説明

スクワレン/シクロデキストリン包接型擬ロタキサン

【課題】
健康食品用途で使用される抗酸化原料であるスクワレンに対し、シクロデキストリン(CyD)を用いることにより、原料1分子に対し数分子のCyDで包接された擬ロタキサン及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
スクワレンがシクロデキストリンに包接されて、擬ロタキサンを形成しているスクワレン/シクロデキストリン包接型擬ロタキサン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクワレンをシクロデキストリン (以下、CyDと示す)に包接させた擬ロタキサン及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
健康食品分野で抗酸化活性を有する原料として知られているスクワレン 等は、光や紫外線で劣化する或いは原料の取り扱いなどのハンドリングが劣るなどの問題点を有している。
特許文献1(特開平10−67639号公報)には、シクロデキストリン またはヒドロキシアルキル化シクロデキストリン にビタミンE−ビタミンCリン酸ジエステルが包接された包接物であって、保湿作用、コラーゲン産生能、抗酸化能を有するEPCを安定に配合し、泡立ちの軽減や光安定性を向上し得るEPC包接体が提案されている。
【0003】
特許文献2(特開昭58−216670)には、スクワレンとシクロデキストリン等の粉末組成物の記載がある。また、特許文献3(特開昭63−68520)の請求項には、「油性原料のサイクロデキストリン包接物を、1種又は2種以上配合した粉末状又は固形状洗浄料。」の記載があり、実施例には、スクワラン(スクワレンを水素添加して得られる安定化の良い物質)を油性原料として使用している。
しかしながら、特許文献2の粉末組成物は、「スクワレン」にソルビタン脂肪酸エステル、モノグリセリド、レシチン等の乳化剤当を添加し撹拌しながら、60〜70℃に保ち「油相部」を作成したのち、蛋白質やデキストリンを含有する「水相部」に少量ずつ添加し撹拌・均質化して得られる「乳化物」を粉末化したものであって、本発明の「擬ロタキサン」と異なるものである。
特許文献3もスクアラン(スクワレンではない)にサイクロデキストリンを単に混合(包摂)したものとしての記載である。
【0004】
【特許文献1】特開平10−67639号公報
【特許文献2】特開昭58−216670号公報
【特許文献3】特開昭63−68520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、健康食品用途で使用される抗酸化原料であるスクワレンに対し、シクロデキストリン(CyD)を用いることにより、原料1分子に対し数分子のCyDで包接された擬ロタキサン及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、健康食品用途で使用される抗酸化原料であるスクワレンとCyDを、溶解度法を用いて、分子レベルにて接触させることにより、原料自体の安定性等の物性改善や原料の取り扱いなどに関するハンドリング性の改善された擬ロタキサン粉末を製造する方法である。更に、溶媒除去、遠心分離、乾燥などの工程を加えることにより性状の優れた擬ロタキサン粉末を製造することができる。
【0007】
(1)スクワレンがシクロデキストリンに包接されて、擬ロタキサンを形成しているスクワレン/シクロデキストリン包接型擬ロタキサン。
(2)シクロデキストリンが、βシクロデキストリン又はγシクロデキストリンであることを特徴とする(1)記載のスクワレン/シクロデキストリン包接型擬ロタキサン。
(3)擬ロタキサンを形成しているモル比は、スクワレン:シクロデキストリン=1:2.6〜3.0であることを特徴とする(1)又は(2)記載のスクワレン/シクロデキストリン包接型擬ロタキサン。
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載のスクワレン/シクロデキストリン包接型擬ロタキサンを用いた粉末剤、顆粒剤又は錠剤。
(5)(1)〜(3)のいずれかに記載のスクワレン/シクロデキストリン包接型擬ロタキサンを用いた経口剤。
(6)(1)〜(3)のいずれかに記載のスクワレン/シクロデキストリン包接型擬ロタキサンを用いた皮膚外用剤。
(7)(1)〜(3)のいずれかに記載のスクワレン/シクロデキストリン包接型擬ロタキサンを用いた健康食品。
(8)(1)〜(3)のいずれかに記載のスクワレン/シクロデキストリン包接型擬ロタキサンを用いた化粧料。
(9)スクワレンを、飽和溶解度以上のシクロデキストリンを添加した水溶液に混合して、振とう攪拌することにより、スクワレンをシクロデキストリンに包接させて擬ロタキサンを製造する方法であって、前記シクロデキストリンの量として、擬ロタキサンを形成するスクワレンとシクロデキストリンのモル比に対して、シクロデキストリンのモル比を高い量とすることを特徴とするスクワレン/シクロデキストリン包接型擬ロタキサンの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
スクワレンをシクロデキストリン(CyD)に溶解度法を用いて包接することにより、安定性、保存性、ハンドリング性が向上した、擬ロタキサンを形成する粉末を製造することができる。
本願発明により、熱、光、紫外線、空気による酸化など要因によるスクワレンの劣化を減少させる擬ロタキサン粉末を製造することができた。液状であるスクワレンは、粉末化させることにより原料取り扱いなど、ハンドリング性を向上させることができる剤型に製造することができる。スクワレンなどは熱や光に対し不安定である為、保存方法として冷蔵庫や冷暗所が推奨されているが、本発明品の調製により、簡易的な保存方法がとれるようになる。また、本発明品は保存容器に関しても褐色瓶ではなく透明容器の適用も可能となる。また室温条件にて、操作条件も特別気にすることなく実施できる。
スクワレン/シクロデキストリン包接型擬ロタキサンは、経時安定性に優れた効果が期待でき、酸化が抑制されるのでハンドリング性が向上し、医薬品や健康食品に用いる粉末剤、顆粒剤、錠剤、分散剤に加工性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明でいう「擬ロタキサン」とは、「擬ロタキサン」あるいは「擬ロタキサン」類似の複合体に由来する沈殿物となる超分子複合体のことをいう。
本発明の「擬ロタキサン」とは、環状分子の開口部(回転子:rotator) が直鎖状分子 (軸:axis) によって、串刺し状に包接されたような構造体のことであり、安定性が高められた加工原料又は加工粉末となりうる。超分子複合体とも呼ぶことができる。なお、ロタキサン は、貫通した直鎖状分子である軸の両末端に嵩高い部位が形成されていて、立体障害で環状分子のリングが軸から抜けなくなった状態の構造物である。擬ロタキサンは、軸であるゲスト化合物をホストの環状化合物から分離して、利用しやすいと考えて本発明を検討した。また、ロタキサンを形成するためには、食品, 健康食品分野では使用できない反応試薬を利用しなければならないため、本発明には適さない。
【0010】
<CyD>
本発明に使用した CyD とは、数分子のグルコースがα (1→4)グルコシド結合によって結合し、環状構造をとった環状オリゴ糖の一種(図1参照)である。グルコースの個数により異なるα (6個)、β (7個)、γ (8個) 型を用いることができる。とりわけβおよびγ型が本発明には適している。
【0011】
CyD は分子内に疎水性の空洞を有し、空洞径に応じて種々のゲスト分子を取り込んで包接複合体を形成することが知られている。CyD の超分子的な包接特性は、難水溶性薬物の可溶化や安定性の改善、放出制御、バイオアベイラビリティーの改善、苦味・悪臭および局所刺激性の軽減、油状あるいは低融点物質の粉体化、揮発性の防止など、食品、化粧品、医薬品などの多方面で利用されている。
【0012】
<スクワレン>
本発明に用いたスクワレンは粘性のある無色透明の液体である。
【0013】
【化1】

スクワレン
【0014】
<製法>
本発明に使用したスクワレンを CyD に包接させる方法として、溶解度法を用いる。溶解度法とは、CyD の溶液を調製し、一定量のゲスト化合物、すなわち、スクワレンを添加し、攪拌混合することにより、沈殿物を得て、液成分除去後乾燥させることにより包接体を単離する方法である。CyD溶液が飽和溶液の場合、飽和溶液法或いは飽和水溶液法と呼ぶこともできる。また溶解度法を用いる際に、イソプレノイド化合物原料を飽和溶液に添加した直後に超音波を短時間施すことにより、分散性を向上させ、反応しやすくすることができる。
溶解度法では、多量の水を使用していることで、水を反応媒体として、薬物とCyDが相互作用しやすく、短時間で複合体形成性のよい粉末が得られ、単離も容易であるので、スクワレン/シクロデキストリン包接型擬ロタキサンを得ることができる。なお、混練法では、ペースト状になった混練体が得られ、生成効率が悪く、未反応物を除去する工程が多く、単離作業が繁雑であって、擬ロタキサンが生成したとしても非包接スクワレンが混在するので、酸化が避けられず、製剤用素材としては不適当である。混練法は、通常混練作業が開放状態で行われるので、空気 (酸素) に接触し、反応中にこの酸化が進行することとなる。溶解度法では密閉した状態で振とう攪拌が可能であるので、製造工程の酸化防止管理も容易である
本発明では、包接に関与するシクロデキストリン数が約3個有することにより、より安定性を高めることができる。
なお、混練法とはシクロデキストリンと一定量のゲスト化合物に水を少量加えて、ミキサーなどの攪拌機を用いてペースト状にし、乾燥などにより水分を除去することにより複合体を得る方法である。この混練法は、少量の水を反応媒体に用いている為、水に不安定な薬物などに対しては、加水分解反応などによるデメリット面を極力防ぎ、少量の水を反応媒体としてミキサー攪拌によるせん断力などの作用により包接複合体を形成させる製法である。しかしながら、攪拌により熱が発生し、この熱により分解しやすい化合物や使用する水の量が少量であるために、かなり難水溶性の固体化合物などを用いた場合には包接複合体の形成速度が遅い、複合体の収率が悪い、或いは複合体が形成し難いというデメリットも少なくない。また、ミキサーから回収するときにペースト状のためハンドリング性も悪い。
【0015】
溶解度法を用いて本発明品を調製する場合、スクワレンと CyD の使用割合は、CyDのモル比が擬ロタキサン形成モル比より高く設定する(CyDの量を増やす)。これは、スクワレンと反応しやすくする作用、及び、反応中であっても溶液中に溶解している CyD 量を確保し続け、擬ロタキサン形成反応を効率よく維持することができる。
本発明の溶解度法では、攪拌 (振とう) 時間を5分という短時間でも擬ロタキサンの形成が認められ、きわめて短時間に擬ロタキサンが形成できることが確認できた。
【0016】
反応して得られた沈殿物の事後処理として、減圧乾燥処理によって、乾燥粉末とすることが好ましい。凍結乾燥法は、擬ロタキサンの構造が壊れる可能性がある。
【0017】
<擬ロタキサン確認手段>
得られた複合体が擬ロタキサンであるか否かは、粉末X線回折やNMRスペクトルを用いて確認することができる。擬ロタキサンと断定するには、厳密的には単結晶X線構造解析或いは原子間力顕微鏡により証明する必要がある。また、擬ロタキサンはその性質上、沈殿物として得られる可能性が高いため、肉眼観察によりある程度予測することはできる。
粉末X線回折により、擬ロタキサン類似の超分子複合体を示す回折ピークと既知の別の擬ロタキサンとを比較して、擬ロタキサン構造形成の有無を確認している。NMRスペクトルは、形成された複合体が、ゲスト化合物1分子に対する CyD の包接個数を算出するために用いている。すなわち、擬ロタキサンの組成および化学量論を確認するためである。
【0018】
<スクワレン/シクロデキストリン包接型擬ロタキサン粉末の用途>
本発明品スクワレン/シクロデキストリン包接型擬ロタキサン粉末は、その使用用途により、カプセル剤、錠剤、散剤、液剤、軟膏、クリーム剤等の剤形に製剤配合処方成分の一つとして用いることができる。特に、安全性の点で経口摂取用、経皮吸収用、皮膚外用剤として適している。
本発明品は、混練法よりも比較的高純度の擬ロタキサン粉末を得ることが可能である為、混練体に比べ、粉末の経時的安定性に優れ、粉末の未包接或いは擬ロタキサン化されていない箇所について薬物の部分的な劣化等が生じ難いものと考えられる。その結果、長期における保存安定性が確保され (品質保持期限の長期設定)、他原料との配合による薬物劣化の抑制 (製剤処方の簡便化) などに繋がる。
また、擬ロタキサン形成性が高い粉末であることは、擬ロタキサンからの薬物のコントロールドリリースなどの製剤処方設計を行う上では重要なファクターとなりうる。
【0019】
特に錠剤の配合処方の一つとして使用する場合、錠剤の製造方法として直接粉末圧縮法(直打法) の利用に適している。直打法は、湿式顆粒圧縮法 (通常のいわゆる湿式法) に比べ、その製造工程上、工業的にも安価な製法である。
【実施例】
【0020】
1. 試料および溶媒
(1)スクワレン
スクワレン((Squalene )岸本特殊肝油工業所 (株) 製)を用いた。
(2)CyD(シクロデキストリン)
β-CyD、γ-CyD(日本食品化工 (株)製)を用いた。
(3)溶媒
溶媒としての H2O はイオン交換精製水を 2 回蒸留して用いた。
【0021】
2. スクワレン/CyDs 複合体の調製
【0022】
スクワレン/γ-CyDおよびスクワレン/β-CyD溶解度法調製品の調製方法
実験操作は、窒素置換、遮光下で行った。 スクワレン85.8 mg に232 mg/mLγ-CyD 水溶液 5.8 mL を添加、またはスクワレン42.9 mg に18.5 mg/mLβ-CyD 水溶液 32 mL を添加し、激しく攪拌した。 超音波を 数十秒あて、振とう機を用いて、一定時間振とう (100 rpm) した。 反応液を7000 rpm、10 分間遠心後、上清を除去し、未反応のβ-CyD または γ-CyD を取り除いた。 得られた沈殿物を数時間〜一晩減圧乾燥することで、本発明品を得た。なお振とうは各々、5分間及び1日間の設定条件にて実施した。
【0023】
3.沈殿物形成の肉眼的観察
一般に CyDの擬ロタキサンは隣接する CyD 間で水素結合するため、水分子との水素結合ができなくなり難水溶性となる。本実験では、スクワレンを予め調製した各種CyD飽和水溶液に添加し、溶解度法の調製条件にしたがって調製した溶液について肉眼観察を行い、写真撮影を行った。なお、比較溶液としてH2Oのみに添加した状態の観察及び写真撮影も行った。
図2はイソプレノイド化合物/CyD 超分子複合体の調製終了時における溶液を肉眼観察した結果を示す。
【0024】
Squalene単独において、水では油状に分離した。一方、β- および γ-CyD 水溶液を添加した系では白色沈殿物が確認された。スクワレンは通常液体であるので、これによって、粉末状体で保存や処理ができることとなる。
【0025】
スクワレンは β- または γ-CyD と超分子複合体を形成する可能性が示唆された。 スクワレンがどの CyD と 擬ロタキサン類似の超分子複合体を形成するかに関しては、目視観察以外に確認検討が必要であるが、イソプレノイド側鎖の二重結合の位置やメチル基の間隔がそれぞれのイソプレノイド化合物で異なることから、分子の柔軟性や太さなどが擬ロタキサン類似の超分子複合体形成の可否に関係していると予想されるので、擬ロタキサン類似物質の形成を予期することができる。
【0026】
4. スクワレン/CyD 複合体の構造
4-1. 粉末 X 線回折装置
粉末 X 線回折測定により、粉末試料を用いた場合に、横軸に回折角, 縦軸に回折強度をとった粉末X線回折図を作成することができる。粉末X線回折は、試料の同定, 結晶性の評価, 結晶化度etc.の測定に用いられる。今回は主に試料の同定に用いている。
粉末 X 線回折は理学電気(株) 製 RINT 2500 VL 型自動X 線回折装置を使用し、試料をガラスセルに固定して測定した。 測定条件は以下の通りである。 Cu-Ka 線 (1.542 A); 管電圧:40 kV; 管電流:40 mA; 走査速度:1°/min; 回折角:5°〜35°; スリット:1°-1°-0.15 mm
一般にCyD 複合体結晶の構造はかご型、層状、筒型構造の 3 つに分類される。このうちCyD 擬ロタキサン の結晶構造は筒型構造を形成することが知られている。そこで超分子複合体中の CyD とスクワレンとの固体状態における相互作用を確認するために、粉末 X 線回折測定を行った。
【0027】
4-2. 1H- NMR スペクトル
溶解度法調製品の組成および化学量論を確認するため、1H-NMRスペクトルを測定した。
スクワレン/β-CyD溶解度法調製品およびスクワレン/γ-CyD溶解度法調製品をそれぞれ d6-DMSO に溶解し、日本電子 (株) 製 JMN-A 500 核磁気共鳴装置(外部磁場 : 500 MHz) を用いて測定した。
【0028】
4-3. 連続変化法
一定量のスクワレンに各濃度の γ-CyD 水溶液 (0, 58, 116, 174, 232 mg/mL) または β-CyD 水溶液(0, 4.625, 9.25, 13.875, 18.5 mg/mL) を添加し、上記のスクワレン/CyD超分子複合体の調製時と同様の操作を行った。振とう時間は1日とした。 得られた沈殿物の重量より収率を算出した。
【0029】
5.スクワレン/シクロデキストリン包接型擬ロタキサンの構造の分析結果
5−1.スクワレン/β-, γ-CyD 溶解度法調製品の粉末 X 線回折の結果
きる。
【0030】
本発明品粉末中のスクワレンとβ-およびγ-CyDとの固体状態における相互作用を確認するために、粉末X線回折測定を行った。なお比較原料として、β-CyD単独, γ-CyD単独および擬ロタキサンの形成が確認されているPPG/β-CyD 複合体およびPPG/γ-CyD 複合体の回折パターンを以下に示す。図3はスクワレン/γ-CyD、図4はスクワレン/β-CyD各々の溶解度法調製品(振とう時間:5分間、1日間)の比較図である。
【0031】
図3、図4の粉末X線回折パターン結果より、スクワレン/γ-CyD溶解度法調製品において、PPG/γ-CyD 複合体と同様の筒型構造に特徴的な回折パターンを示したことから、5分間という短時間においても擬ロタキサン様の複合体を形成しているものと考えられる。また同様に、スクワレン/β-CyD溶解度法調製品においても、PPG/β-CyD 複合体と同様の筒型構造に特徴的な回折パターンを示したことから、両溶解度法調製品は超分子複合体を形成しているものと考えられる。また、振とう時間5分間と1日間での差はβ-系及びγ-系各々において差異は認められなかった。
【0032】
5-2. スクワレン/β-, γ-CyD 溶解度法調製品の 1H- NMR スペクトルの結果
【0033】
スクワレン/CyD 溶解度法調製品
スクワレン/γ-CyDおよびスクワレン/β-CyD溶解度法調製品の1H-NMRスペクトルを図5,6に示す。図5はスクワレン/γ-CyD、図6はスクワレン/β-CyDを示す。
図5,6はスクワレン/γ-CyDおよびスクワレン/β-CyD溶解度法調製品 (振とう時間:一日間)、各々を DMSO に溶解後の1H-NMRスペクトルである。本スペクトルにおいて、5.7 ppm 付近にγ-CyDの2, 3-位のプロトン、5.6 ppm 付近にβ-CyDの2, 3-位のプロトン、5.1 ppm付近にスクワレンのビニル基のプロトン、1.99〜2.03 ppm 付近にスクワレンの-CH2プロトンピーク、1.6 ppm付近に-CH3プロトンピークが観察された。本スペクトルピークに関し、β-,γ-CyDおよびスクワレンの積分値より組成比を求めたところ、スクワレン 一分子に対し、結合したβ-CyD 数は2.96個、γ-CyD 数は 2.68個であるという結果が得られた。
【0034】
(4)超分子複合体の構造「擬ロタキサン」
これらのことから図5,6に示すような構造を有することが予想される。この構造は、環状分子の開口部 (回転子:rotator) が直鎖状分子 (軸:axis) によって、串刺し状に包接されたような構造体を形成しており、まさに「擬ロタキサン」に該当する。したがって、スクワレン/シクロデキストリン包接型擬ロタキサンの形成が推認できた。
【0035】
5-3. 連続変化法による擬ロタキサンの生成結果
Squalene/CyD 超分子複合体の収率は一次関数的に増大することが確認できた。この結果から、スクワレン( Squalene )超分子複合体は濃度依存的に収率が上昇することが示唆された。
【0036】
Squalene/CyD 超分子複合体の収率
図7はSqualene/CyD 超分子複合体の収率に及ぼす CyDs 水溶液濃度の影響を示す。 β- およびγ-CyD いずれの系においても、CyDs 濃度の上昇に伴い超分子複合体の収率は一次関数的に増大し、154 mg/mLβ-CyD 水溶液においては約 56 %、232 mg/mLγ-CyD 水溶液では約 70 % まで達した。
【0037】
6.結果
前記の分析試験によって、溶解度法を用いた製造方法によって有利にスクワレン/シクロデキストリン包接型擬ロタキサン粉末が製造できることが判明した。
溶解度法を用いることにより、スクワレン(Squalene)は、ゲスト化合物としてシクロデキストリンに包接された粉末状の擬ロタキサンが製造できた。
Squalene に β- および γ-CyD 水溶液を添加し、5分間振とう、1 日間振とうにおいて、擬ロタキサン 類似の Squalene/β- および γ-CyD 超分子複合体の沈殿物が形成された。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】シクロデキストリン環状構造を表す図
【図2】スクワレン/CyD超分子複合体調整溶液の肉眼用写真
【図3】X線回析パターン(スクワレン/γ−CyD)
【図4】X線回析パターン(スクワレン/β−CyD)
【図5】1H- NMR スペクトル(スクワレン/γ−CyD、1日間)
【図6】1H- NMR スペクトル(スクワレン/β−CyD、1日間)
【図7】スクワレン/CyD超分子複合体の収率を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクワレンがシクロデキストリンに包接されて、擬ロタキサンを形成しているスクワレン/シクロデキストリン包接型擬ロタキサン。
【請求項2】
シクロデキストリンが、βシクロデキストリン又はγシクロデキストリンであることを特徴とする請求項1記載のスクワレン/シクロデキストリン包接型擬ロタキサン。
【請求項3】
擬ロタキサンを形成しているモル比は、スクワレン:シクロデキストリン=1:2.6〜3.0であることを特徴とする請求項1又は2記載のスクワレン/シクロデキストリン包接型擬ロタキサン。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のスクワレン/シクロデキストリン包接型擬ロタキサンを用いた粉末剤、顆粒剤又は錠剤。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のスクワレン/シクロデキストリン包接型擬ロタキサンを用いた経口剤。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載のスクワレン/シクロデキストリン包接型擬ロタキサンを用いた皮膚外用剤。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載のスクワレン/シクロデキストリン包接型擬ロタキサンを用いた健康食品。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載のスクワレン/シクロデキストリン包接型擬ロタキサンを用いた化粧料。
【請求項9】
スクワレンを、飽和溶解度以上のシクロデキストリンを添加した水溶液に混合して、振とう攪拌することにより、スクワレンをシクロデキストリンに包接させて擬ロタキサンを製造する方法であって、前記シクロデキストリンの量として、擬ロタキサンを形成するスクワレンとシクロデキストリンのモル比に対して、シクロデキストリンのモル比を高い量とすることを特徴とするスクワレン/シクロデキストリン包接型擬ロタキサンの製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−269829(P2009−269829A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−119166(P2008−119166)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】