説明

スタッド溶接方法

【課題】マグネシウム又はその合金からなるスタッド及び母材を、十分な接合強度を有して溶接するスタッド溶接方法を提供する。
【解決手段】マグネシウム又はマグネシウム合金製の母材14に、マグネシウム又はマグネシウム合金製のスタッド15を溶接する方法であって、先端に突起28を備えたスタッド15を母材14に対して0.5〜12mmのギャップを開けて配置する第1工程と、スタッド15を急速に下げる第2工程と、スタッド15の急速下降で表面の酸化皮膜が破れた母材14及びスタッド15間に、コンデンサー11に充電させた電荷を放電させて、スタッド15の先端を母材14に溶接する第3工程とを有し、しかも、コンデンサー11の放電は、コンデンサー11の放電のスイッチとなるサイリスタ13のゲートに溶接開始の信号と共に0.1秒を超え2秒以下の期間の長いパルス信号を用いて行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグシウム又はマグシウム合金製の母材に、マグシウム又はマグシウム合金製のスタッドを溶接する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウム又はその合金は、材料表面に強力な酸化皮膜を形成することと、酸化し易いことで、極めて溶接しにくい金属であると言える。一方、例えば、特許文献1などで、母材の上にスタッドを植設するスタッド溶接法が開示されている。このスタッド溶接法では、大容量のコンデンサーに電荷を蓄積しておき、先端に突起が設けられたスタッドを母材に接触した状態で、コンデンサーの電荷を急速放電し、スタッド先端と母材との間に瞬間的にアークを発生させ、スタッドの先端を母材に溶接するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−172465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記したスタッド溶接法をそのまま適用して、マグシウム又はマグシウム合金製の母材(以下、単に「母材」という)にマグシウム又はマグシウム合金製のスタッド(以下、単に「スタッド」という)を溶接することは難しく、スタッドに実質有効な接合強度を要求することは極めて困難であった。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、マグネシウム又はその合金からなるスタッド及び母材を、十分な接合強度を有して溶接するスタッド溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う第1の発明に係るスタッド溶接方法は、マグシウム又はマグシウム合金製の母材に、マグシウム又はマグシウム合金製のスタッドを溶接する方法であって、
先端に突起を備えた前記スタッドを前記母材に対して0.5〜12mmのギャップを開けて配置する第1工程と、前記スタッドを急速に下げる第2工程と、前記スタッドの急速下降で表面の酸化皮膜が破れた前記母材及び前記スタッド間に、コンデンサーに充電させた電荷を放電させて、前記スタッドの先端を前記母材に溶接する第3工程とを有し、しかも、前記コンデンサーの放電は、前記コンデンサーの放電のスイッチとなるサイリスタのゲートに溶接開始の信号と共に0.1秒より期間の長い(0.5〜2秒が更に好ましい)パルス信号を用いて行う。
【0007】
このスタッド溶接方法においては、スタッドを急速に下げて母材とスタッドとの間に放電させて、酸化皮膜を破りかつ放電によって非酸化雰囲気を作って溶接を行うので、より清純な溶接部となる。なお、母材とスタッドとのギャップが0.5mm未満の場合には、衝撃による十分な加速が得にくく、12mmを超えると間隔が有りすぎて装置自体がコンパクトにならず、しかも、スタッドと母材との衝突力にバラツキが生じやすい。
そして、コンデンサーの放電のスイッチとなる0.1秒を超えるパルス信号をゲートに加えてサイリスタを通電させるので、サイリスタの放電が確実となる。
【0008】
また、第2の発明に係るスタッド溶接方法は、第1の発明に係るスタッド溶接方法において、前記第2工程でのスタッドの下降は、前記スタッドが装着されスプリングによって下方に付勢された昇降部材を、前記スプリングに抗して引上げ、電磁石によって保持した後、前記電磁石の電流を遮断して前記昇降部材を急速下降することによって行っている。これによって、電磁石の電源を切るとスプリングによって付勢された昇降部材が下降するので、構造が簡単となる。
【0009】
第3の発明に係るスタッド溶接方法は、第1の発明に係るスタッド溶接方法において、前記第2工程のスタッドの下降は、前記スタッドが装着された昇降部材をリニアモータによって下降させている。これによって、下降速度等を細かく制御できるので、スタッドに応じた適切な制御が可能となる。
【0010】
第4の発明に係るスタッド溶接方法は、第1〜第3の発明に係るスタッド溶接方法において、前記スタッドの突起の直径は、前記スタッドの溶接部径の1/12〜1/8(好ましくは、1/10〜1/9)である。なお、ここでスタッドの溶接部径とは、スタッドの下端にフランジが設けられている場合にはフランジの直径と等しく、フランジがない場合にはスタッドの直径と等しくなる。この理由は、突起の直径がより大きい場合、より大きなエネルギーが必要となって、入熱が過剰となり薄板溶接ができない。また、突起の直径がより小さい場合、抵抗が大きくなって全体的な入熱は増えるがスタッド下降時に突起が潰れたり折れたりして、溶接強度にバラツキが生じる。
【0011】
第5の発明に係るスタッド溶接方法は、第1〜第4の発明に係るスタッド溶接方法において、前記スタッドの突起は、スタッド材を不活性ガス又は真空中で、250〜400℃(250℃〜300℃が更に好ましい)に加熱してヘッダー加工によって行う。これによってスタッドの塑性加工ができる。
【0012】
そして、第6の発明に係るスタッド溶接方法は、第1〜第5の発明に係るスタッド溶接方法において、前記母材の溶接箇所が滑らかな曲がり面である場合、前記スタッドの前記突起を除く下端面を前記母材の溶接箇所に合わせている。これによって、溶接部がより母材に馴染み接合強度が向上する。
なお、以上の発明において、「下げる」及び「下降」とはスタッドを母材に近づける方向に移動(又は衝突)させることをいう。
【発明の効果】
【0013】
請求項1〜6記載のスタッド溶接方法は、母材と間に0.5〜12mmの間隔を開けて配置したスタッドを急速下降させながら、放電を開始するので、母材及びスタッドの表面に形成されている酸化皮膜が壊れる。母材及びスタッドの酸化皮膜が破壊された状態で、サイリスタのゲートにパルス信号を加えてコンデンサーの電荷が確実に放電してアークが発生して周囲に非酸化性の雰囲気を形成し、これによって従来困難であったマグネシウム又はその合金からなる母材とスタッドとの溶接が行われる。
更には、母材とスタッドとの間に形成された溶接部には、比較的酸化物が少なく、より強度を有する接合となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態に係るスタッド溶接方法の説明図である。
【図2】(A)、(B)、(C)はそれぞれ同実施の形態に係る方法に使用するスタッドの一部切欠き側面図である。
【図3】(A)は更に同実施の形態に係る方法に使用するスタッドの説明図、(B)及び(C)は同スタッドの正面図及び側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係るスタッド溶接方法に使用するスタッド溶接装置10は、複数のコンデンサー単位を並列に接続して構成される大容量のコンデンサー11と、コンデンサー11に商用電源から電荷を充電する充電回路12と、コンデンサー11の放電開始用のスイッチとなるサイリスタ13と、母材14の上に配置されるスタッド15を保持し、所定の衝撃圧力でスタッド15を母材14に押し付けるスタッド溶接治具16と、これらの制御回路17とを有している。以下、これらについて詳しく説明する。
【0016】
スタッド溶接治具16は、ガイド部材18に沿って上下動可能な昇降部材の一例であるロッド(導体からなる)19と、ロッド19の下端に設けられ、スタッド15を保持するホルダー20とを有している。ロッド19の中間にはバネ受け座21が設けられ、バネ受け座21と固定バネ受け板22との間に設けられた圧縮バネ(スプリングの一例)23によって下方に付勢されている。また、ロッド19の上端には磁性物24が設けられ、磁性物24が貫通する電磁石25が設けられ、この電磁石25に通電した場合には、磁性物24の取付けられたロッド19が圧縮バネ23に抗して上昇するが、電磁石25の通電が遮断されると圧縮バネ23の付勢力によってロッド19、即ち、ロッド19の先部に設けられたホルダー20に装着されたスタッド15が母材14に衝突するようになっている。
なお、ガイド部材18、固定バネ受け板22及び電磁石25は図示しない支持部材によって所定位置に固定されている。
【0017】
コンデンサー11に逆流防止用のダイオード26を介して接続される充電回路12は、コンデンサー11の放電が終了し、サイリスタ13がオフになったことを検知して作動し、所定電圧までコンデンサー11を充電する構造となっている。サイリスタ13のカソード(出力側)は導電性を有するロッド19に可撓性のある導体で連結されている。制御回路17は常時電磁石25に通電電流を供給し、磁性物24を吸引して、スタッド15を引き上げておく構造となっている。
【0018】
また、制御回路17には、溶接開始スイッチ27が設けられ、溶接開始スイッチ27を作動させると、電磁石25の通電を遮断すると共に、サイリスタ13のゲートにパルス電流(パルス信号)を供給するようになっている。このパルス電流は比較的通電時間が長く(0.1秒を超え2秒以下)、スタッド15が下降後、母材14に先端の突起28が当接して、コンデンサー11の放電が行われるようになっている。
なお、スタッド15の突起28と母材14の表面とのギャップGは、常時0.5〜12mmの範囲のいずれかの距離に調整できる構造となっている。即ち、上部に設けられている電磁石25の高さ位置を調整して、そのギャップGを調整できるようになっている。
【0019】
図2(A)〜(C)にこのスタッド溶接方法に使用するスタッドの他の例を示すが、(A)に示すスタッド30はストレート型であるが、(B)に示すスタッド31には下部にフランジ32が設けられている。また、(C)に示すスタッド33においては、下部が縮径しその下端に突起28が設けられている。
次に、図3(A)〜(C)示すような特殊形状のスタッド35もある。このスタッド35は例えば、(A)に示すように緩やかな曲線で形成される溝36を有する母材37の溝36にスタッドを溶接する場合、(B)及び(C)に示すようにスタッド35の下部のフランジ38の底面(下端面)39を溝36の滑らかな曲がり面に沿わせることによって、より均等に強い強度でスタッド35を母材37に溶接できる。
【0020】
なお、スタッド15、30、31、33、35の突起28の直径は、スタッドの溶接部径の1/12〜1/8(より好ましくは、1/10〜1/9)であるのがよい。なお、ここで溶接部径はフランジ32を有するスタッド31の場合はフランジ32の直径、段付きのスタッド33の場合は段の付いた部分の直径、ストレート型のスタッド30の場合はスタッドの直径をいう。ここで、突起28の直径が小さいとスタッドを下降させて母材14等に衝突させた場合、突起28が潰れてしまい、突起28の直径が大きいと溶接電流が不足し、仮に十分な溶接電流を供給できるとしても、過剰な入熱が溶接部に供給されて歪みが発生する等の問題がある。
また、マグネシウム合金(又はマグネシウム)からなるスタッド材からスタッドをヘッダー加工(プレス加工)によって形成する場合、常温では加工しにくいので、不活性ガス又は真空中で250〜400℃程度に加熱してから行うのがよい。
【0021】
続いて、図1を参照しながら、本発明の一実施の形態に係るスタッド溶接方法について説明する。
先端に突起28を備えたスタッド15をホルダー20に装着し、スタッド15の突起28を母材14に対して0.5〜12mm(例えば、3mm)のギャップを開けて配置する。この状態では電磁石25は通電されてロッド19は上昇している。また、コンデンサー11は所定の電圧に充電されている。
この状態で溶接開始スイッチ27を押すと、電磁石25の励磁は解除され、サイリスタ13のゲートにパルス電流が通電される。電磁石25の通電が遮断されると、スタッド15は圧縮バネ23によって押されて急速下降し、母材14に衝突して、スタッド15の突起28及び母材14の酸化皮膜が瞬間的に破壊され、次に、コンデンサー11からの放電が開始する。このコンデンサー11の放電回路にはリアクトル等、コンデンサー11の放電を緩和する素子は設けられていない。従って、放電電流は極めて短時間の間に急速放電し、更なる酸化皮膜を形成することなく、溶接が完了する。
【0022】
前記実施の形態においては、ロッド19の下降及び上昇は電磁石25と圧縮バネ23が行っているが、例えば、リニアモータを使用してロッド(昇降部材)の制御を行うこともでき、これによってより厳密な制御ができ、より品質のよい溶接部を得ることができる。
【符号の説明】
【0023】
10:スタッド溶接装置、11:コンデンサー、12:充電回路、13:サイリスタ、14:母材、15:スタッド、16:スタッド溶接治具、17:制御回路、18:ガイド部材、19:ロッド、20:ホルダー、21:バネ受け座、22:固定バネ受け板、23:圧縮バネ、24:磁性物、25:電磁石、26:ダイオード、27:溶接開始スイッチ、28:突起、30、31:スタッド、32:フランジ、33、35:スタッド、36:溝、37:母材、38:フランジ、39:底面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム又はマグネシウム合金製の母材に、マグネシウム又はマグネシウム合金製のスタッドを溶接する方法であって、
先端に突起を備えた前記スタッドを前記母材に対して0.5〜12mmのギャップを開けて配置する第1工程と、
前記スタッドを急速に下げる第2工程と、
前記スタッドの急速下降で表面の酸化皮膜が破れた前記母材及び前記スタッド間に、コンデンサーに充電させた電荷を放電させて、前記スタッドの先端を前記母材に溶接する第3工程とを有し、
しかも、前記コンデンサーの放電は、前記コンデンサーの放電のスイッチとなるサイリスタのゲートに溶接開始の信号と共に0.1秒を超え2秒以下の期間の長いパルス信号を用いて行い、
前記スタッドの突起は、スタッド材を不活性ガス又は真空中で、250〜400℃に加熱してヘッダー加工によって形成し、
更に、前記第2工程での前記スタッドの下降は、前記スタッドが装着されスプリングによって下方に付勢された昇降部材を、前記スプリングに抗して引上げ、電磁石によって保持した後、前記電磁石の電流を遮断して前記昇降部材を急速下降することによって行っていることを特徴とするスタッド溶接方法。
【請求項2】
マグネシウム又はマグネシウム合金製の母材に、マグネシウム又はマグネシウム合金製のスタッドを溶接する方法であって、
先端に突起を備えた前記スタッドを前記母材に対して0.5〜12mmのギャップを開けて配置する第1工程と、
前記スタッドを急速に下げる第2工程と、
前記スタッドの急速下降で表面の酸化皮膜が破れた前記母材及び前記スタッド間に、コンデンサーに充電させた電荷を放電させて、前記スタッドの先端を前記母材に溶接する第3工程とを有し、
しかも、前記コンデンサーの放電は、前記コンデンサーの放電のスイッチとなるサイリスタのゲートに溶接開始の信号と共に0.1秒を超え2秒以下の期間の長いパルス信号を用いて行い、
前記スタッドの突起は、スタッド材を不活性ガス又は真空中で、250〜400℃に加熱してヘッダー加工によって形成し、
更に、前記第2工程の前記スタッドの下降は、前記スタッドが装着された昇降部材をリニアモータによって下降させることによって行うことを特徴とするスタッド溶接方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のスタッド溶接方法において、前記スタッドの突起の直径は、前記スタッドの溶接部径の1/12〜1/8(より好ましくは、1/10〜1/9)であることを特徴とするスタッド溶接方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のスタッド溶接方法において、前記母材の溶接箇所が滑らかな曲がり面である場合、前記スタッドの前記突起を除く下端面を前記母材の溶接箇所に合わせていることを特徴とするスタッド溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−115858(P2011−115858A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48066(P2011−48066)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【分割の表示】特願2005−196515(P2005−196515)の分割
【原出願日】平成17年7月5日(2005.7.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年(平成17年)5月31日 「日本経済新聞」に発表
【出願人】(500557554)アジア技研株式会社 (2)
【Fターム(参考)】