説明

スタフィロコッカス・アウレウス(STAPHYLOCOCCUSAUREUS)に対する防御免疫応答を誘導するポリペプチド

構造的に配列番号1に関連するアミノ酸配列を含むポリペプチド及び当該ポリペプチドの使用及びその組成を開示する。配列番号1は、S.アウレウス(aureus)の全長配列である。アミノ末端ヒスチジン−タグを有する配列番号1の誘導体が、S.アウレウスに対する防御免疫応答を誘導することが見出された。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願に関する相互参照
本出願は、2008年11月26日に出願された米国仮出願第61/200,273号の利益を主張し、その結果、本明細書に参照により組み込まれている。
【0002】
発明の背景
スタフィロコッカス・アウレウス(Staphlococcus aureus(「aureus」))は、広範囲の疾患及び症状の病因となる病原性微生物である。S.アウレウスは、健常人の鼻及び皮膚に常在し、しばしば軽微な感染(例えば、ニキビ、おでき)を惹起するにすぎない一方で、それは全身感染を惹起することもできる。S.アウレウスにより惹起される疾患及び症状の例には、菌血症、感染性心内膜炎、毛包炎、せつ、癰、膿痂疹、水疱性膿痂疹、蜂巣炎、細菌性肉芽腫症、毒素性ショック症候群、熱傷様皮膚症候群、中枢神経系感染症、感染性及び炎症性眼疾患、骨髄炎及び関節若しくは骨の他の感染症、及び気道感染症が含まれる。(「ヒト疾患におけるブドウ球菌(The Staphylocossi in Human Disease)」、クロスリー及びアーチャー編、チャーチル・リビングストーン・インク(Churchill Livingstone Inc.)、1997年;アーチャー(Archer)、「クリニカル・インフェクシャス・ディジージズ(Clin.Infect.Dis.)」、1998年、第26巻、p.1179−1181。)
通常、S.アウレウス感染に対しては、粘膜及び表皮バリアが保護する。しかし、傷害(例えば、熱症、外傷又は外科手術手技)の結果としてのこれら天然バリアの断絶及び免疫系を損傷する病気(例えば、糖尿病、末期腎不全、癌)の双方が、感染リスクを劇的に増加する。S.アウレウスによる日和見感染は、極めて重篤となることがあり得、しばしば深刻な罹患率又は死亡率に帰着する。
【0003】
1960年代に売り出されたメチシリンは、ペニシリン耐性のS.アウレウスに関する問題を克服した。しかし、この生物体に有効な多くの他の抗生物質(例えば、アミノグリコシド、テトラサイクリン、マクロライド及びリンコサミド)への耐性を伴ったメチシリン耐性が、S.アウレウスに出現した。メチシリン耐性のS.アウレウス(MRSA)は、世界的に最も重要な院内感染菌の一つとなり、重大な感染制御の問題を提起している。
【0004】
S.アウレウス感染及びS.アウレウスの蔓延を制御するために、免疫学に基づいた戦略を使用することができる。免疫学に基づいた戦略には、受動免疫法及び能動免疫法が含まれる。受動免疫法は、S.アウレウスを標的とする免疫グロブリンを使用する。能動免疫法は、S.アウレウスに対する免疫応答を誘導する。
【0005】
有望なS.アウレウス・ワクチンは、S.アウレウスのポリサッカライドとポリペプチドを標的とする。可能性のあるワクチン成分として使用することのできるポリサッカライドの例には、S.アウレウスの5型及び8型の胸膜ポリサッカライドが含まれる(シャインフィールドら(Shinefield et al.)、「ザ・ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(N.Eng.J.Med.)」、2002年、第346巻、p.491−496)。可能性のあるワクチン成分として使用することのできるポリペプチドの例には、コラーゲン・アドヘシン、フィブリノーゲン結合性タンパク質、クランピング因子(マモら(Mamo et al.)、「フェムス・イムノロジー・&・メディカル・マイクロバイオロジー(FEMS Immunol.Med.Mic.)」、1994年、第10巻、p.47−54;ニルソンら(Nilsson et al.)、「ザ・ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスティゲーション「J.Clin.Invest.」、1998年、第101巻:p.2640−2649;ジョセフソンら(Josefsson et al.)、「ザ・ジャーナル・オブ・インフェクシャス・ディジージズ(J.Infect.Dis.)」、2001年、第184号:p.1572−1580)。
【0006】
S.アウレウスのポリペプチド配列に関する情報は、S.アウレウスのゲノムの塩基配列決定によって得られた(黒田ら(Kuroda et al.)、「ザ・ランセット(Lancet)」、2001年、第357号、p.1225−1240;ババら(Baba et al.)、「ザ・ランセット(Lancet)」、2000年、第359巻、p.1819−1827;クンシュら(Kunsch et al.)、欧州特許出願公開EP0786519号、公開日1997年7月30日)。ゲノムの塩基配列決定から得られたポリペプチド配列を特性付けるために、バイオインフォマティクスがある程度まで用いられた(参照、例えば当該EP0786519号、前掲書)。
潜在性抗原の遺伝子クローン同定に役立てるために、ディスプレー・テクノロジー及び感染患者由来の血清に関連する技術が用いられてきた(参照、例えば、フォスターら(Foster et al.)、PCT国際公開第WO 01/98499号、公開日2001年12月27日;マインケら(Meinke et al.)、PCT国際公開第WO 02/059148号、公開日2002年、8月1日;エッツら(Etz et al.)、「プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ・オブ・ザ・ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)」、2002年、第99巻:p.6573−6578)。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、構造的に配列番号1に関連するアミノ酸配列を含むポリペプチド、及びS.アウレウス感染に対する防御免疫応答を提供する医薬組成物の製造における当該ポリペプチドの使用を特徴とする。配列番号1に示したアミノ酸配列は、本明細書においてSACOL1902と称するS.アウレウス抗原の全長タンパク質配列を表している。。配列番号2に示したアミノ酸配列を有し、NH末端ヒスチジンタグ(「ヒス−タグ」)を含む、配列番号1の一誘導体が、S.アウレウス感染動物モデルにおいて、S.アウレウスに対する防御免疫応答を誘導することが見出された。
【0008】
本発明は、配列番号1に示したアミノ酸配列から8個までのアミノ酸変化を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドについて記載する。一実施態様において、ポリペプチドの免疫原は配列番号1及び/又は配列番号6から成り立っていない。ポリペプチドは、免疫原として使用することができるが、「免疫原」という表現は、配列番号1を発現するS.アウレウス菌株を含みこれに限定されないが、S.アウレウスに対する防御免疫を提供する当該ポリペプチドの能力を示している。
【0009】
「防御」免疫又は免疫応答という表現は、明細書で記載するポリペプチド、免疫原及び/又は治療法と関連して使用する場合、検出可能なレベルのS.アウレウス感染に対する防御を示している。これには、S.アウレウス感染又は当該感染から生じる障害の取得の可能性を減少するための、又同様に感染及び/又は当該感染から生じる障害の重症度を減少するための、治療及び/又は予防処置が含まれる。したがって、防御免疫応答には、例えば、細菌量を減少する能力、細菌感染に関連した一以上の障害又は症状を回復する能力、及び/又はS.アウレウス感染から生ずる疾患進行の発症を遅らせる能力が含まれる。
【0010】
防御レベルは、本明細書で記載するような動物モデルを用いて評価することができる。例えば、本明細書に記載したあるポリペプチドは、致死誘発モデルマウス及び亜致死性カテーテル留置モデルラットにおいて防御を提供する。
【0011】
「障害」(“disorder”)とは、全体的に又は部分的にS.アウレウス感染に起因して生じる任意の症状である。
【0012】
配列番号1に示したアミノ酸配列から8個までのアミノ酸変化を有するアミノ酸配列を含むという表現は、配列番号1に関連する領域が存在し、そして付加的なポリペプチドの領域が存在して又は存在しなくてもよいことを示している。各々のアミン酸の変化は、独立しており、アミノ酸の置換、欠失又は付加である。
【0013】
本発明の他の態様においては、配列番号1に関連するポリペプチド及びそれに共有結合した一以上の付加領域又は部分を含む免疫原を記載している。ここで、各領域又は部分は、以下の特性、つまり免疫応答を亢進する特性、精製を促進する特性、又はポリペプチド安定化を促進する特性、の少なくとも一つを有する領域又は部分から独立して選択される。一実施態様において、配列番号1に関連するポリペプチドは、配列番号1に示したアミノ酸配列から8個までのアミノ酸変化を有するアミノ酸配列から成っている。他の実施態様において、この免疫原の範囲内で構成される配列番号1に関連するポリペプチドは、これに限定されないが、配列番号1を発現するS.アウレウス菌株を含むS.アウレウスに対する防御免疫を提供する。付加領域又は部分は、例えば、付加ポリペプチド領域又は非ペプチド性領域であり得る。
【0014】
例えば、ポリペプチド免疫原に関する「精製された」又は「実質的に精製された」という表現は、当該ポリペプチドが自然界でそれと会合し及び/又はそれと共に存在する全タンパク質の少なくとも約10%を代表する、一以上の他のポリペプチドを欠失しているポリペプチドが環境中に存在することを示している。
【0015】
「単離された」という表現は、自然界で見出されるのとは異なる形態を表している。異なる形態は、例えば、自然界で見出されるのとは異なる精製度及び/又は自然界に見出されない構造であり得る。自然界に見出されない構造には、例えば、連結された異なる領域を有する組換え型の構造が含まれる。
【0016】
本明細書で互換的に用いられる用語「タンパク質」又は「ポリペプチド」は、整列したアミノ酸配列を表し、最少サイズ又は最大サイズの制限を与えるものではない。タンパク質中の一以上のアミノ酸は、グリコシル化又はジスルフィド結合形成等の翻訳後修飾を含んでもよい。
【0017】
本発明の他の態様は、患者におけるS.アウレウスに対する防御免疫を誘導することのできる組成物を記載している。組成物は、本明細書記載の、薬学的に許容可能な担体及び免疫学的に有効な量のポリペプチド又は免疫原から構成される。当該ポリペプチド又は免疫原は、配列番号1のポリペプチドを発現するS.アウレウスに対する防御免疫を提供することができる。
【0018】
ポリペプチド、免疫原、又はその組成物に関する、用語「免疫学的に有効な量」とは、患者に投与されたときに、適切なレベルの所期のポリペプチド又は免疫原を産生し、その結果、S.アウレウスに対する免疫応答に帰着するのに十分な量を意味する。当業者は、このレベルが多様であり得ることを認識している。その量は、S.アウレウス感染の可能性又は重症度を有意に予防及び/又は減少するのに充分であるべきである。
【0019】
本発明の他の態様は、S.アウレウスに対し免疫応答を惹起するポリペプチドをコードする組換え遺伝子を含む核酸分子を記載している。組換え遺伝子は、組換え核酸分子を含有するが、ここで、当該核酸分子の当該ヌクレオチド配列は、ポリペプチドと共に、適切な転写及びプロセシングのための調節エレメント(翻訳及び翻訳後エレメントを含み得る)をコードしている。組換え遺伝子は、宿主ゲノムと独立して又は宿主ゲノムの一部として存在することができる。
【0020】
このような核酸分子は、発現ベクターであり得る。発現ベクターは、又、宿主細胞内における自律複製のための複製起点、選択マーカー、限られた数の有用な制限酵素部位及び高コピー数の産生能力をも含むことが好ましい。
【0021】
用語「核酸」又は「核酸分子」とは、リボ核酸(RNA)又はデオキシリボ核酸(DNA)を指している。
【0022】
組換え核酸分子とは、その配列及び/又は形態のために自然界では生じない核酸分子である。組換え核酸分子の例には、精製した核酸、自然界で見出されるのとは異なる核酸を与える二以上の連結した核酸領域、及び自然界で連結している一以上の核酸領域(例えば、上流又は下流量領域)が欠失した核酸が含まれる。
【0023】
本明細書では、更に組換え細胞についても記載した。このような組換え細胞は、S.アウレウスに対する防御免疫応答を提供するポリペプチドをコードする組換え遺伝子を含んでいる。組換え細胞は、当該の組換え遺伝子によってコードしたポリペプチドを作製するために使用することができ、本明細書でその作製方法も記載した。作製方法は、ポリペプチドをコードする組換え核酸を含有する組換え細胞の増殖及びポリペプチドの精製を含んでいる。
【0024】
本発明の他の態様は、宿主中でポリペプチドをコードする組換え核酸分子を含有する組換え細胞の増殖及びポリペプチドの精製の段階を含む過程によって作製される、S.アウレウスに対する防御免疫応答を提供するポリペプチドを記載している。異なる宿主細胞を使用することもできる。
【0025】
本発明は、更にS.アウレウス感染患者を治療する方法を提供する。当該方法は、患者においてS.アウレウス感染に対する防御免疫応答を誘導することを含んでいる。用語「治療(treatment)」は、治療的な処置及び予防的な処置の双方を表す。治療を必要とする人には、既感染の人と同様に易感染性の人又は感染の可能性のある人が含まれる。
【0026】
更なる実施態様は、配列番号1に関連するポリペプチド又はその免疫原の免疫学的に有効な量の使用、S.アウレウス感染患者における防御免疫応答を誘導するための薬剤の製造における使用を含んでいる。
【0027】
個々の用語が相互に排他的でない限り、「又は(or)」という表現は、一方(either)又は双方(both)の可能性を表す。時折、一方又は双方の可能性を強調するために「及び/又は」等のフレーズを使用する。
【0028】
「含む(comprises)」等の開放型用語の表現は、追加のエレメント又は段階を許容する。時折、「一以上」等のフレーズが、追加のエレメント又は段階の可能性を強調するために開放型の用語と共に、又は当該用語無しで使用される。
【0029】
明示的に述べない限り、「a」、「an」又は「the」等の用語の記載は、1に限定されず、文脈上明らかに矛盾しない限り、「複数」の表現を含む。例えば、「a cell」は、「cells」を排除しない。時折、1以上等のフレーズが、複数が存在可能であることを強調するために用いられる。
【0030】
本発明の他の特徴及び有用性は、明細書に用意した種々の実施例を含む追加の記載から明らかである。用意した実施例は、本発明を実施するうえで有用な種々の成分及び方法を説明している。実施例は、特許請求の発明を限定するものではない。当業者(skilled artisan)は、本明細書の開示に基づいて、本発明を実施するために有用な他の成分及び方法を確認し、使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、配列番号2のアミノ酸配列を図示する。下線部は、配列番号1の開始メチオニンのみを欠いた、配列番号1の実質的な部分を表す。下線の無いアミノ末端の領域は、ヒス−タグ領域である。
【図2】図2は、配列番号1のアミノ酸配列を図示する。
【図3】図3は、配列番号2をコードする核酸配列(配列番号3)を図示する。アミノ末端ヒス−タグをコードする部分に下線を引いた。
【図4A】図4A(実験1)は、ヒドロキシリン酸アルミニウムアジュバントと配列番号2のポリペプチドを使用した(実線)又はアジュバント単独を使用した(破線)二つの誘発実験の結果を図示する。
【図4B】図4B(実験2)は、ヒドロキシリン酸アルミニウムアジュバントと配列番号2のポリペプチドを使用した(実線)又はアジュバント単独を使用した(破線)二つの誘発実験の結果を図示する。
【0032】
発明の詳細な説明
S.アウレウス感染に対する防御免疫を提供する配列番号1に関連するポリペプチドの能力は、配列番号2を用いた以下に挙げる実施例で例証されている。配列番号2は、配列番号1の誘導体であり、アミノ末端ヒス−タグを含有する。ヒス−タグは、ポリペプチドの精製及び同定を促進する。
【0033】
構造的に配列番号1に関連するポリペプチドは、種々のS.アウレウス菌株に存在するものに相当する領域、及び自然に見出される領域の誘導体を含有するポリペプチドを包含する。配列番号1のアミノ酸配列は図2に図示した。配列番号1及び2で示したアミノ酸配列間の関係は、図1に図示した。
【0034】
I.SACOL1902(配列番号1)配列
S.アウレウスSACOL1902は、保存された、表面発現タンパク質である。SACOL1902は、配列番号1に示したアミノ酸配列を有する。この配列は、これまでに配列決定されたS.アウレウスの13菌株の間で保存されている。表1は、S.アウレウス13菌株、米国生物工学情報センターのジェンバンク(NCBI GenBank)受入番号(改訂版及び原提出番号の双方)、及び各ゲノム配列の登録者を掲載している。
【表1】

ジェンバンク受入番号YP_416263は、S.アウレウス菌株RF122の配列決定により同定された仮説上のタンパク質を意味し、配列番号1と残基部位18で異なるアミノ酸を有する、SACOL1902に関連する配列を開示している。本明細書では配列番号6で示す。
【0035】
自然界に見出される他のSACOL1902配列は、高度の配列類似性の存在、又は既知のSACOL1902配列と比較した整列アミノ酸に基づいて同定することができる。整列アミノ酸は、特長的なタグを提供する。異なる実施態様において、自然界に見出されるSACOL1902配列は、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)、好ましくはS.アウレウスに見出される配列であって、少なくとも20、少なくとも30又は少なくとも50の配列番号1と同じ整列アミノ酸を有する、及び/又は配列番号1と少なくとも87%の配列類似度又は一致度を有する配列である。
【0036】
対照配列に対するパーセント配列類似度(パーセント一致度とも云う)は、当該分野で公知の種々のアルゴリズム及び技術により決定することができる。一般的には、配列類似度は、最初に最大アミノ酸一致度を得るため、ポリペプチドの配列を対照配列と共に整列し、一の配列中のギャップ、挿入及び置換を考慮に入れ、次に相応する領域における一致するアミノ酸の個数を特定することにより求められる。この個数を対照配列(例えば、配列番号1)の全アミノ酸数で除し、100を乗じ最近似の整数に四捨五入する。
【0037】
II.配列番号1に関連するポリペプチド
配列番号1に関連するポリペプチドは、少なくとも配列番号1に87%一致するアミノ酸配列を含んでいる。「ポリペプチド」という表現は、最少又は最大サイズの制限を与えるものではない。本発明の配列番号1に関連するポリペプチドは、配列番号1を発現するS.アウレウスを含みこれに制限されないが、S.アウレウス感染に対する防御免疫を提供する。
【0038】
配列番号1から8個のアミノ酸変化を含むポリペプチドは、配列番号1に約87%一致している。各アミノ酸の変化は、独立しており、アミノ酸置換、欠失又は付加のいずれかである。異なる実施態様において、配列番号1に関連するペプチドは、配列番号1に少なくとも90%、少なくとも94%、少なくとも98%又は少なくとも99%一致して、又は配列番号1から1、2、3、4、5、6、7又は8個のアミノ酸変化分だけ異なっている。一実施態様において、配列番号1に関連するペプチドは配列番号1ではない。他の実施態様において、配列番号1に関連するポリペプチドは配列番号6ではない。
【0039】
本発明の他の観点において、当該ポリペプチドは、本質的に、配列番号1に示されたアミノ酸配列から2ないし8の間のアミノ酸変化を有するアミノン酸配列を持つ、配列番号1に関連する配列を含み又はから構成されている。
【0040】
本発明の配列番号1に関連するポリペプチドの実施例には、本質的に、配列番号1の次のアミノ酸部位を含む又はから構成されるポリペプチドが包含される:アミノ酸5−60、アミノ酸9−64、アミノ酸1−56、アミノ酸4−59、アミノ酸8−63、アミン酸2−57、アミノ酸3−58、アミノ酸7−62、及びアミノ酸6−61。存在可能な付加アミノ酸には、配列番号1の付加アミノ酸又は他のアミノ酸領域が含まれる。好ましい付加アミノ酸は、アミノ末端メチオニンである。
【0041】
示したアミノ酸から「本質的になる(consists essentially)」という表現は、表現したアミノ酸は存在しており、更に付加アミノン酸が存在してもよいことを表している。付加アミノ酸は、カルボキシル末端又はアミノ末端にあり得る。異なる実施態様においては、1、2、3、4、5、6、7又は8個の付加アミノ酸が存在する。
【0042】
S.アウレウスに対する防御免疫を誘導する誘導体を得るために、本明細書記載の配列番号1に関連するポリペプチドに改変を行うことができる。例えば、改変によって、S.アウレウスに対する防御免疫を誘導する能力を保持する誘導体が得られ、あるいは防御免疫の提供に加えて、特別な目的を達成することのできる領域をも有する誘導体を得ることができる。
【0043】
改変は、種々のSACOL1902配列及びアミノン酸の既知の特性を考慮に入れて行うことができる。一般的に、活性を保持するために異なるアミノ酸を置換するときは、類似の性質を有するアミノ酸と交換するのが好ましい。アミノ酸置換のために考慮に入れるべき要因には、アミノ酸のサイズ、電荷、極性、及び疎水性が含まれる。例えば、ロイシンの代わりにバリン、リジンの代わりアルギニン、又はグルタミンの代わりにアスパラギンへの置換は、ポリペプチドの機能の変化を引き起こさないため有望な候補となる。種々のアミノ酸のR基のアミノ酸の性質に及ぼす影響は、当該分野で公知である。(参照、例えば、アウスベル(Ausubel)著「分子生物学カレント・プロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)」、ジョン・ウィリー社刊(John Wiley)、p.1987−2002、別添1C。)
特別な目的を達成するための改変には、ポリペプチドの産生又は効力を促進するために設計された改変、又はコードする核酸のクローニングが包含される。ポリペプチド産生は、組換え発現に適したイニシエーションコドン(例えば、メチオニンコドン)を使用することで促進することができる。メチオニンは、後に、細胞プロセッシングの間に除去されてもよい。クローニングは、例えば、アミノ酸付加又は変化を伴うことのできる、制限サイトの導入により促進することができる。
【0044】
防御免疫応答を誘導するポリペプチドの効力は、エピトープ強化によって改善することができる。エピトープ強化は、MHC分子へのペプチド親和性を改善するためのアンカー残基の改変を包含する技術、並びにT細胞受容体へのペプチド−MHC複合体の親和性を増加する技術等、種々の技術を使用して達成することができる(ベルゾフスキーら(Berzofsky et al.)、「ネイチャー・レヴューズ(Nature Review)」、2001年、第1巻:p.209−219)。
【0045】
好ましくは、ポリペプチドは精製ポリペプチドである。「精製」ポリペプチドは、それと自然界では当該ポリペプチドと共存している1又は複数の他のポリペプチドが共存しない環境中に存在し、及び/又は全タンパク質の少なくとも約10%に相当する。異なる実施態様において、精製ポリペプチドは、試料又は標品中の全タンパク質の少なくとも約50%、少なくとも約75%、又は少なくとも約95%に相当している。
【0046】
一実施態様において、ポリペプチドは、「実質的に精製」されている。実質的に精製されたポリペプチドは、ポリペプチドが自然界で共存している他のポリペプチドの全て又は大部分を欠失した環境に存在している。例えば、S.アウレウスの実質的に精製されたペプチドは、他のS.アウレウスのポリペプチドの全て又は大部分を欠失して環境に存在している。環境とは、例えば、試料又は標品であり得る。
【0047】
「精製された」又は「実質的に精製された」という表現は、ポリペプチドに何らかの精製を経ていることを要求するものではなく、例えば、精製されていない化学合成ポリペプチドを包含することができる。
【0048】
ポリペプチドの安定性は、ポリペプチドのカルボキシル末端又はアミノ末端を修飾することにより高めることができる。可能な修飾の例には、アセチル、プロピル、サクシニル、ベンジル、ベンジルオキシカルボニル又はt−ブチルオキシカルボニル等のアミノ末端保護基、並びにアミド、メチルアミド、及びエチルアミド等のカルボキシル末端保護基が含まれる。
【0049】
本発明の一実施態様において、本明細書記載のポリペプチドは、ポリペプチドに共有結合した1以上の付加領域又は部分を有する免疫原の一部分である。ここで、各領域又は部分は、免疫応答を強化する特性、精製を促進する特性、又はポリペプチドの安定性を促進する特性の少なくとも一つの特性を有する領域又は部分から独立して選択される。ポリペプチドの安定性は、例えば、アミノ又はカルボキシル末端に存在しうる、ポリエチレングリコール等の置換基を用いて強化することができる。このような付加領域又は部分は、カルボキシル末端、アミノ末端又はタンパク質の内部領域を通してポリペプチドと共有結合することができる。
【0050】
ポリペプチドの精製は、精製を促進するためにカルボキシル末端又はアミノ末端にある置換基を付加することにより強化することができる。精製を促進するために使用することができる置換基の例には、アフィニティタグを提供するポリペプチドが含まれる。アフィニティタグには、6xヒスチジンタグ、trpE、グルタチオン及びマルトース結合タンパク質が含まれる。
【0051】
免疫応答を生じさせるポリペプチドの能力は、一般的に免疫応答を強化する置換基を用いて改善することができる。ポリペプチドに対する免疫応答を強化するためにポリペプチドに結合することのできる置換基の例には、IL−2等のサイトカインが含まれる(ブチャンら(Buchan et al.)、「モレキュラー・イムノロジー(Moecular Immunology)」、2000年、第37巻:p.545−552)。
【0052】
III.ポリペプチド産生
ポリペプチドは、化学合成を含む技術及びポリペプチドを産生する細胞からの精製を含む技術を包含する標準的な技術を用いて産生することができる。ポリペプチドの化学合成技術は当該分野で公知である。(参照、例えば、ビンセント(Vincent)著、「ペプチド及びタンパク質薬剤のデリバリー(Peptide and Protein Drug Delivery)」、ニューヨーク、N.Y.(New York,N.Y.)、デッカー(Dechker)、1990年。)組換えポリペプチド産生及び精製の技術もまた当該分野で公知である。(参照、例えば、アウスベル(Ausubel)著、「分子生物学カレント・プロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)」、ジョン・ウィリー(John Wiley)、p.1987−2002
。)
細胞からのポリペプチド取得は、ポリペプチドを産生するための組換え核酸技術を使用することにより容易になる。ポリペプチドを産生するための組換え核酸技術には、ポリペプチドをコードする組換え遺伝子を細胞に導入又は産生し、ポリペプチドを発現することが包含される。
【0053】
組換え遺伝子は、ポリペプチド発現のための調節エレメントと共にポリペプチドをコードする核酸を含んでいる。組換え遺伝子は、細胞ゲノムの中に存在することができ又は発現ベクターの一部であり得る。
【0054】
組換え遺伝子の一部として存在することのできる調節エレメントには、自然界でポリペプチドをコードする配列とは会合していない外因性の調節因子と同様に、自然界でポリペプチドをコードする配列と会合したものも含まれる。外因性のプロモーター等の外因性調節エレメントは、特定の宿主において組換遺伝子を発現するために又は発現レベルを上昇するために有用であり得る。一般的に、組換え遺伝子に存在する調節エレメントには、転写性プロモーター、リボソーム結合位置、転写性ターミネーター、任意に存するオペレーターが含まれる。真核細胞中でのプロセッシングのための好ましいエレメントは、ポリアデニル化シグナルである。
【0055】
細胞内での組換え遺伝子の発現は、発現ベクターの使用によって促進される。組換え遺伝子に加えて、通常、発現ベクターは、宿主細胞内における自律複製のための複製起点、選択マーカー、限られた数の有用な制限酵素サイト及び高いコピー数の潜在能力を含んでいる。発現ベクターの例は、クローニングベクター、修飾クローニングベクター、特異的に設計されたプラスミド及びウイルスである。
【0056】
遺伝暗号の縮重のため、特定のポリペプチドをコードするために多数の異なるコードの核酸配列を使用することができる。遺伝暗号の縮重は、ほとんどのアミノ酸が異なる組合せのヌクレオチドトリプレット即ち「コドン」によりコードされるために生じる。自然界に見出されるアミノ酸は、以下の通り、コドンによりコードされている。
【0057】
A=Ala=アラニン:コドン GCA、GCC、GCG、GCU
C=Cys=システイン:コドン UGC、UGU
D=Asp=アスパラギン酸:コドン GAC、GAU
E=Glu=グルタミン酸:コドン GAA、GAG
F=Phe=フェニルアラニン:コドン UUC、UUU
G=Gly=グリシン:コドン GGA、GGC、GGG、GGU
H=His=ヒスチジン:コドン CAC、CAU
I=Ile=イソロイシン:コドン AUA、AUC、AUU
K=Lys=リジン:コドン AAA、AAG
L=Leu=ロイシン:コドン UUA、UUG、CUA、CUC、CUG、CUU
M=Met=メチオニン:コドン AUG
N=Asn=アスパラギン:コドン AAC、AAU
P=Pro=プロリン;コドン CCA、CCC、CCG、CCU
Q=Gln=グルタミン:コドン CAA、CAG
R=Arg=アルギニン:コドン AGA、AGG、CGA、CGC、CGG、CGU
S=Ser=セリン:コドン AGC、AGU、UCA、UCC、UCG、UCU
T=Thr=スレオニン:コドン ACA、ACC、ACG、ACU
V=Val=バリン:コドン GUA、GUC、GUG、GUU
W=Trp=トリプトファン:コドン UGG
Y=Tyr=チロシン:コドン UAC、UAU
配列番号1に関連するポリペプチドの組換え核酸発現のために適した細胞は、原核生物及び真核生物である。原核細胞の例には、大腸菌(E.coki);S.アウレウス(S.aureus)及びS.エピデルミディス(S.epidermidis)等のスタフィロコッカス(Staphylococcus)属に属する細菌;L.プランタラム(L.plantarum)等のラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する細菌;L.ラクチス(L.lactis)等のラクトコッカス(Lactococcus)属に属する細菌;バチルス・サブチルス(B.subtilis)等のバチルス(Bacillus)属に属する細菌;C.グルタミカム(C.glutamicum)等のコリネバクテリウム(Corynebacterium)属に属する細菌;Ps.フルオレッセンス等のシュードモナス(Pseudomonas)属に属する細菌が含まれる。真核細胞の例には、動物細胞;昆虫細胞;及び、サッカロミセス(Saccharomyces)属に属する酵母(例えば、S.セレビシエ(S.cerebisiae))、ピキア(Pichia)属に属する酵母(例えば、P.パストリス(P.pastoris))、ハンゼヌラ(Hansenula)属に属する酵母(例えば、H.ポリモルファ(H.polymorpha))、クルイヴェロミセス(Kluyveromyces)属に属する酵母(例えば、K.ラクチス(K.lactis)又はK.フラギリス(K.fragilis))、及びシゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属に属する酵母(例えば、S.ポンベ(S.pombe))等の酵母細胞が含まれる。
【0058】
組換え遺伝子産生、細胞導入、及び組換え遺伝子発現のための技術は当該分野で公知である。このような技術の例は、アウスベル(Ausubel)著、「分子生物学カレント・プロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)」、ジョン・ウィリー(John Wiley)、p.1987−2002);及びサンブルックら(Sambrook et al.)著、「モレキュラー・クローニング、実験マニュアル」第2版、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press)、1989年、等の文献に提供されている。
【0059】
もし望むならば、特定の宿主における発現は、コドン最適化によって強化され得る。コドン最適化には、より好ましいコドンの使用が含まれる。種々の宿主におけるコドン最適化技術は当該分野で公知である。
【0060】
配列番号1に関連するペプチドは、例えば、N−結合型グリコシル化、O−結合型グリコシル化、又はアセチル化の翻訳後修飾を含むことができる。「ポリペプチド」又はポリペプチドのアミノ酸配列という表現には、酵母宿主等の宿主細胞由来の翻訳後修飾の構造を有する一以上のアミノ酸を含むポリペプチドが包含される。
【0061】
翻訳後修飾は、化学的に又は適した宿主を使用して産生することができる。例えば、S.セレビシエでは、最後から二番目のアミノ酸の性質が、N−末端のメチオニンが取り除かれるか否かを決定すると思われる。更に、最後から二番目のアミノ酸の性質は、又N−末端アミノ酸がNα−アセチル化されるか否かも決定する(フアングら(Huang et al.)、「バイオケミストリー(Biochemistry)」、1987年、第26巻:p.8242−8246)。他の例には、分泌リーダーの存在により分泌を標的とするポリペプチド(例えば、シグナルペプチド)が含まれる。ここで、タンパク質は、N−結合型又はO−結合型グリコシル化により修飾されている(ククルジンスカら(Kukuruzinska et al.)、「アニュアル・レビュー・オブ・バイオケミストリー(Ann. Rev. Biochem.)」、第56巻:p.915−944)。
【0062】
IV.アジュバント
アジュバントとは、免疫応答を誘導するうえで免疫原(例えば、ポリペプチド、ポリペプチドを含む医薬組成物)を補強する物質である。アジュバントは、
抗原の生物学的又は免疫学的半減期の延長、抗原提示細胞による抗原プロセッシングと提示の改善、及び免疫調節性サイトカインの産生誘導、の中の一以上の異なるメカニズムにより機能する(フォーゲル(Vogel)、「クリニカル・インフェクシャス・ディジージズ(Clinical Infectious Ddiseases)」、2000年、第30巻(補遺3):p.266−270)。本発明の一実施態様において、アジュバントを使用する。
【0063】
免疫応答誘導を補強するために、異なるタイプのアジュバントのバラエティーを使用することができる。個々のアジュバントの例には、水酸化アルミニウム;リン酸アルミニウム、又は他のアルミニウム塩;リン酸カルシウム;DNA CpGモチーフ;モノフォスフォリル・リピッドA;コレラ毒素;大腸菌熱不安定毒素;百日咳毒素;ムラミルジペプチド;フロイント不完全アジュバント;MF59;SAF;免疫刺激複合体;リポソーム;生分解性マイクロスフィア;サポニン;非イオンブロック共重合体;ムラミルペプチドアナログ;ポリホスファゼン;合成ポリヌクレオチド;IFN−γ;IL−2;IL−12;及びISCOMSが含まれる(フォーゲル(Vogel)、「クリニカル・インフェクシャス・ディジージズ(Clinical Infectious Ddiseases)」、2000年、第30巻(補遺3):p.266−270;クラインら(Klein et al.)、「ジャーナル・オブ・ファーマシューティカル・サイエンシズ(Journal of Pharmaceutical Sciences)」、2000年、第89巻:p.311−321;リンメルツワーンら(Rimmelzwaan et al.)、「ヴァクシン(Vaccine)」、2001年、第19巻:p.1180−1187;カーステン(Kersten)、「ヴァクシン(Vaccine)」、2003年、第21巻:p.915−920;オハーゲン(O‘Hagen)、「カレント・ドラッグ・ターゲッツ−インフェクシャス・ディスオーダーズ(Curr.Drug Target Infect. Disord.)」、2001年、第1巻:p.273−286。)
V.防御免疫誘導のための患者
「患者」とは、S.アウレウスに感染され得る哺乳動物をいう。一実施態様においては、患者はヒトである。患者は、予防的に又は治療的に処置され得る。予防的な処置は、S.アウレウス感染の可能性又は重症度を減少するのに十分な予防的免疫を提供する。治療的処置は、S.アウレウス感染の重症度を減少することで達成することができる。
【0064】
予防的な処置は、本明細書記載のポリペプチド又は免疫原を含有する医薬組成物を使用することにより実施し得る。このような処置は、好ましくはヒトに実施される。医薬組成物は、一般住民又はS.アウレウス感染のリスクが増している人々に投与することができる。
【0065】
処置を必要とする人々には、感染しやすい人々又は感染の可能性を低下させなければならない人々、と同様に既に感染した人々が含まれる。S.アウレウス感染のリスクが高い人々には、医療従事者;入院患者;免疫系低下患者;手術患者;カテーテル又は血管デバイス等の異物の植え込みを受けた患者;免疫低下治療を受けている患者;異物が関連する診断法下の患者;熱傷又は損傷リスクの高い職業の人々が含まれる。
【0066】
診断法又は治療法で用いられる異物には、留置カテーテル又は植え込みポリマーデバイスが含まれる。S.アウレウス感染に関連する異物の例には、敗血症/心内膜炎(例えば、血管内留置カテーテル、血管修復用材料、ペースメーカーリード、除細動器システム、補綴心臓弁、及び左心補助循環装置);腹膜炎(例えば、脳室腹腔脳脊髄液(CSF)シャント、及び持続式携帯型腹膜透析カテーテルシステム);脳室炎(体内及び対外CSFシャント);慢性ポリマー関連症候群(例えば、股関節補綴弛緩、シリコン補綴による乳房成形後の線維性被膜拘縮症候群、白内障手術に付随する人工眼内レンジ移植後の遅発性エンドフタルミシス)が含まれる。(参照、ハイルマン及びピーターズ(Heilmann and Peters)著、「スタフィロコッカス・エピデルミディスの生物学及び病原性(Biology and Pathogenicity of Staphylococcus epidermidis)」グラム陽性病原菌(In:Gram Positive Pathogens)、フィシェティら編(Eds.Fischetti et al.)、米国微生物学会(American Society for Microbiology)、ワシントンD.C.(Washington D.C.),2000年。)
S.アウレウスに感染され得る非ヒト患者には、雌ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、ウマ、イヌ、ネコ、ラット、マウスが含まれる。非ヒト患者の治療は、ペット及び家畜を保護し、及び個々の治療の効果を評価する双方において有用である。
【0067】
一実施形態において、患者は、異物を含む治療的又は医学的行為と組み合わせた予防的治療を受ける。他の実施態様において、当該行為の、約1月、約2月又は約2ないし6カ月前に患者を免疫感作する。
【0068】
一実施態様には、(a)治療(例えば、人体の);(b)医薬;(c)S.アウレウス複製阻害;(d)S.アウレウス感染の治療及び予防;(e)S.アウレウス関連疾患の治療、予防又は同疾患の発症又は進行の遅延;(i)における使用、(ii)のための薬剤としての使用、又は(iii)のための薬剤の調製における使用、のための本明細書記載の一以上のポリペプチド免疫原又はその組成物、又は当該免疫原又は組成物を含むか又はから成るワクチンが含まれる。これらの使用において、ポリペプチド免疫原、その組成物、及び/又は当該免疫原又は組成物を含むか又はから成るワクチンは、一以上の抗菌薬(例えば、抗菌化合物;下記の併用ワクチン)と任意に併用して使用することができる。
【0069】
VI.併用ワクチン
配列番号1に関連するポリペプチドは、免疫応答を誘導するために、単独で又は他の免疫原と組み合わせて使用することができる。あり得る追加の免疫原には、一以上の追加のS.アウレウス免疫原、S.エピデルミディス、S.ヘモリチカス、S.ワーネリー、又はS.ルグネンシー等の一以上の他のスタフィロコッカス微生物を標的とする一以上の免疫原、及び/又は他の感染生物を標的とする一以上の免疫原が含まれる。
【0070】
一以上の追加の免疫原の例には、ORF0657n−関連ポリペプチド(アンダーソンら(Anderson et al.)、国際公開第WO 05/009379号);ORF0657/ORF0190ハイブリッドポリペプチド(アンダーソンら(Anderson et al.)、国際公開第WO 05/009378号);sai−1−関連ポリペプチド(アンダーソンら(Anderson et al.)、国際公開第WO 05/79315号);ORF0594−近縁ポリペプチド(アンダーソンら(Anderson et al.)、国際公開第WO 05/086663号);ORF0826−関連ポリペプチド(アンダーソンら(Anderson et al.)、国際公開第WO 05/115113号);PBP4−近縁ポリペプチド(アンダーソンら(Anderson et al.)、国際公開第WO 06/033918号);AhpC−関連ポリペプチド及びAhpC−AhpF組成物(ケリーら(Kelly et al.)、国際公開第WO 06/078680号);S.アウレウス5型及び8型莢膜ポリサッカライド(シャインフィールドら(Shinefield et al.)、「ザ・ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(N.Eng.J.Med.)」)、2002年、第346巻、p.491−496);コラーゲンアドヘシン、フィブリノーゲン結合タンパク質、及びクランピング因子(マモら(Mamo et al.)、「フェムス・イムノロジー・&・メディカル・マイクロバイオロジー(FEMS Immunol.Med.Microbiol.)」、1994年、第10巻、p.47−54;ニルソンら(Nilsson et al.)、「ザ・ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスティゲーション「J.Clin.Invest.」、1998年、第101巻:p.2640−2649;ジョセフソンら(Josefsson et al.)、「ザ・ジャーナル・オブ・インフェクシャス・ディジージズ(J.of Infect.Dis.)」、2001年、第184号:p.1572−1580);及びポリサッカライド細胞内アドヘシン及びそのフラグメント(ジョイスら(Joyce et al.)、「カーボハイドレート・リサーチ(Carbohydrate Research)」、2003年、第338巻:p.903−922)が含まれる。
【0071】
VII.投与
本明細書記載の配列番号1に関連するポリペプチド及び免疫原は、当該分野で公知の技術と共にここに用意した指針を使用することによって、患者に対し処方し投与することができる。一般的な医薬品の投与に対する指針は、例えば、「ヴァクシンズ(Vaccines)」、プロトキン及びオーレンスタイン編(Eds.Plotkin and Orenstein)、サンダース社(W.B.Sanders Company)、1999年;「レミントン医薬科学(Remington‘s Pharmaceutical Science)」、第20版、ジェナロ編(Ed.Gennaro)、マック・パブリシング(Mack Publishing)、2000年;及び「現代薬剤学(Modern Pharmaceutics)」第2版、バンカー及びローズ編(Eds.Banker and Rhodes)、マーセル・デッカー・インク(Marcel Dekker,Inc)、1990年、に用意されている。
【0072】
薬学的に許容可能な担体は、患者に対する免疫原の保存及び投与を促進する。薬学的に許容可能な担体には、バッファー、注射用殺菌水、生理食塩水又はリン酸緩衝食塩水、ショ糖、ヒスチジン、塩及びポリソルベートが含まれ得る。本発明はそれ自体として、配列番号1に関連するペプチド又はその免疫原の免疫学的に有効な量及び薬学的に許容可能な担体を含み、S.アウレウスに対する患者体内での防御免疫応答を誘導することのできる成分を包含している。成分には、アジュバントもさらに含まれる。
【0073】
免疫原は、皮下、筋肉内、及び粘膜等の異なる経路により投与することができる。皮下及び筋肉内投与は、例えば、注射器又はジェット式注射器を用いて実施することができる。
【0074】
適切な投与計画は、患者の年齢、体重、性及び病状;投与経路;目的とする効果;及び使用する個々の化合物;を含む、当該分野で公知の要因を考慮に入れて決定することが好ましい。免疫原は、多数回投与ワクチン形式で用いられる。投与量は、全ポリペプチド1.0μgないし1.0mgの範囲から成ることが望ましい。本発明の異なる実施態様においては、投与量の範囲は、5.0μgないし500μg、0.01mgないし1.0mg、又は0.1mgないし1.0mgである。
【0075】
投与の適正時期は当該分野で公知の要因に依存する。初回の投与後、抗体価を維持するため及び/又は高めるために一回以上の追加の服用量を投与することができる。投与計画の例としては、1日目、1ヶ月目、3回目の投与が4、6又は12ヶ月目であり、そして遅い時期の必要とされる追加ブースター投与があるだろう。
【0076】
VIII.抗体の生成
配列番号1に関連するポリペプチドは、ポリペプチド又はS.アウレウスに結合する抗体及び抗体フラグメントを生成するために使用することができる。このような抗体及び抗体フラグメントは、ポリペプチドの精製、S.アウレウスの同定、又はS.アウレウス感染に対する治療的又は予防的処置における使用を含む種々の使用方法を有する。
【0077】
抗体は、ポリクローナル又はモノクローナルであり得る。ヒト抗体を含む抗体の産生及び使用に関する技術は、当該分野で公知である(参照、例えば、アウスベル(Ausubel)著、「分子生物学カレントプロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)」、ジョン・ウィーリー(John Wiley)、p.1987−2002;ハールローら(Harlow et al.)著、「抗体、実験マニュアル(Antibodies、A Laboratory Manual)」、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)、1988年;コーラーら(Kohler et al.)、「ネイチャー(Nature)」、1975年、第256巻:p.495−497;アザジーら(Azzazy et al.)、「クリニカル・バイオケミストリー(Clinical Biochem.)」、2002年、第35巻:p.425−445;バーガーら(Berger et al.)、「ザ・アメリカン・ジャーナル・オブ・ザ・メディカル・サイエンシズ(Am.J.Med.Sci.)」2002年、第324巻:p.14−40)。
【0078】
固有のグリコシレーションが、抗体の機能にとって重要であり得る(ユーら(Yoo et al.)、「ジャーナル・オブ・イムノロジカル・メソッズ(J.Immunol.Methods)」)、2002年、第261巻:p.1−20;リーら(Li et al.)、「ネイチャー・バイオテクノロジー(Nature Biotechno.)」、2006年、第24巻:p.210−215)。自然界に見出される抗体は、重鎖に結合した少なくとも一つのN結合型炭水化物を含んでいる(ユーら(Yoo et al.)、前掲書)。追加のN結合型炭水化物及びO結合型炭水化物が存在してもよく、そしてそれらは抗体機能に関し重要であり得る。同書。
【0079】
哺乳動物の宿主細胞及び非哺乳動物細胞を含む種々の型の宿主細胞を、効率的な翻訳後修飾を提供するために使用することができる。哺乳動物の宿主細胞には、チャイニーズハムスター・オーヴェリー(卵巣細胞)、HeLa細胞、C6細胞、PC12細胞、ミエローマ細胞が含まれる(ユーら(Yoo et al.)、前掲書;パシックら(Persic et al.)、「ジーン(Gene)」、1997年、第187巻:p.9−18)。非哺乳動物細胞は、ヒトのグリコシレーションを複製するために改変することができる(リーら(Li et al.)、前掲書)。糖鎖付加した(glycoengineered)ピキア・パストリス(Pichia pastoris)は、このような改変した非哺乳動物細胞の一例である(リーら(Li et al.)、前掲書)。
【0080】
IX.核酸ワクチン
配列番号1に関連するポリペプチドをコードする核酸は、治療的投与に適したベクターを使用して患者に導入することができる。適切なベクターは、許容不能な副作用を惹起することなく核酸を標的細胞に輸送することができる。利用することのできるベクターの例には、プラスミドベクター及びウイルスに基づくベクターが含まれる。(バラック(Barouch)、「ザ・ジャーナル・オブ・パソロジー(J.Pathol.)」、2006年、第208巻:p.283−289;エミニら(Emini et al.)、国際公開第WO 03/031588号。)
細胞発現は、目的とするポリペプチドをコードする遺伝子発現カセットを使用して達成される。遺伝子発現カセットは、有用な効果を達成するために、標的細胞の内部に十分な量の核酸を産生及びプロセッシングするための調節エレメントを含んでいる。
【0081】
ウイルスベクターの例には、第1及び第2世代アデノベクター、ヘルパー依存型アデノベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、アルファウイルスベクター(例えば、ベネズエラウマ脳炎ウイルス)、及びプラスミドベクター(ヒットら(Hitt et al.)、「(Advances in Pharmacology」、1997年、第40巻:p.137−206;ジョンストンら(Johnston et al.)、米国特許第6,156,588号;ジョンストンら(Johnston et al.)、PCT国際公開第WO 95/32733号;バラック(Barouch)、「ザ・ジャーナル・オブ・パソロジー(J.Pathol)」、2006年、第208号:p.283−289;エミニら(Emini et al.)、PCT国際公開第WO 03/031588号。))が含まれる。
【0082】
アデノベクターは、ヒト又は動物に見出される種々のアデノウイルス血清型に基づいている。動物のアデノウイルスの例には、ウシ、ブタ、チンパンジー、マウス、イヌ、及びトリ(CELO)が含まれる。(エミニら(Emini et al.)、PCT国際公開第WO 03/031588号;コロカら(Colloca et a.)、PCT国際公開第WO 05/071093号。)ヒトのアデノウイルスには、2型(「Ad2」)、4型(「Ad4」)、5型(「Ad5」)、6型(「Ad6」)、24型(「Ad24」)、26型(「Ad26」)、34型(「Ad34」)及び35型(「Ad35」)等のB、C、D、又はEの血清型が含まれる。
【0083】
核酸ワクチンは、種々の技術及び投与計画を使用して投与することができる。(エミニら(Emini et al.)、PCT国際公開第WO 03/031588号。)例えば、ワクチンは、一以上の電気パルスと共に又は単独で、注射により筋肉内に投与することができる。電気を介した移入は、体液性免疫及び細胞性免疫の双方を刺激することにより遺伝子免疫を補強することができる。投与計画の例には、プライム−ブースト及び非相同的プライム−ブースト法が含まれる。(エミニら(Emini et al.)、PCT国際公開第WO 03/031588号。)
本明細書で表現した全ての刊行物は、本発明に関連して使用され得る方法及び材料を記述及び開示すために参照として組み入れられている。本明細書の如何なるものも、以前の発明のこのような開示により、本発明が先でないと認めることと解釈されてはならない。
【0084】
付随する図面に関連して本発明の好ましい実施態様が述べられた場合には、本発明がこれらの寸分違わない実施態様に限定されるものではないこと、及び、種々の改変及び修飾が、別記の特許請求の範囲で定義した本発明の範囲又は精神から外れることなしに当業者によってその中で成し遂げることができることと理解しなければならない。従って、以下の実施例は本発明を説明するが、これを限定するものではない。
【実施例1】
【0085】
防御免疫
本実施例では、動物モデルにおいて防御免疫を提供する、配列番号1に関連するポリペプチドの能力について説明する。配列番号1のヒス−タグ誘導体である配列番号2は、防御免疫を提供することが明らかになった。
【0086】
配列番号2のクローニング及び発現−ベクターによりコードされたN−末端ヒスチジン残基及び終止コドンを有するpETBlue−1ベクター(ノヴァゲン社製(Novagen)、マジソン、ウィスコンシン州)から発現されるように、SACOL1902遺伝子によってコードしたタンパク質を設計した。更に、イニシエーターメチオニンの後ろにグリシン残基を付加した。SACOL1902を増幅するために、最初のメチオニンコドンで開始し終止コドンの前の末端グルタミン酸残基で終止するPCRプライマーを設計した。フォワード及びリバースプライマーは次の通りである。それぞれ5‘−ATGGGCCATCATCATCATCATCACGCAGACGAAAGTAAATTTGAA C−3’(配列番号4)及び5‘−TTACTCGCCTTTGTTACC−3’(配列番号5)である。ゲノムDNAは、ウィザード(Wizard;登録商標)ゲノムDNA精製キット(プロメガ社製(Promega)、マジソン、ウィスコンシン州)を使用し、製造者の指示に従ってS.アウレウス菌株COLから精製した。このゲノムDNAをPCR反応の鋳型として使用した。
【0087】
ゲノムDNA250ng、フォワード及びリバースプライマー各125ng、50mMのdNTP 1マイクロリットル、taqポリメラーゼ2.5単位及び1Xバッファー(クロンテック社製アドヴァンテージ(Clontech advantage)cDNAキット)を含有する50μL容の反応液中で、SACOL1902遺伝子をPCRにより増幅した。熱サイクル条件は次の通りであった。94℃1分間1サイクル、94℃1分間32サイクル、53℃30秒間、68℃2分間、68℃4分間1サイクル。増幅したDNA配列(216塩基対)を、アセプトル(AccepTor)ベクターキット(ノヴァゲン社製(Novagen))を使用してpETBlue−1直線状ベクターに連結した。連結反応物をコンピテントなノヴァブルーシングル(NovaBlue single;登録商標)細胞に形質転換した。形質転換混合体を、カルベニシリン50μg/mL、テトラサイクリン12.5μg/mL、X−Gal 40μg/mL及び100mM IPTG20μLを含有する、LB(ルリア−ベルタニ)寒天平板培地で37℃一晩増殖した。白色のコロニーを選択し、アンピシリン50μg/mLを含有するルリア液体培地(LB)で増殖した。DNAミニプレップ(キアゲン社(Qiagen)製)を行い、制限酵素消化により適切な挿入フラグメントを決定した。プラスミドDNAを配列決定し、目的配列からDNA変化を含んでいないクローンを選択し、COLSA1902#4と命名した。
【0088】
大腸菌(E.coli)Tuner(DE3)pLacIコンピテントセルをCOLSA1902#4で形質転換し、アンピシリン(100μg/mL)及びクロラムフェニコール(34μg/mL)を含有するLB平板培地で増殖した。SACOL1902の発現を試験するために、分離したコロニーを、グルコース1%、アンピシリン100μg/mLを含有するLB液体培地5mLに接種し、OD600が0.5ないし1.0となるまで37℃、250rpmで培養した。発現誘導は、IPTG添加(IPTG終濃度0.4mM)により実施し、37℃で3時間培養した。溶菌液調製のために、非誘導及び誘導培養液それぞれから培養菌体1mL容を遠心分離して集菌し、バグバスターHT(BugBuster HT(EMDサイエンス社(EMD Science)製、マジソン、ウィスコンシン州))300μLとプロテアーゼ阻害剤カクテル液(シグマ社(Sigma)製、セントルイス、ミズーリ州)3μLに再懸濁した。混合液を氷上に5分間保持し、次に10秒間3回、各処理の間は冷却しながら、超音波処理を行った。「可溶性」及び「不溶性」画分を得るために、混合液を4℃、13、000rpmで15分間遠心分離した。上清を「可溶性」と命名し、沈渣をバグバスターHT300μLとプロテアーゼ阻害剤カクテル液3μLに再懸濁し「不溶性」と命名した。
【0089】
ヒス−タグ付SACOL1902(配列番号2によりコードされている)の発現をSDS−PAGEゲルのクマシー染色により分析するために、試料を還元及び変性条件下で1X MES SDSバッファー(インヴィトロゲン社製)中、4−12%のグラジエント下、NuPage Bis−Trisゲル(同社製)で電気泳動した。タンパク質の大きさを測定するために、溶菌液と並行して、6ないし188kDaの標準品(同社製)を泳動した。ゲルを、製造者のプロトコルに従って、バイオ−セーフ・クマシー、クマシーG250染料(Bio−Safe Coomassie、a Coomassie G250 stain;バイオラド社(BIO−RAD)製 )で染色した。ウェスタンブロットを実施し、抗ヒスmAb(anti−His mAb)(EMDサイエンス社製(EMD Sciences))により信号を検出した。
【0090】
溶菌液のクマシー染色及びウェスタンブロットの双方により、7.9−kDaのタンパク質を特異的に検出した。可能性画分に局在するSACOL1902に良好な発現が得られた。
【0091】
配列番号2の精製−上記のスモールスケールの方法を20リットルの作業容量を有する撹拌タンクファーメンター(30リットル規模)に直接スケールアップした。接種菌液をルリア−ベルタニ(LB)(アンピシリン添加)培地50mLが入った250mLのフラスコで培養し、凍結した種培養の1mLを接種し、6時間培養した。この種菌の1mLを、LB培地500mL(アンピシリン添加)が入った2リットルのフラスコへの接種に使用し、16時間培養した。大規模なファーメンター(30リットル規模)では、20リットルのLB培地(アンピシリン添加)で培養した。ファーメンターの発酵パラメータは、圧力=5psig、撹拌速度=300rpm、通気量=7.5リットル/分及び温度=37℃であった。細胞は、波長600nmで1.3光学密度単位の光学密度(OD)まで培養し、1mM濃度のイソプロピル−β−K−チオガラクトシド(IPTG)で誘導した。IPTGによる誘導時間は2時間であった。温度を15℃に下げて細胞を採取し、500K・MWCOのホローファイバーカートリッジを通過させ濃縮し、4℃、8、000gで20分間遠心分離した。上清をデカントし、組換え大腸菌の湿細胞沈渣を−70℃で凍結した。
【0092】
凍結組換え大腸菌細胞ペースト(24グラム)を解凍し、2倍容の溶解バッファー(Lysis Buffer)(リン酸ナトリウム50mM、pH8.0、NaCl0.15M、塩化マグネシウム2mM、イミダゾール10mM、2−メルカプトエタノール20mM、ツイーン−80 0.1%、及びプロテアーゼ阻害剤カクテル液(コンプリート(Complete;登録商標)、EDTA不含、ロッシュ社(Roche)製#1873580−溶解バッファー50mL当たり1錠))に再懸濁した。ベンゾナーゼ(EM#1.01697.0002)を125単位/mLで細胞懸濁液に添加した。マイクロフルイダイザにより溶菌液を調製した。溶菌液を4℃で3時間撹拌し、4℃、10、000gで10分間遠心分離して清澄化した。上清をミリポア社(Millpore)製のガラス繊維プレフィルタでろ過し、終濃度0.5Mとなるよう5M原液からNaClを添加した。ろ過した上清を、Ni−NTAアガロース・クロマトグラフィー樹脂(キアゲン社(Qiagen)#30250)に添加し、スラリーを4℃で一晩混合した。クロマトグラフィー樹脂をクロマトグラフィーカラムに注ぎ込み、非結合画分を重力によりカラム出口から収集した。カラムを10倍カラム容の洗浄バッファー(リン酸ナトリウム50mM、pH8.0、NaCl0.5M、塩化マグネシウム2mM、イミダゾール10mM、2−メルカプトエタノール20mM、ツイーン−80 0.1%、及びプロテアーゼ阻害剤カクテル液(コンプリート(Complete;登録商標)、EDTA不含、ロッシュ社(Roche)製#1873580−洗浄バッファー50mL当たり1錠))で洗浄した。カラムを、溶出バッファー(リン酸ナトリウム50mM、pH7.4、イミダゾール0.3M、塩化マグネシウム2mM、ツイーン−80 0.1%、2−メルカプトエタノール20mM)で溶出した。タンパク質を含む画分を、ニトロセルロース膜上のドットプロットでポンソー染色により同定し、最も高濃度のタンパク質を含む画分をNi−IMAC産物を生成するためにプールした。Ni−IMAC産物をSECにより分画した。産物タンパク質を含むSEC画分をSDS/PAGEでクマシー染色により同定した。SEC画分を含む産物は、SEC産物を生成するためにプールした。SEC産物をろ過滅菌し、ヒドロキシリン酸アルミニウムアジュバントに終濃度0.2mg/mLで吸着した。
【0093】
S.アウレウス誘発の調製−S.アウレウス菌株Beckerを、TSA平板培地に37℃で一晩増殖した。平板上にPBS5mLを添加し、殺菌した塗抹棒で細菌をゆっくりと再懸濁して、細菌をTSA平板培地から洗浄した。細菌懸濁液をソルヴァル(Sorvall)RC−5B遠心分離機(デュポンインスツールメンツ社(DuPont Instruments)製)を使用して、6000rpmで20分間回転させた。沈渣を16%グリセリンに再懸濁し、一定分量を−70℃に凍結保存した。
【0094】
使用する前に、接種菌液を解凍し、適切に希釈し、感染に使用した。各保存液は、マウスでの致死量を決定するために容量設定した。モデルの再現性を保証するために、細菌の接種菌液の効力(致死率80ないし90%)を常に監視した。
【0095】
マウス致死誘発モデルにおける配列番号2のポリペプチドに関する防御研究−独立した二つの実験において、20匹の各BALB/cマウスを、ヒドロキシリン酸アルミニウムアジュバント(注射当たり450μg)上の配列番号2のポリペプチド(注射当たり20μg)の三の投与量により免疫感作した。ヒドロキシリン酸アルミニウムアジュバント(AHP)については、クラインら(Klein et al.)、「ジャーナル・オブ・ファーマシューティカル・サイエンシズ(J.Pharma.Sci.)」、2000年、第89巻:p.311−321、により開示されている。実験材料を、0、7及び21日目に50μLの筋肉内注射で2回投与した。マウスは、28日目に出血させ、その血清を配列番号2に対する反応性を目的としてELISAにより選別した。20匹のマウスに、対照群としてAHPを注射した。
【0096】
各実験の35日目に、マウスをS.アウレウスの静脈注射(投与量7X10CFU/mL)で誘発した。マウスの生存を10日間にわたり監視した。第一の実験の最後に、PBS対照群において6匹が生存したのに比較し、配列番号2のポリペプチド免疫群においては14匹のマウスが生存していた。結果を図4Aに示した。第二の実験では、PBS対照群において4匹が生存したのに比較し、配列番号2のポリペプチド免疫群においては6匹のマウスが生存していた。結果を図4Bに示した。
【0097】
ラット留置カテーテルモデルにおける配列番号2のポリペプチドに関する防御研究−配列番号2に対する能動免疫獲得が、埋め込みデバイスのS.アウレウス感染を防止できるか否かを評価するために、ラットの留置カテーテルモデルを使用した。3−4週令のスプラーグドーリーラットを、三の投与量の、ヒドロキシリン酸アルミニウムアジュバント(AHP)(注射当たり450μg)上の配列番号2のポリペプチド(注射当たり20μg)により腹腔内に、0、7及び21日目に免疫感作し、各群の10匹のラットにAHP(注射当たり450μg)を注射した。実験材料を単回の100μLの腹腔内注射として投与した。ラットは、28日目に出血させ、その血清を配列番号2に対する反応性を目的にELISAにより選別した。35日目に動物を手術し、頸静脈の中に留置カテーテルを配した。手術後約10日間動物を安静に保ち、その時点で尾静脈を経由して静脈内に亜致死誘発性のS.アウレウス菌株Becher(5−7X10CFU)を投与した。誘発後24時間後にラットを屠殺し、カテーテルを取り出した。マンニトール食塩寒天平板培地の上でカテーテル全体を培養し、カテーテル上のS.アウレウス細菌の定着を評価した。平板上でS.アウレウス増殖のどのような徴候が観察された場合にも、カテーテルを培養陽性と評価した。独立した二の実験(免疫ラット全20匹に関する)後、20のカテーテル中10が培養陽性であった(50%)。一方、対照ラットでは、20のカテーテル中20が培養陽性であった(100%)。結果を表2に収載する。
【表2】

他の実施態様は、以下の特許請求の範囲内にある。幾つかの実施態様を示し記載したが、本発明の精神及び範囲を外れることなく種々の修正を成すことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に示されたアミノ酸配列から8個までのアミノ酸変化を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、当該ポリペプチドが配列番号1又は配列番号6ではなく、かつ当該ポリペプチドがS.アウレウスに対する防御免疫を提供するポリペプチド。
【請求項2】
請求項1記載のポリペプチドであって、当該ポリペプチドが、アミノ酸5−60、アミノ酸9−64、アミノ酸1−56、アミノ酸4−59、アミノ酸8−63、アミノ酸2−57、アミノ酸3−58、アミノ酸7−62、及びアミノ酸6−61から成る群から選択される配列番号1の一部分を含むポリペプチド。
【請求項3】
当該ポリペプチドが実質的に精製されている請求項1又は請求項2記載のポリペプチド。
【請求項4】
当該ポリペプチドが配列番号1を発現するS.アウレウス菌株に対する防御免疫を提供する請求項1−3記載の任意の一のポリペプチド。
【請求項5】
配列番号1の8個までのアミノ酸変化を有するアミノ酸配列、及び当該アミノ酸配列に共有結合している1以上の付加領域又は部位から成るポリペプチドを含む免疫原であって、各領域又は部分が、免疫応答を亢進する特性、精製を促進する特性、又はポリペプチド安定化を促進する特性、の少なくとも1つを有する領域又は部分から独立して選択される免疫原。
【請求項6】
前記ポリペプチドが、配列番号1を発現するS.アウレウス菌株に対する防御免疫を提供する請求項5記載の免疫原。
【請求項7】
患者においてS.アウレウス感染に対する防御免疫応答を誘導することのできる、免疫学的に有効な量の(a)請求項1−4のいずれか1項に記載のポリペプチド;又は(b)請求項5又は請求項6記載の免疫原;及び薬学的に許容可能な担体を含む組成物。
【請求項8】
配列番号1に示されたアミノ酸配列から8個までのアミノ酸変化を有するアミン酸配列を含む免疫学的に有効な量のポリペプチド及び薬学的に許容可能な担体を含む、患者においてS.アウレウス感染に対する防御免疫応答を誘導することのできる組成物であって、但し当該ポリペプチドは配列番号1に示されたアミノ酸配列から成るものではないことを特徴とする前記組成物。
【請求項9】
当該組成物が配列番号1を発現するS.アウレウス菌株に対する防御免疫を提供する請求項8記載の組成物。
【請求項10】
当該組成物が更にアジュバントを含む請求項7−9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
請求項1−4のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードする塩基配列を含む組換え遺伝子を含む核酸分子。
【請求項12】
当該核酸分子が発現ベクターである請求項11記載の核酸分子。
【請求項13】
請求項1−4のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードする塩基配列を含む組換え遺伝子を含む組換え細胞。
【請求項14】
以下の段階を含むポリペプチド免疫原の作製方法:
(a)当該ポリペプチドが発現する条件下での請求項13記載の組換え細胞の培養;及び、
(b)当該ポリペプチドの精製。
【請求項15】
患者に、免疫学的に有効な量の下記群の中の1以上を投与する段階を含む、当該患者におけるS.アウレウス感染に対する防御免疫応答を誘導するための方法:
(a)請求項1−4のいずれか1項に記載のポリペプチド;
(b)請求項5又は請求項6記載の免疫原;
(c)配列番号1に示されたアミノ酸配列を有するポリペプチド;
(d)配列番号6に示されたアミノ酸配列を有するポリペプチド;又は、
(e)請求項7−10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
当該患者がヒトである請求項15記載の方法。
【請求項17】
S.アウレウス感染に対する患者における防御免疫応答を誘導する薬剤の製造における、免疫学的に有効な量の下記群の中の1以上の使用。
(a)請求項1−4のいずれか1項に記載のポリペプチド;
(b)請求項5又は請求項6記載の免疫原;
(c)配列番号1に示されたアミノ酸配列を有するポリペプチド;
(d)配列番号6に示されたアミノ酸配列を有するポリペプチド;又は、
(e)請求項7−10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項18】
薬剤が配列番号1を発現するS.アウレウス菌株に対する防御免疫応答を提供する請求項17記載の使用。
【請求項19】
患者がヒトである請求項17又は18記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【公表番号】特表2012−509665(P2012−509665A)
【公表日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−537574(P2011−537574)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【国際出願番号】PCT/US2009/064935
【国際公開番号】WO2010/062815
【国際公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(390023526)メルク・シャープ・エンド・ドーム・コーポレイション (924)
【Fターム(参考)】