説明

スクライブ装置

【課題】 ガラス板に成型された凸状立体ガラスの周壁面に、分断用のスクライブラインを周回するように形成することが可能なスクライブ装置を提供する
【解決手段】 凸状立体ガラス27が形成されたガラス板Wを保持するテーブル1と、前記凸状立体ガラス27の周壁面26にスクライブラインSを形成するためのカッターホイール4と、前記周壁面26と同じ形状の周壁面10を有する倣い治具11と、倣い治具11の周壁面10に弾力的に接触する倣いローラ14とを備え、前記倣いローラ14は、倣い治具11の周壁面10に沿って周回するように形成され、カッターホイール4を
倣いローラ14の動きと連動して凸状立体ガラス27の周壁面26に周回させて、凸状立体ガラス27の周壁面26を周回するスクライブラインSを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板から凸状に成型加工された立体ガラスの周壁面(側壁面)に、分断用のスクライブライン(スクライブ溝)を周回するように形成するためのスクライブ装置に関する。
本発明のスクライブ装置によってスクライブラインが形成された後、このスクライブラインに沿って分断された凸状立体ガラスの製品は、上面と周壁とを備えることになる。このような凸状立体ガラスは、例えば当該凸状立体ガラスの内側凹部に他物品を嵌め込むようにすることで、他物品の表面およびその端縁を被覆する外装カバーとして用いたり、時計の文字盤等を覆うような立体形状のカバーガラスとして用いたりすることができる。
【背景技術】
【0002】
従来から、物品の表面を装飾したり、保護したりするために、薄いガラス板を外装カバーとして貼り付けることがなされている。しかしながら図8に示すように、物品20の表面に貼り付けられたガラス板21の端面は外部に露出して不体裁であったり、貼り合わせた隙間に液体が入り込んだりするので、額縁材22などでガラス板21の端面を覆うことが必要となり、その細工が面倒であった。そこで、図5に示すような、平面方形状の平らな平面部(頂面)23と、これに連なる周壁24を有する逆平皿状のガラス製(凸状立体ガラス製)外装カバーを作成することが考えられる。
【0003】
ガラス板から上記の逆平皿状の外装カバーを製作する場合、図6に示すように、平らな頂面25と、これに連なる周壁面26とからなる平面方形状の凸部(凸状立体ガラス27)を有するガラス板Wに成型し、この凸状立体ガラス27の周壁面26の中間から上方部分を切り離して作成するのが好ましい。
【0004】
平らなガラス板Wに凸状立体ガラス27を成型するには、例えば特許文献1や特許文献2で開示されているような方法で行うことができる。図9は、これらの文献を含む従来の成型方法を概略的に示す図である。加熱炉28内で成型用凹部(チャンバ)29を有する成型型30を配置し、成型用凹部29の開口部を覆うようにガラス板Wを配置し、成型用凹部29内の空間を真空ポンプ31によりダクト32、吸引孔33を介して吸引して負圧にすることにより、加熱炉で加熱軟化したガラス板Wを成型用凹部29の面に沿って成型するようにしている。
【0005】
このような製造方法で形成された凸状立体ガラス27は、続いて凸状立体ガラス27の周壁面26の中間から上方部分を切り離す加工が必要になる。
【0006】
一般的な平板ガラスの分断方法としては、平板ガラスを水平な平面テーブル上に載置してカッターホイールを押しつけながら転動することによりスクライブラインを形成し、その後、スクライブラインからガラス板を分断する方法(例えば特許文献3)や、垂直なテーブル上にガラス板を保持させ、この垂直に立てたガラス板にカッターホイールでスクライブ溝を形成する方法(例えば特許文献4)などがある。しかしながら、凸状立体ガラス27のような立体形状の周壁に沿ってスクライブラインを形成する方法は、これまであまり検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平04−275930号公報
【特許文献2】特開2007−131475号公報
【特許文献3】特開平09−202635号公報
【特許文献4】特開2001−302264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
平板ガラスと異なり、凸状立体ガラスの周壁面に対してカッターホイールによるスクライブラインを形成する場合に、これまで平板ガラスに採用されていたスクライブ方法をそのまま使用することは困難である。
すなわち、カッターホイールによる平板ガラスの一般的な分断方法では、加工されるガラス板は、カッターホイールを押しつける反対側の面でテーブルに受け止められているので、スクライブ時におけるカッターホイールの押圧力を、適切な圧力(押圧力が小さすぎるとスクライブラインが形成されず、強すぎると不規則に破断する)に制御することが容易に行える。
しかし、凸状立体ガラスの周壁を直接カッターホイールでスクライブする場合は、周壁が立体であり、しかもカッターホイールを押しつける反対側の面が空間であるので、カッターホイールの押しつけ力の制御が大変難しく、適切なスクライブラインを形成することが困難である。
特に、方形の周壁面の全周に対し周回するようにカッターホイールでスクライブする場合には、コーナー部分でカッターホイールと周壁との位置関係が急激に変化するので簡単に加工することができなかった。
【0009】
そこで本発明は、上記課題を解決し、ガラス板に成型された凸状立体ガラスの周壁面に、分断用のスクライブラインを周回するように形成することが可能なスクライブ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためになされた本発明のスクライブ装置は、ガラス板から成型加工された上面および周壁面とを有する凸状立体ガラスの周壁面に、分断用のスクライブラインを周回するように形成するためのスクライブ装置であって、前記凸状立体ガラスが形成されたガラス板を水平姿勢で保持するテーブルと、前記凸状立体ガラスの周壁面の外面にスクライブラインを形成するための押圧力で接触するカッターホイールと、前記凸状立体ガラスの周壁面と同じ形状の周壁面を有する倣い治具と、当該倣い治具の周壁面に弾力的に接触する倣いローラとを備え、前記倣いローラは、前記倣い治具の周壁面に沿って周回方向に移動するように形成され、前記カッターホイールは、前記倣いローラの動きと連動して前記凸状立体ガラスの周壁面の外面に沿って周回方向に移動するように形成されている構成とした。
【発明の効果】
【0011】
本発明のスクライブ装置は上記のごとく構成されているので、倣いローラを倣い治具の周壁面に沿って周回移動させることにより、倣いローラの動きに連動してカッターホイールとガラス板の周壁面との間で設定したほぼ一定の押しつけ力で押しつけながらガラス板の周壁面に沿って周回移動するようになり、これにより、ガラス板の凸部周壁面を一周するスクライブラインを適切な押圧力で確実にスクライブラインを形成することができる。凸状立体ガラスが方形であってコーナー部分が形成される場合でも、コーナーを倣いローラで検出し、この動きに連動して移動させるので、凸状立体ガラスのコーナーでの急激な変化にも追随することができる。
【0012】
本発明において、前記倣いローラとカッターホイールは共通の取付具に保持されて周回移動するように形成するのがよい。
これにより、倣いローラの動きに倣ってカッターホイールを正確に移動させることができるとともに、組み付け構成を簡略化することができる。
また、本発明において、前記倣い治具の周壁からの距離が一定になるように周回する環状レールが設けられ、前記倣いローラは前記環状レールにより案内されて周回するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るスクライブ装置の特徴部分を示す斜視図。
【図2】図1のスクライブ装置の一部を断面で示した正面図。
【図3】図1のスクライブ装置の倣いローラと倣い治具との動きを説明する図。
【図4】倣い治具のコーナー部を直角にした場合の図3同様の説明図。
【図5】本発明のスクライブ装置によって得られる外装カバーの断面図。
【図6】凸部が成型された凸状立体ガラスを含むガラス板を示す斜視図。
【図7】本発明の他の実施例を示す正面図。
【図8】物品への一般的な外装カバーの貼り付け形態を示す断面図。
【図9】ガラス板から凸状立体ガラスを成型するための加工装置を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るスクライブ装置の詳細を、その実施の形態を示す図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明の一実施形態であるスクライブ装置の特徴部分を示す斜視図であり、図2は当該スクライブ装置の一部を断面で示した正面図であり、図3並びに図4はスクライブ装置における倣いローラと倣い治具との動きを説明するための図である。
【0015】
このスクライブ装置Aは、平らな頂面25(上面)と、これに連なる周壁面26とからなる凸状立体ガラス27(図6参照)が形成されたガラス板Wを水平に保持するための水平なテーブル1を備えている。テーブル1は、支柱2により装置の機枠8に取り付けられ、このテーブル1の表面には、ガラス板Wを定位置に保持するための保持手段、例えば吸着のための多数の小さなエアー吸引孔(図示外)が設けられている。
【0016】
前記ガラス板Wの(凸状立体ガラス27における)周壁面26の外面に周方向に沿ってスクライブラインを形成するためのカッターホイール4が設けられている。このカッターホイール4はカッターヘッド4aに保持され、カッターヘッド4aの内部に設けられた押圧機構(バネ機構)によりスクライブラインを形成することが可能な一定の押圧力で周壁面26に接触するように形成されている(後述する環状レール9と周壁面26との距離をほぼ一定にすることによる)。さらに、カッターヘッド4aは取付具5に取り付けられ、周回移動機構Bにより、カッターホイール4が凸状立体ガラス27の周壁面26に接触した状態で周回できるように形成されている。
【0017】
また、凸状立体ガラス27の周壁面26と同じ形状の周壁面10を備えた倣い治具11がテーブル1の直上に配置されて、支柱12により装置の機枠8の天板下面8aに吊り下げられている。
【0018】
さらに、倣い治具11の周壁面10に弾力的に接触してこの周壁面に沿って周回方向に移動する倣いローラ14が設けられている。この倣いローラ14はローラヘッド14aに保持され、前記カッターホイール4と共通の取付具5に取り付けられ、周回移動機構Bにより倣い治具11の周壁面10に沿って周回方向に移動できるように形成されている。
【0019】
倣いローラ14並びにカッターホイール4は、取付具5に対して取付位置が変更できるようにして、それぞれ適切な位置に調整できるように形成されている。
【0020】
周回移動機構Bは、種々の機構が考えられるが、本実施例では図2並びに図3に示すような構成とした。
すなわち、機枠8の天板下面8aに環状のレール9が設けられ、環状レール9に走行体7が装着されている。この走行体7に支持部材6を介して取付具5が連結されている。取付具5は、支持部材6に対して水平なガイド部6aを介して水平方向にスライド可能に連結され、スプリング15により倣い治具11の周壁面10の方向に付勢されており、これにより、倣いローラ14が倣い治具の周壁面10に弾力的に接触するようにしている。
また、走行体7は、図示は省略するが、モータとモータによって駆動される駆動輪を備え、一定の速度でレール9に沿って自走できるように構成されている。
【0021】
環状レール9は、図3に示すように、その軌跡が倣い治具11の周壁面10の輪郭より大きな周回軌道を描いて形成されている。軌道は、周回軌道上の各点での周壁面10までの最短距離がほぼ一定になるような軌道にしてある。また、走行体7が倣い治具11の周壁面10に対して平行姿勢で走行することができるように、走行体7の前後に走行輪体またはボール(ボールベアリングであってもよい)7aが設けられている。また、走行時において、倣いローラ14並びにカッターホイール4が、倣い治具の周壁面10並びに凸状立体ガラス27の周壁面26に対して常時接触する方向に向くように、走行体7に対して支持アーム並びに取付具5が連結されている。
【0022】
環状レール9のコーナー部9aで走行体7が容易に方向を変更することができるように、環状レール9のコーナー部9aが円弧状に形成されている。コーナー部9aの円弧は、倣い治具11のコーナー部11aの円弧面と同心円の大径で形成されている。これにより、図3(b)に示すように、走行体7が環状レール9のコーナー部9aをカーブするときに、倣いローラ14が倣い治具11のコーナー部11aに向いた接触姿勢を保持して走行できるように形成されている。
なお、図4に示すように、倣い治具11のコーナー部11aが直角の場合は、コーナー角を中心とする半径Rの円弧で環状レール9のコーナー部9aを形成すればよい。
【0023】
つぎに、上記スクライブ装置Aの動作について説明する。
まず、テーブル1上に凸状立体ガラス27を含んだガラス板Wを、倣い治具11に位置合わせして載置した後、倣いローラ14が倣い治具11の周壁面10に接触する位置、並びにカッターホイール4がガラス板の凸状立体ガラス27の周壁面26に接触する位置に取付具5により調整する。この後、走行体7を走行させて倣いローラ14並びにカッターホイール4を移動させる。
【0024】
図3は、走行ローラ7の走行による倣い治具11との動きを示す平面的な説明図である。環状のレール9に沿って走行ローラ7を矢印方向(逆方向であってもよい)に走行させると、倣いローラ14は図3中の(a)の起動位置から、図3中の(b)並びに(c)の位置を経過して倣い治具11の周壁面10を周回し、再び(a)の起動位置に戻る。
【0025】
一方、カッターホイール4は、倣いローラ14と連動して倣いローラ14と同じ動作を行う。すなわち、カッターホイール4は倣いローラ14と共通の取付具5により支持されているので、図3で示す倣いローラ14をカッターホイール4とし、倣い治具11をガラス板の凸状立体ガラス27に置き換えて上記と同様の動きが行われる。カッターホイール4は、環状レール9の軌道によりほぼ一定の押圧力で凸状立体ガラス27の周壁面26に接触するようにして取付具5に取り付けられているので、凸状立体ガラス27の周壁面26を一周するスクライブラインS(図1参照)を適切な押圧力で加工することができる。
【0026】
この後、ガラス板Wをブレイク装置に搬送してスクライブラインSから凸部上方を切り離し、図5で示したような、平面方形状の平らな平面部(頂面)23と、これに連なる周壁24を有する逆平皿状の外装カバーを得ることができる。
【0027】
本発明では、倣い治具11を必ずしも上記実施例のようにテーブル1の直上に配置する必要はない。例えば、図7に示すように、倣い治具11をテーブル1の直上から側方に位置をずらして配置し、倣い治具11の周壁面10に接触する倣いローラ14と、ガラス板の凸部周壁面26に接触するカッターホイール4を、屈曲させた共通の取付具5で保持させることにより、上記と同様な倣い作業を行うことができる。
【0028】
また、本実施例では1つの倣い治具11に対して、1つの凸状立体ガラス27の加工を行うようにしたが、1つの倣い治具11に対して凸状立体ガラス27を載置するテーブル1を図7のように位置をずらして複数配置し、各テーブル1に載置した凸状立体ガラス27の周壁面26をスクライブする複数のカッターホイール4を倣いローラ14と共通の取付具5で保持するようにすれば、複数の凸状立体ガラス27を同時に加工することもできる。したがって、1つのマザー基板上に複数の凸状立体ガラス27を形成した場合に、先に図6で示したような形状になるように切り出せば、1回の倣い加工で、複数の凸状立体ガラス27を同時に加工することができる。
【0029】
以上本発明の代表的な実施例について説明したが、本発明は必ずしも上記の実施形態に特定されるものでなく、その目的を達成し、請求の範囲を逸脱しない範囲内で適宜修正、変更することが可能である。
例えば、上記実施例では頂面23(図5参照)を方形の平面形状としたが、円形や楕円形であってもよく、また三次元的な曲面であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のスクライブ装置は、平らなガラス板に成型された立方体状凸部の周壁面に、分断用のスクライブラインを一周して形成するために利用することができる。
【符号の説明】
【0031】
A スクライブ装置
B 周回移動機構
W ガラス板
1 テーブル
2 テーブルの支柱
4 カッターホイール
5 取付具
6 支持部材
7 走行体
9 環状レール
10 倣い治具の周壁面
11 倣い治具
12 倣い治具の支柱
25 頂面
26 周壁面(側壁面)
27 凸状立体ガラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板から成型加工された上面および周壁面とを有する凸状立体ガラスの周壁面に、分断用のスクライブラインを周回するように形成するためのスクライブ装置であって、
前記凸状立体ガラスが形成されたガラス板を水平姿勢で保持するテーブルと、
前記凸状立体ガラスの周壁面の外面にスクライブラインを形成するための押圧力で接触するカッターホイールと、
前記凸状立方体ガラスの周壁面と同じ形状の周壁面を有する倣い治具と、
当該倣い治具の周壁面に弾力的に接触する倣いローラとを備え、
前記倣いローラは、前記倣い治具の周壁面に沿って周回方向に移動するように形成され、
前記カッターホイールは、前記倣いローラの動きと連動して前記凸状立体ガラスの周壁面の外面に沿って周回方向に移動するように形成されていることを特徴とするスクライブ装置。
【請求項2】
前記倣いローラとカッターホイールは共通の取付具に保持されて周回移動するように形成されている請求項1に記載のスクライブ装置。
【請求項3】
前記倣い治具の周壁からの距離が一定になるように周回する環状レールが設けられ、前記倣いローラは前記環状レールにより案内されて周回する請求項1または請求項2に記載のスクライブ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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