説明

スイッチング回路

自動体外式除細動器のためのHブリッジ回路スイッチング回路は、該回路の高電位脚部の一方におけるSCR(D8)と、Hブリッジ回路の対角的に反対側の脚部におけるスイッチングデバイスのオン切り換えに対応するSCRにおける電圧変化に応答してSCRを自動的にオンに切り換えるように動作する、SCRに関連付けられる制御手段(D1〜D7)とを備える。上記制御手段はキャパシタ(D1)を備え、上記キャパシタ上の電圧は対角的に反対側のスイッチングデバイスがオンに切り換えられると変化し、上記キャパシタ電圧の変化はSCRにおける電圧変化より遅れており、上記SCRはキャパシタ電圧とSCRにおける電圧との差が所定のしきい値を超えるとオンに切り換えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスイッチング回路に関し、特に、但し排他的ではなく、自動体外式除細動器において負荷へのバイポーラの電力を切り換えるためのスイッチング回路に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、自動体外式除細動器(AED(automatic external defribrillator))は患者に対してエネルギーをバイポーラで伝導することにより電気治療を患者に施す。適正な治療は、30アンペアを超える電流で1000ボルトを超す極めて高い電圧を必要とする。このことは、このような治療を行うために用いられるスイッチング回路の設計に際して、エネルギーを完全にかつ高い信頼性で伝送するために必要とされる構成要素に対してだけでなく、このような装置の安全性に対しても極めて厳しい必要条件を課す。
【0003】
既知のスイッチング回路はHブリッジ回路であり、この呼称は、「H」の形であるその典型的な図の表示に由来する。例えば、可逆DC電気モータを駆動するために負荷に流れる電流の方向を反転することが望まれるとき又はAEDの場合は患者の胴に流れる電流の方向を反転することが望まれるときなどの多くの状況において、Hブリッジ回路を用いることができる。一般に、Hブリッジ回路は、Hの4つの「脚部」のそれぞれに配置される4つの固体スイッチングデバイス又は機械的スイッチングデバイスを有し、これらのスイッチングデバイスは、電流を電圧源から負荷に始めに1つの方向へ流し次に反対方向に流すように、対角ペア毎に交互にオンに切り換えられる。
【0004】
図1は、AEDにおいて電流の切り換えに用いられるHブリッジ回路10の一例を示す。この場合、負荷は患者であり、キャパシタVからの電圧は患者の胸部に装着された電極を介して印加される。Hブリッジ回路10において、Hブリッジ回路の「高電位の」(即ち、接地されていない)脚部におけるスイッチングデバイスS11及びS12はシリコン制御整流器(SCRs(silicon controlled rectifiers))であり、Hブリッジ回路の「低電位の」脚部におけるスイッチングデバイスS13及びS14は絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBTs(Insulated Gate Bipolar Transistors))である。SCRは、そのカソードの電圧より高い所定の電圧で、そのゲート上における最短の継続時間のパルスによりトリガされる。しかしながら、SCRにおける電圧の増加の割合が所定の限界値を超えれば、SCRは自発的にオンに切り換わりやすい。SCRは、当該SCRに流れる電流が所定のレベルより下に減少することによってオフに切り換えられる。IGBTは、そのゲートにそのエミッタ電圧より高い所定のレベルより大きい電圧が印加されることによってオンに切り換えられ、その電圧印加の継続時間に渡ってオンに維持される。IGBTは、このトリガ電圧が取り除かれることによってオフに切り換えられる。Hブリッジ回路10の動作は、下記の通りである。
【0005】
負荷へのバイポーラの伝送の第1の部分は、IGBT S13をオンに切り換えることによって開始される。これは、外部トリガ信号である制御信号3をそのゲートに印加し保持することによって達成される。次にキャパシタVは、(図示されていない外部の充電回路を用いて)ゼロから負荷へ伝送するために必要とされる電圧まで、必要とされる電流で充電される。SCR S11等のSCRにおいて瞬間的に出現する任意の電圧は、SCRにおける電圧の増加の割合によって自発的にSCRをトリガする場合があるので、キャパシタVは、S13がオンに切り換えられる前にはプリチャージされていない必要がある。キャパシタVにおける必要とされる電圧が達成されたときに、対角的に反対側のSCR S12は、結合変圧器(図示せず。)を介してそのゲートにパルス制御信号2を印加することによりオンに切り換えられる。スイッチS12及びS13が共に導通しているときに、電流は負荷を介して1つの方向に流れる。選択された時間において、IGBT S13は、そのゲート上のトリガ信号制御信号3の除去によりオフに切り換えられる。これは、SCR S12に流れる電流を取り除いてSCR S12をオフに切り換え、これにより、負荷は電圧源Vから切断される。
【0006】
負荷へのバイポーラの伝送の第2の部分は、IGBT S14を、外部トリガ信号である制御信号4をそのゲートに印加し保持することによりオンに切り換えることによって開始される。その直後に、対角的に反対側のSCR S11は、結合変圧器を介するそのゲートへのパルス制御信号1によってオンに切り換えられる。スイッチS11及びS14は共に導通しているので、電流は負荷を介して、バイポーラの伝送の第1の部分の間における電流の方向とは反対の方向に流れる。このサイクルは、IGBT S14がオフに切り換えられこれによりSCR S11に流れる電流が取り除かれて必然的にオフに切り換えられるとき、又は主電圧源Vが負荷への低減された電流の流れをSCR S11がサポートできなくなるポイントまで放電されることによって終了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6996436号の明細書。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この既知のHブリッジ回路の制限は、SCR S11及びS12を駆動するために必要とされる回路の複雑さにある。何れのケースでも、SCRのカソードにおける電圧はキャパシタVにおける電圧と同じ電位まで上昇する可能性があるので、ゲートは、これらをオンに切り換えるために必要なパルスを注入するために、変圧器とともに外部回路から分離されなければならない。さらに、ブリッジ回路の動作の安全性及び完全性を保証するためには、ハードウェアの連動回路を実装するためのかなりの追加の回路が必要とされる。
【0009】
特許文献1は、SCRのうちの1つをショックレー(Shockley)のデバイス特性を有する非制御固体デバイス(USD(uncontrolled solid state device))に置き換えることを教示している。これは、1つの変圧器の接続の必要性を排除し、USDはIGBTの動作の直接的な結果として切り換わるので完全性に関するハードウェアの連動の必要条件も低減される。しかしながら、そのショックレーの特性によってUSDを所定のしきい値電圧より下では切り換えることができないというさらなる制限が課される。したがって、自動体外式除細動器に用いられるときには、USDが動作できる最低の電圧レベルによって定義されるレベルより下のエネルギーを伝送することはできなくなる。
【0010】
本発明の目的は、これらの課題を回避する又は緩和する改良されたスイッチング回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、本発明は、少なくとも1つのSCRを含む複数の固体スイッチングデバイスを備えたスイッチング回路を提供し、本回路は、上記SCRに関連付けられる制御手段であって、当該回路内の別のスイッチングデバイスにおける所定のスイッチングイベントに対応する電圧変化であって上記SCRにおける電圧変化に応答して、上記SCRを自動的にオンに切り換えるように動作する制御手段をさらに含む。
【0012】
好ましくは、制御手段はキャパシタを備え、上記キャパシタの電圧は上記所定のスイッチングイベントが発生したときに変化し、上記キャパシタの電圧の変化は上記SCRの電圧の変化より遅れており、上記キャパシタの電圧と上記SCRの電圧との差が所定のしきい値を超えたときに上記SCRはオンにされる。
【0013】
最も好ましくは、上記制御手段は上記キャパシタと上記SCRのゲートとの間に接続されたダイアックを含み、上記電圧差が上記ダイアックのしきい値電圧を超えたときに上記ダイアックはオンにされ、これに応答して上記SCRはオンにされる。
【0014】
この好ましい実施形態では、上記ブリッジ回路の高電位脚部のうちの1つに上記SCRを有し、上記他のスイッチングデバイスは上記ブリッジ回路の対角的に反対側の脚部に存在する。
【0015】
また本発明は、添付の任意のクレームに記載されているスイッチング回路を含むバイポーラの電気治療を患者に施すための自動体外式除細動器も提供する。
【0016】
以下、添付の図面を参照して、本発明の実施形態を例示的に説明する。
【0017】
図面において、同一の又は等価な構成要素には同じ参照番号/符号が付されている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】従来技術に係るHブリッジ回路10の回路図である。
【図2】本発明の実施形態に係るHブリッジ回路10’の回路図である。
【図3】図2のHブリッジ回路における自動スイッチング装置の回路図である。
【図4】図2のHブリッジ回路の外部の動作を示す波形図である。
【図5】図2のHブリッジ回路の内部の動作を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図2における本発明の実施形態に係るHブリッジ回路10’では、本実施形態ではSCR S11である、Hブリッジ回路10の高電位脚部におけるSCRのうちの一方のSCRが自動スイッチング装置(ASD(automatic switching device))S15に置き換えられている。図3はASD S15の内部の構成要素を示し、図3において、D1はキャパシタであり、D2、D3、D5及びD7は抵抗器であり、D4はダイオードであり、D6はダイアックであり、D8はSCRである。以下に、図4及び図5をさらに参照して、変更されたHブリッジ回路10’の動作について説明する(以下の説明では、ダイアックD6のLHS上の電圧は実質的にD1とD3との接続点における電圧と同じであるようにD2及びD5の抵抗は十分に小さく、かつダイアックD6のRHS上の電圧はS15とS13との接続点における電圧と実質的に同じであるようにD7の抵抗は十分に小さいことが仮定されている。)。
【0020】
負荷(即ち、患者)へのバイポーラの伝送の第1の部分は、IGBT S13をオンに切り換えることによって開始される。これは、外部トリガ信号である制御信号3をそのゲートへ印加しかつ保持することによって達成される。次にキャパシタVは、外部充電回路を用いてゼロから負荷へ伝送するために必要とされる電圧まで、必要とされる電流で充電される。先と同様に、SCR(ASD S15におけるSCR D8等)において瞬間的に出現する任意の電圧は、SCRにおける電圧の増加の割合によって自発的にSCRをトリガする場合があるので、キャパシタVは、S13がオンに切り換えられるまでプリチャージされない必要がある。S13がオンに保持され、かつキャパシタV上の電圧が上昇している間は、キャパシタD1もまたS13及び直列の抵抗D3を介してキャパシタVと同じ電圧まで充電する。ダイアックD6への入力電圧は、S13及びD3の低い直列抵抗によってそのトリガしきい値より低く保持され、これにより、SCR D8がオフに切り換えられたままになることが保証される。
【0021】
キャパシタV上で要求される電圧が達成されると、SCR S12のゲートに変圧器に接続されたパルス制御信号2を印加することによりSCR S12をオンに切り換えることによって、電流の第1の部分が負荷へ流される。S12及びS13が共にオンに切り換えられた状態で、電流は負荷を介して流れる。負荷へのバイポーラの伝送の第1の部分は、外部のゲート信号である制御信号3を除去してIGBT S13をオフに切り換えることにより完了される。IGBT S13は、S13とS15との接続点における電圧が、典型的には50オームである負荷を介する導通によりキャパシタVに残留している電圧まで上昇するように、ほぼ瞬時に、SCR S12が電流の中断に反応し得る速度より遙かに高速でオフに切り換わる。D1とD3との接続点における電圧もまた、キャパシタVに残留している電圧へと上昇するが、キャパシタD1に関連付けられる時定数によって瞬時には上昇できない。したがって、この電圧はS13とS15との接続点における電圧より遅れ、ダイオードD4がなければD3を介して大きい負のスパイクを生成する。最終結果として、キャパシタD1における電圧は実質的にゼロになり、両端子はキャパシタV上の残留分にほぼ等しい電位にある。IGBT S13がオフに切り換わってからしばらくの後、SCR S12はオフに切り換わり、それ以上負荷に電流が流れない。
【0022】
負荷へのバイポーラ伝送の第2の部分は、IGBT S14を、外部のトリガ信号である制御信号4をそのゲートへ印加して保持することによりオンに切り換えて開始される。S14はオンに切り換わると、S15とS13との接続点における電圧を急速に降下させる。D1とD3との接続点における電圧も降下し始めるが、上述した時定数の作用によって瞬時に降下することはできない。ここで、この遅れる電圧は、D3を介して正のスパイクを生成し、当該スパイクはダイアックD6のしきい値電圧を超えてSCR D8をオンに切り換える。S14及びS15が共にオンに切り換えられている状態で、電流は負荷を介して、バイポーラ放電の第1の部分の間とは反対の方向に流れる。このサイクルは、IGBT S14が外部の信号である制御信号4のそのゲートからの除去によってオフに切り換えられるとき、又はキャパシタVの主電圧源が負荷内の低下された電流の流れをSCR D8がそれ以上サポートできなくなるポイントまで漸次放電されることの何れかによって終了する。
【0023】
要約すれば、ASD S15におけるSCR D8に関連付けられる制御回路D1〜D7は、任意の外部の制御信号を必要とすることなく、S14がオンに切り換わる際のSCR D8のアノード及びカソードにおける電圧の変化に応答して自動的にSCR D8をオンに切り換える。ASDは、遙かに低いAED電圧の切り換えを許容することによってUSDの限界(特許文献1)を取り除き、しかもブリッジ回路の実装及びブリッジ回路の完全性の保証に必要な最小限の構成要素を保持する。
【0024】
本発明は、本明細書に記載されている実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく変更及び変形されてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのSCRを含む複数の固体スイッチングデバイスを備えたスイッチング回路において、
上記回路は、上記SCRに関連付けられる制御手段であって、当該回路内の別のスイッチングデバイスにおける所定のスイッチングイベントに対応する電圧変化であって上記SCRにおける電圧変化に応答して、上記SCRを自動的にオンに切り換えるように動作する制御手段をさらに含むスイッチング回路。
【請求項2】
上記制御手段はキャパシタを備え、
上記キャパシタの電圧は上記所定のスイッチングイベントが発生したときに変化し、
上記キャパシタの電圧の変化は上記SCRの電圧の変化より遅れており、
上記キャパシタの電圧と上記SCRの電圧との差が所定のしきい値を超えたときに上記SCRはオンにされる請求項1記載のスイッチング回路。
【請求項3】
上記制御手段は上記キャパシタと上記SCRのゲートとの間に接続されたダイアックを含み、上記電圧差が上記ダイアックのしきい値電圧を超えたときに上記ダイアックはオンにされ、これに応答して上記SCRはオンにされる請求項2記載のスイッチング回路。
【請求項4】
上記SCRと他のスイッチングデバイスとは負荷を介して直列に接続され、上記所定のスイッチングイベントは上記他のスイッチングデバイスがオンにされることである先行する任意の請求項記載のスイッチング回路。
【請求項5】
上記スイッチング回路はHブリッジ回路であり、上記ブリッジ回路の高電位脚部のうちの1つに上記SCRを有し、上記他のスイッチングデバイスは上記ブリッジ回路の対角的に反対側の脚部に存在する先行する任意の請求項記載のスイッチング回路。
【請求項6】
先行する任意の請求項記載のスイッチング回路を含むバイポーラの電気治療を患者に施すための自動体外式除細動器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−536862(P2009−536862A)
【公表日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−510314(P2009−510314)
【出願日】平成19年5月1日(2007.5.1)
【国際出願番号】PCT/EP2007/003834
【国際公開番号】WO2007/131625
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(503338457)ハートサイン テクノロジーズ リミテッド (8)
【Fターム(参考)】