説明

スチレン系樹脂発泡体の製造方法およびスチレン系樹脂発泡体

【課題】発泡剤の少なくとも1種としてシクロペンタンを用い、押出発泡成形して発泡体を得る際に、押出発泡成形性に優れ、低密度で断熱性に優れたスチレン系樹脂発泡体の製造方法およびスチレン系樹脂発泡体を提供すること。
【解決手段】加熱溶融させたスチレン系樹脂に、発泡剤を含有させた組成物を押出発泡させてスチレン系樹脂発泡体を製造する方法であって、発泡剤の少なくとも1種がシクロペンタンであって、前記発泡剤の使用量が前記スチレン系樹脂100重量部に対して4.5〜10重量部であり、さらに、前記スチレン系樹脂100重量部に対して水を0.1〜5重量部、および、吸水性物質を0.1〜10重量部添加することを特徴とするスチレン系樹脂発泡体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡剤の少なくとも1種がシクロペンタンであり、水および吸水性物質を用いることで押出発泡成形性に優れ、低密度で断熱性に優れると共に、環境適合性に優れたスチレン系樹脂発泡体の製造方法およびスチレン系樹脂発泡体に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂を押出機などにより加熱溶融し、ついで発泡剤を添加し、冷却させ、これを低圧域に押し出すことにより発泡体を連続的に製造する方法は既に知られている。
【0003】
発泡剤には、ハロゲン化炭化水素、炭化水素、二酸化炭素などを用いることも知られている。ハロゲン化炭化水素の中でも、クロロフルオロカーボン(CFC)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)は、オゾン層保護および地球温暖化などの観点から、可能ならば代替していくことが望まれており、ハイドロフルオロカーボン(HFC)への転換が検討されている。しかしながら、HFCは温室効果ガスであり、地球温暖化への影響が懸念されている。
【0004】
このようななか、ハロゲンを含有しない発泡剤を用いたスチレン系樹脂発泡体およびその製造方法が種々提案され、特に、炭化水素を用いる技術が注目されている。このような炭化水素としては、炭素数3〜5の飽和炭化水素が主に用いられている。
【0005】
例えば、スチレン系樹脂を加熱溶融させ、発泡剤を該スチレン系樹脂に注入し、流動ゲルとなし、ダイを通して低圧の領域に押出発泡することからなるスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法であって、発泡剤が主として、発泡剤全量に対して40重量%未満、5重量%以上の、ジメチルエーテル、ジエチルエーテルおよびメチルエチルエーテルよりなる群から選ばれた1種または2種以上のエーテルと、発泡剤全量に対して60重量%を超え、95重量%以下の炭素数3〜5の飽和炭化水素よりなる群から選ばれた1種または2種以上の飽和炭化水素を含むことを特徴とするスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法が提案されている(特許文献1)。
【0006】
断熱性の高い(すなわち熱伝導率のより低い)スチレン系樹脂発泡体を得るためには、発泡剤として、気体の熱伝導率および沸点が低く、かつ、スチレン系樹脂に対して透過性の低い(すなわちスチレン系樹脂発泡体中から散逸しにくい)発泡剤を選択することが重要であり、炭化水素の中では、特にイソブタンが注目されている(特許文献1)。また、押出発泡成形時に、より安定して低密度の発泡体を得るためには、発泡剤として、沸点が低く、スチレン系樹脂に対する溶解度が高く、かつ、透過性の高い(すなわちスチレン系樹脂発泡体中から散逸しやすい)発泡剤が併用して用いられる。ハロゲンを含有しないこのような発泡剤としてジメチルエーテルなどが挙げられる(特許文献1)。
【0007】
また、発泡剤としてシクロペンタンを用い、かつ、JIS A9511に規定された燃焼性基準を満足するために、使用される可燃性ガス発泡剤の合計量が樹脂100重量部に対して4.5重量部未満としたスチレン系樹脂押出発泡体が提案されている(特許文献2)。
【0008】
前記技術(特許文献2)で用いられるシクロペンタンは、スチレン系樹脂に対する溶解度が高いことから、上述のジメチルエーテル(特許文献1)の代替物質として用いられているが、シクロペンタンの熱伝導率は、イソブタンよりも低く、このため、より断熱性の高い(熱伝導率の低い)発泡体を得るのにも有利と考えられる。
【0009】
しかしながら、シクロペンタンの沸点は49.3℃と高く、さらにはスチレン系樹脂に対する溶解性が高いため、シクロペンタン単独あるいは発泡剤全量に対するシクロペンタンの量によっては、押出発泡成形直後の発泡体は、非常に柔らかく、また、場合によってはシクロペンタンが気泡内で液化し、このため発泡体が著しく収縮してしまい、低密度で、寸法が安定した良好な発泡体は得られない。
【0010】
前記技術(特許文献2)では、シクロペンタンとイソブタンを組合せ、これに二酸化炭素を併用する技術が提案されており、さらに水を併用する例示も挙げられている。しかしながら、二酸化炭素や水はスチレン系樹脂に対しては溶解性が低く、このため、押出発泡成形性が不安定になると共に、発泡体にボイドや気孔などが生じ、良好な発泡体が得難いという問題があり、これらの化合物を用い、良好な発泡体を得るのは容易ではない。
【0011】
水を用いる場合に、安定的に押出発泡成形できる技術として、例えば、表面に水酸基を有する鉱物質微粉末を用いる方法(特許文献3)、吸水性高分子化合物を用いる方法(特許文献4)、ベントナイトを用いる方法(特許文献5)、吸収性クレイを用いる方法(特許文献6)などが提案されている。
【0012】
さらに、水を用いた場合には、併用する添加剤の種類、押出発泡成形条件などにより、発泡体中に、気泡径が小さい気泡(小気泡)と、これよりも気泡径の大きな気泡(大気泡)が海島状に混在する特徴的な気泡構造を有する発泡体が得られ、この発泡体は、断熱性能が向上し、なおかつ、大気泡の生成により、より低密度で、厚み調整が容易であり、押出発泡成形性も良好であることが知られている(特許文献3〜6)。
【特許文献1】WO1999/33625号公報
【特許文献2】特開2005−8668号公報
【特許文献3】特開平3−109445号公報
【特許文献4】特開平3−273034号公報
【特許文献5】特開2001−200087号公報
【特許文献6】特表2005−514506号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、発泡剤にシクロペンタンを用いた場合には、シクロペンタン単独あるいは発泡剤全量に対するシクロペンタンの量によっては、前記のような特異な気泡構造が形成され、低密度でかつ断熱性の高い発泡体が得られず、気泡径がほぼ一様にそろった、密度の高い発泡体が得られるという問題があることが判った。これは、シクロペンタンはスチレン系樹脂に対する溶解性が高く、可塑化効果が高いためであると推察しているが明らかではない。
【0014】
このような状況の下、本発明が解決しようとする課題は、オゾン破壊、地球温暖化といった問題のない炭化水素類の中で、シクロペンタンをもちいて、押出発泡成形性に優れ、安定して低密度で断熱性の高いスチレン系樹脂発泡体を得るための製造方法およびこれによって得られたスチレン系樹脂発泡体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、シクロペンタンを用いる技術について、前記課題の解決のために鋭意研究を重ねた結果、発泡剤の少なくとも1種としてシクロペンタンを用い、さらに好ましくは、シクロペンタンとプロパン、ノルマルブタンあるいはイソブタン、さらには必要に応じてジメチルエーテルなどのエーテルとを特定範囲の比率で特定量用い、これと共に水及び吸水性物質を併用することで、押出発泡成形直後の収縮が抑制され、より低密度の発泡体が得られることが見出された。さらに、シクロペンタン量の調整、吸水性物質の種類および添加量によっては、発泡体中に、気泡径が小さい気泡(小気泡)と、これよりも気泡径の大きな気泡(大気泡)が海島状に混在する特徴的な気泡構造を有し、より断熱性の高いスチレン系樹脂発泡体が得られることが判った。
【0016】
これらによって、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(12)に関する。
(1)加熱溶融させたスチレン系樹脂に、発泡剤を含有させた組成物を押出発泡させてスチレン系樹脂発泡体を製造する方法であって、発泡剤の少なくとも1種がシクロペンタンであって、前記発泡剤の使用量が前記スチレン系樹脂100重量部に対して4.5〜10重量部であり、さらに、前記スチレン系樹脂100重量部に対して水を0.1〜5重量部、および、吸水性物質を0.1〜10重量部添加することを特徴とするスチレン系樹脂発泡体の製造方法。
(2)発泡剤の全量を100モル%としたときに、(A)シクロペンタン5〜70モル%、(B)プロパン、ノルマルブタンおよびイソブタンから選ばれる化合物95〜30モル%、および、(C)ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテルから選ばれるエーテル0〜80モル%であることを特徴とする(1)のスチレン系樹脂発泡体の製造方法。
(3)発泡剤(B)がプロパンおよび/またはイソブタンからなることを特徴とする(2)記載のスチレン系樹脂発泡体の製造方法。
(4)発泡剤(C)がジメチルエーテルであることを特徴とする(2)または(3)のいずれか1項記載のスチレン系樹脂発泡体の製造方法。
(5)吸水性物質が層状珪酸塩、酸化ケイ素、硫酸金属塩、炭酸金属塩、リン酸金属塩、ゼオライトから選ばれる化合物であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項記載のスチレン系樹脂発泡体の製造方法。
(6)スチレン系樹脂および発泡剤を含有する組成物を押出発泡してなるスチレン系樹脂発泡体であって、発泡体100重量部対し、シクロペンタンを0.3〜4重量部、吸水性物質を0.1〜10重量部含有した、厚みが10〜150mm、密度が20〜60kg/m3であり、かつ、発泡体を形成する気泡の厚み方向における平均気泡径が0.03〜0.40mmであることを特徴とするスチレン系樹脂発泡体。
(7)スチレン系樹脂および発泡剤を含有する組成物を押出発泡してなるスチレン系樹脂発泡体であって、発泡体中における、シクロペンタンの分圧が42kPa以下であり、吸水性物質を0.1〜10重量部含有した、厚みが10〜150mm、密度が20〜60kg/m3であり、かつ、発泡体を形成する気泡の厚み方向における平均気泡径が0.03〜0.40mmであることを特徴とするスチレン系樹脂発泡体。
(8)スチレン系樹脂および発泡剤を含有する組成物を押出発泡してなるスチレン系樹脂発泡体であって、シクロペンタンおよびイソブタンの全量を100モル%としたときに、シクロペンタン5〜70モル%、イソブタン95〜30モル%の比率で発泡体100重量部対し、0.5〜8重量部、吸水性物質を0.1〜10重量部含有した、厚みが10〜150mm、密度が20〜60kg/m3であり、かつ、発泡体を形成する気泡の厚み方向における平均気泡径が0.03〜0.40mmであることを特徴とするスチレン系樹脂発泡体。
(9)発泡剤の少なくとも1種がシクロペンタンであって、発泡剤の含有量が発泡体100重量部に対して4.5〜10重量部であることを特徴とする(6)〜(8)のいずれか1項記載のスチレン系樹脂発泡体。
(10)発泡体を形成する気泡の厚み方向における平均気泡径が0.05〜0.20mmであることを特徴とする(6)〜(9)のいずれか1項記載のスチレン系樹脂発泡体。
(11)発泡体を形成する気泡が、気泡径0.25mm以下の気泡と、その1.2倍以上の気泡径の気泡より構成されることを特徴とする(6)〜(10)のいずれか1項記載のスチレン系樹脂発泡体。
(12)発泡体を形成する気泡のうち、気泡径0.25mm以下の気泡が発泡体断面積あたり5〜95%の占有面積率を有することを特徴とする(11)記載のスチレン系樹脂発泡体。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、発泡剤の少なくとも1種としてシクロペンタンを用い、さらに好ましくはシクロペンタンと、プロパン、ノルマルブタンおよびイソブタンから選ばれる1種以上の化合物、必要によりジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテルから選ばれる1種以上のエーテルからなる、環境適合性に優れた発泡剤および水と吸水性物質を用い、押出発泡成形性が良好で、より低密度で断熱性に優れたスチレン系樹脂発泡体の製造方法、および、これによって得られるスチレン系樹脂発泡体が提供される。本発明のスチレン系樹脂発泡体は、その優れた断熱性の点から、種々の用途、とくに建築用断熱材、保冷庫・保冷車用断熱材の用途に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明で用いられるスチレン系樹脂としては、とくに限定はなく、たとえばスチレン単量体のみから得られるスチレンホモポリマー、スチレン単量体とスチレンと共重合可能な単量体またはその誘導体から得られるランダム、ブロックあるいはグラフト共重合体、後臭素化ポリスチレン、ゴム強化ポリスチレンなどの変性ポリスチレンなどが具体例としてあげられる。これらは単独で使用してもよく2種以上を混合して使用してもよい。
【0020】
スチレンと共重合可能な単量体としては、たとえばメチルスチレン、ジメチルスチレン、エチルスチレン、ジエチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、トリブロモスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、トリクロロスチレンなどのスチレン誘導体、ジビニルベンゼンなどの多官能性ビニル化合物、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリロニトリルなどの(メタ)アクリル系化合物、ブダジエンなどのジエン系化合物またはその誘導体、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの不飽和カルボン酸無水物などがあげられる。これらは単独で使用してもよく2種以上を混合して使用してもよい。
【0021】
本発明で用いられるスチレン系樹脂は、メルトフローレイト(以下、MFRという)が0.1〜50g/10分の範囲のものを用いることが、以下の点から好ましい。すなわち、押出発泡成形加工時の吐出量、得られたスチレン系樹脂発泡体の厚みや幅、密度または独立気泡率、表面性を所望の値に調整しやすく(すなわち押出発泡成形性に優れる)、外観などに優れたスチレン系樹脂発泡体が得られると共に、圧縮強度、曲げ強度または曲げたわみ量といった機械的強度や、靱性などの特性のバランスがとれた、スチレン系樹脂発泡体が得られる点から、好ましい。さらに、スチレン系樹脂のMFRは、押出発泡成形性と得られた発泡体の機械的強度、靱性などのバランスの点から、0.3〜30g/10分がさらに好ましく、0.5〜20g/10分が特に好ましい。なお、MFRは、JIS K7210(1999年)のA法、試験条件Hにより測定される。
【0022】
さらに、本発明で用いられるスチレン系樹脂は、MFR、成形加工時の溶融粘度、溶融張力などを調整する目的で、分岐構造を有するスチレン系樹脂であってもよい。
【0023】
スチレン系樹脂のうちでは、経済性、押出発泡成形性の面からスチレンホモポリマーが好ましく、より耐熱性が高められるなどの面からスチレン−アクリロニトリル共重合体、(メタ)アクリル酸共重合ポリスチレン、無水マレイン酸変性ポリスチレンが好ましく、耐衝撃性の面からゴム強化ポリスチレンなどが好ましい。
【0024】
本発明では、発泡剤の少なくとも1種としてシクロペンタンを用い、さらに水を用いる。好ましくは発泡剤として、(A)シクロペンタン、(B)プロパン、ノルマルブタンおよびイソブタンから選ばれる1種以上の化合物、必要により(C)ジメチルエーテル、ジエチルエーテルおよびメチルエチルエーテルから選ばれる1種以上のエーテルを用い、さらに水を用いる。
【0025】
さらに、(A)シクロペンタン、(B)プロパン、ノルマルブタンおよびイソブタンから選ばれる1種以上の化合物、および、(C)ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテルから選ばれる1種以上のエーテルの全量を100モル%としたときに、(A)5〜70モル%、(B)95〜モル%および(C)0〜80モル%であり、かつ、前記発泡剤の使用量が前記スチレン系樹脂100重量部に対して4.5〜10重量部とすることがより好ましい。
【0026】
より断熱性の高い(より熱伝導率が低い)スチレン系樹脂発泡体を得るためには、発泡剤(A)のシクロペンタンは、押出発泡成形直後の収縮、気泡内での液化などが起こらない範囲で、より比率が高く、かつ、多く用いる方が好ましい。従って、その使用量は、発泡剤(B)および水、さらには必要により発泡剤(C)の使用量にもよるが、好ましくは10〜70モル%、さらに好ましくは20〜70モル%である。発泡剤(B)のプロパン、ノルマルブタンおよびイソブタンの使用量は、90〜30モル%であり、さらに好ましくは80〜30モル%である。
【0027】
発泡剤(B)としてプロパンを用いた場合、発泡体製造時においては、シクロペンタンおよびプロパンの合計使用量が例えば4.5重量部以上とすることで、押出発泡成形性に優れ、安定して低密度で良好な発泡体が得られると共に、その後、比較的短期間の養生期間を経ることで、発泡体中の炭化水素系発泡剤含有量を低減させることが可能であり、これによって、結果的に難燃性の低下が抑制される。ただし、シクロペンタンの沸点が高いために、プロパンが散逸し、気泡内でのシクロペンタンのモル分率が増大すれば、温度によっては、気泡内中で液化し、断熱性が低下する可能性がある。
【0028】
発泡剤(B)としてイソブタンを用いた場合、シクロペンタンの使用量を低減し、低密度で断熱性の高い発泡体を得ることができる。ただし、イソブタンはスチレン系樹脂に対して透過性が低いため、シクロペンタンおよびイソブタンの使用量によっては難燃性が低下する場合がある。
【0029】
発泡剤(B)としてはプロパンおよびイソブタンを用いた場合、シクロペンタン、プロパンおよびイソブタンの合計使用量が例えば4.5重量部以上とし、シクロペンタン、プロパンおよびイソブタンの使用量を調整することにより、押出発泡成形性が良好で、低密度で断熱性の高い発泡体が得られ、その後、比較的短期間の養生期間を経ることで、発泡体中の炭化水素系発泡剤含有量を低減させることが可能であり、これによって難燃性の低下が抑制される。
【0030】
本発明では、必要により発泡剤(C)として、ジメチルエーテル、ジエチルエーテルおよびメチルエチルエーテルから選ばれる1種以上のエーテルを用い、発泡剤(A)、(B)と合わせ、合計使用量が例えば4.5重量部以上とすることで、より押出発泡成形性に優れ、より安定して低密度で、独立気泡率のより高い良好な発泡体が得られると共に、その後、比較的短期間の養生期間を経ることで、発泡体中から散逸するため、難燃性などの特性への影響もみられない。このエーテルの中では、ジメチルエーテルが好ましい。
【0031】
本発明のスチレン系樹脂発泡体の製造時に、スチレン系樹脂中に添加または注入される(A)シクロペンタン、(B)プロパン、ノルマルブタンおよびイソブタンから選ばれる1種以上の化合物、さらには、必要に応じて用いられる、(C)ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテルから選ばれる1種以上のエーテルの合計使用量は、スチレン系樹脂100重量部に対して4.5〜10重量部の範囲で、発泡体の密度の設定値などに応じて適宜設定される。合計使用量で好ましくは4.5〜8重量部、さらに好ましくは4.5〜7重量部である。4.5重量部未満では、押出発泡成形性は低下し、低密度の発泡体が安定して得られにくくなる。10重量部を超えると難燃性の低下が見られる場合がある。
【0032】
発泡剤(A)のシクロペンタンの使用量は、シクロペンタンのスチレン系樹脂への溶解性、気体の熱伝導率が低いといった特性を活かし、押出発泡成形性が良好で、断熱性の高い発泡体が得られ易いことから、0.3〜4重量であることが好ましい。さらに好ましくは0.5〜3.6重量部である。
【0033】
発泡剤(B)のプロパン、ノルマルブタンおよびイソブタンから選ばれる1種以上の化合物の使用量はスチレン系樹脂100重量部に対して0.5〜9.7重量部である。好ましくは1〜9.5重量部である。0.5重量部未満ではシクロペンタンの使用量によっては発泡体製造時に発泡体の収縮が起こり、良好な発泡体が得られない場合がある。9.7重量部を超えると、シクロペンタンの特性を活かし断熱性の高い発泡体が得られ難く、また、シクロペンタンとの合計使用量が10重量部を超えると難燃性の低下が見られる場合がある。
【0034】
発泡剤(B)としてプロパンを単独で使用する場合は、さらに好ましくは1.5〜9重量部である。
【0035】
発泡剤(B)としてイソブタンを単独で使用する場合は、さらに好ましくは1〜6重量部、特に好ましくは1.5〜5重量部である。
【0036】
発泡剤(B)としてプロパンおよびイソブタンを使用する場合は、プロパン0.5〜8重量部、イソブタン0.5〜5重量部であってその合計量が1〜9.5重量部とすることが好ましい。
【0037】
必要により用いられる発泡剤(C)のジメチルエーテル、ジエチルエーテルおよびメチルエチルエーテルから選ばれる1種以上のエーテルの使用量は、好ましくは7重量部以下、さらに好ましくは5重量部以下である。
【0038】
本発明では、水を用いることにより、シクロペンタンを用いた場合に起こる収縮などを抑制し、より低密度で、断熱性の高い発泡体を得ることができる。ただし、安定して押出発泡成形するために吸水性物質を併用することが重要である。さらに、発泡剤組成および使用量、吸水性物質の種類および添加量、押出発泡成形条件などにより、発泡体中に、主として気泡径が0.25mm以下の比較的気泡径の小さい気泡(小気泡)と、小気泡径の1.2倍以上の気泡径を有する比較的大きな気泡(大気泡)が海島状に混在する特徴的な気泡構造を有する発泡体が得られる。このような場合、得られる発泡体の断熱性能を向上させつつ、なおかつ、大気泡の生成により得られる発泡体が低密度で容易に厚さを出すことが可能となる。
【0039】
水の使用量はスチレン系樹脂100重量部に対して、0.1〜5重量部の範囲で、発泡体中に気孔、ボイドといった欠陥が生じず、発泡体の密度、厚みなど設定値、および、吸水性物質の種類および添加量に応じて適宜設定される。好ましくは0.1〜4重量部、さらに好ましくは0.1〜3重量部である。
【0040】
本発明では、水を用いた場合、安定して押出発泡成形できるようにするために、吸水性物質を用いる。吸水性物質とは、それ自体が水を吸水、吸収、吸着する、水によって膨潤する、あるいは水と反応し水和物を形成する化合物をいう。吸水性物質は、スチレン系樹脂に対して相溶性のない水を吸収、吸着、あるいは反応してゲルを形成し、ゲルの状態でスチレン系樹脂中に均一に分散させることができると考えられる。吸水性物質の具体例としては、表面にシラノール基を有する無水シリカ(酸化ケイ素)(例えば日本アエロジル(株)製AEROSILなどが市販されている)などのように表面に水酸基を有する粒子径1000nm以下の微粉末、スメクタイト、膨潤性フッ素雲母などの吸水性あるいは水膨潤性の層状珪酸塩あるいはこれらの有機化処理品、ゼオライト、活性炭、アルミナ、シリカゲル、多孔質ガラス、活性白土、けい藻土などの多孔性物質、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸アルミニウム、硫酸亜鉛、硫酸アンモニウム、などの硫酸塩、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸アンモニウムなどの炭酸塩、リン酸ナトリウム、リン酸マグネシウム、リン酸アルミニウム、リン酸アンモニウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三アンモニウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸水素カルシウム、などのリン酸塩、クエン酸カルシウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、乳酸カルシウム、シュウ酸アンモニウム、シュウ酸カリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化バリウムなどの金属塩、酸化ホウ素、ホウ酸ナトリウムなどのホウ素化合物、ポリアクリル酸塩系重合体、澱粉−アクリル酸グラフト共重合体、ポリビニルアルコール系重合体、ビニルアルコール−アクリル酸塩系共重合体、エチレン−ビニルアルコール系共重合体、ポリアクリロニトリル−メタクリル酸メチル−ブタジエン系共重合体、ポリエチレンオキサイド系共重合体およびこれらの誘導体などの吸水性高分子などが挙げられる。吸水性物質は単独で使用してもよく、あるいは、2種以上併用して用いることができる。
【0041】
吸水性物質の中でも、無水シリカ、ポリアクリル酸塩系重合体、スメクタイト、膨潤性フッ素雲母などの吸水性あるいは水膨潤性の層状珪酸塩、硫酸金属塩、炭酸金属塩、リン酸金属塩、などの金属塩、ゼオライトなどの多孔性物質が、押出発泡成形時の安定性、気孔やボイドなどの発生を抑制する、小気泡と大気泡が混在した海島構造を有する特徴的な気泡構造を形成させ断熱性能を発現させるうえでより好ましい。
【0042】
本発明で用いられる吸水性物質の量は、水の添加量などによって、適宜調整されるものであるが、スチレン系樹脂100重量部に対して、0.1〜10重量部である。好ましくは0.1〜8重量部、さらに好ましくは0.2〜7重量部である。吸水性物質の含有量が0.1重量部未満の場合、吸水性物質による水の分散安定化効果が不足し、押出機内で水の分散不良による気孔、ボイドが発生し発泡体の不良につながる場合がある。一方、10重量部をこえる場合、押出機内で吸水性物質の分散不良が発生し、気泡むらができ、発泡体の不良につながる場合があり、発泡体の断熱性能の悪化、品質のばらつきなどが大きくなるなどの問題が生じる場合がある。
【0043】
前記層状珪酸塩について更に詳細に述べる。層状珪酸塩とは、主として酸化ケイ素の四面体シートと、主として金属水酸化物の八面体シートからなり、該四面体シートと八面体シートが単位層を形成し、単位層単独、層間に陽イオンなどを介して複数個層状に積層して一次粒子を形成、あるいは、一次粒子の凝集体の粒子を形成(二次粒子)し、存在し得るものである。層状珪酸塩の例としては、たとえばスメクタイト族粘土および膨潤性雲母などがあげられる。
【0044】
前記スメクタイト族粘土は、一般式(1):
0.20.623410(OH)2・nH2O (1)
(式中、Xは、K、Na、1/2Caおよび1/2Mgよりなる群から選ばれる1種以上であり、Yは、Mg、Fe、Mn、Ni、Zn、Li、AlおよびCrよりなる群から選ばれる1種以上であり、Zは、SiおよびAlよりなる群から選ばれる1種以上である。なお、H2Oは層間イオンと結合している水分子を表わし、n=0.5〜10程度であるが、nは層間イオンおよび相対湿度に応じて著しく変動するためこれらに限定されるわけではない)で表わされる、天然または合成されたものである。
【0045】
該スメクタイト族粘土の具体例としては、たとえばモンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、鉄サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチブンサイトおよびベントナイトなど、これらの置換体、誘導体、またはこれらの混合物があげられる。
【0046】
また、前記の膨潤性雲母は、一般式(2):
0.51.023(Z410)(F、OH)2 (2)
(式中、Xは、Li、Na、K、Rb、Ca、BaおよびSrよりなる群から選ばれる1種以上であり、Yは、Mg、Fe、Ni、Mn、AlおよびLiよりなる群から選ばれる1種以上であり、Zは、Si、Ge、Al、FeおよびBよりなる群から選ばれる1種以上である)で表わされる、天然または合成されたものである。
【0047】
これらは、水、水と任意の割合で相溶する極性のある有機化合物、および水と該極性のある有機化合物の混合溶媒中で膨潤する性質を有する物であり、たとえばリチウム型テニオライト、ナトリウム型テニオライト、リチウム型四ケイ素雲母、およびナトリウム型四ケイ素雲母など、またはこれらの置換体、誘導体、あるいはこれらの混合物があげられる。
【0048】
前記膨潤性雲母の中にはバーミキュライト類と似通った構造を有するものもあり、このようなバーミキュライト類相当品なども使用し得る。該バーミキュライト類相当品には3八面体型と2八面体型があり、一般式(3):
(Mg,Fe,Al)23(Si4-xAlx)O10(OH)2・(M+,M2+1/2)x・nH2O (3)
(式中、MはNaおよびMgなどのアルカリまたはアルカリ土類金属の交換性陽イオン、x=0.6〜0.9、n=3.5〜5である)で表わされるものがあげられる。
【0049】
層状珪酸塩は単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらのうちでは、得られる発泡体中の分散性、水を用いた場合における押出発泡成形安定性の点などから、スメクタイト族粘土、膨潤性雲母が好ましく、さらに好ましくは、モンモリロナイト、ベントナイト、ヘクトライト、合成スメクタイトなどのスメクタイト族粘土、膨潤性フッ素雲母などの層間にナトリウムイオンを有する膨潤性雲母である。
【0050】
ベントナイトの代表例としては、天然ベントナイト、精製ベントナイトなどがあげられる。また、有機化ベントナイトなども使用できる。ヘクトライトの代表例としては、合成ヘクトライトが挙げられる。
【0051】
本発明におけるスメクタイトには、アニオン系ポリマー変性モンモリロナイト、シラン処理モンモリロナイト、高極性有機溶剤複合モンモリロナイトなどのモンモリロナイト変性処理生成物もその範疇に含まれる。
【0052】
層状珪酸塩の含有量は、水の添加量などによって、適宜調整されるものであるが、スチレン系樹脂100重量部に対して、0.1〜10重量部、さらに好ましくは0.2〜7重量部である。層状珪酸塩の含有量が0.1重量部未満では、水の圧入量に対して層状珪酸塩による水の吸収あるいは吸着量が不足し、水の分散不良による気孔が発生し、良好な発泡体が得られにくくなる傾向がある。一方、10重量部をこえる場合、スチレン系樹脂中に存在する無機物粉体の量が過剰になるため、スチレン系樹脂中への均一分散が困難になり、気泡むらが発生する傾向にある。さらには、独立気泡を保持することが困難となる傾向にあり、これによって、発泡体の断熱性能の悪化とバラツキを生じ易くなる。水/層状珪酸塩の混合比率は重量比で、好ましくは0.02〜20、さらに好ましくは0.1〜10、とくに好ましくは0.15〜5、最も好ましくは0.25〜2の範囲である。
【0053】
本発明では、さらにフッ素化炭化水素系発泡剤以外の他の発泡剤が使用されてもよい。例えば、ノルマルペンタン、イソペンタンなどのシクロペンタン、プロパン、ノルマルブタンおよびイソブタン以外の炭化水素、メタノール、エタノールなどのアルコール、ケトン類、カルボン酸エステル、塩化メチル、塩化エチルなどのハロゲン化アルキルなどの有機発泡剤、二酸化炭素などの無機発泡剤、アゾ化合物、テトラゾールなどの化学発泡剤などが挙げられる。
【0054】
他の発泡剤も含め、発泡剤全体の使用量としては、通常、発泡剤の合計量をスチレン系樹脂100重量部に対して4.5〜20重量部とするのが好ましい。20重量部をこえると、過剰な発泡剤のために発泡体中にボイドなどの不良が生じる場合がある。
【0055】
発泡剤を添加または注入する際の圧力には、とくに制限はなく、押出機などの内圧力よりも高い圧力であればよい。
【0056】
本発明において、得られたスチレン系樹脂発泡体中における、(A)シクロペンタン、、(B)プロパン、ノルマルブタンおよびイソブタンから選ばれる1種以上の化合物、および、(C)ジメチルエーテル、ジエチルエーテルおよびメチルエチルエーテルから選ばれる1種以上のエーテルの残存含有量は、化合物の種類および使用量、発泡剤の発泡体中における透過性、発泡体の倍率あるいは密度、要求される断熱性能などによっても異なる。発泡剤の発泡体中における透過性によっては、経時的に残存量が減量し、発泡体気泡中の気体は空気などに置換されていく。このような発泡剤としては、プロパン、ジメチルエーテルなどのエーテルが挙げられる。したがって、透過性が高い化合物を用いて製造され、結果的に発泡体中に残存含有量が非常に少ない発泡体も本発明の範疇に含まれる。
【0057】
JISA 9511(1995)で規定される押出法ポリスチレンフォーム保温板3種、さらにはこれ以上の断熱性といった高度の断熱性能が要求される場合には、発泡剤(A)のシクロペンタンは、発泡体100重量部に対して、0.3〜4重量部含有することが好ましい。0.3重量部未満では、断熱性の高い発泡体が得られにくくなり、4重量部を超えると周囲の温度によっては、気泡内で液化して断熱性が低下する傾向にあるため好ましくない。さらに、発泡体中におけるシクロペンタンの分圧は42kPa以下とすることが好ましい。
【0058】
発泡剤(B)の一部または全部にイソブタンを用いた場合には、シクロペンタンおよびイソブタンの全量を100モル%としたときに、シクロペンタン5〜70モル%、イソブタン95〜30モル%の比率で含有することが好ましく、発泡体100重量部に対し、1.3〜10重量部含有することが好ましい。
【0059】
本発明で得られるスチレン系樹脂発泡体の厚み方向における平均気泡径は、通常、0.01〜1mmである。好ましくは、0.02〜0.6mm、さらに好ましくは0.03〜0.4mm、特に好ましくは、0.05〜0.2mmである。厚み方向における平均気泡径を特に好ましい範囲とすることで、より低い熱伝導率のスチレン系樹脂発泡体を得ることができる。厚み方向における平均気泡径を調整する方法としては、シリカ、タルク、ケイ酸カルシウム、ワラストナイト、カオリン、クレイ、マイカ、酸化亜鉛、酸化チタン、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウムなどの無機化合物などの造核剤を添加し、その添加量を適宜調整することで可能である。また、押出発泡成形時の押出機、スクリュー形状、押出発泡成形時の発泡剤組成及び添加量、温度、圧力、ダイス形状などでも調整できる。
【0060】
本発明では、併用する添加剤の種類、押出発泡成形条件などにより、発泡体中に、主として気泡径が0.25mm以下の比較的気泡径の小さい気泡(小気泡)と、小気泡径の1.2倍以上の気泡径を有する大きな気泡(大気泡)が海島状に混在する特徴的な気泡構造を有する発泡体が得られる。このような場合、得られる発泡体の断熱性能を向上させつつ、なおかつ、大気泡の生成により得られる発泡体が低密度で容易に厚さを出すことが可能となり、成形性も良好となることから好ましい。
【0061】
通常の均一な径の気泡のみからなる発泡体では、気泡径を小さくすることで断熱性能をある程度向上させることは可能であるが、気泡径が小さくなると所定の厚さを出すためにはより多くの樹脂が必要となり、結果的に密度が高くなり、押出時の圧力が高くなる、吐出量が少なくなるなど、成形性が低下してしまうという欠点を有する。これに対して、小気泡と大気泡が海島状に混在する特徴的な気泡構造では、断熱性能を向上させると共に、大気泡により得られる発泡体が低密度で容易に厚さを出すことが可能となる。
【0062】
断熱性能および成形性の観点からは、より好ましくは主として小気泡が0.01〜0.20mm、大気泡が0.20〜0.8mmの範囲で小気泡の1.2倍以上の気泡径であり、最も好ましくは、主として小気泡が0.02〜0.15mm、大気泡が0.15〜0.6mmの範囲で小気泡の1.2倍以上の気泡径である。
【0063】
なお、本発明の発泡体において小気泡と大気泡の気泡径の中間に位置する気泡が全く存在しないわけではないが、該気泡が目立って増加すると小気泡と大気泡との区別がつきにくくなり、すなわち、異なる気泡径が連続的に存在することになり、海島状に存在する特徴的な気泡構造ではなくなることから、断熱性能と成形性のバランスが崩れる傾向となる。
【0064】
さらに、小気泡および大気泡が混在してなる特定の気泡構造の発泡体においては、発泡体断面積あたりに占める小気泡の面積の割合(単位断面積あたりの占有面積率)(以下、小気泡面積率という)は、5〜95%が好ましく、さらに好ましくは10〜90%、とくに好ましくは20〜80%、最も好ましくは25〜70%である。小気泡面積率が5%未満であると、断熱性が向上しにくい傾向となり、95%をこえると、発泡体の厚さが出にくいなど成形性が低下する場合がある。
【0065】
このような気泡構造が得られる場合として、水と共に吸水性物質として、無水シリカ、ポリアクリル酸塩系重合体、スメクタイト、膨潤性フッ素雲母などの吸水性あるいは水膨潤性の層状珪酸塩などを用いた場合などが挙げられる。
【0066】
さらに、このような気泡構造が得られる場合として、発泡剤(A)のシクロペンタンの使用量が4重量以下、さらに好ましくは3.6重量部以下、特に好ましくは、3.2重量部以下である。シクロペンタンが4重量部を超えると、小気泡の生成量が低減したり、小気泡、大気泡共に気泡径が大きくなる傾向にあり、断熱性が向上するという効果が得られにくくなるため好ましくない。
【0067】
また、JISA 9511(1995)で規定される押出法ポリスチレンフォーム保温板3種、さらにはこれ以上の断熱性といった高度の断熱性能が要求される場合、(A)シクロペンタンと(B)イソブタンを用いることが好ましいが、前記のような特異な気泡構造を形成し、高い断熱性を得るためには、(A)シクロペンタンと(B)イソブタンの使用料は、重量比(A)/(B)で1.2以下が好ましい。1.2を超えると小気泡の生成量が低減したり、小気泡、大気泡共に気泡径が大きくなる、あるいは得られた発泡体が収縮するなど特異な気泡構造形成により断熱性が向上するという効果が得られにくくなるため好ましくない。
【0068】
本発明の発泡体の厚さにはとくに制限はなく、用途に応じて適宜選択される。たとえば、建材などの用途に使用される断熱材の場合、好ましい断熱性、曲げ強度および圧縮強度を付与せしめるためには、シートのような薄いものよりも、通常の板状物のように厚さのあるものが好ましく、通常10〜150mm、好ましくは20〜100mmである。
【0069】
また、本発明の発泡体の密度は、軽量でかつ優れた断熱性および曲げ強度、圧縮強度を付与するためには、20〜60kg/m3、さらには20〜50kg/m3であることが好ましく、25〜45kg/m3であることがより好ましい。密度が20kg/m3未満であると、圧縮強度など機械的特性が低下する傾向があり、60kg/m3をこえると、断熱性が低下する傾向がある。
【0070】
本発明においては、必要に応じて本発明の効果を阻害しない範囲で種々の化合物を添加することができる。例えば、テトラブロモシクロオクタン、ヘキサブロモシクロドデカン、ジブロモエチルジブロモシクロヘキサン、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールAビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールSビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールAジアリルエーテル、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2−メチルアリルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(3−メチルアリルエーテル)、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェートなどのハロゲン系難燃剤、含燐化合物、含窒素化合物、含ホウ素化合物、含硫黄化合物、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタンなどの難燃助剤、シリカ、タルク、ケイ酸カルシウム、ワラストナイト、カオリン、クレイ、マイカ、酸化亜鉛、酸化チタン、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウムなどの無機化合物、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム、流動パラフィン、オレフィン系ワックス、ステアリルアミド系化合物などの加工助剤、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスフェート−ジエチルエステル、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレイトなどのヒンダードフェノール系抗酸化剤、トリフェニルフォスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、ビスステアリルペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスホナイトなどのリン系安定剤、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合体、アルキル化ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミンなどのアミン系安定剤、3,3−チオビスプロピオン酸ジオデシルエステル、3,3’−チオビスプロピオン酸ジオクタデシルエステルなどのイオウ系安定剤、ベンゾトリアゾール類、ヒンダードアミン類などの耐光性安定剤、帯電防止剤、顔料などの着色剤などの添加剤を含有させることができる。
【0071】
本発明のスチレン系樹脂発泡体は、
(い)スチレン系樹脂に各種添加剤を混合したのち加熱溶融する、
(ろ)スチレン系樹脂に1種以上の添加剤を混合したのち、加熱溶融し、これに残りの添加剤をそのままあるいは必要により液体化あるいは溶融させて添加し加熱混合する、
(は)あらかじめスチレン系樹脂に1種以上の添加剤を混合したのち、加熱溶融した組成物を準備し、ついで、該組成物と残りの添加剤、必要に応じてスチレン系樹脂をあらためて混合し、押出機に供給して加熱溶融する、
など、スチレン系樹脂、各種添加剤を押出機などの加熱溶融手段に供給し、任意の段階で高圧条件下で、発泡剤、水をスチレン系樹脂に添加し、流動ゲルとなし、押出発泡に適する温度に冷却し、該流動ゲルをダイを通して低圧領域に押出発泡させて、発泡体を形成することにより製造される。
【0072】
スチレン系樹脂と発泡剤、添加剤を加熱溶融混練する際の加熱温度、溶融混練時間および溶融混練手段についてはとくに制限はない。加熱温度は、使用するスチレン系樹脂が溶融する温度以上であればよいが、たとえば150〜260℃程度が好ましい。溶融混練時間は、単位時間あたりの押出量、溶融混練手段などによって異なるので一概に決定することはできないが、スチレン系樹脂と発泡剤が均一に分散混合するのに要する時間が適宜選ばれる。また、溶融混練手段としては、たとえばスクリュー型の押出機などがあげられるが、通常の押出発泡に用いられているものであればとくに限定はない。また、発泡成形方法にもとくに制限はないが、たとえばスリットダイより圧力開放して得られた発泡体をスリットダイと密着または接して設置した成形金型および成形ロールなどを用いて、断面積の大きい板状発泡体を成形する一般的な方法を用いることができる。
【0073】
以上、本発明の内容をまとめるとつぎのようになる。
【0074】
すなわち、スチレン系樹脂発泡体の発泡剤として、環境適合性に優れた炭化水素の一つであるシクロペンタンを用いる技術は提案されており、シクロペンタン及び他の可燃性ガス全量で4.5重量部未満を用いた低熱伝導率の発泡体を得る技術は提案されている。
【0075】
しかしながら、シクロペンタンを用いた場合には、添加量によっては発泡体の収縮などが起こるため、前記技術では押出発泡成形性が安定し、より低密度のスチレン系樹脂発泡体の製造方法について問題があることが判った。
【0076】
これに対して、本発明では発泡剤の少なくとも1種がシクロペンタンであって、好ましくは(A)シクロペンタン、および、(B)プロパン、ノルマルブタンおよびイソブタンから選ばれる1種以上の化合物、さらに必要に応じて(C)ジメチルエーテル、ジエチルエーテルおよびメチルエチルエーテルから選ばれる1種以上のエーテルを発泡剤として用い、これに水および吸水性物質を併用した場合、押出発泡成形性、密度および熱伝導率のバランスが取れる特定の範囲があることを見出した。
【実施例】
【0077】
つぎに、本発明のスチレン系樹脂発泡体を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに制限されるものではない。なお、とくに断らない限り、「%」は重量%を表わす。
(1)押出発泡成形性
発泡体を得る際の成形状況を下記の基準で評価した。
(a)目視評価
○:所望の厚み、幅、密度に調整が可能であり、安定して成形できた。
【0078】
また、発泡体に気孔、ボイドなどは見られなかった。
【0079】
×:所望の厚み、幅、密度が変動し調整ができなかった。
【0080】
あるいは、安定して成形できなかった。
【0081】
また、発泡体に気孔、ボイドなどが発生した。
(b)吐出量
発泡体を得る際に1分間に押し出されてくる発泡体の重量を測り、1時間当たりの量に換算してkg/hで示した。
(c)押出圧力
発泡体を得る際に、冷却機先端に設けた口金部分の圧力(単位MPa)を圧力計で測定した。
(2)発泡体厚さ
異なる時間にサンプルングした発泡体の3つのサンプルについて、幅方向の中央の厚さ(単位mm)を測定し、平均値を算出した。
(3)発泡体密度
発泡体の密度を、式:
発泡体密度(g/cm3)=発泡体重量(g)/発泡体体積(cm3
に基づいて求め、単位を(kg/m3)に換算して示した。
(4)熱伝導率
発泡体の熱伝導率をJIS A9511(1995)に準じて測定した。測定は製造後、表面から10mmの部分を削除したのち、28日経過した発泡体について行なった。
(5)気泡径
(a)厚さ方向の気泡径
発泡体の押出方向と直行する垂直断面の中央部分を、顕微鏡を用いて拡大投影した写真において、厚み方向に直線を引き、その直線と交差する気泡の数を数え(拡大率、直線の長さは気泡径に応じて、気泡数が少なくとも10個以上になるように設定する)、厚さ方向の径をつぎの式にしたがって求めた。
【0082】
厚さ方向の気泡径=直線の長さ/直線を横切る気泡の数
(ただし、直線の長さは写真の拡大率から求められる、直線の長さを指す)
(b)海島構造である気泡構造における大気泡径、小気泡径および小気泡面積率
小気泡径:押出発泡体の厚さ方向断面を200倍に拡大した写真において、海島構造での海部分の任意の2箇所に厚さ方向に実寸法で1mm相当の直線を引き、それぞれこの直線を横切る気泡の数を数え、それぞれの箇所での厚さ方向の気泡径を次の式に従って算出した。
小気泡径=直線の長さ1mm/直線を横切る気泡の数
次いで、2箇所の小気泡径の値を相加平均して、厚さ方向の小気泡径とした。
同様に、スチレン系樹脂発泡体の幅方向、長さ方向についてそれぞれ気泡径を求め、3方向の相加平均を小気泡径とした。
大気泡径:押出発泡体の厚さ方向断面を50倍に拡大した写真において、海島構造中に点在する島部分の厚さ方向の長さを10点無作為に選び、それぞれの島について厚さ方向の最大長さを測定し、相加平均することにより厚さ方向の大気泡径を求めた。同様に、スチレン系樹脂発泡体の幅方向、長さ方向についてそれぞれ気泡径を求め、3方向の相加平均を大気泡径とした。
(6)小気泡面積率
スチレン系樹脂発泡体について、厚さ方向断面での気泡径0.25mm以下である気泡の発泡体断面積あたりの占有面積率を、以下のようにして求めた。
ここで、気泡径0.25mm以下の気泡とは、円相当直径が0.25mm以下の気泡とする。
(a)走査型電子顕微鏡((株)日立製作所製、品番:S−450)にて30倍に拡大してスチレン系樹脂発泡体の厚さ方向断面を写真撮影する(写真の大きさは100mm×90mm)。
(b)撮影した写真の上にOHPシートを置き、その上に厚さ方向の径が7.5mmよりも大きい気泡(実寸法が0.25mmより大きい気泡に相当する)に対応する部分を黒インキで塗りつぶして写しとる(一次処理)。
(c)画像処理装置((株)ピアス製、品番:PIAS−II)に一次処理画像を取り込み、濃色部分と淡色部分を、即ち黒インキで塗られた部分か否かを識別する。
(d)濃色部分のうち、直径7.5mm以下の円の面積に相当する部分、すなわち、厚さ方向の径は長いが、面積的には直径7.5mm以下の円の面積にしかならない部分を淡色化して、濃色部分の補正を行なう。
(e)画像解析計算機能中の「FRACTAREA(面積率)」を用い、画像全体に占める気泡径7.5mm以下(濃淡で分割した淡色部分)の面積比を次式により求める。
小気泡面積率(%)=(1−濃色部分の面積/画像全体の面積)×100
(7)燃焼性
発泡体の燃焼性をJIS K7201(1995)に準じ、A−1号にて7日経過した発泡体について行なった。
【0083】
○:酸素指数が24%以上
×:酸素指数が24%未満
なお、実施例および比較例では、下記の化合物を用いた。
スチレン系樹脂
ポリスチレン:PSジャパン(株)製G9401:MFRは2.5g/10分
発泡剤(A)
シクロペンタン:大洋液化ガス(株)製シクロペンタン
発泡剤(B)
プロパン:イワタニ(株)製無臭プロパン
イソブタン:三井化学(株)製イソブタン
発泡剤(C)
ジメチルエーテル:三井化学(株)製ジメチルエーテル
吸水性物質
酸化ケイ素:日本アエロジル(株)製AEROSIL
ベントナイト:(株)ホージュン(株)製ベンゲルブライト11
合成ヘクトライト:Rockwood Additives製 LAPONITE XLG
硫酸マグネシウム:馬居化成工業(株)製硫酸マグネシウム無水塩(MN−00)
合成ゼオライト:日本化学工業(株)製ゼオスター
難燃剤
ヘキサブロモシクロドデカン:アルベマールコーポレーション製、SAYTEXHP−900
トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート:日本化成(株)製TAIC−6B
テトラブロモビスフェノールAビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル):アルベマールコーポレーション製、SAYTEXHP−800
その他
タルク:林化成製、TALCAN PAWDER PK−Z
ステアリン酸バリウム:堺化学製、SB
流動パラフィン:和光純薬(株)試薬
安定剤:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)、IRGANOX B911(ヒンダードフェノール系抗酸化剤IRGANOX1076:オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートとリン系安定剤IRGAFOS168:トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイトの1:1の混合物)
実施例1
ポリスチレン100重量部に対して、吸水性物質として酸化ケイ素0.1重量部、ベントナイト1.0重量部、難燃剤としてトリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート5重量部、タルク1.0重量部、ステアリン酸バリウム0.2重量部、安定剤0.2重量部、流動パラフィン0.2重量部からなる混合物をドライブレンドし、得られた樹脂混合物を口径65mmと口径90mmの押出機を縦に連結した押出機へ約50kg/hrの割合で供給した。前記口径65mmの押出機に供給した樹脂混合物を、200℃に加熱して溶融ないし可塑化、混練し、これに連結された口径90mmの押出機で樹脂温度を120℃に冷却し、口径90mmの押出機の先端に設けた厚さ方向2mm、幅方向50mmの長方形断面の口金より大気中へ押し出し、直方体状の発泡体を得た。
【0084】
このとき、発泡剤として、ポリスチレン100重量部に対して、シクロペンタン4.0重量部(40モル%)およびジメチルエーテル4.0重量部(60モル%)からなる発泡剤、水1.0重量部を前記口径65mmの押出機の先端付近(口径90mmの押出機の口金と反対側の端部側に接続される側の端部)から前記樹脂混合物中に圧入した。
【0085】
安定して成形でき、吐出量50kg/h、得られる発泡体の厚みを60mmに調整した場合の押出圧力は3MPaであった。得られた発泡体の厚みは60mm、密度は28kg/m3、気泡径がほぼ一様にそろった気泡構造であって、厚み方向の平均の気泡径は0.35mmであった。得られた発泡体の評価結果を表1に示した。
【0086】
【表1】

実施例2〜4
発泡剤組成、水、吸水性物質、難燃剤、タルクを表1に示すようにした以外は、実施例1と同様にして、スチレン系樹脂発泡体を得た(ステアリン酸バリウムおよび安定剤量は変更なし)。その評価結果を表1に示した。いずれも、気泡径がほぼ一様にそろった気泡構造となった発泡体であった。
比較例1〜2
発泡剤組成、水、難燃剤、タルクを表1に示すようにした以外は、実施例1と同様にして、スチレン系樹脂発泡体を得た(ステアリン酸バリウムおよび安定剤量は変更なし)。その評価結果を表1に示した。
【0087】
実施例1〜4では、発泡剤としてシクロペンタンと共にイソブタンおよび/またはジメチルエーテルを4.5重量部以上用い、さらに水および吸水性物質を用いることで、所望の厚み、幅、密度に調整が可能であり、安定して成形でき、断熱性、難燃性に優れた発泡体が得られた。これに対して、比較例1ではシクロペンタン単独を4.5重量部以下しか用いていないため、低密度の発泡体が安定して得られなかった。また、比較例2では、発泡剤としてシクロペンタンとイソブタンおよびジメチルエーテルを4.5重量部以上用いたが、水を用いたが吸水性物質を用いなかったため、発泡体に気孔、ボイドが多数発生し、安定して良好な発泡体が得られなかった。
【0088】
さらに、実施例2と実施例3を比較して判るように、厚み方向のセル径が0.30mmに対し、0.15mmとなった場合の方が熱伝導率が低く、断熱性に優れることが判る。
実施例5
ポリスチレン100重量部に対して、吸水性物質として酸化ケイ素0.1重量部、合成ヘクトライト1.0重量部、難燃剤としてテトラブロモビスフェノールAビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)7重量部、タルク0.3重量部、ステアリン酸バリウム0.2重量部、安定剤0.2重量部、流動パラフィン0.2重量部からなる混合物をドライブレンドし、得られた樹脂混合物を口径65mmと口径90mmの押出機を縦に連結した押出機へ約50kg/hrの割合で供給した。前記口径65mmの押出機に供給した樹脂混合物を、200℃に加熱して溶融ないし可塑化、混練し、これに連結された口径90mmの押出機で樹脂温度を120℃に冷却し、口径90mmの押出機の先端に設けた厚さ方向2mm、幅方向50mmの長方形断面の口金より大気中へ押し出し、直方体状の発泡体を得た。
【0089】
このとき、発泡剤として、ポリスチレン100重量部に対して、シクロペンタン3.0重量部(39モル%)およびプロパン3.0重量部(61モル%)からなる発泡剤、水1.0重量部を前記口径65mmの押出機の先端付近(口径90mmの押出機の口金と反対側の端部側に接続される側の端部)から前記樹脂混合物中に圧入した。
【0090】
安定して成形でき、吐出量50kg/h、得られる発泡体の厚みを55mmに調整した場合の押出圧力は5MPaであった。得られた発泡体の厚みは55mm、密度は35kg/m3、小気泡と大気泡が混在した特異な気泡構造であって、大気泡径は0.35mm、小気泡径は0.07mm、小気泡面積率は20%であった。得られた発泡体の評価結果を表2に示した。
【0091】
【表2】

実施例6〜12
発泡剤組成、水、吸水性物質、難燃剤、タルクを表2に示すようにした以外は、実施例5と同様にして、スチレン系樹脂発泡体を得た(ステアリン酸バリウムおよび安定剤量は変更なし)。その評価結果を表2に示した。いずれも、小気泡と大気泡が混在した特異な気泡構造となった発泡体であった。
比較例3〜4
発泡剤組成、水、難燃剤、タルクを表2に示すようにした以外は、実施例1と同様にして、スチレン系樹脂発泡体を得た(ステアリン酸バリウムおよび安定剤量は変更なし)。その評価結果を表2に示した。
【0092】
実施例5〜12では、発泡剤としてシクロペンタンと共にイソブタン、プロパン、ジメチルエーテルを4.5重量部以上用い、さらに水および吸水性物質を用いることで、所望の厚み、幅、密度に調整が可能であり、安定して成形でき、断熱性、難燃性に優れた発泡体が得られた。さらに、実施例7と比較例3を比較して判るように、水および吸水性物質を用い、特異な気泡構造になった実施例7は、水および吸水性物質を用いない比較例4に対し、低密度でかつ熱伝導率の低い発泡体が得られることが判る。また、実施例7と比較例4を比較して判るように、吸水性物質を用いなかった比較例4では、発泡体に気孔、ボイドが多数発生し、安定して良好な発泡体が得られなかった。
【0093】
また、実施例6、10、12と実施例7〜9、11を比較して判るように、シクロペンタン使用量/イソブタン使用量の重量比が、1.2を越えている実施例6、10、12では、小気泡面積率が低下しており、シクロペンタン量が多いにもかかわらず熱伝導率が低下せず、あるいは、逆に上昇しており(実施例6と7、実施例11と12を比較)、シクロペンタン使用量/イソブタン使用量の重量比が1.2以下が好ましいことが判る。
【0094】
一方、実施例11と実施例12を比較して判るように、シクロペンタンおよびプロパン、イソブタン、ジメチルエーテルなどの発泡剤を、いずれも8重量部を用いているが、実施例11ではプロパン、ジメチルエーテルを用いており、難燃性が良好であるのに対して、実施例12では難燃性は得られていない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱溶融させたスチレン系樹脂に、発泡剤を含有させた組成物を押出発泡させてスチレン系樹脂発泡体を製造する方法であって、発泡剤の少なくとも1種がシクロペンタンであって、前記発泡剤の使用量が前記スチレン系樹脂100重量部に対して4.5〜10重量部であり、さらに、前記スチレン系樹脂100重量部に対して水を0.1〜5重量部、および、吸水性物質を0.1〜10重量部添加することを特徴とするスチレン系樹脂発泡体の製造方法。
【請求項2】
発泡剤の全量を100モル%としたときに、(A)シクロペンタン5〜70モル%、(B)プロパン、ノルマルブタンおよびイソブタンから選ばれる化合物95〜30モル%、および、(C)ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテルから選ばれるエーテル0〜80モル%であることを特徴とする請求項1記載のスチレン系樹脂発泡体の製造方法。
【請求項3】
発泡剤(B)がプロパンおよび/またはイソブタンからなることを特徴とする請求項2記載のスチレン系樹脂発泡体の製造方法。
【請求項4】
発泡剤(C)がジメチルエーテルであることを特徴とする請求項2または3のいずれか1項記載のスチレン系樹脂発泡体の製造方法。
【請求項5】
吸水性物質が層状珪酸塩、酸化ケイ素、硫酸金属塩、炭酸金属塩、リン酸金属塩、ゼオライトよりなる群から選ばれる少なくとも1種である化合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のスチレン系樹脂発泡体の製造方法。
【請求項6】
スチレン系樹脂および発泡剤を含有する組成物を押出発泡してなるスチレン系樹脂発泡体であって、発泡体100重量部対し、シクロペンタンを0.3〜4重量部、吸水性物質を0.1〜10重量部含有した、厚みが10〜150mm、密度が20〜60kg/m3であり、かつ、発泡体を形成する気泡の厚み方向における平均気泡径が0.03〜0.40mmであることを特徴とするスチレン系樹脂発泡体。
【請求項7】
スチレン系樹脂および発泡剤を含有する組成物を押出発泡してなるスチレン系樹脂発泡体であって、発泡体中における、シクロペンタンの分圧が42kPa以下であり、吸水性物質を0.1〜10重量部含有した、厚みが10〜150mm、密度が20〜60kg/m3であり、かつ、発泡体を形成する気泡の厚み方向における平均気泡径が0.03〜0.40mmであることを特徴とするスチレン系樹脂発泡体。
【請求項8】
スチレン系樹脂および発泡剤を含有する組成物を押出発泡してなるスチレン系樹脂発泡体であって、シクロペンタンおよびイソブタンの全量を100モル%としたときに、シクロペンタン5〜70モル%、イソブタン95〜30モル%の比率で発泡体100重量部対し、0.5〜8重量部、吸水性物質を0.1〜10重量部含有した、厚みが10〜150mm、密度が20〜60kg/m3であり、かつ、発泡体を形成する気泡の厚み方向における平均気泡径が0.03〜0.40mmであることを特徴とするスチレン系樹脂発泡体。
【請求項9】
発泡剤の少なくとも1種がシクロペンタンであって、発泡剤の含有量が発泡体100重量部に対して4.5〜10重量部であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項記載のスチレン系樹脂発泡体。
【請求項10】
発泡体を形成する気泡の厚み方向における平均気泡径が0.05〜0.20mmであることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項記載のスチレン系樹脂発泡体。
【請求項11】
発泡体を形成する気泡が、気泡径0.25mm以下の気泡と、その1.2倍以上の気泡径の気泡より構成されることを特徴とする請求項6〜10のいずれか1項記載のスチレン系樹脂発泡体。
【請求項12】
発泡体を形成する気泡のうち、気泡径0.25mm以下の気泡が発泡体断面積あたり5〜95%の小気泡面積率を有することを特徴とする請求項11記載のスチレン系樹脂発泡体。

【公開番号】特開2007−39606(P2007−39606A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−227629(P2005−227629)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】