説明

スクロール型圧縮機

【課題】固定スクロールのラップ先端部の付け根の近傍の貫通孔に臨む鏡板での強度を高めることができ、延いては信頼性、耐久性を高めることができるスクロール型圧縮機を提供する。
【解決手段】固定スクロール23のラップ23Bを構成するインナーインボリュート面S1の開始点Pとアウターインボリュート面S2の開始点Qとの間に形成される非インボリュート面S3のうち凹曲面S32が曲率半径の小さな曲面形状に形成されるとともに、固定スクロール23のラップ23Bの先端部である渦巻中心部分に形成した貫通孔23Cの周縁のうち、凹曲面S32に臨む接近領域εでの開口形状が、凹曲面S32の曲率半径rよりも小さな曲面で形成され、非インボリュート面S3の凸曲面S32での頂点Zにおける付け根の部分とこのラップ先端部Zの付け根に臨む貫通孔23Cでの最近接縁部Uと、の間の長さである臨孔距離Lを長く確保するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール型圧縮機に係り、特に圧縮性能を低下させることなくラップ中心部側の強度増大を図ることが可能なスクロール型圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、冷凍サイクルで冷媒を圧縮する圧縮機の一例として、例えばスクロール型圧縮機が知られている(例えば、特許文献1参照)。
図9に示すように、このスクロール型圧縮機100は、上下方向に沿って延びる円筒状に形成された圧縮容器110を備え、この圧縮容器110内の上側には冷媒を圧縮する圧縮要素114が配置され、下側にはこの圧縮要素114を駆動する電動要素115が配置されている。
【0003】
圧縮機構114には、固定スクロール119と揺動スクロール120とを備え、これら固定スクロール119および揺動スクロール120の各ラップ132,139を相互に噛み合わせてこれらの内部に複数の圧縮空間121を形成している。
【0004】
固定スクロール119は、ケーシングに固定される。一方、固定スクロール119に下側から噛合する可動スクロール120は、下面に設けた軸受部122に駆動軸123の偏心軸部123Aが嵌入されることで、駆動軸123と一体に連結されている。そして、モータ127の駆動力で回転駆動される可動スクロール120が、固定スクロール119に対して自転することなく公転のみを行うことで、両ラップ132,139間に形成される圧縮空間121の容積を減少させてその内部で冷媒を圧縮する。
【0005】
本構成のスクロール型圧縮機100では、冷媒吸込管117が圧縮要素114の吸込ポート111に直接接続されており、圧縮容器110内は、圧縮要素114で圧縮された高圧冷媒が充填される高圧側空間113となっている。また、圧縮容器110の底部は、圧縮要素114等を潤滑する潤滑油が貯留される油溜まり116となる。一方、圧縮容器110の側面には、上記圧縮要素114に冷媒を導入する冷媒吸込管117と、圧縮要素114にて圧縮された冷媒を機外に吐出する冷媒吐出管118と、が設けられている。
【0006】
さらに、このスクロール型圧縮機には、圧縮要素114および回転軸123の軸受128,141,149等に潤滑油を供給するため、回転軸123の内部に潤滑油が通過する油路144が形成されている。この油路144は、回転軸123の下端に形成された潤滑油の吸込口145と、この吸込口145の上部に形成されたパドル146とを備え、回転軸123の軸方向に沿って形成されている。また、この油路144は各軸受に相当する位置に潤滑油を給油する給油口147を備える。
【0007】
回転軸123が回転すると、油溜まり116に溜まった潤滑油は、回転軸123の吸込口145から油路144に入り、この油路144のパドル146に沿って上方に汲み上げられる。そして、この汲み上げられた潤滑油は、各給油口147を通じて各軸受128、141、149を潤滑する。また、ボス収容部142まで汲み上げられた潤滑油は、メインフレームに形成された返送管(不図示)を通じて当該メインフレームの外周部に導かれ、この外周部に形成された排出口(不図示)から排出されることにより、再び油溜まり116に戻される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−50986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、このようなスクロール型の圧縮機にあっては、固定スクロールのラップと可動スクロールのラップとで囲まれた圧縮部は、これら双方のラップとが互いに噛合することによって形成される空間で構成されているが、この固定スクロールのラップ先端部分である中心渦巻部分には、固定スクロールの鏡板の厚さ方向を貫通して吐出ポートが形成されている。
【0010】
そして、固定スクロール及び可動スクロールの双方のラップで囲まれる先端部分の中心渦巻部では、周辺部側の圧縮部から中心部側の圧縮部に向けて冷媒ガスが送り込まれながら高圧状態に圧縮されるように構成されている。このため、吐出ポートに臨む鏡板の比較的厚さが薄いラップの特に中心渦巻部分の根元の近傍は、強度的に脆弱であって強度不足となっている。
【0011】
即ち、これは、固定スクロールの中心部の渦巻部分のラップの内側面と外側面とにおいて圧縮された冷媒ガスから受ける圧力の差が大きく、先端部分のラップの内側面での根元に応力が集中して作用するからである。
【0012】
そこで、本発明は、上記した事情に鑑み、固定スクロールのラップ先端部の付け根の近傍の貫通孔に臨む鏡板での強度を高めることができ、延いては信頼性、耐久性を高めることができるスクロール型圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、
(1)本発明のスクロール型圧縮機は、
ケーシング内部に固定された固定スクロールと、この固定スクロールに噛合する可動スクロールと、を備え、これら双方のラップの間に形成された空間を圧縮させるスクロール型圧縮機において、
前記固定スクロールのラップの先端側は、前記可動スクロールのラップ先端側より厚さが厚く形成されている、ことを特徴とする。
(2)また、上記(1)のスクロール型圧縮機において、
前記固定スクロールのラップを構成するインナーインボリュート面の開始点とアウターインボリュート面の開始点との間に、凹曲面であるインナー非インボリュート面と凸曲面であるアウター非インボリュート面からなる非インボリュート面を形成するとともに、
前記非インボリュート面は、前記凹曲面であるインナー非インボリュート面を曲率半径の小さな曲面形状に形成し、かつ、
前記固定スクロールのラップ先端部である渦巻中心部分に形成した吐出ポートを構成する貫通孔は、前記凹曲面であるインナー非インボリュート面に臨む接近領域での開口形状が、凹曲面であるインナー非インボリュート面の曲率半径よりも小さな曲面となるように形成し、
前記貫通孔の周縁のうち固定スクロールのラップ先端部の付け根に最接近状態で臨む最近接縁部と、固定スクロールのラップ先端部の付け根の部分と、の間の臨孔距離が長く確保されるように構成した、ことを特徴とする。
(3)また、上記(1)又は(2)のスクロール型圧縮機において、
固定スクロールのラップ先端部である渦巻中心部分に形成した、吐出ポートを構成する貫通孔の周縁近傍の鏡板において、
前記貫通孔の周縁のうちラップ先端部の付け根に最接近状態で臨む最近接縁部から立ち上がった垂直壁の高さが高く形成されている、ことを特徴とする。
(4)上記(3)のスクロール型圧縮機において、
前記貫通孔の垂直壁の高さは、固定スクロールの中圧室に臨む部分でのラップの厚さの凡そ2倍に形成されている、
ことを特徴とする。
(5)上記(1)乃至(4)のいずれかのスクロール型圧縮機のいずれかにおいて、
前記可動スクロールは、ラップ先端部である渦巻中心部分に、前記固定スクロールの貫通孔に少なくとも一部が常時重複する配置状態で、ダミーポートを構成する窪みを備えるとともに、
前記窪みの大きさは、前記貫通孔の大きさより大きく形成され、かつ、
前記固定スクロールの貫通孔と前記可動スクロールの窪みとは、互いに180度位相をずらした位置関係に形成されてある、
ことを特徴とする。
(6)上記(2)乃至(5)のいずれかのスクロール型圧縮機のいずれかにおいて、
前記非インボリュート面は、前記インナーインボリュート面及びアウターインボリュート面の両開始点の位置を変えずに形成されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
上記(1)のスクロール型圧縮機によれば、固定スクロールのラップ先端部の付け根の近傍の貫通孔に臨む鏡板部分は、厚さが厚く形成されている分だけ、その部分の強度を高めることができ、延いては固定スクロールの信頼性、耐久性を高めることができる、という利点がある。
【0015】
上記(2)のスクロール型圧縮機によれば、固定スクロールにおける貫通孔の周縁部分のうちの、固定スクロールのラップ先端部の付け根に最接近状態で臨む最近接縁部とこのラップ先端部の付け根の部分との間の臨孔距離を長く確保することができる。これにより、固定スクロールのラップ先端部の根元部分の貫通孔に臨む鏡板での強度をさらに高めることができ、延いては固定スクロールの信頼性、耐久性をさらに高めることができる、といった効果も得られる。
【0016】
上記(3)のスクロール型圧縮機によれば、固定スクロールのラップ先端部の付け根に臨む周縁部分から前記貫通孔の立ち上がった垂直壁の高さを高く形成したことで、固定スクロールのラップ先端部の根元部分の貫通孔に臨む鏡板が厚くなっているので、その分固定スクロールの強度をさらに高めることができる、という利点がある。
【0017】
上記(4)のスクロール型圧縮機によれば、貫通孔の垂直壁の高さが、固定スクロールのラップの中圧室に臨む部分での厚さの凡そ2倍に形成されているので、固定スクロールのラップ先端部の根元部分の貫通孔に臨む鏡板での強度を一層高めることができる、といった効果も得られる。
【0018】
上記(5)のスクロール型圧縮機によれば、可動スクロールにダミーポートを構成する窪みを設けたことにより、圧縮室からの冷媒ガスの吐出のタイミングを図ることができるようになる、といった効果も得られる。
【0019】
上記(6)のスクロール型圧縮機によれば、渦巻の設計圧縮比を変更することなく、中心先端部付け根の強度アップを図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係るスクロール型圧縮機を示す縦断面図である。
【図2】図1に示すスクロール型圧縮機の固定スクロールにおける下面の状態を示す説明図である。
【図3】そのスクロール型圧縮機の可動スクロールにおける上面の状態を示す平面図である。
【図4】そのスクロール型圧縮機の連通路の周辺の状態を示す断面図である。
【図5】(A)はそのスクロール型圧縮機の固定スクロールのラップ先端部付近を示す要部拡大図、(B)は比較例となる通常一般的なスクロール型圧縮機の固定スクロール(表1に示す、仕様1の固定スクロール)のラップ先端部付近を示す要部拡大図である。
【図6】(A)は図5(A)におけるVIA−VIA線矢視断面図、(B)は図5(B)におけるVIB−VIB線矢視断面図である。
【図7】図1に示すスクロール型圧縮機の固定スクロールにおけるラップ先端部付近の曲面形状を示す説明図である。
【図8】図7に示す固定スクロールにおけるラップ先端部付近での貫通孔と可動スクロールのダミーポートの関係、および双方のスクロールのラップ厚さの関係などを示す説明図である。
【図9】従来の一般的なスクロール型圧縮機の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る内部高圧となるスクロール型圧縮機1を示すものであり、この圧縮機1は、冷媒が循環して冷凍サイクル運転動作を行う図示外の冷媒回路に接続されており、インバータ制御によって冷媒を圧縮するようになっている。
【0022】
この圧縮機1は、縦長円筒状の密閉ドーム型のケーシング3を有する。このケーシング3は、上下方向に延びる軸線を有する円筒状の胴部であるケーシング本体5と、その上端部に気密状に溶接されて一体接合され、上方に突出した凸面を有する椀状の上キャップ7と、ケーシング本体5の下端部に気密状に溶接されて一体接合され、下方に突出した凸面を有する椀状の下キャップ9と、で圧力容器が構成されており、その内部は空洞とされている。
【0023】
ケーシング3の内部には、冷媒を圧縮するスクロール圧縮機構11と、このスクロール圧縮機構11の下方に配置される駆動モータ13と、が収容されている。スクロール圧縮機構11と駆動モータ13とは、ケーシング3内を上下方向に延びるように配置される駆動軸15によって連結されている。また、スクロール圧縮機構11と駆動モータ13との間には間隙空間である高圧空間17が形成されている。
【0024】
スクロール圧縮機構11は、上側に開放された略有底円筒状の収納部材であるハウジング21と、該ハウジング21の上面に密着した状態でボルトにより締結される固定スクロール23と、これら固定スクロール23及びハウジング21間に配置され、固定スクロール23に噛合する可動スクロール25と、を備えている。ハウジング21はその外周面においてケーシング本体5に固定される。また、ケーシング3内がハウジング21の下方の高圧空間17と、ハウジング21の上方の吐出空間29とに区画され、各空間17,29は、ハウジング21及び固定スクロール23の外周に縦に延びて形成された図示外の縦溝を介して連通している。
【0025】
駆動モータ13は、ケーシング3の内壁面に固定された環状のステータ13Aと、このステータ13Aの内側に回転自在に構成されたロータ13Bとを備えている。該モータ13はインバータ制御方式の直流モータで構成され、ロータ13Bには、駆動軸15を介してスクロール圧縮機構11の可動スクロール25が駆動連結されている。
【0026】
駆動モータ13の下方の下部空間91は高圧に保たれており、その下端部に相当する下キャップ9の内底部には油が貯留されている。駆動軸15内には、高圧油供給手段の一部としての給油路15Bが形成され、この給油路15Bは、可動スクロール25の背面の油室52に連通している。駆動軸15の下端には図示外のピックアップが連結され、このピックアップが、下キャップ9の内底部に貯留した油を掻き上げる。この掻き上げた油は、駆動軸15の給油路15Bを通り、可動スクロール25側の背面の油室52に供給される。そして、この油室52から可動スクロール25に設けられた、後述する連通路51及び連通孔53を通り(図7参照)、固定スクロール23側のオイル溝23Dへ送り込まれ、オイル溝23Dからスクロール圧縮機構11の各摺動部分及び圧縮室27へ供給される(図3参照)。
【0027】
ハウジング21には、駆動軸15の偏心軸部15Aが回動する支持体部21Aと、この支持体部21Aの下面中央から下方に延びるラジアル軸受部21Bと、が形成されている。また、ハウジング21には、ラジアル軸受部21Bの下端面と支持体部21Aの底面との間を貫通するラジアル軸受21Cが設けられている。また、この支持体部21Aの下面側の外周縁部近くには、潤滑油が図示外の吐出管に侵入するのを防止する薄板状のオイルコレクタ24がケーシング本体5の内周面に沿うように垂設されている。
【0028】
ケーシング3の上キャップ7には冷媒回路の冷媒をスクロール圧縮機構11に導く図示外の吸入管が、またケーシング本体5にはケーシング3内の冷媒をケーシング3外に吐出させる吐出管が、それぞれ気密状に貫通固定されている。吸入管は、吐出空間29を上下方向に延び、その内端部はスクロール圧縮機構11の固定スクロール23を貫通して圧縮室27に連通し、この吸入管により圧縮室27内に冷媒が吸入される。
【0029】
固定スクロール23は、図1及び図2に示すように、鏡板23Aと、この鏡板23Aの下面に形成された渦巻き状(インボリュート状)のラップ23Bと、このラップ23Bの渦巻き状(インボリュート状)の中心部に鏡板を貫通して穿設され、吐出弁22に向けて開口された吐出ポートを構成する貫通孔23Cと、で構成されている。また、可動スクロール25の上面である鏡面250(図1参照)に摺動されながら対面する、固定スクロール23の特に冷媒入口側のラップ23Bの先端面(下面233;図4参照)には、この下面233に刻設した細幅形状のオイル溝23Dを有している。
【0030】
一方、可動スクロール25は、図3に示すように、鏡板25Aと、この鏡板25Aの上面に形成された渦巻き状(インボリュート状)のラップ25Bと、このラップ25Bの渦巻き状(インボリュート状)の中心部に凹状に形成され、高圧状態の圧縮室27内の冷媒ガスを吐出空間29へ向けて吐出させるタイミングを調整するダミーポートを構成する窪み25Dと、で構成されている。そして、固定スクロール23のラップ23Bと、可動スクロール25のラップ25Bとは互いに噛合しており、両ラップ23B,25Bの間で複数の圧縮室27が形成される(図1参照)。
【0031】
可動スクロール25には、図4に示すように、後述する連通路51に流量制限部材(ピン部材)55を挿入している。このピン部材55は、連通路51の奥側の下孔51A内に嵌る第1ピン55Aと、この第1ピン55Aに当接して、連通路51の手前側の挿入孔51B内に嵌る第2ピン55Bとにより構成される。第2ピン55B及び第1ピン55Aを奥端側に一体に押し付けるように、めねじ孔51Cに図示外の六角穴付きのねじ部材が螺合され、ねじ部材が挿入孔51Bの一端(図4では左端)を閉塞している。また、ねじ部材は接着剤等によってゆるまないように固定される。
【0032】
可動スクロール25は、図1に示すように、オルダムリング61を介して固定スクロール23に支持され、その鏡板25Aの下面の中心部には有底円筒状のボス部25Cが突設されている。一方、駆動軸15の上端には偏心軸部15Aが設けられ、この偏心軸部15Aが、可動スクロール25のボス部25Cに回転可能に嵌入される。
【0033】
また、可動スクロール25には、図4に示すように、鏡板25Aに、一端が外部に開口し内部に直線状に延びた連通路51が形成されている。該連通路51は、一端が外部に開口する連通路の下孔51Aを形成している。該下孔51Aには、所定深さ位置まで、一端からリーマ加工を施して、所定深さの挿入孔51Bを形成している。また、挿入孔51Bの入り口には、めねじ孔51Cが螺設されている。連通路51の他端(高圧開口)51Dは、上述した可動スクロール25の背面の油室(密閉容器内の高圧部)52に連通している。また、連通路51の入り口側の内周面には、真円形状を呈する連通孔53が開口している。
【0034】
この連通孔53は、圧縮室の低圧部27Aに臨む入口近傍の可動スクロール25の鏡板25A部分に、厚さ方向に鏡面250まで貫通して形成されており、固定スクロール23の臨むように開口されている。
【0035】
さらに、ハウジング21のラジアル軸受部21B下側の駆動軸15には、可動スクロール25や偏心軸部15A等と動的バランスを取るためのカウンタウェイト部16が設けられており、このカウンタウェイト部16により重さのバランスを取りながら駆動軸15が回転することで、可動スクロール25を自転することなく公転させるようになっている。そして、この可動スクロール25の公転に伴い、圧縮室27は、両ラップ23B,25B間の容積が中心に向かって収縮することで、吸入管より吸入された冷媒を圧縮するように構成されている。
【0036】
固定スクロール23の中央部には吐出ポートを構成する貫通孔23Cが設けられており、この貫通孔23Cから吐出されたガス冷媒は、吐出弁22を通って吐出空間29に吐出される。そして、ハウジング21及び固定スクロール23の各外周に設けた図示外の縦溝を介し、ハウジング21の下方の高圧空間17内の、オイルコレクタ24の外側の空間へ流出するようになっている。この高圧冷媒は、最終的には、ケーシング本体5に設けた吐出管を介してケーシング3外に吐出される。
【0037】
次に、本発明の特徴的な構成である、固定スクロール23のラップ23Bの渦巻き状(インボリュート状)の先端部Z、換言すれば、後述する非インボリュート面S3での凸曲面S32の頂点である点Zの近傍の形状、つまり貫通孔23Cに臨む部分の形状、及び貫通孔23Cの構成について、特に図5乃至図8を参照しながら説明する。
【0038】
なお、例えば図5(B)に示す一般的な固定スクロール23´のような鏡板23´Aにおいて、ラップ23´Bの先端部Z´(図5(B)参照)の近傍の貫通孔23´Cに最接近状態で臨む部位が、FEM(有限要素法)での解析によって、スクロール型圧縮機運転中に最大応力発生部位を構成することが確認されている。因みに、本実施形態である図5(A)に示す固定スクロール23の鏡板23Aでは、詳細は後述するが、ラップ23Bの先端部Z(図5(A)参照)の近傍の貫通孔23Cに最接近状態で臨む、上記に対応する部位の物理的強度が大幅に補強されている。
【0039】
また、図8において、符号s1及びs2は、可動スクロール25でのインナーインボリュート面及びアウターインボリュート面をそれぞれ示す。また、符号E1及びE2は、固定スクロール23の貫通孔23Cにおける長軸長さ及びこれに直交する短軸長さをそれぞれ示す。さらに、符号e1及びe2は、可動スクロール25の窪み25Dにおける長軸長さ及びこれに直交する直交軸長さをそれぞれ示す。
【0040】
ラップ23Bは、後述する表1の仕様1に記載のものの高さ(h)に比べて、高さが高く(h+Δh)形成されており、圧縮機として高出力化を図ることができるように構成されている。また、このラップ23Bの先端部Zは、図7に示すように、固定スクロール23のラップ23Bを構成する2面のうちの内側面(以下、「インナーインボリュート面S1」とよぶ)の開始点Pと、2面のうちの外側面(以下、「アウターインボリュート面S2」とよぶ)の開始点Qとの間の領域α(図5(A)参照)に、非インボリュート面S3を形成している。なお、この非インボリュート面S3は、インナーインボリュート面S1とアウターインボリュート面S2との両開始点の位置を変えずに形成されている。
【0041】
この非インボリュート面S3は、図5(A)において、点P→点R→点Z→点Qまでの線分で示す曲線部分の領域α(=α1+α2)であって、点Rは、非インボリュート面S3の凹曲面S31と凸曲面S32とが交わる点に相当する。即ち、点Pから点Rまでの領域が、凹面部分であって、非インボリュート面S3のうちのインナー非インボリュート面である凹曲面S31を構成する。一方、点Rから点Zを通り点Qに至る領域が、凸面部分であって、非インボリュート面S3のうちのアウター非インボリュート面である凸曲面S32を構成する。なお、点Zは、アウター非インボリュート面S3である凸曲面S32の頂点に対応している。また、点Rは、前述したように、インナー非インボリュート面である凹曲面S31とアウター非インボリュート面である凸曲面S32とについて、共通の非インボリュート面としての開始点である。
【0042】
本発明の非インボリュート面S3は、特に凹曲面S31の開始点Rから終点Pまで、凹曲面S31の全体について、曲率半径rが小さな曲面形状(r<r´;なお、r´は図5(B)に示す、後述の表1の仕様1の固定スクロールでのインナーインボリュート面S´1の曲率半径)に形成してある。つまり、凹曲面S31については、図7において、破線で示すインナーインボリュート面よりも貫通孔23Cに近づく方向(同図では右方)にシフトした、実線で示すような形状で構成されている。
【0043】
一方、非インボリュート面S3のうちの凸曲面S32については、つまり、凸曲面S32での開始点でもある点Rから終点Qに至るまで、インナーインボリュート面とは異なる適宜形状の曲面、例えばインナーインボリュート面よりも外側にシフトした円弧形状の曲線など、任意の形状でよい。なお、本実施形態では、適宜の曲率半径を有する円弧を用いている。これにより、図8に示すように、固定スクロール23のラップ23Bの先端部でもある凸曲面S32の頂点Z側付近での厚さTも、少なくとも可動スクロール25のラップ25Bの先端部Z側付近での厚さTよりも厚くなる。
【0044】
次に、上述の非インボリュート面S3を構成する曲面の形成方法について説明する。
(1)所望のデカルト座標、即ち図7に示すように、直交するX−Y座標を所定の位置を原点Oとして設定するとともに、この2次元座標上の原点Oで、基礎円βを描く。この基礎円βは各種圧縮機ごとに任意であって、例えばその半径などは専ら固定スクロールの大きさ、延いては圧縮機の出力などによって一意に決定される。
【0045】
(2)このようにして、基礎円βが所定位置に決定されたならば、この基礎円βを基準として、インボリュート関数を原始関数とするインボリュート曲線(図5において、2点鎖線で示す曲線、これを原始インボリュート曲線とよぶ)を描き、この原始インボリュート曲線を原点を中心として一定角度(即ち、インボリュート始点角δ)だけ両方向に回転移動させる。これにより、開始点Rで一定幅tを有する2本のインボリュート曲線が得られる。これらが、固定スクロール23におけるインナーインボリュート面S1及びアウターインボリュート面S2となるが、後述するように渦巻中心部側の開始点Rから一定領域αについては、非インボリュート面に変更させる。
【0046】
(3)次に、所要の圧縮比によって一義的に決定される、図7に示すようなインナー非インボリュート面及びアウター非インボリュート面を作成すべく、一定角度θの傾きを有する2本の直線を用意する。そして、これらの直線を用いて、基礎円βと接するときの2接線である直線V、V´を決定する。ここで、角度θは、インボリュート開始角を求めるためのものであって、圧縮比によって一意に決定されているものである。
【0047】
(4)そして、上記の直線Vがインナーインボリュート面S1と交わる交点Pと、同じく、上記直線V´がアウターインボリュート面S2と交わる交点Qとを決定する。
なお、交点Pがインナー非インボリュート面(即ち、凹曲面S31)の終点及びインナーインボリュート面S1の開始点となり、交点Qがアウター非インボリュート面(即ち、凸曲面S32)の終点及びアウターインボリュート面S2の開始点となる。また、インナー非インボリュート面である凹曲面S31の開始点であり、アウター非インボリュート面である凸曲面S32での開始点でもある点Rについては、双方の曲面が交わるところの点である。
【0048】
(5)次に、図5(A)に示すように、上述した2点P,Qを含む4点、即ち、点P,R,Z,Qの間を結ぶ太線で示すα領域での曲線については、インボリュートとは異なる曲面、つまり非インボリュート面S3に変更させる。
変更させるこの非インボリュート面S3うち、特に2点P,Rで示す領域α1内に形成するインナー非インボリュート面となる凹曲面S31については、図7に示すように、基礎円βに対する一方側の接線である直線Vにおける任意の点Cを中心とした半径rが描く円周の一部である円弧を形成し、元のインボリュート形状であったものを、これに変更させる。従って、インナーインボリュート面S1開始点を点Pに変更させる。なお、この円弧を形成する際の円の中心点の設置位置は、必ずしも接線である直線V上の区間PNに限定させる必要はなく、その延長線上でもよい。
【0049】
(6)これにより、既に形成してあるインナーインボリュート面S1における開始点Pより先の領域において、特に領域α1に形成されていたインボリュート曲線を、上記した任意の点Cを中心とした円弧に変更する。特に、この場合の円の半径rについては、図5(B)に示す、仕様1タイプ(後述の表1参照)の固定ロール23´での対応する半径r´に比べて小さな曲率半径、r<r´となるものを用いる。これにより、領域α1に形成するインナー非インボリュート面S31は、これに変更する前のインナーインボリュート曲面よりも若干外側に、つまり貫通孔23C寄りにシフトさせてある。なお、ここでの円弧曲線については、終点Pと開始点Rとの双方の点を共に通過するものを用いる。
【0050】
(7)また、非インボリュート面S3を形成する領域αのうち、3点Q,Z,Rの領域α2内に形成するアウター非インボリュート面である凸曲面S32については、本実施形態の場合、前述したように円弧曲線に変更させてある。これにより、これに変更する前のアウターインボリュート曲面よりも若干外側に広がる状態にシフトさせてある。なお、この場合の円弧については、凹曲面S31と同様、図7において、基礎円βに対する他方側接線である直線V´における接点N´と前述のアウターインボリュート面S2との交点Qとの2点N´,Qを通過するような、任意の点を中心とした半径が描く円周の一部であり、元のインボリュート形状であったものをこれに変更させる。
【0051】
このようにして形成した非インボリュート面S3を有する固定スクロール23のラップ23Bを用いることで、圧縮比を変更することなく固定スクロール23の強度アップを図ることができるようになっている。
【0052】
次に、固定スクロール23のラップ23Bの渦巻中心部分に形成した吐出ポートを構成する貫通孔23Cについて、図5乃至図8を参照しながら説明する。
【0053】
本実施形態では、固定スクロール23のラップ23B先端部である渦巻中心部分に形成した吐出ポートを構成する貫通孔23Cの内周縁のうち、特に固定スクロール23のラップ23B先端部である点Zにおける鏡板23Aの付け根の部位(図5(A)では点Zで示す部位の直下)と、このラップ23B先端部である点Zでの付け根部分から貫通孔23Cの内周縁に最接近状態で臨む固定スクロール23の最近接縁部Uと、の間の長さ(以下、「臨孔距離L」とよぶ)を、長めに確保するように構成してある。
【0054】
即ち、通常の一般的な貫通孔、例えば図5(B)に示す固定スクロール23´において、ラップ23´B先端部である点Z´での鏡板23´Aに対する付け根の部位(図5(B)では点Z´で示す部位の直下)と、このラップ23´B先端部Z´での付け根部分から貫通孔23´Cの内周縁に最接近状態で臨む固定スクロール23´の最近接縁部U´と、の間の長さ(以下、これを「臨孔距離L´」とよぶ)に比べて、少なくとも、本実施形態の臨孔距離Lの方が長く、即ち、L>L´となるように構成されている。
【0055】
このように、固定スクロール23での臨孔距離Lが仕様1の固定スクロール23´での臨孔距離L´に比べて増大可能となっているのは、貫通孔23Cを、例えば表1の仕様1に記載の固定スクロール23´での貫通孔23´Cに比べて小さくさせたことによる。その小さくさせた分だけ鏡板23Aにおいて基底面232、特に臨孔距離Lを長く確保できる。
【0056】
そこで、この貫通孔23Cを小さく狭めるため、本実施形態では以下のような構成としている。
図5(A)に示す本実施形態の貫通孔23Cでは、同図(B)に示す表1での仕様1に対応する固定スクロール23´に開口した貫通孔23´Cの大きさに比べて、80%から90%程度(本実施形態では、90%)に、開口面積を狭くしてある(図5(A)、(B)参照)。即ち、貫通孔23Cは、非インボリュート面S3のうちの凹曲面S31に臨む接近領域(ε)での開口形状が、固定スクロール23´の貫通孔23´Cでの接近領域(ε´)での開口形状と比べ、開口が狭まるように構成されている。例えば本実施形態では、開口面積を10%程度狭く形成させることによって、臨孔距離Lを増大させている。
【0057】
具体的には、貫通孔23Cの開口部分のうち、凹曲面S31に臨む接近領域(ε)(図5(A)参照)での開口が狭まるように、凹曲面S31の曲率半径rよりも小さな内縁となるような曲面で構成している。つまり、接近領域(ε)内での開口縁部を貫通孔23Cの中心方向に向けて接近するように、シフトさせて後退させている(図7において、一点鎖線で示す部分から太線で示す部分へ、右方へシフトさせてある)。これにより、孔を狭めて開口面積を削減させているわけである。なお、この部分の曲面としては、例えば凹曲面S31の曲率半径rよりも小さな曲率半径を有する円弧などでよい。
【0058】
なお、この貫通孔23Cの開口形状については、上述したように、固定スクロール23の非インボリュート面S3の凹曲面S31に臨む接近領域(ε)での内縁部分を、孔中心方向に接近するように後退させて狭めているが、図5(A)に示す接近領域(ε)とは反対側の残り領域(λ)では、仕様1に記載の固定スクロール23´の貫通孔23´Cでの形状と同じとしてあり、変更させていない。つまり、貫通孔23Cの反ラップ側である、残り領域(λ)から圧縮室の連通が始まるが、こちら側については形状変更がないので、以前のものと同様、2対の圧縮室の吐出タイミングが同時であることに変わりはない。
【0059】
また、このような臨孔距離Lの関係については、固定スクロール23のラップ23B先端である点Zの近傍から若干離れた、図5(A)における矢視切断線VIA−VIAで切断したところでも同様である。
即ち、図6(A)に示すように、ラップ23B先端部Zの近傍から若干離れた部分での貫通孔23Cとの間の臨孔距離ΔLについても、表1の仕様1に記載の固定スクロール23´の対応部位で切断した断面図である図6(B)に示す、通常一般の固定スクロール23´での臨孔距離ΔL´に比べて、大きさが拡大している。
【0060】
このように、上述した臨孔距離Lの場合と同様、臨孔距離ΔLの拡大が実現できるようになったのも、図6に示すように、切断面部分での固定スクロール23の貫通孔23Cでの幅Wを、固定スクロール23´での貫通孔23´Cの対応部分の幅W´(但し、W<W´)に比べて狭めたことにより可能になったものである。
【0061】
しかも、本実施形態の固定スクロール23のラップ23B先端部でもある頂点Zである渦巻中心部分に形成した吐出ポートを構成する貫通孔23Cは、図6(A)に示すように、この貫通孔23Cの内周面において、この固定スクロール23の鏡板23Aの鏡面230のうち、特にラップ23Bの付け根につながっている表面部分である基底面232から、垂直に立ち上がった垂直壁231の高さHを高く形成した構成となっている。
【0062】
特に、本実施形態の貫通孔23Cについては、図5(A)及び図6(A)に示すように、固定スクロール23のラップ23B先端部Zを除く部分でのラップ幅t(図5(A)参照)に対して略2倍程度の高さH、即ち、H=2tとなるように、垂直壁231を設けている。
【0063】
一方、仕様1の固定スクロール23´の貫通孔23´Cについては、図5(B)及び図6(B)に示すように、一般に、固定スクロール23´のラップ23´B先端部を除く部分での幅t´に対して略同じ程度の高さH´、即ち、H´≒t´となるように、基底面232´から垂直壁231´を設けている。
【0064】
従って、本実施形態の貫通孔23Cについては、通常一般的な貫通孔、即ち仕様1の固定スクロール23´における貫通孔23´Cなどに比べて垂直壁231を高く形成しているので、ラップ23Bの先端部である点Z近傍での鏡板23Aの厚さが実質的に増大した構造となり、構造的に強度が大幅増大している。
【0065】
次に、固定スクロール23の貫通孔23Cと可動スクロール25の窪み25Dとの関係について、図8を参照しながら説明する。
本実施形態の貫通孔23Cは、可動スクロール25のラップ25Bの渦巻中心部分に形成したダミーポートを構成する窪み25Dの大きさよりも小さく、つまり、
E1<e1、かつ、E2<e2
を満たすように形成してある。このように、貫通孔23Cは、窪み25Dとは同一面積ではなく、これより狭い面積を有している。
【0066】
また、この固定スクロール23の貫通孔23Cと可動スクロール25の窪み25Dとは、互いに180度位相をずらして点対称的に反転させた相対位置関係に組み付けてある。なお、ここで、初等幾何学によれば、周知のように「点対称」とは対称の中心位置を中心として180度回転させたときに互いに重なり合う図形の関係を定義するものであるが、本実施形態では相似形状であって大きさが異なるのでぴったりとは重ならない、といった事情を考慮して、「点対称的」と記載してあるものである。
【0067】
このような形状に貫通孔23Cを形成することにより、貫通孔23Cの反ラップ側である、残領域(λ;図5参照)から圧縮室の連通が始まるので、2対の圧縮室の吐出タイミングは同時であることに変わりはない。これにより、軸受荷重について必要以上に負荷が発生することなどを有効に回避でき、その結果、騒音、振動、耐久性などについて悪影響が発生するのを防止できるといった効果が得られる。
【0068】
次に、このスクロール型圧縮機1の運転動作について説明する。
駆動モータ13を駆動すると、ステータ13Aに対してロータ13Bが回転し、それによって駆動軸15が回転する。駆動軸15が回転すると、スクロール圧縮機構11の可動スクロール25が固定スクロール23に対して姿勢を一定に保持したまま、自転せずに公転のみ行う。これにより、低圧の冷媒が、吸入管を通して圧縮室27の周縁側から圧縮室27に吸引され、圧縮室27の容積変化に伴って圧縮される。
【0069】
圧縮された冷媒は、高圧となって圧縮室27から吐出弁22を通って吐出空間29に吐出され、ハウジング21及び固定スクロール23の各外周に設けた図示外の縦溝を介して、ハウジング21の下方の高圧空間17側のオイルコレクタ24の外側に流出する。そして、この高圧冷媒は、ケーシング本体5に設けた図示外の吐出管を介してケーシング3外に吐出される。ケーシング3外に吐出された冷媒は、図示外の冷媒回路を循環した後、再度吸入管を通して圧縮機1に吸入されて圧縮され、冷媒の循環が繰り返される。
【0070】
次に、潤滑油の流れを説明する。
ケーシング3における下キャップ9の内底部に貯留された潤滑油は、図1に示す駆動軸15の下端に設けた図示外のピックアップにより掻き上げられ、この潤滑油が、駆動軸15の給油路15Bを通じ、可動スクロール25背面の高圧状態の油室52に供給される。また、この潤滑油は、図4に示す油室52から、可動スクロール25に設けられた連通路51、連通孔53を介して、固定スクロール23側のラップ23Bの先端面である下面233に開口されたオイル溝23D(図2、図4参照)へと、差圧を利用して送り出され、スクロール圧縮機構11の各摺動部分及び圧縮室27へ供給される。
【0071】
また、例えば図1において、圧縮室27へ供給された油は、高圧の圧縮室である両スクロール中央部へ移動すると、ここで圧縮された高圧状態の冷媒の流れに伴って、吐出弁22を通って吐出空間29に吐出される。このようにして、高圧状態の冷媒とともに吐出弁22を通って吐出空間29に吐出された潤滑油は、ハウジング21及び固定スクロール23の各外周に設けた図示外の縦溝を介して、ハウジング21の下方の高圧空間17に流出する。そして、この油がケーシング本体5の内壁部や駆動モータ13の隙間を通って、下部空間91に相当する下キャップ9の内底部に貯留されるが、この場合、高圧空間17には薄板状のオイルコレクタ24やカップ26などが設置されているので、吐出管に侵入するのを防止しながら、下キャップ9の内底部へ回収させることができる。
【0072】
次に、本実施形態に係る固定スクロール23を含む各種タイプの固定スクロールを設けた5種類のスクロール型圧縮機を運転させたときに、前述したラップの先端部の近傍の貫通孔に最接近状態で臨む部位に作用する最大応力を調べる実験を行ってみた。その結果を示す[表1]を参照しながら、本実施形態の作用効果を説明する。なお、ここで、仕様1から仕様6に示す固定スクロールのうち、仕様1のものは通常一般的な低出力タイプのものであり、仕様2のものは通常一般的な高出力タイプのものである。また、仕様5に示すものが本実施形態に用いた固定スクロール23である。
【0073】
【表1】

【0074】
上記の表1から分かるように、本実施形態の固定スクロールに対応する仕様5のものは、通常一般的な構成である仕様1(低出力タイプ)のものに比べて、スクロールの歯高をΔhだけ高め、吐出孔面積を0.9倍に狭め、吐出孔垂直壁を2.5倍に高くしてある。このような構成とすることで、固定スクロールの最大応力が発生していた先端部Zの付け根に作用する力を28%削減できるとの知見が得られた。従って、仕様5に示す固定スクロールを備えた本実施形態の圧縮機1によれば、固定スクロール23のラップ23B先端部Zの付け根近傍の鏡板23Aの強度が高められていることが確認された。
【0075】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の要旨を逸脱しない範囲で各種の変形実施が可能である。例えば、本発明の固定スクロールについては、上記表1における仕様5に限らず、仕様3,4,6のいずかの構成であってもよい。
【符号の説明】
【0076】
1 スクロール型圧縮機
11 スクロール圧縮機構
13 駆動モータ
13A ステータ
13B ロータ
15 駆動軸
15A 偏心軸部
15B 給油路
16 カウンタウェイト部
17 高圧空間
21 ハウジング
21A 支持体部
21B ラジアル軸受部
22 吐出弁
23 固定スクロール
23A 鏡板
23B ラップ
23C 貫通孔(吐出ポート)
23D オイル溝
230、250 鏡面
231 垂直壁
232 基底面
24 オイルコレクタ
25 可動スクロール
25A 鏡板
25C ボス部
25D 窪み(ダミーポート)
27 圧縮室
27A 低圧部
29 吐出空間
3 ケーシング
5 ケーシング本体
51 連通路
51A 下孔
51B 挿入孔
51C めねじ孔
52 油室(密閉容器内の高圧部)
53 連通孔
55 流量制限部材(ピン部材)
55A 第1ピン
55B 第2ピン
61 オルダムリング
7 上キャップ
9 下キャップ
91 下部空間
H 垂直壁の高さ
L,ΔL 臨孔距離
N 接点(基礎円と直線との交点である)
P インナーインボリュート面の開始点(インナー非インボリュート面の終点)
Q アウターインボリュート面の開始点(アウター非インボリュート面の終点)
R 非インボリュート面の凹曲面と凸曲面とが接する点(双方の開始点)
r 非インボリュート面の曲率半径
S1 インナーインボリュート面
S2 アウターインボリュート面
S3 非インボリュート面
S31 非インボリュート面での凹曲面(インナー非インボリュート面)
S32 非インボリュート面での凸曲面(アウター非インボリュート面)
T 固定スクロールのラップ先端部側の厚さ
可動スクロールのラップ先端部側の厚さ
t 固定スクロールのラップ先端部を除く部分でのラップ幅
U (固定スクロールのラップ先端部の付け根に臨む)最近接縁部
V、V´ 直線(基礎円との接線)
Z 固定スクロールのラップ先端部(非インボリュート面の凸曲面での頂点)
z 可動スクロールのラップ先端部(仕様1での非インボリュート面の凸曲面での頂点)
α 非インボリュート面の形成領域
β 基礎円
ε 固定スクロールの非インボリュート面の凹曲面に臨む接近領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング内部に固定された固定スクロールと、この固定スクロールに噛合する可動スクロールと、を備え、これら双方のラップの間に形成された空間を圧縮させるスクロール型圧縮機において、
前記固定スクロールのラップの先端側は、前記可動スクロールのラップ先端側より厚さが厚く形成されている、
ことを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項2】
前記固定スクロールのラップを構成するインナーインボリュート面の開始点とアウターインボリュート面の開始点との間に、凹曲面であるインナー非インボリュート面と凸曲面であるアウター非インボリュート面からなる非インボリュート面を形成するとともに、
前記非インボリュート面は、前記凹曲面であるインナー非インボリュート面を曲率半径の小さな曲面形状に形成し、かつ、
前記固定スクロールのラップ先端部である渦巻中心部分に形成した吐出ポートを構成する貫通孔は、前記凹曲面であるインナー非インボリュート面に臨む接近領域での開口形状が、凹曲面であるインナー非インボリュート面の曲率半径よりも小さな曲面となるように形成し、
前記貫通孔の周縁のうち固定スクロールのラップ先端部の付け根に最接近状態で臨む最近接縁部と、固定スクロールのラップ先端部の付け根の部分と、の間の臨孔距離が長く確保されるように構成した、
ことを特徴とする請求項1に記載のスクロール型圧縮機。
【請求項3】
固定スクロールのラップ先端部である渦巻中心部分に形成した、吐出ポートを構成する貫通孔の周縁近傍の鏡板において、
前記貫通孔の周縁のうちラップ先端部の付け根に最接近状態で臨む最近接縁部から立ち上がった垂直壁の高さが高く形成されている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のスクロール型圧縮機。
【請求項4】
前記貫通孔の垂直壁の高さは、固定スクロールの中圧室に臨む部分でのラップの厚さの凡そ2倍に形成されている、
ことを特徴とする請求項3に記載のスクロール型圧縮機。
【請求項5】
前記可動スクロールは、ラップ先端部である渦巻中心部分に、前記固定スクロールの貫通孔に少なくとも一部が常時重複する配置状態で、ダミーポートを構成する窪みを備えるとともに、
前記窪みの大きさは、前記貫通孔の大きさより大きく形成され、かつ、
前記固定スクロールの貫通孔と前記可動スクロールの窪みとは、互いに180度位相をずらした位置関係に形成されてある、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のスクロール型圧縮機。
【請求項6】
前記非インボリュート面は、前記インナーインボリュート面及びアウターインボリュート面の両開始点の位置を変えずに形成されている、
ことを特徴とする請求項2乃至5のいずれか1項に記載のスクロール型圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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