説明

スキージシステム

【課題】 大面積の印刷、塗工において均一で、高精細と高精度を得る。
【解決手段】 スキージと、スキージの下部近くの側面を押圧するためにスキージの長手方向に配列する複数個の押圧手段と、スキージの下部近くの側面に貼り付けられスキージの長手方向に配列する複数個のひずみゲージと、スキージの上部近くにおいてスキージを保持するとともに、複数個の押圧手段による押圧を可能とするように複数個の押圧手段を保持する保持手段と、ひずみゲージによって検知されたひずみ量に基づいて、押圧手段による押圧力を操作するための操作量を演算する制御手段と、操作量に応じて押圧力を操作する操作手段と、を備えるスキージシステム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスキージによってインキをシート状材料に適用(印刷、塗工)する技術分野に属する。特に、スクリーン印刷機のスキージにおける変形に係わる状態の制御をスキージの幅方向に対して行うことが可能なスキージシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
スクリーン印刷機、ナイフブレード(スキージ)塗工機、等においては、スキージ圧力、スキージ角度、スキージ速度、インキ粘度、塗工液粘度、等の条件によって印刷、塗工された被膜の厚さ(膜厚)、線パターンの幅、それらの均一性/安定性、等が変化する。たとえば、スキージ圧力については、他の条件が一定であれば、スキージ圧力が低いときには膜厚が厚く、スキージ圧力が高いときには膜厚が薄くなる。このことは、スキージの全体としての圧力(全圧)に対して適用されるだけでなく、スキージの幅方向に分布した個々の圧力と個々の膜厚についても適用される。また、スキージ圧力が低過ぎるとインキ、塗工液の掻き取りが浅くなり、膜厚が厚くなるだけではなく、膜厚が一定せず不安定となる。したがって、適正なスキージ圧力とは、スキージの幅方向の分布を含む全体において膜厚のばらつきが小さくなり膜厚が安定する値となるスキージ圧力のことである。
そこで、従来より、スキージ圧力を適正とするための発明がなされている。たとえば、略C形断面形状の開口部にスキージ受け面を設け、他方にスキージを押圧する複数のねじを有するスキージホルダーとスキージを押圧するスキージ押圧面を設けた複数のスキージ抑えを有し、スキージの平行度を調節する発明が公知である(特許文献1)。ここで、スキージの平行度を調節することは、スキージ圧力の幅方向の分布を適正にすることに相当している。また、印刷台上に載置された印刷用紙にスキージを用いて印刷するスクリーン印刷において、圧力を検出するフィルム状歪ゲージの出力値を測定することによりスキージ圧力を調整する発明が公知である(特許文献2)。また、スキージホルダまたはスキージの表面に、印圧や摩擦力を感知するセンサを取り付けた発明が公知である(特許文献3)。また、被印刷物を配置するための印刷ステージと、被印刷物の高さを調節する手段と、印刷ステージの上部に設けられたスキージと、スキージを支持するヘッドと、ヘッドが配設されたシリンダによって上下移動可能であり、被印刷物の高さを調節する手段は、印刷ステージ上の配置された被印刷物を撓ませることが可能であるようにした発明が公知である(特許文献4)。また、押圧面に押圧可能なスキージを有するスキージヘッドと、スキージヘッドを昇降させる駆動部と、スキージヘッドの昇降範囲を制限する限度ストッパとを具備し、スキージヘッドは、スキージの押圧力を検出する圧力検出器と、スキージから圧力検出器への押圧力を緩和する弾性体とを備え、被押圧面に加わる押圧方向に沿って、スキージと圧力検出器と弾性体とを直列的に配置した発明が公知である(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭61−158976
【特許文献2】実開昭63−114648
【特許文献3】特開平9−174808
【特許文献4】特開2007−038641
【特許文献5】特開2008−254246
【0004】
ところで、ディスプレイ、タッチパネルやセンサー等の電子機器向けのデバイスは、蒸着、フォトリソグラフィなどによる半導体プロセス技術により製造されているが、装置が高価であること、エネルギー消費と浪費する材料が多いことなどが問題になっている。そこで、近年においては、フィルム、ガラス基板上に電子回路を印刷、塗工により直接形成する技術がプリンタブルエレクトロニクスまたはプリンテッドエレクトロニクスと呼ばれる分野で着目されている。その中でスクリーン印刷は、大面積の印刷に対応できる、多種多様な基材に印刷可能、厚膜を形成できる、という利点から広く利用されている。
しかしながら、スクリーン印刷は大面積の印刷に対応できる反面、その大面積の印刷において均一で、高精細と高精度を同時に得ることが困難であり、上述したような公知の技術においては、十分ではないという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の問題を解決するために成されたものである。その目的は、大面積の印刷、塗工において均一で、高精細と高精度を得ることが可能なスキージシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明の請求項1に係るスキージシステムは、スキージと、前記スキージの下部近くの側面を押圧するために前記スキージの長手方向に配列する複数個の押圧手段と、前記スキージの下部近くの側面に貼り付けられ前記スキージの長手方向に配列する複数個のひずみゲージと、前記スキージの上部近くにおいて前記スキージを保持するとともに、前記複数個の押圧手段による前記押圧を可能とするように前記複数個の押圧手段を保持する保持手段と、前記ひずみゲージによって検知されたひずみ量に基づいて、前記押圧手段による押圧力を操作するための操作量を演算する制御手段と、前記操作量に応じて前記押圧力を操作する操作手段と、を備えるようにしたものである。
また、本願発明の請求項2に係るスキージシステムは、請求項1に係るスキージシステムにおいて、前記ひずみ量の目標値を設定する設定手段を備え、前記制御手段は、前記ひずみ量が前記設定された目標値となるように操作量を演算するようにしたものである。
また、本願発明の請求項3に係るスキージシステムは、請求項1または2に係るスキージシステムにおいて、前記押圧手段と前記ひずみゲージとは同数であって、前記押圧手段が押圧する前記スキージの下部近く側面の位置と、前記ひずみゲージが貼り付けられた前記スキージの下部近くの側面の位置とは、すくなくとも前記スキージの長手方向において、前記スキージを介して対向する位置となっているようにしたものである。
また、本願発明の請求項4に係るスキージシステムは、請求項1〜3のいずれかに係るスキージシステムにおいて、前記スキージの長手方向に延びる軸を中心として、前記保持手段を回転可能とするとともに、任意の回転角度で前記保持手段を固定する角度調節手段を備えるようにしたものである。
また、本願発明の請求項5に係るスキージシステムは、請求項1〜4のいずれかに係るスキージシステムにおいて、前記角度調節手段を前記スキージの長手方向に対して直角方向に、かつ被印刷物の印刷面に対して平行方向に移動する水平移動手段を備えるようにしたものである。
また、本願発明の請求項6に係るスキージシステムは、請求項1〜5のいずれかに係るスキージシステムにおいて、前記角度調節手段を前記スキージの上下方向に移動し、上方向に移動したときに印圧を抜き、下方向に移動したときに印圧を加える印加手段を備えるようにしたものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、大面積の印刷、塗工において均一で、高精細と高精度を得ることが可能なスキージシステムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明のスキージシステムにおける機械系の構成の一例を示す図(側面図)である。
【図2】本発明のスキージシステムにおける機械系の構成の一例を示す図(正面図)である。
【図3】ひずみゲージによるひずみ検出回路(ブリッジ)の一例を示す図である。
【図4】本発明のスキージシステムにおける制御系の構成の一例を示すブロック図である。
【図5】本発明のスキージシステムをスクリーン印刷に適用した場合における動作の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本発明の実施の形態について図を参照しながら説明する。本発明のスキージシステムにおける機械系の構成の一例を図1(側面図)、図2(正面図)に示す。図1、図2において、1はスキージ、2はスキージホルダー、3および3a,3bは角度調節手段、31は回転軸、4および4a〜4fはひずみゲージ、5および5a〜5fは押圧手段、51および51a〜51fは支持体、6aおよび6bは移動手段、61aおよび61bはステージ、62aおよび62bはガイドである。また、100はインキ、101はスクリーン版、102は被印刷物である。
スキージ1はスクリーン印刷、スキージ塗工、等において使用されるスキージ(squeegee)である。一般的には、そのような用途のスキージとしては、ウレタンゴムを材料とし、ゴム硬度が60〜90程度のものが使用されるが、本発明においては、スキージ1の材料はその他の合成ゴム、天然ゴム、プラスチック、金属、FRP(Fiber Reinforced Plastics)等の合成材料、等であってもよい。また、スキージ1の形状は板状であるもの(断面形状が長辺の長い長方形)、その板状の先端を切り取ったもの、断面形状がナイフのような断面形状であるもの、断面形状が略正方形であるもの、等を使用することができる。ナイフの断面形状であるスキージはその刃先に相当する部分、また断面形状が辺と辺によって構成されるスキージは辺と辺が交差する先端部分においてインキの掻き取りが行われる。
【0010】
スキージホルダー2は、スキージ1をその上部を長手方向の全体において保持するとともに、押圧手段5,5a〜5fによるスキージ1の押圧を可能とするように支持体51,51a〜51fを介して押圧手段5,5a〜5fを保持する保持手段である。スキージホルダー2の材料は、一般的に、金属、硬質プラスチック、等の剛性材料であってスキージホルダー2は高い剛性を有している。一方、スキージ1は硬度に相応する弾力性を有しており、ホルダー2に比較して高い剛性を有するものではない。そこで、スキージ1に対して外力が作用したときに、スキージホルダー2の剛性によって、スキージホルダー2によって保持されているスキージ1の上部は変形せず、保持されていないスキージ1の下部(先端近傍)だけが変形するようにしている。また、スキージホルダー2が変位するときには、スキージホルダー2の剛性によってスキージ1の長手方向にその変位が均等に伝わるようにしている。さらに、スキージホルダー2は、押圧手段5,5a〜5fがスキージ1に対して押圧力を作用させたときの反作用を支持体51,51a〜51fを介して受け止める。
【0011】
角度調節手段3,3a,3b、はスキージ1の長手方向に延びる軸を中心として、保持手段2を回転可能とするとともに、任意の回転角度で保持手段2を固定する。角度調節手段3はスキージ角度を調節するための角度調節手段である。角度調節手段3,3a,3bの簡単な構成としては、たとえば、保持手段2または角度調節手段3に固定された回転軸31の回転を止めるネジを緩めて角度調節を行った後に、そのネジを締め付けて固定する構成とすることができる。また、複雑な構成としては、たとえば、保持手段2に固定された回転軸31に連結するウォームホイールをウォームスクリューによって回転し、角度調節する構成とすることができる。そのとき、ウォームスクリューの回転を回転量を制御可能なモータ(たとえばステップモータ)によって制御することにより目標角度に自動調整する構成とすることができる。
ひずみゲージ4,4a〜4fは変形により電気抵抗の変化を示すセンサ(Strain gauge)である。ひずみゲージ4,4a〜4fの電気抵抗の変化を計測して換算することによりひずみ量を得ることができる。ひずみゲージ4,4a〜4fは、通常、ジグザグ形状にレイアウトされた金属の抵抗体(金属箔)を薄い絶縁体上に取り付けた構造をしている。ひずみゲージ4は、図1においてはその1つが示されているが、実際は複数個のひずみゲージである。図2に示すように、複数個のひずみゲージ4a〜4fはスキージ1の下部近く(先端近く)の側面に貼り付けられ、スキージ1の長手方向に配列している。
【0012】
押圧手段5、5a〜5fはスキージ1の側面を押圧するためのアクチュエータである。スキージシステムのアクチュエータとしては、たとえば、空気シリンダー、油圧シリンダー、モータ駆動のリニアアクチュエータ、等を使用することができる。空気シリンダーはその空気圧を操作することによりスキージ1の変形を制御するときに好適である。また、サーボモータによって位置決めする構成のリニアアクチュエータはその変位量を操作することによりスキージ1の変形を制御するときに好適である。
押圧手段5、5a〜5fが押圧するスキージ1の側面(一方の側面)は、図1に示す一例においては、スキージ1の下部近くのひずみゲージ4が貼り付けられた側面(他方の側面)に対して反対側となっている。ひずみゲージ4を貼り付けるスキージ1の側面と、押圧手段5、5a〜5fが押圧するスキージ1の側面とは同一側面であってもよい。異なる側面とすることにより、押圧手段5、5a〜5fおよびひずみゲージ4の配置についての設計自由度が増す。また、押圧部の直接的な接触によるひずみゲージ4の磨耗破壊、等の問題を回避することができる。
押圧手段5、5a〜5fがスキージ1を押圧する力に対する反作用の力は、図1に示す一例においては支持体51に作用する。その支持体51は角度調節手段3によって支持され、角度調節手段3はスキージホルダー2を支持し、スキージホルダー2はスキージ1を保持する。支持体51、角度調節手段3、スキージホルダー2は剛体であるから、押圧手段5、5a〜5fが押圧する力はスキージ1に変位を生じさせることになる。押圧手段5、5a〜5fを支持する構成については、スキージ1に変位を生じさせる構成となっていればよく、図1に示す一例に限定されない。
押圧手段5、5a〜5fは、図1に示す一例においては、直接的にスキージ1の側面を押圧する構成となっているが、リンク機構、等を介して間接的にスキージ1の側面を押圧する構成とすることもできる。
【0013】
移動手段6a,6bは、図1(B)に移動方向を示すように、スキージ1を印刷するために始点から終点に移動し、終点から逆方向へ移動し始点に復帰するための手段である。図1、図2に示す一例においては、移動手段6a,6bはステージ61a,61bとガイド62a,62bから構成され、ステージ61a,61bが角度調節手段3を直接的に支持することによりスキージ1を間接的に支持する。図1(B)はスクリーン印刷にスキージシステムを適用したときの説明図である。スキージ1が図1(B)における左方向に移動することによりインキ100が掻き取られるとともにスクリーン版101に形成されたインキ通過部分(印刷パターンの部分)にインキ100が埋め込まれ、被印刷物102に転移する。スクリーン版101を被印刷物102から離すと被印刷物102に印刷パターン(インキを通過させる部分)のインキだけが残る。
【0014】
なお、図示していないが、スキージシステムにおいて、角度調節手段3をスキージ1の上下方向に移動し、上方向に移動したときに印圧(スキージ圧力)を抜き、下方向に移動したときに印圧(スキージ圧力)を加える印加手段を備えることができる。印加手段はスキージ1の全体がスクリーン版に加えるスキージ圧力(全圧)を発生させる。そして、スクリーン印刷においては、スキージ1をスクリーン版に接触させる状態、すなわちスクリーン版にスキージ圧力を加えた状態において、印刷、等が行われる。また、スクリーン印刷においては、スキージ1をスクリーン版から離した状態、すなわちスクリーン版へのスキージ圧力を抜いた状態において、スクリーン版を印刷済みの被印刷物から離し、次に印刷する被印刷物に入れ替えること、等が行われる。印加手段はそのためのものである。印加手段としては、空気シリンダー、リニアアクチュエータ、等をアクチュエータとしてスキージホルダー2を上下方向に移動することにより、スキージ1を上下方向に移動する構成とすることができる。また、角度調節手段3a,3bまたは移動手段6a,6bを上下方向に移動することにより、間接的に、スキージ1を上下方向に移動する構成とすることができる。
【0015】
以上、機械系の構成について説明した。次に、本発明のスキージシステムにおける制御系の構成の一例として、ひずみゲージによるひずみ検出回路(ブリッジ)の一例を図3に示し、本発明のスキージシステムにおける制御系の構成の一例をブロック図として図4に示す。図3、図4においてR1,R2,R3,R4,R5,R6は抵抗器、VRはボリューム、4はひずみゲージ、5は押圧手段、140はひずみゲージ増幅器、141は較正器、150は操作器、151は手動操作設定器、170は制御器、171は設定器である。
ひずみゲージ1の変形による電気抵抗の変化は、周知のように、ブリッジ回路を使用して検出することが行われている。図3(A)においては、R1,R2,R3,R4の4つの抵抗器によってブリッジ回路が構成され、その内のすくなくとも1つはひずみゲージである。1つのひずみゲージを使用するときには、たとえばR1をひずみゲージ4とする(1/4ブリッジ回路;quarter bridge circuit)。また、2つのひずみゲージを使用するときには、たとえばR1をひずみゲージ4とし、R4をもう一つのひずみゲージとする(1/2ブリッジ回路;half bridge circuit)。もう一つのひずみゲージは、たとえばひずみゲージ4に対向するスキージ4の側面の位置に貼り付けられる。ひずみゲージ4ともう一つのひずみゲージとは変形に対して逆方向に伸縮し、温度変化に対しては同一の温度係数で抵抗値が変化する。その構成により、感度と温度補償の性能を向上させることができる。同様に、すべての抵抗器を同一特性のひずみゲージとすることにより感度と温度補償の性能を向上させることができる(フルブリッジ回路;full bridge circuit)。
それらのブリッジ回路の端子Cと端子Dに一定の所定電圧(直流または交流)を印加したときの端子Aと端子Bの間(端子A−B)の出力電圧の変化によってひずみゲージの変形(による抵抗変化)を検出する。
【0016】
ブリッジ回路を使用して検出するときには、ひずみゲージ4が基準状態(ひずみゲージ4の変形が基準となる所定の状態)のときの端子A−Bの出力がゼロとなるようにゼロ調整(平衡調整)が行われる。図3(A)に一例を示すブリッジ回路においては、R1×R3=R2×R4を満たすとき端子A−Bの出力電圧がゼロとなるのであるが、一般的には、基準状態でその関係を満たすことはない。したがって、ゼロ調整するための回路(ゼロ調整回路;平衡調整回路)を設ける。図3(B)はゼロ調整回路を設けたブリッジ回路の一例を示している。図3(B)において、固定抵抗器であるR5,R6と可変抵抗器であるVRによって構成された回路部分がゼロ調整回路である。VRのスライド端子(摺動端子;矢印→で示す端子)には電圧(端子Dの電圧)が印加されており、VRを操作すると、ブリッジ回路の各部分に流れる電流が変化することになる。その結果、ゼロ調整を行うことができる。なお、R5とR6は調整範囲を制限して微調整が可能となるように設けられた固定抵抗器である。
【0017】
端子A−Bの出力電圧は、通常その変化が微小であるから増幅器によって増幅が行われた後に電圧測定器、等に出力が行われる。ひずみゲージ4の基準状態からの変形量が一定のときに、一定の出力電圧が得られるようにその増幅の程度を調整することが行われる。その増幅の程度の調整は、一般的な呼称である感度調整、ゲージ率調整、スパン調整、等に相当するものであり、ここでは感度調整と呼ぶことにする。本発明においては、複数のひずみゲージを使用しそれらが検出するスキージ1の変形量に基づいて複数の押圧手段5の押圧量を操作することから、複数のひずみゲージにおける変形量と出力電圧の関係が所定の範囲内において一定となるようにその感度調整を行う必要性がある。
【0018】
図4に示すひずみゲージ増幅器140は、ひづみゲージ以外のブリッジ回路と増幅器を一体化した増幅器であり、ひづみゲージ4を接続するための端子を有している。また、較正器141は上述したようなゼロ調整と感度調整をひずみゲージ増幅器140に対して行うための較正器である。スキージシステムにおいては、複数あるひづみゲージ4の各々に対してひずみゲージ増幅器140と較正器141を設ける。
制御器170はひづみゲージ増幅器140の出力電圧を入力して操作信号を生成し、操作器150に出力する。出力電圧は時間の経過とともに変化する信号であるから、ここでは、出力信号とも呼ぶ。当然ながら、出力信号はひづみゲージ4の変形の程度(基準状態からの変形量)を表わしているからひづみゲージ4の変形量信号である。また、設定器171はひづみゲージ140の出力信号の目標値の設定を制御器170に対して行うための設定器である。目標値は時間の経過とともに変化しない一定値に限定されるものではなく、時間の経過とともに変化する目標値信号、あるいはスキージ1の移動位置、等の他の変化量にしたがって変化する値であってもよい。
制御器170は、その目標値とひづみゲージ増幅器140の出力信号とを比較して、その差異が小さくなるような操作量を演算する。制御器170の制御方式としては、特に限定はないが、たとえば、出力信号と目標値との偏差に対して比例(Proportinal:P)、積分(Integral:I)、微分(Differential:D)の演算を行って操作量を導出するPID制御を適用することができる。通常は、Pを単独で、またはPにI、Dのいずれかまたは両方を組合わせた演算を行う。
【0019】
操作器150は操作量を入力して押圧手段5を操作する。押圧手段5が空気シリンダーであるときにはその空気圧を操作する。押圧手段5がサーボモータによって直線方向の位置決めをする構成のリニアアクチュエータであるときにはその変位量を操作する。
押圧手段5が空気シリンダーであるときには、操作器150は、たとえば、高圧空気源(高圧空気タンク)と、高圧空気を空気シリンダーに導入するための空気導入電磁弁と、その導入された空気を排出するための空気排出電磁弁と、制御器170が出力する操作量に基づいて、空気導入電磁弁と空気排出電磁弁を操作する電磁弁操作器とによって構成することができる。その操作器150の動作としては、たとえば、電磁弁操作器が操作量を入力し、その操作量が押圧力増大の操作量であるときには空気導入電磁弁を開いて空気シリンダー内に、その操作量に基づく所定量の高圧空気を導入し、空気シリンダー内の空気圧を増圧する。また、押圧力減少の操作量であるときには空気排出電磁弁を開いて空気シリンダー内から、その操作量に基づく所定量の空気を排出し、空気シリンダー内の空気圧を減圧する。このように、空気シリンダー(押圧手段5)の空気圧が操作され、それを繰り返すことにより、制御器170に設定された目標値とひづみゲージ増幅器140の出力信号との差異が小さくなって行く。
【0020】
押圧手段5がサーボモータによって位置決めする構成のリニアアクチュエータであるときには、操作器150は、リニアアクチュエータのサーボモータと、サーボドライバ、サーボコントローラとによって構成することができる。その操作器150の動作としては、たとえば、サーボコントローラが操作量を入力し、その操作量が押圧力増大の操作量であるときには、その操作量に基づく所定の回転量の信号をサーボドライバに出力し、そのサーボドライバによってサーボモータを駆動し、押圧力を増大する方向にリニアアクチュエータを変位させる。また、押圧力減少の操作量であるときには、その操作量に基づく所定の回転量の信号をサーボドライバに出力し、そのサーボドライバによってサーボモータを駆動し、押圧力を減少する方向にリニアアクチュエータを変位させる。このように、リニアアクチュエータの変位によりその直線方向の位置決めが行われ、それを繰り返すことにより、制御器170に設定された目標値とひづみゲージ増幅器140の出力信号との差異が小さくなって行く。
なお、操作量は制御器170からだけでなく、手動によって操作量を設定することにより手動操作設定器151からも出力される。言い換えると、利用者は押圧手段5を手動操作することができる。操作器150は、制御器170からの操作量と手動操作設定器151からの操作量のいずれを入力するかを切替える構成を備えている(図4参照)。
【0021】
以上、構成について説明した。次に、本発明のスキージシステムにおける動作について説明する。本発明のスキージシステムをスクリーン印刷に適用した場合における動作の一例をフロー図として図5に示す。
まず、図5のステップS1(ゼロ調整)において、スキージシステムにおける制御の目的に適合するスキージ1の状態において、スキージシステムのゼロ調整を行う。ここでは制御の目的は、印刷中におけるスキージ1の状態(変形)を所定の状態に保つこと、すなわちひずみゲージ4の出力電圧が目標値となるように制御することであるとして説明する。その場合は、ひずみゲージ4の基準状態は印刷中の状態であるから、利用者は角度調節手段3を操作してスキージ1のスキージ角度を所望の角度に設定する。また、利用者は手動操作設定器151を操作して押圧手段5による押圧力を所望の押圧力(または変位量)に設定する。それらを行った後に、利用者は印加手段を操作してスクリーン圧力(全圧)を所望の圧力に設定しスキージ1をスクリーン版に接触させる。
その状態(基準状態)において、すべてのひずみゲージ4の各々に接続するひずみゲージ増幅器140の出力電圧がゼロとなるように較正器141を操作し調整を行う。自動調整機能が付属するひずみゲージ増幅器140であれば、この較正を自動で行うことができる。
なお、押圧手段5はスキージ1を押すことができても引くことができない。しかし、一定の押圧力(上記の「所望の押圧力」)で押圧した状態でゼロ調整を行うことによって、その押圧力を増大させればスキージ1を押したことになり、その圧力を減少させればスキージ1を引いたことになる。すなわち、押圧手段5によってスキージ1の押し引きの両方が可能となる。
【0022】
次に、ステップS2(感度調整)において、スキージシステムの感度調整を行う。感度調整は、スキージシステムにおける制御の目的に適合するスキージ1の状態において行う方法と、回路的に等価ひずみを与えて調整する方法がある。前者の方法としては、利用者が印加手段を操作して印加手段による印圧(スキージ圧力)を基準状態から変化させた状態で、すべてのひずみゲージ4の各々に接続するひずみゲージ増幅器140の出力電圧が同一となるように較正器141を操作し調整を行う。そのとき、基準状態から変化量は、印刷中に起きる変化量と同程度とすることが好ましい。一方、後者の方法としては、ひづみゲージ4に所定の抵抗器を並列接続する等により、ひずみゲージが変形した場合と同等の状態を発生させ、すべてのひずみゲージ4の各々に接続するひずみゲージ増幅器140の出力電圧が同一となるように較正器141を操作し調整を行う。所定の抵抗器としては、前記「印刷中に起きる変化量と同程度」の変化量に対応するひづみゲージ4の抵抗変化を与える抵抗値の抵抗器(較正抵抗)を使用することができる。自動調整機能が付属するひずみゲージ増幅器140であれば、この較正を自動で行うことができる。
なお、ステップS1とステップS2は、スキージシステムを較正するステップであるから、スクリーン印刷機上で困難な内容が含まれるときにはその較正を行い易い環境下で行えばよい。勿論、スクリーン印刷機上において行えるときには、スクリーン印刷の開始直前にスクリーン印刷機上で行うことが好ましい。
【0023】
次に、ステップS3(目標値設定)において、ひずみゲージ増幅器140の出力電圧の目標値を設定する。ひずみゲージ増幅器140の出力電圧がゼロとなるひずみゲージ4の基準状態で一定となるように制御するのであれば、当然、設定器171を操作して目標値をゼロに設定する。また、基準状態から変化させた状態で一定となるように制御するのであれば、設定器171を操作し、その状態に相当する目標値を設定する。基準状態から変化させることは、たとえば、基準状態で得られる印刷品質よりも、より良好な印刷品質が得られないか試行するとき、等において行われる。
また、ひずみゲージ4の各々に接続するひずみゲージ増幅器140の各々において、個別の状態で一定となるように制御することができる。その場合には、各々のひずみゲージ増幅器140に対して、設定器171を操作し、それら個別の状態に相当する目標値を設定する。この設定はスキージ1の長手方向における状態の変化を付与するときに適用される。たとえば、長手方向における膜厚が不均一であるとき、ひずみゲージ増幅器140の各々に別々の目標値を設定することにより修正し、均一な膜厚を得ようとするときに好適である。
【0024】
また、スキージ1の長手方向における状態の変化を付与するだけでなく、長手方向に対して直角方向、すなわち、スキージ1の移動方向における状態の変化を付与することができる。移動手段6a,6bは、ガイド62a,62bにおけるステージ61a,61bの位置を検出する位置検出手段(図示せず)を備えている。また、制御器170は位置検出手段が出力する位置信号を入力し、その位置信号が示す位置に対応して設定された目標値を制御器170の制御における目標値として使用する機能を有している。したがって、スキージ1の移動方向における状態の変化を付与することができる。その場合には、スクリーン印刷の印刷範囲における部位、すなわち、xをひずみゲージ4が貼り付けられたスキージ1の長手方向における位置、yをスキージ1の移動方向における位置として2次元の位置(x、y)で表わされる部位に対して、設定器171を操作し、所望の状態に相当する目標値を設定する。この設定はスキージ1の長手方向と移動方向の両方における状態の変化を付与するときに適用される。たとえば、移動手段6a,6bと被印刷物102とが平行面から外れているとき、被印刷物102を支持する支持面に凹凸が存在するとき、等において、2次元の位置(x、y)の各々に別々の目標値を設定することにより修正し、均一な膜厚を得ようとするときに好適である。
なお、ステップS1〜ステップS3は、印刷を開始する前に済ませておくステップである。次のステップ4以後において印刷が行われる。
【0025】
次に、ステップS4(スキージを開始位置へ)において、スクリーン印刷機における印刷開始位置にスキージ1を設定する。印加手段によりスキージ1をスクリーン版に接触させ加圧する。
次に、ステップS5(制御ON)において、スキージシステムにおける制御動作を開始する。たとえば、操作器150へ操作量の出力を手動操作設定器においてマニュアルで設定した操作量から制御器170によって生成された操作量に切替える(図4参照)。
次に、ステップS6(スクリーン印刷開始)において、移動手段6a,6bはスキージ1の移動を開始する、等により、スクリーン印刷を開始する。
次に、ステップS7(スクリーン印刷終了)において、移動手段6a,6bはスキージ1の移動を停止する、等により、スクリーン印刷を終了する。
次に、ステップS8(制御OFF)において、スキージシステムにおける制御動作を停止する。たとえば、操作器150へ操作量の入力を制御器170によって生成された操作量から手動操作設定器においてマニュアルで設定した操作量に切替える(図4参照)。
次に、ステップS9(終了?)において、その目標値でのスクリーン印刷を継続するか終了とするかを判定する。たとえば、印刷数が設定した印刷数に達した信号入力の有無、手動停止または手動開始の有無、等によって判定が行われる。継続するときにはステップS4に戻って以降のステップを繰り返す。終了するときにはスクリーン印刷のステップを終了する。
【0026】
以上、一例を挙げてスキージシステムにおける動作について説明した。このように本発明のスキージシステムにおいてはスキージの状態(特に変形)を制御することができる。そして、制御の目標値の設定は任意であるから、その設定により好適な状態での動作をスキージ1の長手方向において、またスキージ1の移動方向において実現できる。しかも、その好適な状態は制御により安定している。したがって、大面積の印刷、塗工において均一で、高精細と高精度を得ることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
高精細と高精度を全面均一に得ることが必要性なプリンタブルエレクトロニクス技術分野、等におけるスクリーン印刷、スキージ塗工、等において好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 スキージ
2 スキージホルダー
3,3a,3b 角度調節手段
31 回転軸
4 ひずみゲージ
5,5a〜5f 押圧手段
51,51a〜51f 支持体
6a,6b 移動手段
61a,61b ステージ
62a,62b ガイド
100 インキ
101 スクリーン版
102 被印刷物
140 ひずみゲージ増幅器
141 較正器
150 操作器
151 手動操作設定器
170 制御器
171 設定器
R1,R2,R3,R4,R5,R6 抵抗器
VR ボリューム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スキージと、
前記スキージの下部近くの側面を押圧するために前記スキージの長手方向に配列する複数個の押圧手段と、
前記スキージの下部近くの側面に貼り付けられ前記スキージの長手方向に配列する複数個のひずみゲージと、
前記スキージの上部近くにおいて前記スキージを保持するとともに、前記複数個の押圧手段による前記押圧を可能とするように前記複数個の押圧手段を保持する保持手段と、
前記ひずみゲージによって検知されたひずみ量に基づいて、前記押圧手段による押圧力を操作するための操作量を演算する制御手段と、
前記操作量に応じて前記押圧力を操作する操作手段と、
を備えることを特徴とするスキージシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のスキージシステムにおいて、前記ひずみ量の目標値を設定する設定手段を備え、前記制御手段は、前記ひずみ量が前記設定された目標値となるように操作量を演算することを特徴とするスキージシステム。
【請求項3】
請求項1または2に記載のスキージシステムにおいて、前記押圧手段と前記ひずみゲージとは同数であって、前記押圧手段が押圧する前記スキージの下部近く側面の位置と、前記ひずみゲージが貼り付けられた前記スキージの下部近くの側面の位置とは、すくなくとも前記スキージの長手方向において、前記スキージを介して対向する位置となっていることを特徴とするスキージシステム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のスキージシステムにおいて、前記スキージの長手方向に延びる軸を中心として、前記保持手段を回転可能とするとともに、任意の回転角度で前記保持手段を固定する角度調節手段を備えることを特徴とするスキージシステム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のスキージシステムにおいて、前記角度調節手段を前記スキージの長手方向に対して直角方向に、かつ被印刷物の印刷面に対して平行方向に移動する水平移動手段を備えることを特徴とするスキージシステム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のスキージシステムにおいて、前記角度調節手段を前記スキージの上下方向に移動し、上方向に移動したときに印圧を抜き、下方向に移動したときに印圧を加える印加手段を備えることを特徴とするスキージシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−63615(P2013−63615A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204439(P2011−204439)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】