説明

スクイーズ空気軸受およびそれを用いた位置決め案内装置

【課題】 摺動部の浮上量が大きく、スクイーズ空気膜により非接触に安定した支持を行うことができると共に、小型かつ安価で、複雑な調整が不要な高精度のスクイーズ空気軸受およびそれを用いた位置決め案内装置を提供する。
【解決手段】 動体を取り付けるための平板状の取付け部7と、該取付け部7に対して、圧電素子で構成される振動子1によって振動方向に振動させる傾斜した摺動部2と、該摺動部2の振動面2aに微小な隙間4を介して対向させた略V字形状の案内面3と、を具備し、スクイーズ空気膜によって非接触に該摺動部2を支持させるスクイーズ空気軸受において、振動子1が1個で構成されると共に、該摺動部2の振動面2aが2つ設けられ、また、摺動部2の振動面2aは、振動子1が配置される軸線方向に対して左右対称な位置にそれぞれ設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、半導体製造装置や工作機のテーブル送りに使用されると共に、高速な動作と高精度な位置決め性能が要求される位置決め案内装置に好適な、非接触の空気軸受、特にスクイーズ空気軸受およびそれを用いた位置決め案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造装置や工作機のテーブル送りに適用されると共に、高速な動作と高精度な位置決め性能が要求される位置決め案内装置には、機構の低摩擦化のために非接触軸受が用いられている。
非接触軸受には、例えば、磁気軸受、静圧空気軸受、動圧空気軸受などがあるが、超寿命、低騒音、高精度回転制御、メンテナンスフリーといった特徴がある。
磁気軸受は、永久磁石または電磁石の吸引力を利用し、回転軸を空間に支持する軸受であるが、永久磁石単体では成立しないため、永久磁石と電磁石の複合使用または電磁石の単体使用となり、電磁石制御のための位置センサ、その信号処理回路、電磁石のための増幅器などが必要となり、装置が複雑・大型・高価であった。
また、静圧空気軸受は、圧縮空気をガイドに対して噴出させ、発生した静圧によって浮上させる軸受であるが、圧縮空気を供給するコンプレッサが必須となり、圧縮空気の配管が邪魔であった。
さらに、動圧空気軸受は、軸の回転に伴って周辺の空気を軸受隙間へ誘いこみ、圧力を上昇させて回転軸を支持する軸受だが、圧縮空気は不要であるものの、軸の低速回転時や静止時には非接触支持機能を失ってしまう。
【0003】
上記のような軸受に対して、対向する二面間の相対的な垂直方向の高周波の振動により発生するスクイーズ空気膜を利用して非接触に移動体を支持させるスクイーズ空気軸受が知られている。スクイーズ空気軸受は、振動子として例えば圧電素子を採用することができるが、他には圧電素子を駆動するアンプが必要なだけで、磁気軸受と異なり装置は複雑にはならない。また、静圧空気軸受と異なりコンプレッサや圧縮空気の配管が不要で、動圧空気軸受と異なり、低速回転時や静止時にも非接触の支持機能を失わないという利点がある(例えば、特許文献1参照)。
図6は第1従来技術を示すスクイーズ空気軸受の正断面図である。
図6において、1は振動子、2は摺動部、2aは振動面、3は案内面、4は隙間、6は振動方向であり、振動子1により摺動部2の振動面2aを振動させることにより、案内面3との間の微小な隙間4に空気膜が成形され、非接触の支持機能を発生する。これは、気体が粘性を有するため、振動子1の振動周波数が高いと隙間4の空気膜の周辺部の空気の出入が拘束され、あたかも密閉した圧縮性流体に高周波の体積変化を起こさせたと同様になる。そのとき振動子1の周波数が高いと、慣性力のため追従できずほとんど振動しなくなり、変位に対する圧力発生が非線形となり、平均的に正圧が得られ、非接触に案内面3の上で支持される。
【0004】
振動面が複数あるスクイーズ空気軸受としては、V平面案内式の位置決め案内装置に圧電素子を適用したものがあり、案内機構として高精度であると同時にその周辺機器および制御機構を簡略化できる(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
図7および図8は、それぞれ第2従来技術、第3従来技術を示すV平面案内式の位置決め案内装置に適用されるスクイーズ空気軸受部の正断面図である。
図7および図8において、1は振動子、2は摺動部、2aは振動面、3は案内面、4は隙間、6は振動方向である。図7は、V字形状の案内面3に対向させて、2個の振動子1および振動面2aを配置する。図8においては、V字形状の案内面3に対向させて、V字形状の摺動部2を配置し、1個の振動子1で摺動部2の振動面2を振動させる。
【特許文献1】特開昭62−255613号公報(第1−3頁、図1、図5、図6)
【特許文献2】特許2669646号公報(第1−4頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、第2従来技術のV字平面案内式の位置決め案内装置に用いるスクイーズ空気軸受の構成では、V字形状の摺動部に対向した2個の振動子が必要であるため、高価であると共に、振動子を摺動部に取り付ける際に位置精度にバラツキが生じたり、あるいは振動子の特性自体にバラツキが生じることによって、2個の振動子の浮上面のバランスがとれなくなる。その結果、該空気軸受の摺動部の浮上が不安定になるという問題があった。加えて、機械的な構造上の制約(省スペースなど)から、薄型の振動子しか採用できないので、振幅量が小さくなり、摺動部の浮上量が小さく、スクイーズ空気膜により非接触に安定した支持を行うことができないという問題点があった。
また、第3従来技術のV字平面案内式の案内機構装置に用いるスクイーズ空気軸受の構成では、図8に示すように、1個の振動子が対向する案内面に対して直角方向にしか振動させることができないので、振動子の発生エネルギーを十分に利用できず、摺動部の浮上量が小さい上、第1従来技術と同様にスクイーズ空気膜により非接触に安定した支持を行うことができないという問題点があった。
【0007】
本発明はこのような問題点を鑑みてなされたものであり、例えば弾性ヒンジを用いることにより、1個の振動子で複数の振動面を、案内面に対し垂直に振動させることにより、摺動部の浮上量が大きく、スクイーズ空気膜により非接触に安定した支持を行うことができると共に、小型かつ安価で、複雑な調整が不要な高精度のスクイーズ空気軸受およびそれを用いた位置決め案内装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題を解決するため、本発明は次のように構成したものである。
請求項1記載の発明は、スクイーズ空気軸受に係わるものであって、移動体を取り付けるための取付け部と、前記取付け部に対して、振動子によって振動方向に振動させる摺動部と、前記摺動部の振動面に微小な隙間を介して対向させた案内面と、を具備し、スクイーズ空気膜によって非接触に前記摺動部を支持させるスクイーズ空気軸受において、前記振動子が1個で構成されると共に、前記摺動部の振動面が少なくとも2つ設けられたものである。
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載のスクイーズ空気軸受において、前記摺動部の振動面は、前記振動子が配置される軸線方向に対して左右対称な位置にそれぞれ設けられたものである。
また、請求項3記載の発明は、請求項1または2に記載のスクイーズ空気軸受において、前記取付け部と前記摺動部の振動面の間もしくは前記振動子と前記摺動部の振動面の間に弾性ヒンジを設けると共に、前記1個の振動子で前記少なくとも2つ設けた振動面を振動させるものである。
また、請求項4記載の発明は、請求項3記載のスクイーズ空気軸受において、前記弾性ヒンジが円弧状の切欠を有するものである。
また、請求項5記載の発明は、請求項1または3記載のスクイーズ空気軸受において、前記振動子は、圧電素子または静電電極から構成されるものである。
また、請求項6記載の発明は、請求項3または4記載のスクイーズ空気軸受において、前記弾性ヒンジの数を前記摺動部の振動面の数よりも多くし、前記振動子による振動変位を拡大させるようにしたものである。
また、請求項7記載の発明は、位置決め案内装置に係わるものであって、請求項1〜6の何れか1項に記載のスクイーズ空気軸受で構成される案内機構を備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1〜3に記載のスクイーズ空気軸受によると、1個の振動子でふたつ以上の振動面を振動させることにより、振動子の特性バラツキはなくなり、振動子および振動面の位置バラツキについても機械加工精度により無視できるレベルにまで低減できる。
また、請求項1または5記載のスクイーズ空気軸受によると、振動子の取り付けや種類の制約がないので、長尺の振動子を採用することができ、振動の振幅量を高めることができ、浮上量を高めることができる。その際、振動面は案内面に垂直に振動するので、振動子の発生エネルギーを無駄なく利用できるので、浮上量を高めることができる。
さらに、請求項3、4、6記載のスクイーズ空気軸受によると、弾性ヒンジの構成を工夫することにより、振幅量を増幅することもでき、振動子の振幅量を変えることなく、浮上量を高めることができる。
また、請求項7の位置決め案内装置によると、大がかりな付帯設備が不要で、小型で複雑な調整が不要な高精度案内を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【実施例1】
【0011】
図1は、本発明の第1実施例を示すスクイーズ空気軸受の側断面図である。
図1において、1は振動子、2は摺動部、2aは振動面、3は案内面、4は振動面2aと案内面3の間の隙間、5は弾性ヒンジ、6は振動方向、7は取付け部である。
本発明の特徴は以下のとおりである。
すなわち、移動体を取り付けるための平板状の取付け部7と、該取付け部7に対して、圧電素子で構成される振動子1によって振動方向に振動させる傾斜した摺動部2と、該摺動部2の振動面2aに微小な隙間4を介して対向させた略V字形状の案内面3と、を具備し、スクイーズ空気膜によって非接触に該摺動部2を支持させるスクイーズ空気軸受において、振動子1が1個で構成されると共に、該摺動部2の振動面2aが2つ設けられた点、また、摺動部2の振動面2aは、振動子1が配置される軸線方向に対して左右対称な位置にそれぞれ設けられたものとなっている。
また、取付け部7と摺動部2の振動面2aの間もしくは振動子1と摺動部2の振動面2aの間に円弧状の切欠を有する弾性ヒンジ5を設けると共に、1個の振動子1で2つ設けた振動面2aを案内面3の方向に向かって垂直に振動させるようになっている。
【0012】
次に動作について説明する。
図1において、振動子1の振動周波数が高いと、摺動部2と案内面3の間の隙間4中の空気は粘性を有するので周辺の空気の出入りは拘束され、あたかも密閉した圧縮性流体に高周波の体積変化を起こさせたと同様になり、変位に対する圧力発生が非線形となり、平均的に正圧が得られ、非接触に支持される。
【0013】
したがって、本発明の第1実施例は、摺動部2と案内面3とで構成されるV平面案内式のスクイーズ空気軸受において、弾性ヒンジ5を用いることにより、1個の振動子1で2つの振動面2aを案内面3の方向に向かって垂直に直接振動させるようにしたので、摺動部2の浮上量を大きくでき、スクイーズ空気膜により非接触に安定した支持を、複雑な調整なしに行うことができる。
【実施例2】
【0014】
次に本発明の第2実施例を説明する。
図3は、本発明の第2実施例を示すスクイーズ空気軸受の正断面図である。
図3において、1は振動子、2は摺動部、2aは振動面、3は案内面、4は振動面2aと案内面3の間の隙間、5は弾性ヒンジ、6は振動方向、7は取付け部である。
第2実施例が第1実施例と異なる点は、弾性ヒンジ5の数を摺動部2の振動面2aの数よりも多くし、振動子による振動変位を拡大させるようにした点である。
【0015】
次に動作について説明する。
図3において、振動子1を振動させると、振動子1の振動は取付け部7を介して、取り付け部7と摺動部2の境界付近に設けた弾性ヒンジ5に伝わった後、その他複数設けた弾性ヒンジによって、取り付け部7と摺動部2の境界付近から振動面2aに向かって振動の変位が徐々に拡大される。その結果、摺動部2と案内面3の間の隙間4中の空気は粘性を有するので周辺の空気の出入りは拘束され、あたかも密閉した圧縮性流体に高周波の体積変化を起こさせたと同様になり、変位に対する圧力発生が非線形となり、平均的に正圧が得られ、非接触に支持される。
【0016】
したがって、本発明の第2実施例は、弾性ヒンジ5の数を摺動部2の振動面2aの数よりも多くすることにより、摺動部2の浮上量をよち大きくでき、スクイーズ空気膜により非接触に安定した支持を、複雑な調整なしに行うことができる。
【実施例3】
【0017】
次に本発明の第3実施例を説明する。
図4は、第1実施例および第2実施例にて説明したスクイーズ空気軸受を位置決め案内装置として用いた、本発明の第3実施例における位置決め案内装置の正断面図である。また、図5は、第3実施例の変形例を示す位置決め案内装置の正断面図である。
図4において、3は固定側部材を構成する案内面、91はV字空気軸受、8は可動側部材、92は平面空気軸受である。なお、動作の説明については省略する、
したがって、本発明の第3実施例は、スクイーズ空気軸受2個を、移動体を搭載する1個の可動部側部材と一体化して位置決め案内装置を構成することにより、大がかりな付帯設備が不要で、小型で複雑な調整が不要な高精度の案内機構装置が実現することができる。
なお、図4の構成例に替えて、図5に示すように、本発明のV字空気軸受91と従来技術による平面空気軸受92を組み合わせた構成にしても構わない。
【0018】
なお、以上の本発明の実施例の説明では、振動面2aを振動させる手段として圧電素子からなら振動子を用いたが、例えば静電電極などでも同様の効果が得られており、その種類や方式に限定されるものではない。
また、1個の振動子でふたつ以上の振動面を振動させるための機構として弾性ヒンジ5を用いた例を示したが、本発明では1個の振動子でふたつ以上の振動面を振動させることができれば良く、その種類や方式に限定されるものではない。
また、弾性ヒンジ5を有する摺動部の構成例を第1、第2実施例で示したが、摺動部を位置決め案内装置に取り付けた際に移動体の負荷容量が大きい場合、摺動部の形状によっては負荷を支持するための強度が不足することになり、そのような場合は、図2に示す第1実施例のスクイーズ空気軸受の変形例のごとく、弾性ヒンジの数を変えない範囲で、摺動部の形状を太くして強度を上げるようにしても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の空気軸受は、安価で浮上量も大きく浮上も安定しているので、例えば高精度なV平面案内機構が特別な調整なしに実現でき、非接触軸受を備えて平面アクチュエータ装置やリニアモータなどに代表される各種アクチュエータに好適な位置決め案内装置に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施例を示すスクイーズ空気軸受の正断面図
【図2】第1実施例の変形例を示すスクイーズ空気軸受の正断面図
【図3】本発明の第2実施例を示すスクイーズ空気軸受の正断面図
【図4】本発明の第3実施例を示す位置決め案内装置の正断面図
【図5】第3実施例の変形例を示す位置決め案内装置の正断面図
【図6】第1従来技術を示すスクイーズ空気軸受の正断面図
【図7】第2従来技術を示すV平面案内式の位置決め案内装置に適用されるスクイーズ空気軸受部の正断面図
【図8】第3従来技術を示すV平面案内式の位置決め案内装置に適用されるスクイーズ空気軸受部の正断面図
【符号の説明】
【0021】
1 振動子
2 摺動部
2a 振動面
3 案内面(固定側部材)
4 隙間
5 弾性ヒンジ
6 振動方向
7 空気軸受
8 取付け部(可動側部材)
91 V字空気軸受
92 平面空気軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体を取り付けるための取付け部と、
前記取付け部に対して、振動子によって振動方向に振動させる摺動部と、
前記摺動部の振動面に微小な隙間を介して対向させた案内面と、
を具備し、スクイーズ空気膜によって非接触に前記摺動部を支持させるスクイーズ空気軸受において、
前記振動子が1個で構成されると共に、前記摺動部の振動面が少なくとも2つ設けられたことを特徴とするスクイーズ空気軸受。
【請求項2】
前記摺動部の振動面は、前記振動子が配置される軸線方向に対して左右対称な位置にそれぞれ設けられたことを特徴とする請求項1記載のスクイーズ空気軸受。
【請求項3】
前記取付け部と前記摺動部の振動面の間もしくは前記振動子と前記摺動部の振動面の間に弾性ヒンジを設けると共に、前記1個の振動子で前記少なくとも2つ設けた振動面を振動させることを特徴とする請求項1または2に記載のスクイーズ空気軸受。
【請求項4】
前記弾性ヒンジが円弧状の切欠を有することを特徴とする請求項3記載のスクイーズ空気軸受。
【請求項5】
前記振動子は、圧電素子または静電電極からなることを特徴とする請求項1または3記載のスクイーズ空気軸受。
【請求項6】
前記弾性ヒンジの数を前記摺動部の振動面の数よりも多くし、前記振動子による振動変位を拡大させるようにしたことを特徴とする請求項3または4記載のスクイーズ空気軸受。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の空気軸受で構成される案内機構を備えたことを特徴とする位置決め案内装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−144918(P2008−144918A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−335012(P2006−335012)
【出願日】平成18年12月12日(2006.12.12)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】