スクロール式流体機械
【課題】 圧縮運転時に固定スクロールと旋回スクロールのラップ部が熱変形した場合でも、各ラップ部を常に非接触状態に保持できるようにする。
【解決手段】 固定スクロール21のラップ部24を渦巻き状に延びるラップ部24の径方向中間部位よりも径方向内側部位では外周面24Cを肉削ぎし、径方向中間部位よりも径方向外側部位では内周面24Dを肉削ぎする。これにより、ラップ部24の径方向内側部位および径方向外側では、それぞれ相手方のラップ部28との間のクリアランスを径方向中間部位に比較して大きく形成する。また旋回スクロール25のラップ部28についても、ラップ部24と同様の位置で部分に肉削ぎする。これにより、ラップ部28の径方向外側部位および径方向内側部位では、それぞれ相手方のラップ部24との間のクリアランスを径方向中間部位に比較して大きく形成する。
【解決手段】 固定スクロール21のラップ部24を渦巻き状に延びるラップ部24の径方向中間部位よりも径方向内側部位では外周面24Cを肉削ぎし、径方向中間部位よりも径方向外側部位では内周面24Dを肉削ぎする。これにより、ラップ部24の径方向内側部位および径方向外側では、それぞれ相手方のラップ部28との間のクリアランスを径方向中間部位に比較して大きく形成する。また旋回スクロール25のラップ部28についても、ラップ部24と同様の位置で部分に肉削ぎする。これにより、ラップ部28の径方向外側部位および径方向内側部位では、それぞれ相手方のラップ部24との間のクリアランスを径方向中間部位に比較して大きく形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば空気圧縮機や真空ポンプ等に用いて好適なスクロール式流体機械に関する。
【背景技術】
【0002】
図11ないし図15に従来技術によるスクロール式流体機械として無給油式のスクロール式空気圧縮機を例に挙げて説明する。
【0003】
図において、1はスクロール式空気圧縮機のケーシングの一部を構成する固定スクロールで、該固定スクロール1は、大略有蓋筒状をなしたケーシング本体(図示せず)の開口端側を施蓋するように該開口端側に固着されている。
【0004】
そして、固定スクロール1は、表面側が歯底面2Aとなって円板状に形成され、その中心が後述する駆動軸11の軸線O1 −O1 と一致するように配設された鏡板2と、該鏡板2の歯底面2Aに立設されたラップ部3と、鏡板2の外周側に位置し、該ラップ部3を囲むように筒状に形成された支持部4とから大略構成されている。また、ラップ部3は、図14に示すように、巻始め端3Aから巻終り端3Bに向けて曲率半径を拡大させながらほぼ4周する渦巻き状に形成されている。
【0005】
5は固定スクロール1と対向するように前記ケーシング本体内に旋回可能に配設された旋回スクロールで、該旋回スクロール5は、表面側が歯底面6Aとなって円板状に形成された鏡板6と、該鏡板6の歯底面6Aから固定スクロール1の鏡板2に向けて立設され、該固定スクロール1のラップ部3と同様に渦巻き状に形成されたラップ部7と、鏡板6の背面側中央に設けられたボス部8とから大略構成され、該ボス部8は後述する駆動軸11のクランク11Aに回転可能に取付けられている。
【0006】
また、旋回スクロール5のラップ部7は、固定スクロール1のラップ部3に所定角度だけずらして重なり合うように配設され、該ラップ部3,7間に複数の圧縮室9,9,…を形成している。そして、スクロール空気圧縮機の運転時には、固定スクロール1の外周側に設けた吸込口(図示せず)から外周側の圧縮室9内に空気を吸込みつつ、この空気を旋回スクロール5が旋回運動する間に各圧縮室9内で順次圧縮し、最後に中心側の圧縮室9から固定スクロール1の中心に設けた吐出口10に向けて外部に圧縮空気を吐出する。
【0007】
ここで、旋回スクロール5のラップ部7は、該旋回スクロール5が旋回運動したときに相手方となる固定スクロール1のラップ部3に接触することのないように、該ラップ部3との間に微小なクリアランスを形成するようにして位置決めされている。
【0008】
即ち、旋回スクロール5が旋回運動し、旋回スクロール5のラップ部7が固定スクロール1のラップ部3に最も接近した状態では、ラップ部3,7間には図13に示すように微小なクリアランスS1 が形成されるようになる。
【0009】
11は固定スクロール1のケーシング本体側に回転可能に設けられる駆動軸を示し、該駆動軸11は、その先端側がケーシング本体内に延びるクランク11Aとなり、該クランク11Aの軸線O2 −O2 は駆動軸11の軸線O1 −O1 に対して一定寸法δだけ偏心している。そして、駆動軸11のクランク11Aには、旋回スクロール5のボス部8が旋回軸受12を介して旋回可能に取付けられ、旋回スクロール5は自転防止機構(図示せず)等を介して旋回運動が与えられる。
【0010】
従来技術によるスクロール式空気圧縮機は上述のような構成を有するもので、次にその作動について説明する。
【0011】
まず、駆動軸11をモータ等の駆動源(図示せず)によって回転駆動すると、この回転は駆動軸11のクランク11Aから旋回軸受12を介して旋回スクロール5に伝えられ、該旋回スクロール5は駆動軸11の軸線O1 −O1 を中心にして寸法δの旋回半径をもった旋回運動を行う。そして、この旋回運動によって各ラップ部3,7の間に画成された圧縮室9,9,…は中央側に向けて連続的に縮小し、吸込口から吸込んだ空気を順次圧縮しつつ、この圧縮空気を吐出口10から外部のエアタンク(図示せず)等に向けて吐出する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、上述した従来技術によるスクロール式流体機械では、旋回スクロール5が旋回運動したときに、ラップ部7が相手方となる固定スクロール1のラップ部3と接触することのないようにラップ部3,7間には微小なクリアランスS1 を形成する構成としている。
【0013】
しかし、圧縮運転時には各圧縮室9内で発生した高温の圧縮熱が固定スクロール1および旋回スクロール5に伝わるため、以下のような問題が生じる。即ち、圧縮運転時における固定スクロール1の温度分布を調査した結果、図14および図15に示すように温度分布が生じることが確認された。なお、旋回スクロール5についても、固定スクロール1の場合とほぼ同様の温度分布が得られるものである。
【0014】
そして、図14および図15から明らかなように、ラップ部3は、渦巻き状に延びるラップ部3の径方向中間部位A1 を境とし、そこから巻始め端3Aに至るまでの径方向内側部位A2 (巻始め端3Aから1〜1.5巻き程度の部分)では、歯先側で温度上昇が最も大きくなり、これに比べて歯底側では相対的に温度上昇が小さくなる傾向にある。これにより、該ラップ部3の径方向内側部位A2 は、図15に示すように歯先側がラップ部3の径方向に対して外側へと反るように傾斜して熱変形することが分かった(図12中に示す一点鎖線参照)。
【0015】
これに対し、前記径方向中間部位A1 を境とし、そこからラップ部3の巻終わ端3Bに至るまでの径方向外側部位A3 (巻終り端3Bから1〜1.5巻き程度の部分)では、歯底側で温度上昇が最も大きくなり、これに比べて歯先側では相対的に温度上昇が小さくなる傾向にある。これにより、ラップ部3の径方向外側部位A3 は、図15に示すように、歯先側がラップ部3の径方向に対して内側へと反るように傾斜して熱変形することが分かった(図12中に示す一点鎖線参照)。
【0016】
一方、ラップ部3の径方向中間部位A1 では、歯先側から歯底側に亘ってほぼ均一に温度上昇する傾向にあり、歯先側はラップ部3の径方向外,内側いずれの方向に対しても実質的に熱変形は生じていないことが分かった。
【0017】
そして、これと同様に旋回スクロール5のラップ部7についても、その径方向内側部位では歯先側が径方向の外側に、径方向外側部位では歯先側が径方向の内側にそれぞれ熱変形する傾向にあることが分かった。また、該ラップ部7の径方向中間部位では、歯先側がラップ部7の径方向外,内側いずれの方向に対しても実質的に熱変形は生じていないことが分かった。
【0018】
この結果、各圧縮室9の気密性を高めるために、例えばラップ部3,7間のクリアランスS1 を小さく形成した場合には、圧縮運転時に熱変形したラップ部3の歯先側が相手方となるラップ部7の歯底側に接触(摺動)したり、逆に熱変形したラップ部7の歯先側が相手方となるラップ部3の歯底側に接触したりして、かじり等が発生することがあり、この場合には装置の信頼性が著しく低下してしまうという問題がある。
【0019】
また、これとは反対にラップ部3,7間のクリアランスS1 を大きく形成した場合には、各圧縮室9の気密性は低下し、装置の圧縮性能等に影響を及ぼしてしまう等の問題が生じる。
【0020】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明は、圧縮運転時に固定スクロールと旋回スクロールとのラップ部が熱変形したとしても、両者のラップ部を常に非接触状態に保持しつつ、両者間に確保されるクリアランスを必要最小限の大きさに抑えることができ、装置の信頼性等を向上できると共に、圧縮性能等を高めることができるようにしたスクロール式流体機械を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上述した課題を解決するために本発明は、鏡板の歯底面に渦巻き状のラップ部が立設された固定スクロールと、該固定スクロールに対向して設けられ、該固定スクロールのラップ部との間で複数の圧縮室を画成するように鏡板の歯底面から渦巻き状のラップ部が立設された旋回スクロールとからなるスクロール式流体機械に適用される。
【0022】
そして、請求項1の発明が採用する構成の特徴は、前記固定スクロールと旋回スクロールのうち少なくともいずれか一方のラップ部は、渦巻き状に延びる該ラップ部の径方向中間部位を境として、径方向内側部位では当該中間部位に比較して外周面を薄肉に形成し、径方向外側部位では当該中間部位に比較して内周面を薄肉に形成したことにある。
【0023】
上記構成により、ラップ部の径方向内側部位では、その外周面を薄肉にした分だけ相手方のラップ部との間のクリアランスを大きく形成することができる。また、ラップ部の径方向外側部位についても、その内周面を薄肉にした分だけ相手方のラップ部との間のクリアランスを大きく形成することができる。
【0024】
この結果、圧縮運転時にラップ部の歯先が径方向内側部位および径方向外側部位から相手方のラップ部に向けて近付くように熱変形したとしても、各ラップ部同士が互いに接触(摺動)するのを避けることができ、各ラップ部を常に非接触状態に保持することができる。
【0025】
また、請求項2の発明では、前記ラップ部の径方向内側部位は外周面を歯先から歯底までに至る全面に亘って肉削ぎすることにより薄肉に形成し、前記ラップ部の径方向外側部位は内周面を歯先から歯底までに至る全面に亘って肉削ぎすることにより薄肉に形成している。
【0026】
さらに、請求項3の発明では、前記ラップ部の径方向内側部位は外周面をテーパ状に肉削ぎすることにより少なくとも歯先側を薄肉に形成し、前記ラップ部の径方向内側部位は内周面をテーパ状に肉削ぎすることにより少なくとも歯先側を薄肉に形成している。
【0027】
さらにまた、請求項4の発明が採用する構成の特徴は、前記固定スクロールと旋回スクロールのうち少なくともいずれか一方のラップ部は、渦巻き状に延びる該ラップ部の径方向中間部位を境として、径方向内側部位を当該中間部位に比較して径方向内側へとオフセットさせた位置に形成し、径方向外側部位は当該中間部位に比較して径方向外側へとオフセットさせた位置に形成したことにある。
【0028】
上記構成により、ラップ部の径方向内側部位では、径方向中間部位に比較して径方向内側にオフセットされるから、このオフセット分だけ相手方のラップ部との間のクリアランスを大きく形成できる。また、ラップ部の径方向外側部位についても、径方向中間部位に比較して径方向外側にオフセットされるから、このオフセット分だけ相手方のラップ部との間のクリアランスを大きく形成できる。
【0029】
この結果、圧縮運転時にラップ部の歯先が径方向内側部位および径方向外側部位から相手方のラップ部に向けて近付くように熱変形したとしても、請求項1の発明と同様に、各ラップ部同士が互いに接触(摺動)するのを避けることができる。
【発明の効果】
【0030】
以上の通り、本発明によれば、請求項1の発明では、固定スクロールと旋回スクロールのうち少なくともいずれか一方のラップ部を、該ラップ部の径方向中間部位を境として径方向内側部位では外周面を薄肉に形成し、径方向外側部位では内周面を薄肉に形成する構成としたから、圧縮運転時にラップ部の径方向内側部位と径方向外側部位とで歯先側が相手方のラップ部に向けて近付くように熱変形したとしても、各ラップ部間を常に非接触状態に保持することができ、両者間に確保されるクリアランスを径方向中間部位、径方向外側部位および径方向内側部位いずれの部位においても必要最小限の大きさに抑えることができる。
【0031】
従って、固定スクロールと旋回スクロールとのラップ部間でかじり等が生じるのを抑えることができ、旋回スクロールを円滑に旋回運動させる続けることができ、装置の信頼性を高めることができる。そして、各ラップ部間に形成される圧縮室の気密性を高めることができ、当該スクロール流体機械の性能を向上させることができる。
【0032】
また、請求項2の発明では、ラップ部の径方向内側部位は外周面を歯先から歯底までに至る全面に亘って肉削ぎし、ラップ部の径方向外側部位では内周面を歯先から歯底までに至る全面に亘り肉削ぎする構成としたから、ラップ部の径方向内側部位、径方向外側部位では、それぞれ相手方ラップ部との間のクリアランスを径方向中間部位よりも大きく形成でき、これによって、請求項1の発明とほぼ同様の効果を得ることができる。
【0033】
さらに、請求項3の発明では、ラップ部の径方向内側部位は外周面をテーパ状に肉削ぎし、ラップ部の径方向内側部位では内周面をテーパ状に肉削ぎする構成としたから、ラップ部の径方向内側部位、径方向外側部位では、相手方ラップ部との間のクリアランスをそれぞれ歯先側で径方向中間部位に比較して大きく形成でき、これによっても、請求項1の発明とほぼ同様の効果を得ることができる。
【0034】
さらにまた、請求項4の発明では、固定スクロールと旋回スクロールのうち少なくともいずれか一方のラップ部を、径方向内側部位では径方向中間部位に比較して径方向内側へとオフセットさせた位置に形成し、径方向外側部位では径方向外側へとオフセットさせた位置に形成する構成としたから、ラップ部の径方向内側部位と径方向外側部位とでは、それぞれラップ部をオフセットさせた分だけ相手方ラップ部との間のクリアランスを大きく形成でき、これによっても、請求項1の発明とほぼ同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第1の実施の形態によるスクロール式空気圧縮機の固定スクロールおよび旋回スクロール等を示す縦断面図である。
【図2】図1中の固定スクロールを単体で示す拡大断面図である。
【図3】図1中の旋回スクロールを単体で示す拡大断面図である。
【図4】固定スクロールのラップ部を示す図1中の矢示IV−IV方向からみた断面図である。
【図5】旋回スクロールのラップ部を示す図1中の矢示V−V方向からみた断面図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態によるスクロール式空気圧縮機の固定スクロールを単体で示す縦断面図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態によるスクロール式空気圧縮機の旋回スクロールを単体で示す縦断面図である。
【図8】本発明の第3の実施の形態によるスクロール式空気圧縮機の固定スクロールを単体で示す縦断面図である。
【図9】本発明の第3の実施の形態によるスクロール式空気圧縮機の旋回スクロールを単体で示す縦断面図である。
【図10】固定スクロールのラップ部を示す図8中の矢示X−X方向からみた断面図である。
【図11】従来技術によるスクロール式空気圧縮機の固定スクロールおよび旋回スクロール等を示す縦断面図である。
【図12】固定スクロールのラップ部等を示す正面図である。
【図13】図11中のラップ部等を示す要部拡大図である。
【図14】固定スクロールのラップ部に生じる温度分布を示す図12と同様の正面図である。
【図15】ラップ部が熱変形した状態で固定スクロールの温度分布を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に従って詳述する。ここで、本発明の第1の実施の形態を図1ないし図5に基づいて説明する。なお、本実施の形態では前述した従来技術の構成要素と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0037】
図において、21は本実施の形態で用いる固定スクロールで、該固定スクロール21は、従来技術による固定スクロール1とほぼ同様に、歯底面22Aを有する円板状の鏡板22と、該鏡板22の外周側に設けられた支持部23とから大略構成されている。
【0038】
24は固定スクロール21の歯底面22Aに立設されたラップ部を示し、該ラップ部24は、巻始め端24Aから巻終り端24Bに向けて曲率半径を拡大させながらほぼ4周する渦巻き状に形成されている。そして、該ラップ部24は、従来技術で述べたラップ部3と同様に、図4および図6に示す如く渦巻き状に延びるラップ部24の径方向中間部位B1 を境とし、そこから巻始め端24Aに至るまでの部分、即ち、巻始め端24Aから1〜1.5巻き程度の部分が径方向内側部位B2 となっている。
【0039】
また、ラップ部24は径方向中間部位B1 を境とし、そこから巻終り端24Bに至るまでの部分、即ち、巻終り端24Bから1〜1.5巻き程度の部分が径方向外側部位B3 となっている。そして、ラップ部24の径方向中間部位B1 は、従来技術による固定スクロール1のラップ部3と同様の板厚(歯厚)をもって形成されている。
【0040】
しかし、ラップ部24の径方向内側部位B2 は、図2および図4中に一点鎖線で示すように、外周面24Cが歯先から歯底までに至る全面に亘って均一に肉削ぎされている点で従来技術のものとは異なっている。また、ラップ部24の径方向外側部位B3 は、内周面24Dが歯先から歯底までに至る全面に亘って均一に肉削ぎされている点で従来技術のものとは異なっている。これにより、ラップ部24の径方向外側部位B2 および径方向内側部位B3 は、径方向中間部位B1 に比較して薄肉に形成されている。
【0041】
25は本実施の形態で用いる旋回スクロールで、該旋回スクロール25は、従来技術による旋回スクロール5とほぼ同様に、歯底面26Aを有する円板状の鏡板26と、該鏡板26の背面側に設けられたボス部27と、後述のラップ部28とから大略構成されている。
【0042】
28は旋回スクロール25の歯底面26Aに立設されたラップ部を示し、該ラップ部28は、巻始め端28Aから巻終り端28Bに向けて曲率半径を拡大させながらほぼ4周する渦巻き状に形成され、固定スクロール21のラップ部24との間に複数の圧縮室29,29,…を画成している。そして、ラップ部28は、従来技術で述べたラップ部7と同様に、図5および図7に示す如く渦巻き状に延びるラップ部28の径方向中間部位C1 を境とし、そこから巻始め端28Aに至るまでの部分、即ち、巻始め端28Aから1〜1.5巻き程度の部分が径方向内側部位C2 となっている。
【0043】
また、ラップ部28は径方向中間部位C1 を境とし、そこから巻終り端28Bに至るまでの部分、即ち、巻終り端28Bから1〜1.5巻き程度の部分が径方向外側部位C3 となっている。そして、ラップ部28の径方向中間部位C1 は従来技術による旋回スクロール5のラップ部7と同様の板厚(歯厚)をもって形成されている。
【0044】
しかし、ラップ部28の径方向内側部位C2 は、図3および図5中に一点鎖線で示すように、外周面28Cが歯先から歯底までに至る全面に亘って均一に肉削ぎされている点で従来技術のものとは異なっている。また、ラップ部28の径方向外側部位C3 は、内周面28Dが歯先から歯底までに至る全面に亘って均一に肉削ぎされている点で従来技術のものとは異なっている。これにより、ラップ部28の径方向内側部位C2 および径方向外側部位C3 は、径方向中間部位C1 に比較して薄肉に形成されている。
【0045】
なお、30は固定スクロール21の鏡板22に形成された吐出口で、該突出口30は、内周側の圧縮室29内に開口し、該圧縮室29からの圧縮空気を外部に吐出させるものである。
【0046】
本実施の形態によるスクロール式空気圧縮機は上述の如き構成を有するもので、その基本的作動については従来技術によるものと格別差異はない。
【0047】
然るに本実施の形態では、固定スクロール21のラップ部24を径方向内側部位B2 では外周面24Cを肉削ぎし、径方向外側部位B3 では内周面24Dを肉削ぎする構成としたから、ラップ部24の径方向内側部位B2 では、図1に示すように相手方となる旋回スクロール25のラップ部28との間のクリアランスS2 を径方向中間部位B1 よりも大きく形成することができる。そして、ラップ部24の径方向外側部位B3 についても、相手方となる旋回スクロール25のラップ部28との間のクリアランスS3 を径方向中間部位B1 よりも大きく形成することができる。
【0048】
これにより、圧縮運転時にラップ部24の歯先側が径方向内側部位B2 および径方向外側部位B3 から相手方のラップ部28に向けて接近するように熱変形したとしても、前記クリアランスS2 ,S3 をラップ部24の変形量に対応した大きさに予め設定しておくことにより、径方向内側部位B2 および径方向外側部位B3 では、ラップ部24を径方向中間部位B1 と同様に相手方のラップ部28に対して離した状態に保持することができ、ラップ部24の歯先側がラップ部28に強く接触して干渉するのを避けることができる。
【0049】
そして、このようにラップ部24が熱変形した状態では、ラップ部24の径方向内側部位B2 および径方向外側部位B3 においては、相手方のラップ部28との間のクリアランスを、径方向中間部位B1 と同様に必要最小限の大きさに狭めることができ、微小なクリアランスを確保できる。
【0050】
また、固定スクロール21と同様に旋回スクロール25についても、ラップ部28を径方向内側部位C2 では外周面28Cを肉削ぎし、径方向外側部位C3 では内周面28Dを肉削ぎする構成としたから、ラップ部28の径方向内側部位C2 では、相手方となる固定スクロール21のラップ部24との間のクリアランスS4 を、図1に示すように径方向中間部位C1 よりも大きく形成することができる。そして、ラップ部28の径方向外側部位C3 についても、相手方となる固定スクロール21のラップ部24との間のクリアランスS5 を径方向中間部位C1よりも大きく形成することができる。
【0051】
これにより、圧縮運転時にラップ部28の歯先側が径方向内側部位C2 および径方向外側部位C3 から相手方のラップ部28に向けて接近するように熱変形したとしても、前記クリアランスS4 ,S5 をラップ部28の変形量に対応した大きさに予め設定しておくことにより、ラップ部28を径方向中間部位B1 と同様に相手方のラップ部24に対して離した状態に保持することができ、ラップ部28の歯先側がラップ部24に強く接触して干渉するのを避けることができる。
【0052】
そして、このようにラップ部28が熱変形した状態では、ラップ部28の径方向内側部位C2 および径方向外側部位C3 においては、相手方のラップ部24との間に確保されるクリアランスを、径方向中間部位C1 と同様に必要最小限の大きさに狭めることができ、微小なクリアランスを確保できる。
【0053】
従って、本実施の形態によれば、圧縮運転時には、固定スクロール21と旋回スクロール25とのラップ部24,28を常に非接触状態に保持することができ、両者間でかじり等が発生するのを抑えることができる。これによって、旋回スクロール25を円滑に旋回運動させ続けることができ、装置の信頼性を高めることができる。
【0054】
しかも、圧縮運転時にはラップ部24,28間に確保されるクリアランスS2,S3 ,S4 ,S5 を必要最小限の大きさに抑えることができ、これによって、各圧縮室29の気密性を高めることができ、当該スクロール空気圧縮機の圧縮性能を向上することができる。
【0055】
次に、図6および図7は本発明の第2の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、固定スクロール41のラップ部44を、該ラップ部44の径方向中間部位B1 よりも径方向内側部位B2 では、外周面44Aを歯底側から歯先側に向けてテーパ状に傾斜させることにより少なくとも歯先側を薄肉に形成し、当該中間部位B1 よりも径方向外側部位B3 では、内周面44Bを歯底側から歯先側に向けてテーパ状に傾斜させることにより少なくとも歯先側を薄肉に形成すると共に、旋回スクロール46のラップ部49についても、外周面49Aおよび内周面49Bを固定スクロール41のラップ部44と同様の位置で部分的に薄肉に形成したことにある。
【0056】
ここで、前記固定スクロール41は、歯底面42Aを有する円板状の鏡板42と、該鏡板42の外周側に設けられた支持部43と、ラップ部44とから大略構成され、鏡板42には吐出口45が設けられている。また、ラップ部44は、前記第1の実施の形態で述べた固定スクロール21のラップ部24とほぼ同様に渦巻き状に形成されている。
【0057】
しかし、ラップ部44の径方向内側部位B2 は、図6中に一点鎖線で示すように、外周面44Aを歯底側から歯先側に向けて漸次薄肉となるようにテーパ状に肉削ぎしている点で前記第1の実施の形態のものとは異なっている。そして、ラップ部44の径方向外側部位B3 は、内周面44Bを歯底側から歯先側に向けて漸次薄肉となるようにテーパ状に肉削ぎしている点で前記第1の実施の形態のものとは異なっている。
【0058】
また、前記旋回スクロール46は、歯底面47Aを有する円板状の鏡板47と、該鏡板47の背面側に設けられたボス部48と、ラップ部49とから大略構成されている。そして、ラップ部49は、前記第1の実施の形態で述べた旋回スクロール25のラップ部28とほぼ同様に渦巻き状に形成されている。
【0059】
しかし、ラップ部49の径方向内側部位C2 は、図7中に一点鎖線で示すように、外周面49Aを歯底側から歯先側に向けて漸次薄肉となるようにテーパ状に肉削ぎしている点で前記第1の実施の形態のものとは異なっている。また、ラップ部49の径方向外側部位C3 は、内周面49Bを歯底側から歯先側に向けて漸次薄肉となるようにテーパ状に肉削ぎしている点で前記第1の実施の形態のものとは異なっている。
【0060】
かくして、このように構成される本実施の形態でも、ラップ部44の径方向内側部位B2 および径方向外側部位B3 は、相手方のラップ部49との間のクリアランスをそれぞれ歯先側で径方向中間部位B1 よりも大きく形成できると共に、ラップ部49の径方向内側部位C2 および径方向外側部位C3 は、相手方のラップ部44との間のクリアランスをそれぞれ歯先側で径方向中間部位C1 よりも大きく形成でき、これによっても、前記第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。
【0061】
次に、図8ないし図10は本発明の第3の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、固定スクロール51のラップ部54のうち径方向中間部位B1 よりも径方向内側部位B2 を、当該中間部位B1 に比較して径方向内側にオフセットさせた位置に形成し、径方向外側部位B3 では、当該中間部位B1 に比較して径方向内側にオフセットさせた位置に形成すると共に、旋回スクロール56のラップ部59についても、固定スクロール51のラップ部54と同様にオフセットさせて形成したことにある。
【0062】
ここで、前記固定スクロール51は、歯底面52Aを有する円板状の鏡板52と、該鏡板52の外周側に設けられた支持部53と、ラップ部54とから大略構成され、鏡板52には吐出口55が設けられている。そして、ラップ部54は、前記第1の実施の形態で述べた固定スクロール21のラップ部24とほぼ同様に渦巻き状に形成されている。
【0063】
しかし、ラップ部54の径方向内側部位B2 は、図8および図10中に一点鎖線で示すように径方向中間部位B1 に比較して径方向内側に一定寸法だけオフセットした位置に配設している点で前記第1の実施の形態ものとは異なっている。そして、ラップ部54の径方向外側部位B3 は、径方向中間部位B1 に比較して径方向外側に一定寸法だけオフセットした位置に配設している点で前記第1の実施の形態ものとは異なっている。
【0064】
また、前記旋回スクロール56は、歯底面57Aを有する円板状の鏡板57と、該鏡板57の背面側に設けられたボス部58と、ラップ部59とから大略構成されている。そして、ラップ部59は、前記第1の実施の形態で述べた旋回スクロール25のラップ部28とほぼ同様に渦巻き状に形成されている。
【0065】
しかし、ラップ部59の径方向内側部位C2 は、図9中に一点鎖線で示すように、径方向中間部位C1 に比較して径方向内側に一定寸法だけオフセットした位置に配設している点で前記第1の実施の形態のものとは異なっている。また、ラップ部59の径方向外側部位C3 は、径方向中間部位C1 に比較して径方向外側に一定寸法だけオフセットした位置に配設している点で前記第1の実施の形態のものとは異なっている。
【0066】
かくして、このように構成される本実施の形態でも、ラップ部54の径方向内側部位B2 と径方向外側部位B3 とでは、それぞれ相手方のラップ部59との間に径方向中間部位B1 よりも大きなクリアランスを確保できると共に、ラップ部59の径方向内側部位C2 と径方向外側部位C3 とでは、それぞれ相手方のラップ部54との間に径方向中間部位C1 よりも大きなクリアランスを形成することができ、これによっても、前記第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。
【0067】
なお、前記第1,2の実施の形態では、固定スクロール21(41)と旋回スクロール25(46)との両方のラップ部24,28(44,49)を、それぞれ径方向内側部位B2 および径方向外側部位B3 において薄肉に形成するものとして述べたが、これに替えて、固定スクロール21(41)および旋回スクロール25(46)のうち、いずれか一方のラップ部のみを径方向内側部位B2 および径方向外側部位B3 において薄肉に形成する構成としてもよい。
【0068】
また、前記第3の実施の形態では、固定スクロール51と旋回スクロール56との両方のラップ部54,59を、それぞれ径方向内側部位B2 ,C2 と径方向外側部位B3 ,C3 とでオフセットさせて形成するものとして述べたが、これに替えて、固定スクロール51および旋回スクロール56のうち、いずれか一方のラップ部のみを径方向内側部位B2 ,C2 と径方向外側部位B3 ,C3 とでオフセットさせて形成する構成としてもよい。
【0069】
さらに、前記各実施の形態では、スクロール式空気圧縮機を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らず、空気以外の気体を圧縮する圧縮機にも適用でき、また真空ポンプ等にも適用できる。
【符号の説明】
【0070】
21,41,51 固定スクロール
22,26,42,47,52,57 鏡板
22A,26A,42A,47A,52A,57A 歯底面
24,28,44,49,54,59 ラップ部
24C,28C,44A,49A 外周面
24D,28D,44B,49B 内周面
25,46,56 旋回スクロール
29 圧縮室
B1 ,C1 径方向中間部位
B2 ,C2 径方向内側部位
B3 ,C3 径方向外側部位
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば空気圧縮機や真空ポンプ等に用いて好適なスクロール式流体機械に関する。
【背景技術】
【0002】
図11ないし図15に従来技術によるスクロール式流体機械として無給油式のスクロール式空気圧縮機を例に挙げて説明する。
【0003】
図において、1はスクロール式空気圧縮機のケーシングの一部を構成する固定スクロールで、該固定スクロール1は、大略有蓋筒状をなしたケーシング本体(図示せず)の開口端側を施蓋するように該開口端側に固着されている。
【0004】
そして、固定スクロール1は、表面側が歯底面2Aとなって円板状に形成され、その中心が後述する駆動軸11の軸線O1 −O1 と一致するように配設された鏡板2と、該鏡板2の歯底面2Aに立設されたラップ部3と、鏡板2の外周側に位置し、該ラップ部3を囲むように筒状に形成された支持部4とから大略構成されている。また、ラップ部3は、図14に示すように、巻始め端3Aから巻終り端3Bに向けて曲率半径を拡大させながらほぼ4周する渦巻き状に形成されている。
【0005】
5は固定スクロール1と対向するように前記ケーシング本体内に旋回可能に配設された旋回スクロールで、該旋回スクロール5は、表面側が歯底面6Aとなって円板状に形成された鏡板6と、該鏡板6の歯底面6Aから固定スクロール1の鏡板2に向けて立設され、該固定スクロール1のラップ部3と同様に渦巻き状に形成されたラップ部7と、鏡板6の背面側中央に設けられたボス部8とから大略構成され、該ボス部8は後述する駆動軸11のクランク11Aに回転可能に取付けられている。
【0006】
また、旋回スクロール5のラップ部7は、固定スクロール1のラップ部3に所定角度だけずらして重なり合うように配設され、該ラップ部3,7間に複数の圧縮室9,9,…を形成している。そして、スクロール空気圧縮機の運転時には、固定スクロール1の外周側に設けた吸込口(図示せず)から外周側の圧縮室9内に空気を吸込みつつ、この空気を旋回スクロール5が旋回運動する間に各圧縮室9内で順次圧縮し、最後に中心側の圧縮室9から固定スクロール1の中心に設けた吐出口10に向けて外部に圧縮空気を吐出する。
【0007】
ここで、旋回スクロール5のラップ部7は、該旋回スクロール5が旋回運動したときに相手方となる固定スクロール1のラップ部3に接触することのないように、該ラップ部3との間に微小なクリアランスを形成するようにして位置決めされている。
【0008】
即ち、旋回スクロール5が旋回運動し、旋回スクロール5のラップ部7が固定スクロール1のラップ部3に最も接近した状態では、ラップ部3,7間には図13に示すように微小なクリアランスS1 が形成されるようになる。
【0009】
11は固定スクロール1のケーシング本体側に回転可能に設けられる駆動軸を示し、該駆動軸11は、その先端側がケーシング本体内に延びるクランク11Aとなり、該クランク11Aの軸線O2 −O2 は駆動軸11の軸線O1 −O1 に対して一定寸法δだけ偏心している。そして、駆動軸11のクランク11Aには、旋回スクロール5のボス部8が旋回軸受12を介して旋回可能に取付けられ、旋回スクロール5は自転防止機構(図示せず)等を介して旋回運動が与えられる。
【0010】
従来技術によるスクロール式空気圧縮機は上述のような構成を有するもので、次にその作動について説明する。
【0011】
まず、駆動軸11をモータ等の駆動源(図示せず)によって回転駆動すると、この回転は駆動軸11のクランク11Aから旋回軸受12を介して旋回スクロール5に伝えられ、該旋回スクロール5は駆動軸11の軸線O1 −O1 を中心にして寸法δの旋回半径をもった旋回運動を行う。そして、この旋回運動によって各ラップ部3,7の間に画成された圧縮室9,9,…は中央側に向けて連続的に縮小し、吸込口から吸込んだ空気を順次圧縮しつつ、この圧縮空気を吐出口10から外部のエアタンク(図示せず)等に向けて吐出する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、上述した従来技術によるスクロール式流体機械では、旋回スクロール5が旋回運動したときに、ラップ部7が相手方となる固定スクロール1のラップ部3と接触することのないようにラップ部3,7間には微小なクリアランスS1 を形成する構成としている。
【0013】
しかし、圧縮運転時には各圧縮室9内で発生した高温の圧縮熱が固定スクロール1および旋回スクロール5に伝わるため、以下のような問題が生じる。即ち、圧縮運転時における固定スクロール1の温度分布を調査した結果、図14および図15に示すように温度分布が生じることが確認された。なお、旋回スクロール5についても、固定スクロール1の場合とほぼ同様の温度分布が得られるものである。
【0014】
そして、図14および図15から明らかなように、ラップ部3は、渦巻き状に延びるラップ部3の径方向中間部位A1 を境とし、そこから巻始め端3Aに至るまでの径方向内側部位A2 (巻始め端3Aから1〜1.5巻き程度の部分)では、歯先側で温度上昇が最も大きくなり、これに比べて歯底側では相対的に温度上昇が小さくなる傾向にある。これにより、該ラップ部3の径方向内側部位A2 は、図15に示すように歯先側がラップ部3の径方向に対して外側へと反るように傾斜して熱変形することが分かった(図12中に示す一点鎖線参照)。
【0015】
これに対し、前記径方向中間部位A1 を境とし、そこからラップ部3の巻終わ端3Bに至るまでの径方向外側部位A3 (巻終り端3Bから1〜1.5巻き程度の部分)では、歯底側で温度上昇が最も大きくなり、これに比べて歯先側では相対的に温度上昇が小さくなる傾向にある。これにより、ラップ部3の径方向外側部位A3 は、図15に示すように、歯先側がラップ部3の径方向に対して内側へと反るように傾斜して熱変形することが分かった(図12中に示す一点鎖線参照)。
【0016】
一方、ラップ部3の径方向中間部位A1 では、歯先側から歯底側に亘ってほぼ均一に温度上昇する傾向にあり、歯先側はラップ部3の径方向外,内側いずれの方向に対しても実質的に熱変形は生じていないことが分かった。
【0017】
そして、これと同様に旋回スクロール5のラップ部7についても、その径方向内側部位では歯先側が径方向の外側に、径方向外側部位では歯先側が径方向の内側にそれぞれ熱変形する傾向にあることが分かった。また、該ラップ部7の径方向中間部位では、歯先側がラップ部7の径方向外,内側いずれの方向に対しても実質的に熱変形は生じていないことが分かった。
【0018】
この結果、各圧縮室9の気密性を高めるために、例えばラップ部3,7間のクリアランスS1 を小さく形成した場合には、圧縮運転時に熱変形したラップ部3の歯先側が相手方となるラップ部7の歯底側に接触(摺動)したり、逆に熱変形したラップ部7の歯先側が相手方となるラップ部3の歯底側に接触したりして、かじり等が発生することがあり、この場合には装置の信頼性が著しく低下してしまうという問題がある。
【0019】
また、これとは反対にラップ部3,7間のクリアランスS1 を大きく形成した場合には、各圧縮室9の気密性は低下し、装置の圧縮性能等に影響を及ぼしてしまう等の問題が生じる。
【0020】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明は、圧縮運転時に固定スクロールと旋回スクロールとのラップ部が熱変形したとしても、両者のラップ部を常に非接触状態に保持しつつ、両者間に確保されるクリアランスを必要最小限の大きさに抑えることができ、装置の信頼性等を向上できると共に、圧縮性能等を高めることができるようにしたスクロール式流体機械を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上述した課題を解決するために本発明は、鏡板の歯底面に渦巻き状のラップ部が立設された固定スクロールと、該固定スクロールに対向して設けられ、該固定スクロールのラップ部との間で複数の圧縮室を画成するように鏡板の歯底面から渦巻き状のラップ部が立設された旋回スクロールとからなるスクロール式流体機械に適用される。
【0022】
そして、請求項1の発明が採用する構成の特徴は、前記固定スクロールと旋回スクロールのうち少なくともいずれか一方のラップ部は、渦巻き状に延びる該ラップ部の径方向中間部位を境として、径方向内側部位では当該中間部位に比較して外周面を薄肉に形成し、径方向外側部位では当該中間部位に比較して内周面を薄肉に形成したことにある。
【0023】
上記構成により、ラップ部の径方向内側部位では、その外周面を薄肉にした分だけ相手方のラップ部との間のクリアランスを大きく形成することができる。また、ラップ部の径方向外側部位についても、その内周面を薄肉にした分だけ相手方のラップ部との間のクリアランスを大きく形成することができる。
【0024】
この結果、圧縮運転時にラップ部の歯先が径方向内側部位および径方向外側部位から相手方のラップ部に向けて近付くように熱変形したとしても、各ラップ部同士が互いに接触(摺動)するのを避けることができ、各ラップ部を常に非接触状態に保持することができる。
【0025】
また、請求項2の発明では、前記ラップ部の径方向内側部位は外周面を歯先から歯底までに至る全面に亘って肉削ぎすることにより薄肉に形成し、前記ラップ部の径方向外側部位は内周面を歯先から歯底までに至る全面に亘って肉削ぎすることにより薄肉に形成している。
【0026】
さらに、請求項3の発明では、前記ラップ部の径方向内側部位は外周面をテーパ状に肉削ぎすることにより少なくとも歯先側を薄肉に形成し、前記ラップ部の径方向内側部位は内周面をテーパ状に肉削ぎすることにより少なくとも歯先側を薄肉に形成している。
【0027】
さらにまた、請求項4の発明が採用する構成の特徴は、前記固定スクロールと旋回スクロールのうち少なくともいずれか一方のラップ部は、渦巻き状に延びる該ラップ部の径方向中間部位を境として、径方向内側部位を当該中間部位に比較して径方向内側へとオフセットさせた位置に形成し、径方向外側部位は当該中間部位に比較して径方向外側へとオフセットさせた位置に形成したことにある。
【0028】
上記構成により、ラップ部の径方向内側部位では、径方向中間部位に比較して径方向内側にオフセットされるから、このオフセット分だけ相手方のラップ部との間のクリアランスを大きく形成できる。また、ラップ部の径方向外側部位についても、径方向中間部位に比較して径方向外側にオフセットされるから、このオフセット分だけ相手方のラップ部との間のクリアランスを大きく形成できる。
【0029】
この結果、圧縮運転時にラップ部の歯先が径方向内側部位および径方向外側部位から相手方のラップ部に向けて近付くように熱変形したとしても、請求項1の発明と同様に、各ラップ部同士が互いに接触(摺動)するのを避けることができる。
【発明の効果】
【0030】
以上の通り、本発明によれば、請求項1の発明では、固定スクロールと旋回スクロールのうち少なくともいずれか一方のラップ部を、該ラップ部の径方向中間部位を境として径方向内側部位では外周面を薄肉に形成し、径方向外側部位では内周面を薄肉に形成する構成としたから、圧縮運転時にラップ部の径方向内側部位と径方向外側部位とで歯先側が相手方のラップ部に向けて近付くように熱変形したとしても、各ラップ部間を常に非接触状態に保持することができ、両者間に確保されるクリアランスを径方向中間部位、径方向外側部位および径方向内側部位いずれの部位においても必要最小限の大きさに抑えることができる。
【0031】
従って、固定スクロールと旋回スクロールとのラップ部間でかじり等が生じるのを抑えることができ、旋回スクロールを円滑に旋回運動させる続けることができ、装置の信頼性を高めることができる。そして、各ラップ部間に形成される圧縮室の気密性を高めることができ、当該スクロール流体機械の性能を向上させることができる。
【0032】
また、請求項2の発明では、ラップ部の径方向内側部位は外周面を歯先から歯底までに至る全面に亘って肉削ぎし、ラップ部の径方向外側部位では内周面を歯先から歯底までに至る全面に亘り肉削ぎする構成としたから、ラップ部の径方向内側部位、径方向外側部位では、それぞれ相手方ラップ部との間のクリアランスを径方向中間部位よりも大きく形成でき、これによって、請求項1の発明とほぼ同様の効果を得ることができる。
【0033】
さらに、請求項3の発明では、ラップ部の径方向内側部位は外周面をテーパ状に肉削ぎし、ラップ部の径方向内側部位では内周面をテーパ状に肉削ぎする構成としたから、ラップ部の径方向内側部位、径方向外側部位では、相手方ラップ部との間のクリアランスをそれぞれ歯先側で径方向中間部位に比較して大きく形成でき、これによっても、請求項1の発明とほぼ同様の効果を得ることができる。
【0034】
さらにまた、請求項4の発明では、固定スクロールと旋回スクロールのうち少なくともいずれか一方のラップ部を、径方向内側部位では径方向中間部位に比較して径方向内側へとオフセットさせた位置に形成し、径方向外側部位では径方向外側へとオフセットさせた位置に形成する構成としたから、ラップ部の径方向内側部位と径方向外側部位とでは、それぞれラップ部をオフセットさせた分だけ相手方ラップ部との間のクリアランスを大きく形成でき、これによっても、請求項1の発明とほぼ同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第1の実施の形態によるスクロール式空気圧縮機の固定スクロールおよび旋回スクロール等を示す縦断面図である。
【図2】図1中の固定スクロールを単体で示す拡大断面図である。
【図3】図1中の旋回スクロールを単体で示す拡大断面図である。
【図4】固定スクロールのラップ部を示す図1中の矢示IV−IV方向からみた断面図である。
【図5】旋回スクロールのラップ部を示す図1中の矢示V−V方向からみた断面図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態によるスクロール式空気圧縮機の固定スクロールを単体で示す縦断面図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態によるスクロール式空気圧縮機の旋回スクロールを単体で示す縦断面図である。
【図8】本発明の第3の実施の形態によるスクロール式空気圧縮機の固定スクロールを単体で示す縦断面図である。
【図9】本発明の第3の実施の形態によるスクロール式空気圧縮機の旋回スクロールを単体で示す縦断面図である。
【図10】固定スクロールのラップ部を示す図8中の矢示X−X方向からみた断面図である。
【図11】従来技術によるスクロール式空気圧縮機の固定スクロールおよび旋回スクロール等を示す縦断面図である。
【図12】固定スクロールのラップ部等を示す正面図である。
【図13】図11中のラップ部等を示す要部拡大図である。
【図14】固定スクロールのラップ部に生じる温度分布を示す図12と同様の正面図である。
【図15】ラップ部が熱変形した状態で固定スクロールの温度分布を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に従って詳述する。ここで、本発明の第1の実施の形態を図1ないし図5に基づいて説明する。なお、本実施の形態では前述した従来技術の構成要素と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0037】
図において、21は本実施の形態で用いる固定スクロールで、該固定スクロール21は、従来技術による固定スクロール1とほぼ同様に、歯底面22Aを有する円板状の鏡板22と、該鏡板22の外周側に設けられた支持部23とから大略構成されている。
【0038】
24は固定スクロール21の歯底面22Aに立設されたラップ部を示し、該ラップ部24は、巻始め端24Aから巻終り端24Bに向けて曲率半径を拡大させながらほぼ4周する渦巻き状に形成されている。そして、該ラップ部24は、従来技術で述べたラップ部3と同様に、図4および図6に示す如く渦巻き状に延びるラップ部24の径方向中間部位B1 を境とし、そこから巻始め端24Aに至るまでの部分、即ち、巻始め端24Aから1〜1.5巻き程度の部分が径方向内側部位B2 となっている。
【0039】
また、ラップ部24は径方向中間部位B1 を境とし、そこから巻終り端24Bに至るまでの部分、即ち、巻終り端24Bから1〜1.5巻き程度の部分が径方向外側部位B3 となっている。そして、ラップ部24の径方向中間部位B1 は、従来技術による固定スクロール1のラップ部3と同様の板厚(歯厚)をもって形成されている。
【0040】
しかし、ラップ部24の径方向内側部位B2 は、図2および図4中に一点鎖線で示すように、外周面24Cが歯先から歯底までに至る全面に亘って均一に肉削ぎされている点で従来技術のものとは異なっている。また、ラップ部24の径方向外側部位B3 は、内周面24Dが歯先から歯底までに至る全面に亘って均一に肉削ぎされている点で従来技術のものとは異なっている。これにより、ラップ部24の径方向外側部位B2 および径方向内側部位B3 は、径方向中間部位B1 に比較して薄肉に形成されている。
【0041】
25は本実施の形態で用いる旋回スクロールで、該旋回スクロール25は、従来技術による旋回スクロール5とほぼ同様に、歯底面26Aを有する円板状の鏡板26と、該鏡板26の背面側に設けられたボス部27と、後述のラップ部28とから大略構成されている。
【0042】
28は旋回スクロール25の歯底面26Aに立設されたラップ部を示し、該ラップ部28は、巻始め端28Aから巻終り端28Bに向けて曲率半径を拡大させながらほぼ4周する渦巻き状に形成され、固定スクロール21のラップ部24との間に複数の圧縮室29,29,…を画成している。そして、ラップ部28は、従来技術で述べたラップ部7と同様に、図5および図7に示す如く渦巻き状に延びるラップ部28の径方向中間部位C1 を境とし、そこから巻始め端28Aに至るまでの部分、即ち、巻始め端28Aから1〜1.5巻き程度の部分が径方向内側部位C2 となっている。
【0043】
また、ラップ部28は径方向中間部位C1 を境とし、そこから巻終り端28Bに至るまでの部分、即ち、巻終り端28Bから1〜1.5巻き程度の部分が径方向外側部位C3 となっている。そして、ラップ部28の径方向中間部位C1 は従来技術による旋回スクロール5のラップ部7と同様の板厚(歯厚)をもって形成されている。
【0044】
しかし、ラップ部28の径方向内側部位C2 は、図3および図5中に一点鎖線で示すように、外周面28Cが歯先から歯底までに至る全面に亘って均一に肉削ぎされている点で従来技術のものとは異なっている。また、ラップ部28の径方向外側部位C3 は、内周面28Dが歯先から歯底までに至る全面に亘って均一に肉削ぎされている点で従来技術のものとは異なっている。これにより、ラップ部28の径方向内側部位C2 および径方向外側部位C3 は、径方向中間部位C1 に比較して薄肉に形成されている。
【0045】
なお、30は固定スクロール21の鏡板22に形成された吐出口で、該突出口30は、内周側の圧縮室29内に開口し、該圧縮室29からの圧縮空気を外部に吐出させるものである。
【0046】
本実施の形態によるスクロール式空気圧縮機は上述の如き構成を有するもので、その基本的作動については従来技術によるものと格別差異はない。
【0047】
然るに本実施の形態では、固定スクロール21のラップ部24を径方向内側部位B2 では外周面24Cを肉削ぎし、径方向外側部位B3 では内周面24Dを肉削ぎする構成としたから、ラップ部24の径方向内側部位B2 では、図1に示すように相手方となる旋回スクロール25のラップ部28との間のクリアランスS2 を径方向中間部位B1 よりも大きく形成することができる。そして、ラップ部24の径方向外側部位B3 についても、相手方となる旋回スクロール25のラップ部28との間のクリアランスS3 を径方向中間部位B1 よりも大きく形成することができる。
【0048】
これにより、圧縮運転時にラップ部24の歯先側が径方向内側部位B2 および径方向外側部位B3 から相手方のラップ部28に向けて接近するように熱変形したとしても、前記クリアランスS2 ,S3 をラップ部24の変形量に対応した大きさに予め設定しておくことにより、径方向内側部位B2 および径方向外側部位B3 では、ラップ部24を径方向中間部位B1 と同様に相手方のラップ部28に対して離した状態に保持することができ、ラップ部24の歯先側がラップ部28に強く接触して干渉するのを避けることができる。
【0049】
そして、このようにラップ部24が熱変形した状態では、ラップ部24の径方向内側部位B2 および径方向外側部位B3 においては、相手方のラップ部28との間のクリアランスを、径方向中間部位B1 と同様に必要最小限の大きさに狭めることができ、微小なクリアランスを確保できる。
【0050】
また、固定スクロール21と同様に旋回スクロール25についても、ラップ部28を径方向内側部位C2 では外周面28Cを肉削ぎし、径方向外側部位C3 では内周面28Dを肉削ぎする構成としたから、ラップ部28の径方向内側部位C2 では、相手方となる固定スクロール21のラップ部24との間のクリアランスS4 を、図1に示すように径方向中間部位C1 よりも大きく形成することができる。そして、ラップ部28の径方向外側部位C3 についても、相手方となる固定スクロール21のラップ部24との間のクリアランスS5 を径方向中間部位C1よりも大きく形成することができる。
【0051】
これにより、圧縮運転時にラップ部28の歯先側が径方向内側部位C2 および径方向外側部位C3 から相手方のラップ部28に向けて接近するように熱変形したとしても、前記クリアランスS4 ,S5 をラップ部28の変形量に対応した大きさに予め設定しておくことにより、ラップ部28を径方向中間部位B1 と同様に相手方のラップ部24に対して離した状態に保持することができ、ラップ部28の歯先側がラップ部24に強く接触して干渉するのを避けることができる。
【0052】
そして、このようにラップ部28が熱変形した状態では、ラップ部28の径方向内側部位C2 および径方向外側部位C3 においては、相手方のラップ部24との間に確保されるクリアランスを、径方向中間部位C1 と同様に必要最小限の大きさに狭めることができ、微小なクリアランスを確保できる。
【0053】
従って、本実施の形態によれば、圧縮運転時には、固定スクロール21と旋回スクロール25とのラップ部24,28を常に非接触状態に保持することができ、両者間でかじり等が発生するのを抑えることができる。これによって、旋回スクロール25を円滑に旋回運動させ続けることができ、装置の信頼性を高めることができる。
【0054】
しかも、圧縮運転時にはラップ部24,28間に確保されるクリアランスS2,S3 ,S4 ,S5 を必要最小限の大きさに抑えることができ、これによって、各圧縮室29の気密性を高めることができ、当該スクロール空気圧縮機の圧縮性能を向上することができる。
【0055】
次に、図6および図7は本発明の第2の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、固定スクロール41のラップ部44を、該ラップ部44の径方向中間部位B1 よりも径方向内側部位B2 では、外周面44Aを歯底側から歯先側に向けてテーパ状に傾斜させることにより少なくとも歯先側を薄肉に形成し、当該中間部位B1 よりも径方向外側部位B3 では、内周面44Bを歯底側から歯先側に向けてテーパ状に傾斜させることにより少なくとも歯先側を薄肉に形成すると共に、旋回スクロール46のラップ部49についても、外周面49Aおよび内周面49Bを固定スクロール41のラップ部44と同様の位置で部分的に薄肉に形成したことにある。
【0056】
ここで、前記固定スクロール41は、歯底面42Aを有する円板状の鏡板42と、該鏡板42の外周側に設けられた支持部43と、ラップ部44とから大略構成され、鏡板42には吐出口45が設けられている。また、ラップ部44は、前記第1の実施の形態で述べた固定スクロール21のラップ部24とほぼ同様に渦巻き状に形成されている。
【0057】
しかし、ラップ部44の径方向内側部位B2 は、図6中に一点鎖線で示すように、外周面44Aを歯底側から歯先側に向けて漸次薄肉となるようにテーパ状に肉削ぎしている点で前記第1の実施の形態のものとは異なっている。そして、ラップ部44の径方向外側部位B3 は、内周面44Bを歯底側から歯先側に向けて漸次薄肉となるようにテーパ状に肉削ぎしている点で前記第1の実施の形態のものとは異なっている。
【0058】
また、前記旋回スクロール46は、歯底面47Aを有する円板状の鏡板47と、該鏡板47の背面側に設けられたボス部48と、ラップ部49とから大略構成されている。そして、ラップ部49は、前記第1の実施の形態で述べた旋回スクロール25のラップ部28とほぼ同様に渦巻き状に形成されている。
【0059】
しかし、ラップ部49の径方向内側部位C2 は、図7中に一点鎖線で示すように、外周面49Aを歯底側から歯先側に向けて漸次薄肉となるようにテーパ状に肉削ぎしている点で前記第1の実施の形態のものとは異なっている。また、ラップ部49の径方向外側部位C3 は、内周面49Bを歯底側から歯先側に向けて漸次薄肉となるようにテーパ状に肉削ぎしている点で前記第1の実施の形態のものとは異なっている。
【0060】
かくして、このように構成される本実施の形態でも、ラップ部44の径方向内側部位B2 および径方向外側部位B3 は、相手方のラップ部49との間のクリアランスをそれぞれ歯先側で径方向中間部位B1 よりも大きく形成できると共に、ラップ部49の径方向内側部位C2 および径方向外側部位C3 は、相手方のラップ部44との間のクリアランスをそれぞれ歯先側で径方向中間部位C1 よりも大きく形成でき、これによっても、前記第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。
【0061】
次に、図8ないし図10は本発明の第3の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、固定スクロール51のラップ部54のうち径方向中間部位B1 よりも径方向内側部位B2 を、当該中間部位B1 に比較して径方向内側にオフセットさせた位置に形成し、径方向外側部位B3 では、当該中間部位B1 に比較して径方向内側にオフセットさせた位置に形成すると共に、旋回スクロール56のラップ部59についても、固定スクロール51のラップ部54と同様にオフセットさせて形成したことにある。
【0062】
ここで、前記固定スクロール51は、歯底面52Aを有する円板状の鏡板52と、該鏡板52の外周側に設けられた支持部53と、ラップ部54とから大略構成され、鏡板52には吐出口55が設けられている。そして、ラップ部54は、前記第1の実施の形態で述べた固定スクロール21のラップ部24とほぼ同様に渦巻き状に形成されている。
【0063】
しかし、ラップ部54の径方向内側部位B2 は、図8および図10中に一点鎖線で示すように径方向中間部位B1 に比較して径方向内側に一定寸法だけオフセットした位置に配設している点で前記第1の実施の形態ものとは異なっている。そして、ラップ部54の径方向外側部位B3 は、径方向中間部位B1 に比較して径方向外側に一定寸法だけオフセットした位置に配設している点で前記第1の実施の形態ものとは異なっている。
【0064】
また、前記旋回スクロール56は、歯底面57Aを有する円板状の鏡板57と、該鏡板57の背面側に設けられたボス部58と、ラップ部59とから大略構成されている。そして、ラップ部59は、前記第1の実施の形態で述べた旋回スクロール25のラップ部28とほぼ同様に渦巻き状に形成されている。
【0065】
しかし、ラップ部59の径方向内側部位C2 は、図9中に一点鎖線で示すように、径方向中間部位C1 に比較して径方向内側に一定寸法だけオフセットした位置に配設している点で前記第1の実施の形態のものとは異なっている。また、ラップ部59の径方向外側部位C3 は、径方向中間部位C1 に比較して径方向外側に一定寸法だけオフセットした位置に配設している点で前記第1の実施の形態のものとは異なっている。
【0066】
かくして、このように構成される本実施の形態でも、ラップ部54の径方向内側部位B2 と径方向外側部位B3 とでは、それぞれ相手方のラップ部59との間に径方向中間部位B1 よりも大きなクリアランスを確保できると共に、ラップ部59の径方向内側部位C2 と径方向外側部位C3 とでは、それぞれ相手方のラップ部54との間に径方向中間部位C1 よりも大きなクリアランスを形成することができ、これによっても、前記第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。
【0067】
なお、前記第1,2の実施の形態では、固定スクロール21(41)と旋回スクロール25(46)との両方のラップ部24,28(44,49)を、それぞれ径方向内側部位B2 および径方向外側部位B3 において薄肉に形成するものとして述べたが、これに替えて、固定スクロール21(41)および旋回スクロール25(46)のうち、いずれか一方のラップ部のみを径方向内側部位B2 および径方向外側部位B3 において薄肉に形成する構成としてもよい。
【0068】
また、前記第3の実施の形態では、固定スクロール51と旋回スクロール56との両方のラップ部54,59を、それぞれ径方向内側部位B2 ,C2 と径方向外側部位B3 ,C3 とでオフセットさせて形成するものとして述べたが、これに替えて、固定スクロール51および旋回スクロール56のうち、いずれか一方のラップ部のみを径方向内側部位B2 ,C2 と径方向外側部位B3 ,C3 とでオフセットさせて形成する構成としてもよい。
【0069】
さらに、前記各実施の形態では、スクロール式空気圧縮機を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らず、空気以外の気体を圧縮する圧縮機にも適用でき、また真空ポンプ等にも適用できる。
【符号の説明】
【0070】
21,41,51 固定スクロール
22,26,42,47,52,57 鏡板
22A,26A,42A,47A,52A,57A 歯底面
24,28,44,49,54,59 ラップ部
24C,28C,44A,49A 外周面
24D,28D,44B,49B 内周面
25,46,56 旋回スクロール
29 圧縮室
B1 ,C1 径方向中間部位
B2 ,C2 径方向内側部位
B3 ,C3 径方向外側部位
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鏡板の歯底面に渦巻き状のラップ部が立設された固定スクロールと、該固定スクロールに対向して設けられ、該固定スクロールのラップ部との間で複数の圧縮室を画成するように鏡板の歯底面から渦巻き状のラップ部が立設された旋回スクロールとからなるスクロール式流体機械において、
前記固定スクロールと旋回スクロールのうち少なくともいずれか一方のラップ部は、渦巻き状に延びる該ラップ部の径方向中間部位を境として、径方向内側部位では当該中間部位に比較して外周面を薄肉に形成し、径方向外側部位では当該中間部位に比較して内周面を薄肉に形成したことを特徴とするスクロール式流体機械。
【請求項2】
前記ラップ部の径方向内側部位は外周面を歯先から歯底までに至る全面に亘って肉削ぎすることにより薄肉に形成し、前記ラップ部の径方向外側部位は内周面を歯先から歯底までに至る全面に亘って肉削ぎすることにより薄肉に形成してなる請求項1に記載のスクロール式流体機械。
【請求項3】
前記ラップ部の径方向内側部位は外周面をテーパ状に肉削ぎすることにより少なくとも歯先側を薄肉に形成し、前記ラップ部の径方向内側部位は内周面をテーパ状に肉削ぎすることにより少なくとも歯先側を薄肉に形成してなる請求項1に記載のスクロール式流体機械。
【請求項4】
鏡板の歯底面に渦巻き状のラップ部が立設された固定スクロールと、該固定スクロールに対向して設けられ、該固定スクロールのラップ部との間で複数の圧縮室を画成するように鏡板の歯底面から渦巻き状のラップ部が立設された旋回スクロールとからなるスクロール式流体機械において、
前記固定スクロールと旋回スクロールのうち少なくともいずれか一方のラップ部は、渦巻き状に延びる該ラップ部の径方向中間部位を境として、径方向内側部位を当該中間部位に比較して径方向内側へとオフセットさせた位置に形成し、径方向外側部位は当該中間部位に比較して径方向外側へとオフセットさせた位置に形成したことを特徴とするスクロール式流体機械。
【請求項1】
鏡板の歯底面に渦巻き状のラップ部が立設された固定スクロールと、該固定スクロールに対向して設けられ、該固定スクロールのラップ部との間で複数の圧縮室を画成するように鏡板の歯底面から渦巻き状のラップ部が立設された旋回スクロールとからなるスクロール式流体機械において、
前記固定スクロールと旋回スクロールのうち少なくともいずれか一方のラップ部は、渦巻き状に延びる該ラップ部の径方向中間部位を境として、径方向内側部位では当該中間部位に比較して外周面を薄肉に形成し、径方向外側部位では当該中間部位に比較して内周面を薄肉に形成したことを特徴とするスクロール式流体機械。
【請求項2】
前記ラップ部の径方向内側部位は外周面を歯先から歯底までに至る全面に亘って肉削ぎすることにより薄肉に形成し、前記ラップ部の径方向外側部位は内周面を歯先から歯底までに至る全面に亘って肉削ぎすることにより薄肉に形成してなる請求項1に記載のスクロール式流体機械。
【請求項3】
前記ラップ部の径方向内側部位は外周面をテーパ状に肉削ぎすることにより少なくとも歯先側を薄肉に形成し、前記ラップ部の径方向内側部位は内周面をテーパ状に肉削ぎすることにより少なくとも歯先側を薄肉に形成してなる請求項1に記載のスクロール式流体機械。
【請求項4】
鏡板の歯底面に渦巻き状のラップ部が立設された固定スクロールと、該固定スクロールに対向して設けられ、該固定スクロールのラップ部との間で複数の圧縮室を画成するように鏡板の歯底面から渦巻き状のラップ部が立設された旋回スクロールとからなるスクロール式流体機械において、
前記固定スクロールと旋回スクロールのうち少なくともいずれか一方のラップ部は、渦巻き状に延びる該ラップ部の径方向中間部位を境として、径方向内側部位を当該中間部位に比較して径方向内側へとオフセットさせた位置に形成し、径方向外側部位は当該中間部位に比較して径方向外側へとオフセットさせた位置に形成したことを特徴とするスクロール式流体機械。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−257343(P2009−257343A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185752(P2009−185752)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【分割の表示】特願平9−342148の分割
【原出願日】平成9年11月27日(1997.11.27)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【分割の表示】特願平9−342148の分割
【原出願日】平成9年11月27日(1997.11.27)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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