説明

スタイラスアーム

【課題】平面視で直線的な測定経路内に障害部分のある被測定物でも、障害部分に妨げられることなく測定を行えるようにする。
【解決手段】被測定物(B)の表面(H)に接触されるスタイラス(30、32)を有するスタイラスアーム(22)を備え、該スタイラスアームを平面視で1つの軸線に沿って駆動することにより、スタイラスが被測定物の表面の凹凸に従って上下動することに基づいて当該被測定物の表面の粗さや形状を測定する輪郭形状測定装置に用いられるスタイラスアーム。このスタイラスアームは、細長いアーム部(19)と、該アーム部の長さ方向で間隔をあけて設けられ、それぞれ、被測定物の表面に接触可能とされた接触端を有する第1及び第2のスタイラス(30、32)とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定物の表面粗さや形状を測定するための輪郭形状測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
輪郭形状測定装置は、水平な載置面を有するテーブルを備え、該テーブル上に被測定物を載置し、その表面にスタイラス(触針)を接触させながら平面視で一つの直線(X軸)に沿って移動し、被測定物の表面の凹凸に従って当該スタイラスが上下に変位する量(Z軸上の変位量)を測定し、それに基づき該表面の粗さや形状を測定する。
【0003】
具体的には、テーブルには垂直に延びるコラムが設けられ、該コラムにはスタイラスを駆動する駆動装置が設けられる。駆動装置は、スタイラスを先端に備えたスタイラスアームを枢動可能に支持したアームホルダを備え、該アームホルダを水平方向で上記X軸の方向で駆動可能とされ、また、当該駆動部材自体はコラムに沿って上下動可能とされている。測定に当たっては、テーブル上の被測定物の表面にスタイラスアームの先端のスタイラスが接触するまで駆動装置がコラムに沿って下降されて停止され、その後、アームホルダが該駆動装置によって水平方向でX軸方向に駆動され、上述の測定を行う。特許文献1から4は、そのような輪郭形状測定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−274521号
【特許文献2】特開2007−121146号
【特許文献3】特開2009−85735号
【特許文献4】特開2010−107323号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のような従来の輪郭形状測定装置は、スタイラスを直線的に駆動することにより測定を行うものであるために、被測定物に、当該スタイラスの直線的な動きを妨げる障害部分があると、スタイラスがその障害部分のところまで駆動された時点で、その駆動を停止し、テーブル上の被測定物を180°向きを変えて、障害部分の反対側にあった被測定部分をスタイラスのある側としてから測定を再開する必要がある。しかし、これは精確な被測定物の向き換え及び測定装置の調整が必要となるために、時間が掛かり、しかも、測定精度の低下をきたしやすい。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、スタイラスの移動経路にその移動の障害となるようなものがあっても、測定作業を実質的に中断することなく、且つ、精度の高い測定ができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、
被測定物の表面に接触されるスタイラス(触針)を有するスタイラスアームを備え、該スタイラスアームを平面視で1つの軸線に沿って駆動することにより、スタイラスが被測定物の表面の凹凸に従って上下動することに基づいて当該被測定物の表面の粗さや形状を測定する輪郭形状測定装置に用いられるスタイラスアームであって、
細長いアーム部と、
該アーム部の長さ方向で間隔をあけて設けられ、それぞれ、被測定物の表面に接触可能とされた接触端を有する第1及び第2のスタイラスと、
を有するスタイラスアームを提供する。
【0008】
このスタイラスアームでは、第1及び第2のスタイラスがあるために、一方のスタイラスを被測定物に接触させながら直線的に駆動して測定を行うときに、測定途中で、当該一方のスタイラスが、その進行を妨げるような障害部分にあったとしても、被測定物の位置を変えることなく、他方のスタイラスを障害部分の反対側にある被測定物の表面に接触させることにより、その測定を継続することが可能となる。
【0009】
具体的には、前記アーム部が、前記輪郭形状測定装置に接続される基端と、先端とを有し、前記第1のスタイラスは該アーム部の先端に、前記第2のスタイラスは該先端よりも基端側に離して取り付けられ、該第1及び第2のスタイラスの前記接触端が、平面視で該アーム部の一方の側に位置するようにされる。
【0010】
第1及び第2のスタイラスの接触端をこのように配置すれば、測定経路上に上述の如き障害部分がある場合でも、第1及び第2のスタイラスの接触端を、測定経路上での障害部分の両側に配置することにより、該障害部分の両側を、それぞれ、これら第1及び第2のスタイラスで測定を行うことが可能となる。
【0011】
より具体的には、前記第1及び第2のスタイラスの前記接触端が、前記アーム部の前記一方の側で、該アーム部に平行に延びる線上に配置されるようにする。
【0012】
このようにすることにより、一方のスタイラスによる測定から他方のスタイラスによる測定に切り替えるときに、測定装置の調整が簡単となる。
【0013】
また、前記第1及び第2のスタイラスの接触端がそれぞれ異なる方向に指向されるようにすることもできる。すなわち、第1及び第2のスタイラスによるそれぞれの測定をおこなうときに、障害部分によって測定が邪魔されないような向きに接触端を指向させるものである。
【0014】
本発明はまた、上述のようなスタイラスアームを備える輪郭形状測定装置をも提供するものであり、この装置は、
被測定物を載置するテーブルと、
該テーブルから垂直上方に延びるコラムと、
該コラムに沿って上下動される駆動装置であって、スタイラスアームホルダを支持し、該スタイラスアームホルダを水平な1つの軸線に沿って駆動可能とした駆動装置と、
上述の通りの第1及び第2のスタイラスを備えるスタイラスアームであって、前記基端がスタイラスアームホルダに取り付けられ、枢動可能とされているスタイラスアームと
を有し、
前記第1及び第2のスタイラスの内の一方の前記接触端が被測定物の表面に接触した状態で前記スタイラスアームホルダを水平方向に駆動することにより、前記スタイラスアームが被測定物の表面の凹凸に従って枢動するようにし、このスタイラスアームの枢動に基づき当該被測定物の表面の表面粗さや形状を測定するようにする。
【0015】
以下、本発明に係るスタイラスアーム及び該アームを備えた輪郭形状測定装置の実施形態を添付図面に基づき説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るスタイラスアームを使用可能な従来の輪郭形状測定装置の側面図である。
【図2】ボルトの頭部裏面を測定するときに本発明に係るスタイラスアームの側面図である。
【図3】図2のスタイラスアームの平面図である。
【図4】ボルトの測定表面を示す図である。
【図5】本発明に係るスタイラスアームを備えた輪郭形状測定装置の側面図である。
【図6】スタイラスアームの他の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に述べる本発明に係るスタイラスアームは、図1に示す従来から知られている輪郭形状測定装置10に取り付けて使用可能であり、先ず、この装置10につき説明する。
【0018】
すなわち、この輪郭形状測定装置10は、被測定物を載置する水平な載置面11を有するテーブル12と、該テーブルから垂直上方に延びるコラム14と、該コラムに沿って上下動されるように設定された駆動装置16と、該駆動装置から懸架され水平方向で駆動可能とされたスタイラスアームホルダ18とを有する。スタイラスアームホルダ18は、細長いアーム19部と、該アーム部の先端に設けられたスタイラス(触針)20とを有するスタイラスアーム22を、(図1では、紙面に直角方向に延びる)水平軸線Aの周りに枢動可能に保持する。スタイラスアームを保持するための具体的構造は、広く知られているので、その詳細な説明は省略する。
【0019】
測定に当たっては、駆動装置16をコラム14に沿って下降し、スタイラスアーム22のスタイラス20の先端(接触端)20aがテーブル12上の被測定物の表面に接触する位置にきたときに該駆動装置16の下降を停止する。次に、駆動装置によって、スタイラスアームホルダを水平方向(図1における左右方向)に駆動し、スタイラス20が被測定物の表面の凹凸に従って上下に変位し、スタイラスアーム20が水平軸線Aの周りで揺動するようにする。スタイラスアームホルダ18は、スタイラスアームの枢動を電気信号に変換し、図示しない制御装置に送り、その電気信号に基づき被測定物表面の測定データが生成される。
【0020】
本発明では、スタイラスアーム22が、図2に示すように、細長いアーム部19の先端にある第1のスタイラス30と、該第1のスタイラス30から該アーム部の基端33側に一定間隔あけた第2のスタイラス32とを有することを特徴としている。図3に示すように、この第1及び第2のスタイラス30、32は、アーム部19からその一方の側に水平方向に延びるサブアーム部34、36の先端から下方に延びるようにされている。図2及び図3から分かるように、第1及び第2のスタイラス30、32の接触端30a、32aは、直線的に延びるアーム部19に対して上記一方の側で該アーム部19に対して平行な1つの直線上に位置するようにされている。
【0021】
本発明に係るこのスタイラスアームは、前述の如き従来の装置における問題を解消するものである。すなわち、図4に示すように、例えば、ボルトBの頭部裏面Hを、その1つの直径Dに沿って測定を行う場合、図1のごとき従来の装置では、ボルト軸部Sが、スタイラス20の測定経路上にあり、スタイラス進行の障害となる。これに対して、本発明に係るスタイラスアーム22では、第1及び第2のスタイラス30、32の接触端30a、32aを、図2及び図3に示すように測定する直径Dに沿った測定経路における、ボルト軸部Sの両側に配置し、第1のスタイラス30で該頭部裏面Hにおけるボルト軸部Sよりもスタイラスアーム22の先端側の部分を測定し、第2のスタイラス32でスタイラスアーム22の基端側を測定する。このようにすることにより、被測定物であるボルトBの向きを変える必要も無く、障害物としてのボルト軸部Sの両側を測定することができる。従って、測定途中で被測定物(ボルト)の向き換えを必要とした従来の装置に較べて、その測定速度が大幅に短縮されるだけでなく、測定精度も高いものとすることができる。
【0022】
図5は、ボルトBをテーブル上に保持するのにY軸移動テーブル24を用いた場合を示している。すなわち、このY軸移動テーブルは、被測定物であるボルトBを保持して図5の紙面に直角方向(Y軸方向)で変位可能としている。X軸方向での単一の線に沿う測定だけでなく、複数の線に沿って測定を行う場合には、このY軸移動テーブル24でボルトを適宜Y軸方向で変位させて測定を行う。
【0023】
図6は、第1及び第2のスタイラス30、32の接触端30a、32aが、相互に異なる方向に指向されるようにした実施形態を示している。すなわち、上述と同様にボルトBを例にとって述べれば、ボルトBを図6に示すように斜めに設定した場合には、図3に示すような第1及び第2のスタイラス30、32が相互に平行に設定されたスタイラスアーム22では、第2のスタイラス32による測定がボルトの軸部Sによって妨げられる。これに対し、第1及び第2のスタイラス30、32の接触端30a、32aを図6に示すように設定することにより、第2のスタイラス32による測定がボルトの軸部Sに妨げられることなく行うことができ、ボルト頭部裏面の被測定表面Hを、ボルト軸部Sの直近(根元)まで測定できるようにすることができる。
【0024】
以上、本発明に係るスタイラスアーム及びそれを使用した輪郭形状測定装置の実施形態につき述べたが、本発明はこれら実施形態に限定されるものではなく、例えば、第1及び第2のスタイラスの接触端の向きを図6に示したものとは相互に逆にするなど種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0025】
10 輪郭形状測定装置
12 テーブル
14 コラム
16 駆動装置
18 スタイラスアームホルダ
19 細長いアーム部
20 スタイラス
22 スタイラスアーム
24 Y軸移動テーブル
30 第1のスタイラス
32 第2のスタイラス
33 基端
34、36 サブアーム
B ボルト(被測定物)
H ボルトの裏面(被測定表面)
S ボルト軸部(測定障害部分)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物の表面に接触されるスタイラス(触針)を有するスタイラスアームを備え、該スタイラスアームを平面視で1つの軸線に沿って駆動することにより、スタイラスが被測定物の表面の凹凸に従って上下動することに基づいて当該被測定物の表面の粗さや形状を測定する輪郭形状測定装置に用いられるスタイラスアームであって、
細長いアーム部と、
該アーム部の長さ方向で間隔をあけて設けられ、それぞれ、被測定物の表面に接触可能とされた接触端を有する第1及び第2のスタイラスと、
を有するスタイラスアーム。
【請求項2】
前記アーム部が、前記輪郭形状測定装置に接続される基端と、先端とを有し、前記第1のスタイラスは該アーム部の先端に、前記第2のスタイラスは該先端よりも基端側に離して取り付けられ、該第1及び第2のスタイラスの前記接触端が、平面視で該アーム部の一方の側に位置するようにされている請求項1に記載のスタイラスアーム。
【請求項3】
前記第1及び第2のスタイラスの前記接触端が、前記アーム部の前記一方の側で、該アーム部に平行に延びる線上に配置されている請求項2に記載のスタイラスアーム。
【請求項4】
前記第1及び第2のスタイラスの接触端がそれぞれ異なる方向に指向されている請求項2又は3に記載のスタイラスアーム。
【請求項5】
被測定物を載置するテーブルと、
該テーブルから垂直上方に延びるコラムと、
該コラムに沿って上下動される駆動装置であって、スタイラスアームホルダを支持し、該スタイラスアームホルダを水平な1つの軸線に沿って駆動可能とした駆動装置と、
前記2又は3に記載のスタイラスアームであって、前記基端がスタイラスアームホルダに取り付けられ、枢動可能とされているスタイラスアームと
を有し、
前記第1及び第2のスタイラスの内の一方の前記接触端が被測定物の表面に接触した状態で前記スタイラスアームホルダを水平方向に駆動することにより、前記スタイラスアームが被測定物の表面の凹凸に従って枢動するようにし、このスタイラスアームの枢動に基づき当該被測定物の表面の表面粗さや形状を測定するようにした輪郭形状測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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