進む。
【0045】
例えば図10に示す比較例ではブリッジ回路13aのハイ側アームおよびロー側アームの各スイッチング素子のデッドタイムを一定(例えば、所定の最小デッドタイムTd_Min:5%)として各スイッチング素子を交互にON/OFF駆動させる相補PWM制御が実行され、実施例ではデッドタイム演算部25aによってデッドタイムが設定されるデッドタイム可変PWM制御が実行されている。
【0046】
そして、例えばスイッチング周期aでは、相電流が所定値未満であって、相電流の電流符号が正または負となり、スイッチング素子に流れる逆方向電流が、このスイッチング素子に逆並列に接続された還流ダイオードに流れる転流電流よりも大きくなる状態であって、実施例および比較例において各デッドタイムTdH,TdLが同等となる。
【0047】
また、例えばスイッチング周期bでは、相電流が所定値よりも大きく、相電流の電流符号が正となり、スイッチング素子に流れる逆方向電流が、このスイッチング素子に逆並列に接続された還流ダイオードに流れる転流電流よりも小さくなる状態であって、比較例において各デッドタイムTdH,TdLが一定(例えば、所定の最小デッドタイムTd_Min:5%)となることに対して、実施例では、逆方向電流が流れるロー側スイッチング素子のデッドタイムTdLがモータ12の目標回転数および目標トルクおよび電源電圧に応じて可変となる。
【0048】
また、例えばスイッチング周期cでは、相電流が所定値よりも大きく、相電流の電流符号が正となり、スイッチング素子に流れる逆方向電流が、このスイッチング素子に逆並列に接続された還流ダイオードに流れる転流電流よりも大きくなる状態であって、比較例において各デッドタイムTdH,TdLが一定(例えば、所定の最小デッドタイムTd_Min:5%)となることに対して、実施例では、逆方向電流が流れるロー側スイッチング素子のデッドタイムTdLがモータ12の目標回転数および目標トルクおよび電源電圧に応じて可変となる。
【0049】
上述したように、本実施の形態によるスイッチング回路の制御装置10によれば、モータ12の制御に用いられるパラメータである目標回転数および目標トルクに基づいて、転流電流が流れる還流ダイオードに並列なスイッチング素子のオン時間を制御することにより、モータ12の特性を考慮しつつ、スイッチング回路(つまりインバータ13)の損失を低減することができ、しかも、制御処理が複雑化することを防止することができる。
【0050】
さらに、モータ12の目標回転数または目標トルクが増大する場合には、還流ダイオードに流れる転流電流を増大させることによって、この還流ダイオードに並列に接続されたスイッチング素子に逆方向電流が流れることによる導通損失を低減し、スイッチング回路(つまりインバータ13)の損失を低減することができる。
【0051】
さらに、電源電圧(つまり、バッテリ11の出力電圧)に基づきスイッチング素子のオン時間を制御することにより、モータ12およびスイッチング回路(つまりインバータ13)の特性を総合的に考慮して、転流電流が流れる還流ダイオードに並列なスイッチング素子のオン時間を詳細かつ柔軟に制御することができ、スイッチング回路(つまりインバータ13)の損失を低減することができる。
【0052】
なお、上述した実施の形態においては、モータ12の各相電流Iu,Iv,Iwを各相電流検出部32により検出するとしたが、これに限定されず、例えばインバータ13の直流側電流を検出する電流センサから出力される検出値と、PWM演算部25から出力されるPWM信号とに基づいて各相電流Iu,Iv,Iwを推定してもよい。
【符号の説明】
【0053】
10 スイッチング回路の制御装置
12 モータ(交流電動機)
13 インバータ(スイッチング回路)
14 処理装置(目標回転数取得手段、目標トルク取得手段)
25 PWM演算部(制御手段)
25a デッドタイム演算部(オン時間変更手段)
33 電圧センサ(電圧検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列に接続された複数の双方向導通型のスイッチング素子および各前記複数のスイッチング素子毎に並列に接続された前記スイッチング素子の順方向導通に対して逆導通する逆導通素子から構成され、直流電源と交流電動機との間で電力変換を行なうスイッチング回路の制御装置であって、
前記逆導通素子に転流電流が流れるときに、該逆導通素子に並列な前記スイッチング素子をオン作動させる制御手段と、
前記交流電動機の目標回転数を取得する目標回転数取得手段と、
前記交流電動機の目標トルクを取得する目標トルク取得手段と、
前記目標回転数および前記目標トルクに基づき、前記スイッチング素子をオン作動させるオン時間を変更するオン時間変更手段と、
を備えることを特徴とするスイッチング回路の制御装置。
【請求項2】
前記オン時間変更手段は、
前記目標回転数の増大に伴って前記オン時間を減少傾向に変化させるとともに、力行を正かつ回生を負とする前記目標トルクの絶対値の増大に伴って前記オン時間を減少傾向に変化させることを特徴とする、請求項1に記載のスイッチング回路の制御装置。
【請求項3】
前記直流電源の電圧を検出する電圧検出手段を備え、
前記オン時間変更手段は、前記電圧検出手段によって検出された前記電圧に基づき、前記オン時間を変更することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のスイッチング回路の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−17294(P2013−17294A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147930(P2011−147930)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】