スクロール圧縮機及び冷凍サイクル装置
【課題】背圧室内に供給された液冷媒を液状態のまま効率的に圧縮室へインジェクションすることを可能とし、圧縮室内の圧力上昇を抑制することが可能なスクロール圧縮機を得る。
【解決手段】揺動スクロール2と揺動スクロール2の下方に設けたフレーム3との間に形成された背圧室18と、シェル8の外部から供給される液冷媒を背圧室18に導く液冷媒回路17と、背圧室18において液冷媒回路17から供給された液冷媒が溜まる部分である下部空間と圧縮室9とを連通するインジェクション流路とを備えたため、液インジェクションをかけて運転する際、背圧室18の下部空間に溜まる液冷媒を圧縮室9に導くことができ、圧縮室9内の圧力上昇を抑制することが可能である。
【解決手段】揺動スクロール2と揺動スクロール2の下方に設けたフレーム3との間に形成された背圧室18と、シェル8の外部から供給される液冷媒を背圧室18に導く液冷媒回路17と、背圧室18において液冷媒回路17から供給された液冷媒が溜まる部分である下部空間と圧縮室9とを連通するインジェクション流路とを備えたため、液インジェクションをかけて運転する際、背圧室18の下部空間に溜まる液冷媒を圧縮室9に導くことができ、圧縮室9内の圧力上昇を抑制することが可能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に冷凍機、空気調和機、給湯機等に搭載され、固定スクロールと揺動スクロールとを噛み合わせて圧縮を行うスクロール圧縮機及び冷凍サイクル装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のスクロール圧縮機には、冷凍機油の劣化防止等を目的として、高圧の液冷媒を圧縮室内へインジェクションし、圧縮室内の温度を下げることでその吐出温度を低下させて運転を行っているものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、従来のスクロール圧縮機として、揺動スクロールの固定スクロールとは反対側に、圧縮室と連通する背圧室を設けると共に、背圧室に圧縮機外から液状の冷媒を供給する液冷媒回路を設け、液冷媒回路から背圧室に供給した液冷媒を背圧室でガス化し、ガス化した冷媒の一部を圧縮室にインジェクションするようにしたものがある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−180182号公報(第3頁、第1図)
【特許文献2】特開平5−26188号公報(第3頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の技術では、液冷媒を圧縮室にインジェクションしており、この場合、圧縮過程の冷媒温度上昇を防止できる一方、圧縮室内の圧力が上昇してしまい、その圧力により、揺動スクロールに大きな軸方向力、即ち、スラスト荷重が作用するという課題があった。
【0006】
この問題に対する対応としては、特許文献2のように背圧室を設け、その背圧室に圧縮室内で圧縮された冷媒を供給し、背圧室内の圧力を揺動スクロールに加えることでスラスト荷重を支持する方法が一般的である。特許文献2では更に、背圧室に圧縮機外部から直接、液冷媒を供給するようにしており、その液冷媒を背圧室内でガス化し、ガス化した冷媒の一部を圧縮室にインジェクションすることで、圧縮室内の温度や吐出温度を下げる効果があるとしている。しかしながら、圧縮室内の温度を下げるにはガス冷媒よりも液冷媒の方が効果的であり、ガス冷媒を圧縮室にインジェクションしても、実際上、圧縮室内の温度や吐出温度を効果的に下げられないという課題があった。また、圧縮室内の温度や吐出温度を下げられるとしても、そのためには多くのインジェクション流量が必要となり、圧縮室内の圧力上昇が高くなってしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、背圧室内に供給された液冷媒を液状態のまま効率的に圧縮室へインジェクションすることを可能とし、圧縮室内の圧力上昇を抑制することが可能なスクロール圧縮機及び冷凍サイクル装置を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るスクロール圧縮機は、台板の一方の面に渦巻体が形成された固定スクロールと、固定スクロールの下側に設けられ、台板の一方の面に渦巻体が形成され、渦巻体が固定スクロールの渦巻体に組み合わされて圧縮室を形成する揺動スクロールと、揺動スクロールの下方に設けられ、圧縮室で冷媒を圧縮する際に揺動スクロールに作用する荷重を支持するフレームと、固定スクロール、揺動スクロール及びフレームを内部に収容するシェルと、揺動スクロールの台板とフレームとの間に構成された背圧室と、フレームに設けられ、シェルの外部から供給される液冷媒を背圧室に導く液冷媒回路と、背圧室において液冷媒回路から供給された液冷媒が溜まる部分である下部空間と圧縮室とを連通するインジェクション流路とを備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、背圧室の下部空間に溜まった液冷媒を液冷媒のままインジェクション流路により圧縮室へと導くことができるため、圧縮室内の圧力上昇を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態1における縦型の密閉型スクロール圧縮機の全体構造図である。
【図2】図1の要部拡大断面図で、固定スクロール、揺動スクロール及びフレームの断面図である。
【図3】図1のスクロール圧縮機の圧縮工程図である。
【図4】本発明の実施の形態1によるスクロール圧縮機を備えた冷凍サイクル装置の冷媒回路を示す回路構成図である。
【図5】図2の背圧室部分の拡大図である。
【図6】圧縮室の容積と圧縮室の温度との関係図である。
【図7】圧縮室の容積とインジェクション流量との関係図である。
【図8】圧縮室の容積と圧縮室の圧力との関係図である。
【図9】実施の形態2におけるスクロール圧縮機の要部拡大断面図で、固定スクロール、揺動スクロール及びフレームの断面図である。
【図10】実施の形態3におけるスクロール圧縮機の要部拡大断面図で、固定スクロール、揺動スクロール及びフレームの断面図である。
【図11】液インジェクション流量とスクロール圧縮機の入力値との関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
本実施の形態1を以下、図1から図7により説明する。なお、図1から図7及び後述の図において、同一の符号を付したものは、同一の又はこれに相当するものであり、これは明細書の全文において共通している。更に、明細書全文に表れている構成要素の形態は、あくまで例示であってこれらの記載に限定されるものではない。
【0012】
図1は、本発明の実施の形態1における縦型の密閉型スクロール圧縮機の全体構造図である。このスクロール圧縮機100は、冷媒等の流体を吸入し、圧縮して高温・高圧の状態として吐出させる機能を有している。スクロール圧縮機100は、外郭を構成するシェル8の内部に、圧縮機構部35や駆動機構部36、その他の構成部品が収納され、構成されている。図1に示すように、シェル8内において、圧縮機構部35が上側に、駆動機構部36が下側にそれぞれ配置されており、駆動機構部36の下方は油を貯留するための油溜り12となっている。
【0013】
また、シェル8には、流体を吸入するための吸入管5、及び流体を吐出するための吐出管13が接続されている。シェル8の内部には、駆動機構部36を上下に挟んで対向するようにフレーム3及びサブフレーム16がシェル8に固定して設けられている。なお、フレーム3は、その外周面を焼き嵌めや溶接等によってシェル8の内周面に固定するとよい。
【0014】
圧縮機構部35は、フレーム3の上方に設けられ、吸入管5から吸入した流体を圧縮する機能を有している。駆動機構部36は、圧縮機構部35を駆動する機能を有している。
【0015】
以下、圧縮機構部35及び駆動機構部36のそれぞれの構成について詳細に説明する。
圧縮機構部35は、固定スクロール1と、揺動スクロール2とを備えている。図1に示すように、揺動スクロール2は下側に、固定スクロール1は上側に配置されるようになっている。固定スクロール1は、第1台板1cと、第1台板1cの一方の面に立設された渦巻状突起である第1渦巻体1bとを有している。揺動スクロール2は、第2台板2cと、第2台板2cの一方の面に立設された渦巻状突起である第2渦巻体2bとを有している。
【0016】
固定スクロール1及び揺動スクロール2は、第1渦巻体1bと第2渦巻体2bとを互いに噛み合わせた状態でシェル8内に配置されている。第1渦巻体1b及び第2渦巻体2bは、インボリュート曲線にならって形成されており、第1渦巻体1b及び第2渦巻体2bが噛み合って組み合わされることで、第1渦巻体1bと第2渦巻体2bとの間に圧縮室9が形成される。
【0017】
固定スクロール1は、フレーム3やシェル8に、ボルト等(図示せず)によって固定されている。固定スクロール1の中央部には、圧縮室9内で圧縮され高圧となった流体を吐出する吐出ポート1aが形成されている。吐出ポート1aの出口開口部には、この出口開口部を覆い、流体の逆流を防ぐ板バネ製の弁11が配設されている。弁11の一端側には、弁11のリフト量を制限する弁押さえ11aが設けられている。つまり、圧縮室9内で流体が所定圧力まで圧縮されると、弁11がその弾性力に逆らって持ち上げられ、圧縮された流体が吐出ポート1aから高圧空間15内に吐出され、吐出管13を通ってスクロール圧縮機100の外部に吐出される。
【0018】
揺動スクロール2は、固定スクロール1に対して自転することなく偏心旋回公転運動を行なうようになっている。また、揺動スクロール2の渦巻体形成面とは反対側の面(以下、スラスト面と称する)2dの略中心部には、駆動力を受ける中空円筒形状の凹状軸受2eが形成されている。この凹状軸受2eには、クランクシャフト4の上端に設けられた偏心ピン部4aが嵌入(係合)されている。また、揺動スクロール2のスラスト面2d側に設けられたフレーム3は、圧縮室9で冷媒を圧縮する際に揺動スクロール2に作用するスラスト荷重を支持している。
【0019】
なお、シェル8内には、揺動スクロール2の偏心旋回運動中における自転運動を阻止するための図示省略のオルダムリングが配設されている。このオルダムリングは、たとえば揺動スクロール2とフレーム3との間に配設され、揺動スクロール2の自転運動を阻止するとともに、公転運動を可能とする機能を果たすようになっている。つまり、オルダムリングは、揺動スクロール2の自転防止機構として機能している。
【0020】
駆動機構部36は、ステータ7と、ステータ7の内周面側に回転可能に配設されたロータ6と、シェル8内に垂直方向に収容され、回転軸であるクランクシャフト4と、で少なくとも構成されている。ステータ7は、外周面が焼き嵌め等によりシェル8に固着支持されており、通電されることによってロータ6を回転駆動させる機能を有している。ロータ6は、内部に永久磁石を有し、ステータ7と僅かな隙間を隔てて保持されている。ロータ6は、クランクシャフト4の外周に固定されており、ステータ7に通電がされることにより回転駆動し、クランクシャフト4を回転させる機能を有している。
【0021】
クランクシャフト4は、ロータ6の回転に伴って回転し、揺動スクロール2を回転駆動させる。このクランクシャフト4は、上側をフレーム3の中心部に位置する軸受部3bで、下側をサブフレーム16の中心部に位置する副軸受16aで、回転可能に支持されている。このクランクシャフト4の上端部には、揺動スクロール2を偏心しつつ回転できるように、凹状軸受2eと嵌め合う偏心ピン部4aが形成されている。
【0022】
図2は、図1の固定スクロール、揺動スクロール及びフレームの断面図である。以下、図2を用いて本発明の特徴部分の構造について説明する。
揺動スクロール2は、スラスト面2dに円環状の凹部が形成されており、その凹部とフレーム3の上面とで囲まれた空間で背圧室18が形成されている。そして、揺動スクロール2には、背圧室18の下部空間と圧縮室9とを連通するインジェクション流路20が形成されている。インジェクション流路20は、背圧室18の上面18aと圧縮室9とを連通する第1インジェクションポート20aと、背圧室18の上面18aから第1インジェクションポート20aに連通して下方に向けて円筒状に突出形成され、下端が背圧室18の下部空間内に位置する第2インジェクションポート20bとを有している。第2インジェクションポート20bはここでは円筒状に形成されているが、形状は特に限定するものではなく、下部空間と圧縮室9とを連通する孔が形成されていればよい。なお、第2インジェクションポート20bの下端は、具体的には背圧室18の高さの半分よりも下方に位置するように構成されている。
【0023】
また、フレーム3には、シェル8の外側から供給される高圧の液冷媒を、背圧室18に供給するための液冷媒回路17が設けられている。液冷媒回路17は、シェル8の側面に設けた配管17a(図1参照)により、シェル8外の冷媒回路に連通している。
【0024】
図3は、図1のスクロール圧縮機の圧縮工程図であり、揺動スクロール2の第2渦巻体2bが0deg→90deg→180deg→270degと揺動運動する状況を表している。図3及び図1を参照してスクロール圧縮機100の動作について簡単に説明する。
シェル8に設けられた図示省略の電源端子に通電されると、ステータ7とロータ6とにトルクが発生し、クランクシャフト4が回転する。クランクシャフト4の回転により、揺動スクロール2がオルダムリング(図示省略)により自転を規制されて揺動運動する。吸入管5からシェル8内に吸入された冷媒ガスは、固定スクロール1の第1渦巻体1bと揺動スクロール2の第2渦巻体2b間に形成された複数の圧縮室9のうち外周部の圧縮室9に取り込まれる。
【0025】
そして、ガスを取り込んだ圧縮室9は、揺動スクロール2の揺動運動に伴い、外周部から中心方向に移動しながら容積を減じ、冷媒ガスを圧縮する。ここで、圧縮室9に第1インジェクションポート20aが開口している間、後述するように液冷媒が圧縮室9にインジェクションされる。圧縮室9内の冷媒は、インジェクションされた高圧の液冷媒と共に圧縮される。そして、圧縮された冷媒ガスは、固定スクロール1に設けた吐出ポート1aから弁押さえ11aに逆らって吐出され、吐出管13からシェル8外に排出される。
【0026】
図4は、本発明の実施の形態1によるスクロール圧縮機を備えた冷凍サイクル装置の冷媒回路を示す回路構成図である。
図4の冷凍サイクル装置は、スクロール圧縮機100と、凝縮器31と、減圧装置としての膨張弁32と、蒸発器33とを備え、これらが順次配管で接続されて冷媒が循環するように構成されている。また、凝縮器31と膨張弁32との間から分岐し、スクロール圧縮機100の側面から突出した配管17aに接続されるインジェクション回路34を備えている。インジェクション回路34には流量調整弁としての電磁弁34aが設けられており、圧縮室9にインジェクションする流量を調整可能となっている。
【0027】
図4のように構成された冷媒回路において、例えば、吸入温度と吐出温度の差が大きい、すなわち高圧低圧の差圧が大きければ、吐出管13から排出される冷媒は高温となる。そこで凝縮器31出口から取り出した液冷媒を圧縮室9へインジェクションすることにより、吐出温度を下げるのである。すなわち、凝縮器31から流出した高圧の液冷媒は、電磁弁34aで絞り膨張率と流量を制御され、配管17aを通ってフレーム3の中へと入り、フレーム3の中に設けられた液冷媒回路17を通って、まずは背圧室18に流入する。
【0028】
図5は、図2の背圧室部分の拡大図である。図3においてグレー部分は液冷媒を示している。
背圧室18に流入した冷媒は、高温の圧縮室9から背圧室18への熱伝導と背圧室18で流路体積が膨張することにより、背圧室18内でその一部が蒸発する。蒸発した冷媒は背圧室18の上部空間に溜まり液冷媒は図5に示すように下部空間に溜まる。第2インジェクションポート20bの下端は上述したように背圧室18の下部空間(いわば、液冷媒が溜まる部分)に位置しているため、第2インジェクションポート20bには、背圧室18の下部空間に溜まった冷媒が流入する。ここで、背圧室18には、液冷媒回路17から液冷媒が連続して供給されるため、背圧室18の下部空間に溜まっている液冷媒が下から押され、液冷媒のみが第2インジェクションポート20bに入っていく。よって、圧縮室9内に液冷媒の状態でインジェクションすることができる。
【0029】
このようにして第1インジェクションポート20aから圧縮室9にインジェクションされた高圧の液冷媒は、圧縮室9内で気化しその潜熱で圧縮過程にある冷媒を効果的に冷却する。
【0030】
図6は、クランクシャフトの回転に伴って変化する圧縮室の容積と圧縮室の温度との関係図である。図6において横軸が圧縮室の容積、縦軸が圧縮室の温度であり、本発明のようにインジェクション有りの場合と、比較例としてインジェクション無しの場合とを示している。図7は、クランクシャフトの回転に伴って変化する圧縮室の容積とインジェクション流量との関係図である。図7において横軸が圧縮室の容積、縦軸がインジェクション流量であり、本発明の場合と、従来例の場合とを示している。図8は、クランクシャフトの回転に伴って変化する圧縮室の容積と圧縮室の圧力との関係図で、横軸が圧縮室の容積、縦軸が圧縮室の圧力であり、本発明の場合と、従来例の場合とインジェクション無しの場合とを示している。
【0031】
図6に示すように、インジェクションが行われている容積範囲では、上述したように、第1インジェクションポート20aから圧縮室9にインジェクションされた高圧の液冷媒が圧縮室9内で気化し、その潜熱で圧縮過程にある冷媒を冷却するため、圧縮室9の温度が低下している。
【0032】
ここで、従来例においては第1インジェクションポート20aからガス状態の冷媒を圧縮室9内にインジェクションするため、圧縮室9の冷却はガスによって行われる。従って図7及び図8に示すように、インジェクション流量を多くする必要があり、圧縮室9内の圧力上昇が高くなる。本発明においては、上述したようにインジェクション流路20により液冷媒をインジェクションすることができるため、液冷媒の気化する際の蒸発潜熱分だけインジェクション流量が少なくて済む。よって、従来例と比較して圧縮室9内の圧力上昇を抑えることができる。
【0033】
以上説明したように、本実施の形態1によれば、背圧室18の下部空間に溜まった液冷媒をインジェクション流路20により圧縮室9へと導くことができるため、従来例と比較して少ないインジェクション流量で吐出温度を下げ、圧縮室9内の圧力上昇を抑えることができる。
【0034】
また、圧縮室9内の圧力上昇を抑えられるため、第1渦巻体1b及び第2渦巻体2bに作用する荷重を低減でき、強度の信頼性を増すことができる。また、背圧室18内の圧力によりスラスト軸受10に作用するスラスト荷重も抑えられるため、揺動スクロール2とフレーム3との間の摺動摩擦損失を減らし、性能を向上できる。
【0035】
実施の形態2.
実施の形態1では、背圧室18の下部空間と圧縮室9とを連通するインジェクション流路20を第1インジェクションポート20aと第2インジェクションポート20bにより構成していたが、実施の形態2は別の構成例を示すものである。具体的には、背圧室18の半径方向外側部分と圧縮室9とを連通した構成例である。
【0036】
図9は、実施の形態2におけるスクロール圧縮機の固定スクロール、揺動スクロール及びフレームの断面図である。図9に示す以外の構成は図1に示した実施の形態1と同様である。
実施の形態2では、背圧室18の円環状の上面18aに段差が設けられ、半径方向外側の外側円環状部分18bが半径方向内側の内側円環状部分18cよりも高さ位置が低く形成されている。外側円環状部分18bの高さは、具体的には外側円環状部分18bの高さ位置の半分よりも下方となるように構成されている。そして、揺動スクロール2には、背圧室18の上面18aの外側円環状部分18bと圧縮室9とを連通するインジェクションポート21が形成されている。すなわち、実施の形態2では、インジェクションポート21により、背圧室18の下部空間と圧縮室9とを連通するインジェクション流路20が構成されている。
【0037】
このように構成した実施の形態2では、背圧室18内で一部蒸発した液冷媒が背圧室18の半径方向内側の上部空間に溜まり、液冷媒は下部空間に溜まって外側円環状部分18bに接した状態となる。そして、インジェクションポート21は外側円環状部分18bに連通しているため、実施の形態1と同様、背圧室18の下部空間に溜まった液冷媒を圧縮室9へ導くことができる。その結果、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。また、実施の形態2は、実施の形態1のように背圧室18の上面18aから下方に突出する第2インジェクションポート20bが不要であるため、揺動スクロール2の加工性を向上でき、コストを削減できる。
【0038】
なお、背圧室18の円環状の上面18a全体に段差を設けたとして説明したが、必ずしも全体でなくてもよく、一部に段差を設け、その段差部分において半径方向外側部分が圧縮室9と連通する構成としてもよい。
【0039】
実施の形態3.
実施の形態3は、インジェクション流路20のまた別の構成例を示すものである。具体的には、背圧室18の半径方向内側と圧縮室9とを連通した構成例である。
【0040】
図10は、実施の形態3におけるスクロール圧縮機の要部拡大断面図で、固定スクロール、揺動スクロール及びフレームの断面図である。図10に示す以外の構成は図1に示した実施の形態1と同様である。
実施の形態3では、背圧室18の下部空間と圧縮室9とを連通するインジェクション流路20が、背圧室18の半径方向内側で圧縮室9と連通するように揺動スクロール2に設けられたインジェクションポート22により構成されている。具体的には、インジェクションポート22の背圧室18側の端部が背圧室18の高さ方向下半分で且つ半径方向内側で開口している。
【0041】
このように構成した実施の形態3では、実施の形態1と同様、背圧室18の下部空間に溜まった液冷媒を、インジェクションポート22により圧縮室9へ導くことができる。よって、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。なお、実施の形態3では、背圧室18の上面18aに実施の形態2のような段差加工が不要なため、実施の形態2に比べて揺動スクロール2の加工性を向上でき、コストを削減できる。
【0042】
さらに、実施の形態3では、インジェクションポート22の長さを実施の形態1及び実施の形態2に比べて短くできる。このため、圧縮室9から揺動スクロール2への熱伝導によりインジェクションポート22内の液冷媒が温度上昇するのを抑えることができる。その結果、より効率良く吐出温度を下げることができる。
【0043】
図11は、液インジェクション流量とスクロール圧縮機の入力値との関係を示す図で、冷媒として二酸化炭素を使用する場合と、フッ素系冷媒とを使用する場合とを示している。
二酸化炭素の作動圧力はフッ素系冷媒と比較して4倍程度ある。液インジェクション流量が増加するほどスクロール圧縮機100の入力値は増加するが、二酸化炭素は作動圧力が高いため、フッ素系冷媒と比較してスラスト軸受10等の摺動摩擦損失が大きい。このため、図11に示すように、二酸化炭素を使用した場合の入力値は、フッ素系冷媒を使用した場合と比較して、同じ液インジェクション流量のときの入力値の増加量が大きくなる。よって、図7に示したように液インジェクション量を従来例より少なくすることができる本発明は、冷媒として二酸化炭素を用いる場合、特に効果的である。なお、本発明のスクロール圧縮機で使用する冷媒は特に限定するものではなく、二酸化炭素、フッ素系冷媒のどちらでもよいし、他の冷媒でもよい。
【0044】
上記実施の形態1〜3では、背圧室18を揺動スクロール2に環状溝を形成して構成した例を示したが、必ずしもこの構成でなくてもよく、例えば背圧室18の一部又は全部がフレーム3側に形成されていてもよい。要は、揺動スクロール2のスラスト面2dに背圧を作用させることが可能に構成されていればよい。また、インジェクション流路20も、背圧室18の位置によってはインジェクション流路20の一部をフレーム3側に形成した構成としてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 固定スクロール、1a 吐出ポート、1b 第1渦巻体、1c 第1台板、2 揺動スクロール、2b 第2渦巻体、2c 第2台板、2d スラスト面、2e 凹状軸受、3 フレーム、3b 軸受部、4 クランクシャフト、4a 偏心ピン部、5 吸入管、6 ロータ、7 ステータ、8 シェル、9 圧縮室、10 スラスト軸受、11 弁、11a 弁押さえ、12 油溜り、13 吐出管、15 高圧空間、16 サブフレーム、16a 副軸受、17 液冷媒回路、17a 配管、18 背圧室、18a 上面、18b 外側円環状部分、18c 内側円環状部分、20 インジェクション流路、20a 第1インジェクションポート、20b 第2インジェクションポート、21 インジェクションポート、22 インジェクションポート、31 凝縮器、32 膨張弁、33 蒸発器、34 インジェクション回路、34a 電磁弁、35 圧縮機構部、36 駆動機構部、100 スクロール圧縮機。
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に冷凍機、空気調和機、給湯機等に搭載され、固定スクロールと揺動スクロールとを噛み合わせて圧縮を行うスクロール圧縮機及び冷凍サイクル装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のスクロール圧縮機には、冷凍機油の劣化防止等を目的として、高圧の液冷媒を圧縮室内へインジェクションし、圧縮室内の温度を下げることでその吐出温度を低下させて運転を行っているものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、従来のスクロール圧縮機として、揺動スクロールの固定スクロールとは反対側に、圧縮室と連通する背圧室を設けると共に、背圧室に圧縮機外から液状の冷媒を供給する液冷媒回路を設け、液冷媒回路から背圧室に供給した液冷媒を背圧室でガス化し、ガス化した冷媒の一部を圧縮室にインジェクションするようにしたものがある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−180182号公報(第3頁、第1図)
【特許文献2】特開平5−26188号公報(第3頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の技術では、液冷媒を圧縮室にインジェクションしており、この場合、圧縮過程の冷媒温度上昇を防止できる一方、圧縮室内の圧力が上昇してしまい、その圧力により、揺動スクロールに大きな軸方向力、即ち、スラスト荷重が作用するという課題があった。
【0006】
この問題に対する対応としては、特許文献2のように背圧室を設け、その背圧室に圧縮室内で圧縮された冷媒を供給し、背圧室内の圧力を揺動スクロールに加えることでスラスト荷重を支持する方法が一般的である。特許文献2では更に、背圧室に圧縮機外部から直接、液冷媒を供給するようにしており、その液冷媒を背圧室内でガス化し、ガス化した冷媒の一部を圧縮室にインジェクションすることで、圧縮室内の温度や吐出温度を下げる効果があるとしている。しかしながら、圧縮室内の温度を下げるにはガス冷媒よりも液冷媒の方が効果的であり、ガス冷媒を圧縮室にインジェクションしても、実際上、圧縮室内の温度や吐出温度を効果的に下げられないという課題があった。また、圧縮室内の温度や吐出温度を下げられるとしても、そのためには多くのインジェクション流量が必要となり、圧縮室内の圧力上昇が高くなってしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、背圧室内に供給された液冷媒を液状態のまま効率的に圧縮室へインジェクションすることを可能とし、圧縮室内の圧力上昇を抑制することが可能なスクロール圧縮機及び冷凍サイクル装置を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るスクロール圧縮機は、台板の一方の面に渦巻体が形成された固定スクロールと、固定スクロールの下側に設けられ、台板の一方の面に渦巻体が形成され、渦巻体が固定スクロールの渦巻体に組み合わされて圧縮室を形成する揺動スクロールと、揺動スクロールの下方に設けられ、圧縮室で冷媒を圧縮する際に揺動スクロールに作用する荷重を支持するフレームと、固定スクロール、揺動スクロール及びフレームを内部に収容するシェルと、揺動スクロールの台板とフレームとの間に構成された背圧室と、フレームに設けられ、シェルの外部から供給される液冷媒を背圧室に導く液冷媒回路と、背圧室において液冷媒回路から供給された液冷媒が溜まる部分である下部空間と圧縮室とを連通するインジェクション流路とを備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、背圧室の下部空間に溜まった液冷媒を液冷媒のままインジェクション流路により圧縮室へと導くことができるため、圧縮室内の圧力上昇を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態1における縦型の密閉型スクロール圧縮機の全体構造図である。
【図2】図1の要部拡大断面図で、固定スクロール、揺動スクロール及びフレームの断面図である。
【図3】図1のスクロール圧縮機の圧縮工程図である。
【図4】本発明の実施の形態1によるスクロール圧縮機を備えた冷凍サイクル装置の冷媒回路を示す回路構成図である。
【図5】図2の背圧室部分の拡大図である。
【図6】圧縮室の容積と圧縮室の温度との関係図である。
【図7】圧縮室の容積とインジェクション流量との関係図である。
【図8】圧縮室の容積と圧縮室の圧力との関係図である。
【図9】実施の形態2におけるスクロール圧縮機の要部拡大断面図で、固定スクロール、揺動スクロール及びフレームの断面図である。
【図10】実施の形態3におけるスクロール圧縮機の要部拡大断面図で、固定スクロール、揺動スクロール及びフレームの断面図である。
【図11】液インジェクション流量とスクロール圧縮機の入力値との関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
本実施の形態1を以下、図1から図7により説明する。なお、図1から図7及び後述の図において、同一の符号を付したものは、同一の又はこれに相当するものであり、これは明細書の全文において共通している。更に、明細書全文に表れている構成要素の形態は、あくまで例示であってこれらの記載に限定されるものではない。
【0012】
図1は、本発明の実施の形態1における縦型の密閉型スクロール圧縮機の全体構造図である。このスクロール圧縮機100は、冷媒等の流体を吸入し、圧縮して高温・高圧の状態として吐出させる機能を有している。スクロール圧縮機100は、外郭を構成するシェル8の内部に、圧縮機構部35や駆動機構部36、その他の構成部品が収納され、構成されている。図1に示すように、シェル8内において、圧縮機構部35が上側に、駆動機構部36が下側にそれぞれ配置されており、駆動機構部36の下方は油を貯留するための油溜り12となっている。
【0013】
また、シェル8には、流体を吸入するための吸入管5、及び流体を吐出するための吐出管13が接続されている。シェル8の内部には、駆動機構部36を上下に挟んで対向するようにフレーム3及びサブフレーム16がシェル8に固定して設けられている。なお、フレーム3は、その外周面を焼き嵌めや溶接等によってシェル8の内周面に固定するとよい。
【0014】
圧縮機構部35は、フレーム3の上方に設けられ、吸入管5から吸入した流体を圧縮する機能を有している。駆動機構部36は、圧縮機構部35を駆動する機能を有している。
【0015】
以下、圧縮機構部35及び駆動機構部36のそれぞれの構成について詳細に説明する。
圧縮機構部35は、固定スクロール1と、揺動スクロール2とを備えている。図1に示すように、揺動スクロール2は下側に、固定スクロール1は上側に配置されるようになっている。固定スクロール1は、第1台板1cと、第1台板1cの一方の面に立設された渦巻状突起である第1渦巻体1bとを有している。揺動スクロール2は、第2台板2cと、第2台板2cの一方の面に立設された渦巻状突起である第2渦巻体2bとを有している。
【0016】
固定スクロール1及び揺動スクロール2は、第1渦巻体1bと第2渦巻体2bとを互いに噛み合わせた状態でシェル8内に配置されている。第1渦巻体1b及び第2渦巻体2bは、インボリュート曲線にならって形成されており、第1渦巻体1b及び第2渦巻体2bが噛み合って組み合わされることで、第1渦巻体1bと第2渦巻体2bとの間に圧縮室9が形成される。
【0017】
固定スクロール1は、フレーム3やシェル8に、ボルト等(図示せず)によって固定されている。固定スクロール1の中央部には、圧縮室9内で圧縮され高圧となった流体を吐出する吐出ポート1aが形成されている。吐出ポート1aの出口開口部には、この出口開口部を覆い、流体の逆流を防ぐ板バネ製の弁11が配設されている。弁11の一端側には、弁11のリフト量を制限する弁押さえ11aが設けられている。つまり、圧縮室9内で流体が所定圧力まで圧縮されると、弁11がその弾性力に逆らって持ち上げられ、圧縮された流体が吐出ポート1aから高圧空間15内に吐出され、吐出管13を通ってスクロール圧縮機100の外部に吐出される。
【0018】
揺動スクロール2は、固定スクロール1に対して自転することなく偏心旋回公転運動を行なうようになっている。また、揺動スクロール2の渦巻体形成面とは反対側の面(以下、スラスト面と称する)2dの略中心部には、駆動力を受ける中空円筒形状の凹状軸受2eが形成されている。この凹状軸受2eには、クランクシャフト4の上端に設けられた偏心ピン部4aが嵌入(係合)されている。また、揺動スクロール2のスラスト面2d側に設けられたフレーム3は、圧縮室9で冷媒を圧縮する際に揺動スクロール2に作用するスラスト荷重を支持している。
【0019】
なお、シェル8内には、揺動スクロール2の偏心旋回運動中における自転運動を阻止するための図示省略のオルダムリングが配設されている。このオルダムリングは、たとえば揺動スクロール2とフレーム3との間に配設され、揺動スクロール2の自転運動を阻止するとともに、公転運動を可能とする機能を果たすようになっている。つまり、オルダムリングは、揺動スクロール2の自転防止機構として機能している。
【0020】
駆動機構部36は、ステータ7と、ステータ7の内周面側に回転可能に配設されたロータ6と、シェル8内に垂直方向に収容され、回転軸であるクランクシャフト4と、で少なくとも構成されている。ステータ7は、外周面が焼き嵌め等によりシェル8に固着支持されており、通電されることによってロータ6を回転駆動させる機能を有している。ロータ6は、内部に永久磁石を有し、ステータ7と僅かな隙間を隔てて保持されている。ロータ6は、クランクシャフト4の外周に固定されており、ステータ7に通電がされることにより回転駆動し、クランクシャフト4を回転させる機能を有している。
【0021】
クランクシャフト4は、ロータ6の回転に伴って回転し、揺動スクロール2を回転駆動させる。このクランクシャフト4は、上側をフレーム3の中心部に位置する軸受部3bで、下側をサブフレーム16の中心部に位置する副軸受16aで、回転可能に支持されている。このクランクシャフト4の上端部には、揺動スクロール2を偏心しつつ回転できるように、凹状軸受2eと嵌め合う偏心ピン部4aが形成されている。
【0022】
図2は、図1の固定スクロール、揺動スクロール及びフレームの断面図である。以下、図2を用いて本発明の特徴部分の構造について説明する。
揺動スクロール2は、スラスト面2dに円環状の凹部が形成されており、その凹部とフレーム3の上面とで囲まれた空間で背圧室18が形成されている。そして、揺動スクロール2には、背圧室18の下部空間と圧縮室9とを連通するインジェクション流路20が形成されている。インジェクション流路20は、背圧室18の上面18aと圧縮室9とを連通する第1インジェクションポート20aと、背圧室18の上面18aから第1インジェクションポート20aに連通して下方に向けて円筒状に突出形成され、下端が背圧室18の下部空間内に位置する第2インジェクションポート20bとを有している。第2インジェクションポート20bはここでは円筒状に形成されているが、形状は特に限定するものではなく、下部空間と圧縮室9とを連通する孔が形成されていればよい。なお、第2インジェクションポート20bの下端は、具体的には背圧室18の高さの半分よりも下方に位置するように構成されている。
【0023】
また、フレーム3には、シェル8の外側から供給される高圧の液冷媒を、背圧室18に供給するための液冷媒回路17が設けられている。液冷媒回路17は、シェル8の側面に設けた配管17a(図1参照)により、シェル8外の冷媒回路に連通している。
【0024】
図3は、図1のスクロール圧縮機の圧縮工程図であり、揺動スクロール2の第2渦巻体2bが0deg→90deg→180deg→270degと揺動運動する状況を表している。図3及び図1を参照してスクロール圧縮機100の動作について簡単に説明する。
シェル8に設けられた図示省略の電源端子に通電されると、ステータ7とロータ6とにトルクが発生し、クランクシャフト4が回転する。クランクシャフト4の回転により、揺動スクロール2がオルダムリング(図示省略)により自転を規制されて揺動運動する。吸入管5からシェル8内に吸入された冷媒ガスは、固定スクロール1の第1渦巻体1bと揺動スクロール2の第2渦巻体2b間に形成された複数の圧縮室9のうち外周部の圧縮室9に取り込まれる。
【0025】
そして、ガスを取り込んだ圧縮室9は、揺動スクロール2の揺動運動に伴い、外周部から中心方向に移動しながら容積を減じ、冷媒ガスを圧縮する。ここで、圧縮室9に第1インジェクションポート20aが開口している間、後述するように液冷媒が圧縮室9にインジェクションされる。圧縮室9内の冷媒は、インジェクションされた高圧の液冷媒と共に圧縮される。そして、圧縮された冷媒ガスは、固定スクロール1に設けた吐出ポート1aから弁押さえ11aに逆らって吐出され、吐出管13からシェル8外に排出される。
【0026】
図4は、本発明の実施の形態1によるスクロール圧縮機を備えた冷凍サイクル装置の冷媒回路を示す回路構成図である。
図4の冷凍サイクル装置は、スクロール圧縮機100と、凝縮器31と、減圧装置としての膨張弁32と、蒸発器33とを備え、これらが順次配管で接続されて冷媒が循環するように構成されている。また、凝縮器31と膨張弁32との間から分岐し、スクロール圧縮機100の側面から突出した配管17aに接続されるインジェクション回路34を備えている。インジェクション回路34には流量調整弁としての電磁弁34aが設けられており、圧縮室9にインジェクションする流量を調整可能となっている。
【0027】
図4のように構成された冷媒回路において、例えば、吸入温度と吐出温度の差が大きい、すなわち高圧低圧の差圧が大きければ、吐出管13から排出される冷媒は高温となる。そこで凝縮器31出口から取り出した液冷媒を圧縮室9へインジェクションすることにより、吐出温度を下げるのである。すなわち、凝縮器31から流出した高圧の液冷媒は、電磁弁34aで絞り膨張率と流量を制御され、配管17aを通ってフレーム3の中へと入り、フレーム3の中に設けられた液冷媒回路17を通って、まずは背圧室18に流入する。
【0028】
図5は、図2の背圧室部分の拡大図である。図3においてグレー部分は液冷媒を示している。
背圧室18に流入した冷媒は、高温の圧縮室9から背圧室18への熱伝導と背圧室18で流路体積が膨張することにより、背圧室18内でその一部が蒸発する。蒸発した冷媒は背圧室18の上部空間に溜まり液冷媒は図5に示すように下部空間に溜まる。第2インジェクションポート20bの下端は上述したように背圧室18の下部空間(いわば、液冷媒が溜まる部分)に位置しているため、第2インジェクションポート20bには、背圧室18の下部空間に溜まった冷媒が流入する。ここで、背圧室18には、液冷媒回路17から液冷媒が連続して供給されるため、背圧室18の下部空間に溜まっている液冷媒が下から押され、液冷媒のみが第2インジェクションポート20bに入っていく。よって、圧縮室9内に液冷媒の状態でインジェクションすることができる。
【0029】
このようにして第1インジェクションポート20aから圧縮室9にインジェクションされた高圧の液冷媒は、圧縮室9内で気化しその潜熱で圧縮過程にある冷媒を効果的に冷却する。
【0030】
図6は、クランクシャフトの回転に伴って変化する圧縮室の容積と圧縮室の温度との関係図である。図6において横軸が圧縮室の容積、縦軸が圧縮室の温度であり、本発明のようにインジェクション有りの場合と、比較例としてインジェクション無しの場合とを示している。図7は、クランクシャフトの回転に伴って変化する圧縮室の容積とインジェクション流量との関係図である。図7において横軸が圧縮室の容積、縦軸がインジェクション流量であり、本発明の場合と、従来例の場合とを示している。図8は、クランクシャフトの回転に伴って変化する圧縮室の容積と圧縮室の圧力との関係図で、横軸が圧縮室の容積、縦軸が圧縮室の圧力であり、本発明の場合と、従来例の場合とインジェクション無しの場合とを示している。
【0031】
図6に示すように、インジェクションが行われている容積範囲では、上述したように、第1インジェクションポート20aから圧縮室9にインジェクションされた高圧の液冷媒が圧縮室9内で気化し、その潜熱で圧縮過程にある冷媒を冷却するため、圧縮室9の温度が低下している。
【0032】
ここで、従来例においては第1インジェクションポート20aからガス状態の冷媒を圧縮室9内にインジェクションするため、圧縮室9の冷却はガスによって行われる。従って図7及び図8に示すように、インジェクション流量を多くする必要があり、圧縮室9内の圧力上昇が高くなる。本発明においては、上述したようにインジェクション流路20により液冷媒をインジェクションすることができるため、液冷媒の気化する際の蒸発潜熱分だけインジェクション流量が少なくて済む。よって、従来例と比較して圧縮室9内の圧力上昇を抑えることができる。
【0033】
以上説明したように、本実施の形態1によれば、背圧室18の下部空間に溜まった液冷媒をインジェクション流路20により圧縮室9へと導くことができるため、従来例と比較して少ないインジェクション流量で吐出温度を下げ、圧縮室9内の圧力上昇を抑えることができる。
【0034】
また、圧縮室9内の圧力上昇を抑えられるため、第1渦巻体1b及び第2渦巻体2bに作用する荷重を低減でき、強度の信頼性を増すことができる。また、背圧室18内の圧力によりスラスト軸受10に作用するスラスト荷重も抑えられるため、揺動スクロール2とフレーム3との間の摺動摩擦損失を減らし、性能を向上できる。
【0035】
実施の形態2.
実施の形態1では、背圧室18の下部空間と圧縮室9とを連通するインジェクション流路20を第1インジェクションポート20aと第2インジェクションポート20bにより構成していたが、実施の形態2は別の構成例を示すものである。具体的には、背圧室18の半径方向外側部分と圧縮室9とを連通した構成例である。
【0036】
図9は、実施の形態2におけるスクロール圧縮機の固定スクロール、揺動スクロール及びフレームの断面図である。図9に示す以外の構成は図1に示した実施の形態1と同様である。
実施の形態2では、背圧室18の円環状の上面18aに段差が設けられ、半径方向外側の外側円環状部分18bが半径方向内側の内側円環状部分18cよりも高さ位置が低く形成されている。外側円環状部分18bの高さは、具体的には外側円環状部分18bの高さ位置の半分よりも下方となるように構成されている。そして、揺動スクロール2には、背圧室18の上面18aの外側円環状部分18bと圧縮室9とを連通するインジェクションポート21が形成されている。すなわち、実施の形態2では、インジェクションポート21により、背圧室18の下部空間と圧縮室9とを連通するインジェクション流路20が構成されている。
【0037】
このように構成した実施の形態2では、背圧室18内で一部蒸発した液冷媒が背圧室18の半径方向内側の上部空間に溜まり、液冷媒は下部空間に溜まって外側円環状部分18bに接した状態となる。そして、インジェクションポート21は外側円環状部分18bに連通しているため、実施の形態1と同様、背圧室18の下部空間に溜まった液冷媒を圧縮室9へ導くことができる。その結果、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。また、実施の形態2は、実施の形態1のように背圧室18の上面18aから下方に突出する第2インジェクションポート20bが不要であるため、揺動スクロール2の加工性を向上でき、コストを削減できる。
【0038】
なお、背圧室18の円環状の上面18a全体に段差を設けたとして説明したが、必ずしも全体でなくてもよく、一部に段差を設け、その段差部分において半径方向外側部分が圧縮室9と連通する構成としてもよい。
【0039】
実施の形態3.
実施の形態3は、インジェクション流路20のまた別の構成例を示すものである。具体的には、背圧室18の半径方向内側と圧縮室9とを連通した構成例である。
【0040】
図10は、実施の形態3におけるスクロール圧縮機の要部拡大断面図で、固定スクロール、揺動スクロール及びフレームの断面図である。図10に示す以外の構成は図1に示した実施の形態1と同様である。
実施の形態3では、背圧室18の下部空間と圧縮室9とを連通するインジェクション流路20が、背圧室18の半径方向内側で圧縮室9と連通するように揺動スクロール2に設けられたインジェクションポート22により構成されている。具体的には、インジェクションポート22の背圧室18側の端部が背圧室18の高さ方向下半分で且つ半径方向内側で開口している。
【0041】
このように構成した実施の形態3では、実施の形態1と同様、背圧室18の下部空間に溜まった液冷媒を、インジェクションポート22により圧縮室9へ導くことができる。よって、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。なお、実施の形態3では、背圧室18の上面18aに実施の形態2のような段差加工が不要なため、実施の形態2に比べて揺動スクロール2の加工性を向上でき、コストを削減できる。
【0042】
さらに、実施の形態3では、インジェクションポート22の長さを実施の形態1及び実施の形態2に比べて短くできる。このため、圧縮室9から揺動スクロール2への熱伝導によりインジェクションポート22内の液冷媒が温度上昇するのを抑えることができる。その結果、より効率良く吐出温度を下げることができる。
【0043】
図11は、液インジェクション流量とスクロール圧縮機の入力値との関係を示す図で、冷媒として二酸化炭素を使用する場合と、フッ素系冷媒とを使用する場合とを示している。
二酸化炭素の作動圧力はフッ素系冷媒と比較して4倍程度ある。液インジェクション流量が増加するほどスクロール圧縮機100の入力値は増加するが、二酸化炭素は作動圧力が高いため、フッ素系冷媒と比較してスラスト軸受10等の摺動摩擦損失が大きい。このため、図11に示すように、二酸化炭素を使用した場合の入力値は、フッ素系冷媒を使用した場合と比較して、同じ液インジェクション流量のときの入力値の増加量が大きくなる。よって、図7に示したように液インジェクション量を従来例より少なくすることができる本発明は、冷媒として二酸化炭素を用いる場合、特に効果的である。なお、本発明のスクロール圧縮機で使用する冷媒は特に限定するものではなく、二酸化炭素、フッ素系冷媒のどちらでもよいし、他の冷媒でもよい。
【0044】
上記実施の形態1〜3では、背圧室18を揺動スクロール2に環状溝を形成して構成した例を示したが、必ずしもこの構成でなくてもよく、例えば背圧室18の一部又は全部がフレーム3側に形成されていてもよい。要は、揺動スクロール2のスラスト面2dに背圧を作用させることが可能に構成されていればよい。また、インジェクション流路20も、背圧室18の位置によってはインジェクション流路20の一部をフレーム3側に形成した構成としてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 固定スクロール、1a 吐出ポート、1b 第1渦巻体、1c 第1台板、2 揺動スクロール、2b 第2渦巻体、2c 第2台板、2d スラスト面、2e 凹状軸受、3 フレーム、3b 軸受部、4 クランクシャフト、4a 偏心ピン部、5 吸入管、6 ロータ、7 ステータ、8 シェル、9 圧縮室、10 スラスト軸受、11 弁、11a 弁押さえ、12 油溜り、13 吐出管、15 高圧空間、16 サブフレーム、16a 副軸受、17 液冷媒回路、17a 配管、18 背圧室、18a 上面、18b 外側円環状部分、18c 内側円環状部分、20 インジェクション流路、20a 第1インジェクションポート、20b 第2インジェクションポート、21 インジェクションポート、22 インジェクションポート、31 凝縮器、32 膨張弁、33 蒸発器、34 インジェクション回路、34a 電磁弁、35 圧縮機構部、36 駆動機構部、100 スクロール圧縮機。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
台板の一方の面に渦巻体が形成された固定スクロールと、
前記固定スクロールの下側に設けられ、台板の一方の面に渦巻体が形成され、該渦巻体が前記固定スクロールの渦巻体に組み合わされて圧縮室を形成する揺動スクロールと、
前記揺動スクロールの下方に設けられ、前記圧縮室で冷媒を圧縮する際に前記揺動スクロールに作用する荷重を支持するフレームと、
前記固定スクロール、前記揺動スクロール及び前記フレームを内部に収容するシェルと、
前記揺動スクロールの前記台板と前記フレームとの間に構成された背圧室と、
前記フレームに設けられ、前記シェルの外部から供給される液冷媒を前記背圧室に導く液冷媒回路と、
前記背圧室において前記液冷媒回路から供給された液冷媒が溜まる部分である下部空間と前記圧縮室とを連通するインジェクション流路と
を備えたことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項2】
前記インジェクション流路は、
前記背圧室の上面と前記圧縮室とを連通する第1インジェクションポートと、
前記背圧室の前記上面から下方に向けて突出形成され、下端が前記背圧室の前記下部空間に位置し、前記下部空間と前記第1インジェクションポートとを連通する孔を有する第2インジェクションポートと
により形成されていることを特徴とする請求項1記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】
前記背圧室の上面は、前記上面のうち半径方向外側部分が半径方向内側部分よりも高さ位置が低く形成された段差を有し、前記半径方向外側部分と前記圧縮室とを連通するインジェクションポートにより前記インジェクション流路が構成されていることを特徴とする請求項1記載のスクロール圧縮機。
【請求項4】
前記インジェクション流路は、前記背圧室の半径方向内側で前記背圧室の前記下部空間と前記圧縮室とを連通するインジェクションポートにより構成されていることを特徴とする請求項1記載のスクロール圧縮機。
【請求項5】
前記冷媒として、二酸化炭素又はフッ素系冷媒が使用されることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載のスクロール圧縮機。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載のスクロール圧縮機と、凝縮器と、減圧装置と、蒸発器とを備え、これらが順次配管で接続されて冷媒が循環するように構成され、
前記スクロール圧縮機と前記凝縮器との間から分岐し、流量調整弁を介して前記スクロール圧縮機の前記液冷媒回路に接続されるインジェクション回路とを備えたことを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項1】
台板の一方の面に渦巻体が形成された固定スクロールと、
前記固定スクロールの下側に設けられ、台板の一方の面に渦巻体が形成され、該渦巻体が前記固定スクロールの渦巻体に組み合わされて圧縮室を形成する揺動スクロールと、
前記揺動スクロールの下方に設けられ、前記圧縮室で冷媒を圧縮する際に前記揺動スクロールに作用する荷重を支持するフレームと、
前記固定スクロール、前記揺動スクロール及び前記フレームを内部に収容するシェルと、
前記揺動スクロールの前記台板と前記フレームとの間に構成された背圧室と、
前記フレームに設けられ、前記シェルの外部から供給される液冷媒を前記背圧室に導く液冷媒回路と、
前記背圧室において前記液冷媒回路から供給された液冷媒が溜まる部分である下部空間と前記圧縮室とを連通するインジェクション流路と
を備えたことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項2】
前記インジェクション流路は、
前記背圧室の上面と前記圧縮室とを連通する第1インジェクションポートと、
前記背圧室の前記上面から下方に向けて突出形成され、下端が前記背圧室の前記下部空間に位置し、前記下部空間と前記第1インジェクションポートとを連通する孔を有する第2インジェクションポートと
により形成されていることを特徴とする請求項1記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】
前記背圧室の上面は、前記上面のうち半径方向外側部分が半径方向内側部分よりも高さ位置が低く形成された段差を有し、前記半径方向外側部分と前記圧縮室とを連通するインジェクションポートにより前記インジェクション流路が構成されていることを特徴とする請求項1記載のスクロール圧縮機。
【請求項4】
前記インジェクション流路は、前記背圧室の半径方向内側で前記背圧室の前記下部空間と前記圧縮室とを連通するインジェクションポートにより構成されていることを特徴とする請求項1記載のスクロール圧縮機。
【請求項5】
前記冷媒として、二酸化炭素又はフッ素系冷媒が使用されることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載のスクロール圧縮機。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載のスクロール圧縮機と、凝縮器と、減圧装置と、蒸発器とを備え、これらが順次配管で接続されて冷媒が循環するように構成され、
前記スクロール圧縮機と前記凝縮器との間から分岐し、流量調整弁を介して前記スクロール圧縮機の前記液冷媒回路に接続されるインジェクション回路とを備えたことを特徴とする冷凍サイクル装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−113212(P2013−113212A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260146(P2011−260146)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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