説明

スイベルジョイント

【課題】冷却液や作業用油、ドレン油などの流体伝達経路が流体中のゴミや不純物等の影響を受けず、高いシール性を維持するとともに、交換が必要な場合でも外部から容易に交換可能なスイベルジョイントを提供すること。
【解決手段】産業用ロボットの本体部に設けられた正逆回転可能な手首部と作業用機器との間に配設され、前記手首側と作業用機器側とを繋ぐ流体伝達経路を備えたスイベルジョイントであって、前記流体伝達経路がホースからなり、ホースが、前記手首部と作業用機器との間において、前記手首部と一体回転する軸部回りに渦巻き状に余裕を持って緩く巻き回されると共に、当該ホースのうち、一端側は軸部に対して回転不能に固定され、他端側は前記軸部の動きに伴って移動する態様で固定されていることを特徴とするスイベルジョイントである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、産業用ロボットにおいて、ロボット本体に設けられた正逆回転可能な手首部と、手首部の先端に取り付けられた溶接ガンやハンド等の作業用機器側との間に配設され、手首側から作業用機器側への冷却液(例えば水)や作業用油等の流体の伝達を容易に行なわしめるスイベルジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のスイベルジョイントとして、例えば特許文献1の図1および図2に示されるようなスイベルジョイント30が存在する。このスイベルジョイント30は内筒31、中筒32、外筒33の3つの部材からなり、それぞれに形成された内筒油路311、中筒油路321、外筒油路331を通って、油圧ポンプからの作動油が各油圧アクチュエータへと供給され、あるいは各アクチュエータからのドレン油がタンクへと流れるものとしている。
【0003】
具体的には、アクチュエータからのドレン油が、外筒油路331の本体部331aを流れて外側環状溝331cに流入し、次いで中筒油路321の連通孔321cを流れて内側環状溝321dに流入し、さらに連通孔311cを流れて内筒油路311の本体部311aに流れ、最終的には接続部311bに繋がれたドレン油路を介してタンクへと送られる。
【0004】
ここで、上記内側環状溝321dや外側環状溝331cには、各環状溝同士の連通およびドレン油の漏れを防止するため、内筒の外周面や中筒の外周面に対する滑り面を有する環状パッキン(Oリング)34、35が配設されている。
【0005】
しかしながら、この滑り面や環状パッキンは、環状溝を流れるドレン油が直接触れることとなり、油中のゴミ、不純物、磨耗粉により、滑り面への噛み込みやパッキンの磨耗の促進といった問題を生じさせ、スイベルジョイント自体の寿命を低下させていた。
【0006】
また、従来のスイベルジョイントでは、スイベルジョイントと作業用機器とは両者のフランジをボルト止めするようにして結合されており、パッキン等の損傷が生じて交換が必要になったときには、ボルトを取り外す作業を介して作業用機器を取り外してからスイベルジョイント自体を取り外し、さらにスイベルジョイントを分解してパッキン等の各種部品を交換しなければならず、その交換作業には非常に手間がかかっていた。
【特許文献1】特開平10−332065号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、この発明は、冷却液や作業用油、ドレン油などの流体伝達経路が流体中のゴミや不純物等の影響を受けず、高いシール性を維持するとともに、交換が必要な場合でも外部から容易に交換可能なスイベルジョイントを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明のスイベルジョイントは、上記課題を解決するため、産業用ロボットの本体部に設けられた正逆回転可能な手首部と作業用機器との間に配設され、前記手首側と作業用機器側とを繋ぐ流体伝達経路を備えたスイベルジョイントであって、前記流体伝達経路がホースチューブからなり、ホースチューブが、前記手首部と作業用機器との間において、前記手首部と一体回転する軸部回りに渦巻き状に余裕を持って緩く巻き回されると共に、当該ホースチューブのうち、一端側は軸部に対して回転不能に固定され、他端側は前記軸部の動きに伴って移動する態様で固定されていることを特徴とする。
【0009】
なお、上記スイベルジョイントにおいて、ホースチューブが手首側から作業用機器側へと流体を供給する流体供給用ホースチューブと、作業用機器側から手首側へと流体を帰還させる流体帰還用ホースチューブとからなるものとしてもよい。
【0010】
また、上記いずれかのスイベルジョイントにおいて、ホースチューブが、前記軸部と一体回転するように取り付けられた隔壁によって支持されているものとしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
この発明のスイベルジョイントは、上述したように、冷却液や作業用油、ドレン油などの流体伝達経路がホースチューブにより形成されているため、高いシール性を有するとともに、ホースチューブ内を流れる流体が回転軸などに直接触れることもなく、液中のゴミや不純物等の影響を受けずにホースチューブ内を円滑に流れることができ、ホースチューブの交換が必要な場合でも外部から容易に交換することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、この発明のスイベルジョイントを実施するための最良の形態としての実施例について図面に従って詳細に説明する。
【実施例】
【0013】
図1はスイベルジョイントの一部断面図、図2はスイベルジョイントの一部断面斜視図、図3は図1のA−A断面図、図4は図1のB−B断面図、図5はホースチューブ2、3が作業用機器に接続された状態を示す斜視図、図6はホースチューブの径変化を示す説明図である。
【0014】
〔スイベルジョイントの全体構成について〕
このスイベルジョイントは、図1および図2に示すように、産業用ロボットの手首部Wを構成する回転軸W1と一体回転可能に接続される回転部1の外周回りに渦巻き状に余裕を持って緩く巻き回される複数のホースチューブ2、3と、前記複数のホースチューブ2、3を多段に収容可能とする複数の隔壁4と、隔壁4の外周部において前記ホースチューブ2、3の一端側を回転不能に固定する固定壁5とを備える。
【0015】
なお、前記スイベルジョイントは、図示しないが、手首部Wを構成する固定部W2と回転部1との間に、ロボット本体側から作業用機器に電力を供給できるよう円盤型スリップリングとブラシからなる電力供給手段を備えるものとしてもよい。
【0016】
また、前記回転部1の先端には、図5に示すように、ロボットハンドや溶接ガンなどの作業用機器が取り付けられる。
【0017】
ここで、この実施例1における回転部1の回転(手首部Wの回転軸W1の回転)は、正逆回転及び回動を含む概念である。
【0018】
〔ホースチューブ2、3、隔壁4、固定壁5について〕
ホースチューブ2、3は、図1および図2に示すように、ロボット本体側から作業用機器側へと冷却液(例えば、水)や作業用油等の流体を供給する三本の流体供給用ホースチューブ2と、作業用機器において加熱された冷却液やドレン油等を作業用機器側からロボット本体側に帰還させる三本の流体帰還用ホースチューブ3の二種類からなる。前記ホースチューブ2、3は、樹脂やゴム、金属管など可撓性を有する部材で形成され、その内部を流体が流れるものとしている。
【0019】
隔壁4は、七枚のドーナツ状の金属板からなり、それぞれの隔壁4を回転部1周りに互いに間隔を設けて取り付けて六つの環状空間を形成し、この環状空間内にホースチューブ2、3をそれぞれ収容するものとしている。環状空間内は、ホースチューブ2、3を渦巻状に緩く巻いた状態での回転部1の回転動作に伴うホースチューブの径変化や移動を許容する程度のスペースを有するものとしている。また、隔壁4は、図1に示すように、その内周側においてネジなどの固定手段によって回転部1に固定されているため、回転部1と共に回転可能となっている。さらに、各隔壁4の内周部には180°間隔で二つの切り欠き溝6が設けてあり、回転部1に巻き回されたホースチューブ2、3の他端側はこの切欠き溝6を介して回転部1の下流側に接続された作業用機器へと導かれることとなる。
【0020】
固定壁5は、前記複数の隔壁4の外周回りをおよそ半周に渡って覆うように形成された金属製の部材であって、手首部Wを構成する固定部W2などに固定されて、回転部1に対して回転不能となっている。また、固定壁5には三個一組で合計六個のL字型管継手7が180°間隔で取り付けられており、ロボット本体側から延設されてきたホースチューブ2、3の一端側がL字型管継手7を介して回転部1に巻き回されることとなる。このとき、固定壁5が隔壁4の外周回りのおよそ半周分だけを覆うように形成したものとしているため(固定壁5が存在しない部分によって開口部が形成されているため)、当該開口部からホースチューブ2、3を容易に隔壁4が形成する前記環状空間へ導入することができ、回転部1への渦巻き状の巻き回しも当該開口部を介して容易に行なうことができる。つまり、ホースチューブ2、3の取り付け及び交換作業が容易に行なわれる。
【0021】
〔ホースチューブ2、3の配線について〕
流体供給用ホースチューブ2と帰還用ホースチューブ3は、図1に示すように、それぞれ三本を一束として纏められた状態でロボット本体側からアームを経て、手首部Wまで延設され、手首部W付近において一旦クランプされた後、供給用ホースチューブ2は一方側(図1における左側)の固定壁5のL字型管継手7へ、また帰還用ホースチューブ3は他方側(図1における右側)の固定壁5のL字型管継手7へと分岐される。その後、ホースチューブ2、3はL字型管継手7において固定されると共に隔壁4に対して略水平となるよう方向転換し、隔壁4が形成する前記環状空間へと導入される。なお、供給用ホースチューブ2と帰還用ホースチューブ3とは、多段の環状空間内に交互に収容されるものとしている。
【0022】
環状空間内への導入側において固定された流体供給用ホースチューブ2は、図3に示すように、回転部1に対して時計回りに渦巻き状に緩く巻き回された後、隔壁4の内周部に設けられた一方の切欠き溝7(図3における右側の切欠き溝)を通って回転部1の下流側に接続された作業用機器に延設される。
【0023】
これに対し、環状空間内への導入側において固定された帰還用ホースチューブ3は、図4に示すように、回転部1に対して反時計回りに渦巻き状に緩く巻き回された後、隔壁4の内周部に設けられた他方の切欠き溝7(図4における左側の切欠き溝)を通って回転部1の下流側に接続された作業用機器に延設される。
【0024】
最終的に本実施例では、図5に示すように、三本の流体供給用ホースチューブ2と三本の帰還用ホースチューブ3とは、作業用機器を構成するトランスT、上側チップC1、下側チップC2にそれぞれ接続され、冷却液等をロボット本体側からこれら作業用機器を構成する部材へと供給し、さらに作業用機器側からロボット本体側へと帰還させる循環路を形成している。
【0025】
なお、ホースチューブ2、3は回転部1に対する巻き回しの長さや巻き回し方(緩く巻くか強く巻くか)によって、±360°以上の回転にも対応可能となる。
【0026】
〔スイベルジョイントの使用状態について〕
図6(a)に示すように、スイベルジョイントの回転部1が時計回りに回転を開始すると、回転部1と一体回転するよう固定された隔壁4も同時に回転を始めるため、一方側が固定壁5のL字型管継手7に固定され、他方側が隔壁4の切欠き溝6に挿入された供給用ホースチューブ2は、回転部1の回転動作に伴って移動し、回転部1回りに緩く巻き回されていた渦巻き状の径が小さくなるようにその巻き付けが強く絞られていく。
【0027】
逆に、図6(b)に示すように、スイベルジョイントの回転部1が反時計回りに回転を開始すると、回転部1回りに強く絞られた態様で巻き回されたホースチューブ2は、回転部1の回転動作に伴って移動し、渦巻き状の径が大きくなるようにその巻き付けが緩くなっていく。
【0028】
なお、帰還用ホースチューブ3は、供給用ホースチューブ2とは逆巻き(反時計回り)に回転部1に巻き回されているため、供給用ホースチューブ2が「絞り」方向に回転する場合には帰還用ホースチューブ3は回転軸により中心側から押し広げられるように緩められ、供給用ホースチューブ2が「緩む」方向に回転する場合には帰還用ホースチューブ3は回転軸により中心側に巻き込むように絞られる。
【0029】
〔このスイベルジョイントの優れた点について〕
このスイベルジョイントでは、回転部1の回転に伴いホースチューブ2、3の渦巻き径が変化するようにしているため、ホースチューブが捩じれたり、絡まることがなく手首側から作業用機器側あるいは作業用機器側から手首側へとホースチューブ2、3の配線をスムーズに行なうことができる。
【0030】
また、このスイベルジョイントは、ホースチューブ2、3と隔壁4、固定壁5、L字型管継手7とから構成されているが、各構成部材の加工、製作は比較的容易にでき、低コストである。
【0031】
さらに、流体がホースチューブ内を流れるものとし、回転部1の回転に伴うホースチューブの摺動面(ホースチューブの外周面)が液体に直接触れることがないため、液体中に不純物等があった場合でもその影響を受けず、長寿命化が可能である。
【0032】
さらにまた、ホースチューブは回転部1に渦巻き状に巻き回されているに過ぎないため、構造が簡単であり、作業用機器をスイベルジョイントから取り外すことなく、またスイベルジョイント自体を分解することなく、ホースチューブを容易に交換できる。
【0033】
〔他の実施例について〕
前記固定壁5の開口部を覆うような態様の取り外し可能な保護カバーを設けても良い。これにより溶接ガンなどの作業用機器の作業時に発生するスパッタ(溶接時に飛び散る溶融鉄粉)などによるホースチューブ2、3の損傷を防ぐことができる。
【0034】
また、各隔壁4やホースチューブ2、3にグリース(潤滑油)やワックスなどを塗布することにより、ホースチューブ2、3の環状空間内での回転動作時における径変化や摺動をスムーズに行なわせるようにしてもよい。これにより摩擦によるホースチューブの損傷や劣化を抑え、耐用年数を向上させることができる。
【0035】
さらに、上記実施例においては、ホースチューブ2、3の一端を隔壁4の切欠き溝6に挿入して回転部1と共に回転可能としたが、これに限られず、回転部1の回転に追随できるものであれば、回転部1の内側に中空部および回転部1の外周壁から当該中空部へと続く孔を設け、ホースチューブ2、3を回転部1の内側に導入させる構成とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】この発明のスイベルジョイントの一部断面図。
【図2】この発明のスイベルジョイントの一部断面斜視図。
【図3】図1のA−A断面図。
【図4】図1のB−B断面図。
【図5】ホースチューブが作業用機器に接続された状態を示す斜視図。
【図6】ホースチューブの径変化を示す説明図。
【符号の説明】
【0037】
1 回転部
2 流体供給用ホースチューブ
3 流体帰還用ホースチューブ
4 隔壁
5 固定壁
6 切欠き溝
7 L字型管継手


【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業用ロボットの本体部に設けられた正逆回転可能な手首部と作業用機器との間に配設され、前記手首側と作業用機器側とを繋ぐ流体伝達経路を備えたスイベルジョイントであって、前記流体伝達経路がホースチューブからなり、ホースチューブが、前記手首部と作業用機器との間において、前記手首部と一体回転する軸部回りに渦巻き状に余裕を持って緩く巻き回されると共に、当該ホースチューブのうち、一端側は軸部に対して回転不能に固定され、他端側は前記軸部の動きに伴って移動する態様で固定されていることを特徴とするスイベルジョイント。
【請求項2】
前記ホースチューブが手首側から作業用機器側へと流体を供給する流体供給用ホースチューブと、作業用機器側から手首側へと流体を帰還させる流体帰還用ホースチューブとからなることを特徴とする請求項1記載のスイベルジョイント。
【請求項3】
前記ホースチューブが、前記軸部と一体回転するように取り付けられた隔壁によって支持されていることを特徴とする請求項1又は2記載のスイベルジョイント。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−284621(P2008−284621A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−129464(P2007−129464)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】