説明

ステアリングギヤボックス支持構造

【課題】微小操舵入力に対する車両のヨー応答ゲインを小さくすることが可能なステアリングギヤボックス支持構造を提供する。
【解決手段】例えば内筒3を車体側部材に連結し、外筒4をステアリングギヤボックス1に連結し、内筒3と外筒4との間には、ステアリングギヤボックス1の軸方向、つまり車両幅方向に板バネ20、21からなる弾性部材7を介装する。弾性部材7は、内筒3に当接し、且つ弾性係数の小さい第1の弾性部8と、第1の弾性部8に平行で且つ第1の弾性部8との間に隙間10を設けて配設された、弾性係数の大きい第2の弾性部9とを備える。第2の弾性部9の外側には、隙間11を設けて、軸方向ストッパ6を設ける。操舵入力が小さい領域では、弾性係数の小さい第1の弾性部8の抵抗力だけが作用するので、操舵反力が小さい。横加速度の大きい量飯豊は、第2の弾性部9の抵抗力も作用し、操舵入力に対して操舵反力が速やかに立ち上がる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラックアンドピニオンなどから構成されるステアリングギヤボックスを車体側部材に支持するためのステアリングギヤボックス支持構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
このようなステアリングギヤボックス支持構造としては、例えば車体側部材との間に高硬度弾性部材と低硬度弾性部材とを介装し、操舵入力が小さく、車体に対するステアリングギヤボックスの相対変位が小さいときには高硬度弾性部材によって大きな反力を発生させると共に、操舵入力が大きく、車体に対するステアリングギヤボックスの相対変位が大きいときには低硬度弾性部材によって小さな反力を発生させるものがある(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−133103号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記従来のステアリングギヤボックス支持構造では、操舵入力が小さい領域で大きな反力が発生するため、微小操舵入力に対する車両のヨー応答ゲインが大きくなるという問題がある。
本発明は、前記諸問題を解決すべく開発されたものであり、微小操舵入力に対する車両のヨー応答ゲインを小さくすることが可能なステアリングギヤボックス支持構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために、本発明のステアリングギヤボックス支持構造は、車体側部材又はステアリングギヤボックスの何れか一方に連結される内筒と、前記内筒の外側に配設され且つ車体側部材又はステアリングギヤボックスの何れか他方に連結される外筒と、前記内筒と外筒との間に配設される弾性部材とを備え、前記弾性部材は、前記内筒と外筒との相対移動がない状態から両者の相対移動量が所定量までの領域で両者の相対移動に対して抵抗力を発生する第1の弾性部と、前記内筒と外筒との相対移動量が前記所定量以上の領域で両者の相対移動に対して抵抗力を発生する第2の弾性部とを備え、前記第1の弾性部の弾性係数を第2の弾性部の弾性係数より小さく設定したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0005】
而して、本発明のステアリングギヤボックス支持構造によれば、内筒と外筒との相対移動がない状態から両者の相対移動量が所定量までの領域で両者の相対移動に対して抵抗力を発生する第1の弾性部と、内筒と外筒との相対移動量が前記所定量以上の領域で両者の相対移動に対して抵抗力を発生する第2の弾性部とを備え、第1の弾性部の弾性係数を第2の弾性部の弾性係数より小さく設定したことにより、微小操舵入力に対する車両のヨー応答ゲインを小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次いで本発明のステアリングギヤボックス支持構造の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態のステアリングギヤボックス支持構造を採用したステアリングギヤボックスの概略構成図である。本実施形態では、ステアリングラックを内装するステアリングギヤボックスの左右両端部を車体に支持する。図中の符号1はステアリングギヤボックス、符号2はステアリングギヤボックス1を車体に弾性的に支持するための支持部材である。ステアリングギヤボックス1の左右両端部から突出するラック軸14には、タイロッドを介して、転舵輪である左右前輪が連結されている。
【0007】
支持部材2の詳細を図2に、そのA−A断面を図3に示す。この支持部材2は、円筒型の内筒3と外筒4とを備える。本実施形態では、内筒3の内孔内に車体側の支持軸(車体側部材)が挿入され、外筒4の外径がステアリングギヤボックス1のブラケット12に固定される。内筒3と外筒4の隙間の両端部は、ダストブーツ13で閉塞されている。また、外筒4の内孔内には、上下方向から、内筒3の変位を規制する上下ストッパ5が設けられている。この上下ストッパ5は、内筒3の外径直近まで配置されている。一方、外筒4の内孔内には、車両幅方向、つまりステアリングギヤボックスの軸方向にも、軸方向ストッパ6が設けられているが、この軸方向ストッパ6は、板バネからなる弾性部材7の外側まで配置される。
【0008】
弾性部材7の詳細を図4に示す。この弾性部材7は、内筒3側直近の第1の弾性部8と、その外側、つまり軸方向ストッパ6側の第2の弾性部9とを備えて構成される。本実施形態では、何れも複数の板バネ20、21を重合して各弾性部が構成されているが、このうち第1の弾性部8は、比較的薄い板バネ20を二枚重合し、中央部で、内筒3の外径に当接している。また、この第1の弾性部8の両端部は、外筒4の内側に固定されている。一方、第2の弾性部9は、比較的厚い板バネ21を四枚重合し、前記第1の弾性部8と平行に且つ第1の弾性部8から所定量だけ離して、つまり隙間10を設けて配設され、両端部は、同じく外筒4の内側に固定されている。そして、軸方向ストッパ6は、前記第2の弾性部9から所定量だけ離し、両者の間に隙間11が形成されている。
【0009】
前記第1の弾性部8は、第2の弾性部9に比べて、弾性係数が小さい。操舵入力が加わると、車体に対してステアリングギヤボックス1が、その軸方向に移動しようとするので、支持部材2の内筒3と外筒4とが相対変位する。すると、内筒3と外筒4との相対変位がない状態から、前記第1の弾性部8と第2の弾性部9との隙間10がなくなって両者が当接するまで、第1の弾性部8の弾性係数と、内筒3と外筒4との相対変位量とに応じた抵抗力が発生し、それが操舵反力として作用する。第1の弾性部8と第2の弾性部9とが当接してからは、第2の弾性部9と軸方向ストッパ6との隙間11がなくなって両者が当接するまで、第1の弾性部8の弾性係数及び第2の弾性部9の弾性係数と、内筒3と外筒4との相対変位量とに応じた抵抗力が発生し、それが操舵反力として作用する。第2の弾性部9と軸方向ストッパ6とが当接してからは、操舵反力が一気に増大する。
【0010】
この操舵入力と操舵反力との関係を図5に示す。操舵入力の小さい領域では、前記第1の弾性部8の比較的小さな弾性係数だけが、内筒3と外筒4との相対変位量、つまり操舵トルクに対する抵抗力として作用し、それが操舵反力となる。一方、操舵入力の大きい領域では、前記第1の弾性部8の比較的小さな弾性係数と第2の弾性部9の比較的大きな弾性係数とが作用して、内筒3と外筒4との相対変位量、つまり操舵トルクに対する抵抗力を発生し、それが操舵反力となる。
【0011】
このような操舵反力特性を得ることにより、微小な操舵入力が加わってもタイロッドの軸力が十分に立ち上がらず、操舵入力に対する転舵の量が遅れるので、微小舵角における車両のヨー応答ゲインを小さくすることができ、所謂コンプライアンスアンダステアを増加することができる。また、横加速度の大きい領域では、車体に対するステアリングギヤボックスの相対変位が大きい、つまり支持部材の外筒に対する内筒の相対変位量が大きいので、必然的に操舵反力の大きい領域にあり、操舵入力に対して速やかに軸力が立ち上がって前輪を転舵させることが可能となり、その結果、高横加速度領域における旋回性が向上する。
【0012】
また、弾性部材として、ヒステリシスの小さい板バネを使用することにより、ステアリング中立領域での直進性が向上する。即ち、例えば前記従来の技術のように、弾性部材にゴム等の粘弾性物質を用いると、ヒステリシスが大きくなり、例えば舵を切り戻して反力が“0”になったところでステアリングホイールを止めても、ラック軸には変位が残ることになり、再度操舵する必要が生じるのに対し、ヒステリシスの小さい板バネでは操舵反力とラック軸の変位とのずれが小さく、ステアリング中立領域で直進性が向上する。
なお、本発明のステアリング装置は、前記実施形態に限定されるものではない。特に、内筒と外筒の連結対象が、前記と逆であっても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のステアリングギヤボックス支持構造の一実施形態を示すステアリングギヤボックスの概略構成図である。
【図2】図1のステアリングギヤボックス支持構造に用いられた支持部材の正面図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】図2の弾性部材の詳細図である。
【図5】図2の支持部材の操舵入力に対する操舵反力特性図である。
【符号の説明】
【0014】
1はステアリングギヤボックス
2は支持部材
3は内筒
4は外筒
5は上下ストッパ
6は軸方向ストッパ
7は弾性部材
8は第1の弾性部
9は第2の弾性部
10、11は隙間
20、21は板バネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側部材又はステアリングギヤボックスの何れか一方に連結される内筒と、前記内筒の外側に配設され且つ車体側部材又はステアリングギヤボックスの何れか他方に連結される外筒と、前記内筒と外筒との間に配設される弾性部材とを備え、前記弾性部材は、前記内筒と外筒との相対移動がない状態から両者の相対移動量が所定量までの領域で両者の相対移動に対して抵抗力を発生する第1の弾性部と、前記内筒と外筒との相対移動量が前記所定量以上の領域で両者の相対移動に対して抵抗力を発生する第2の弾性部とを備え、前記第1の弾性部の弾性係数を第2の弾性部の弾性係数より小さく設定したことを特徴とするステアリングギヤボックス支持構造。
【請求項2】
前記第1の弾性部は、中央部で内筒と当接すると共に、両端部が外筒に固定された板バネで構成され、前記第2の弾性部は、前記第1の弾性部を挟んで内筒と反対側に、当該第1の弾性部と並行で且つ当該第1の弾性部から所定量だけ離して配設され、且つ両端部が外筒に固定された板バネで構成されることを特徴とする請求項1に記載のステアリングギヤボックス支持構造。
【請求項3】
前記第2の弾性部と内筒との間に第1の弾性部を配置すると共に、第2の弾性部を挟んだ第1の弾性部の反対側に当該第2の弾性部の変形を規制するストッパを設け、第2の弾性部と第1の弾性部とを互いに離間すると共に、第2の弾性部とストッパとを互いに離間したことを特徴とする請求項1又は2に記載のステアリングギヤボックス支持構造。
【請求項4】
前記第1の弾性部及び第2の弾性部の少なくとも何れか一方は、板バネを多層に重合して構成したことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載のステアリングギヤボックス支持構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−1342(P2006−1342A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−177996(P2004−177996)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】