説明

スクロール型圧縮機

【課題】スクロール型圧縮機において、大型化を回避しつつ、過圧縮損失を低減する。
【解決手段】固定スクロール(31)と可動スクロール(36)とを備えたスクロール型圧縮機において、固定スクロール(31)及び可動スクロール(36)の少なくとも一方のラップ(34,38)を、2つの圧縮室(41A,41B)の少なくとも一方の圧縮室(41B)の容積変化率が圧縮行程の途中において減少するような形状に形成された変形ラップに構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール型圧縮機に関し、特に、過圧縮損失の低減対策に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ケーシング内に電動機とスクロール型の圧縮機構とを備えたスクロール型圧縮機が知られている(例えば、特許文献1を参照)。スクロール型圧縮機の圧縮機構には、鏡板と該鏡板の前面に立設されたラップとをそれぞれ有し、互いの鏡板の前面が対向して互いのラップが噛み合うように配置された固定スクロールと可動スクロールとが設けられている。このスクロール型圧縮機では、可動スクロールが固定スクロールに対して偏心回転することにより、両スクロールのラップの間に形成された圧縮室の形状が変化して内部の流体が圧縮される。流体は、圧縮機構の両スクロールの外周側から圧縮室内に吸入されて圧縮室の変形と共に中心部に向かう。そして、流体が所定の圧力に達すると、圧縮機構の中心部から外部へ吐出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−286095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記スクロール型圧縮機では、固定スクロール及び可動スクロールのラップの最も内側の接点が離れて圧縮室が吐出ポートに連通することによって吐出行程が開始される。しかし、吐出行程の開始直後は、圧縮室と吐出ポートとを連通する通路の断面積が狭いにも拘わらず、圧縮室の容積は圧縮行程の際と同様に可動スクロールの偏心回転に伴って減少する。そのため、吐出行程が開始されたにも拘わらず圧縮室において流体がさらに圧縮されて吐出圧力を上回る過圧縮が生じ易い。特に、近年は圧縮機が高速化する傾向にあり、上述のような過圧縮による圧力損失が増大し、全損失に占める過圧縮損失の割合が高くなっている。
【0005】
これに対し、例えば、ラップの巻数を増大して流体の圧縮経路を延長し、圧縮室の容積変化率を減少することによって吐出行程における圧縮室内における流体の過圧縮を抑制することが考えられる。しかしながら、単にラップの巻数を増大して圧縮経路の延長を図ると、圧縮機構の大径化を招き、スクロール型圧縮機を大型化してしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、スクロール型圧縮機において、大型化を回避しつつ、過圧縮損失を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、鏡板(32,37)と該鏡板(32,37)の正面に立設された渦巻き状のラップ(34,38)とをそれぞれ有する固定スクロール(31)と可動スクロール(36)とを備え、該固定スクロール(31)と可動スクロール(36)とが、互いの鏡板(32,37)の正面が対向すると共に互いのラップ(34,38)が噛み合うように配置され、上記可動スクロール(36)が自転することなく上記固定スクロール(31)に対して偏心回転することによって上記可動スクロール(36)のラップ(38)の内側及び外側のそれぞれに形成される圧縮室(41A,41B)において流体が圧縮されるスクロール型圧縮機であって、上記固定スクロール(31)及び可動スクロール(36)の各ラップ(34,38)は、上記2つの圧縮室(41A,41B)の少なくとも一方の圧縮室(41B)が、圧縮行程の途中において容積変化率が減少する減少圧縮室(41B)となるような形状に形成されている。
【0008】
第1の発明では、可動スクロール(36)が偏心回転して2つの圧縮室(41A,41B)の容積が減少することにより該両圧縮室(41A,41B)内の流体が圧縮されるが、少なくとも一方の圧縮室(41B)が、圧縮行程の途中において容積変化率が減少する減少圧縮室(41B)となる。減少圧縮室(41B)では、圧縮行程の終了時における容積変化率が圧縮行程の開始時に比べて小さくなる。つまり、減少圧縮室(41B)の吐出行程の開始直後における容積変化率が比較的小さい値となる。そのため、スクロール型圧縮機では、吐出行程の開始直後は、圧縮室と流体を吐出するための吐出ポートとの連通路の断面積が狭くなるが、減少圧縮室(41B)の容積変化率が圧縮行程の終了時に比較的小さい値となっているため、吐出行程の開始直後の減少圧縮室(41B)において流体が吐出圧力を超えて無駄に圧縮されてしまうことが抑制される。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、上記固定スクロール(31)及び可動スクロール(36)の各ラップ(34,38)は、インボリュート曲線状に形成されると共に、上記減少圧縮室(41B)に面する側面(34b,38b)が、外端から内端に向かって基礎円の半径が段階的に小さくなる変形インボリュート曲線形状に形成されている。
【0010】
第2の発明では、上述のように、固定スクロール(31)及び可動スクロール(36)の各ラップ(34,38)の減少圧縮室(41B)に面する側面(34b,38b)が、外端から内端に向かって基礎円の半径が段階的に小さくなる変形インボリュート曲線形状に形成されている。
【0011】
ところで、同一外径のインボリュート曲線では、基礎円の半径が小さくなる程、巻き数が多くなり、インボリュート曲線が長くなる。そのため、基礎円の半径が小さいインボリュート曲線形状に形成されたラップを用いると、流体の圧縮経路が長くなり、圧縮室における容積変化率が小さくなる。つまり、上述のように、固定スクロール(31)及び可動スクロール(36)の各ラップ(34,38)の減少圧縮室(41B)に面する側面(34b,38b)を、外端から内端に向かって基礎円の半径が段階的に小さくなる変形インボリュート曲線形状に形成すると、可動スクロール(36)の偏心回転に伴って減少圧縮室(41B)の容積変化率が小さくなる。
【0012】
第3の発明は、第2の発明において、上記固定スクロール(31)及び可動スクロール(36)の各ラップ(34,38)は、上記変形インボリュート曲線上の基礎円の半径が変更される変更点(P1,P2)において、変更前後の基礎円が共通の接線(L1,L2)を有するように構成されている。
【0013】
第3の発明では、変更前後の基礎円は、同心状に配置されるのではなく、小径の基礎円が大径の基礎円に内接し、該内接点における接線(L1,L2)上において基礎円の半径を変更する、即ち、上記接線上において大径の基礎円に基づくインボリュート曲線と小径の基礎円に基づくインボリュート曲線とを繋いでいる。このように径の異なる基礎円に基づくインボリュート曲線を繋ぐことにより、2種類のインボリュート曲線が滑らかに繋がれることとなる。
【0014】
第4の発明は、第1乃至第3のいずれか1つの発明において、上記固定スクロール(31)及び可動スクロール(36)の各ラップ(34,38)は、上記可動スクロール(36)の偏心回転に伴って上記減少圧縮室(41B)の容積変化率が第1容積変化率から該第1容積変化率よりも小さい第2容積変化率に移行するように形成されると共に、上記可動スクロール(36)の回転角が、上記減少圧縮室(41B)の吐出行程が開始する角度の前後90度の角度範囲内の角度であるときに、上記容積変化率の移行が完了するように形成されている。
【0015】
第4の発明では、可動スクロール(36)の偏心回転に伴って、減少圧縮室(41B)の容積変化率が第1容積変化率から第2容積変化率に移行する。また、この容積変化率の移行は、可動スクロール(36)の偏心回転角が、減少圧縮室(41B)の吐出行程が開始する吐出開始角度の前後90度の角度範囲内の角度であるときに完了する。
【0016】
ところで、上述のように、スクロール型圧縮機では、吐出行程の開始後、可動スクロール(36)が90度程度回転するまでの間は、圧縮室と流体を吐出するための吐出ポートとの連通路の断面積が狭い。そのため、圧縮室(41B)の吐出行程の開始前まで、又は吐出行程の開始後であっても可動スクロール(36)が90度程度回転するまでの間に減少圧縮室(41B)の容積変化率の移行が完了することが好ましい。しかしながら、例えば、圧縮行程の開始直後に減少圧縮室(41B)の容積変化率の移行が完了するようにすると、吸入容積が小さくなって所望の圧縮比を確保できないおそれがある。そのため、上述のように、可動スクロール(36)の偏心回転角が上記吐出開始角度の前後90度の角度範囲内の角度であるときに容積変化率の移行が完了するように構成することにより、過圧縮が生じ易い吐出行程の開始直後の減少圧縮室(41B)の容積変化率が確実に小さくなる一方、吸入容積は大きく確保される。
【0017】
第5の発明は、第1乃至第4のいずれか1つの発明において、上記固定スクロール(31)及び上記可動スクロール(36)の各ラップ(34,38)は、非対称形状に形成されると共に、少なくとも上記可動スクロール(36)のラップ(38)の内側に形成された内側圧縮室(41B)が上記減少圧縮室(41B)となるように形成されている。
【0018】
第5の発明では、固定スクロール(31)と可動スクロール(36)のラップ(34,38)が非対称形状に形成されている。このような場合、可動スクロール(36)のラップの外側に形成される圧縮室よりも内側に形成される圧縮室の方が圧縮経路が短くなるため、可動スクロール(36)の偏心回転に伴う容積変化率が大きくなる。よって、可動スクロール(36)のラップの外側に形成される圧縮室よりも内側に形成される圧縮室の方が過圧縮が生じ易く、過圧縮損失が大きくなる。しかしながら、第5の発明では、少なくとも内側圧縮室(41B)が、圧縮行程の途中において容積変化率が減少する減少圧縮室となるように、各ラップ(34,38)が形成されている。そのため、内側圧縮室(41B)において過圧縮が生じ難くなる。
【0019】
第6の発明は、第1の発明において、上記固定スクロール(31)及び可動スクロール(36)の各ラップ(34,38)は、外端から内端に向かって円弧半径が小さくなるように連続する複数の円弧状部分(34A〜34E,38A〜38D)によって構成されると共に、上記減少圧縮室(41A,41B)の容積変化率が圧縮行程の途中において減少するように、外端から内端に向かって厚みが変化する部分(34C,34E,38B,38D)を有している。
【0020】
第6の発明では、固定スクロール(31)及び可動スクロール(36)の各ラップ(34,38)が外端から内端に向かって円弧半径が小さくなるように連続する複数の円弧状部分(34A〜34E,38A〜38D)によって構成されている。また、固定スクロール(31)及び可動スクロール(36)の各ラップ(34,38)の一部(34C,34E,38B,38D)の厚みを変化させることにより、減少圧縮室(41A,41B)の容積変化率が圧縮行程の途中において減少する。
【発明の効果】
【0021】
第1の発明によれば、固定スクロール(31)及び可動スクロール(36)の各ラップ(34,38)を、2つの圧縮室(41A,41B)の少なくとも一方の圧縮室(41B)が圧縮行程の途中において容積変化率が減少する減少圧縮室(41B)となるような形状に形成した。そのため、スクロール型圧縮機では、吐出行程の開始直後は、圧縮室と流体を吐出するための吐出ポートとの連通路の断面積が狭くなるが、減少圧縮室(41B)の容積変化率が圧縮行程の終了時に比較的小さい値となっているため、吐出行程の開始直後の減少圧縮室(41B)において流体が過圧縮されるのを抑制することができる。従って、過圧縮損失を低減することができる。また、固定スクロール(31)及び可動スクロール(36)の各ラップ(34,38)を、減少圧縮室(41B)の圧縮行程の途中において容積変化率が減少するように構成したため、スクロール型圧縮機を大型化させることなく、過圧縮損失を低減することができる。
【0022】
また、第2の発明によれば、固定スクロール(31)及び可動スクロール(36)の各ラップ(34,38)の減少圧縮室(41B)に面する側面(34b,38b)を、外端から内端に向かって基礎円の半径が段階的に小さくなる変形インボリュート曲線形状に形成することにより、減少圧縮室(41B)の容積変化率を圧縮行程の途中において減少させる形状のラップ(34,38)を容易に構成することができる。また、固定スクロール(31)及び可動スクロール(36)の各ラップ(34,38)の減少圧縮室(41B)に面する側面(34b,38b)を、基礎円の半径を段階的に小さくした変形インボリュート曲線形状に形成することにより、減少圧縮室(41B)の容積変化率を急激に減少させることができる。従って、過圧縮が生じ易い吐出行程の開始直後までに、減少圧縮室(41B)の容積変化率を十分に減少させることができるため、過圧縮損失を十分に低減することができる。
【0023】
また、第3の発明によれば、径の異なる基礎円に基づく複数のインボリュート曲線を滑らかに繋いで変形インボリュート曲線を容易に形成することができる。
【0024】
また、第4の発明によれば、可動スクロール(36)の偏心回転角が上記吐出開始角度の前後90度の角度範囲内の角度であるときに容積変化率の移行が完了するように構成することにより、過圧縮を確実に低減することができると共に、吸入容積を大きく確保することができる。
【0025】
また、第5の発明によれば、内側圧縮室(41B)を、上記固定スクロール(31)及び可動スクロール(36)の各ラップ(34,38)によって圧縮行程の途中において容積変化率が減少する減少圧縮室に構成することにより、可動スクロール(36)の外側の圧縮室に比べて過圧縮が生じ易い内側圧縮室(41B)における過圧縮損失を低減することができる。
【0026】
また、第6の発明によれば、円弧半径が小さくなるように連続する複数の円弧状部分(34A〜34E,38A〜38D)によって構成された固定スクロール(31)及び可動スクロール(36)の各ラップ(34,38)の一部(34C,34E,38B,38D)の厚みを変化させることにより、圧縮室(41A,41B)の容積変化率を圧縮行程の途中において減少させるラップ(34,38)を容易に構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、実施形態1のスクロール型圧縮機の概略構成を示す縦断面図である。
【図2】図2は、実施形態1の圧縮機構の要部を示す横断面図である。
【図3】図3は、図2の一部を拡大して示した図である。
【図4】図4(A)〜(C)は、ラップの形状と容積変化率との関係を説明するための図であり、(A)及び(B)は通常のラップ、(C)は変形ラップを示す平面図である。
【図5】図5(A)〜(D)は、実施形態1の圧縮機構の動作を示す横断面図である。
【図6】図6は、実施形態1の圧縮機構の内側圧縮室の容積変化率の変化を示すグラフである。
【図7】図7は、実施形態1の圧縮機構の内側圧縮室の圧力変化を示すグラフである。
【図8】図8は、実施形態2の圧縮機構の要部を示す横断面図である。
【図9】図9(A)は実施形態2の固定側ラップを示す横断面図であり、図9(B)は実施形態2の可動側ラップを示す横断面図である。
【図10】図10は、実施形態2の固定側ラップ及び可動側ラップを厚み一定のラップに変形したものを示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0029】
《発明の実施形態1》
本実施形態に係るスクロール型圧縮機(10)は、冷凍装置の冷媒回路に接続されている。つまり、冷凍装置では、スクロール型圧縮機(10)で圧縮された冷媒(例えば、二酸化炭素)が、冷媒回路を循環することで、蒸気圧縮式の冷凍サイクルが行われる。
【0030】
図1に示すように、スクロール型圧縮機(10)は、ケーシング(11)と、該ケーシング(11)に収納された電動機(20)および圧縮機構(30)とを備えている。ケーシング(11)は、縦長の円筒状に形成され、密閉ドームに構成されている。
【0031】
電動機(20)は、駆動軸(60)を回転させて圧縮機構(30)を駆動させる駆動機構を構成している。電動機(20)は、ケーシング(11)に固定された固定子(21)と、該固定子(21)の内側に配置された回転子(22)とを備えている。回転子(22)は、駆動軸(60)が貫通し、該駆動軸(60)に固定されている。
【0032】
ケーシング(11)の胴部には、上部寄りに吸入管(12)が貫通して固定される一方、頂部には、吐出管(13)が貫通して固定されている。なお、図示しないが、ケーシング(11)の底部は潤滑油が貯留された油溜まり部を構成している。
【0033】
ケーシング(11)には、電動機(20)の上方に位置するハウジング(50)が固定されると共に、該ハウジング(50)の上方に圧縮機構(30)が設けられている。そして、吸入管(12)の流出端は圧縮機構(30)の吸入ポート(12a)に接続され、吐出管(13)の流入端は後述する上部空間(15)に開口している。
【0034】
駆動軸(60)は、ケーシング(11)に沿って上下方向に配置され、主軸部(61)と、該主軸部(61)の上端に形成された偏心軸部(65)とを備えている。主軸部(61)は、電動機(20)の回転子(22)に固定される中径部(63)と、該中径部(63)の上側に形成されハウジング(50)の上部軸受(51)に支持される大径部(62)と、中径部(63)の下側に形成され下部軸受(17)に支持される小径部(64)とを有している。偏心軸部(65)の軸心は、主軸部(61)の軸心に対して所定量だけ偏心している。この偏心軸部(65)の偏心量が、後述する可動スクロール(36)の公転半径となる。
【0035】
圧縮機構(30)は、ハウジング(50)の上面に固定された固定スクロール(31)と、該固定スクロール(31)に噛合する可動スクロール(36)とを備えている。可動スクロール(36)は、固定スクロール(31)とハウジング(50)との間に配置され、該ハウジング(50)に設置されている。
【0036】
ハウジング(50)は、外周部に環状部(52)が形成されると共に、中央部の上部に凹陥部(53)が形成されて中央部が凹んだ皿状に形成され、凹陥部(53)の下方が上部軸受(51)を構成している。ハウジング(50)は、ケーシング(11)に圧入固定され、ケーシング(11)の内周面とハウジング(50)の環状部(52)の外周面とは全周に亘って気密状に密着されている。そして、ハウジング(50)は、ケーシング(11)の内部を、圧縮機構(30)が収納される上部空間(15)と電動機(20)が収納される下部空間(16)とに仕切っている。下部空間(16)には、電動機(20)の下方に主軸部(61)の下部軸受(17)が設けられている。下部軸受(17)は、ケーシング(11)の内周面に固定されている。
【0037】
固定スクロール(31)は、ハウジング(50)に固定される固定部材を構成している。固定スクロール(31)は、鏡板(32)と、該鏡板(32)の外周に連続的に形成される外縁部(33)と、該外縁部(33)の内側において鏡板(32)の正面(図1における下面)に立設する固定側ラップ(34)とを備えている。鏡板(32)は、略円板状に形成されている。外縁部(33)は、鏡板(32)から下方に突出するように形成されている。固定側ラップ(34)は、渦巻き状に形成されると共に、最も外側に位置する外端部において外縁部(33)に一体に形成されている(図2を参照)。つまり、固定スクロール(31)において、外縁部(33)の内側面が固定側ラップ(34)の内側面(34a)に連続している。固定側ラップ(34)の具体的な形状については後述する。
【0038】
可動スクロール(36)は、固定スクロール(31)に対して偏心回転する可動部材を構成している。可動スクロール(36)は、鏡板(37)と、該鏡板(37)の正面(図1における上面)に立設する可動側ラップ(38)と、鏡板(37)の背面中心部に形成された筒状のボス部(39)とを備えている。可動側ラップ(38)は、渦巻き状に形成されている(図2を参照)。ボス部(39)は、ハウジング(50)の凹陥部(53)に収容されている。また、ボス部(39)には、駆動軸(60)の偏心軸部(65)が挿入されている。これにより、可動スクロール(36)は、駆動軸(60)を介して電動機(20)と連結されている。ボス部(39)は、駆動軸(60)の偏心軸部(65)の軸受部を兼用している。
【0039】
圧縮機構(30)は、固定スクロール(31)と可動スクロール(36)とが、互いの鏡板(32,37)の正面が対向すると共に互いのラップ(34,38)が噛み合うように配置されている。圧縮機構(30)には、両スクロール(31,36)を上述のように配置することにより、可動側ラップ(38)の外側に外側圧縮室(41A)が区画形成される一方、可動側ラップ(38)の内側に内側圧縮室(41B)が区画形成される。つまり、可動側ラップ(38)の外側面(38a)と固定側ラップ(34)の内側面(34a)との間に外側圧縮室(41A)が形成され、可動側ラップ(38)の内側面(38b)と固定側ラップ(34)の外側面(34b)との間に内側圧縮室(41B)が形成されている。
【0040】
固定スクロール(31)の外縁部(33)には、吸入ポート(12a)(図1参照、図2では図示省略)が形成されている。該吸入ポート(12a)には、吸入管(12)が接続され、固定側ラップ(34)の外端部に近接して配置されて低圧室に連通している。また、固定スクロール(31)の鏡板(32)の中央には、吐出ポート(35)が形成されている。吐出ポート(35)は、上部空間(15)に開口している。したがって、上部空間(15)は、圧縮機構(30)の吐出冷媒の圧力に相当する高圧雰囲気となっている。
【0041】
なお、ハウジング(50)の環状部(52)には、上面にシールリング(43)が設けられている。シールリング(43)は、凹陥部(53)を気密に仕切っている。また、ハウジング(50)には、可動スクロール(36)の自転を阻止するためのオルダム継手(42)が設けられている。オルダム継手(42)は、ハウジング(50)の環状部(52)の上面に設けられており、可動スクロール(36)の鏡板(37)とハウジング(50)とに摺動自在に嵌め込まれている。
【0042】
〈固定側ラップ及び可動側ラップの形状〉
図2に示すように、固定側ラップ(34)と可動側ラップ(38)とは、それぞれインボリュート曲線状に形成されている。また、固定側ラップ(34)及び可動側ラップ(38)は、内側圧縮室(41B)が圧縮行程の途中において容積変化率が減少する減少圧縮室となるような形状に形成された変形ラップを構成している。
【0043】
具体的には、固定側ラップ(34)では、内側圧縮室(41B)に面する外側面(34b)が、半径がr1の第1の円(C1)を基礎円とするインボリュート曲線に沿う形状の外側部分と、半径がr2(<r1)の第2の円(C2)を基礎円とするインボリュート曲線に沿う形状の内側部分とによって構成されている。つまり、固定側ラップ(34)の外側面(34b)は、外端から内端に向かう途中の変更点(P1)において、基礎円の半径がr1からr2に減少する変形インボリュート曲線形状に形成されている。また、固定側ラップ(34)では、外側圧縮室(41A)に面する内側面(34a)は、第1の円(C1)を基礎円とするインボリュート曲線に沿う形状に形成されている。つまり、固定側ラップ(34)の内側面(34a)は、外端から内端に亘って基礎円の半径が変化しないインボリュート曲線形状に形成されている。また、固定側ラップ(34)は、外側面(34b)の形状を示す変形インボリュート曲線上の基礎円の半径が変更される変更点(P1)において、変更前後の基礎円、即ち第1の円(C1)と第2の円(C2)とが共通の接線L1を有するように構成されている(図3参照)。
【0044】
一方、可動側ラップ(38)では、内側圧縮室(41B)に面する内側面(38b)が、半径がr3の第3の円(C3)を基礎円とするインボリュート曲線に沿う形状の外側部分と、半径がr4(<r3)の第4の円(C4)を基礎円とするインボリュート曲線に沿う形状の内側部分とによって構成されている。つまり、可動側ラップ(38)の内側面(38b)は、外端から内端に向かう途中の変更点(P2)において、基礎円の半径がr3からr4に減少する変形インボリュート曲線形状に形成されている。また、可動側ラップ(38)では、外側圧縮室(41A)に面する外側面(38a)は、第3の円(C3)を基礎円とするインボリュート曲線に沿う形状に形成されている。つまり、可動側ラップ(38)の外側面(38a)は、外端から内端に亘って基礎円の半径が変化しないインボリュート曲線形状に形成されている。また、可動側ラップ(38)は、内側面(38b)の形状を示す変形インボリュート曲線上の基礎円の半径が変更される変更点(P2)において、変更前後の基礎円、即ち第3の円(C3)と第4の円(C4)とが共通の接線L2を有するように構成されている(図3参照)。
【0045】
以上のように、本実施形態1では、内側圧縮室(41B)に面する固定側ラップ(34)の外側面(34b)及び可動側ラップ(38)の内側面(38b)が、外端から内端に向かう途中において基礎円の半径が段階的に減少する変形インボリュート曲線形状に形成されている。このように、固定側ラップ(34)及び可動側ラップ(38)の少なくとも一方の圧縮室(41A,41B)に面する側面を、外端から内端に向かう途中において基礎円の半径が段階的に減少する変形インボリュート曲線形状に形成することにより、少なくとも一方の圧縮室(41A,41B)の容積変化率を圧縮行程の途中において小さくすることができる。以下、その理由について図4(A)〜(C)を参照しながら説明する。
【0046】
図4(A)は、外側面及び内側面が共に半径raの円(Ca)を基礎円とするインボリュート曲線に沿う形状に形成されたラップ(A)を示している。図4(B)は、外側面及び内側面が共に半径rb(<ra)の円(Cb)を基礎円とするインボリュート曲線に沿う形状に形成されたラップ(B)を示している。図4(C)は、ラップ(A)の一部とラップ(B)の一部とをつなぎ合わせて形成したラップ(C)である。
【0047】
具体的には、図4(C)のラップ(C)は、外端から内端に向かって変更点Pまでの外側部分は、ラップ(A)と同様に円(Ca)を基礎円とするインボリュート曲線に沿う形状に形成され、変更点Pから内端までの内側部分はラップ(B)と同様に半径rb(<ra)の円(Cb)を基礎円とするインボリュート曲線に沿う形状に形成されている。つまり、ラップ(C)は、外側面及び内側面が共に、外端から内端に向かって基礎円の半径がraからrbに減少する変形インボリュート曲線形状に形成されている。また、ラップ(C)は、外側面及び内側面の形状を示す変形インボリュート曲線上の基礎円の半径が変更される変更点Pにおいて、変更前後の基礎円、即ち円(Ca)と円(Cb)とが共通の接線Lを有するように構成されている。
【0048】
図4(A)及び(B)からも明らかなように、同一外径のインボリュート曲線では、基礎円の半径が小さくなる程、巻き数が多くなる。そのため、半径rb(<ra)の円(Cb)を基礎円とするインボリュート曲線形状のラップ(B)は、半径raの円(Ca)を基礎円とするインボリュート曲線形状のラップ(A)よりも巻き数が多くなる。よって、ラップ(A)はラップ(B)よりも外端から内端までの長さが短いため、ラップ(A)を用いると、ラップ(B)を用いる場合よりも内外両側に形成される圧縮経路が短くなり、ラップの内外両側に形成される圧縮室の容積変化率(容積低減率)が大きくなる。一方、ラップ(B)を用いると、ラップ(A)を用いる場合よりも巻き数が増大するため、同一外径においては吸入容積が小さくなる。
【0049】
図4(C)のラップ(C)は、外側部分がラップ(A)と同様に円(Ca)を基礎円とするインボリュート曲線に沿う形状に形成され、内側部分がラップ(B)と同様に半径rb(<ra)の円(Cb)を基礎円とするインボリュート曲線に沿う形状に形成されている。つまり、ラップ(C)は、外端から内端に向かって、ラップ(C)の形状が巻き数の少ない(基礎円の大きい)インボリュート曲線形状から巻き数の大きい(基礎円の小さい)インボリュート曲線形状に変化する。そのため、ラップ(A)を用いた場合の圧縮室の容積変化率をAとし、ラップ(B)を用いた場合の圧縮室の容積変化率をB(<A)とすると、ラップ(C)を用いた場合、圧縮室の容積変化率(容積低減率)は、可動スクロール(36)の偏心回転に伴って容積変化率Aから容積変化率Bに移行することとなる。つまり、ラップ(C)を用いると、圧縮室の容積変化率(容積低減率)が圧縮行程の途中において減少する。なお、ラップ(C)の外側部分は、ラップ(A)と同様に円(Ca)を基礎円とするインボリュート曲線に沿う形状に形成されているため、吸入容積は、ラップ(A)と同様にラップ(B)よりも大きく確保することができる。
【0050】
なお、図4(C)では、ラップ(C)の内側面及び外側面を共に変形インボリュート曲線に沿う形状に形成したが、内側面のみを変形インボリュート曲線に沿う形状とし外側面を単一の基礎円からなるインボリュート曲線に沿う形状とすると、ラップ(C)の内側の圧縮室のみが、圧縮行程の途中において容積変化率(容積低減率)が容積変化率Aから容積変化率Bに移行することとなる。逆に、ラップ(C)の外側面のみを変形インボリュート曲線に沿う形状とし内側面を単一の基礎円からなるインボリュート曲線に沿う形状とすると、ラップ(C)の外側の圧縮室のみが、圧縮行程の途中において容積変化率(容積低減率)が容積変化率Aから容積変化率Bに移行することとなる。
【0051】
以上のように、本実施形態1では、内側圧縮室(41B)に面する固定側ラップ(34)の外側面(34b)及び可動側ラップ(38)の内側面(38b)が、外端から内端に向かう途中において基礎円の半径が段階的に減少する変形インボリュート曲線形状に形成されている。そのため、可動スクロール(36)の偏心回転に伴って内側圧縮室(41B)の容積変化率が第1容積変化率から該第1容積変化率よりも小さい第2容積変化率に移行する(図6参照)。また、本実施形態1では、固定側ラップ(34)の変更点(P1)及び可動側ラップ(38)の変更点(P2)は、内側圧縮室(41B)の容積変化率の移行(第1容積変化率から第2容積変化率への移行)が内側圧縮室(41B)の吐出行程の開始直後に完了するように設計されている。つまり、固定側ラップ(34)の変更点(P1)及び可動側ラップ(38)の変更点(P2)は、吐出行程の開始直後の内側圧縮室(41B)には面しない角度位置に設計されている。これにより、吐出行程の開始直後の内側圧縮室(41B)の容積変化率は第1容積変化率よりも小さい第2容積変化率となる。
【0052】
−運転動作−
上述のように、本実施形態のスクロール型圧縮機(10)は、冷凍装置の冷媒回路に接続されている。この冷媒回路では、冷媒が循環して蒸気圧縮式の冷凍サイクルが行われる。その際、スクロール型圧縮機(10)は、蒸発器で蒸発した低圧冷媒を吸入して圧縮し、圧縮後の高圧冷媒を凝縮器へ送り出す。以下では、まず、スクロール型圧縮機(10)の基本的な運転動作について説明する。
【0053】
電動機(20)を作動させると、圧縮機構(30)の可動スクロール(36)が回転駆動する。可動スクロール(36)は、オルダム継手(42)によって自転を防止されているので、可動スクロール(36)が自転することはなく、駆動軸(60)の軸心を中心に偏心回転のみを行う。つまり、固定スクロール(31)の外縁部(33)と可動スクロール(36)の鏡板(37)とが摺動しながら、可動スクロール(36)が固定スクロール(31)に対して偏心回転する。なお、図5には、駆動軸(60)の回転に伴う回転角90度毎の可動スクロール(36)の位置の変化が示されている。図5では、(A)、(B)、(C)、(D)の順に可動スクロール(36)の位置が変化する。
【0054】
外側圧縮室(41A)及び内側圧縮室(41B)では、吸入ポート(12a)に連通する間が、吸入ポート(12a)及び吸入管(12)を介して低圧圧力状態の冷媒を吸入する吸入行程となる。吸入行程中の各圧縮室(41A,41B)では、可動スクロール(36)の偏心回転に伴ってそれぞれの容積が増大し、これに伴って冷媒が各圧縮室(41A,41B)に吸入される。そして、各圧縮室(41A,41B)では、吸入ポート(12a)が閉じきられると吸入行程が終了して、冷媒を圧縮する圧縮行程が開始される。なお、外側圧縮室(41A)では駆動軸(60)の回転角が0度(又は360度)付近において吸入行程が終了して圧縮行程が開始され(図5(A)参照)、内側圧縮室(41B)では駆動軸(60)の回転角が180度付近において吸入行程が終了して圧縮行程が開始される(図5(C)参照)。
【0055】
圧縮行程中の各圧縮室(41A,41B)は、可動スクロール(36)の偏心回転に伴ってそれぞれ容積を減少させながら中心部へ移動していく。その際に、各圧縮室(41A,41B)に吸入された低圧圧力状態のガス冷媒が圧縮される。各圧縮室(41A,41B)では、吐出ポート(35)に連通するまで圧縮行程が行われる。そして、各圧縮室(41A,41B)と吐出ポート(35)とが連通すると、吐出ポート(35)を介して冷媒を吐出する吐出行程が開始される。なお、外側圧縮室(41A)では駆動軸(60)の回転角が90度付近において圧縮行程が終了して吐出行程が開始され(図5(B)参照)、内側圧縮室(41B)では駆動軸(60)の回転角が270度付近において圧縮行程が終了して吐出行程が開始される(図5(D)参照)。
【0056】
吐出行程中の各圧縮室(41A,41B)では、可動スクロール(36)の偏心回転に伴ってそれぞれの容積が減少し、これに伴って圧縮行程において圧縮された高圧圧力状態のガス冷媒が各圧縮室(41A,41B)から吐出ポート(35)を介して上部空間(15)へ吐出される。上部空間(15)に吐出された冷媒は、吐出管(13)を介してケーシング(11)の外部へ流出する。
【0057】
ところで、上述のようなスクロール型圧縮機(10)では、吐出行程の開始直後は、圧縮室(41A,41B)と吐出ポート(35)とを連通する通路の断面積が狭い。具体的には、例えば、図5(A)に示すように、内側圧縮室(41B)の吐出行程の開始直後は、固定側ラップ(34)の内端部と可動側ラップ(38)の内端部との間が狭いため、内側圧縮室(41B)と吐出ポート(35)とを連通する通路の断面積が狭くなる。それにも拘わらず、圧縮行程と同様に圧縮室(41A,41B)の容積は可動スクロール(36)の偏心回転に伴って減少する。そのため、吐出行程が開始されたにも拘わらず圧縮室(41A,41B)において高圧圧力状態のガス冷媒がさらに圧縮されて吐出圧力を上回る過圧縮が生じ易い。
【0058】
しかしながら、本実施形態1では、内側圧縮室(41B)に面する可動側ラップ(38)の内側面(38b)と固定側ラップ(34)の外側面(34b)とが、外端から内端に向かう途中の変更点(P2,P1)において基礎円の半径が減少する変形インボリュート曲線形状に形成されている。そのため、内側圧縮室(41B)は、圧縮行程の途中において容積変化率が減少するように構成されている。
【0059】
具体的には、図6に示すように、内側圧縮室(41B)の容積変化率は、可動スクロール(36)の偏心回転に伴って、第1容積変化率から該第1容積変化率よりも小さい第2容積変化率に移行していく。そして、本実施形態1では、固定側ラップ(34)と可動側ラップ(38)との最も内側の接点が離れて内側圧縮室(41B)において吐出行程が開始された直後に、該内側圧縮室(41B)の第1容積変化率から第2容積変化率への移行が完了する。その結果、吐出行程の開始直後は内側圧縮室(41B)と吐出ポート(35)とを連通する通路の断面積は狭いが、内側圧縮室(41B)の容積変化率(容積が減少する変化率)が比較的小さい第2容積変化率となる。そのため、図7の実線で示すように、変形ラップを用いない場合(図7の破線を参照)に比べて、吐出行程の開始直後の内側圧縮室(41B)において、内側圧縮室(41B)の容積変化率が大きいために冷媒が吐出圧力を超えて圧縮される程度が小さくなる。つまり、変形ラップを用いない場合(図7の破線)に比べて過圧縮損失が低減される。
【0060】
−実施形態1の効果−
以上説明したように、本実施形態1によれば、固定側ラップ(34)と可動側ラップ(38)とを、内側圧縮室(41B)が圧縮行程の途中において容積変化率が減少する減少圧縮室となるような形状に形成した。そのため、スクロール型圧縮機(10)では、吐出行程の開始直後は、圧縮室と流体を吐出するための吐出ポートとの連通路の断面積が狭くなるが、内側圧縮室(41B)の容積変化率が圧縮行程の終了時に比較的小さい値となっているため、吐出行程の開始直後の内側圧縮室(41B)において冷媒が過圧縮されるのを抑制することができる。従って、過圧縮損失を低減することができる。また、固定側ラップ(34)と可動側ラップ(38)とを、内側圧縮室(41B)の圧縮行程の途中において容積変化率が減少するように構成したため、スクロール型圧縮機(10)を大型化させることなく、過圧縮損失を低減することができる。
【0061】
ところで、同一外径のインボリュート曲線では、基礎円の半径が小さくなる程、巻き数が多くなり、インボリュート曲線が長くなる。そのため、基礎円の半径が小さいインボリュート曲線形状に形成されたラップを用いると、冷媒の圧縮経路が長くなり、圧縮室における容積変化率が小さくなる。
【0062】
そのため、本実施形態1によれば、固定側ラップ(34)及び可動側ラップ(38)の内側圧縮室(41B)に面する側面(34b,38b)を、外端から内端に向かって基礎円の半径が段階的に小さくなる変形インボリュート曲線形状に形成することにより、内側圧縮室(41B)の容積変化率を圧縮行程の途中において減少させる変形ラップを容易に構成することができる。また、固定側ラップ(34)及び可動側ラップ(38)の内側圧縮室(41B)に面する側面(34b,38b)を、基礎円の半径を段階的に小さくした変形インボリュート曲線形状に形成することにより、内側圧縮室(41B)の容積変化率を急激に減少させることができる。従って、過圧縮が生じ易い吐出行程の開始直後までに、内側圧縮室(41B)の容積変化率を十分に減少させることができるため、過圧縮損失を十分に低減することができる。
【0063】
また、本実施形態1によれば、変更前後の基礎円は、同心状に配置されるのではなく、小径の基礎円が大径の基礎円に内接し、該内接点における接線上において基礎円の半径を変更する、即ち、上記接線上において大径の基礎円に基づくインボリュート曲線と小径の基礎円に基づくインボリュート曲線とを繋いでいる。このように径の異なる基礎円に基づくインボリュート曲線を繋ぐことにより、2種類のインボリュート曲線を滑らかに繋ぐことができ、変形インボリュート曲線を容易に形成することができる。
【0064】
また、本実施形態1では、可動スクロール(36)の偏心回転に伴って、内側圧縮室(41B)の容積変化率が第1容積変化率から第2容積変化率に移行する。また、この容積変化率の移行は、可動スクロール(36)の偏心回転角が、内側圧縮室(41B)の吐出行程が開始する吐出開始角度の前後90度の角度範囲内の角度であるときに完了する。より具体的には、本実施形態1では、容積変化率の移行は、内側圧縮室(41B)の吐出行程の開始直後に完了する。
【0065】
ところで、上述のように、スクロール型圧縮機(10)では、吐出行程の開始後、可動スクロール(36)が90度程度回転するまでの間は、圧縮室(41A,41B)と冷媒を吐出するための吐出ポート(35)との連通路の断面積が狭い。そのため、内側圧縮室(41B)の吐出行程の開始前まで、又は吐出行程の開始後であっても可動スクロール(36)が90度程度回転するまでの間に内側圧縮室(41B)の容積変化率の移行が完了することが好ましい。しかしながら、例えば、圧縮行程の開始直後に内側圧縮室(41B)の容積変化率の移行が完了するようにすると、吸入容積が小さくなって所望の圧縮比を確保できないおそれがある。そのため、上述のように、可動スクロール(36)の偏心回転角が上記吐出開始角度の前後90度の角度範囲内の角度であるときに容積変化率の移行が完了するように構成することにより、過圧縮を確実に低減することができると共に、吸入容積を大きく確保することができる。
【0066】
また、本実施形態1では、固定スクロール(31)と可動スクロール(36)のラップ(34,38)が非対称形状に形成されている。このような場合、可動スクロール(36)のラップの外側に形成される外側圧縮室(41A)よりも内側に形成される内側圧縮室(41B)の方が圧縮経路が短くなるため、可動スクロール(36)の偏心回転に伴う容積変化率が大きくなる。よって、外側圧縮室(41A)よりも内側圧縮室(41B)の方が過圧縮が生じ易く、過圧縮損失が大きくなる。
【0067】
しかしながら、本実施形態1によれば、内側圧縮室(41B)を、固定側ラップ(34)と可動側ラップ(38)とによって圧縮行程の途中において容積変化率が減少する減少圧縮室に構成することにより、外側圧縮室(41A)に比べて容積変化率が大きく過圧縮が生じ易い内側圧縮室(41B)における過圧縮損失を低減することができる。
【0068】
なお、本実施形態1では、内側圧縮室(41B)に面する固定側ラップ(34)の外側面(34b)及び可動側ラップ(38)の内側面(38b)を変形インボリュート曲線形状に形成していたが、外側圧縮室(41A)に面する固定側ラップ(34)の内側面(34a)及び可動側ラップ(38)の外側面(38a)を変形インボリュート曲線形状に形成することとしてもよい。このような場合には、外側圧縮室(41A)を圧縮行程の途中において容積変化率が小さくなるように構成することができる。また、内側圧縮室(41B)と外側圧縮室(41A)の両方の容積変化率が圧縮行程の途中において小さくなるように固定側ラップ(34)及び可動側ラップ(38)の両側面(34a,34b,38a,38b)を変形インボリュート曲線形状に形成することとしてもよい。
【0069】
上記実施形態1では、固定スクロール(31)の固定側ラップ(34)と可動スクロール(36)の可動側ラップ(38)とが非対称形状である、所謂非対称渦巻きに形成した。しかしながら、本発明は、固定スクロール(31)の固定側ラップ(34)と可動スクロール(36)の可動側ラップ(38)とが対称形状に形成された所謂対称渦巻によって形成することとしてもよい。
【0070】
《発明の実施形態2》
実施形態2は、上記実施形態1のスクロール型圧縮機(10)の固定側ラップ(34)と可動側ラップ(38)との形状を変更したものである。その他の構成については実施形態1と同様であるため、以下、固定側ラップ(34)と可動側ラップ(38)との形状についてのみ説明する。
【0071】
〈固定側ラップ及び可動側ラップの形状〉
図8に示すように、固定側ラップ(34)と可動側ラップ(38)とは、外端から内端に向かって円弧半径が小さくなるように連続する複数の円弧状部分(34A〜34E,38A〜38D)によって構成されている。また、固定側ラップ(34)と可動側ラップ(38)とは、それぞれ内側圧縮室(41B)の容積変化率が圧縮行程の途中において減少するような形状の本発明に係る変形ラップに構成されている。
【0072】
具体的には、図9(A)に示すように、固定側ラップ(34)は、外端から内端に向かって連続する第1〜第5円弧状部分(34A〜34E)によって構成されている。第1円弧状部分(34A)では、外側面及び内側面が共に点O1を中心とする円弧面によって形成されている。第2円弧状部分(34B)では、外側面及び内側面が共に点O2を中心とする円弧面によって形成されている。第3円弧状部分(34C)では、外側面が点O1を中心とする円弧面によって形成される一方、内側面が点O1’を中心とする円弧面によって形成されている。第4円弧状部分(34D)では、外側面及び内側面が共に点O2’を中心とする円弧面によって形成されている。第5円弧状部分(34E)では、外側面が点O1’を中心とする円弧面によって形成される一方、内側面が点O1を中心とする円弧面によって形成されている。
【0073】
以上のように、固定側ラップ(34)の第1〜第5円弧状部分(34A〜34E)のうち、外側面及び内側面を形成する円弧面の中心が同じである第1円弧状部分(34A)、第2円弧状部分(34B)及び第4円弧状部分(34D)は、外端から内端に亘って厚みが一定に形成されている。一方、外側面及び内側面を形成する円弧面の中心が異なる第3円弧状部分(34C)及び第5円弧状部分(34E)は、外端から内端に亘って厚みが変化している。具体的には、第3円弧状部分(34C)は外端から内端に亘って厚みが減少し、第5円弧状部分(34E)は、外端から内端に亘って厚みが増加する。
【0074】
一方、図9(B)に示すように、可動側ラップ(38)は、外端から内端に向かって連続する第1〜第4円弧状部分(38A〜38D)によって構成されている。第1円弧状部分(38A)では、外側面及び内側面が共に点O11を中心とする円弧面によって形成されている。第2円弧状部分(38B)では、外側面が点O12を中心とする円弧面によって形成される一方、内側面が点O12’を中心とする円弧面によって形成されている。第3円弧状部分(38C)では、外側面及び内側面が共に点O11’を中心とする円弧面によって形成されている。第4円弧状部分(38D)では、外側面が点O12’を中心とする円弧面によって形成される一方、内側面が点O12を中心とする円弧面によって形成されている。
【0075】
以上のように、固定側ラップ(34)の第1〜第4円弧状部分(38A〜38D)のうち、外側面及び内側面を形成する円弧面の中心が同じである第1円弧状部分(38A)及び第3円弧状部分(38C)は、外端から内端に亘って厚みが一定に形成されている。一方、外側面及び内側面を形成する円弧面の中心が異なる第2円弧状部分(38B)及び第4円弧状部分(38D)は、外端から内端に亘って厚みが変化している。具体的には、第2円弧状部分(38B)は外端から内端に亘って厚みが減少し、第4円弧状部分(38D)は、外端から内端に亘って厚みが増加する。
【0076】
以上のように、本実施形態2では、固定側ラップ(34)及び可動側ラップ(38)は、それぞれ外端から内端に向かって厚みが変化する部分を有している。
【0077】
ところで、図10に示すように、固定側ラップ(34)及び可動側ラップ(38)の各円弧状部分(34A〜34E,38A〜38D)の厚みが一定である場合、外側圧縮室(41A)及び内側圧縮室(41B)の容積変化率は一定となる。このとき、固定側ラップ(34)では、第1円弧状部分(34A)、第3円弧状部分(34C)及び第5円弧状部分(34E)の外側面及び内側面が点O1を中心とする円弧面によって形成され、第2円弧状部分(34B)及び第4円弧状部分(34D)の外周面及び内周面が点O2を中心とする円弧面によって形成されている。一方、可動側ラップ(38)では、第1円弧状部分(38A)及び第3円弧状部分(38C)の外側面及び内側面が点O11を中心とする円弧面によって形成され、第2円弧状部分(38B)及び第4円弧状部分(38D)の外側面及び内側面が点O12を中心とする円弧面によって形成されている。
【0078】
これに対し、本実施形態2では、図9(A)に示すように、固定側ラップ(34)では、第3円弧状部分(34C)の内側面と第5円弧状部分(34E)の外側面とを点O1ではなく点O1’を中心とする円弧面によって形成することによって両円弧状部分(34C,34E)の厚みが変化するように構成している。このように第3円弧状部分(34C)の内側面と第5円弧状部分(34E)の外側面とを点O1’を中心とする円弧面によって形成することにより、点O1を中心とする円弧面によって形成した場合よりも第3円弧状部分(34C)の内側面と第5円弧状部分(34E)の外側面とが長く形成される。その結果、第3円弧状部分(34C)の内側面に面する外側圧縮室(41A)と第5円弧状部分(34E)の外側面に面する内側圧縮室(41B)の圧縮経路が長くなる。
【0079】
また、本実施形態2では、図9(B)に示すように、可動側ラップ(38)では、第2円弧状部分(38B)の内側面と第4円弧状部分(38D)の外側面とを点O12ではなく点O12’を中心とする円弧面によって形成することによって両円弧状部分(38B,38D)の厚みが変化するように構成している。このように第2円弧状部分(38B)の内側面と第4円弧状部分(38D)の外側面とを点O12’を中心とする円弧面によって形成することにより、点O12を中心とする円弧面によって形成した場合よりも第2円弧状部分(38B)の内側面と第4円弧状部分(38D)の外側面とが長く形成される。その結果、第2円弧状部分(38B)の内側面に面する内側圧縮室(41B)と第4円弧状部分(38D)の外側面に面する外側圧縮室(41A)の圧縮経路が長くなる。
【0080】
以上より、本実施形態2では、固定側ラップ(34)及び可動側ラップ(38)が、外側圧縮室(41A)及び内側圧縮室(41B)の少なくとも一方の圧縮室の容積変化率が圧縮行程の途中において減少するように、外端から内端に向かって厚みが変化する部分を有している。具体的には、固定側ラップ(34)では、第3円弧状部分(34C)によって外側圧縮室(41A)の容積変化率が減少することとなり、第5円弧状部分(34E)によって内側圧縮室(41B)の容積変化率が減少することとなる。また、可動側ラップ(38)では、第2円弧状部分(38B)によって内側圧縮室(41B)の容積変化率が減少することとなり、第4円弧状部分(38D)によって外側圧縮室(41A)の容積変化率が減少することとなる。
【0081】
実施形態2のスクロール型圧縮機(10)では、実施形態1と同様に、電動機(20)を作動させると、圧縮機構(30)の可動スクロール(36)が駆動軸(60)の軸心を中心に偏心回転を行う。そして、外側圧縮室(41A)及び内側圧縮室(41B)において、実施形態1と同様に、吸入行程、圧縮行程、吐出行程が行われる。実施形態2のスクロール型圧縮機(10)では、内側圧縮室(41B)及び外側圧縮室(41A)が、圧縮行程の途中において容積変化率が減少するように構成されている。そのため、吐出行程の開始直後は外側圧縮室(41A)及び内側圧縮室(41B)と吐出ポート(35)とをそれぞれ連通する通路の断面積は狭いが、外側圧縮室(41A)及び内側圧縮室(41B)の容積変化率(容積が減少する変化率)が減少して比較的小さい容積変化率となっているため、吐出行程の開始直後の外側圧縮室(41A)及び内側圧縮室(41B)における過圧縮が抑制される。従って、実施形態2によっても、実施形態1と同様にスクロール型圧縮機(10)を大型化させることなく、過圧縮損失を低減することができる。
【0082】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0083】
以上説明したように、本発明は、スクロール型圧縮機について有用である。
【符号の説明】
【0084】
10 スクロール型圧縮機
31 固定スクロール
32 鏡板
34 固定側ラップ
34A 第1円弧状部分
34B 第2円弧状部分
34C 第3円弧状部分
34D 第4円弧状部分
34E 第5円弧状部分
34a 内側面
34b 外側面
36 可動スクロール
37 鏡板
38 可動側ラップ
38A 第1円弧状部分
38B 第2円弧状部分
38C 第3円弧状部分
38D 第4円弧状部分
38a 外側面
38b 内側面
41A 外側圧縮室
41B 内側圧縮室(減少圧縮室)
P1,P2 変更点
L1,L2 接線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鏡板(32,37)と該鏡板(32,37)の正面に立設された渦巻き状のラップ(34,38)とをそれぞれ有する固定スクロール(31)と可動スクロール(36)とを備え、該固定スクロール(31)と可動スクロール(36)とが、互いの鏡板(32,37)の正面が対向すると共に互いのラップ(34,38)が噛み合うように配置され、上記可動スクロール(36)が自転することなく上記固定スクロール(31)に対して偏心回転することによって上記可動スクロール(36)のラップ(38)の内側及び外側のそれぞれに形成される圧縮室(41A,41B)において流体が圧縮されるスクロール型圧縮機であって、
上記固定スクロール(31)及び可動スクロール(36)の各ラップ(34,38)は、上記2つの圧縮室(41A,41B)の少なくとも一方の圧縮室(41B)が、圧縮行程の途中において容積変化率が減少する減少圧縮室(41B)となるような形状に形成されている
ことを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項2】
請求項1において、
上記固定スクロール(31)及び可動スクロール(36)の各ラップ(34,38)は、インボリュート曲線状に形成されると共に、上記減少圧縮室(41B)に面する側面(34b,38b)が、外端から内端に向かって基礎円の半径が段階的に小さくなる変形インボリュート曲線形状に形成されている
ことを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項3】
請求項2において、
上記固定スクロール(31)及び可動スクロール(36)の各ラップ(34,38)は、上記変形インボリュート曲線上の基礎円の半径が変更される変更点(P1,P2)において、変更前後の基礎円が共通の接線(L1,L2)を有するように構成されている
ことを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1つにおいて、
上記固定スクロール(31)及び可動スクロール(36)の各ラップ(34,38)は、
上記可動スクロール(36)の偏心回転に伴って上記減少圧縮室(41B)の容積変化率が第1容積変化率から該第1容積変化率よりも小さい第2容積変化率に移行するように形成されると共に、
上記可動スクロール(36)の回転角が、上記減少圧縮室(41B)の吐出行程が開始する角度の前後90度の角度範囲内の角度であるときに、上記容積変化率の移行が完了するように形成されている
ことを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1つにおいて、
上記固定スクロール(31)及び上記可動スクロール(36)の各ラップ(34,38)は、非対称形状に形成されると共に、少なくとも上記可動スクロール(36)のラップ(38)の内側に形成された内側圧縮室(41B)が上記減少圧縮室(41B)となるように形成されている
ことを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項6】
請求項1において、
上記固定スクロール(31)及び可動スクロール(36)の各ラップ(34,38)は、外端から内端に向かって円弧半径が小さくなるように連続する複数の円弧状部分(34A〜34E,38A〜38D)によって構成されると共に、上記減少圧縮室(41A,41B)の容積変化率が圧縮行程の途中において減少するように、外端から内端に向かって厚みが変化する部分(34C,34E,38B,38D)を有している
ことを特徴とするスクロール型圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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