説明

スクラバー式脱臭装置

【課題】簡易な構成でかつ、安全なスクラバー式脱臭装置を提供する。
【解決手段】スクラバー式脱臭装置(6)は、貯水部(62)内の水中でストリーマ放電を生起する電極対と、電極対に直流電圧を印加する直流電源とを有し、電極対の間におけるストリーマ放電によって貯水槽(62)内の水中で過酸化水素を発生させて、過酸化水素を含む処理水を生成する水中放電装置(7)を備える。そして、水中放電装置(7)により生成した処理水を散水ノズル(61)から処理室(5)に散布して排気ガスを脱臭する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式スクラバーで臭気成分を脱臭する脱臭装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、湿式スクラバーで臭気成分を脱臭するスクラバー式脱臭装置が知られている。例えば、特許文献1には、食塩水を電気分解して電解水を生成し、スクラバーで電解水と臭気成分とを接触させることにより、臭気成分を脱臭することができるスクラバー式脱臭装置が開示されている。この脱臭装置では、電解水を生成する際に、人体に有害な塩素ガスが発生し、その塩素ガスが電解水中に残留してしまう。そこで、残留塩素ガス濃度を低減するために、電気分解電流量を調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−42353号公報(段落0030,0033,0043欄、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1に開示された脱臭装置では、電気分解電流量を適切に調整するために、ガス濃度センサーや演算制御部を備えた大掛かりな装置となっている。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、簡易な構成でかつ、安全なスクラバー式脱臭装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、処理水が貯留される貯水槽(9,62)と、該貯水槽(9,62)から供給された処理水を排気ガスが通過する排気経路(5)に散布する散水ノズル(61)とを備え、該散水ノズル(61)から散布された処理水によって排気ガスを脱臭するスクラバー式脱臭装置を対象とし、前記貯水槽(9,62)内の水中でストリーマ放電を生起する電極対(71,72)と、該電極対(71,72)に直流電圧を印加する直流電源(73)とを有し、前記電極対(71,72)の間におけるストリーマ放電によって前記貯水槽(9,62)内の水中で過酸化水素を発生させて、過酸化水素を含む処理水を生成する水中放電装置(7)を備え、前記水中放電装置(7)により生成した処理水を前記散水ノズル(61)から前記排気経路(5)に散布して排気ガスを脱臭することを特徴とする。
【0007】
第1の発明では、散水ノズル(61)から散布された処理水が、排気経路(5)中の排気ガスと接触する。ここで、処理水に含まれている過酸化水素は、酸化力を有しているため、排気ガスを脱臭することができる。また、過酸化水素は、水と酸素ガスに分解されるだけであるので安全である。そのため、従来のスクラバー式脱臭装置のように、ガス濃度センサーや演算制御部を備える必要がなく、簡易な構成のスクラバー式脱臭装置を実現することができる。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、前記貯水槽(9,62)は、前記散水ノズル(61)から散布された処理水を貯留する貯留部(62)であり、前記貯留部(62)の処理水を散水ノズル(61)へ移送する循環ポンプ(63)を備えていることを特徴とする。
【0009】
第2の発明では、散水ノズル(61)から散布された処理水が、排気経路(5)中の排気ガスと接触した後、貯留部(62)に貯留され、貯留部(62)の処理水は、循環ポンプ(63)により汲み上げられて、再び散水ノズル(61)から散布される。従って、第2の発明によれば、いわゆる循環散布型のスクラバー式脱臭装置を実現することができる。こうした循環散布型のスクラバー式脱臭装置は、水を再利用することができるので、節水効果がある。
【0010】
第3の発明は、第1又は2の発明において、前記排気経路(5)を通過する排気ガスは、厨房空間(C)からの排気ガスであることを特徴とする。
【0011】
厨房空間(C)からの排気ガスには、一般的に、オイルミストや臭気成分(例えばアンモニアなど)が含まれる。散水ノズル(61)から散布された処理水と厨房空間(C)からの排気ガスとが接触すると、オイルミスト及び臭気成分は、処理水により捕捉される。そして、臭気成分は、処理水に含まれている過酸化水素により脱臭される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、処理水に含まれている過酸化水素により、排気経路(5)中の排気ガスを脱臭することができる。過酸化水素は、水と酸素ガスに分解されるだけであるので安全である。そのため、従来のスクラバー式脱臭装置のように、ガス濃度センサーや演算制御部を備える必要がなく、簡易な構成のスクラバー式脱臭装置を実現することができる。
【0013】
また、本発明では、直流電源(73)を用いてストリーマ放電を行っているので、例えばパルス電源と比較して、電源部の簡素化、低コスト化、小型化を図ることができる。また、パルス電源を用いると、放電に伴って水中で発生する衝撃波や騒音が大きくなってしまう。これに対し、直流電源(73)を用いると、このような衝撃波や騒音も低減できる。
【0014】
また、上記第2の発明によれば、節水効果のある循環散布型のスクラバー式脱臭装置を実現することができる。
【0015】
さらに、上記第3の発明によれば、厨房空間(C)からの排気ガス中に含まれるオイルミストや臭気成分を散水ノズル(61)から散布された処理水により捕捉し、臭気成分を処理水に含まれている過酸化水素により脱臭することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、実施形態1に係る排気システムの全体構成図である。
【図2】図2は、実施形態1に係る水中放電装置の全体構成図であり、過酸化水素生成動作を開始する前の状態を示すものである。
【図3】図3は、実施形態1に係る絶縁ケーシングを示す斜視図である。
【図4】図4は、実施形態1に係る水中放電装置の全体構成図であり、過酸化水素生成動作を開始して気泡が形成された状態を示すものである。
【図5】図5は、実施形態1の変形例に係る水中放電装置の全体構成図である。
【図6】図6は、実施形態1の変形例に係る絶縁ケーシングを示す斜視図である。
【図7】図7は、実施形態2に係る水中放電装置の全体構成図であり、過酸化水素生成動作を開始する前の状態を示すものである。
【図8】図8は、実施形態2に係る水中放電装置の全体構成図であり、過酸化水素発生動作を開始して気泡が形成された状態を示すものである。
【図9】図9は、実施形態2の変形例に係る絶縁ケーシングの蓋部の平面図である。
【図10】図10は、その他の実施形態に係る排気システムの全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
《発明の実施形態1》
図1は、本発明に係るスクラバー式脱臭装置を適用した排気システム(1)を示している。排気システム(1)は、例えばレストランやホテルなどの厨房空間(C)からの排気ガスを室外へ排気するシステムである。厨房空間(C)からの排気ガスには、オイルミストや臭気成分(例えばアンモニアなど)が含まれている。
【0018】
<排気システムの全体構成>
排気システム(1)は、フード(2)、ダクト(3)、排気ファン(4)及び処理室(5)を備えている。
【0019】
フード(2)は、厨房空間(C)の天井面近傍に配置されている。このフード(2)は、下面側が厨房空間(C)に開口していて、その開口部が調理器の上側に位置している。
【0020】
フード(2)の内部には、グリスフィルタ(21)及びオイルパン(22)が配設されている。グリスフィルタ(21)は、フード(2)を通過する排気ガス中の比較的大きなオイルミストを除去するためのものであり、オイルパン(22)は、グリスフィルタ(21)に捕捉された油分が厨房空間(C)に滴下することを防止するためのものである。
【0021】
ダクト(3)の上流端は、フード(2)と接続されている一方、ダクト(3)の下流端は、処理室(5)の流入口(51)と接続されている。そして、ダクト(3)の内部には、排気ファン(4)が内蔵されている。この排気ファン(4)は、厨房空間(C)から排気ガスをダクト(3)内に吸い込むためのものである。
【0022】
処理室(5)は、中空の箱形に形成されていて、その内部を排気ガスが通過する。即ち、ダクト(3)及び処理室(5)が排気経路を構成する。
【0023】
処理室(5)には、スクラバー式脱臭装置(6)が配設されている。このスクラバー式脱臭装置(6)は、処理室(5)を通過する排気ガス中からオイルミストや臭気成分を捕捉すると共に、臭気成分を脱臭する装置である。
【0024】
スクラバー式脱臭装置(6)は、いわゆる循環散布型のスクラバー式脱臭装置であり、散水ノズル(61)、貯留部(62)、及び循環ポンプ(63)を備えている。
【0025】
散水ノズル(61)は、処理室(5)内(つまり、排気経路)に後述する貯留部(62)で生成された過酸化水素を含む処理水を散布するものである。
【0026】
貯留部(62)は、処理室(5)の下面に形成された凹所によって形成され、上記散水ノズル(61)と上下方向に対向するように配設されている。これにより、散水ノズル(61)から散布された処理水を貯留する。この貯留部(62)が貯水槽を構成している。
【0027】
貯留部(62)の底部には、水中放電装置(7)が設けられている。この水中放電装置(7)は、詳しくは後述するが、貯留部(62)内の水中でのストリーマ放電により脱臭力のある過酸化水素を発生させ、過酸化水素を含む処理水を生成する装置である。
【0028】
循環ポンプ(63)は、貯留部(62)の処理水を散水ノズル(61)に移送するものである。この循環ポンプ(63)は、配管(64)に介設され、該配管(64)の一端は、貯留部(62)の底部に接続されている一方、他端は、散水ノズル(61)に接続されている。
〈水中放電装置の詳細構造〉
水中放電装置(7)は、図2,3に示すように、放電電極(71)及び対向電極(72)とからなる電極対(71,72)と、この電極対(71,72)に電圧を印加する電源部(73)と、放電電極(71)を内部に収容する絶縁ケーシング(74)とを備えている。
【0029】
電極対(71,72)は、水中でストリーマ放電を生起するためのものである。放電電極(71)は、絶縁ケーシング(74)の内部に配置されている。放電電極(71)は、上下に扁平な板状に形成されている。放電電極(71)は、電源部(73)の正極側に接続されている。
【0030】
放電電極(71)は、例えばステンレス、銅等の導電性の金属材料で構成されている。
【0031】
対向電極(72)は、絶縁ケーシング(74)の外部に配置されている。対向電極(72)は、放電電極(71)の上方に設けられている。対向電極(72)は、上下に扁平な板状であって、且つ上下に複数の貫通孔(75)を有するメッシュ形状ないしパンチングメタル形状に構成されている。対向電極(72)は、放電電極(71)と略平行に配設されている。対向電極(72)は、電源部(73)の負極側に接続されている。対向電極(72)は、例えばステンレス、真鍮等の導電性の金属材料で構成されている。
【0032】
電源部(73)は、電極対(71,72)に所定の直流電圧を印加する直流電源で構成されている。即ち、電源部(73)は、電極対(71,72)に対して瞬時的に高電圧を繰り返し印加するようなパルス電源ではなく、電極対(71,72)に対して常に数キロボルトの直流電圧を印加する。電源部(73)のうち、対向電極(72)が接続される負極側は、アースと接続されている。また、電源部(73)には、電極対(71,72)の放電電力を一定に制御する定電力制御部が設けられている(図示省略)。
【0033】
絶縁ケーシング(74)は、貯留部(62)の底部に設置されている。絶縁ケーシング(74)は、例えばセラミックス等の絶縁材料で構成されている。絶縁ケーシング(74)は、一面(上面)が開放された容器状のケース本体(76)と、該ケース本体(76)の上方の開放部を閉塞する板状の蓋部(77)とを有している。
【0034】
ケース本体(76)は、角型筒状の側壁部(76a)と、該側壁部(76a)の底面を閉塞する底部(76b)とを有している。放電電極(71)は、底部(76b)の上側に敷設されている。絶縁ケーシング(74)では、蓋部(77)と底部(76b)との間の上下方向の距離が、放電電極(71)の厚さよりも長くなっている。つまり、放電電極(71)と蓋部(77)との間には、所定の間隔が確保されている。これにより、絶縁ケーシング(74)の内部では、放電電極(71)とケース本体(76)と蓋部(77)との間に空間(S)が形成される。
【0035】
図2及び図3に示すように、絶縁ケーシング(74)の蓋部(77)には、該蓋部(77)を厚さ方向に貫通する1つの開口(78)が形成されている。この開口(78)により、放電電極(71)と対向電極(72)との間の電界の形成が許容されている。蓋部(77)の開口(78)の内径は、0.02mm以上0.5mm以下であることが好ましい。以上のような開口(78)は、電極対(71,72)の間の電流経路の電流密度を上昇させる電流密度集中部を構成する。
【0036】
以上のように、絶縁ケーシング(74)は、電極対(71,72)のうちの一方の電極(放電電極(71))のみを内部に収容し、且つ電流密度集中部としての開口(78)を有する絶縁部材を構成している。
【0037】
加えて、絶縁ケーシング(74)の開口(78)内では、電流経路の電流密度が上昇することで、水がジュール熱によって気化して気泡(B)が形成される(図4参照)。つまり、絶縁ケーシング(74)の開口(78)は、該開口(78)に気相部としての気泡(B)を形成する気相形成部として機能する。
【0038】
−水中放電装置の運転動作−
次に、水中放電装置(7)の運転動作について説明する。本実施形態の排気システム(1)では、水中放電装置(7)が運転されることで、処理室(5)内を通過する排気ガスを脱臭するための処理水が生成される。
【0039】
水中放電装置(7)の運転の開始時には、図2に示すように、絶縁ケーシング(74)の内の空間(S)が浸水した状態となっている。電源部(73)から電極対(71,72)に所定の直流電圧(例えば1kV)が印加されると、電極対(71,72)の間に電界が形成される。放電電極(71)の周囲は、絶縁ケーシング(74)で覆われている。このため、電極対(71,72)の間での漏れ電流が抑制されるとともに、開口(78)内の電流経路の電流密度が上昇した状態となる。
【0040】
開口(78)内の電流密度が上昇すると、開口(78)内のジュール熱が大きくなる。その結果、絶縁ケーシング(74)では、開口(78)の近傍において、水の気化が促進されて気泡(B)が形成される。この気泡(B)は、図4に示すように、開口(78)のほぼ全域を覆う状態となり、対向電極(72)に導通する負極側の水と、正極側の放電電極(71)との間に気泡(B)が介在する。従って、この状態では、気泡(B)が、放電電極(71)と対向電極(72)との間での水を介した導電を阻止する抵抗として機能する。これにより、放電電極(71)と対向電極(72)との間の漏れ電流が抑制され、電極対(71,72)間では、所望とする電位差が保たれることになる。すると、気泡(B)内では、絶縁破壊に伴いストリーマ放電が発生する。
【0041】
以上のようにして、気泡(B)でストリーマ放電が行われると、貯留部(62)内の水中では、水酸ラジカル等の活性種や過酸化水素等が発生する。これにより、貯留部(62)内で活性種や過酸化水素を含む処理水が生成される。尚、水酸ラジカル等の活性種や過酸化水素は、ストリーマ放電に伴う熱によって貯留部(62)内を対流する。これにより、水中での活性種や過酸化水素の拡散が促される。また、気泡(B)でストリーマ放電が行われると、このストリーマ放電に伴ってこの気泡(B)でイオン風を生成し易くなる。よって、貯留部(62)内では、このイオン風を利用して、活性種や過酸化水素の拡散効果を更に向上することができる。
【0042】
−排気システムの運転動作−
次に、本実施形態1に係る排気システム(1)の運転動作を図1を参照しながら説明する。
【0043】
排気ファン(4)が作動すると、排気システム(1)が運転状態になる。排気システム(1)が運転状態になると、厨房空間(C)の排気ガスがフード(2)に捕集される。こうしてフード(2)に捕集された排気ガスは、フード(2)内のグリスフィルタ(21)を通過する。グリスフィルタ(21)を通過した排気ガスは、ダクト(3)及び流入口(51)を通過して処理室(5)内に導入される。ここで、処理室(5)内では、散水ノズル(61)から貯留部(62)で水中放電装置(7)により生成された過酸化水素などを含む処理水が散布されている。そのため、処理室(5)内に導入された排気ガスは、散水ノズル(61)から散布された処理水と気液接触し、排気ガス中のオイルミストや臭気成分が処理水に捕捉される。ここで、処理水には、過酸化水素が含まれているため、この過酸化水素の酸化力により臭気成分が脱臭される。また、処理水には、活性種も含まれているため、これによっても臭気成分が脱臭される。そうして、オイルミストや臭気成分が除去された排気ガスが室外に放出される。
【0044】
−実施形態1の効果−
実施形態1では、貯留部(62)の水中において、水中放電装置(7)によりストリーマ放電を行い過酸化水素を発生させ、過酸化水素を含む処理水を生成し、この処理水を散水ノズル(61)から処理室(5)内を通過する排気ガスに散布して気液接触させている。過酸化水素は、酸化力を有しているため、排気ガスの臭気成分を脱臭することができる。また、過酸化水素は、水と酸素ガスに分解されるだけであるので安全である。そのため、従来のスクラバー式脱臭装置のように、ガス濃度センサーや演算制御部を備える必要がなく、簡易な構成のスクラバー式脱臭装置を実現することができる。
【0045】
実施形態1では、散水ノズル(61)から散布された処理水が、排気経路(5)中の排気ガスと接触した後、貯留部(62)に貯留され、その貯留部(62)の処理水が循環ポンプ(63)により汲み上げられて、再び散水ノズル(61)から散布されるいわゆる循環散布型のスクラバー式脱臭装置となっている。そのため、水を再利用することができ、節水効果がある。また、散水ノズル(61)から散布された処理水が排気ガスと接触した後、貯留部(62)に再び貯留されるため、処理水によって捕捉された臭気成分が貯留部(62)で新たに生成された過酸化水素によっても脱臭される。さらに、過酸化水素は、殺菌力も有するため、貯留部(62)及び配管(64)で微生物が増殖して、貯留部(62)及び配管(64)にいわゆるスライムが形成されるのを防止することができる。
〈実施形態1の変形例〉
上記実施形態1では、絶縁ケーシング(74)の蓋部(77)に1つの開口(78)が形成されている。しかしながら、例えば図5及び図6に示すように、絶縁ケーシング(74)の蓋部(77)に複数の開口(78)を形成してもよい。この変形例では、絶縁ケーシング(74)の蓋部(77)が、略正方形板状に形成され、この蓋部(77)に複数の開口(78)が等間隔を置きながら碁盤目状に配列されている。一方、放電電極(71)及び対向電極(72)は、全ての開口(78)に跨るような正方形板状に形成されている。
【0046】
この変形例においても、各開口(78)が、電流密度集中部、及び気相形成部として機能する。これにより、電源部(73)から電極対(71,72)に直流電圧が印加されると、各開口(78)の電流密度が上昇し、各開口(78)で気泡(B)が形成される。その結果、各気泡(B)でそれぞれストリーマ放電が生起され、水酸ラジカル等の活性種や、過酸化水素が生成される。
《発明の実施形態2》
実施形態2に係る排気システム(1)は、上述した実施形態1と水中放電装置(7)の構成が異なるものである。以下には、上記実施形態1と異なる点を主として説明する。
【0047】
図7に示すように、実施形態2の水中放電装置(7)は、貯留部(62)の外側から内部に向かって挿入されて固定される、いわゆるフランジユニット式に構成されている。また、実施形態2の水中放電装置(7)は、放電電極(71)と対向電極(72)と絶縁ケーシング(74)とが一体的に組立てられている。
【0048】
実施形態2の絶縁ケーシング(74)は、大略の外形が円筒状に形成されている。絶縁ケーシング(74)は、ケース本体(76)と蓋部(77)とを有している。
【0049】
実施形態2のケース本体(76)は、ガラス質又は樹脂製の絶縁材料で構成されている。ケース本体(76)は、円筒状の基部(79)と、該基部(79)から貯留部(62)側に向かって突出する筒状壁部(80)と、該筒状壁部(80)の外縁部から更に貯留部(62)側に向かって突出する環状凸部(81)とを有している。また、ケース本体(76)には、環状凸部(81)の先端側に先端筒部(84)が一体に形成されている。基部(79)の軸心部には、円柱状の挿入口(79a)が軸方向に延びて貫通形成されている。筒状壁部(80)の内側には、挿入口(79a)と同軸となり、且つ挿入口(79a)よりも大径となる円柱状の空間(S)が形成されている。
【0050】
実施形態2の蓋部(77)は、略円板状に形成されて環状凸部(81)の内側に嵌合している。蓋部(77)は、セラミックス材料で構成されている。蓋部(77)の軸心には、実施形態1と同様、蓋部(77)を上下に貫通する円形状の1つの開口(78)が形成されている。
【0051】
放電電極(71)は、軸直角断面が円形状となる縦長の棒状の電極で構成されている。放電電極(71)は、基部(79)の挿入口(79a)に嵌合している。これにより、放電電極(71)は、絶縁ケーシング(74)の内部に収容されている。実施形態2では、放電電極(71)のうち貯留部(62)とは反対側の端部が、外部に露出される状態となる。このため、貯留部(62)の外部に配置される電源部(73)と、放電電極(71)とを電気配線によって容易に接続することができる。
【0052】
放電電極(71)のうち貯留部(62)側の端部(71a)は、絶縁ケーシング(74)の内部の空間(S)に臨んでいる。なお、図7に示す例では、放電電極(71)の端部(71a)が、挿入口(79a)の開口面よりも上側(貯留部(62)側)に突出しているが、この端部(71a)の先端面を挿入口(79a)の開口面と略面一としてもよいし、端部(71a)を挿入口(79a)の開口面よりも下側に陥没させてもよい。また、放電電極(71)は、実施形態1と同様、開口(78)を有する蓋部(77)との間に所定の間隔が確保されている。
【0053】
対向電極(71)は、円筒状の電極本体(72a)と、該電極本体(72a)から径方向外方へ突出する鍔部(72b)とを有している。電極本体(72a)は、絶縁ケーシング(74)のケース本体(76)に外嵌している。鍔部(72b)は、貯留部(62)の壁部に固定されて水中放電装置(7)を保持する固定部を構成している。水中放電装置(7)が貯留部(62)に固定された状態では、対向電極(72)の電極本体(72a)の一部が浸水された状態となる。
【0054】
対向電極(72)は、電極本体(72a)よりも小径の内側筒部(72c)と、該内側筒部(72c)と電極本体(72a)との間に亘って形成される連接部(72d)とを有している。内側筒部(72c)及び連接部(72d)は、貯留部(62)内の水中に浸漬している。内側筒部(72c)は、その内部に円柱空間(82)を形成している。内側筒部(72c)の軸方向の一端は、蓋部(77)と当接して該蓋部(77)を保持する保持部を構成している。また、電極本体(72a)と内側筒部(72c)と連接部(72d)との間には、ケース本体(76)の先端筒部(84)が内嵌している。内側筒部(72c)の軸方向の他端側には、円柱空間(82)を覆うようにメッシュ状の漏電防止材(83)が設けられている。この漏電防止材(83)は、対向電極(72)と接触することで、実質的にアースされている。これにより、漏電防止材(83)は、貯留部(62)の内部の空間(水中)のうち、円柱空間(82)の内側から外側への漏電を防止している。
【0055】
対向電極(72)は、電極本体(72a)の一部が貯留部(62)の外部に露出される状態となる。このため、電源部(73)と対向電極(72)とを電気配線によって容易に接続することができる。
【0056】
−水中放電装置の運転動作−
水中放電装置(7)の運転の開始時には、図7に示すように、絶縁ケーシング(74)の内の空間(S)が浸水した状態となっている。電源部(73)から電極対(71,72)に所定の直流電圧(例えば1kV)が印加されると、開口(78)の内部の電流密度が上昇してく。
【0057】
図7に示す状態から、電極対(71,72)へ更に直流電圧が継続して印加されると、開口(78)内の水が気化されて気泡(B)が形成される(図8を参照)。この状態では、気泡(B)が開口(78)のほぼ全域を覆う状態となり、円柱空間(82)内の負極側の水と、放電電極(71)との間に気泡(B)による抵抗が付与される。これにより、放電電極(71)と対向電極(72)との間の電位差が保たれ、気泡(B)でストリーマ放電が発生する。その結果、貯留部(62)の水中では、水酸ラジカルや過酸化水素が発生し、処理水が生成される。
〈実施形態2の変形例〉
上記実施形態2では、円板状の蓋部(77)の軸心に1つの開口(78)を形成しているが、この蓋部(77)に複数の開口(78)を形成してもよい。図9に示す例では、蓋部(77)の軸心を中心とする仮想ピッチ円上に、5つの開口(78)が等間隔置きに配列されている。このように蓋部(77)に複数の開口(78)を形成することで、各開口(78)の近傍でそれぞれストリーマ放電を生起させることができる。
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0058】
〈スクラバー式脱臭装置の構成〉
上記実施形態ではスクラバー式脱臭装置をいわゆる循環散布型のスクラバー式脱臭装置としているが、図10に示すような、いわゆる一過散布型のスクラバー式脱臭装置としてもよい。具体的に、一過散布型のスクラバー式脱臭装置(6)は、処理水が貯留される貯水槽(9)が別途設けられ、この貯水槽(9)の底部に水中放電装置(7)が設けられている。即ち、一過散布型のスクラバー式脱臭装置(6)では、貯留部(62)に水中放電装置(7)が設けられていない。そして、貯水槽(9)は、給水源と接続されている一方、配管(64)により散水ノズル(61)に接続されている。配管(64)には、ポンプ(65)が介設されている。このように構成された一過散布型のスクラバー式脱臭装置(6)は、給水源から貯水槽(9)に給水されて、貯水槽(9)内で水中放電装置(7)により過酸化水素を含む処理水が生成され、ポンプ(65)により貯水槽(9)から配管(64)を通じて散水ノズル(61)に処理水が移送されて、散水ノズル(61)から処理水が処理室(5)内を通過する排気ガスに散布される。これにより、処理室(5)を通過する排気ガスが脱臭される。そして、散水ノズル(61)から散布された処理水は、貯留部(62)に貯留される。
【0059】
〈水中放電装置の構成>
上記実施形態の電源部(73)には、ストリーマ放電の放電電力を一定に制御する定電力制御部を用いている。しかしながら、定電力制御部に代えて、ストリーマ放電時の放電電流を一定に制御する定電流制御部を設けることもできる。この定電流制御を行うと、水の導電率によらず放電が安定するため、スパークの発生も未然に回避できる。
【0060】
また、上述した各実施形態では、電源部(73)の正極に放電電極(71)を接続し、電源部(73)の負極に対向電極(72)を接続している。しかしながら、電源部(73)の負極に放電電極(71)を接続し、電源部(73)の正極に対向電極(72)を接続することで、電極対(71,72)の間で、いわゆるマイナス放電を行うようにしてもよい。
【0061】
〈適用対象〉
上記実施形態では、脱臭対象として、厨房空間からの排気ガスを対象としてるがこれに限られず、例えば工場などからの排気ガスにも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、簡易な構成でかつ、安全なスクラバー式脱臭装置を提供することができ、例えば厨房空間からの排気ガスを室外へ排気する排気システムに適用可能であるため、有用である。
【符号の説明】
【0063】
1 排気システム
3 ダクト
5 処理室(排気経路)
6 スクラバー式脱臭装置
61 散水ノズル
62 貯留部(貯水槽)
63 循環ポンプ
7 水中放電装置
71 放電電極(電極対)
72 対向電極(電極対)
73 電源部(直流電源)
9 貯水槽
C 厨房空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理水が貯留される貯水槽(9,62)と、該貯水槽(9,62)から供給された処理水を排気ガスが通過する排気経路(5)に散布する散水ノズル(61)とを備え、該散水ノズル(61)から散布された処理水によって排気ガスを脱臭するスクラバー式脱臭装置であって、
前記貯水槽(9,62)内の水中でストリーマ放電を生起する電極対(71,72)と、該電極対(71,72)に直流電圧を印加する直流電源(73)とを有し、前記電極対(71,72)の間におけるストリーマ放電によって前記貯水槽(9,62)内の水中で過酸化水素を発生させて、過酸化水素を含む処理水を生成する水中放電装置(7)を備え、
前記水中放電装置(7)により生成した処理水を前記散水ノズル(61)から前記排気経路(5)に散布して排気ガスを脱臭することを特徴とするスクラバー式脱臭装置。
【請求項2】
請求項1に記載のスクラバー式脱臭装置において、
前記貯水槽(9,62)は、前記散水ノズル(61)から散布された処理水を貯留する貯留部(62)であり、
前記貯留部(62)の処理水を散水ノズル(61)へ移送する循環ポンプ(63)を備えていることを特徴とするスクラバー式脱臭装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のスクラバー式脱臭装置において、
前記排気経路(5)を通過する排気ガスは、厨房空間(C)からの排気ガスであることを特徴とするスクラバー式脱臭装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−75999(P2012−75999A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221684(P2010−221684)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】