スクリーン及びスクリーン成形型の製造方法
【課題】観察位置とは異なる位置から所定の模様を視認できるスクリーン及び当該スクリーンを製造するためのスクリーン成形型の製造方法を提供すること。
【解決手段】光が入射される入射面31に、当該光を反射させる凹状のレンズ要素4Aが複数配列されたスクリーン3であって、それぞれのレンズ要素4Aに形成され、入射された光を第1方向に反射させる第1反射領域(有効反射領域AR)と、第1反射領域以外の位置に形成され、入射された光を第1方向とは異なる第2方向に反射させる第2反射領域と、を有し、第2反射領域には、第1方向に正対する位置とは異なる位置から入射面31を観察した際に視認可能な模様が形成されている。
【解決手段】光が入射される入射面31に、当該光を反射させる凹状のレンズ要素4Aが複数配列されたスクリーン3であって、それぞれのレンズ要素4Aに形成され、入射された光を第1方向に反射させる第1反射領域(有効反射領域AR)と、第1反射領域以外の位置に形成され、入射された光を第1方向とは異なる第2方向に反射させる第2反射領域と、を有し、第2反射領域には、第1方向に正対する位置とは異なる位置から入射面31を観察した際に視認可能な模様が形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリーン及びスクリーン成形型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、画像を形成する光が入射される入射面に複数の球状面が形成されたスクリーンが知られている(例えば、特許文献1参照)。
この特許文献1に記載のスクリーンでは、入射面に凸状又は凹状の球状面が複数形成されており、当該球状面の表面には光反射層が形成されている。そして、当該各光反射層に入射された光は、スクリーンの正面側の観察位置に反射され、当該観察位置にて画像として視認される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−193034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前述の特許文献1に記載のスクリーンに画像を形成する光が入射された場合、光反射層における一部の領域に入射された光は、観察位置に向けて反射されるが、他の一部の領域に入射された光は、観察位置とは異なる位置に向けて反射される。このため、当該他の一部の領域、及び、当該領域に入射される光を有効活用することが求められてきた。
【0005】
本発明の目的は、観察位置とは異なる位置から所定の模様を視認できるスクリーン及びスクリーン成形型の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記した目的を達成するために、本発明のスクリーンは、光が入射される入射面に、当該光を反射させる凹状のレンズ要素が複数配列されたスクリーンであって、それぞれの前記レンズ要素に形成され、入射された光を第1方向に反射させる第1反射領域と、前記第1反射領域以外の位置に形成され、入射された光を前記第1方向とは異なる第2方向に反射させる第2反射領域と、を有し、前記第2反射領域には、前記第1方向に設定された観察位置とは異なる位置から前記入射面を観察した際に視認可能な模様が形成されていることを特徴とする。
【0007】
なお、第1方向は、入射面の法線方向を例示できる。また、第2方向は、第1方向とは異なる方向であり、入射面に入射される光の起点を例示できる。この起点は、画像を形成する光を投射するプロジェクターの設置位置とすることができる。
本発明によれば、各レンズ要素に形成された第1反射領域は、入射された光を第1方向に反射させるので、当該第1方向に設定された観察位置に位置する観察者に向けて、画像を形成する光を反射させることで、当該観察者に画像を視認させることができる。
【0008】
一方、第2反射領域に入射された光は、第1方向とは異なる第2方向に反射される。このため、観察位置から入射面を観察した場合には、第2反射領域に形成された模様を視認しにくいが、当該観察位置とは異なる位置(例えば第2方向に対向する位置)から入射面を観察した場合には、当該模様を視認できる。従って、観察位置にて視認される画像を劣化させることなく、当該観察位置とは異なる位置から、入射面に形成された模様を視認できる。
【0009】
本発明では、前記模様は、当該模様に応じた位置の前記レンズ要素の隅部の形状と、他の前記レンズ要素の隅部の形状とが異なることにより視認されることが好ましい。
本発明によれば、模様を形成する隅部と、他の隅部との形状が異なることにより、入射面において各隅部の形状は一様ではない。このため、魔鏡の原理により、観察位置とは異なる位置から入射面を観察した場合に、当該模様を確実に視認できる。
また、第1方向が入射面の法線方向である場合、凹状のレンズ要素における第1反射領域は、当該レンズ要素の端縁より内側に位置する。これに対し、第2反射領域に形成される模様は、レンズ要素の隅部を利用して形成される。従って、第1反射領域に干渉することなく模様を形成でき、スクリーンの輝度の低下を抑制できる。この他、当該隅部は、レンズ要素において突出しているので、観察位置以外の位置から当該隅部を確実に視認でき、これにより、形成された模様を確実に視認できる。
【0010】
本発明では、前記模様は、前記入射面への光の入射領域の位置を調整するためのマーカーであることが好ましい。
ここで、スクリーンが近接投射用のスクリーンとして構成され、当該スクリーンと、画像を投射するプロジェクターとの距離が短い場合には、入射面に対する光の入射領域(プロジェクターからの画像の投射領域)の位置調整を適切に行わないと、観察位置に向けて適切に光が反射されず、画像の視認性が低下する。しかしながら、プロジェクターから入射面に向けて画像を斜方投射すると、プロジェクターの設置位置からは、当該画像は台形状に歪んで見えるので、当該位置調整が容易でない。このため、従来では、画像の投射位置を調整する調整者と、観察位置で入射面における画像の投射領域を確認する確認者とが必要であるという問題や、一人の調整者により調整する場合でも、当該設置位置と観察位置とを往復する必要があり、当該位置調整が面倒であるという問題がある。
【0011】
これに対し、本発明では、第2反射領域に形成された模様は、入射面への光の入射領域の位置、すなわち、画像の投射領域の位置を調整するためのマーカーとして形成されている。これによれば、観察位置とは異なる位置であるプロジェクターの設置位置から当該マーカーを確認することで、入射面における光の入射領域の位置調整を1人の調整者により容易に行うことができる。この際、当該マーカーに応じた画像をプロジェクターが投射すれば、当該位置調整をより適切に実施できる。
【0012】
また、本発明のスクリーン成形型の製造方法は、光が入射される入射面に、当該光を反射させる凹状のレンズ要素が複数配列されたスクリーンを成形するためのスクリーン成形型の製造方法であって、前記レンズ要素に応じた凹状のレンズ型を有する母型を製造する母型製造工程と、前記母型から前記レンズ型が転写された中間型を製造する中間型製造工程と、前記中間型に所定の模様に応じた加工を施す模様形成工程と、を有することを特徴とする。
【0013】
なお、模様形成工程としては、中間型において模様が形成される部位(例えば、中間型に形成されたレンズ型の輪郭部分)に変形を生じさせることができる加工を挙げることができ、加熱、光照射、電気的刺激及び加圧等を例示できる。
本発明によれば、製造されるスクリーンのレンズ要素に応じたレンズ型が形成された母型から当該レンズ型が転写された中間型に対して、模様形成工程にて、所定の模様に応じた加工が施される。このような中間型を基材を押圧する等して、レンズ型に応じた形状を転写することで、前述のスクリーンと同様のスクリーンを製造できる。
【0014】
本発明では、前記中間型は、金属により形成され、当該中間型は、前記凹状のレンズ型に応じた凸状のレンズ型を有し、前記模様形成工程では、前記中間型における前記凸状のレンズ型が形成された面とは反対側の面に対して、レーザー光の照射により前記模様を描画することが好ましい。
なお、レーザー光の強度としては、レンズ要素において前述の第1反射領域に変形が生じない程度の強度とすることが好ましく、金属製の中間型に他の金属製部材を溶接できる程度の強度を例示できる。
本発明によれば、模様形成工程では、中間型において凸状のレンズ型が形成された面とは反対側の面に、レーザー光を照射する。これにより、当該レーザー光の照射範囲内のレンズ型においては、当該反対側の面に最も近い輪郭部分がわずかに変形する。この輪郭部分は、凹状のレンズ要素における前述の隅部に応じた位置となる。このような中間型を用いることで、入射面に形成される複数のレンズ要素の隅部の形状が部分的に異なるスクリーンを製造することができ、魔鏡の原理により、中間型に描画された模様と同様の模様を視認できる。そして、このような中間型の加工は、レーザー光による模様の描画であり、各レンズ型の輪郭部分を個々に変形させるものではないので、前述のスクリーンを製造するための中間型を簡易に加工できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係るプロジェクションシステムの構成を示す模式図。
【図2】前記実施形態におけるスクリーンを示す正面図。
【図3】前記実施形態における第1凹部を示す斜視図。
【図4】前記実施形態における第1凹部を示す正面図
【図5】前記実施形態における第1凹部及び第2凹部を示す斜視図。
【図6】前記実施形態におけるパターンを示す図。
【図7】前記実施形態におけるパターンとパターン画像PPとを示す図。
【図8】前記実施形態におけるスクリーンを示す断面図。
【図9】(A)前記実施形態における母型製造工程(マスク形成手順)を示す模式図。(B)前記実施形態における母型製造工程(孔形成手順)を示す模式図。(C)前記実施形態における母型製造工程(レンズ型形成手順)を示す模式図。(D)前記実施形態における母型製造工程(除去手順)を示す模式図。
【図10】(A)前記実施形態における中間型製造工程(電鋳手順)を示す模式図。(B)前記実施形態における中間型製造工程(剥離手順)を示す模式図。(C)前記実施形態におけるパターン形成工程を示す模式図。(D)前記実施形態における転写工程を示す模式図。(E)前記実施形態における転写工程を示す模式図。
【図11】前記実施形態におけるスクリーンの隅部を変形させる工程を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔プロジェクションシステムの構成〕
以下、本発明の一実施形態について、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態に係るプロジェクションシステム1の構成を示す模式図である。
本実施形態に係るプロジェクションシステム1は、図1に示すように、画像を投射するプロジェクター2と、当該プロジェクター2から入射された画像を表示するスクリーン3とを備えて構成されている。
【0017】
プロジェクター2は、詳しい図示を省略するが、光源装置と、当該光源装置から出射された光を変調して画像を形成する光変調装置と、変調された光(画像)を投射する投射光学装置とを有する画像形成装置、及び、形成される画像のデータ(画像データ)を光変調装置に出力する制御装置を備える。
このうち、光源装置は、超高圧水銀ランプ等の光源ランプや、LED(Light Emitting Diode)等の固体光源を例示できる。また、光変調装置は、透過型及び反射型の液晶パネルや、マイクロミラーを用いたデバイス等を例示でき、投射光学装置は、鏡筒内に複数のレンズが収納された組レンズを例示できる。
【0018】
制御装置は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等の回路素子が実装された回路基板として構成される。この制御装置は、プロジェクター2全体を制御する他、当該プロジェクター2の外部から入力される画像情報に応じた画像データを光変調装置に出力する。また、制御装置は、当該ROMに記憶された投射位置調整用のパターン画像PP(図7参照)の画像データを光変調装置に出力する。これにより、画像形成装置は、制御装置から入力される画像データに応じた画像をスクリーン3に投射する。
【0019】
〔スクリーンの構成〕
図2は、スクリーン3を示す正面図である。
スクリーン3は、当該スクリーン3の正面側下方に位置するプロジェクター2から斜方入射される光を、当該スクリーン3の正面側に設定された観察位置VP(換言すると、入射面31の法線方向に設定された観察位置VP)に向けて反射させ、当該光により形成される画像を表示する。これにより、当該観察位置VPに位置する観察者VRにより画像が視認される。
このようなスクリーン3は、図2に示すように、正面視略長方形状に形成されており、当該スクリーン3の正面には、投射光が入射される入射面31が形成されている。
【0020】
入射面31は、当該入射面31の延長面31A上に予め設定された基準点P1を中心とした所定範囲内の領域311(図2における斜線部分)と、当該領域311外の領域312とを有する。これら各領域311,312には、凹状のレンズ要素4(4A,4B)が形成されている。
具体的に、領域311,312内には、基準点P1を中心とする同心円(円及び楕円を含む)の一部を構成する仮想の基準線SLに沿って、第1凹部41(図3及び図4参照)からなるレンズ要素4Aが配置されている。また、領域312内には、第1凹部41と、基準点P1からの放射方向において隣り合う第1凹部41間に形成される第2凹部42(図5参照)とにより構成されるレンズ要素4Bが配置されている。
【0021】
これら領域311,312に設定される基準線SLの間隔は、基準点P1から離れるに従って大きくなるように設定されており、これにより、基準点P1から離れるに従って、レンズ要素4A,4Bの中心間距離は大きくなる。また、レンズ要素4A,4Bの基準点P1からの放射方向の寸法も、当該基準点P1から離れるに従って大きくなるように設定されている。
なお、図2においては、基準線SLのうち、代表的な基準線SLを図示しているが、実際には、より細かい間隔で当該基準線SLは設定されている。また、図2においては、図示された基準線SLの符号も一部省略している。更に、基準点P1は、本実施形態では、入射面31の中心点CPを通る仮想の直線である中心線CL上に設定されている。
【0022】
〔第1凹部の構成〕
図3は、領域311に形成されたレンズ要素4A(第1凹部41)を示す斜視図であり、図4は、当該レンズ要素4Aを示す正面図である。
第1凹部41により構成されるレンズ要素4Aは、前述の基準線SLに沿って配置され、これにより、領域311には、当該基準線SLに沿うレンズ要素4Aの列が複数形成される。
このようなレンズ要素4Aは、図3及び図4に示すように、投射光が入射される所定の曲率の凹曲面をそれぞれ有し、当該凹曲面には、反射層411が形成されている。この反射層411が形成される領域内には、プロジェクター2から入射される投射光を入射面31の法線方向に反射可能な有効反射領域ARが含まれる。このような反射層411は、高反射性を有する白色塗料をスプレー等で塗布するか、或いは、アルミや銀を斜方から蒸着する等して形成される。
【0023】
〔第2凹部の構成〕
図5は、領域312に形成された第1凹部41及び第2凹部42を示す斜視図である。
第1凹部41及び第2凹部42により構成されるレンズ要素4Bは、前述の基準線SLに沿って形成され、これにより、領域312には、当該基準線SLに沿うレンズ要素4Bの列が複数形成される。
これらのうち、第2凹部42は、図5に示すように、第1凹部41に対して基準点P1からの放射方向(例えば、図5に示すA方向)基端側に当該第1凹部41に隣接して形成されている。これら第2凹部42は、当該第1凹部41(詳しくは、有効反射領域AR)に、投射光を入射させる機能を有する。
【0024】
ここで、図1に示したように、入射面31の下側に位置するプロジェクター2から投射光PLが当該入射面31に斜方入射される場合、投射光PLの軌跡(実線)と入射面31の法線NM(点線)との角度は、投射光の起点(プロジェクターの設置位置)から当該投射光が入射される入射面31上の位置が離れるに従って大きくなる。図1の例では、当該角度は、下側から上側に向かうに従って大きくなる。
【0025】
このため、第2凹部42が形成されていないと、ある第1凹部41の有効反射領域ARに入射される予定の投射光が、当該第1凹部41の放射方向基端側に位置する他の第1凹部41の端縁により遮られてしまう。この場合、第1凹部41の有効反射領域ARに投射光が入射されないため、スクリーンの正面側の必要な範囲全体に投射光が反射されなくなり、当該スクリーンの視野角を確保することが困難になる。
【0026】
このような問題から、第1凹部41における基準点P1からの放射方向基端側に、同じレンズ要素4Bを構成する第2凹部42を形成することにより、基準点P1から離れた位置の第1凹部41における有効反射領域ARに、投射光を適切に入射させることができ、スクリーン3の視野角を確保することができる。
なお、レンズ要素4において有効反射領域ARは、本発明の第1反射領域に相当し、前述のように、入射面31の法線方向(第1方向)に入射された光を反射させる。また、当該レンズ要素4において有効反射領域AR以外の領域は、本発明の第2反射領域に相当し、結果的に当該法線方向とは異なる方向(第2方向)に入射された光を反射させる。
【0027】
〔入射面に形成されたパターン〕
図6は、入射面31に形成されたパターンPTを示す図である。
上記のレンズ要素4が形成された入射面31には、当該各レンズ要素4の稜線RL(第1凹部41の稜線及び第2凹部42の稜線。図3〜図5参照)の形状(特に隅部Cの形状)が、他のレンズ要素4の形状と異なることにより視認されるパターンPTが形成されている。すなわち、当該パターンPTは、有効反射領域AR以外の位置に形成されている。
このパターンPTは、図6に示すように、本実施形態では、プロジェクター2による画像の投射領域(光の入射領域)の位置調整用マーカーとして構成され、4本の直線L(L1〜L4)により構成されている。これらのうち、2本の直線L1,L2は、入射面31の縦方向に延出し、2本の直線L3,L4は、横方向に延出する。
なお、隅部Cの形状については、後に詳述する。
【0028】
このようなパターンPTは、観察位置VP(すなわち、当該入射面31の法線方向に設定された観察位置VP)からスクリーン3を観察した場合には視認されにくいが、他の位置からスクリーン3を観察した場合には、魔鏡の原理により視認可能な模様である。なお、本実施形態では、当該パターンPTは、少なくともプロジェクター2の設置位置から入射面31を観察した場合に、視認可能な模様として構成されている。
【0029】
図7は、入射面31のパターンPTと、プロジェクター2から投射された投射位置調整用のパターン画像PPとを示す図である。
スクリーン3に対して画像の投射位置を調整する際には、使用者の操作に応じて、プロジェクター2が図7に示すパターン画像PPを投射する。このパターン画像PPには、パターンPTの直線L1,L2に応じた2本の直線LP1,LP2と、パターンPTの直線L3,L4に応じた2本の直線LP3,LP4とが含まれている。これら直線L1,L2と直線LP1,LP2とがそれぞれ一致し、また、直線L3,L4と直線LP3,LP4とが一致するように、パターン画像PPの投射位置を修正及び補正することにより、スクリーン3の入射面31に対して適切な位置に、画像を投射することができる。
なお、当該投射位置の修正及び補正の際には、手動又は自動で台形歪み補正等の処理を行ってもよい。
【0030】
〔隅部の形状〕
上記直線L1〜L4は、レンズ要素4において有効反射領域ARの外側に位置する隅部C(1つのレンズ要素4において最も突出した部位)の形状が入射面31全体で一様でないことにより、観察位置VPからは視認されにくいものの、プロジェクター2の設置位置からは視認されるように形成されている。すなわち、これら直線L1〜L4上に位置する隅部Cの形状は、他の隅部Cの形状と異なる。
【0031】
図8は、スクリーン3を示す断面図である。詳述すると、図8は、パターンPTに含まれる直線Lに交差する方向におけるスクリーン3を示す断面図である。なお、図8においては説明の便宜上、反射層411における有効反射領域ARの位置を斜線にて示す。
図8に示すように、直線Lに応じた位置の隅部C1(レンズ要素4A1,4A2の共通する稜線RL上に位置する隅部C1)は、当該直線L上に無い他のレンズ要素4Aの隅部C2(レンズ要素4A2,4A3の共通する稜線RL上に位置する隅部C2),C3(レンズ要素4A3,4A4の共通する稜線RL上に位置する隅部C3)と形状が異なる。具体的には、隅部C1は、隅部C2,C3に比べて、基準点P1(図2参照)を中心とする放射方向先端側に僅かに傾くように形成されている。
このため、入射面31における隅部C(C1〜C3)の形状は一様ではなく、不連続である。なお、隅部C1の変形は、反射層411に形成された有効反射領域ARが変形されない程度の変形である。
【0032】
このような隅部C(C1)が入射面31に形成されていることにより、観察位置VPから入射面31を観察した場合には、隅部C1の変形(すなわちパターンPT)は視認されにくいものの、入射面31をプロジェクター2の設置位置から見た場合には、当該設置位置側への戻り光の光量に部分的な差異が生じてパターンPTが視認可能となる。
【0033】
以上、レンズ要素4Aの隅部Cの形状について説明したが、レンズ要素4Bの隅部Cの形状についても同様である。
なお、本実施形態では、直線L上に位置する隅部C1の形状は、入射された光を観察位置VPに反射させずに、例えばプロジェクター2の設置位置等の他の位置に向けて反射させる形状となっている。これにより、プロジェクター2からの画像の投射領域を当該他の位置から把握しやすくしている。しかしながら、直線L上に位置する隅部C1の形状が、他の隅部Cの形状と異なることで、プロジェクター2の設置位置から入射面31を観察した際に、当該設置位置側に反射される光量の違いから模様(パターンPT)を視認可能であれば、当該隅部C1の形状は他の形状でもよい。このため、必ずしも隅部C1の形状が、入射された光をプロジェクター2の設置位置側に反射させる形状でなくてもよい。
【0034】
〔スクリーンの製造工程〕
以上説明したスクリーン3は、以下に示すスクリーン製造工程により製造される。
このスクリーン製造工程は、作業順に、母型製造工程、中間型製造工程、パターン形成工程及び転写工程を有する。
【0035】
〔母型製造工程〕
図9は、母型製造工程を示す模式図である。なお、図9では、製造される母型91においてレンズ要素4Aが形成される領域を示す。
母型製造工程は、スクリーン3の製造に際して利用される母型91を製造する工程である。この母型製造工程は、マスク形成手順、孔形成手順、レンズ型形成手順及び除去手順を有する。
マスク形成手順では、図9(A)に示すように、ガラス等の基板SBの平坦面にマスク層MSを形成する。このマスク層MSは、本実施形態では、酸化クロム層、クロム層及び酸化クロム層の三層構造を有しているが、当該マスク層MSの材質及び層構造は、以後の処理に合わせて適宜選択可能である。
孔形成手順では、図9(B)に示すように、前述のレンズ要素4(第1凹部41及び第2凹部42)の設計上の形成位置に応じて、YAGレーザー等のレーザー照射等によりマスク層MSに孔Hを複数形成する。
【0036】
レンズ型形成手順では、マスク層MSに形成された各孔Hに、バッファードフッ酸等のエッチング液(図示省略)を注入して、図9(C)に示すように、レンズ要素4に応じた凹状のレンズ型911を基板SBに形成する。このレンズ型形成手順では、エッチング液により、各孔Hに応じた基板SBの領域が当該基板SBの下方に向かって浸食されるとともに、当該孔Hの周縁から外側に凹曲面状に広がるように基板SBが浸食されることで、基板SBにレンズ型911が形成される。
除去手順では、図9(D)に示すように、複数のレンズ型911が形成された基板SBからマスク層MS及びエッチング液を除去し、母型91となる基板SBを洗浄及び乾燥させる。以上により、母型91が製造される。
【0037】
〔中間型製造工程〕
図10は、中間型製造工程、パターン形成工程及び転写工程を示す模式図である。なお、図10では、母型91、中間型92及びスクリーン3においてレンズ要素4Aが形成される領域を示す。
中間型製造工程は、母型91から中間型92を製造する工程である。この中間型製造工程は、電鋳手順及び剥離手順を有する。
電鋳手順では、図10(A)に示すように、母型91に対して電気鋳造処理(ニッケル電鋳処理等)を行う。この後、剥離手順にて、図10(B)に示すように、金属製の電鋳型を母型91から剥離させることで、凹状のレンズ型911に対応する凸状のレンズ型921が複数形成された当該電鋳型である中間型92が製造される。
【0038】
〔パターン形成工程〕
パターン形成工程は、本発明の模様形成工程に相当する。
このパターン形成工程では、図10(C)に示すように、中間型92の裏面(すなわち、レンズ型921が形成された面とは反対側の面)に、レーザー光LBを照射して、前述のパターンPTに応じた模様を描画する。この際、レーザーの強度は、中間型92に対して他の金属部材を溶接可能な程度の強度に設定され、例えば、中間型92の厚さ寸法が0.6mmである場合に、溶接深さが0.08〜0.1mmとなるように設定することができる。また、例えば、レーザー光LBのスポットは0.5mm程度に設定することができる。なお、1つのレンズ要素4の前記放射方向の寸法は、略0.1〜0.5mmである。これらの数値は、適宜設定可能である。
【0039】
このようなレーザー照射が行われた部位(描画部位)では、凸状のレンズ型921において裏面に近い稜線部分922が僅かに変形する。この際、当該稜線部分922において、他の稜線部分922との交差部位が裏面に最も近い部位であるので、当該交差部位が最も大きく変形する。この交差部位は、後に製造されるスクリーン3における前述の隅部C(C1)に対応する部位であるので、このような中間型92を用いることにより、製造されるスクリーン3にパターンPTを構成する前述の隅部C1が形成される。
なお、当該交差部位が大きく変形してしまうと、製造されるスクリーン3の隅部C1の変形が大きくなり、当該スクリーン3を正面視した際に、隅部C1の変形、ひいては、パターンPTが視認しやすくなってしまうため、微細な変形に留められている。
【0040】
〔転写工程〕
転写工程では、図10(D)に示すように、樹脂により形成されたスクリーン基材SPに熱を加えつつ、中間型92における複数のレンズ型921が形成された面で当該スクリーン基材SPを押圧して、レンズ型921に応じた形状をスクリーン基材SPに転写する。この後、スクリーン基材SPを中間型92から剥離する。これにより、スクリーン基材SPには、レンズ型921に応じた凹曲面、すなわち、レンズ要素4が複数形成される。
そして、図10(E)に示すように、各レンズ要素4の第1凹部41に蒸着等により反射層411を形成する。これにより、複数のレンズ要素4が形成されたスクリーン3が製造される。なお、必要に応じて、当該各レンズ要素4において反射層411が形成された領域以外の領域に、外光等を吸収する光吸収層を形成してもよく、また、当該各レンズ要素4が形成された面(入射面31)に保護層を更に形成してもよい。
【0041】
以上説明した本実施形態に係るプロジェクションシステム1によれば、以下の効果を奏することができる。
レンズ要素4の有効反射領域ARに入射された光は、入射面31の法線方向に反射されるので、当該法線方向に設定された観察位置VPに向けて当該光を反射させることで、観察者VRにプロジェクター2から投射された画像を視認させることができる。
一方、有効反射領域AR以外の領域に入射された光は、当該法線方向とは異なる方向に反射されるが、当該有効反射領域AR以外の領域に位置する隅部C1は、前述のように、他の隅部Cとは異なる形状に形成されている。これにより、入射面31全面における隅部Cの形状が一様ではなくなるため、魔鏡の原理により、観察位置VPとは異なる位置から入射面31を観察した際に、隅部C1により形成される模様であるパターンPTを視認できる。従って、観察位置VPにて観察される画像を劣化させることなく、他の位置からパターンPTを視認できる。
【0042】
また、パターンPTは、入射面31に対する画像の投射領域の位置調整用マーカーであるので、プロジェクター2の設置位置から当該パターンPTを視認しつつ、画像の投射位置を調整することで、1人の調整者だけで当該投射位置の調整操作を容易に行うことができる。この際、プロジェクター2からは前述のパターン画像PPを投射すれば、当該調整操作をより適切に実施できる。
【0043】
このようなスクリーン3を製造する際には、レンズ要素4に応じた凹状のレンズ型911を有する母型91から電鋳処理により製造された中間型92に対して、パターン形成工程にて、模様(パターンPT)に応じた加工が施される。このような中間型92をスクリーン基材SPを押圧する等して、レンズ型921に応じた形状を当該スクリーン基材SPに転写することで、前述のスクリーン3を簡易に製造できる。
【0044】
また、パターン形成工程では、中間型92の裏面にレーザー光LBを照射することにより、当該レーザー光LBの照射部位のレンズ型921において当該裏面に最も近い稜線部分922(特に、隅部C1に対応する部位)をわずかに変形させる。これによれば、前述のスクリーン3を製造するための中間型92を簡易に加工できる。
【0045】
〔他の変形方法〕
図11は、スクリーン5の隅部を変形させる工程を説明する図である。なお、図11では、当該スクリーン5においてレンズ要素4Aが形成された領域の断面を示す。
前述のパターン形成手順を省略した中間型を用いて製造されたスクリーンの隅部を直接変形させることでも、前述のスクリーン3と同様の効果を奏するスクリーンを製造することができる。
図11に示すスクリーン5は、前述のレンズ要素4が複数形成された入射面51を有するが、パターン形成手順を省略した中間型を用いて製造されているため、当該入射面51においては、各レンズ要素4の隅部Cの形状は一様である。
この入射面51に対して、所定の幅寸法を有するローラーRを所定の押し圧で押圧回転させることで、レンズ要素4の稜線RLにおける隅部Cを変形させ、前述の模様をスクリーン5に形成することが可能である。例えば、当該模様として前述のパターンPTを形成する場合、直線Lに応じた位置に押し圧1kgで幅5mmのローラーRを押圧しつつ、当該直線Lに沿ってローラーRを回転移動させることにより、当該パターンPTを形成できる。この際、スクリーン5に熱を加えつつ上記ローラーRを回転移動させることで、より好適に隅部Cを変形させることができる。
【0046】
これにより、スクリーン5に形成されたレンズ要素4において、最も突出した部位である隅部CがローラーRにより変形され、観察位置からは視認されにくいものの、他の位置(例えば、プロジェクター2の設置位置)からは視認可能なパターンPT等の模様が、入射面51に形成される。なお、ローラーRにより隅部を変形させる手順は、各レンズ要素4に反射層411を形成する前であっても後であってもよい。
【0047】
更に、模様をスクリーン5に形成する他の方法としては、当該スクリーン5を加熱した上で、形成される模様に応じた型で入射面51を押圧しつつ、当該型を擦ることが挙げられる。例えば、入射面51において直線Lに応じた位置を、板状体の端面で斜方から押圧し、当該板状体を擦ることによっても隅部Cを変形させることができ、前述のパターンPTを形成できる。この場合には、隅部Cが面状に削れてしまわないように配慮する必要がある。
【0048】
〔実施形態の変形〕
本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
前記実施形態では、スクリーン3,5に形成され、魔鏡の原理により観察可能な模様として、縦横に延出する4本の直線Lを有するパターンPTとしたが、本発明はこれに限らない。すなわち、当該模様は、プロジェクター2からの画像の投射位置調整用のマーカーに限らない。例えば、文字列及び記号でもよく、ロゴ等の図柄でもよい。
また、前記実施形態では、レンズ要素4の隅部Cを変形させて、観察位置VP以外の領域から視認可能な直線Lを含むパターンPTを入射面31に形成したが、本発明はこれに限らない。すなわち、観察位置VP以外の領域から入射面31を観察した際に、当該入射面31が一様でないことにより、模様が視認されればよいので、直線L上の隅部Cを変形させずに、他の隅部Cを変形させることで模様を形成してもよい。
更に、レンズ要素4間に隙間が形成されている場合には、当該隙間の形状を変形させることで模様を形成してもよい。
【0049】
前記実施形態では、魔鏡の原理により観察可能な模様であるパターンPTは、レンズ要素4の隅部Cのうち、他の隅部Cとは異なる形状となるように変形された隅部C(例えば隅部C1)により構成されるとしたが、本発明はこれに限らない。すなわち、有効反射領域AR以外の領域が入射面31全体で一様でなければ、入射面31の法線方向に設定された観察位置VPからは視認されにくいものの、他の位置からは視認可能な模様を、当該入射面に形成することが可能である。例えば、レンズ要素4の稜線RLを変形させて、当該模様を形成してもよい。
【0050】
前記実施形態では、パターン形成工程にて、中間型92の裏面にレーザー光LBを照射して、当該裏面に模様(例えばパターンPT)に応じた描画を行うとしたが、本発明はこれに限らない。すなわち、当該模様に応じた位置のレンズ型921における有効反射領域AR以外の部位を変形させることができれば、他の方法により、パターン形成工程を実施してもよい。このような方法として、例えば、加熱、光照射、電気的刺激及び加圧等を例示できる。
【0051】
前記実施形態では、パターン形成工程にて、模様であるパターンPTが形成された中間型92を用いて、スクリーン3を製造した他、製造されたスクリーン5に対して荷重及び熱を加えてパターンPTを形成する方法を例示したが、本発明はこれに限らない。すなわち、スクリーンの入射面に、観察位置からは視認されにくく、他の位置からは視認されやすい模様を形成できればよい。このため、例えば、複数の部分スクリーンを接合して1つの大きなスクリーンを製造する場合の各部分スクリーン同士のつなぎ目により、当該模様を形成してもよい。
【0052】
前記実施形態では、基準点P1は、入射面31の延長面31A上に設定されていたが、本発明はこれに限らない。すなわち、当該基準点P1は、入射面31上に設定されていてもよい。
また、レンズ要素4は、基準点P1を中心とする同心円(円及び楕円を含む)の一部を構成する仮想の基準線SLに沿って配置されるとしたが、本発明はこれに限らない。すなわち、レンズ要素は、それぞれ平行な仮想の基準線に沿って配列されていてもよい。すなわち、レンズ要素の配列は問わない。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、画像が投射されるスクリーン、及び、当該スクリーンを成形するためのスクリーン成形型の製造に関して好適に利用できる。
【符号の説明】
【0054】
3,5…スクリーン、4(4A,4B)…レンズ要素、31,51…入射面、91…母型、92…中間型、911…レンズ型(凹状のレンズ型)、921…レンズ型(凸状のレンズ型)、AR…有効反射領域(第1反射領域)、C(C1〜C3)…隅部、NM…法線方向(第1方向)、PT…パターン(模様)、VP…観察位置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリーン及びスクリーン成形型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、画像を形成する光が入射される入射面に複数の球状面が形成されたスクリーンが知られている(例えば、特許文献1参照)。
この特許文献1に記載のスクリーンでは、入射面に凸状又は凹状の球状面が複数形成されており、当該球状面の表面には光反射層が形成されている。そして、当該各光反射層に入射された光は、スクリーンの正面側の観察位置に反射され、当該観察位置にて画像として視認される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−193034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前述の特許文献1に記載のスクリーンに画像を形成する光が入射された場合、光反射層における一部の領域に入射された光は、観察位置に向けて反射されるが、他の一部の領域に入射された光は、観察位置とは異なる位置に向けて反射される。このため、当該他の一部の領域、及び、当該領域に入射される光を有効活用することが求められてきた。
【0005】
本発明の目的は、観察位置とは異なる位置から所定の模様を視認できるスクリーン及びスクリーン成形型の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記した目的を達成するために、本発明のスクリーンは、光が入射される入射面に、当該光を反射させる凹状のレンズ要素が複数配列されたスクリーンであって、それぞれの前記レンズ要素に形成され、入射された光を第1方向に反射させる第1反射領域と、前記第1反射領域以外の位置に形成され、入射された光を前記第1方向とは異なる第2方向に反射させる第2反射領域と、を有し、前記第2反射領域には、前記第1方向に設定された観察位置とは異なる位置から前記入射面を観察した際に視認可能な模様が形成されていることを特徴とする。
【0007】
なお、第1方向は、入射面の法線方向を例示できる。また、第2方向は、第1方向とは異なる方向であり、入射面に入射される光の起点を例示できる。この起点は、画像を形成する光を投射するプロジェクターの設置位置とすることができる。
本発明によれば、各レンズ要素に形成された第1反射領域は、入射された光を第1方向に反射させるので、当該第1方向に設定された観察位置に位置する観察者に向けて、画像を形成する光を反射させることで、当該観察者に画像を視認させることができる。
【0008】
一方、第2反射領域に入射された光は、第1方向とは異なる第2方向に反射される。このため、観察位置から入射面を観察した場合には、第2反射領域に形成された模様を視認しにくいが、当該観察位置とは異なる位置(例えば第2方向に対向する位置)から入射面を観察した場合には、当該模様を視認できる。従って、観察位置にて視認される画像を劣化させることなく、当該観察位置とは異なる位置から、入射面に形成された模様を視認できる。
【0009】
本発明では、前記模様は、当該模様に応じた位置の前記レンズ要素の隅部の形状と、他の前記レンズ要素の隅部の形状とが異なることにより視認されることが好ましい。
本発明によれば、模様を形成する隅部と、他の隅部との形状が異なることにより、入射面において各隅部の形状は一様ではない。このため、魔鏡の原理により、観察位置とは異なる位置から入射面を観察した場合に、当該模様を確実に視認できる。
また、第1方向が入射面の法線方向である場合、凹状のレンズ要素における第1反射領域は、当該レンズ要素の端縁より内側に位置する。これに対し、第2反射領域に形成される模様は、レンズ要素の隅部を利用して形成される。従って、第1反射領域に干渉することなく模様を形成でき、スクリーンの輝度の低下を抑制できる。この他、当該隅部は、レンズ要素において突出しているので、観察位置以外の位置から当該隅部を確実に視認でき、これにより、形成された模様を確実に視認できる。
【0010】
本発明では、前記模様は、前記入射面への光の入射領域の位置を調整するためのマーカーであることが好ましい。
ここで、スクリーンが近接投射用のスクリーンとして構成され、当該スクリーンと、画像を投射するプロジェクターとの距離が短い場合には、入射面に対する光の入射領域(プロジェクターからの画像の投射領域)の位置調整を適切に行わないと、観察位置に向けて適切に光が反射されず、画像の視認性が低下する。しかしながら、プロジェクターから入射面に向けて画像を斜方投射すると、プロジェクターの設置位置からは、当該画像は台形状に歪んで見えるので、当該位置調整が容易でない。このため、従来では、画像の投射位置を調整する調整者と、観察位置で入射面における画像の投射領域を確認する確認者とが必要であるという問題や、一人の調整者により調整する場合でも、当該設置位置と観察位置とを往復する必要があり、当該位置調整が面倒であるという問題がある。
【0011】
これに対し、本発明では、第2反射領域に形成された模様は、入射面への光の入射領域の位置、すなわち、画像の投射領域の位置を調整するためのマーカーとして形成されている。これによれば、観察位置とは異なる位置であるプロジェクターの設置位置から当該マーカーを確認することで、入射面における光の入射領域の位置調整を1人の調整者により容易に行うことができる。この際、当該マーカーに応じた画像をプロジェクターが投射すれば、当該位置調整をより適切に実施できる。
【0012】
また、本発明のスクリーン成形型の製造方法は、光が入射される入射面に、当該光を反射させる凹状のレンズ要素が複数配列されたスクリーンを成形するためのスクリーン成形型の製造方法であって、前記レンズ要素に応じた凹状のレンズ型を有する母型を製造する母型製造工程と、前記母型から前記レンズ型が転写された中間型を製造する中間型製造工程と、前記中間型に所定の模様に応じた加工を施す模様形成工程と、を有することを特徴とする。
【0013】
なお、模様形成工程としては、中間型において模様が形成される部位(例えば、中間型に形成されたレンズ型の輪郭部分)に変形を生じさせることができる加工を挙げることができ、加熱、光照射、電気的刺激及び加圧等を例示できる。
本発明によれば、製造されるスクリーンのレンズ要素に応じたレンズ型が形成された母型から当該レンズ型が転写された中間型に対して、模様形成工程にて、所定の模様に応じた加工が施される。このような中間型を基材を押圧する等して、レンズ型に応じた形状を転写することで、前述のスクリーンと同様のスクリーンを製造できる。
【0014】
本発明では、前記中間型は、金属により形成され、当該中間型は、前記凹状のレンズ型に応じた凸状のレンズ型を有し、前記模様形成工程では、前記中間型における前記凸状のレンズ型が形成された面とは反対側の面に対して、レーザー光の照射により前記模様を描画することが好ましい。
なお、レーザー光の強度としては、レンズ要素において前述の第1反射領域に変形が生じない程度の強度とすることが好ましく、金属製の中間型に他の金属製部材を溶接できる程度の強度を例示できる。
本発明によれば、模様形成工程では、中間型において凸状のレンズ型が形成された面とは反対側の面に、レーザー光を照射する。これにより、当該レーザー光の照射範囲内のレンズ型においては、当該反対側の面に最も近い輪郭部分がわずかに変形する。この輪郭部分は、凹状のレンズ要素における前述の隅部に応じた位置となる。このような中間型を用いることで、入射面に形成される複数のレンズ要素の隅部の形状が部分的に異なるスクリーンを製造することができ、魔鏡の原理により、中間型に描画された模様と同様の模様を視認できる。そして、このような中間型の加工は、レーザー光による模様の描画であり、各レンズ型の輪郭部分を個々に変形させるものではないので、前述のスクリーンを製造するための中間型を簡易に加工できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係るプロジェクションシステムの構成を示す模式図。
【図2】前記実施形態におけるスクリーンを示す正面図。
【図3】前記実施形態における第1凹部を示す斜視図。
【図4】前記実施形態における第1凹部を示す正面図
【図5】前記実施形態における第1凹部及び第2凹部を示す斜視図。
【図6】前記実施形態におけるパターンを示す図。
【図7】前記実施形態におけるパターンとパターン画像PPとを示す図。
【図8】前記実施形態におけるスクリーンを示す断面図。
【図9】(A)前記実施形態における母型製造工程(マスク形成手順)を示す模式図。(B)前記実施形態における母型製造工程(孔形成手順)を示す模式図。(C)前記実施形態における母型製造工程(レンズ型形成手順)を示す模式図。(D)前記実施形態における母型製造工程(除去手順)を示す模式図。
【図10】(A)前記実施形態における中間型製造工程(電鋳手順)を示す模式図。(B)前記実施形態における中間型製造工程(剥離手順)を示す模式図。(C)前記実施形態におけるパターン形成工程を示す模式図。(D)前記実施形態における転写工程を示す模式図。(E)前記実施形態における転写工程を示す模式図。
【図11】前記実施形態におけるスクリーンの隅部を変形させる工程を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔プロジェクションシステムの構成〕
以下、本発明の一実施形態について、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態に係るプロジェクションシステム1の構成を示す模式図である。
本実施形態に係るプロジェクションシステム1は、図1に示すように、画像を投射するプロジェクター2と、当該プロジェクター2から入射された画像を表示するスクリーン3とを備えて構成されている。
【0017】
プロジェクター2は、詳しい図示を省略するが、光源装置と、当該光源装置から出射された光を変調して画像を形成する光変調装置と、変調された光(画像)を投射する投射光学装置とを有する画像形成装置、及び、形成される画像のデータ(画像データ)を光変調装置に出力する制御装置を備える。
このうち、光源装置は、超高圧水銀ランプ等の光源ランプや、LED(Light Emitting Diode)等の固体光源を例示できる。また、光変調装置は、透過型及び反射型の液晶パネルや、マイクロミラーを用いたデバイス等を例示でき、投射光学装置は、鏡筒内に複数のレンズが収納された組レンズを例示できる。
【0018】
制御装置は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等の回路素子が実装された回路基板として構成される。この制御装置は、プロジェクター2全体を制御する他、当該プロジェクター2の外部から入力される画像情報に応じた画像データを光変調装置に出力する。また、制御装置は、当該ROMに記憶された投射位置調整用のパターン画像PP(図7参照)の画像データを光変調装置に出力する。これにより、画像形成装置は、制御装置から入力される画像データに応じた画像をスクリーン3に投射する。
【0019】
〔スクリーンの構成〕
図2は、スクリーン3を示す正面図である。
スクリーン3は、当該スクリーン3の正面側下方に位置するプロジェクター2から斜方入射される光を、当該スクリーン3の正面側に設定された観察位置VP(換言すると、入射面31の法線方向に設定された観察位置VP)に向けて反射させ、当該光により形成される画像を表示する。これにより、当該観察位置VPに位置する観察者VRにより画像が視認される。
このようなスクリーン3は、図2に示すように、正面視略長方形状に形成されており、当該スクリーン3の正面には、投射光が入射される入射面31が形成されている。
【0020】
入射面31は、当該入射面31の延長面31A上に予め設定された基準点P1を中心とした所定範囲内の領域311(図2における斜線部分)と、当該領域311外の領域312とを有する。これら各領域311,312には、凹状のレンズ要素4(4A,4B)が形成されている。
具体的に、領域311,312内には、基準点P1を中心とする同心円(円及び楕円を含む)の一部を構成する仮想の基準線SLに沿って、第1凹部41(図3及び図4参照)からなるレンズ要素4Aが配置されている。また、領域312内には、第1凹部41と、基準点P1からの放射方向において隣り合う第1凹部41間に形成される第2凹部42(図5参照)とにより構成されるレンズ要素4Bが配置されている。
【0021】
これら領域311,312に設定される基準線SLの間隔は、基準点P1から離れるに従って大きくなるように設定されており、これにより、基準点P1から離れるに従って、レンズ要素4A,4Bの中心間距離は大きくなる。また、レンズ要素4A,4Bの基準点P1からの放射方向の寸法も、当該基準点P1から離れるに従って大きくなるように設定されている。
なお、図2においては、基準線SLのうち、代表的な基準線SLを図示しているが、実際には、より細かい間隔で当該基準線SLは設定されている。また、図2においては、図示された基準線SLの符号も一部省略している。更に、基準点P1は、本実施形態では、入射面31の中心点CPを通る仮想の直線である中心線CL上に設定されている。
【0022】
〔第1凹部の構成〕
図3は、領域311に形成されたレンズ要素4A(第1凹部41)を示す斜視図であり、図4は、当該レンズ要素4Aを示す正面図である。
第1凹部41により構成されるレンズ要素4Aは、前述の基準線SLに沿って配置され、これにより、領域311には、当該基準線SLに沿うレンズ要素4Aの列が複数形成される。
このようなレンズ要素4Aは、図3及び図4に示すように、投射光が入射される所定の曲率の凹曲面をそれぞれ有し、当該凹曲面には、反射層411が形成されている。この反射層411が形成される領域内には、プロジェクター2から入射される投射光を入射面31の法線方向に反射可能な有効反射領域ARが含まれる。このような反射層411は、高反射性を有する白色塗料をスプレー等で塗布するか、或いは、アルミや銀を斜方から蒸着する等して形成される。
【0023】
〔第2凹部の構成〕
図5は、領域312に形成された第1凹部41及び第2凹部42を示す斜視図である。
第1凹部41及び第2凹部42により構成されるレンズ要素4Bは、前述の基準線SLに沿って形成され、これにより、領域312には、当該基準線SLに沿うレンズ要素4Bの列が複数形成される。
これらのうち、第2凹部42は、図5に示すように、第1凹部41に対して基準点P1からの放射方向(例えば、図5に示すA方向)基端側に当該第1凹部41に隣接して形成されている。これら第2凹部42は、当該第1凹部41(詳しくは、有効反射領域AR)に、投射光を入射させる機能を有する。
【0024】
ここで、図1に示したように、入射面31の下側に位置するプロジェクター2から投射光PLが当該入射面31に斜方入射される場合、投射光PLの軌跡(実線)と入射面31の法線NM(点線)との角度は、投射光の起点(プロジェクターの設置位置)から当該投射光が入射される入射面31上の位置が離れるに従って大きくなる。図1の例では、当該角度は、下側から上側に向かうに従って大きくなる。
【0025】
このため、第2凹部42が形成されていないと、ある第1凹部41の有効反射領域ARに入射される予定の投射光が、当該第1凹部41の放射方向基端側に位置する他の第1凹部41の端縁により遮られてしまう。この場合、第1凹部41の有効反射領域ARに投射光が入射されないため、スクリーンの正面側の必要な範囲全体に投射光が反射されなくなり、当該スクリーンの視野角を確保することが困難になる。
【0026】
このような問題から、第1凹部41における基準点P1からの放射方向基端側に、同じレンズ要素4Bを構成する第2凹部42を形成することにより、基準点P1から離れた位置の第1凹部41における有効反射領域ARに、投射光を適切に入射させることができ、スクリーン3の視野角を確保することができる。
なお、レンズ要素4において有効反射領域ARは、本発明の第1反射領域に相当し、前述のように、入射面31の法線方向(第1方向)に入射された光を反射させる。また、当該レンズ要素4において有効反射領域AR以外の領域は、本発明の第2反射領域に相当し、結果的に当該法線方向とは異なる方向(第2方向)に入射された光を反射させる。
【0027】
〔入射面に形成されたパターン〕
図6は、入射面31に形成されたパターンPTを示す図である。
上記のレンズ要素4が形成された入射面31には、当該各レンズ要素4の稜線RL(第1凹部41の稜線及び第2凹部42の稜線。図3〜図5参照)の形状(特に隅部Cの形状)が、他のレンズ要素4の形状と異なることにより視認されるパターンPTが形成されている。すなわち、当該パターンPTは、有効反射領域AR以外の位置に形成されている。
このパターンPTは、図6に示すように、本実施形態では、プロジェクター2による画像の投射領域(光の入射領域)の位置調整用マーカーとして構成され、4本の直線L(L1〜L4)により構成されている。これらのうち、2本の直線L1,L2は、入射面31の縦方向に延出し、2本の直線L3,L4は、横方向に延出する。
なお、隅部Cの形状については、後に詳述する。
【0028】
このようなパターンPTは、観察位置VP(すなわち、当該入射面31の法線方向に設定された観察位置VP)からスクリーン3を観察した場合には視認されにくいが、他の位置からスクリーン3を観察した場合には、魔鏡の原理により視認可能な模様である。なお、本実施形態では、当該パターンPTは、少なくともプロジェクター2の設置位置から入射面31を観察した場合に、視認可能な模様として構成されている。
【0029】
図7は、入射面31のパターンPTと、プロジェクター2から投射された投射位置調整用のパターン画像PPとを示す図である。
スクリーン3に対して画像の投射位置を調整する際には、使用者の操作に応じて、プロジェクター2が図7に示すパターン画像PPを投射する。このパターン画像PPには、パターンPTの直線L1,L2に応じた2本の直線LP1,LP2と、パターンPTの直線L3,L4に応じた2本の直線LP3,LP4とが含まれている。これら直線L1,L2と直線LP1,LP2とがそれぞれ一致し、また、直線L3,L4と直線LP3,LP4とが一致するように、パターン画像PPの投射位置を修正及び補正することにより、スクリーン3の入射面31に対して適切な位置に、画像を投射することができる。
なお、当該投射位置の修正及び補正の際には、手動又は自動で台形歪み補正等の処理を行ってもよい。
【0030】
〔隅部の形状〕
上記直線L1〜L4は、レンズ要素4において有効反射領域ARの外側に位置する隅部C(1つのレンズ要素4において最も突出した部位)の形状が入射面31全体で一様でないことにより、観察位置VPからは視認されにくいものの、プロジェクター2の設置位置からは視認されるように形成されている。すなわち、これら直線L1〜L4上に位置する隅部Cの形状は、他の隅部Cの形状と異なる。
【0031】
図8は、スクリーン3を示す断面図である。詳述すると、図8は、パターンPTに含まれる直線Lに交差する方向におけるスクリーン3を示す断面図である。なお、図8においては説明の便宜上、反射層411における有効反射領域ARの位置を斜線にて示す。
図8に示すように、直線Lに応じた位置の隅部C1(レンズ要素4A1,4A2の共通する稜線RL上に位置する隅部C1)は、当該直線L上に無い他のレンズ要素4Aの隅部C2(レンズ要素4A2,4A3の共通する稜線RL上に位置する隅部C2),C3(レンズ要素4A3,4A4の共通する稜線RL上に位置する隅部C3)と形状が異なる。具体的には、隅部C1は、隅部C2,C3に比べて、基準点P1(図2参照)を中心とする放射方向先端側に僅かに傾くように形成されている。
このため、入射面31における隅部C(C1〜C3)の形状は一様ではなく、不連続である。なお、隅部C1の変形は、反射層411に形成された有効反射領域ARが変形されない程度の変形である。
【0032】
このような隅部C(C1)が入射面31に形成されていることにより、観察位置VPから入射面31を観察した場合には、隅部C1の変形(すなわちパターンPT)は視認されにくいものの、入射面31をプロジェクター2の設置位置から見た場合には、当該設置位置側への戻り光の光量に部分的な差異が生じてパターンPTが視認可能となる。
【0033】
以上、レンズ要素4Aの隅部Cの形状について説明したが、レンズ要素4Bの隅部Cの形状についても同様である。
なお、本実施形態では、直線L上に位置する隅部C1の形状は、入射された光を観察位置VPに反射させずに、例えばプロジェクター2の設置位置等の他の位置に向けて反射させる形状となっている。これにより、プロジェクター2からの画像の投射領域を当該他の位置から把握しやすくしている。しかしながら、直線L上に位置する隅部C1の形状が、他の隅部Cの形状と異なることで、プロジェクター2の設置位置から入射面31を観察した際に、当該設置位置側に反射される光量の違いから模様(パターンPT)を視認可能であれば、当該隅部C1の形状は他の形状でもよい。このため、必ずしも隅部C1の形状が、入射された光をプロジェクター2の設置位置側に反射させる形状でなくてもよい。
【0034】
〔スクリーンの製造工程〕
以上説明したスクリーン3は、以下に示すスクリーン製造工程により製造される。
このスクリーン製造工程は、作業順に、母型製造工程、中間型製造工程、パターン形成工程及び転写工程を有する。
【0035】
〔母型製造工程〕
図9は、母型製造工程を示す模式図である。なお、図9では、製造される母型91においてレンズ要素4Aが形成される領域を示す。
母型製造工程は、スクリーン3の製造に際して利用される母型91を製造する工程である。この母型製造工程は、マスク形成手順、孔形成手順、レンズ型形成手順及び除去手順を有する。
マスク形成手順では、図9(A)に示すように、ガラス等の基板SBの平坦面にマスク層MSを形成する。このマスク層MSは、本実施形態では、酸化クロム層、クロム層及び酸化クロム層の三層構造を有しているが、当該マスク層MSの材質及び層構造は、以後の処理に合わせて適宜選択可能である。
孔形成手順では、図9(B)に示すように、前述のレンズ要素4(第1凹部41及び第2凹部42)の設計上の形成位置に応じて、YAGレーザー等のレーザー照射等によりマスク層MSに孔Hを複数形成する。
【0036】
レンズ型形成手順では、マスク層MSに形成された各孔Hに、バッファードフッ酸等のエッチング液(図示省略)を注入して、図9(C)に示すように、レンズ要素4に応じた凹状のレンズ型911を基板SBに形成する。このレンズ型形成手順では、エッチング液により、各孔Hに応じた基板SBの領域が当該基板SBの下方に向かって浸食されるとともに、当該孔Hの周縁から外側に凹曲面状に広がるように基板SBが浸食されることで、基板SBにレンズ型911が形成される。
除去手順では、図9(D)に示すように、複数のレンズ型911が形成された基板SBからマスク層MS及びエッチング液を除去し、母型91となる基板SBを洗浄及び乾燥させる。以上により、母型91が製造される。
【0037】
〔中間型製造工程〕
図10は、中間型製造工程、パターン形成工程及び転写工程を示す模式図である。なお、図10では、母型91、中間型92及びスクリーン3においてレンズ要素4Aが形成される領域を示す。
中間型製造工程は、母型91から中間型92を製造する工程である。この中間型製造工程は、電鋳手順及び剥離手順を有する。
電鋳手順では、図10(A)に示すように、母型91に対して電気鋳造処理(ニッケル電鋳処理等)を行う。この後、剥離手順にて、図10(B)に示すように、金属製の電鋳型を母型91から剥離させることで、凹状のレンズ型911に対応する凸状のレンズ型921が複数形成された当該電鋳型である中間型92が製造される。
【0038】
〔パターン形成工程〕
パターン形成工程は、本発明の模様形成工程に相当する。
このパターン形成工程では、図10(C)に示すように、中間型92の裏面(すなわち、レンズ型921が形成された面とは反対側の面)に、レーザー光LBを照射して、前述のパターンPTに応じた模様を描画する。この際、レーザーの強度は、中間型92に対して他の金属部材を溶接可能な程度の強度に設定され、例えば、中間型92の厚さ寸法が0.6mmである場合に、溶接深さが0.08〜0.1mmとなるように設定することができる。また、例えば、レーザー光LBのスポットは0.5mm程度に設定することができる。なお、1つのレンズ要素4の前記放射方向の寸法は、略0.1〜0.5mmである。これらの数値は、適宜設定可能である。
【0039】
このようなレーザー照射が行われた部位(描画部位)では、凸状のレンズ型921において裏面に近い稜線部分922が僅かに変形する。この際、当該稜線部分922において、他の稜線部分922との交差部位が裏面に最も近い部位であるので、当該交差部位が最も大きく変形する。この交差部位は、後に製造されるスクリーン3における前述の隅部C(C1)に対応する部位であるので、このような中間型92を用いることにより、製造されるスクリーン3にパターンPTを構成する前述の隅部C1が形成される。
なお、当該交差部位が大きく変形してしまうと、製造されるスクリーン3の隅部C1の変形が大きくなり、当該スクリーン3を正面視した際に、隅部C1の変形、ひいては、パターンPTが視認しやすくなってしまうため、微細な変形に留められている。
【0040】
〔転写工程〕
転写工程では、図10(D)に示すように、樹脂により形成されたスクリーン基材SPに熱を加えつつ、中間型92における複数のレンズ型921が形成された面で当該スクリーン基材SPを押圧して、レンズ型921に応じた形状をスクリーン基材SPに転写する。この後、スクリーン基材SPを中間型92から剥離する。これにより、スクリーン基材SPには、レンズ型921に応じた凹曲面、すなわち、レンズ要素4が複数形成される。
そして、図10(E)に示すように、各レンズ要素4の第1凹部41に蒸着等により反射層411を形成する。これにより、複数のレンズ要素4が形成されたスクリーン3が製造される。なお、必要に応じて、当該各レンズ要素4において反射層411が形成された領域以外の領域に、外光等を吸収する光吸収層を形成してもよく、また、当該各レンズ要素4が形成された面(入射面31)に保護層を更に形成してもよい。
【0041】
以上説明した本実施形態に係るプロジェクションシステム1によれば、以下の効果を奏することができる。
レンズ要素4の有効反射領域ARに入射された光は、入射面31の法線方向に反射されるので、当該法線方向に設定された観察位置VPに向けて当該光を反射させることで、観察者VRにプロジェクター2から投射された画像を視認させることができる。
一方、有効反射領域AR以外の領域に入射された光は、当該法線方向とは異なる方向に反射されるが、当該有効反射領域AR以外の領域に位置する隅部C1は、前述のように、他の隅部Cとは異なる形状に形成されている。これにより、入射面31全面における隅部Cの形状が一様ではなくなるため、魔鏡の原理により、観察位置VPとは異なる位置から入射面31を観察した際に、隅部C1により形成される模様であるパターンPTを視認できる。従って、観察位置VPにて観察される画像を劣化させることなく、他の位置からパターンPTを視認できる。
【0042】
また、パターンPTは、入射面31に対する画像の投射領域の位置調整用マーカーであるので、プロジェクター2の設置位置から当該パターンPTを視認しつつ、画像の投射位置を調整することで、1人の調整者だけで当該投射位置の調整操作を容易に行うことができる。この際、プロジェクター2からは前述のパターン画像PPを投射すれば、当該調整操作をより適切に実施できる。
【0043】
このようなスクリーン3を製造する際には、レンズ要素4に応じた凹状のレンズ型911を有する母型91から電鋳処理により製造された中間型92に対して、パターン形成工程にて、模様(パターンPT)に応じた加工が施される。このような中間型92をスクリーン基材SPを押圧する等して、レンズ型921に応じた形状を当該スクリーン基材SPに転写することで、前述のスクリーン3を簡易に製造できる。
【0044】
また、パターン形成工程では、中間型92の裏面にレーザー光LBを照射することにより、当該レーザー光LBの照射部位のレンズ型921において当該裏面に最も近い稜線部分922(特に、隅部C1に対応する部位)をわずかに変形させる。これによれば、前述のスクリーン3を製造するための中間型92を簡易に加工できる。
【0045】
〔他の変形方法〕
図11は、スクリーン5の隅部を変形させる工程を説明する図である。なお、図11では、当該スクリーン5においてレンズ要素4Aが形成された領域の断面を示す。
前述のパターン形成手順を省略した中間型を用いて製造されたスクリーンの隅部を直接変形させることでも、前述のスクリーン3と同様の効果を奏するスクリーンを製造することができる。
図11に示すスクリーン5は、前述のレンズ要素4が複数形成された入射面51を有するが、パターン形成手順を省略した中間型を用いて製造されているため、当該入射面51においては、各レンズ要素4の隅部Cの形状は一様である。
この入射面51に対して、所定の幅寸法を有するローラーRを所定の押し圧で押圧回転させることで、レンズ要素4の稜線RLにおける隅部Cを変形させ、前述の模様をスクリーン5に形成することが可能である。例えば、当該模様として前述のパターンPTを形成する場合、直線Lに応じた位置に押し圧1kgで幅5mmのローラーRを押圧しつつ、当該直線Lに沿ってローラーRを回転移動させることにより、当該パターンPTを形成できる。この際、スクリーン5に熱を加えつつ上記ローラーRを回転移動させることで、より好適に隅部Cを変形させることができる。
【0046】
これにより、スクリーン5に形成されたレンズ要素4において、最も突出した部位である隅部CがローラーRにより変形され、観察位置からは視認されにくいものの、他の位置(例えば、プロジェクター2の設置位置)からは視認可能なパターンPT等の模様が、入射面51に形成される。なお、ローラーRにより隅部を変形させる手順は、各レンズ要素4に反射層411を形成する前であっても後であってもよい。
【0047】
更に、模様をスクリーン5に形成する他の方法としては、当該スクリーン5を加熱した上で、形成される模様に応じた型で入射面51を押圧しつつ、当該型を擦ることが挙げられる。例えば、入射面51において直線Lに応じた位置を、板状体の端面で斜方から押圧し、当該板状体を擦ることによっても隅部Cを変形させることができ、前述のパターンPTを形成できる。この場合には、隅部Cが面状に削れてしまわないように配慮する必要がある。
【0048】
〔実施形態の変形〕
本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
前記実施形態では、スクリーン3,5に形成され、魔鏡の原理により観察可能な模様として、縦横に延出する4本の直線Lを有するパターンPTとしたが、本発明はこれに限らない。すなわち、当該模様は、プロジェクター2からの画像の投射位置調整用のマーカーに限らない。例えば、文字列及び記号でもよく、ロゴ等の図柄でもよい。
また、前記実施形態では、レンズ要素4の隅部Cを変形させて、観察位置VP以外の領域から視認可能な直線Lを含むパターンPTを入射面31に形成したが、本発明はこれに限らない。すなわち、観察位置VP以外の領域から入射面31を観察した際に、当該入射面31が一様でないことにより、模様が視認されればよいので、直線L上の隅部Cを変形させずに、他の隅部Cを変形させることで模様を形成してもよい。
更に、レンズ要素4間に隙間が形成されている場合には、当該隙間の形状を変形させることで模様を形成してもよい。
【0049】
前記実施形態では、魔鏡の原理により観察可能な模様であるパターンPTは、レンズ要素4の隅部Cのうち、他の隅部Cとは異なる形状となるように変形された隅部C(例えば隅部C1)により構成されるとしたが、本発明はこれに限らない。すなわち、有効反射領域AR以外の領域が入射面31全体で一様でなければ、入射面31の法線方向に設定された観察位置VPからは視認されにくいものの、他の位置からは視認可能な模様を、当該入射面に形成することが可能である。例えば、レンズ要素4の稜線RLを変形させて、当該模様を形成してもよい。
【0050】
前記実施形態では、パターン形成工程にて、中間型92の裏面にレーザー光LBを照射して、当該裏面に模様(例えばパターンPT)に応じた描画を行うとしたが、本発明はこれに限らない。すなわち、当該模様に応じた位置のレンズ型921における有効反射領域AR以外の部位を変形させることができれば、他の方法により、パターン形成工程を実施してもよい。このような方法として、例えば、加熱、光照射、電気的刺激及び加圧等を例示できる。
【0051】
前記実施形態では、パターン形成工程にて、模様であるパターンPTが形成された中間型92を用いて、スクリーン3を製造した他、製造されたスクリーン5に対して荷重及び熱を加えてパターンPTを形成する方法を例示したが、本発明はこれに限らない。すなわち、スクリーンの入射面に、観察位置からは視認されにくく、他の位置からは視認されやすい模様を形成できればよい。このため、例えば、複数の部分スクリーンを接合して1つの大きなスクリーンを製造する場合の各部分スクリーン同士のつなぎ目により、当該模様を形成してもよい。
【0052】
前記実施形態では、基準点P1は、入射面31の延長面31A上に設定されていたが、本発明はこれに限らない。すなわち、当該基準点P1は、入射面31上に設定されていてもよい。
また、レンズ要素4は、基準点P1を中心とする同心円(円及び楕円を含む)の一部を構成する仮想の基準線SLに沿って配置されるとしたが、本発明はこれに限らない。すなわち、レンズ要素は、それぞれ平行な仮想の基準線に沿って配列されていてもよい。すなわち、レンズ要素の配列は問わない。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、画像が投射されるスクリーン、及び、当該スクリーンを成形するためのスクリーン成形型の製造に関して好適に利用できる。
【符号の説明】
【0054】
3,5…スクリーン、4(4A,4B)…レンズ要素、31,51…入射面、91…母型、92…中間型、911…レンズ型(凹状のレンズ型)、921…レンズ型(凸状のレンズ型)、AR…有効反射領域(第1反射領域)、C(C1〜C3)…隅部、NM…法線方向(第1方向)、PT…パターン(模様)、VP…観察位置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光が入射される入射面に、当該光を反射させる凹状のレンズ要素が複数配列されたスクリーンであって、
それぞれの前記レンズ要素に形成され、入射された光を第1方向に反射させる第1反射領域と、
前記第1反射領域以外の位置に形成され、入射された光を前記第1方向とは異なる第2方向に反射させる第2反射領域と、を有し、
前記第2反射領域には、前記第1方向に設定された観察位置とは異なる位置から前記入射面を観察した際に視認可能な模様が形成されている
ことを特徴とするスクリーン。
【請求項2】
請求項1に記載のスクリーンにおいて、
前記模様は、当該模様に応じた位置の前記レンズ要素の隅部の形状と、他の前記レンズ要素の隅部の形状とが異なることにより視認される
ことを特徴とするスクリーン。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のスクリーンにおいて、
前記模様は、前記入射面への光の入射領域の位置を調整するためのマーカーである
ことを特徴とするスクリーン。
【請求項4】
光が入射される入射面に、当該光を反射させる凹状のレンズ要素が複数配列されたスクリーンを成形するためのスクリーン成形型の製造方法であって、
前記レンズ要素に応じた凹状のレンズ型を有する母型を製造する母型製造工程と、
前記母型から前記レンズ型が転写された中間型を製造する中間型製造工程と、
前記中間型に所定の模様に応じた加工を施す模様形成工程と、を有する
ことを特徴とするスクリーン成形型の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のスクリーン成形型の製造方法において、
前記中間型は、金属により形成され、
当該中間型は、前記凹状のレンズ型に応じた凸状のレンズ型を有し、
前記模様形成工程では、前記中間型における前記凸状のレンズ型が形成された面とは反対側の面に対して、レーザー光の照射により前記模様を描画する
ことを特徴とするスクリーン成形型の製造方法。
【請求項1】
光が入射される入射面に、当該光を反射させる凹状のレンズ要素が複数配列されたスクリーンであって、
それぞれの前記レンズ要素に形成され、入射された光を第1方向に反射させる第1反射領域と、
前記第1反射領域以外の位置に形成され、入射された光を前記第1方向とは異なる第2方向に反射させる第2反射領域と、を有し、
前記第2反射領域には、前記第1方向に設定された観察位置とは異なる位置から前記入射面を観察した際に視認可能な模様が形成されている
ことを特徴とするスクリーン。
【請求項2】
請求項1に記載のスクリーンにおいて、
前記模様は、当該模様に応じた位置の前記レンズ要素の隅部の形状と、他の前記レンズ要素の隅部の形状とが異なることにより視認される
ことを特徴とするスクリーン。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のスクリーンにおいて、
前記模様は、前記入射面への光の入射領域の位置を調整するためのマーカーである
ことを特徴とするスクリーン。
【請求項4】
光が入射される入射面に、当該光を反射させる凹状のレンズ要素が複数配列されたスクリーンを成形するためのスクリーン成形型の製造方法であって、
前記レンズ要素に応じた凹状のレンズ型を有する母型を製造する母型製造工程と、
前記母型から前記レンズ型が転写された中間型を製造する中間型製造工程と、
前記中間型に所定の模様に応じた加工を施す模様形成工程と、を有する
ことを特徴とするスクリーン成形型の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のスクリーン成形型の製造方法において、
前記中間型は、金属により形成され、
当該中間型は、前記凹状のレンズ型に応じた凸状のレンズ型を有し、
前記模様形成工程では、前記中間型における前記凸状のレンズ型が形成された面とは反対側の面に対して、レーザー光の照射により前記模様を描画する
ことを特徴とするスクリーン成形型の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−198266(P2012−198266A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60491(P2011−60491)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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