説明

スクロール型圧縮機

【課題】スクロール型圧縮機において、摩耗粉による摺動部材の損傷を防止する。
【解決手段】スクロール型圧縮機(1)は、底部が油溜まり部(10a)に構成されたケーシング(10)と、ケーシング(10)内に設けられ、互いに噛合する対なるスクロール(31,32)を有する圧縮機構(30)とを備えている。圧縮機構(30)の複数の摺動部材(70,34,37)の摺接面には、油溜まり部(10a)の潤滑油が供給される。また、圧縮機構(30)の少なくとも2つの摺動部材(70,34,37)の摺接面の間の給油路(72,73)には、潤滑油中の摩耗粉を捕捉する磁石(52,53)が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール型圧縮機に関し、特に、摺動部材の摺接面において生じる摩耗粉の捕捉手段に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ケーシングと、該ケーシング内に設けられ、互いに噛合する対なるスクロールを有する圧縮機構とを備えたスクロール型圧縮機が用いられている(例えば、特許文献1参照)。対なるスクロールの互いに噛合する渦巻き状のラップ間には圧縮室が形成されている。そして、回転軸の回転に伴って圧縮室の容積が減少し、圧縮室内の流体が圧縮される。
【0003】
ところで、上記スクロール型圧縮機は種々の摺動部材を備えている。これらの摺動部材の多くは、鉄系の金属によって形成されているため、摺動部材の摺接面において摩耗粉が発生することがある。該摩耗粉は、各摺動部材に供給される潤滑油に流されてケーシング底部の油溜まり部に至り、該油溜まり部から潤滑油と共に各摺動部材に供給されてその摺接面を損傷してしまう虞があった。
【0004】
そこで、以前より、スクロール型圧縮機の底部の油溜まり部に磁石を設けて、油溜まり部に貯留された潤滑油に混じり込んだ摩耗粉を回収し、各摺動部材に摩耗粉が供給されないようにしていた。
【特許文献1】特開平10−9162号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、油溜まり部から摺動部材に潤滑油を導く給油路の中には、複数の摺動部材を通過するように形成されたものがある。このような給油路では、給油路の上流側に位置する摺動部材において発生した摩耗粉が、潤滑油と共に下流側の摺動部材に流されてしまい、下流側の摺動部材を損傷してしまう虞があった。また、給油路が分岐している場合、分岐部には複数の摺動部材の摺接面が連通することとなる為、いずれかの摺動部材の摺接面で発生した摩耗粉が潤滑油と共に他の摺動部材の摺接面に供給されて該摺動部材を損傷する虞もあった。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、スクロール型圧縮機において、摩耗粉による摺動部材の損傷を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、底部が油溜まり部(10a)に構成されたケーシング(10)と、上記ケーシング(10)内に設けられ、互いに噛合する対なるスクロール(31,32)を有する圧縮機構(30)とを備え、上記圧縮機構(30)の複数の摺動部材(70,34,37)の摺接面に上記油溜まり部(10a)の潤滑油を供給するスクロール型圧縮機であって、上記圧縮機構(30)の少なくとも2つの摺動部材(70,34,37)の摺接面の間の給油路(72,73)には、潤滑油中の摩耗粉を捕捉する捕捉手段(50)が設けられている。
【0008】
第1の発明では、圧縮機構(30)の少なくとも2つの摺動部材(70,34,37)の摺接面の間の給油路(72,73)に摩耗粉を捕捉する捕捉手段(50)が設けられている。そのため、1つの摺動部材(70)の摺接面において発生した摩耗粉が、潤滑油に流されて他の摺動部材(34,37)の摺接面に至る前に捕捉手段(50)によって捕捉される。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、上記捕捉手段(50)は、上記給油路(73)に形成された凹部(51)と、該凹部(51)に設けられた磁石(52)とを備えている。
【0010】
第2の発明では、給油路(73)に形成した凹部(51)に磁石(52)が設けられているため、給油路(73)を流れる潤滑油中に含まれる摩耗粉は、凹部(51)内で捕捉される。
【0011】
第3の発明は、第2の発明において、上記圧縮機構(30)のスクロール(31,32)は、上記ケーシング(10)に固定された固定スクロール(31)と、該固定スクロール(31)に噛合する可動スクロール(32)とより構成され、上記圧縮機構(30)は、上記可動スクロール(32)の背面に先端部が連結された回転軸(39)を備え、上記給油路(73)は、上記回転軸(39)の外周側において潤滑油を上記回転軸(39)の径方向外側に放射状に導くように形成され、上記捕捉手段(50)の凹部(51)は、環状に形成されている。
【0012】
第3の発明では、凹部(51)を環状に形成することで、給油路(73)によって回転軸(39)の径方向外側に放射状に導かれる潤滑油は、必ず凹部(51)を通過する。その結果、凹部(51)に設けられた磁石(52)によって潤滑油中の摩耗粉が捕捉され易くなる。
【0013】
第4の発明は、第3の発明において、上記捕捉手段(50)の磁石(52)は環状に形成されている。
【0014】
第4の発明では、凹部(51)に合わせて磁石(52)を環状に形成することで、給油路(73)を流れる潤滑油が必ず磁石(52)の傍を通過することとなる。その結果、潤滑油中の摩耗粉が磁石(52)によって捕捉され易くなる。
【0015】
第5の発明は、第1の発明において、上記圧縮機構(30)のスクロール(31,32)は、上記ケーシング(10)に固定された固定スクロール(31)と、該固定スクロール(31)に噛合する可動スクロール(32)とより構成され、上記ケーシング(10)には、上記可動スクロール(32)を該可動スクロール(32)の背面側で支持するハウジング(36)が設けられ、上記1つの摺動部材(70)は、上記可動スクロール(32)と上記ハウジング(36)との間を回動中心側の内側空間(S3)と上記ケーシング(10)側の外側空間(S4)とに仕切るシールリング(70)で構成され、上記他の摺動部材(34)は、上記外側空間(S4)に配置され、上記可動スクロール(32)と上記ハウジング(36)とに噛み合い、上記可動スクロール(32)の自転を阻止するオルダム継手(34)で構成され、上記給油路(73)は、上記外側空間(S4)において上記シールリング(70)と上記オルダム継手(34)とに亘って形成されている。
【0016】
ところで、シールリング(70)は可動スクロール(32)とハウジング(36)との間を内側空間(S3)と外側空間(S4)とに仕切ると共に両空間(S3,S4)の間をシールするために、可動スクロール(32)に押しつけられている。そのため、シールリング(70)の摺接面では、摩耗粉が発生し易い。また、給油路(73)は、シールリング(70)とオルダム継手(34)とに亘って形成されているため、シールリング(70)の摺接面において発生した摩耗粉が給油路(73)を介してオルダム継手(34)に供給される可能性が高い。
【0017】
しかしながら、第5の発明では、2つの摺動部材(シールリング(70)とオルダム継手(34))の摺接面の間の給油路(73)に潤滑油中の摩耗粉を捕捉する捕捉手段(50)が設けられている。そのため、シールリング(70)の摺接面において発生し、給油路(73)を流れる潤滑油に混じり込んだ摩耗粉は、給油路(73)の潤滑油がオルダム継手(34)に供給される前に該潤滑油から除去される。
【0018】
第6の発明は、第1の発明において、上記圧縮機構(30)のスクロール(31,32)は、上記ケーシング(10)に固定された固定スクロール(31)と、該固定スクロール(31)に噛合する可動スクロール(32)とより構成され、上記圧縮機構(30)は、上記可動スクロール(32)の背面に先端部が連結された回転軸(39)を備え、上記給油路(72)は、上記可動スクロール(32)と上記回転軸(39)との連結部分の外周側に筒状に形成され、上記捕捉手段(50)は、上記給油路(72)の外周面に設けられた磁石(53)を備えている。
【0019】
ところで、給油路(72)内の潤滑油は、該給油路(72)の内周面を形成する回転部材(可動スクロール(32)と回転軸(39)との連結部分)が回転することによって攪拌される。
【0020】
しかしながら、第6の発明では、磁石(53)は、回転部材が配された給油路(73)の内周面側ではなく、回転部材から離れた給油路(73)の外周面に設けられている。そのため、回転部材が回転して給油路(73)内の潤滑油を攪拌しても、磁石(53)に捕捉された摩耗粉が潤滑油によって振り落とされることを抑制することができる。
【0021】
第7の発明は、第6の発明において、上記捕捉手段(50)の磁石(53)は筒状に形成されている。
【0022】
第7の発明では、磁石(53)は、筒状の給油路(72)の外周面に筒状に設けられている。そのため、給油路(72)の少なくとも一部が筒状の磁石(53)によって覆われることとなり、給油路(72)を流れる潤滑油は必ず磁石(53)の傍を通過することとなる。その結果、給油路(72)を流れる潤滑油中の摩耗粉がより確実に捕捉される。
【0023】
第8の発明は、第6の発明において、上記ケーシング(10)には、上記可動スクロール(32)を該可動スクロール(32)の背面側で支持すると共に、上記回転軸(39)における上記可動スクロール(32)の連結側の端部を支持するハウジング(36)が設けられ、上記1つの摺動部材(70)は、上記可動スクロール(32)と上記ハウジング(36)との間を上記回転軸(39)側の内側空間(S3)と上記ハウジング(36)側の外側空間(S4)とに仕切るシールリング(70)で構成され、上記他の摺動部材(37)は、上記内側空間(S3)に連続して配置されて上記回転軸(39)を上記ハウジング(36)に支持する軸受(37)で構成され、上記給油路(72)は、上記内側空間(S3)で構成され、上記捕捉手段(50)の磁石(53)は、上記シールリング(70)の内周面に取り付けられている。
【0024】
ところで、シールリング(70)は可動スクロール(32)とハウジング(36)との間を内側空間(S3)と外側空間(S4)とに仕切ると共に両空間(S3,S4)の間をシールするために、可動スクロール(32)に押しつけられている。そのため、シールリング(31,32,)の摺接面では、摩耗粉が発生し易い。また、給油路(72)は内側空間(S3)によって構成され、回転軸(39)をハウジング(36)に支持する軸受(37)が内側空間(S3)に連続するように配置されている。そのため、シールリング(70)の摺接面において発生した摩耗粉が給油路(72)を介して軸受(37)に供給される可能性は高い。
【0025】
しかしながら、第8の発明では、2つの摺動部材(シールリング(70)と軸受(37))の摺接面の間の給油路(72)に潤滑油中の摩耗粉を捕捉する捕捉手段(50)が設けられている。そのため、シールリング(70)の摺接面において発生し、給油路(72)を流れる潤滑油に混じり込んだ摩耗粉は、給油路(72)の潤滑油が軸受(37)に供給される前に該潤滑油から除去される。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、少なくとも2つの摺動部材(70,34,37)の摺接面の間の給油路(72,73)に摩耗粉を捕捉する捕捉手段(50)を設けることにより、1つの摺動部材(70)の摺接面において発生した摩耗粉が潤滑油と共に他の摺動部材(72,73)の摺接面に供給されてしまうことを防止することができる。従って、摩耗粉による摺動部材の損傷を防止することができる。
【0027】
また、第2の発明によれば、捕捉手段(50)の磁石(52)を給油路(73)に形成した凹部(51)に設けることにより、潤滑油中の摩耗粉は、給油路(73)ではなく凹部(51)に回収されることとなる。そのため、回収後の摩耗粉が潤滑油によって流されることを抑制することができる。
【0028】
また、第3の発明によれば、凹部(51)を環状に形成することにより、給油路(73)によって回転軸(39)の径方向外側に放射状に導かれる潤滑油が必ず凹部(51)を通過するように構成することができる。従って、潤滑油中の摩耗粉をより確実に捕捉することができる。
【0029】
また、第4の発明によれば、凹部(51)に合わせて磁石(52)を環状に形成することで、給油路(73)を流れる潤滑油が必ず磁石(52)の傍を通過するように構成することができる。従って、潤滑油中の摩耗粉をより確実に捕捉することができる。
【0030】
また、第5の発明によれば、2つの摺動部材(シールリング(70)とオルダム継手(34))の摺接面の間の給油路(73)に潤滑油中の摩耗粉を捕捉する捕捉手段(50)を設けたことで、シールリング(70)の摺接面において発生し、給油路(73)を流れる潤滑油に混じり込んだ摩耗粉を、給油路(73)の潤滑油がオルダム継手(34)に供給される前に該潤滑油から取り除くことができる。従って、摩耗粉の発生し易いシールリング(70)の摺接面において発生した摩耗粉によって、オルダム継手(34)が損傷を受けてしまうことを防止することができる。
【0031】
また、第6の発明によれば、磁石(53)は、回転部材が配された給油路(73)の内周面側ではなく、回転部材から離れた給油路(73)の外周面にが設けられている。そのため、磁石(53)に捕捉された潤滑油中の摩耗粉が、回転部材によって振り落とされることを抑制することができる。従って、潤滑油中の摩耗粉をより確実に捕捉することができる。
【0032】
また、第7の発明によれば、給油路(72)を流れる潤滑油が必ず磁石(53)の傍を通過するように構成することで、給油路(72)を流れる潤滑油中の摩耗粉をより確実に捕捉することができる。
【0033】
また、第8の発明によれば、2つの摺動部材(シールリング(70)と軸受(37))の摺接面の間の給油路(72)に潤滑油中の摩耗粉を捕捉する捕捉手段(50)を設けたことで、シールリング(70)の摺接面において発生し、給油路(72)を流れる潤滑油に混じり込んだ摩耗粉を、給油路(72)の潤滑油が軸受(37)に供給される前に該潤滑油から取り除くことができる。従って、摩耗粉の発生し易いシールリング(70)の摺接面において発生した摩耗粉によって、軸受(37)が損傷を受けてしまうことを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明のスクロール型圧縮機の実施形態について図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明に係るスクロール型圧縮機は、冷媒ガスが循環して冷凍サイクル運転動作を行う冷媒回路に設置され、冷媒ガスを圧縮するために用いられる。
【0035】
−全体構成−
図1に示すように、本実施形態に係るスクロール型圧縮機(1)は、縦長で円筒形の密閉容器であるケーシング(10)を備えている。このケーシング(10)内部には、冷媒ガスを圧縮する圧縮機構(30)と、該圧縮機構(30)を駆動する電動機(20)とが収容されている。圧縮機構(30)は、電動機(20)の上方に配置されている。また、電動機(20)は、圧縮機構(30)が有する回転軸(39)に連結され、該回転軸(39)を介して圧縮機構(30)を回転駆動する。なお、ケーシング(10)内は、圧縮機構(30)によって上方側の低圧空間(S1)と下方側の高圧空間(S2)との2つの空間に区画されている。
【0036】
<ケーシング(10)>
上記ケーシング(10)は、円筒状のケーシング本体(11)と、該ケーシング本体(11)の上端部に固定された上部鏡板(12)と、上記ケーシング本体(11)の下端部に固定された下部鏡板(13)とを有している。上記ケーシング(10)は、底部が油溜まり部(10a)に構成されている。
【0037】
上記上部鏡板(12)には、冷媒ガスを圧縮機構(30)内に吸入させるための吸入管(14)が挿通されている。一方、上記ケーシング本体(11)には、高圧空間(S2)の冷媒ガスを外部へ吐出するための吐出管(15)が接続されている。
【0038】
<圧縮機構(30)>
上記圧縮機構(30)は、固定スクロール(31)と、固定スクロール(31)に対して公転(偏心回転運動)可能に形成された可動スクロール(32)と、固定スクロール(31)及び可動スクロール(32)を支持する上部ハウジング(36)と、回転軸(39)とを有している。
【0039】
上記固定スクロール(31)は、固定側鏡板(31a)と、該固定側鏡板(31a)の下面側へ突出する渦巻き状(インボリュート状)の固定側ラップ(31b)とを有している。固定側ラップ(31b)は固定側鏡板(31a)に一体的に形成されている。固定側鏡板(31a)は、上部ハウジング(36)の上面に固定されている。
【0040】
一方、上記可動スクロール(32)は、可動側鏡板(32a)と、該可動側鏡板(32a)の上面側へ突出する渦巻き状(インボリュート状)の可動側ラップ(32b)とを有している。可動側ラップ(32b)は、可動側鏡板(32a)に一体的に形成されている。可動スクロール(32)は、後述するオルダム機構(46)を介して上部ハウジング(36)に載置されている。また、可動側ラップ(32b)は、固定側ラップ(31b)と噛合して内部に圧縮室(33)を形成している。
【0041】
固定側鏡板(31a)の外周側の肉厚部には、冷媒を圧縮室(33)に導くための吸入通路(61)が形成されている。吸入通路(61)は、固定側鏡板(31a)の肉厚部を貫通するように形成されている。吸入通路(61)には、吸入管(14)の一端部が挿入されると共に、運転停止時に該吸入管(14)の一端側開口を閉塞して圧縮機構(30)の逆転を防止する吸入逆止弁(80)が設けられている。吸入通路(61)には吸入口が形成され、吸入通路(61)は、吸入口を介して圧縮室(33)と連通している。一方、可動側鏡板(32a)には、圧縮室(33)において圧縮された冷媒を吐出するための吐出通路(62)が形成されている。吐出通路(62)は、可動側鏡板(32a)の中央部に形成されている。
【0042】
上記固定スクロール(31)の固定側鏡板(31a)には、連通孔(63)と中間吐出孔(64)とが形成されている。連通孔(63)は、可動側鏡板(32a)の吐出通路(62)と対向する位置に形成されている。中間吐出孔(64)は、連通孔(63)よりも固定側鏡板(31a)の外周寄りに形成されている。そして、固定側鏡板(31a)の背面(図1における上面)には、連通孔(63)と中間吐出孔(64)とを覆うようにドーム状のカバー部材(65)が設けられている。該カバー部材(65)と固定側鏡板(31a)とにより、圧力室(66)が区画されている。
【0043】
なお、中間吐出孔(64)は、該中間吐出孔(64)を開閉するリリーフ弁(67)によって覆われている。リリーフ弁(67)は、弁押さえ(68)と共に固定スクロール(31)の背面に固定されている。リリーフ弁(67)は、いわゆるリード弁であって、圧縮室(33)の内圧が圧力室(66)よりも高くなった場合にだけ開いて中間吐出孔(64)を開口させて圧縮室(33)内の冷媒ガスの一部を圧力室(66)に導く。該冷媒ガスは、連通孔(63)を通って圧縮室(33)内の冷媒ガスと合流し、吐出通路(62)に流入する。これにより、スクロール型圧縮機(1)の圧縮比が冷凍サイクルの高圧と低圧の比よりも大きいときに生じる過圧縮現象を回避することができる。
【0044】
可動側鏡板(32a)の背面側中央部には、上記吐出通路(62)の開口部を囲むように下方へ突出した円筒形状の軸受部(32c)が形成されている。軸受部(32c)は、可動側鏡板(32a)に一体的に形成されている。軸受部(32c)には、回転軸(39)の上端部に形成された偏心部(39a)が回転自在に嵌め込まれている。
【0045】
上記上部ハウジング(36)は、固定スクロール(31)の下方において回転軸(39)の周囲を取り囲むように形成され、ケーシング(10)に固定されている。上部ハウジング(36)は、固定スクロール(31)及び可動スクロール(32)を支持する上部支持部(36a)と、上部支持部(36a)の下方に連続して回転軸(39)を回転自在に支持する下部支持部(36b)とを有している。
【0046】
上部支持部(36a)の上面には、円盤状の第1凹部(36c)と、該第1凹部(36c)の中央部に連続する円盤状の第2凹部(36d)とが形成されている。第1凹部(36c)の外周部には、後述するオルダム機構(46)が設けられ、第2凹部(36d)の中央部には、回転軸(39)及び可動スクロール(32)の軸受部(32c)が設置されている。
【0047】
下部支持部(36b)と回転軸(39)との間には、外輪(37a)と、内輪(37b)と、外輪(37a)と内輪(37b)との間に介挿された転動体(37c)とを有する摺動部材である転がり軸受(37)が設けられている。外輪(37a)は下部支持部(36b)に固定され、内輪(37b)は回転軸(39)に固定されている。このような構成により、回転軸(39)の上部は、転がり軸受(37)を介して上部ハウジング(36)に回転自在に支持されている。なお、後述する転がり軸受(37)の摺接面とは、外輪(37a)と転動体(37c)との摺接面及び内輪(37b)と転動体(37c)との摺接面のことを指す。また、転がり軸受(37)は鉄系の金属によって形成されている。
【0048】
上部ハウジング(36)の外周部には、上部支持部(36a)及び下部支持部(36b)を上下方向に貫く貫通孔(36e)が形成されている。該貫通孔(36e)の上端部は栓によって閉塞される一方、下端部には油戻し管(38)の上端部が嵌入されている。油戻し管(38)は、油溜まり部(10a)に向かって下方に延びている。また、上部ハウジング(36)の上部支持部(36a)の下部には、第2凹部(36d)と貫通孔(36e)とを連通させて第2凹部(36d)内の潤滑油を貫通孔(36e)に導く第1連通孔(36f)が形成されている。下部支持部(36b)の下部には、転がり軸受(37)の下方から該転がり軸受(37)と貫通孔(36e)とを連通させて転がり軸受(37)に供給された潤滑油を貫通孔(36e)に導く第2連通孔(36g)が形成されている。
【0049】
上記オルダム機構(46)は、可動スクロール(32)の可動側鏡板(32a)と上部ハウジング(36)との間に設けられた摺動部材であるオルダム継手(34)と、可動スクロール(32)及び上部ハウジング(36)にそれぞれ形成されたキー溝(35)とによって構成されている。オルダム継手(34)は、リング状の本体部(34a)と、該本体部(34a)の外周縁から上方及び下方に向かってそれぞれ突設された二対のキー(34b)とによって構成されている。一方、キー溝(35)は、オルダム継手(34)の二対のキー(34b)と係合可能なように、可動側鏡板(32a)の下面と上部ハウジング(36)の上面(第1凹部(36c)の底面)とにそれぞれ形成されている。二対のキー(34b)は、該キー溝(35)に径方向に摺動可能に収容されている。このような構成により、オルダム機構(46)は、可動スクロール(32)の自転を阻止する。なお、後述するオルダム継手(34)の摺接面とは、キー(34b)のキー溝(35)との摺接面のことを指す。また、オルダム継手(34)は、鉄系の金属によって形成されている。
【0050】
また、可動スクロール(32)の背面側であって上部ハウジング(36)と可動スクロール(32)との間には、該上部ハウジング(36)と可動スクロール(32)との間を回転軸(39)側の内側空間(S3)とケーシング(10)側の外側空間(S4)とに仕切るシールリング(70)が設けられている。このシールリング(70)は、円筒形状に形成され、上記上部ハウジング(36)の第2凹部(36d)の内壁面に沿うように配置されて摺動部材を構成している。シールリング(70)は、鉄系の金属によって形成されている。
【0051】
上記シールリング(70)は、高圧の内側空間(S3)と低圧の外側空間(S4)との間をシールするために設けられている。そのため、シールリング(70)の可動スクロール(32)側の端面(図1では上端面)は、回転軸(39)の回転に伴って旋回する可動スクロール(32)の可動側鏡板(32a)に圧接される。なお、後述するシールリング(70)の摺接面とは、シールリング(70)の可動側鏡板(32a)との摺接面(図1では上端面)を指す。
【0052】
上記回転軸(39)内には、冷媒流路(39b)が形成されている。この冷媒流路(39b)は、一端が上記偏心部(39a)の上端において開口し、他端が後述する下部ハウジング(40)の第1マフラ室(41)に開口している。冷媒流路(39b)の偏心部側端部は、大径に形成され、該大径部にはスプリング(43)及び該スプリング(43)を押し縮める円管状のシール部材(45)が収納されている。シール部材(45)の径は、吐出通路(62)の径よりも大きく形成されている。また、シール部材(45)の上端は、可動スクロール(32)の可動側鏡板(32a)の背面に押圧されている。
【0053】
また、回転軸(39)内には、軸方向に沿って延びる主給油路(71)が形成されている。主給油路(71)は、回転軸(39)を下端部から上端部まで貫通している。主給油路(71)の下端部には、給油ポンプ(25)が設けられている。また、主給油路(71)には、圧縮機構(30)の各摺動部材に潤滑油を導く複数の給油路が接続されている。
【0054】
<電動機(20)>
上記電動機(20)は、ケーシング本体(11)に固定された環状のステータ(23)と、ステータ(23)の内周側に装着されたロータ(24)とを備えている。上記ステータ(23)は、ケーシング本体(11)の略中央部に固定されている。一方、上記ロータ(24)は、ステータ(23)の内側に配置され、回転軸(39)に同軸上に固定されている。
【0055】
<下部ハウジング>
下部ハウジング(40)は、筒状に形成され、ケーシング本体(11)に固定されている。下部ハウジング(40)の上部の軸受孔(40a)には、滑り軸受(40b)を介して回転軸(39)の下端部が挿通されている。このような構成により、回転軸(39)の下部は、滑り軸受(40b)を介して下部ハウジング(40)に支持されている。
【0056】
また、下部ハウジング(40)の下部は、筒状の円筒部(40c)によって形成されている。円筒部(40c)の内径は、上記回転軸(39)の外形よりも大きく形成されている。円筒部(40c)の下方開口部には、上記給油ポンプ(25)が取り付けられている。給油ポンプ(25)は、円筒部(40c)の開口を閉塞するように設けられ、円筒部(40c)内には前述の第1マフラ室(41)が形成されている。
【0057】
下部ハウジング(40)の上面には、冷媒ガス中の油滴を除去するデミスタ(28)が載置されている。デミスタ(28)は、金属などの耐熱性に優れた素材からなるメッシュ状のシートを複数枚重ね合わせて形成されている。デミスタ(28)は円管状に形成され、上方からカバー部材(29)で固定されている。これらのデミスタ(28)、下部ハウジング(40)及びカバー部材(29)は、高圧空間(S2)から仕切られた第2マフラ室(44)を形成する。第2マフラ室(44)は、下部ハウジング(40)の上部を貫通する連通路(図示省略)によって第1マフラ室(41)と連通している。
【0058】
<摩耗粉捕捉手段>
図2に拡大して示すように、本スクロール型圧縮機(1)では、上記主給油路(71)から流出された潤滑油を各摺動部材の摺接面に導く副給油路の一部である第1給油路(72)と第2給油路(73)とに、潤滑油中の鉄系の金属粉である摩耗粉を捕捉する捕捉手段(50)が設けられている。なお、第1給油路(72)は、可動スクロール(32)と上部ハウジング(36)との間の空間であってシールリング(70)によって区画された内側空間(S3)によって構成され、シールリング(70)の摺接面と転がり軸受(37)の摺接面とに連通して両摺動部材の摺接面に主給油路(71)から流出した潤滑油を供給する。一方、第2給油路(73)は、第1凹部(36c)におけるシールリング(70)とオルダム継手(34)との間で形成され、シールリング(70)の摺接面を経た潤滑油をオルダム継手(34)の摺接面に導くように構成されている。
【0059】
第1給油路(72)に設けられた捕捉手段(50)は、シールリング(70)の内周面に取り付けられた磁石(53)によって構成されている。なお、本実施形態では、磁石(53)は筒状に形成され、シールリング(70)の内周面の下端部から上端部付近までを覆っている。
【0060】
また、第2給油路(73)に設けられた捕捉手段(50)は、上部ハウジング(36)に形成された凹部(51)と、凹部(51)内に設けられた磁石(52)とを備えている。凹部(51)は上部ハウジング(36)の第1凹部(36c)の底面であって、シールリング(70)とオルダム継手(34)との間に形成されている。本実施形態では、凹部(51)は環状に形成され、磁石(52)も環状に形成されて凹部(51)の底面に取り付けられている。
【0061】
また、図1に示すように、本実施形態では、ケーシング(10)底部の油溜まり部(10a)にも潤滑油中の鉄系の金属粉である摩耗粉を捕捉する捕捉手段が設けられている。具体的には、ケーシング(10)の下部鏡板(13)に磁石(54)が設けられている。磁石(54)はリング状に形成され、下部鏡板(13)の中央部からずれた位置に取り付けられたピン(55)に嵌め込まれている。
【0062】
−運転動作−
次に、実施形態1のスクロール型圧縮機(1)の運転動作について説明する。
【0063】
まず、電動機(20)により圧縮機構(30)が駆動される。具体的には、電動機(20)を起動すると、ロータ(24)の回転に伴って回転軸(39)が回転し、電動機(20)の回転力が回転軸(39)を介して可動スクロール(32)に伝達される。なお、可動スクロール(32)は、オルダム継手(34)により自転が阻止されるため、回転軸(39)の回転中心の周りで自転せずに公転だけ行う。
【0064】
可動スクロール(32)が公転すると、固定スクロール(31)と可動スクロール(32)の間の圧縮室(33)の容積が変化する。そして、圧縮室(33)の容積変化に伴って、圧縮機構(30)の吸入口付近は負圧雰囲気となる。これにより、吸入管(14)から吸入通路(61)に供給された低圧の冷媒ガスが吸入口から圧縮室(33)内に吸引される。そして、低圧の冷媒ガスは、圧縮室(33)の容積の縮小に伴い、圧縮室(33)において圧縮されて高圧となる。
【0065】
やがて、圧縮室(33)が吐出通路(62)と連通すると、高圧の冷媒ガスは吐出通路(62)から回転軸(39)内の冷媒流路(39b)を通り、第1マフラ室(41)に吐出される。第1マフラ室(41)に吐出された冷媒ガスは、図示しない連通路を通って第2マフラ室(44)に送り出された後、デミスタ(28)を通過してケーシング(10)内の高圧空間(S2)に流出する。この際、冷媒ガスに混入する潤滑油等は、デミスタ(28)で冷媒ガスから分離されて除去される。高圧空間(S2)に流出した高圧の冷媒ガスは、電動機(20)のステータ(23)とケーシング本体(11)との間隙を通り、吐出管(15)からスクロール型圧縮機(1)の外部に吐出される。
【0066】
−潤滑油の流れ−
上述のように、回転軸(39)内には、主給油路(71)が形成されており、給油ポンプ(25)によって油溜まり部(10a)の高圧の潤滑油が主給油路(71)に吸い上げられる。主給油路(71)を流れる潤滑油は、回転軸(39)の下端から上端まで流れる。また、主給油路(71)を流れる潤滑油の一部は、主給油路(71)から分岐する複数の給油路(図示省略)に分流し、例えば電動機(20)や下部ハウジング(40)の各摺動部材に供給される。
【0067】
一方、主給油路(71)の上端まで至った潤滑油は、回転軸(39)と可動スクロール(32)の軸受部(32c)との間に流れ込み、内側空間(S3)によって構成される第1給油路(72)に溜まり込む。なお、内側空間(S3)に高圧の潤滑油が溜まり込むことにより、可動スクロール(32)の可動側鏡板(32a)の背面に作用して、該可動スクロール(32)を固定スクロール(31)に押し付ける。これにより、可動スクロール(32)と固定スクロール(31)とが噛み合った状態で両スクロール(31,32)が互いに圧接することとなる。
【0068】
第1給油路(72)に溜まり込んだ潤滑油は、シールリング(70)の摺接面(図1では上端面)を通過して低圧の外側空間(S4)に流入する。なお、潤滑油はシールリング(70)の摺接面を通過する際、該摺接面を潤滑する。そして、シールリング(70)の摺接面を通過した潤滑油は、第2給油路(73)をオルダム継手(34)に向かって流れてオルダム継手(34)に至り、オルダム継手(34)の摺接面(キー(34b)のキー溝(35)との接触面)を潤滑する。
【0069】
一方、第1給油路(72)に溜まり込んだ潤滑油の一部は、内側空間(S3)に連続して配置された転がり軸受(37)の摺接面に供給される。これにより、転がり軸受(37)の摺接面は潤滑される。
【0070】
ところで、上述したように、シールリング(70)の可動スクロール(32)側の端面は、回転軸(39)の回転に伴って旋回する可動スクロール(32)の可動側鏡板(32a)に圧接されている。また、シールリング(70)及び可動スクロール(32)は金属からなるため、シールリング(70)の摺接面は可動スクロール(32)と摺接することによって摩耗し、摩耗粉が発生することがある。そして、シールリング(70)の摺接面において発生した摩耗粉は、シールリング(70)の摺接面と連通する給油路(72,73)を介してオルダム継手(34)の摺接面や転がり軸受(37)の摺接面に供給されてしまうことが懸念される。
【0071】
しかし、本スクロール型圧縮機(1)では、第1給油路(72)及び第2給油路(73)のそれぞれに、摩耗粉を捕捉するための捕捉手段(50)が設けられている。そのため、シールリング(70)の摺接面において発生した摩耗粉は、捕捉手段(50)によって捕捉される。具体的には、第1給油路(72)では、潤滑油中に混入した摩耗粉は、シールリング(70)の内周面に取り付けられた磁石(53)によって捕捉される。一方、第2給油路(73)では、潤滑油中に混入した摩耗粉は、第2給油路(73)に形成された凹部(51)の底面に取り付けられた磁石(52)によって捕捉される。
【0072】
以上のようにして各摺動部材の摺接面に供給された潤滑油は、油戻し管(38)や冷媒流路(39b)を介して油溜まり部(10a)に戻される。具体的には、オルダム継手(34)を通過した高圧の潤滑油は、圧縮室(33)の低圧側に吸入されて冷媒ガスと共に回転軸(39)の冷媒流路(39b)に吐出される。そして、潤滑油は冷媒ガスと共に、冷媒流路(39b)、第1マフラ室(41)、第2マフラ室(44)の順に流れてデミスタ(28)において冷媒ガスから分離される。冷媒ガスから分離された潤滑油は、下部ハウジング(40)の上面を流れ落ちて油溜まり部(10a)に戻る。
【0073】
一方、転がり軸受(37)を通過した潤滑油は、第2連通孔(36g)を介して貫通孔(36e)に導かれる。また、第1給油路(72)内の潤滑油の一部は、第1連通孔(36f)を介して貫通孔(36e)に導かれる。そして、貫通孔(36e)内に流入した潤滑油は、貫通孔(36e)に嵌入された油戻し管(38)内に流入し、油溜まり部(10a)へと導かれる。
【0074】
なお、油溜まり部(10a)には、捕捉手段としての磁石(54)が設けられている。そのため、オルダム継手(34)や転がり軸受(37)の摺接面において発生した摩耗粉が油溜まり部(10a)に戻る潤滑油中に含まれていても、該摩耗粉は上記磁石(54)によって油溜まり部(10a)において捕捉される。
【0075】
−実施形態1の効果−
以上により、本実施形態では、圧縮機構(30)の少なくとも2つの摺動部材(70,34,37)の摺接面の間の給油路(72,73)に摩耗粉を捕捉する捕捉手段(50)が設けられている。具体的には、シールリング(70)の摺接面とオルダム継手(34)の摺接面との間の第2給油路(73)と、シールリング(70)の摺接面と転がり軸受(37)の摺接面との間の第1給油路(72)に捕捉手段(50)が設けられている。そのため、少なくとも2つの摺動部材(70,34,37)のいずれか1つの摺動部材の摺接面において発生した摩耗粉が給油路(71,72)を介して他の摺動部材の摺接面に供給されてしまうことを防止することができる。
【0076】
また、上述したように、シールリング(70)は可動スクロール(32)に押しつけられており、シールリング(70)の摺接面では、摩耗粉が発生し易い。また、給油路(72,73)を介してシールリング(70)の摺接面と連通するオルダム継手(34)及び転がり軸受(37)の摺接面には、シールリング(70)の摺接面において発生した摩耗粉が供給される可能性が高い。
【0077】
しかしながら、本実施形態によれば、シールリング(70)の摺接面とオルダム継手(34)又は転がり軸受(37)の摺接面とを連通する給油路(72,73)に潤滑油中の摩耗粉を捕捉する捕捉手段(50)を設けている。そのため、シールリング(70)の摺接面において発生して潤滑油に混じり込んだ摩耗粉を、該潤滑油がオルダム継手(34)又は転がり軸受(37)に供給される前に取り除くことができる。従って、摩耗粉の発生し易いシールリング(70)の摺接面において発生した摩耗粉によって、オルダム継手(34)や転がり軸受(37)が損傷を受けてしまうことを防止することができる。
【0078】
また、本実施形態によれば、第2給油路(73)に設けられた捕捉手段(50)は、第2給油路(73)に形成された凹部(51)と、凹部(51)内に設けられた磁石(52)とによって構成されている。そのため、潤滑油中の摩耗粉は、第2給油路(73)ではなく凹部(51)に回収されることとなる。従って、回収後の摩耗粉が潤滑油によって流されることを抑制することができる。
【0079】
さらに、本実施形態によれば、第2給油路(73)に設けられた捕捉手段(50)の凹部(51)は環状に形成されている。そのため、第2給油路(73)を流れる潤滑油は、回転軸(39)の径方向外側に放射状に導かれるが、その際に必ず磁石(52)が設けられた凹部(51)を通過することとなる。従って、第2給油路(73)を流れる潤滑油中の摩耗粉をより確実に捕捉することができる。
【0080】
また、本実施形態によれば、環状の凹部(51)に設けられた磁石(52)は、凹部(51)に合わせて環状に形成されている。そのため、第2給油路(73)を流れる潤滑油は必ず磁石(52)の傍を通過することとなる。従って、潤滑油中の摩耗粉を磁石(52)によってより確実に捕捉することができる。
【0081】
ところで、内側空間(S3)の中央部には、第1給油路(72)の内周面を形成する回転部材(可動スクロール(32)と回転軸(39)との連結部分)が設けられている。そのため、第1給油路(72)内の潤滑油は、上記回転部材が回転することによって攪拌されてしまう。
【0082】
しかしながら、本実施形態では、磁石(53)は、回転部材が配された第1給油路(72)の内周面側ではなく、回転部材から離れた第1給油路(72)の外周面に設けられている。そのため、磁石(53)に捕捉された潤滑油中の摩耗粉が、回転部材によって振り落とされることを抑制することができる。従って、潤滑油中の摩耗粉をより確実に捕捉することができる。
【0083】
また、第1給油路(72)に設けられた磁石(53)は、筒状の第1給油路(72)の外周面に筒状に設けられており、第1給油路(72)の少なくとも一部は筒状の磁石(53)によって覆われている。これにより、第1給油路(72)を流れる潤滑油が必ず磁石(53)の傍を通過するように構成することができる。従って、本実施形態によれば、第1給油路(72)を流れる潤滑油中の摩耗粉をより確実に捕捉することができる。
【0084】
なお、本実施形態では、第1給油路(72)に設けられた捕捉手段(50)の磁石(53)は筒状に形成されていたが、磁石(53)の形状はこれに限られない。棒状に形成されていてもよく、また棒状の磁石が複数設けられていてもよい。
【0085】
また、本実施形態では、第2給油路(73)に設けられた捕捉手段(50)の凹部(51)と磁石(52)とは環状に形成されていたが、凹部(51)及び磁石(52)の形状はこれに限られない。凹部(51)は、複数設けられて環状又は千鳥状に配置されていてもよい。また、磁石(52)は凹部(51)の形状に合わせて形成されてもよく、小さな塊を凹部(51)内に複数設けることとしてもよい。
【0086】
なお、以上の各実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0087】
以上説明したように、本発明は、スクロール型圧縮機に関し、特に、摺動部材の摺接面において生じる摩耗粉の捕捉手段について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】実施形態に係るスクロール型圧縮機の縦断面図である。
【図2】図1の捕捉手段付近の拡大図である。
【符号の説明】
【0089】
1 スクロール型圧縮機
10 ケーシング
10a 油溜まり部
30 圧縮機構
31 固定スクロール
32 可動スクロール
34 オルダム継手(摺動部材、オルダム継手)
36 上部ハウジング(ハウジング)
37 転がり軸受(摺動部材、軸受)
39 回転軸
50 捕捉手段
51 凹部
52 磁石
53 磁石
70 シールリング(摺動部材、シールリング)
72 第1給油路(給油路)
73 第2給油路(給油路)
S3 内側空間
S4 外側空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部が油溜まり部(10a)に構成されたケーシング(10)と、上記ケーシング(10)内に設けられ、互いに噛合する対なるスクロール(31,32)を有する圧縮機構(30)とを備え、上記圧縮機構(30)の複数の摺動部材(70,34,37)の摺接面に上記油溜まり部(10a)の潤滑油を供給するスクロール型圧縮機であって、
上記圧縮機構(30)の少なくとも2つの摺動部材(70,34,37)の摺接面の間の給油路(72,73)には、潤滑油中の摩耗粉を捕捉する捕捉手段(50)が設けられている
ことを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項2】
請求項1において、
上記捕捉手段(50)は、上記給油路(73)に形成された凹部(51)と、該凹部(51)に設けられた磁石(52)とを備えている
ことを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項3】
請求項2において、
上記圧縮機構(30)のスクロール(31,32)は、上記ケーシング(10)に固定された固定スクロール(31)と、該固定スクロール(31)に噛合する可動スクロール(32)とより構成され、
上記圧縮機構(30)は、上記可動スクロール(32)の背面に先端部が連結された回転軸(39)を備え、
上記給油路(73)は、上記回転軸(39)の外周側において潤滑油を上記回転軸(39)の径方向外側に放射状に導くように形成され、
上記捕捉手段(50)の凹部(51)は、環状に形成されている
ことを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項4】
請求項3において、
上記捕捉手段(50)の磁石(52)は環状に形成されている
ことを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項5】
請求項1において、
上記圧縮機構(30)のスクロール(31,32)は、上記ケーシング(10)に固定された固定スクロール(31)と、該固定スクロール(31)に噛合する可動スクロール(32)とより構成され、
上記ケーシング(10)には、上記可動スクロール(32)を該可動スクロール(32)の背面側で支持するハウジング(36)が設けられ、
上記1つの摺動部材(70)は、上記可動スクロール(32)と上記ハウジング(36)との間を回動中心側の内側空間(S3)と上記ケーシング(10)側の外側空間(S4)とに仕切るシールリング(70)で構成され、
上記他の摺動部材(34)は、上記外側空間(S4)に配置され、上記可動スクロール(32)と上記ハウジング(36)とに噛み合い、上記可動スクロール(32)の自転を阻止するオルダム継手(34)で構成され、
上記給油路(73)は、上記外側空間(S4)において上記シールリング(70)と上記オルダム継手(34)とに亘って形成されている
ことを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項6】
請求項1において、
上記圧縮機構(30)のスクロール(31,32)は、上記ケーシング(10)に固定された固定スクロール(31)と、該固定スクロール(31)に噛合する可動スクロール(32)とより構成され、
上記圧縮機構(30)は、上記可動スクロール(32)の背面に先端部が連結された回転軸(39)を備え、
上記給油路(72)は、上記可動スクロール(32)と上記回転軸(39)との連結部分の外周側に筒状に形成され、
上記捕捉手段(50)は、上記給油路(72)の外周面に設けられた磁石(53)を備えている
ことを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項7】
請求項6において、
上記捕捉手段(50)の磁石(53)は筒状に形成されている
ことを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項8】
請求項6において、
上記ケーシング(10)には、上記可動スクロール(32)を該可動スクロール(32)の背面側で支持すると共に、上記回転軸(39)における上記可動スクロール(32)の連結側の端部を支持するハウジング(36)が設けられ、
上記1つの摺動部材(70)は、上記可動スクロール(32)と上記ハウジング(36)との間を上記回転軸(39)側の内側空間(S3)と上記ハウジング(36)側の外側空間(S4)とに仕切るシールリング(70)で構成され、
上記他の摺動部材(37)は、上記内側空間(S3)に連続して配置されて上記回転軸(39)を上記ハウジング(36)に支持する軸受(37)で構成され、
上記給油路(72)は、上記内側空間(S3)で構成され、
上記捕捉手段(50)の磁石(53)は、上記シールリング(70)の内周面に取り付けられている
ことを特徴とするスクロール型圧縮機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate