説明

スチレン系樹脂発泡体の製造方法

【課題】本発明は、オゾン破壊係数がゼロであり、地球温暖化係数も小さな発泡剤を使用した場合にも、熱伝導率が小さく長期に亘り断熱性に優れ、難燃性を有するポリスチレン系樹脂押出発泡板を提供することを目的とする。
【解決手段】スチレン系樹脂混合物に少なくとも発泡剤、難燃剤が混練されてなる発泡性溶融樹脂組成物を押出発泡して、見かけ密度が20〜60kg/cm、厚みが10〜150mmの発泡体を製造する方法において、前記スチレン系樹脂混合物が、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)と該スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を除くスチレン系樹脂(B)との混合物からなり、該スチレン系樹脂混合物中のスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)に由来する(メタ)アクリル酸エステル成分が前記スチレン系樹脂混合物に対して4〜45重量%含有するスチレン系樹脂混合物を使用するスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系樹脂発泡体、たとえば、建築物の壁、床、屋根等の断熱材や畳芯剤として使用される、特に優れた断熱性能を有し、難燃性を有するスチレン系樹脂発泡体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂発泡体は、優れた断熱性及び好適な機械的強度を有することから、一定幅の板状に成形されたものが断熱材等として広く利用されている。このような発泡板は、一般に、押出機中でスチレン系樹脂材料を加熱溶融したのち、該溶融物に物理発泡剤を混練してなる発泡性溶融混練物を、押出機先端に付設されたスリット形状等のダイから低圧域に押出発泡し、さらに所望に応じてダイ出口に賦形装置を連結して成形(賦型)することにより製造されている。
【0003】
上記のごときスチレン系樹脂押出発泡体の製造に使用される発泡剤は、従来は、ジクロロジフルオロメタン等の塩化フッ化炭化水素(以下、CFCという)が広く使用されてきたが、CFCはオゾン層を破壊する危険性が大きいことから、近年、オゾン破壊係数の小さい水素原子含有塩化フッ化炭化水素(以下、HCFCという)がCFCに替わって用いられてきた。しかしながら、HCFCもオゾン破壊係数が0(ゼロ)でないことから、オゾン層を破壊する危険性が全くないわけではない。そこで、オゾン層破壊係数が0(ゼロ)であり、分子中に塩素原子を持たないフッ化炭化水素(以下、HFCという)を発泡剤として使用することが検討されてきた。
ところがこのHFCは地球温暖化係数が大きいため、地球環境保護の観点からは未だ改善の余地があった。このためオゾン破壊係数が0(ゼロ)とともに、地球温暖化係数も小さい環境にやさしい発泡剤を使用するポリスチレン系樹脂発泡体の製造法が検討されている。
【0004】
発泡剤として、イソブタンやイソペンタンは、オゾン破壊係数が0(ゼロ)であり、地球温暖化係数も小さく、地球環境の観点からは好ましい発泡剤である。しかしながら、イソブタンやイソペンタンは気体状態における熱伝導率が空気に比べて低いものの、これまでのCFC、HCFC、HFC等のフロン類に比べると気体状態における熱伝導率が大きく、発泡体中の含有量を同モル量とした場合には、フロン類と同等の断熱性を得ることはできない。含有量を増やすことにより断熱性を向上させることは可能であるが、イソブタンやイソペンタンはそれ自体の燃焼性が高く得られた発泡体に難燃性を付与することは極めて困難であった。また、イソブタンやイソペンタンは、スチレン系樹脂に対する透過速度が空気よりも極めて遅いがCFCと比べると透過速度が速いことから、発泡体中から徐々に逸散していく。そのため、発泡体の熱伝導率も徐々にではあるが上昇していく。したがって、イソブタンやイソペンタンを発泡剤として使用して長期断熱性と難燃性とを両立する発泡体を得ることは困難であった。
【0005】
オゾン破壊係数が0(ゼロ)であるとともに、炭化水素よりも地球温暖化係数が小さい二酸化炭素や水を発泡剤として用いることも検討されてきているが、二酸化炭素や水は発泡体から早期に逃散し発泡体の断熱性は十分満足できるものでない。
【0006】
オゾン破壊係数が0(ゼロ)の発泡剤を使用し、優れた断熱性を有する熱可塑性樹脂発泡体を得る方法として、ポリスチレン系樹脂にガスバリアー性樹脂を添加する方法が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2)。
特許文献1では、ガスバリアー性樹脂としてニトリル系樹脂を添加する方法が、特許文献2では、ガスバリアー性樹脂としてビニルアルコール系樹脂を用い、分子量1000以下の分子中に1以上の水酸基を有する化合物の存在下に押出発泡する方法が報告されている。ガスバリアー性樹脂は、イソブタン等の熱伝導率の低い発泡剤の発泡体中からの逸散を抑制し、発泡体のセル内への空気の流入を遅延させることにより押出直後の断熱性を向上させる効果はある。しかしながら、ガスバリアー性樹脂は発泡を阻害する虞があり、高発泡倍率の発泡体を製造することが困難である。また、イソブタン等の発泡体中からの散逸が遅く、かつセル内への空気の流入速度が遅くても長期間経過後にはイソブタンの含有量は低下し、セル内へ空気が流入してしまうので、長期断熱性の維持に関して課題がある。
【0007】
本出願人は、オゾン破壊係数が0(ゼロ)であり、地球温暖化係数も小さい発泡剤を用いて、難燃性に優れ、長期間に亘って熱伝導率が小さく断熱性を有するポリスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法として、基材樹脂にグラファイトを添加する方法を報告した(特許文献3)。グラファイトの添加は断熱性を向上する点では有効であるが、グラファイトは気泡調整剤として作用し気泡のキメを細かくする。断熱性を高くするために多量のグラファイトを使用するとキメが微細化し過ぎるため発泡板へ成形することが困難となりやすいという点があり、添加量に自ずと制限がありポリスチレン系樹脂発泡体の断熱性を充分に改良するには更なる検討が必要とされた。
【0008】
【特許文献1】特開2006−131719号公報
【特許文献2】特開2006−131757号公報
【特許文献3】特開2004−196907号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、上記のごとき状況のもと、オゾン破壊係数0(ゼロ)であり、地球温暖化係数も小さく、熱伝導率が小さく長期間に亘り断熱性にすぐれ、難燃性を有するポリスチレン系樹脂押出発泡体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題について種々の検討を重ねた結果、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体と、該スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を除くスチレン系樹脂との混合物を基材樹脂とし、該混合物からなる基材樹脂中のスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体に由来する(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量が特定の量含有するように、スチレン系樹脂と前記スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体からなる混合物を基材樹脂として使用することにより、長期間に亘り熱伝導率が小さく断熱性にすぐれ、難燃性を有するスチレン系樹脂押出発泡体が得られることを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
[1]スチレン系樹脂混合物に少なくとも発泡剤、難燃剤が混練されてなる発泡性溶融樹脂組成物を押出発泡して、見かけ密度が20〜60kg/m、厚みが10〜150mmの発泡体を製造する方法において、前記スチレン系樹脂混合物が、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)とスチレン系樹脂(B)との混合物からなり、かつ前記スチレン系樹脂混合物においてスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)に由来する(メタ)アクリル酸エステル成分が前記スチレン系樹脂混合物中に対して4〜45重量%含有されていることを特徴とするスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法に関する。
【0012】
[2]前記スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)中の(メタ)アクリル酸エステル成分が25〜80重量%である前記[1]に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法、
【0013】
[3]前記発泡剤は、炭素数3〜5の脂肪族炭化水素、炭素数3〜6の脂環式炭化水素、炭素数1〜4の脂肪族アルコール、アルキル鎖の炭素数が1〜3のジアルキルエーテル、炭素数1〜3の塩化アルキル、二酸化炭素及び水から選ばれる少なくとも1種である前記[1]又は[2]に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法、
【0014】
[4]前記スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)が、スチレン−メタアクリル酸メチル共重合体またはスチレン−アクリル酸メチル共重合体である前記[1]〜[3]のいずれかに記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法、を要旨とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、発泡体基材樹脂としてスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体に由来する(メタ)アクリル酸エステル成分が4〜45重量%となるようにスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を混合したスチレン系樹脂混合物を、発泡剤として炭化水素などのオゾン破壊係数がゼロである発泡剤を使用して押出発泡して、発泡成形性が良好で、熱伝導率が小さく抑えられ、断熱保持性能に優れた難燃性を有するスチレン系樹脂押出発泡体を得ることができる。
本発明の押出発泡体は断熱保持性能に優れた難燃性を有するので、建築用の断熱材として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のスチレン系樹脂発泡体の製造に使用される基材樹脂は、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を必須成分として、スチレン系樹脂に混合してなるスチレン系樹脂混合物からなる。すなわち、本発明においてスチレン系樹脂混合物は、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)とスチレン系樹脂(B)との混合物を基材樹脂とし、該基材樹脂中のスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体に由来する(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量が4〜45重量%である。なお、本明細書ではアクリル酸とメタクリル酸とを(メタ)アクリル酸と総称する。また、本発明におけるスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体とは、該共重合体中に(メタ)アクリル酸エステル成分を10%〜90重量%含むものである。
【0017】
本発明において、基材樹脂としてのスチレン系樹脂混合物中のスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)に由来する(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量は4〜45重量%、好ましくは5〜40重量%、より好ましくは8〜38重量%、さらに好ましくは10〜35重量%、特に好ましくは12〜25重量%となるように、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体中の(メタ)アクリル酸エステル成分含有量を勘案して、前記(A)と前記(B)とを前記記載の範囲内でそれぞれの混合割合を調整して混合することが重要である。なお、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体中の(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量、及びスチレン系樹脂混合物中の(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量は、熱分解ガスクロマトグラフ分析等の公知の方法により求めることができる。
【0018】
前記スチレン系樹脂混合物中の(メタ)アクリル酸エステル成分が少なすぎると、発泡体の熱伝導率を低下させる効果が小さくなる。一方、(メタ)アクリル酸エステル成分が多すぎる場合には、発泡体の熱伝導率の面からは充分であるが、難燃性が悪化し、建築材料として要求される難燃性規格を満足することができなくなる。ただし、難燃性は、製造に使用する難燃剤の種類や量、押出発泡体の密度、発泡体中の発泡剤残量によっても影響されるものである。
【0019】
前記スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、スチレンと(メタ)アクリル酸低級アルキルエステルとの共重合体であり、具体的には、例えば、スチレン−アクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリル酸エチル共重合体、スチレン−アクリル酸プロピル共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−メタクリル酸エチル共重合体、スチレン−メタクリル酸プロピル共重合体などが例示されるが、これらのうち目的とする所期の作用効果が顕著であるスチレン−アクリル酸メチル共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体が好ましく、スチレン−メタクリル酸メチルがより好ましい。これらのスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体は1種又は2種以上を混合して使用することができる。
【0020】
前記スチレン系樹脂(B)は、スチレン単独重合体、前記スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を除くスチレンと共重合可能な単量体との共重合体である。このような共重合体としては、例えば、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−ポニフェニレンエーテル共重合体、ポリスチレンとポニフェニレンエーテルとの混合物、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−スチレンアクリレート共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−メチルスチレン共重合体、スチレン−ジメチルスチレン共重合体、スチレン−エチルスチレン共重合体、スチレン−ジエチルスチレン共重合体、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)等が例示される。これらのスチレン系共重合体におけるスチレン成分の含有量は好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上である。これらのスチレン系樹脂は1種又は2種以上を混合して使用することができる。
前記スチレン系樹脂の中でも、スチレン単独重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−メチルスチレン共重合体が好ましく、なかでも、スチレン単独重合体、スチレン−アクリル酸共重合体が好適である。
なお、スチレン系樹脂とスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体との相溶性をより向上させるために、前記スチレン系樹脂には数%の(メタ)アクリル酸エステル成分等を共重合させることもできる。
【0021】
本発明の方法におけるスチレン系樹脂発泡体は、スチレン系樹脂とスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体との混合物であり、(メタ)アクリル酸エステルを必須成分として所定量含有させたスチレン系樹脂混合物を基材樹脂として用いることにより、熱伝導率が低く長期間断熱性が保持される優れた性能を有することについて、ポリスチレンとスチレン−メタクリル酸メチル共重合体などのスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の熱伝導率、屈折率等について検討を行った。
【0022】
例えば、ポリスチレンとスチレン−メタクリル酸メチル共重合体の熱伝導率を非発泡体で比較すると、ポリスチレンに比べスチレン−メタクリル酸メチル共重合体の方が熱伝導率は高いことから、ポリスチレンにスチレン−メタクリル酸メチル共重合体を混合した場合にはポリスチレン単独よりも熱伝導率は高くなる。
しかし、ポリスチレン単独発泡体と、ポリスチレンにスチレン−メタクリル酸メチル共重合体を混合したスチレン系樹脂発泡体とを比較した場合、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体を混合したスチレン系樹脂発泡体の方が熱伝導率が低くなり、さらに、スチレン系樹脂発泡体中のメタクリル酸メチル成分の含有量が増すにしたがって熱伝導率が低下していくことが見出された。
この理由は定かではないがおそらく、ポリスチレンの赤外領域の吸収帯にさらにメタクリル酸メチル成分の吸収帯が付加され、すなわち赤外領域の吸収帯が増し、混合樹脂が赤外線を吸収するためと推測される。一般に固体状態の非発泡の樹脂では、熱は主に熱伝導の形で固体中を伝わる。そのため、非発泡の樹脂の熱伝導率は樹脂自体の熱伝導率により決定される。それに対して、発泡体では樹脂自体の熱伝導のほかに、発泡体気泡中の気体(残存発泡剤+大気成分)による熱伝導及びその対流によっても熱が伝わり、発泡体の気泡膜が多層に形成されていることから気泡膜間の赤外線の輻射によっても熱が伝わる。ポリスチレンにスチレン−メタクリル酸メチル共重合体を混合したスチレン系樹脂発泡体では、この輻射伝熱を遮蔽する効果が向上し断熱性を向上させるものと推測される。
なお、上記結果は、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体以外のスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体についても確認されている。
【0023】
さらに、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体中のメタクリル酸メチル成分の含有量が多いスチレン−メタクリル酸メチル共重合体を混合した場合、熱伝導率を低下させる効果が大きく、メタクリル酸メチル成分を60重量%含有するスチレン−メタクリル酸メチル共重合体を混合したスチレン系樹脂発泡体において、スチレン系樹脂発泡体中のメタクリル酸メチル成分の含有量が40重量%となる付近に、熱伝導率が特異的に小さい極小点が存在することが認められた。この極小点の範囲は、混合するスチレン−メタクリル酸メチル共重合体中のメタクリル酸メチルの成分の含有量等に影響されるものであるが、混合樹脂中のメタクリル酸メチルの成分の含有量が概ね30〜50重量%の範囲となる。
【0024】
これはポリスチレンとスチレン−メタクリル酸メチル共重合体との相溶性および屈折率の違いに因るものと推察される。
ポリスチレンにスチレン−メタクリル酸メチル共重合体を混合した場合、それらの屈折率が異なり(下記表(1)参照)、さらに完全相溶系ではないために、それらの混合物は白濁を生じる。この白濁化が赤外線を乱反射し、輻射伝熱の遮蔽効果が向上して熱伝導率を低下させることにより、発泡体としたときにのみ断熱性を向上させているものと推測される。さらに、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体中のメタクリル酸メチル成分の含有量が多い共重合体は、メタクリル酸メチル成分の含有量の低いものに比べポリスチレンとの屈折率の差が大きいため(下記表(1)参照)、ポリスチレンとの混合物はさらに白濁する。その結果、上記遮蔽効果がさらに向上して、発泡体の熱伝導率がさらに低下するものと推察される。このとき、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体は、スチレンを共重合成分として有するために、発泡に大きく影響する程はポリスチレンに対する相溶性が悪くないために、高い独立気泡率を有し高発泡の良好な発泡体を得ることができる。
【0025】
(表1)

(PS:ポリスチレン、MS:スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、M成分:メタクリル酸メチル成分を示す。)
【0026】
また、所期の目的とは異なるが、本発明の方法によるスチレン系樹脂発泡体が優れた断熱性を示すのは、スチレン系樹脂混合物中のスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体が若干ながらもガスバリアー性を有していることも寄与していると考えられる。発泡体製造直後においては、そのガスバリア性によって発泡体中に含まれる残存性発泡剤の大気中への散逸および大気中から発泡体の気泡内への大気成分の流入を若干ながらも遅延させることできるので、上記した輻射伝熱遮蔽効果との相乗効果により、発泡体の熱伝導率をさらに低下させる効果があると推察する。
一方、発泡体製造後長期間経過した場合には、大気成分はガス透過速度が速いので発泡体の気泡内への大気成分の流入は完了し気泡内の大気成分の分圧はスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の有無にかかわらず同じ値になってしまうが、発泡体中からの発泡剤の逸散を若干ながらも抑えることができるので、気泡中の残存発泡剤の濃度を高くすることができ、上記した輻射伝熱遮蔽効果との相乗効果により、低熱伝導率を達成できるものと推察する。
【0027】
本発明において、発泡体の基材樹脂であるスチレン系樹脂とスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体との樹脂混合物は、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)10〜80重量%とスチレン系樹脂(B)20〜90重量%((A)+(B)=100重量%)の範囲で混合されることが好ましく、(A)が10〜70重量%と(B)が30〜90重量%((A)+(B)=100重量%)の範囲で混合されることがより好ましく、(A)が10〜60重量%と(B)が40〜90重量%((A)+(B)=100重量%)の範囲で混合されることがさらに好ましい。なお、(A)が2種以上の複数である場合、(B)が2種以上の複数である場合には、それらの合計を100重量%とする。上記の検討結果等から、樹脂混合物中のスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体に由来する(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量が多くなりすぎると難燃性に影響を与えるので、使用するスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体中の(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量を勘案し、樹脂混合物中のスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体に由来する(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量が前記した特定の範囲、すなわち4〜45重量%になるように調整してスチレン系樹脂と混合することが必要である。
【0028】
本発明において、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体中の(メタ)アクリル酸エステル成分は25〜80重量%であることが好ましく、30〜75重量%であることがより好ましく、40〜75重量%であることがさらに好ましく、45〜75重量%であることが特に好ましい。スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体中の(メタ)アクリル酸エステル成分の量が多すぎると、スチレン系樹脂に該共重合体が混ざりにくくなるので発泡性が低下して良好な発泡体が得られなくなる虞があるばかりか、該共重合体の熱分解温度が低下するので所望の難燃性を有する発泡体が得られなくなる虞がある。
すなわち、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体中の(メタ)アクリル酸エステル成分が上記範囲内であると、前述したように、該共重合体をスチレン系樹脂に混合した場合に、発泡性を大きく阻害することなく、該共重合体とスチレン系樹脂との屈折率の違いにより白濁化が生じるために、得られる発泡体の熱伝導率を低下させる効果がさらに大きくなり、かつ所望の難燃性を有する発泡体が得られやすくなる。
なお、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体は(メタ)アクリル酸エステル成分量の含有量の異なる2種以上のものを併用することができるが、2種以上のスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を併用する場合には、それぞれのスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体中の(メタ)アクリル酸エステル成分含有量から求めた平均値をスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)の(メタ)アクリル酸エステル成分量とする。
【0029】
上記のように、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体は発泡性を阻害するほどにはスチレン系樹脂との相溶性は悪くはないが、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体中の(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量が高くなると共にスチレン系樹脂との相溶性は若干ながらも低下していく。(メタ)アクリル酸エステル成分量が高いスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体をスチレン系樹脂に混合すると、得られる発泡体の熱伝導率を低下させる効果は高いが、得られる発泡体が若干脆くなる虞がある。
そこで、(メタ)アクリル酸エステル成分が40〜75重量%であるスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(C)を使用する場合には、(メタ)アクリル酸エステル成分が5重量%以上40重量%未満であるスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(D)を併用することが好ましい。スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(D)の(メタ)アクリル酸エステル成分が上記範囲内であると、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(D)は、スチレン系樹脂とスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(C)の両者との相溶性がより優れるため、熱伝導率を低減させることができると共に、剛性をほとんど低下させることなく脆性を改善することができるため好ましい。かかる観点から、上記スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(D)中の(メタ)アクリル酸エステル成分は5〜35重量%であることがより好ましく、10〜30重量%であることが好ましく、15〜25重量%であることが特に好ましい。なお、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(D)は、1種又は2種以上を混合して使用することができる。また、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(C)及び(D)は、上記の理由から、スチレン−アクリル酸メチル共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体が好ましく、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体がより好ましい。
【0030】
さらに、上記スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(C)とスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(D)を併用する場合、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)中のスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(D)の比率が10重量%以上であると、スチレン系樹脂とスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(C)との相溶性改善効果が高くなるので、発泡体の脆性改善効果がより高くなるため好ましい。かかる観点から、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)中のスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(D)の比率は20重量%以上がより好ましく、30重量%以上がさらに好ましい。
一方、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)中のスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(C)の比率が50重量%以上であると、得られる発泡体の熱伝導率を低減させる効果は高いままに、スチレン系樹脂混合物中の(メタ)アクリル酸エステル成分を所望の濃度に調整するのに、スチレン系樹脂混合物中にスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)を混合する割合を少なくすることができるので、得られる発泡体の脆性改善効果がさらに高くなるため好ましい。かかる観点から、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)中のスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(C)の比率は55重量%以上であることがより好ましく、60重量%以上であることがさらに好ましい。
【0031】
本発明のスチレン系樹脂混合物には、本発明の目的、作用効果を損なわない範囲において、その他の重合体を混合することができる。その他の重合体としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、及びその水添物、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、及びその水添物、スチレン−エチレン共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸アルキル−ブタジエン共重合体、ポリメタクリル酸メチルなどが挙げられる。
これらのその他の重合体の配合量は、スチレン系樹脂混合物100重量部に対して30重量部以下が好ましく、10重量部以下がさらに好ましい。
【0032】
本発明おいては、従来公知のオゾン破壊係数がゼロである発泡剤を使用することができる。発泡剤としては、長期断熱性を考慮すると、以下に示すような本発明のスチレン系樹脂混合物からなる基材樹脂に対するガス透過性が比較的遅いものが好ましい。ガス透過性が比較的遅い発泡剤としては、炭素数3〜5の脂肪族炭化水素、具体的には、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ネオペンタン等が挙げられ、炭素数3〜6の脂環式炭化水素、具体的には、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン等が挙げられる。これらの中でも、ガス透過性が遅く発泡性に優れるために、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、シクロペンタンがより好ましく、ガス透過性、発泡性に加えて取り扱い性に優れることからノルマルブタン、イソブタンが好ましい。これらの発泡剤は、単独または2種以上を併用して使用することができる。
【0033】
さらに、得られる発泡体の難燃性を考慮すると、上記のような脂肪族炭化水素の添加量は限られてしまうため、該脂肪族炭化水素と、本発明のスチレン系樹脂混合物からなる基材樹脂に対するガス透過性が上記脂肪族炭化水素よりも速い発泡剤とを併用する混合発泡剤を使用することが好ましい。該混合発泡剤を使用することにより、脂肪族炭化水素の添加量を削減でき、かつ脂肪族炭化水素以外の発泡剤は発泡直後に発泡体中からそのほとんどが散逸してしまうために、難燃剤を添加することにより、所望の難燃性を達成することができる。
【0034】
上記ガス透過性が速い発泡剤として、例えば、塩化アルキル、アルコール類、エーテル類、ケトン類、二酸化炭素、水等が挙げられる。これらの発泡剤の中でも炭素数1〜3の塩化アルキル、炭素数1〜4の脂肪族アルコール、アルキル鎖の炭素数が1〜3のエーテル類、二酸化炭素、水等が好ましい。具体的には、炭素数1〜3の塩化アルキルとしては、例えば塩化メチル、塩化エチル等が挙げられる。炭素数1〜4の脂肪族アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、アリールアルコール、クロチルアルコール、プロパギルアルコール等が挙げられる。アルキル鎖の炭素数が1〜3のエーテル類としては例えばジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチレンジメチルエーテル等が挙げられる。特に、ガス透過性が速く、その取り扱い性に優れることから、上記発泡剤の中でも、塩化メチル、ジメチルエーテル、二酸化炭素、水が特に好ましい。これらの発泡剤は単独または2種以上を併用して用いることができる。
【0035】
さらに、本発明の所期の目的を損なわない範囲内で、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1−ジフルオロエタン等のHFCを発泡剤に添加することもできる。
【0036】
これら発泡剤量は所望する発泡倍率との関連で適宜選択され、見かけ密度が20〜60kg/cmの発泡体を得るには、通常スチレン系樹脂1kg当たり、混合発泡剤として0.5〜3モル添加され、好ましくは0.6〜2.5モルが添加される。
【0037】
本発明により得られるスチレン系樹脂発泡体は主に建築用断熱板として使用されるので、JIS A9511(2006年)5・13・1に規定される、「測定方法A」に記載の押出ポリスチレンフォーム保温板を対象とする燃焼性規格を満足する高度な難燃性が要求される。さらに、本発明により得られるスチレン系樹脂発泡体は、JIS A9511(2006年)4.2で規定される熱伝導率の規格を満足することが要求される。したがって、本発明における前記脂肪族炭化水素の添加量は、上記難燃性と上記熱伝導率の規格を両立するような添加量を、発泡体中に前記炭化水素を含有するように添加する必要がある。さらに、脂肪族炭化水素の添加量は要求される熱伝導率の規格によって適宜決定されるものである。したがって、前記したような比較的ガス透過性の速い発泡剤は、所望の見掛け密度を達成するために、脂肪族炭化水素の量に応じて適宜決定される。
【0038】
前記JIS A9511(2006年)5・13・1に規定される、「測定方法A」に記載の押出ポリスチレンフォーム保温板を対象とする燃焼性規格を満足する高度な断熱性能が要求されるスチレン系樹脂発泡体は、前記炭化水素の含有量の調整に加えて、難燃剤を添加することにより達成される。ここに使用される難燃剤は、スチレン系樹脂発泡体の製造において従来から使用されている難燃剤が使用できる。
【0039】
難燃剤としては、臭素系難燃剤が好ましく使用される。臭素系難燃剤としては、例えば、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールAビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールAビス(2−ブロモエチルエーテル)、テトラブロモビスフェノールAビス(アリルエーテル)、2,2−ビス[4−(2,3−ジブロモ−2−メチルプロポキシ)−3,5−ジブロモフェニル]プロパン、テトラブロモビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールS−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、ヘキサブロモシクロドデカン、テトラブロモシクロオクタン、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート、トリブロモフェノール、デカブロモジフェニルオキサイド、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート、臭素化ビスフェノールエーテル誘導体などが挙げられる。これらの化合物は単独又は2種以上を混合して使用できる。上記の臭素系難燃剤の中でも、その熱安定性が高く、高い難燃効果が得られることから、ヘキサブロモシクロドデカン、テトラブロモビスフェノールAビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、2,2−ビス[4−(2,3−ジブロモ−2−メチルプロポキシ)−3,5−ジブロモフェニル]プロパン、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートが特に好ましい。
【0040】
本発明の押出発泡板中における難燃剤の含有量は、難燃性を向上させるとともに、発泡性の低下および機械的物性の低下を最小のものとするうえで、ポリスチレン系樹脂100重量部当たり1〜10重量部が好ましく、1.5〜7重量部がより好ましく、2〜5重量部が更に好ましい。
【0041】
さらに、本発明おいては、押出発泡板の難燃性をさらに向上させることを目的として、難燃助剤を上記臭素系難燃剤と併用して使用することができる。難燃助剤としては、例えば2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、2,3−ジエチル−2,3−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン、3,4−ジエチル−3,4−ジフェニルヘキサン、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、2,4−ジフェニル−4−エチル−1−ペンテン等のジフェニルアルカンやジフェニルアルケン、トリフェニルホスフェート、クレジルジ2,6−キシレニルホスフェート、三酸化アンチモン、五酸化二アンチモン、硫酸アンモニウム、すず酸亜鉛、シアヌル酸、イソシアヌル酸、トリアリルイソシアヌレート、メラミンシアヌレート、メラミン、メラム、メレム等の窒素含有環状化合物、シリコーン系化合物、酸化ホウ素、ホウ酸亜鉛、硫化亜鉛などの無機化合物、赤リン系、ポリリン酸アンモニウム、フォスファゼン等のリン系化合物等が挙げられる。これらの化合物は単独又は2種以上を混合して使用できる。
【0042】
上記難燃剤をスチレン系樹脂混合物へ配合する方法としては、所定割合の難燃剤をスチレン系樹脂と共に押出機の上流部に設けられている原料供給部に供給し、押出機中にてスチレン系樹脂混合物と共に混練する方法を採用することができる。その他、押出機中に設けられた難燃剤供給部より溶融スチレン系樹脂混合物中に難燃剤を供給することもできる。
【0043】
なお、難燃剤を押出機に供給する場合、難燃剤とスチレン系樹脂混合物とをドライブレンドしたものを押出機に供給する方法、難燃剤とスチレン系樹脂とをニーダー等により混練した溶融混練物を押出機に供給する方法、予め加熱溶融させた液状の難燃剤を押出機内に供給する方法や難燃剤マスターバッチを作製して押出機に供給する方法を採用することができる。特に、分散性の点から難燃剤マスターバッチを作製して押出機に供給する方法を採用することが好ましい。
【0044】
本発明におけるスチレン系樹脂発泡体は、前記JIS A9511(2006年)5.13・1「測定方法A」に規定されるポリスチレンフォーム保温板を対象とする燃焼規格の燃焼性の測定を行った場合、炎が3秒以内に消え、残塵がなく、燃焼限界指示線を越えて燃焼することがないものである。従って、このような燃焼特性の板状発泡体は、着火した場合であっても、火が燃え広がることを抑制でき、建材用の押出ポリスチレンフォーム保温板として要求される安全性を備えるものである。
【0045】
本発明におけるスチレン系樹脂発泡体は、厚みが10〜150mmのものである。厚みが10mm未満では、断熱材に要求される断熱性が不十分である。一方150mmを超える場合には断熱材としての取り扱い性が悪くなる。したがって、厚みは15mm〜120mmのものが好ましい。
【0046】
本発明のスチレン系樹脂発泡体の見かけ密度は、20〜60kg/cmを有する。見かけ密度が20kg/cm未満の低密度の押出発泡体を製造すること自体かなり困難であり、仮にそのような低密度の押出発泡体が得られたとしても、断熱材として用いるのには機械的強度が不十分なものとなる。一方、見かけ密度が大きすぎる場合は、押出発泡体の厚みを必要以上に相当厚くしない限り、充分な断熱性を発揮させることが困難であり、また軽量性の点からも好ましくない。
【0047】
本発明の方法おいては、発泡体の見かけ密度が、20〜60kg/cm、好ましくは、22〜55kg/cmで、高い断熱性能を得ることができる上に、従来からこの種の押出発泡体に使用される難燃剤、例えばヘキサブロモシクロドデカンを使用した場合に、難燃剤が比較的少量で高い難燃性能を付与することができる利点がある。
【0048】
本発明により得られる押出発泡体の厚み方向平均気泡径は、好ましくは0.05〜2mmであり、より好ましくは0.06〜1mmであり、さらに好ましくは0.07〜0.8mmである。平均気泡径がこの範囲内にあることにより、機械的強度に優れ、より高い断熱性を有する押出発泡板を得ることができる。該気泡径が小さすぎると、厚みが厚く、低見掛け密度の押出発泡体を得ること自体が難しくなるばかりか、気泡膜が薄くなりすぎるために赤外線を透過しやすくなり発泡体の断熱性が悪化する虞がある。一方、大きすぎるものは、目的とする断熱性を有する押出発泡体を得ることができない。
【0049】
本明細書における平均気泡径の測定方法は次の通りである。押出発泡体厚み方向の平均気泡径(D:mm)及び押出発泡体幅方向の平均気泡径(D:mm)は押出発泡体の幅方向垂直断面(押出発泡板の押出方向と直交する垂直断面)を、押出発泡体長手方向の平均気泡径(D:mm)は押出発泡板の長手方向垂直断面(押出発泡体の押出方向に平行に、幅方向の中央部で二等分した垂直断面)を顕微鏡等を用いてスクリーンまたはモニタ等に拡大投影し、投影画像上において測定しようとする方向に直線を引き、その直線と交差する気泡の数を計数し、直線の長さ(但し、この長さは拡大投影した投影画像上の直線の長さではなく、投影画像の拡大率を考慮した真の直線の長さを指す。)を計数された気泡の数で割ることによって、各々の方向における平均気泡径を求める。
【0050】
平均気泡径の測定方法について詳述すると、厚み方向の平均気泡径(D:mm)の測定は幅方向垂直断面の中央部及び両端部の計3箇所に厚み方向に全厚みに亘る直線を引き各々の直線の長さと該直線と交差する気泡の数から各直線上に存在する気泡の平均径(直線の長さ/該直線と交差する気泡の数)を求め、求められた3箇所の平均径の算術平均値を厚み方向の平均気泡径(D:mm)とする。
【0051】
幅方向の平均気泡径(D:mm)は幅方向垂直断面の、中央部及び両端部の計3箇所の押出発泡体を厚み方向に二等分する位置に、長さ3mmの直線を幅方向に引き,長さ3mmの直線と(該直線と交差する気泡の数−1)から各直線上に存在する気泡の平均径(3mm/(該直線と交差する気泡の数−1))を求め、求められた3箇所の平均径の算術平均値を幅方向の平均気泡径(D:mm)とする。
【0052】
長手方向の平均気泡径(D:mm)は、試験片を切断して得られた長手方向垂直断面の、中央部及び両端部の計3箇所において、押出発泡体を厚み方向に二等分する位置に、長さ3mmの直線を長手方向に引き、長さ3mmの直線と(該直線と交差する気泡の数−1)から各直線上に存在する気泡の平均径(3mm/(該直線と交差する気泡の数−1))を求め、求められた3箇所の平均径の算術平均値を長手方向の平均気泡径(D:mm)とする。また、押出発泡板の水平方向の平均気泡径(D:mm)は、DとDの相加平均値とする。
【0053】
更に本発明により得られる押出発泡体においては、気泡変形率が0.7〜2.0であることが好ましい。気泡変形率とは、上記測定方法により求められたDをDで除すことにより算出された値(D/D)をいい、該気泡変形率が1よりも小さいほど気泡は扁平であり、1よりも大きいほど縦長である。気泡変形率が0.7未満の場合は、気泡が扁平なので圧縮強度が低下する虞れがあり、扁平な気泡は球形に戻ろうとする傾向が強いので、押出発泡体の寸法安定性も低下する虞がある。気泡変形率が2.0を超えると、厚み方向における気泡数が少なくなるので、目的とする高い断熱性が得られない虞がある。そのような観点から、上記気泡変形率は、0.8〜1.5であることが好ましく、0.8〜1.2であることがより好ましい。気泡変形率が上記範囲内にあることにより、機械的強度に優れ、かつ高い断熱性を有する押出発泡体を得ることができる。
【0054】
本発明による板状押出発泡体の独立気泡率は90%以上であることが好ましく、93%以上であることがより好ましい。独立気泡率が高い程、高い断熱性能を維持することができる。独立気泡率は、ASTM−D2856−70の手順Cに従って、東芝ベックマン株式会社製の空気比較式比重計930型を使用して測定された押出発泡体の真の体積Vxを用い、下記式(1)により独立気泡率S(%)を算出する。
【0055】
試料は、押出発泡体における3箇所の異なる部分からカットサンプルを切り出して各々のカットサンプルについて測定した。カットサンプルは押出発泡体から25mm×25mm×20mmの大きさに切断された、成形表皮を有しないサンプルである。厚みが薄く厚み方向に20mmのサンプルが切り出せない場合には、例えば25mm×25mm×10mmの大きさに切断された試料(カットサンプル)を2枚重ねて測定する。
【0056】
(数1)
S(%)=(Vx−W/ρ)×100/(VA−W/ρ) (1)
ただし、Vx:上記測定に使用されるカットサンプルの真の体積(cm)(押出発泡体のカットサンプルを構成する樹脂の容積と、カットサンプル内の独立気泡部分の気泡全容積との和に相当する。)
VA:測定に使用されたカットサンプルの外寸法から算出されたカットサンプルの見かけ上の体積(cm
W:測定に使用されたカットサンプル全重量(g)
ρ:押出発泡体を構成する樹脂の密度(g/cm
【0057】
本発明による方法には、さらに所望により、断熱性向上剤を添加することによりさらに断熱性を向上することができる。断熱性向上剤としては、例えば、金属、金属酸化物、セラミック、カーボンブラック、黒鉛等の微粉末、赤外線遮蔽顔料、ハイドロタルサイトなどが例示される。これらは1種又は2種以上を使用することができるが、金属、金属酸化物、カーボンブラック、黒鉛等の微粉末の断熱性向上剤は気泡調整作用を有するので多量の添加は気泡径が微細となり成形が困難になることや、難燃性や機械的物性の低下を招くなどの問題が生じ好ましくなく、断熱性向上剤の添加量はスチレン系樹脂混合物100重量部に対して、0.5〜5重量部、好ましくは1〜4重量部の範囲で使用される。
【0058】
本発明によりスチレン系樹脂発泡体を製造するに際して、前記断熱性向上剤をスチレン系樹脂混合物に配合する方法は、所定量の前記断熱性向上剤をスチレン系樹脂混合物とドライブレンドして、このブレンド物を押出機上流に設けられた供給部から押出機に供給し、混練して溶融スチレン系樹脂混合物中に配合することができる。また、予め高濃度の前記断熱性向上剤をポリスチレン系樹脂に配合したマスターバッチを作製し、これを押出機に供給して前記断熱性向上剤を含まないスチレン系樹脂混合物と溶融、混練して溶融スチレン系樹脂混合物とすることができる。特に分散性の点からマスターバッチ方式を採用することが好ましい。前記断熱性向上剤のマスターバッチの調製はスチレン系樹脂中に前記断熱性向上剤が10〜80重量%、好ましくは20〜70重量%、さらには30〜60重量%含有されるように調整することが好ましい。
【0059】
また、本発明におけるスチレン系樹脂には、さらに必要に応じて、気泡調整剤、顔料、染料等の着色剤、熱安定剤、その他充填剤等の各種の添加剤を適宜添加することができる。
【0060】
前記気泡調整剤として、例えば、タルク、カオリン、マイカ、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、クレー、ベントナイト、ケイソウ土等の無機物粉末、アゾジカルボジアミド等の従来公知の化学発泡剤などを用いることができる。なかでも気泡径の調整が容易であるとともに、難燃性を阻害することがなく気泡径を調整することが容易であるタルクが好適である。特に光透過遠心沈降法による50%の粒径が0.1〜20μmの大きさの細かいタルクが好ましく、0.5〜15μmの大きさのものが好ましい。気泡調整剤の添加量は、調整剤の種類、目的とする気泡径等によって異なるが、タルクを使用する場合はスチレン系樹脂混合物100重量部に対して、8重量部以下(ただし0を含む。)が好ましく、7重量部以下(ただし0を含む。)がより好ましく、5重量部以下(ただし0を含む。)がさらに好ましく、0.01〜4重量%が特に好ましい。
【0061】
気泡調整剤もスチレン系樹脂のマスターバッチを調製して使用することが分散性の点から好ましい。気泡調製剤のマスターバッチの調製は、例えば、気泡調整剤としてタルクを使用した場合、スチレン系樹脂に対してタルクの含有量が20〜80重量%となるように調製されることが好ましく、30〜70重量%となるように調整されることがより好ましい。
【0062】
本発明のスチレン系樹脂発泡体は、押出機中でスチレン系樹脂と難燃剤、その他添加物とを溶融、混練した溶融物に所要量の発泡剤を押出機の所定の位置から圧入し、さらに混練した発泡剤、難燃剤等を含有するスチレン系樹脂発泡性溶融組成物を押出機の先端のダイリップから大気圧下に押出した後、賦形装置(ガイダー)により所定の形状(板状)に成形することにより製造される。前記賦形装置は、例えば上下一対のポリテトラフルオロエチレン製の板で構成される賦形具が使用される。
【0063】
本発明によるスチレン系樹脂押出発泡体は、スチレン系樹脂混合物の構成成分としてスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を使用し、該共重合体に由来する(メタ)アクリル酸エステル成分を前記した範囲で含有するスチレン系樹脂混合物を基材樹脂として使用したので発泡体から発泡剤の散逸を抑制することができる。
発泡体中の発泡剤の残存量はガスクロマトグラフを用いて測定した。具体的には、発泡体製造直後の押出発泡体から切り出した200mm×200mm×25mmの成形表皮が存在しない試験片を、23℃、湿度50%の雰囲気下に保存した。製造後100日後に該試験片から幅を2.5cmとし、長さはサンプルの重量が1gとなるような長さに切り出しサンプルとした。このサンプルをトルエンの入った蓋付き試料ビン中に入れ蓋を閉めた後、充分に撹拌し発泡体中の発泡剤をトルエン中に溶解した溶液を測定用試料としてガスクロマトグラフ分析を行って残存量を求めた。
【0064】
ガスクロマトグラフ分析の測定条件
カラム:信和加工株式会社製
担体:chromosorb W、60〜80メッシュ、AW−DMCS処理品
液相:Silicone DC550(液相量20%)
カラム寸法:カラム長さ4.1m、カラム内径3.2mm
カラム素材:ガラス
カラム温度:40℃
注入口温度:200℃
キャリヤーガス:窒素
キャリヤーガス速度:50ml/min.
検出器:FID
検出器温度:200℃
定量:内部標準法
【実施例】
【0065】
以下本発明を実施例により比較例とともに具体的に説明する。
【0066】
[原料]
使用した原料を下記に示す。
(表2)
スチレン系樹脂

*1) JIS K7210(1999)の試験方法Aにより測定されるメルトマスフローレイトを意味し、試験温度200℃、荷重5kgで測定された値である。
*2):200℃、せん断速度100/sでの測定値
【0067】
(表3)
スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体

*1):スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体中の(メタ)アクリル酸エステル成分含有量
*2):200℃、せん断速度100/sでの測定値
【0068】
[樹脂Iの製造例]
撹拌装置の付いた内容積が50Lのオートクレーブに、脱イオン水18kg、懸濁剤として、第三リン酸カルシウム(太平化学産業社製)21g、界面活性剤としてドデシルジフェニルエーテルスルホン酸二ナトリウム(花王社製 ペレックスSSH 50%水溶液)14g、電解質として酢酸ナトリウム27gを投入した。ついで、開始剤としてt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(日本油脂社製 パーブチルO)18g、及び、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート18g(日本油脂社製 パーブチルE)、連鎖移動剤としてα−メチルスチレンダイマー(日本油脂社製 ノフマーMSD)46gをメタクリル酸メチル8.5kgおよびスチレンモノマー5.7kgに溶解させ、230rpmで撹拌しながらオートクレーブに投入した。オートクレーブ内を窒素置換した後、昇温を開始し、1時間半かけて90℃まで昇温した。90℃到達後、そのまま90℃で5時間保持し、さらに120℃まで2時間で昇温し、そのまま120℃で4時間保持した。その後、30℃まで約3時間で冷却した。昇温途中、60℃到達時に懸濁助剤として過硫酸カリウムの0.1%水溶液を42g添加した。冷却後、オートクレーブより内容物を取り出し、遠心分離機で脱水し、流動乾燥装置で表面に付着した水分を除去し、メタクリル酸メチルの含有量が60重量%であるメタクリル酸メチル−スチレン共重合体を得た。
【0069】
[溶融粘度の測定方法]
表2及び3の樹脂の溶融粘度は、株式会社東洋精機製作所のキャピログラフ 型式1Dを使用して以下の条件により測定した。バレル径9.55mm(有効長さ250mm)の先端に穴径1.0mm、長さ10mmのキャピラリーを取付け、200℃に昇温した炉内に原料を充填して4分間の予備加熱にて十分に溶融させ、その後ピストンにてキャピラリー部のせん断速度が100/sとなるように押出し、押出荷重が安定した後に溶融粘度を計測した。なお、原料の充填量は溶融、泡抜き後に15cc以上確保できる十分な量であり、泡抜き方法としては、原料の予備加熱中にピストンに一時的に荷重をかける事により、気泡を十分に除去した。
【0070】
(表4)
(メタ)アクリル酸エステル重合体

【0071】
気泡調整剤:ポリスチレン35重量%とタルク(松村産業(株)製ハイフィラー#12)60重量%と分散剤5重量%からなるタルクマスターバッチを用いた。
【0072】
難燃剤A:ヘキサブロモシクロドデカン93重量%を含有する難燃剤マスターバッチを用いた。
難燃剤B:2,2−ビス[4−(2,3−ジブロモ−2−メチルプロポキシ)−3,5−ジブロモフェニル]プロパン93重量%を含有する難燃剤マスターバッチを用いた。
【0073】
実施例1〜15、17〜34、比較例1〜10、12〜16
内径65mmの第1押出機と内径90mmの第2押出機と内径150mmの第3押出機が直列に連結されており、発泡剤注入口が第1押出機の終端付近に設けられており、間隙1mm×幅90mmの横断面が長方形の樹脂排出口(ダイリップ)を備えたフラットダイが第3押出機の出口に連結された製造装置を用いた。
第3押出機の樹脂出口にはこれと平行するように設置された上下一対のポリテトラフルオロエチレン樹脂からなる板により構成された賦形装置(ガイダー)が付設されている。
表5〜9、11〜15に示す配合量となるように樹脂、難燃剤及び気泡調整剤を、前記第1押出機に供給し、220℃まで加熱し、これらを溶融、混練し、第1押出機の先端付近に設けられた発泡剤注入口から表5〜9、11〜15に示す配合組成の発泡剤の所要量を溶融物に供給し溶融混練した発泡性溶融樹脂組成物を、続く第2押出機及び第3押出機に供給して樹脂温度を表に示すような発泡適性温度(表では発泡温度と表記した。この発泡温度は押出機とダイとの接合部の位置で測定された発泡性溶融樹脂組成物の温度である)に調整した後、吐出量50kg/hrでダイリップからガイダー内に押出し、発泡させながら押出発泡体の厚み方向に28mmの間隙で平行に配置されたガイダー内を通過させることにより板状に成形(賦形)し板状スチレン系樹脂押出発泡体を製造した。
なお、表5〜15中のスチレン系樹脂及びスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の配合比率は、スチレン系樹脂混合物100重量%に対する割合であり、例えば、表7中の実施例11のPS1/PS2が10/50、樹脂Aが40は、PS1が10重量%、PS2が50重量%、樹脂Aが40重量%の割合で配合することを意味する。
【0074】
実施例16、比較例11
内径150mmの第1押出機と内径200mmの第2押出機が直列に連結されており、発泡剤注入口が第1押出機の終端付近に設けられており、間隙1mm×幅440mmの横断面が長方形の樹脂排出口(ダイリップ)を備えたフラットダイが第2押出機の出口に連結された製造装置を用いた。
第2押出機の樹脂出口にはこれと平行するように設置された上下一対のポリテトラフルオロエチレン樹脂からなる板により構成された賦形装置(ガイダー)が付設されている。
表10に示す配合量となるように樹脂、難燃剤及び気泡調整剤を、前記第1押出機に供給し、220℃まで加熱し、これらを溶融、混練し、第1押出機の先端付近に設けられた発泡剤注入口から表に示す配合組成の発泡剤の所要量を溶融物に供給し溶融混練した発泡性溶融樹脂組成物を、続く第2押出機に供給して樹脂温度を表に示すような発泡適性温度(表では発泡温度と表記した。この発泡温度は押出機とダイとの接合部の位置で測定された発泡性溶融樹脂組成物の温度である)に調整した後、吐出量500kg/hrでダイリップからガイダー内に押出し、発泡させながら押出発泡体の厚み方向に28mmの間隙で平行に配置されたガイダー内を通過させることにより板状に成形(賦形)し板状スチレン系樹脂押出発泡体を製造した。
【0075】
表5〜15に、得られた押出発泡板の発泡成形性の評価、見掛け密度、幅方向垂直断面積、厚み、独立気泡率、厚み方向平均気泡径、気泡変形率、発泡剤残量、熱伝導率、熱伝導率低下率、難燃性評価を示す。なお、熱伝導率低下率とは、本発明のスチレン系樹脂とスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体との混合樹脂を使用して製造された押出発泡体の熱伝導率の値を、スチレン系樹脂のみを使用して製造された押出発泡体の熱伝導率の値で除した値である。また、表16,17に、得られた押出発泡板の曲げ物性を示す。
【0076】
表5〜15中のM成分とは(メタ)アクリル酸エステル成分を意味するものであり、スチレン系樹脂混合物中のM成分量とは、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体中に含有されるM成分の含有量に、スチレン系樹脂混合物中への該共重合体の配合比を乗じることにより求めた値である。
【0077】
表5〜15中の発泡剤種類のMeClは塩化メチルを、i−Bはイソブタンを、COは二酸化炭素を、DMEはジメチルエーテルを、i−Pはイソペンタンを、c−Pはシクロペンタンを意味する。なお、発泡剤添加量の比率はモル比であり、添加量はスチレン系樹脂混合物1kgに対するモル数である。例えば、表5中の実施例1のMeCl/i−B=50/50、1.2モル/kgは、塩化メチルとイソブタンのモル比が50対50の発泡剤をスチレン系樹脂混合物1kgあたりに1.2モル添加することを意味する。
【0078】
表5〜15中の難燃剤マスターバッチ及び気泡調整剤マスターバッチの添加量は、スチレン系樹脂混合物100重量部に対する値である。
【0079】
表5〜15中の発泡剤残量及び熱伝導率は、発泡体製造後100日経過後の値である。
【0080】
[熱伝導率の測定]
本発明において熱伝導率は、製造直後の押出発泡体から200mm×200mm×25mmの成形表皮が存在しない試験片を切り出し、該試験片を23℃、湿度50%の雰囲気下に保存した。製造後100日後に該試験片を用いてJIS A 1412−2(1999年)記載の平板熱流計法(熱流計2枚方式、高温側35℃、低温側5℃、平均温度20℃)に基づいて熱伝導率を測定した。
【0081】
[発泡成形性の評価]
表5〜15における発泡成形性の評価は、下記評価基準により評価した。
○:発泡状態が良好であり、表面に波うちなどがない良好な板状押出発泡体が安定して得られる。
×:発泡体状態が悪く、表面状態が良好な板状押出発泡体が得られない。
【0082】
[難燃性評価]
表5〜15における難燃性評価は、製造後5日間経過後の板状押出発泡体から切り出した試験片を、前記JIS A 9511(2006年)5・13・1の測定方法Aに記載の押出ポリスチレンフォーム保温板を対象とする燃焼性規格に準拠して評価した。
測定は一つの押出発泡板に対して試験片を5個切り出し、下記評価基準により評価した。すなわち、5・13・1の測定方法Aの燃焼性の測定を行ったとき、
◎:全ての試験片において3秒以内で炎が消える。
○:試験片5個の平均燃焼時間が3秒以内であるが、1個以上の試験片において、3秒以内に炎が消えない。
×:5個の試験片の平均燃焼時間が3秒を超える。
【0083】
[曲げ物性の測定]
表16,17における押出発泡体の曲げ物性は、JIS K 7221−2(1999年)に準拠して測定した。製造後5日間経過後の板状押出発泡体から、試験片の寸法が長さ200mm、幅50mm、厚さ25mmとなるように成形表皮の存在しない試験片を、長さ方向が押出発泡体の幅方向に沿うようにして、かつ幅方向の中点を長さの中心となるように切り出した。この試験片を用いて、加圧くさび及び支持台先端部の半径10mm、支点間距離150mm、試験速度10mm/minで試験を行い、曲げ破壊たわみ、見掛け曲げ弾性率を求めた。なお、曲げ破壊たわみとは、試験片が破壊したときの曲げたわみを意味する。
【0084】
【表5】

【0085】
【表6】

【0086】
【表7】

【0087】
【表8】

【0088】
【表9】

【0089】
【表10】

【0090】
【表11】

【0091】
【表12】

【0092】
【表13】

【0093】
【表14】

【0094】
【表15】

【0095】
【表16】

【0096】
【表17】

【0097】
実施例1〜34の結果は、本発明の方法に基づいてポリスチレン系樹脂押出発泡体を製造すると、長期断熱性に優れ、難燃性にも優れたポリスチレン系樹脂押出発泡体が容易に製造できることを示している。スチレン系樹脂にスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を添加してスチレン系樹脂混合物中の(メタ)アクリル酸エステル成分を特定の比率になるようにして押出発泡することにより、輻射伝熱の遮断効果が顕著になり、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を添加しない場合と比べて、長期断熱性に優れ、かつ難燃性にも優れた押出発泡体が得られた。
【0098】
さらに、実施例23では、スチレン系樹脂に(メタ)アクリル酸エステル成分が多いスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を添加する場合に、(メタ)アクリル酸エステル成分が少ないスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を併用して押出発泡することにより、スチレン系樹脂に(メタ)アクリル酸エステル成分が多いスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体のみを添加した押出発泡体(実施例2)よりも曲げ破壊たわみが大きく、スチレン系樹脂のみを基材樹脂とした押出発泡体(比較例1)と同程度の機械的強度を有する押出発泡体が得られた。
同様に、実施例24、25、27〜31でも、実施例26の押出発泡体よりも曲げ破壊たわみが大きな発泡体が得られ、特に実施例25、29〜31では、比較例16の押出発泡体と同等以上の曲げ破壊たわみを示す押出発泡体が得られた。
【0099】
上記曲げ物性向上の要因を調べるために、発泡体におけるスチレン系樹脂とスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体との分散状態を透過型電子顕微鏡を用いて観察した。図1、2は実施例26で得られた発泡体断面の顕微鏡写真であり、図3、4は実施例25で得られた発泡体断面の顕微鏡写真である。図1、図3は倍率10,000倍、図2、図4は倍率40,000倍である。図中、1は発泡体の気泡膜であり、スチレン系樹脂とスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体は海島構造となっており、2の「海」相当部分(濃色部分)はスチレン系樹脂であり、3の「島」相当部分(淡色部分)はスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体である。これらの写真から、(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量が高いスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体をスチレン系樹脂に混合する場合には、単独で混合(実施例26)するよりも、(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量が低いスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を併用(実施例25)することによって、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体がスチレン系樹脂中により微細に分散していることがわかる。その結果、実施例25では、実施例26に比べて曲げ物性が向上したものと解することができる。
【0100】
比較例1は、実施例1〜9、23と比較されるものであって、スチレン系樹脂にスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を混合しない例を示す。比較例1では、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を添加していないため、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を添加している場合に比べて、熱伝導率が高くなっている。
【0101】
比較例2は、実施例1〜4と比較されるものであって、スチレン系樹脂混合物中の(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量を少なくした例を示す。比較例2では、該成分の含有量が少なすぎるため、成形品の熱伝導率を低下させる効果が得られなかった。
【0102】
比較例3は、実施例1〜4と比較されるものであって、スチレン系樹脂混合物中の(メタ)−アクリル酸エステル成分の含有量を多くした例を示す。比較例3では、該成分の含有量が多すぎるため、成形品の熱伝導率を低下させる効果は十分であったが、難燃剤の添加量を増量してもJIS A 9511(2006年)の測定方法Aの難燃性を満足しなかった。
【0103】
比較例4は、実施例1〜4と比較されるものであって、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を単独で用いた例を示す。比較例4では、スチレン系樹脂とスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体との混合物ではなく、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体単独であるため、(メタ)アクリル酸エステル成分を多量に含有しているにもかかわらず、前記混合物と比較して熱伝導率低下効果が小さく、さらに、該成分の含有量が多すぎるため、難燃剤の添加量を増量してもJIS A 9511(2006年)の測定方法Aの難燃性を満足しなかった。
【0104】
比較例5は、実施例2と比較されるものであって、スチレン系樹脂に、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の替わりに(メタ)アクリル酸エステル重合体を混合した例を示す。比較例5では、スチレンモノマー単位を含まない(メタ)アクリル酸エステル重合体を使用したため、スチレン系樹脂との相溶性が極端に悪くなったことにより発泡性が悪化し、良好な発泡体を得ることができなかった。
【0105】
比較例6は実施例10と、比較例7は実施例11、26と、比較例8は実施例12と、比較例9は実施例13、14と、比較例10は実施例15と、比較例11は実施例16と、比較例12は実施例17、18と、比較例13は実施例19と、比較例14は実施例20と、比較例15は実施例21、22と、比較例16は実施例24〜34とそれぞれ比較されるものであって、スチレン系樹脂にスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を混合しない例を示す。比較例6〜16では、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を添加していないため、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を添加している場合に比べて、熱伝導率が高くなっている。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】実施例26で得られた発泡体の気泡膜断面の透過型電子顕微鏡写真(倍率:10,000倍)である。
【図2】実施例26で得られた発泡体の気泡膜断面の透過型電子顕微鏡写真(倍率:40,000倍)である。
【図3】実施例25で得られた発泡体の気泡膜断面の透過型電子顕微鏡写真(倍率:10,000倍)である。
【図4】実施例25で得られた発泡体の気泡膜断面の透過型電子顕微鏡写真(倍率:40,000倍)である。
【符号の説明】
【0107】
1 気泡膜
2 スチレン系樹脂
3 スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系樹脂混合物及び少なくとも発泡剤、難燃剤が混練されてなる発泡性溶融樹脂組成物を押出発泡して、見かけ密度が20〜60kg/m、厚みが10〜150mmの発泡体を製造する方法において、前記スチレン系樹脂混合物が、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)とスチレン系樹脂(B)との混合物からなり、かつ前記スチレン系樹脂混合物中においてスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)に由来する(メタ)アクリル酸エステル成分が前記スチレン系樹脂混合物に対し4〜45重量%含有されていることを特徴とするスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【請求項2】
前記スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)中の(メタ)アクリル酸エステル成分が25〜80重量%である請求項1に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【請求項3】
前記発泡剤は、炭素数3〜5の脂肪族炭化水素、炭素数3〜6の脂環式炭化水素、炭素数1〜4の脂肪族アルコール、アルキル鎖の炭素数が1〜3のジアルキルエーテル、炭素数1〜3の塩化アルキル、二酸化炭素及び水から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【請求項4】
前記スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)が、スチレン−メタアクリル酸メチル共重合体またはスチレン−アクリル酸メチル共重合体である請求項1〜3のいずれかに記載のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−133424(P2008−133424A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−164399(P2007−164399)
【出願日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(000131810)株式会社ジェイエスピー (245)
【Fターム(参考)】